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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1046744 |
異議申立番号 | 異議1999-71395 |
総通号数 | 23 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-05-01 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-04-14 |
確定日 | 2001-06-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2811800号「アクチュエータ用圧電セラミック組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2811800号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
〔一〕 本件特許は、平成1年(1989)9月18日に出願され(特願平1-24149号)、平成10年8月7日に特許権の設定の登録がされ(特許第2811800号。請求項数1)、平成10年10月15日に特許掲載公報が発行されたものである。 これに対して、平成11年4月14日付けで、甲第1号証及び甲第2号証刊行物を提示して、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。 当審は、同旨の特許取消理由を通知し、これに対して、本件特許権者は、特許異議意見書を提出したが、当審は、さらに本件特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるとの特許取消理由を通知した。 本件特許権者は、平成13年4月6日付けで、訂正請求書を提出した。 〔二〕 訂正請求の成否 (1) 訂正請求の内容 (イ) 訂正事項a 本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の【請求項1】の 「一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0<x<0.08、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなる」の記載を 「一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3 但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上ある」と訂正し、上記請求項1の記載を下記のとおり訂正する。 「鉛、ランタン、ジルコニウム、チタン、アンチモン及び酸素原子よりなるセラミック組成物であって、一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上あることを特徴とするアクチュエータ用圧電セラミック組成物。」 以下では、上記構成の発明を本件訂正請求発明という。 (ロ) 訂正事項b 本件特許明細書の【課題を解決するための手段】の項中の「Pd(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3・・・3.0重量%未満含有してなる」の記載(本件特許掲載公報3欄、31〜36行)を下記のとおり訂正する。 「Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3・・・(I)(但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモン(Sb2O5)に換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上である」 (ハ) 訂正事項c 本件特許明細書の[実施例]の項中の見出し「実施例1〜9及び比較例1〜6」の記載(本件特許掲載公報4欄、35行)を「参考例1〜4、実施例1〜5及び比較例1〜6」と訂正する。 (ニ) 訂正事項d 本件特許明細書の第1表中の「実施例1〜4」の記載を「参考例1〜4」に訂正し、同「実施例5〜9」を「実施例1〜5」に訂正する。 (2) 訂正の適法性 A. 独立特許要件以外の要件 (A-1) 訂正事項aの点に関連して (イ)本件訂正は、訂正事項aの点で、一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3のxの値の範囲(0<x<0.08)を0.05≦x≦0.07と限定し、また、アクチュエータ用圧電セラミックの横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、かつキューリ温度Tcが150℃以上あると限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮する訂正である。 (ロ) 本件特許明細書には、「 即ち、本発明の要旨は、鉛、ランタン、ジルコニウム、チタン、アンチモン及び酸素原子からなるセラミック組成物であって、一般式(I) Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3 ・・・(I) (但し、0<x<0.08、0.50<y<0.65) で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモン(Sb2O5)に換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなることを特徴とするアクチュエータ用圧電セラミック組成物に存する。 以下本発明を詳細に説明する。 本発明の圧電セラミック組成物は非常に高い圧電歪定数及びキューリ温度を持ち、特に上記一般式(I)において0.05≦x≦0.07の範囲のペロブスカイト結晶の相境界(MPB=モロフォトロピック、フェイズ、バウンダリー)付近のものは、横モードの圧電歪定数(d31)が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度(Tc)が150℃以上あり、前述した問題点を克服するものであって、圧電アクチュエータ用材料として非常に好適なものである。」(本件特許掲載公報3欄、28〜47行の記載を参照)と記載されているから、本件訂正は、訂正事項aの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。 (ハ) 本件訂正は、本件特許発明の目的及び効果を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。 (A-2) 訂正事項b〜同dに関連して これらの訂正事項は、いずれも、本件特許明細書の特許請求の範囲に関する訂正事項aに対応して、本件特許明細書の関連する記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的とし、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でし、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。 B. 独立特許要件 (B-1) 引例の記載 (B-1-1) 特開平1-120080号公報(本件特許異議の本件特許異議の申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例1という。) (イ) 特許請求の範囲 「1)モノモルフ型圧電磁器からなるアクチュエーターにおいて、圧電磁器が相対密度70〜90%のPZT系磁器であるアクチュエーター。 2)PZT系磁器がNb2O5、Sb2O3、Ta2O5、La2O3、MnO2、Nd2O3、Bi2O3の群から選ばれる1種以上を0〜2モル%含むものである特許請求の範囲1項記載のアクチュエーター。」 以下では、上記請求項2のアクチュエータのPZT系磁器の発明を引例1発明という。 (ロ)〔発明の効果〕(2頁左下欄3〜6行) 1)屈曲変位量が大幅に増加したため、拡大機構を必要としなくなった。 2)変位量に対する電圧が低くなったため、省電力化が期待できる。 (ハ)図1及び図2 PZT又はPZT成分酸化物とM2O3(M=Sb、La、Nd又はBi)、M2O5(M=Nb又はTa)又はMnO2の各種添加酸化物との焼結体(添加物は、いずれの場合も単一種の酸化物である。)における、焼結温度に対する焼結体密度の依存関係及び焼結体密度に対する屈曲変位量(μm)〔実施例2によれば、厚み方向に8KV/cmの電界を印加している。〕の依存関係が図示されている。 (B-1-2) 特開昭61-91062号公報(特許異議の本件特許異議の申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例2という。) (イ) 特許請求の範囲 「基本組成がPbTiO342〜52モル%、PbZrO358〜48モル%からなる二成分固溶体であって、その組成中のPbの一部をSrで2.5〜10.0モル%置換するとともに、Sb2O3、Bi2O3、La2O3から選ばれた少なくとも一種を0.2〜2.0重量%含むことを特徴とするセラミック圧電材料。」 以下では、上記構成の発明を引例2発明という。 (ロ)(1頁右下欄、16行〜2頁左上欄、2行)〔問題点を解決するための手段〕 「本発明のセラミック圧電材料は、基本組成をPbTiO342〜52モル%、PbZrO358〜48モル%とする二成分固溶体であり、上記組成中のPbの一部をSrで2.5〜10.0モル%置換するとともに、Sb2O3、Bi2O3、La2O3から選ばれた少なくとも1種を0.2〜2.0重量%含有せしめてある。」 (ハ)(2頁左上欄、4〜7行)〔効果〕 「上記組成になるセラミック圧電材料は、その圧電定数が約400×10-12〜500×10-12m/Vと高い値を示し、電界印加時に大きな変位量を得ることができる。」 (ニ)〔実施例〕の一部(2頁左下欄、8行〜同右下欄、1行) 「 表において、実施例1〜5、参考例1〜3はPbTiO3、PbZrO3の割合およびSr置換量を一定にして、一定量の添加物の種類を変えたものである。実施例1〜5に示す如く、Sb2O3、Bi2O3、La2O3およびこれらの混合物を添加した場合にはいずれも圧電定数d33は450×10-12〜465×10-12m/Vと高い値を示す。これに対して、参考例1〜3の如く、Nb2O3、WO3、TaO3を添加物として使用した場合には圧電定数d33は340×10-12〜360×10-12m/Vと小さい。これは上記実施例1〜5ではSrとSb2O3、Bi2O3、La2O3の相互作用があって、これにより圧電定数d33が増大せしめられるものと推定される。」 (ホ)〔実施例〕の一部(2頁右下欄11〜18行) 「 実施例10〜12、参考例6、7はPbTiO3とPbZrO3の割合およびSb2O3の添加量を一定にしてSr置換量を変えたものである。これによれば、圧電定数d33を400×10-12m/V以上にするためにはSr置換量は2.5モル%以上が良い。一方、表より知られる如く、キュリー温度はSr置換量を増すと急速に低下する傾向がある・・・」 (ヘ)〔実施例〕の一部(3頁左上欄2〜7行) 「 実施例13〜16、参考例8、9はPbTiO3とPbZrO3の割合およびSr置換量を一定にしてSb2O3の添加量を変えたものである。この場合には圧電定数d33はいずれの場合にも400×10-12 m/Vを越えるが、添加量が0.2重量%未満であると焼結性が悪くなって機械的強度が低下する(参考例8)。」 (ト)〔表〕の実施例5、参考例6 PbTiO3 PbZrO3 添加物 (モル%) wt% 実施例5 47 53 Sb2O3 0.3 Bi2O3 0.3 La2O3 0.4 参考例6 47 53 Sb2O3 1.0 PbのSr置換量 焼結密度 比誘電率 実施例5 5モル% 7.56g/cm3 2098 参考例6 0モル% 7.53g/cm3 1835 圧電定数 キュリー温度 実施例5 450×10-12m/V - 参考例6 362×10-12m/V 380℃ (B-2) 引例1発明及び引例2発明に基づく本件訂正請求発明の容易性 以下では、PbTiO3-PbZrO3系セラミックは、略号PZTと、その圧電歪定数は単にd31またはd33と、また、そのキュリー温度は略号Tcと記す。 (1) 上記(B-1)の摘記によれば、引例1及び引例2の記載は、下記のとおり要約される。 (イ) 引例1発明によれば、PZTに0〜2モル%のSb2O3、La2O3の一種以上を含有するPZTの相対密度を70〜90%とすると、アクチュエータ材料の単位電圧当たりの変位量が大きくなることが示されている〔上記(B-1-1)(イ)及び(ロ)参照〕。 しかしながら、引例1では、上記変位量とd31との関係は明らかではなく、かつ、PZTにSb2O3とLa2O3の両方を同時に含有させた例については、具体的説明はない。 (ロ) 一方、引例2発明の実施例5には、47wt%のPbTiO3と53wt%のPbZrO3からなるPZTのPbを5モル%だけSrで置換し、かつSb2O3を0.3wt%、Bi2O3を0.3wt%及びLa2O3を0.4wt%だけ添加したセラミック圧延材料のd33が450×10-12m/Vであることが示されているが、Tcの値は、具体的には示されていない(ただし、PZT系は、一般にキュリー温度が高いとはされている。)。 また、引例2には、参考例6として、Srを含有せず、47wt%のPbTiO3と53wt%のPbZrO3にSb2O3を1.0wt%添加したセラミック圧電材料について、そのd33が362×10-12m/Vで、Tcが360℃であることが示されている。 すなわち、引例2には、PZTをLa2O3で修飾し、さらにSb2O3を添加した場合について、具体的な説明はない。 (ハ) 以上によれば、引例1発明及び引例2発明のいずれも、本件特許発明の構成である「Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有」させたアクチュエータ用圧電セラミック組成物とは異なっている。 また、引例1発明及び引例2発明の圧電セラミック組成物の特性値(d33及びTcの値)から、本件訂正請求発明の「横モードの圧電歪定数(d31)が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度(Tc)が150℃以上」であることを推測することはできない。 (ニ) 本件訂正請求発明は、「Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有」することによって、本件特許明細書に記載された表1の実施例1〜5と参考例1〜4と比較例1〜6とを比較すると明らかなように、横モードの圧電歪定数(d31)及びキューリ温度(Tc)が非常に優れたアクチュエータ用圧電セラミック組成物を提供するものである。 (ホ) そうすると、本件訂正請求発明は、引例1発明及び引例2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められない。 (B-3) 当審は、他に、本件訂正請求発明が独立して特許を受けることができない理由を発見しない。 したがって、本件訂正請求は適法な訂正を請求するものであるから、認めるべきものである。 以下では、本件訂正請求発明を本件特許発明という。 〔三〕 本件特許発明は、上記〔二〕(2)(B)に述べた理由と同一の理由によって、引例1発明及び引例2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められない。 なお、本件特許異議申立人は、引例1発明及び引例2発明の圧電体セラミック組成物は、本件特許発明のアクチュエータ用圧電体用セラミック組成物の組成を示唆していると主張しているが、本件特許発明は、アクチュエータ用圧電体用セラミック組成物の組成を特定の範囲から選択することによって、非常に優れたd31とTcをもつものを提供したものであるから、本件特許発明は、引例1発明及び引例2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 また、当審は、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 アクチュエータ用圧電セラミック組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鉛、ランタン、ジルコニウム、チタン、アンチモン及び酸素原子よりなるセラミック組成物であって、一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x≦0.07、0,50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上あることを特徴とするアクチュエータ用圧電セラミック組成物。 【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明はアクチュエータ用圧電セラミック組成物に関するものである。 ここでアクチュエータとは、圧電逆効果、すなわち電気的エネルギーから機械的エネルギーへの変換作用を用いたものであり、電圧の印加によりミクロンあるいはミクロンアンダーの微小変位を正確に発生させるものであって、ブザーやポンプ、バルブ等の音響あるいは流量の精密コントロール、VTRヘッドのオートトラッキングやオートフォーカス、さらにはミクロンアンダーの機械切削バイトの正確な位置決め、半導体製造用の微少位置決め装置等への応用開発が近年急速に進められている。 [従来の技術] 従来よりアクチュエータ用圧電材料としては、ジルコン酸チタン酸鉛セラミック組成物(PZT)が優れた圧電特性を有していることが知られており、使用される用途に応じて種々の改良がなされている。例えばジルコン酸チタン酸鉛の一部をBa2+、Sr2+、Ca2+などの二価イオンや、Bi3+やLa3+などの三価イオンで置換する方法、NiO、Nb2O5、MnO2、Cr2O3などの酸化物を添加する方法、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3、Pb(Co1/3Nb2/3)O3、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3などの複合ペロブスカイト化合物との固溶体を合成する方法などによりアクチュエータ用圧電材料の特性の改良がなされている。微少変位をミクロンあるいはミクロンアンダーの精度でコントロールする圧電アクチュエータ素子にはユニモルフ型、バイモルフ型、積層型のタイプがあり、特性として高い圧電歪定数(例えば、横モードの圧電歪定数d31>300×10-12m/V)及び高いキューリ温度(Tc>150℃)を持つことが要求される。 [発明が解決しようとする課題] 一般に高い圧電歪定数を持つ材料は、キューリ温度が低下する。例えば、従来、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越えるような高い圧電歪定数を持つ材料は、キューリ温度Tcが100℃近傍に低下してしまい、素子の使用温度の上限が50℃〜60℃と限定され、実用素子としての応用に制約があった。また、キューリ温度の高い材料は圧電歪定数が低くなってしまい、素子の駆動に高い電圧を必要とする問題点があった。このような理由から横モードの圧電歪定数(d31)が300×10-12m/Vを越えるような高い圧電歪定数及び高いキューリ温度(例えばTc>150℃)を合せ持つ材料の開発が望まれている。 [課題を解決するための手段] 本発明者らは、前記問題点を解決する為、詳細に検討した結果、特定の組成を有するセラミック組成物が高い電気機械結合定数、高い圧電歪定数及び高いキューリ温度を合せもつことを見い出し本発明に到達した。 即ち、本発明の要旨は、鉛、ランタン、ジルコニウム、チタン、アンチモン及び酸素原子よりなるセラミック組成物であって、一般式(I) Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3 ……(I) (但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65) で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモン(Sb2O5)に換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上あることを特徴とするアクチュエータ用圧電セラミック組成物に存する。 以下本発明を詳細に説明する。 本発明の圧電セラミック組成物は非常に高い圧電歪定数及び高いキューリ温度を持ち、特に上記一般式(I)において0.05≦x≦0.07の範囲のペロブスカイト結晶の相境界(MPB=モロフォトロピック、フェイズ、バウンダリー)付近のものは、横モードの圧電歪定数(d31)が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度(Tc)が150℃以上あり、前述した問題点を克服するものであって、圧電アクチュエータ用材料として非常に好適なものである。 中でも上記一般式(I)においてx=0.05、y=0.57、Sb2O5量1.0重量%;x=0.05、y=0.56、Sb2O5量1.0重量%;x=0.06、y=0.58、Sb2O5量0.5重量%(実施例5、6、7)の組成のものは、横モードの圧電歪定数(d31)が300×10-12m/Vを越え、かつキューリ温度(Tc)が200℃以上あり、圧電アクチュエータ用材料として、広範囲な温度環境下で使用できる利点を有している。また、さらには、x=0.06、y=0.58、Sb2O3量1.0重量%;x=0.07、y=0.60、Sb2O3量0.5重量%(実施例8、9)の組成のものは、横モードの圧電歪定数(d31)が370×10-12m/Vを越え、かつキューリ温度(Tc)が150℃を越えるものであって、圧電アクチュエータ用材料として非常に優れたものである。 なお、ここで一般式(I)中、xが0.08を越えるものは、キューリ温度(Tc)が150℃以下になってしまい、横モードの圧電歪定数(d31)も共振-反共振法では検出されない程度に小さく、圧電アクチュエータ用材料としては適さない。また、yが0.50未満のもの及び0.65を越えるものは、ペロブスカイト結晶の相境界より大きくZr/Ti組成比がずれる為横モードの圧電歪定数(d31)が低下してしまう。また、Sb量がSb2O5に換算して3.0重量%以上のもの(比較例5)はペロブスカイト相の他にパイロクロア相が焼結体中に混在するようになり、横モードの圧電歪定数(d31)が低下してしまい好ましくない。 本発明の圧電セラミック組成物は、例えば、粉末の酸化物原料を所定の配合組成になるように坪量し、、ボールミル等で湿式混合仮焼した後、粉砕、1100℃〜1300℃で焼結することによって得られる。 なお、Sbの添加量はSb2O5換算量で示したが、Sbの添加のSb2O5だけではなく、該当量の他のアンチモン化合物、例えば三酸化アンチモン(Sb2O3)等を用いてもよい。 [実施例] 以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例により限定されるものではない。 参考例1〜4、実施例1〜5及び比較例1〜6 純度99.9%以上の高純度酸化物原料であるPbO、La2O3、ZrO2、TiO2を第1表に示した量比に秤量し、さらに該主成分に対してSb2O5を第1表に示した量秤量した。ここで、一般式(I)におけるx、yの値を第1表に示す。これらの原料をボールミルを用いて24時間湿式混合を行った。嵌装、成型処理後、900℃で2時間仮焼し、その後乳鉢粉砕した後、ボールミルで再度24時間湿式粉砕した。得られた粉体をラバープレス法により静水圧成型したあと、鉛雰囲気中で1200℃焼成した。その後得られた焼結体をスライシングマシンを用いて、円板状及び棒状に加工した後、銀ペーストをスクリーン印刷し、550℃で電極焼付けを行った。分極処理は、温度80〜110℃のシリコンオイル中で、電界強度2.0〜3.OkV/mm、時間5〜20分で行い、1日経過後、ベクトルインピーダンスアナライザーを用いて、共振-反共振法により、1kHzでの誘電率 1kHzでの誘電損失(tanδ)、横モードの電気機械結合係数(K31)、弾性コンプラ 。また、キューリ温度(Tc)は比誘電率の温度特性を測定し、比誘電率の極大より求めた。測定結果を第1表に示す。 [発明の効果] 本発明で得られる圧電セラミック組成物は、高い電気機械結合係数、高い圧電歪定数、及び高いキューリ温度を併せ持っており、圧電アクチュエータ用材料として特に優えており、本発明の産業利用上への寄与は極めて大きい。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 (イ) 訂正事項a 特許請求の範囲を減縮することを目的として、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の【請求項1】の「一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0<x<0.08、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対して3.0重量%未満含有してなる」の記載を「一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x≦0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対して3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上である」と訂正し、上記請求項1の記載を下記のとおり訂正する。 「鉛、ランタン、ジルコニウム、チタン、アンチモン及び酸素原子よりなるセラミック組成物であって、一般式Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x<0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上であることを特徴とするアクチュエータ用圧電セラミック組成物。」 (ロ) 訂正事項b 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の【課題を解決するための手段】の項中の「Pd(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3・・・3.0重量%未満含有してなる」の記載(本件特許掲載公報3欄、31〜36行)を下記のとおり訂正する。 「Pb(1-x)Lax[ZryTi(1-y)](1-x/4)O3(但し、0.05≦x<0.07、0.50<y<0.65)で示される主成分組成に、副成分としてアンチモンを五酸化アンチモンに換算して主成分に対し3.0重量%未満含有してなり、横モードの圧電歪定数d31が300×10-12m/Vを越え、且つキューリ温度Tcが150℃以上である」 (ハ) 訂正事項c 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の[実施例]の項中の見出し「実施例1〜9及び比較例1〜6」の記載(本件特許掲載公報4欄、35行)を「参考例1〜4、実施例1〜5及び比較例1〜6」と訂正する。 (ニ) 訂正事項d 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の第1表中の「実施例1〜4」の記載を「参考例1〜4」に訂正し、同「実施例5〜9」を「実施例1〜5」に訂正する。 |
異議決定日 | 2001-05-28 |
出願番号 | 特願平1-241149 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(H01L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大工原 大二 |
特許庁審判長 |
吉田 敏明 |
特許庁審判官 |
唐戸 光雄 小林 明 |
登録日 | 1998-08-07 |
登録番号 | 特許第2811800号(P2811800) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | アクチュエータ用圧電セラミック組成物 |
代理人 | 長谷川 曉司 |
代理人 | 長谷川 曉司 |