• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1046802
異議申立番号 異議1998-75264  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-06-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-28 
確定日 2001-08-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第2745425号「低温塗布用接着剤」の請求項1ないし22に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2745425号の請求項1ないし11、13、16ないし22に係る特許を取り消す。 同請求項12、14、15に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第2745425号の請求項1〜22に係る発明についての出願は、平成1年8月24日(優先権主張1988年8月29日 米国)になされ、平成10年2月13日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について有限会社ツヤチャイルド、高木鉄雄および宮崎幸雄より特許異議の申立てがなされ、当審より取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成11年5月11日に訂正請求がなされ、それに対して、当審より訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、その指定期間内に特許権者から何らの応答がないものである。
[2]訂正の適否
当審が通知した訂正拒絶理由の概要は、
「訂正明細書における特許請求の範囲請求項1〜6に係る発明は、
(1)特開昭59-115371号公報(昭和59年7月3日発行、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第1号証、以下「刊行物1」という。)、(2)特公昭54-28178号公報(昭和54年9月14日発行、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第4号証、以下「刊行物2」という。)、(3)特開昭55-16018号公報(昭和55年2月4日発行、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第2号証、以下「刊行物3」という。)及び(4)特開昭59-91165号公報(昭和59年5月25日発行、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第3号証、以下「刊行物4」という。)の各刊行物に記載された発明であり、特許法第29条1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない発明である。それ故、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するため、認められない。」
というものである。
そして、上記の訂正拒絶理由は妥当なものと認められるので、当該訂正は認められない。
[3]特許異議申立についての判断
1.本件特許発明
上記訂正請求書による訂正が認められないため、本件発明は、本件特許の設定登録時の明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものである。
そして、本件の請求項1ないし22に係る各発明は、本件特許の設定登録時の明細書の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】a) メタクリル酸エステルモノマーと、
b) 約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマーと、
c) モノマーに膨潤するが溶解しないコアーシェルグラフトコポリマーと、d) ラジカル発生触媒とからなることを特徴とする接着剤。
【請求項2】ラジカル重合可能なエチレン形不飽和のモノまたはポリカルボン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】酸はメタクリル酸であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】メタクリル酸エステルモノマーは少なくとも50重量%のメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項5】弾性ポリマーは溶液の重量に対して約10から約35重量%の量でモノマーに溶解していることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項6】コア-シェルグラフトコポリマーのコアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項7】a) 約55から約75重量%のメタクリル酸エステルモノマーと、
b) 0から約15重量%のラジカル重合可能なエチレン形不飽和のモノまたはポリカルボン酸と、
c) 約-25℃以下のTgを有する約5から約30重量%の弾性ポリマーと、
d) モノマーに膨潤するが溶解しない約5から約30重量%のコア-シェルグラフトコポリマーと、
e) ラジカル発生触媒とからなり、前記重量%はa)、b)、c)およびd)の合計重量に基づくものであることを特徴とする接着剤。
【請求項8】メタクリル酸エステルはメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項7に記載の接着剤。
【請求項9】酸はメタクリル酸であることを特徴とする請求項7に記載の接着剤。
【請求項10】弾性ポリマーはモノマーに約10から約35重量%の量で溶けることを特徴とする請求項7に記載の接着剤。
【請求項11】コア-シェルグラフトコポリマーのコアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上であることを特徴とする請求項7に記載の接着剤。
【請求項12】メタクリル酸エステルモノマーはメタクリル酸メチルであり、重合可能な酸はメタクリル酸であり、弾性ポリマーはポリクロロプレンであり、そしてコア-シェルグラフトコポリマーはブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有することを特徴とする請求項7に記載の接着剤。
【請求項13】メタクリル酸エステルモノマーは約60から約70重量%の量で存在し、酸モノマーは約8から約15重量%の量で存在し、そしてコア-シェルグラフトコポリマーは約15から20重量%の量で存在することを特徴とする請求項7に記載の接着剤。
【請求項14】メタクリル酸エステルモノマーはメタクリル酸メチルであり、酸モノマーはメタクリル酸であり、弾性ポリマーはポリクロロプレンであり、そしてコア-シェルグラフトコポリマーはブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有することを特徴とする請求項13に記載の接着剤。
【請求項15】弾性ポリマーはニトリルゴムであることを特徴とする請求項14に記載の接着剤。
【請求項16】 a) メタクリル酸エステルモノマーと、
b) 約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマーと、
c) モノマーに膨潤するが溶解しないコア-シェルグラフトコポリマーと、d) ラジカル発生触媒とからなる接着剤により接着することによって結合されたことを特徴とする自動車用バンパ一等の組立体。
【請求項17】接着剤はラジカル重合可能なエチレン形不飽和のモノまたはポリカルボン酸を含むことを特徴とする請求項16に記載の組立体。
【請求項18】酸はメタクリル酸であることを特徴とする請求項17に記載の組立体。
【請求項19】メタクリル酸エステルは少なくとも50重量%のメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項16に記載の組立体。
【請求項20】弾性ポリマーは溶液の重量に対して約10から約35重量%の量でモノマーに溶けていることを特徴とする請求項16に記載の組立体。
【請求項21】コア-シェルグラフトコポリマーのコアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上であることを特徴とする請求項16に記載の組立体。
【請求項22】硬化した接着剤は-23℃(-10°F)またはそれ以下で少なくとも0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)の耐衝撃結合強度と10%以上のバルク引張伸長度(bulk tensile elongation)を有することを特徴とする請求項16に記載の組立体。」
〔本件請求項1〜11、13、16〜22に係る発明について〕
2-1.取消理由通知の概要
「本件請求項1乃至22に記載された請求項のうち、請求項1〜11、13、16〜22に係る発明は、いずれも、「ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING」Vol.6(1986)、第513頁〜第515頁」(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第8号証、以下「刊行物6」という。)の記載を参酌すると特開昭61-89275号公報(昭和61年5月7日発行、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第1号証、以下「刊行物5」という。)に記載された発明と同一であると認められるから、本件請求項1〜11、13,16〜22に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。」
というものである。
3-1.刊行物の記載事項
(1)取消理由通知に引用した特開昭61-89275号公報(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第1号証、「刊行物5」)には次の記載がなされている。
(5-1)「(1)アクリレート基またはメタアクリレート基のエステル単量体と、触媒と、向上された全体的な付着力の物理特性を接着剤組成に与える様に夫々の効果的な量の塩素化またはクロロスルフオン化のポリエチレン重合体樹脂およびグラフト共重合体樹脂とを含有し、該塩素化ポリエチレン重合体樹脂が、有機塩化スルフオニルを含む接着剤組成。」 (特許請求の範囲第1項)、
(5-2)「(3)特許請求の範囲第1項に記載の接着剤組成において、アクリレート基またはメタアクリレート基の酸単量体を更に含有する接着剤組成。」(特許請求の範囲第3項)、
(5-3)「(5)特許請求の範囲第4項に記載の接着剤組成において、前記エステル単量体が、メタアクリレート基であり、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシルおよびメタクリル酸テトラヒドロフルフリルから成るグループから選択される接着剤組成。」(特許請求の範囲第5項)、
(5-4)「(11)特許請求の範囲第4項に記載の接着剤組成において、前記触媒が、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、過酸エステルおよび過酸から成るグループから選択される遊離基発生物である接着剤組成。」(特許請求の範囲第11項)、
(5-5)「グラフト共重合体技術では、主鎖がゴムまたはゴム状材料であって、グラフトされた主鎖がビニールまたはアクリレート基またはメタアクリレート基の単量体であるとき、該主鎖はグラフト共重合体の「コア」と屡々呼ばれる。該コアへのグラフトされた鎖は、そのまわりに「シェル」を形成する。樹脂と屡々呼ばれる該グラフト共重合体は、特に、ゴムまたはゴム状材料またはグラフ卜部分またはこれ等の両者が架橋結合されるとき、複数の比較的小さい粒子の形状を屡々とる。しかしながら、総てのグラフト共重合体樹脂は、該コアおよびシェルの形状(または形態)を有するとは限らない。」(第6頁右上欄第6行〜末行)、
(5-6)「本発明の一般的な目的は、新規なメタアクリレート基接着剤組成を提供することである。一層特別な目的は、該接着剤組成の全体の接着剤品質ないし特性をかなり向上する如く比較的効果的な量のクロロスルフオン化ポリエチレン樹脂およびグラフト共重合体を含有する該組成を提供することいである。更に一層特別な目的は、比較的高い圧縮剪断強さ(即ち、例えば大抵の樹脂材料間に比較的強い接着結合を与える)と、重ね剪断強さ(即ち、例えば大抵の金属材料間に比較的強い接着結合を与える)と、剥離強さと、衝撃強さとを有する該組成を提供することであり」(第7頁右上欄第11行〜同頁左下欄第4行)、
(5-7)「本発明の組成は、アクリレート基エステル単量体を含んでもよい。しかしながら、好ましくは該組成は、メタアクリレートエステル単量体を含む。……。最も好ましくは、メタアクリレートエステル単量体は、メタクリル酸メチルである。」(第7頁右下欄第1行〜第14行)、
(5-8)「該組成は、アクリル酸の様なアクリレート基酸単量体を更に含んでもよい。」(第8頁左上欄第9行〜第10行)、
(5-9)「好ましくは、該組成はメタクリル酸を更に含む。」(第8頁左上欄第14行〜第15行)、
(5-10)「本発明の組成は、クロロスルフオン化ポリエチレン重合体を含み、該樹脂は、好ましくは、約25重量%から約70重量%の塩素と、その100グラム当り約3ミリモルから約160ミリモルの塩化スルフオニル部分とを含む。」(第8頁左下欄第1〜6行)、
(5-11)『「ハイパロン30」の商標のクロロスルフオン化ポリエチレン重合体樹脂は、約43重量%の塩素と、重合体樹脂の100グラム当り約34ミリモルの塩化スルフオニル部分とを含むことが公知であり』(第8頁右下欄第5行〜第9行)、
(5-12)『「ハイパロン」CSPE型式20の商標のクロロスルフオン化ポリエチレン重合体樹脂は、塩素含有量が29重量%、硫黄含有量が1.4重量%であること』(第9頁右上欄の第1A表)、
(5-13)「しかしながら、下記で開示される実例では、好適なグラフト共重合体粒子は、寸法が「膨脹」するのが認められ、組成の重合する単量体成分に反応またはその他の態様で相互作用する様に思われる。他方では、射出成形可能な樹脂組成に含まれる大抵のABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂は、(上述で概略説明した理由により)膨脹せずにむしろ該組成に溶解する様に思われる。しかしながら、本発明では、好適なグラフト共重合体樹脂の粒子が下記で与えられる接着剤組成に含まれるとき、好適な該グラフト共重合体の粒子は、通常、寸法が膨脹して比較的ゲル状になり、未加硫接着剤組成(下記で説明する)に改良された広がりおよび流れの特性を与えることが認められた。改良された該流れ特性は、特定の接着剤の使用の際に極めて望ましい。例えば、接着剤がスポイト式塗布器によって物品に塗布されるとき、商業的に入手可能な多くの接着剤は、通常、物品の第1点(接着剤が塗布された)から該第1点に離れる第2点(塗布器の次の位置)まで延びる接着剤の「筋」を望ましくない様に形成する。本発明が丁度該塗布器で試験されたとき、本発明の流れ特性は、該接着剤の比較的小さい小滴が接着すべき物品の塗布個所に局所的に塗布可能で該個所から延びる接着剤の筋を伴わない様なものであった。本発明の該流れ特性は、比較的小さい部品(例えば電子部品)の接着の分野での使用に対しても試験され、本発明は、該使用に受入れ可能の様に思われる。スポイト式塗布器の性能の試験中、特定の効果的であるが比較的好適でないグラフト共重合体樹脂(例えば塑造品位のABS樹脂)もメタアクリレートエステル単量体に溶解する様に思われることが認められた。」(第10頁右上欄第10行〜同頁右下欄第3行)、
(5-14)「ABSグラフト共重合体樹脂は、好ましくはスチレン・ブタジエンゴムコアおよびスチレン・アクリロニトリルシエルを有している。MBS(メタクリル酸塩・ブタジエン・スチレン)グラフト共重合体樹脂は、好ましくはスチレン・ブタジエンゴムコアおよびアクリル重合体または共重合体のシエルを有している。MABS(メタクリル酸塩・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)グラフト共重合体樹脂は、好ましくはスチレン・ブタジエンゴムコアおよびメタクリル酸塩・アクリロニトリル共重合体のシエルを有している。」(第11頁右上欄第2〜11行)、
(5-15)「一層好適には、MABSグラフト共重合体樹脂は、その全重量の約75重量%であって約50:25の重量比のブタジエンおよびスチレンから成るコアと、約20:5の重量比のメタクリル酸メチルおよびアクリロニトリルのシエルとを有している。」(第11頁右上欄第11行〜第16行)、
(5-16)「比較的高い圧縮剪断強さ(即ち、例えば大抵の樹脂材料間に比較的強い接着結合を与える)と、重ね剪断強さ(即ち、例えば大抵の金属材料間に比較的強い接着結合を与える)と、剥離強さと、衝撃強さとを有する接着剤が提供されること」(実例I、IA、III、IIIA〜G等)、
(5-17)「刊行物5に記載された発明に係る接着剤がメタクリル酸エステルとメタクリル酸を併用していること」(実例I、IA、III、IIIA〜G等)、
(5-18)「刊行物5に記載された発明に係る接着剤がメタアクリレートエステル単量体としてメタクリル酸メチルのみ(メタクリル酸メチル100重量%)使用していること」(実例I、IA、III、IIIA〜G等)、
(5-19)「弾性ポリマーであるクロロスルフオン化ポリエチレンのモノマーに対する量が約10から約35重量%の範囲にある接着剤」(実例IAのNo.8〜11等)、
(5-20)「a)メタクリル酸メチル、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)、d)コアーシエルグラフトコポリマーの配合比率を種々変化させた例」(実例I〜VII),
(5-21)「b)メタクリル酸を、a)メタクリル酸メチル、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)、d)コアーシエルグラフトコポリマーの合計100重量部に対して0〜15重量部の範囲内の量で配合すること」(実例VII)、
(5-22)「a)メタクリル酸メチル65.2重量部、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)7.0〜27.8重量部、d)コアーシエルグラフトコポリマー7.0〜27.8重量部、これらa)、c)、d)の合計量100重量部に対してb)メタクリル酸5.0重量部、およびe)ラジカル発生触媒0.5重量部を配合した組成の接着剤」(実例IAの接着剤No.7〜11)、
(5-23)「メタクリル酸を、a)メタクリル酸メチル、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)、d)コアーシエルグラフトコポリマーの合計100重量部に対して10〜15重量部の範囲内の量で配合すること」(実例VI)、
(5-24)『MMA(メタクリル酸メチル)として「ハイパロン20」を使用し、それとMABSとCHP(クメンヒドロペルオキシド)等を配合した接着剤」(第26頁に記載の実例55)
(2)取消理由通知に引用した「ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING」Vol.6(1986)、第513頁〜第515頁」(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第8号証、「刊行物6」)には次の記載がなされている。
クロロスルホン化ポリエチレンにおける塩素含量に対するTg値が第515頁に記載されているFig.1のグラフとして示されており、それによれば、塩素含量が約25%のクロロスルホン化ポリエチレンのTg値は約-30℃であり、塩素含量が増大するにつれてTg値は上昇する関係にあることが確認し得る。
4-1.対比判断
(1)本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明は特許明細書の記載からみて以下のとおりである。
「a)メタクリル酸エステルモノマーと、b)約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマーと、c)モノマーに膨潤するが溶解しないコア-シェルグラフトコポリマーと、d)ラジカル発生触媒とからなることを特徴とする接着剤」
この本件請求項1に係る発明と上記刊行物5に記載された発明は、共に、「接着剤」に係るものである。
そこで前者における構成要件a)「メタクリル酸エステルモノマー」、b)「約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマー」、
c)「モノマーに膨潤するが溶解しないコア-シェルグラフトコポリマー」及びd)「ラジカル発生触媒」について、
後者における記載事項を対比検討すると以下のとおりである。
「構成要件a)」について:
上記刊行物5の特許請求の範囲第1項における前記(5-1)、発明の詳細な説明における前記(5-3)(「エステル単量体がメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル」)及び第26頁に記載の実例55(「MMA」)(5-24)に記載されているとおり、上記刊行物5に記載された発明においても「メタクリル酸エステルモノマー」が用いられている。
「構成要件b)」について:
上記刊行物5の特許請求の範囲第1項における前記(5-1)、発明の詳細な説明における(5-10)(「クロロスルホン化ポリエチレン重合体を含み、該樹脂は、好ましくは、約25重量%から約70重量%の塩素と……を含む 」)及び.第26頁実例55〔「ハイパロン20」(5-24):これは第9頁右上欄の第1A表によれば、塩素含有量29重量%、S含有量1.4重量%のクロロスルフォン化ポリエチレンと説明されている。(5-12)〕に記載されているとおり、上記刊行物5に記載された発明においては、「約25重量%から約7.0重量%塩素を含むクロロスルフォン化ポリエチレン」が用いられているところである。
そして、このクロロスルフォン化ポリエチレンのTg値については、上記刊行物5にそれを直接示す記載はないが、この点について、上記刊行物6の上記記載事項を参酌すると、そこには、クロロスルフォン化ポリエチレンにおける塩素含量に対するTg値がFig.1のグラフとして示されており、それによれば、塩素含量が約25%のクロロスルフォンン化ポリエチレンのTg値は約-30℃であり、上記刊行物5の第26頁に記載の実例55における「ハイパロン20」(5-24)(塩素含有量29重量%)(5-12)の場合は、Tg値が概ね-25℃と読みとれるものである。
してみれば、上記刊行物5に記載された発明においても「約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマー」が用いられているとみることができる。
「構成要件c)」について:
上記刊行物5の特許請求の範囲第1項における前記(5-1)、発明の詳細な説明における前記(5-13)(「好適なグラフト共重合体粒子は、通常、膨潤して比較的ゲル状になり」)、(5-14)(「ABSグラフト共重合樹脂は、好ましくはスチレン・ブタジエンゴムコアおよびスチレン・アクリロニトリルシェルを有しいる。MBSグラフト共重合樹脂は、好ましくはスチレン・ブタジエンゴムコアおよびアクリル重合体または共重合体のシェルを有している。MABSグラフト共重合樹脂は、好ましくはスチレン・ブタジエンゴムコアおよびメタクリル酸塩・アクリロニトリル共重合体のシェルを有している」)及び第26頁に記載の実例55(「MABS」)(5-24)に記載されているとおり、上記刊行物5に記載された発明においては、「モノマーに膨潤するが溶解しないコア-シェルグラフトコポリマー」が用いられている。
「構成要件d)」について:
上記刊行物5の特許請求の範囲第1項における前記(5-1 )、特許請求の範囲第11項における前記(5-4)(「触媒が、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、過酸エステル……から選択される」)及び第26頁に記載の実例55(「CHP」)(5-24)に記載されているとおり、上記刊行物5に記載された発明においても「ラジカル発生触媒」が用いられている。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項1に係る発明が開示されているということができる。
したがって、本件請求項1に係る発明は上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(2)本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明は本件請求項1に係る発明に「ラジカル重合可能なエチレン形不飽和のモノまたはポリカルボン酸を含むこと」の要件を付加するものである。
そして、上記刊行物5には、接着剤は、アクリル酸、メタクリル酸等を更に含んでもよいことが記載されており(5-2)、(5-8)(5-9)、実例I、IA、III、IIIA〜G等においても、メタクリル酸エステルとメタクリル酸を併用している(5-17)。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項2に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項2に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(3)本件請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明は本件請求項2に係る発明に「酸はメタクリル酸である」との限定を付加するものである。
そして、上記刊行物5には、接着剤は、アクリル酸、メタクリル酸等を更に含んでもよいことが記載されており(5-2)、(5-8)(5-9)、実例I、IA、III、IIIA〜G等においても、メタクリル酸エステルとメタクリル酸を併用している(5-17)。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項3に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項3に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(4)本件請求項4に係る発明について
本件請求項4に係る発明は本件請求項1に記載された発明に「メタクリル酸エステルモノマーは少なくとも50重量%のメタクリル酸メチルである」との限定を付加するものである。
そして、上記刊行物5には、「最も好ましくは、メタアクリレートエステル単量体はメタクリル酸メチルである。」という記載(5-7)、及び、「エステル単量体が……メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル……から成るグループから選択される接着剤組成。」との記載があり(5-3)、また、実例としてメタアクリレートエステル単量体としてメタクリル酸メチルのみ(メタクリル酸メチル100重量%)を使用しているものが記載されている(5-18)。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項4に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項4に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(5)本件請求項5に係る発明について
本件請求項5に係る発明は本件請求項1に係る発明に「弾性ポリマーは溶液の重量に対して約10から約35重量%の量でモノマーに溶解している」との限定を付加するものである。
そして、上記刊行物5においても、弾性ポリマーであるクロロスルフオン化ポリエチレンのモノマーに対する量が約10から約35重量%の範囲内にあるような接着剤も示されており(5-19)、このような接着剤はモノマーに対して弾性ポリマーが約10から約35重量%の範囲内の量で溶解しているものである。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項5に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項5に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(6)本件請求項6に係る発明について
本件請求項6に係る発明は本件請求項1に係る発明に「コアーシェルグラフトポリマーのコアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上であること」との限定を付加するものである。
そして、上記刊行物5には、コアーシエルグラフトポリマーとして、ABSグラフト共重合体樹脂、MBSグラフト共重合体樹脂、MABSグラフト共重合体樹脂等が記載されている(5-14)が、ABSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびスチレン・アクリロニトリルの「硬質」シェルを有しており、MBSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびアクリル重合体または共重合体の「硬質」シェルを有しており、また、MABSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびメタクリル酸塩・アクリロニトリル共重合体の「硬質」シェルを有しており、本件特許明細書の記載(本件特許公報第4頁左欄第18行〜第31行)からも明らかなように、これら上記刊行物5に記載されているコアーシェルグラフトポリマーは、本件発明のコアーシェルグラフトポリマーと同様に、コアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上のものであると認められる。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項6に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項6に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(7)本件請求項7に係る発明について
本件請求項7に係る発明は本件請求項1に係る発明に「a)メタクリル酸エステルモノマーの使用量を約55から約75重量%に限定すること、b)任意成分として「0から約15重量%のラジカル重合可能なエチレン形不飽和のモノまたはポリカルボン酸」を加えること、c)-25℃以下のTgを有する弾性ポリマーの使用割合を約5から約30重量%に限定すること、及び、d)モノマーに膨潤するが溶解しないコアシェルグラフトポリマーの使用量を約5から約30重量%に限定すること」を要件として付加するものである。
そして、上記刊行物5では、a)メタクリル酸メチル、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)、d)コアーシエルグラフトコポリマーの配合比率を種々変化させた例が示されており(5-20)、また、b)メタクリル酸を、a)メタクリル酸メチル、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)、d)コアーシエルグラフトコポリマーの合計100重量部に対して0〜15重量部の範囲内の量で配合することが示されている(5-21)。
また、上記刊行物5には、実例として、a)メタクリル酸メチル65.2重量部、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)7.0〜27.8重量部、d)コアーシエルグラフトコポリマー7.0〜27.8重量部、これらa)、c)、d)の合計量100重量部に対してb)メタクリル酸5.0重量部、およびe)ラジカル発生触媒0.5重量部を配合した組成の接着剤が示されており(5-22)、これは本件請求項7に係る発明において規定するa)〜e)の比率範囲内にある。即ち、上記刊行物5には、a)〜e)成分を本件請求項7に係る発明において規定する比率範囲で配合することも開示されている。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項7に係る発明も開示されているということができる。
したがって、上記刊行物5には、本件請求項7に係る発明も記載された発明と同一であると認められる。
(8)本件請求項8項に係る発明について
本件請求項8に係る発明は本件請求項7に係る発明に「メタクリル酸エステルはメタクリル酸メチルである」との限定を付加するものである。
そして、上記本件請求項7に係る発明についての項で述べたとおり刊行物5に本件請求項7に係る発明が開示されているということができることと、上記刊行物5に「最も好ましくは、メタアクリレートエステル単量体はメタクリル酸メチルである。」という記載(5-7)、及び、「エステル単量体が……メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル……から成るグループから選択される接着剤組成。」との記載があり(5-3)、また、実例としてメタアクリレートエステル単量体としてメタクリル酸メチルのみ(メタクリル酸メチル100重量%)を使用しているものが記載されている(5-18)との理由により、上記刊行物5には、本件請求項8に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項8に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(9)本件請求項9項に係る発明について
本件請求項9に係る発明は本件請求項7に係る発明に「酸はメタクリル酸である」との限定を付加するものである。
そして、上記本件請求項7に係る発明についての項で述べたとおり刊行物5に本件請求項7に係る発明が開示されているということができることと、上記刊行物5に接着剤は、アクリル酸、メタクリル酸等を更に含んでもよいことが記載されており(5-2)、(5-8)(5-9)、実例I、IA、III、IIIA〜G等においても、メタクリル酸エステルとメタクリル酸を併用している(5-17)との理由により、上記刊行物5には、本件請求項9に係る発明が開示されているということができる。
したがって、本件請求項9に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(10)本件請求項10項に係る発明について
本件請求項10に係る発明は本件請求項7に係る発明に「弾性ポリマーはモノマーに約10から約35重量%の量で溶ける」との限定を付加するものである。
そして、上記本件請求項7に係る発明についての項で述べたとおり刊行物5に本件請求項7に係る発明が開示されているということができることと、上記刊行物5においても、弾性ポリマーであるクロロスルフオン化ポリエチレンのモノマーに対する量が約10から約35重量%の範囲内にあるような接着剤も示されており(5-19)、このような接着剤はモノマーに対して弾性ポリマーが約10から約35重量%の範囲内の量で溶解しているものであるとの理由により、上記刊行物5には、本件請求項10に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項10に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(11)本件請求項11項に係る発明について
本件請求項11に係る発明は本件請求項7に係る発明に「コア-シェルグラフトポリマーのコアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上である」との限定を付加するものである。
そして、上記本件請求項7に係る発明についての項で述べたとおり刊行物5に本件請求項7に係る発明が開示されているということができることと、上記刊行物5には、コアーシエルグラフトポリマーとして、ABSグラフト共重合体樹脂、MBSグラフト共重合体樹脂、MABSグラフト共重合体樹脂等が記載されている(5-14)が、ABSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびスチレン・アクリロニトリルの「硬質」シェルを有しており、MBSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびアクリル重合体または共重合体の「硬質」シェルを有しており、また、MABSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびメタクリル酸塩・アクリロニトリル共重合体の「硬質」シェルを有しており、本件特許明細書の記載(本件特許公報第4頁左欄第18行〜第31行)からも明らかなように、これら上記刊行物5に記載されているコアーシェルグラフトポリマーは、本件発明のコアーシェルグラフトポリマーと同様に、コアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上のものであると認められるとの理由により、上記刊行物5には、本件請求項11に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項11に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(12)本件請求項13に係る発明について
本件請求項13に係る発明は本件請求項7に係る発明に「メタクリル酸エステルモノマーは約60から約70重量%の量で存在し、酸モノマーは約8から約15重量%の量で存在し、そして、コア-シェルグラフトコポリマーは約15から20重量%の量で存在する」との限定を付加するものである。 そして、上記本件請求項7に係る発明についての項で述べたとおり刊行物5に本件請求項7に係る発明が開示されているということができることと、上記刊行物5に、a)メタクリル酸メチル65.2重量部、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)7.0〜27.8重量部、d)コアーシエルグラフトコポリマー7.0〜27.8重量部、これらa)、c)、d)の合計量100重量部に対してb)メタクリル酸5.0重量部、およびe)ラジカル発生触媒0.5重量部を配合した組成の接着剤が示されており(5-22)、この場合、酸モノマーであるb)メタクリル酸が5.0重量部であるが、実例VIに示されているようにメタクリル酸はa)メタクリル酸メチル、c)弾性ポリマー(クロロスルフオン化ポリエチレン)、d)コアーシエルグラフトコポリマーの合計100重量部に対して10〜15重量部の範囲内の量で配合することができるのである(5-23)という理由により、上記刊行物5には、本件請求項13に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項13に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(13)本件請求項16に係る発明について
本件請求項16に係る発明は、本件請求項1に係る発明の接着剤と同一の接着剤により接着することによって結合された自動車用バンパー等の組立体の発明である。
そして、本件請求項16に係る発明の自動車用バンパー等の組立体に使用される接着剤は本件請求項1に係る発明の接着剤と同一のものであるから該接着剤は上記請求項1に係る発明についての項で述べたとおり上記刊行物5に開示されているものである。
そして、上記刊行物5には、上記刊行物5に記載された発明の接着剤が、比較的高い圧縮剪断強さ(即ち、例えば大抵の樹脂材料間に比較的強い接着結合を与える)と、重ね剪断強さ(即ち、例えば大抵の金属材料間に比較的強い接着結合を与える)と、剥離強さと、衝撃強さとを有するものであることが記載されており(5-6)、(5-16)、このような機械的な性質からみて該接着剤を圧縮や衝撃を受ける自動車用バンパー等の組立体の接着剤として使用することは当業者が直ちに思い浮かぶ自明の用途であるといえる。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項16に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項16に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(14)本件請求項17に係る発明について
本件請求項17に係る発明は本件請求項16に係る発明に「接着剤がラジカル重合可能なエチレン形不飽和モノまたはポリカルボン酸を含む」との限定を付加するものである。
そして、本件請求項16に係る発明についての項で述べたとおり本件請求項16に係る発明が上記刊行物5に開示されているということができることと、上記刊行物5には、接着剤は、アクリル酸、メタクリル酸等を更に含んでもよいことが記載されており(5-2)、(5-8)(5-9)、実例I、IA、III、IIIA〜G等においても、メタクリル酸エステルとメタクリル酸を併用している(5-17)との理由により、上記刊行物5には、本件請求項17に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項17に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(15)本件請求項18に係る発明について
本件請求項18に係る発明は本件請求項17に係る発明に「酸はメタクリル酸である」との限定を付加するものである。
そして、本件請求項16に係る発明についての項で述べたとおり本件請求項16に係る発明が上記刊行物5に開示されているということができることと、上記刊行物5には、接着剤は、アクリル酸、メタクリル酸等を更に含んでもよいことが記載されており(5-2)、(5-8)(5-9)、実例I、IA、III、IIIA〜G等においても、メタクリル酸エステルとメタクリル酸を併用している(5-17)との理由により、上記刊行物5には、本件請求項18に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項18に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(16)本件請求項19に係る発明について
本件請求項19に係る発明は本件請求項16に係る発明に「メタクリル酸エステルは少なくとも50重量%のメタクリル酸メチルである」との限定を付加するものである。
そして、本件請求項16に係る発明についての項で述べたとおり本件請求項16に係る発明が上記刊行物5に開示されているということができることと、上記刊行物5には、「最も好ましくは、メタアクリレートエステル単量体はメタクリル酸メチルである。」という記載(5-7)、及び、「エステル単量体が……メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル……から成るグループから選択される接着剤組成。」との記載があり(5-3)、また、実例としてメタアクリレートエステル単量体としてメタクリル酸メチルのみ(メタクリル酸メチル100重量%)を使用しているものが記載されている(5-18)との理由により、上記刊行物5には、本件請求項19に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項19に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(17)本件請求項20に係る発明について
本件請求項20に係る発明は本件請求項16に係る発明に「弾性ポリマーは溶液の重量に対して約10から約35重量%の量でモノマーに溶けている」との限定を付加するものである。
そして、本件請求項16に係る発明についての項で述べたとおり本件請求項16に係る発明が上記刊行物5に開示されているということができることと、上記刊行物5においても、弾性ポリマーであるクロロスルフオン化ポリエチレンのモノマーに対する量が約10から約35重量%の範囲内にあるような接着剤も示されており(5-19)、このような接着剤はモノマーに対して弾性ポリマーが約10から約35重量%の範囲内の量で溶解しているものであるとの理由により、上記刊行物5には、本件請求項20に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項20に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(18)本件請求項21に係る発明について
本件請求項21に係る発明は本件請求項16に係る発明に「コアーシェルグラフトポリマーのコアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上である」との限定を付加するものである。
そして、本件請求項16に係る発明についての項で述べたとおり本件請求項16に係る発明が上記刊行物5に開示されているということができることと、上記刊行物5には、コアーシエルグラフトポリマーとして、ABSグラフト共重合体樹脂、MBSグラフト共重合体樹脂、MABSグラフト共重合体樹脂等が記載されている(5-14)が、ABSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびスチレン・アクリロニトリルの「硬質」シェルを有しており、MBSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびアクリル重合体または共重合体の「硬質」シェルを有しており、また、MABSグラフト共重合体樹脂はスチレン・ブタジエンゴムの「弾性コア」およびメタクリル酸塩・アクリロニトリル共重合体の「硬質」シェルを有しており、本件特許明細書の記載(本件特許公報第4頁左欄第18行〜第31行)からも明らかなように、これら上記刊行物5に記載されているコアーシェルグラフトポリマーは、本件発明のコアーシェルグラフトポリマーと同様に、コアのTgは実質的に室温以下であり、シェルのTgは実質的に室温以上のものであると認められるとの理由により、上記刊行物5には、本件請求項21に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項21に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(19)本件請求項22に係る発明について
本件請求項22に係る発明は、本件請求項16に係る発明に「硬化した接着剤は-23℃(-10F)またはそれ以下で少なくとも0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/ln2)の耐衝撃結合強度と10%以上のバルク引張伸長度(bulk tensile elongation)を有する」との限定を付加したものである。
そして、上記本件請求項22で規定する硬化した接着剤の物性値は、本件請求項22に係る発明が引用する本件請求項16に係る発明の自動車用バンパー等の組立体に使用される接着剤のものであるが、該接着剤は上記本件請求項16に係る発明についての項で述べたとおり本件請求項1に係る発明の接着剤と同一のものであるから、上記本件請求項22で規定する硬化した接着剤の物性値は本件請求項1に係る発明の接着剤におけるものと同一である。
してみれば、上記刊行物5には、本件請求項22に係る発明も開示されているということができる。
したがって、本件請求項22に係る発明も上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。
(20)むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1乃至22に記載された請求項のうち、請求項1〜11、13、16〜22に係る発明は、いずれも、上記刊行物6の記載を参酌すると本件出願の優先権主張日前に頒布された上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められるから、本件請求項1〜11、13,16〜22に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
〔本件請求項12、14及び15に係る発明について〕
2-2.特許異議申立理由
本件請求項12、14及び15に係る発明についての特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)特許異議申立人宮崎幸雄の申立理由
特許異議申立人宮崎幸雄の申立理由は、
(イ)本件請求項12及び14に係る発明は、同人が提示した甲第1号証(特開昭61-89275号公報、刊行物5)と甲第2号証(特開昭62-1772号公報、昭和62年1月7日発行、以下「刊行物7」という。)、甲第3号証(特開昭59-91165号公報、刊行物4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、
(ロ)本件請求項15に係る発明は同人が提示した甲第1号証(刊行物5)と甲第2号証(刊行物7)、甲第3号証(刊行物4)、甲第4号証(特公昭54-28178号公報、刊行物2)及び甲第5号証(特開昭62-104883号公報、昭和62年5月15日発行、以下「刊行物8」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、
(ハ)本件請求項12、14及び15に係る発明は同人が提示した甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、
というものである。
(2)特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドの申立理由
特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドの申立理由は、
(ニ)本件請求項12係る発明は、同人が提示した甲第1号証(特開昭59-115371号公報、刊行物1)と同一であり、
(ホ)本件請求項12に係る発明は同人が提示した甲第1号証(刊行物1)、甲第2号証(特公昭54-28178号公報、刊行物2)及び甲第3号証(特開昭62-113546号公報、昭和62年5月25日発行、以下「刊行物9」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、
(ヘ)本件請求項14、15に係る発明は同人が提示した甲第1号証(刊行物1)、甲第2号証(刊行物2)、甲第3号証(刊行物9)及び甲第4号証(特開昭52-151325号公報、昭和52年12月15日発行、以下「刊行物10」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、
というものである。
(3)特許異議申立人高木鉄雄の申立理由
特許異議申立人高木鉄雄の申立理由は、
(ト)本件請求項12、14及び15に係る発明は同人が提示した甲第1号証(特公昭54-28178号公報、刊行物2)、甲第2号証(特開昭55-16018号公報、刊行物3)及び甲第3号証(特開昭58-111876号公報、昭和58年7月4日発行、以下「刊行物11」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、
というものである。
3-2.刊行物の記載事項
(1)特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第1号証(特開昭61-89275号公報、刊行物5)と甲第8号証(「ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING」Vol.6(1986)、第513頁〜第515頁、刊行物6)の記載内容については既に述べた。
(2)訂正拒絶理由通知に引用した特開昭59-115371号公報(特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第1号証、刊行物1)には次の記載がなされている。
(1-1)「(A)アクリル酸エステルおよび/又はメタクリル酸エステルおよび/又はこれらのオリゴマーであって、1分子中に少なくとも1個の重合可能なビニル基を有する化合物、(B)アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル、又は前記オリゴマーと相溶するポリマー及び(C)アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル、又は前記オリゴマーを重合せしめる事が可能なレドックス触媒系を含有することを特徴とする金属缶用接着剤組成物。」(特許請求の範囲)、
(1-2)「本発明は金属缶を製造するのに用いる接着性、密封性等に優れた金属缶用接着剤組成物に関するものである。」(第1頁左下欄第15行〜第17行)、
(1-3)「本発明者はかかる状況を考慮し鋭意研究の結果、各種被着体に対する接着性、巻締性、耐溶剤性、耐熱性に優れた接着剤組成物を開発し、本発明を完成するに致った。」(第2頁右上欄第5行〜第8行)、
(1-4)「本発明を更に詳しく述べれば(A)成分の重合可能なビニル基を有する化合物(以下しばしば単量体という)のうちアクリル酸又はメタクリル酸のエステルとして好ましいものはアクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が1〜12のもの)、メタクリル酸アルキル(アルキル基の炭素数が1〜12のもの)、メタクリル酸ヒドロキシアルキル(アルキル基の炭素数が1〜12のもので少なくとも1つの水素が水酸基に置換されたもの)、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルなどでありこれらの1つもしくは2つ以上の単量体が選ばれる。」(第2頁右下欄第11行〜第3頁左上欄第3行)、
(1-5)「(B)成分の上記アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はそれらのオリゴマーと相溶するポリマーとしてはスチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、アクリロニトリルーブタジエンゴム、ウレタンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体、塩化ビニル、アクリル酸共重合体、ポリビニルホルマール、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-メタクリル酸共重合体、エチルセルロース、ニトロセルロース、塩素化スルホン化ポリエチレン、アルキド樹脂などがあげられる。」(第3頁右上欄第11行〜同頁左下欄第7行)、
(1-6)「組成物中(A)の単量体又はオリゴマーと(B)のポリマーの量は単量体又はオリゴマー50〜97重量%、ポリマー3〜50重量%、好ましくはそれぞれ60〜95重量%、5〜40重量%である。」(第3頁左下欄第7行〜第11行)、
(1-7)「(C)成分のレドックス触媒系については、開始剤としてケトンパーオキサイド、……などがあり、通常単量体に対して1〜10重量%が使用される。促進剤としては第3級アミン、……などがあげられる。……。促進剤の量は通常単量体に対し0.01〜5重量%が用いられる。」(第3頁左下欄第17行〜第4頁左上欄第12行)、
(1-8)「本発明の接着剤組成物は上記(A)の単量体又はオリゴマーのほかにその他のモノマーを添加してもよい。添加し得るその他のモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸とグリコール類と多塩基酸との反応で得られるポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応で得られるエポキシ(メタ)アクリレート、多塩基酸とアミノアルコールを反応させ次いで(メタ)アクリリ酸とを反応させて得られるアミド(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとポリイソシアネート化合物と反応して得られるウレタン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2-ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどがあげられる。添加量は(A)の単量体又はオリゴマーを含む重合可能な化合物の全量に対して0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜70重量%である。」(第4頁左上欄第13行〜同頁左下欄第6行)、
(1-9)「実施例1 ……撹拌器付500mlフラスコにメタクリル酸メチル180g、メタクリル酸15g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル60gにパラフィン0.9g、アクリロニトリル-ブタジエンゴム45gを加え約20時間溶解しA液とB液を作製した。溶解後A液にクメンハイドロパーオキサイド15g、ハイドロキノン0.03gを、B液にテトラメチルチオ尿素3gをそれぞれ溶解した。こうして作ったA液及びB液を6l灯油缶の底板……の巻締め部分にA/B液が重量比で1/1になる様線状に塗布後、直ちに……巻締め缶を作製した。」(第5頁右上欄第5行〜同頁左下欄第14行)、
(1-10)「実施例2 第3表に示す割合で実施例1と同様にしてA液及びB液を作製し、実施例1と同様にして缶を作製した。」(第6頁左上欄第3行〜第6行)、
(1-11)「A液:メタクリル酸メチル120g、メタクリル酸エチル30g、ウレタンテトラメタクリレート15g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル90g、クロロプレンゴム45g、パラフイン0.9g、ベンゾイルパーオキサイド15g、カテコール0.03g。
B液:メタクリル酸メチル120g、メタクリル酸エチル30g、ウレタンテトラメタクリレート15g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル90g、クロロプレンゴム45g、パラフイン0.9g、ナフテン酸コバルト1.5g。」(第6頁左上欄第3表)、
(1-12)「実施例3 第4表に示す割合で実施例1と同様にしてA液及びB液を作製し、実施例1と同様にして缶を作製した。」(第6頁右上欄第1行〜第4行)、
(1-13)「A液:メタクリル酸メチル105g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル60g、トリメチロールプロパントリアクリレート15g、ジシクロペンテニルメタクリレート45g、アクリロニトリルーブタジエンゴム45g、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体30g、パラフィン0.9g、ベンゾイルパーオキサイド15g、メチルハイドロキノン0.03g。
B液:メタクリル酸メチル105g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル6 0 g 、トリメチロールプロパントリアクリレート15g、ジシクロペンテニルメタクリレート45g、アクリロニトリルーブタジエンゴム45g、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリルースチレン共重合体30g、パラフイン0.9g、N,N-ジメチルパラトルイジン12g。」(第6頁右上欄第4表)
(3)訂正拒絶理由通知に引用した特公昭54-28178号公報(特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、特許異議甲立人宮崎幸雄が提示した甲第4号証、刊行物2)には次の記載がなされている。
(2-1)「A)ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合エラストマー及び又はブタジエンとアクリロニトリル及び5%以下の官能性モノマーとの共重合エラストマー、ブタジエンとアクリロニトリル、スチン及びメタアクリル酸エステルの一種以上とのモノマーからなるグラフト共重合体からなる群から選ばれたポリマー又はエラストマー5〜30重量%。
B)2ハイドロキシエチルメタクリレート、及び、又は2ハイドロキシプロピルメタクリレートを不飽和二重結合を含む化合物の全量に対して30〜80重量%。
C)炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを不飽和二重結合を含む化合物の全量に対して20〜70重量%。
D)ハイドロパーオキサイドを使用する不飽和二重結合を含む化合物の全量に対して0.1〜10重量%。
以上のA,B,C,Dを必須成分として含み、必要であればパラフィンワックスを加え、上記重合開始剤の還元成分の存在下で室温で空気に接触している部分を含めて硬化する速硬性アクリル系接着剤組成物。」(特許請求の範囲)、
(2-2)「本発明は、空気に接していても迅速に硬化し、且つ高い衝撃強度を有する改善された接着剤組成物に関する。」(第1頁右欄第4行〜第6行)、
(2-3)「本発明は前述した公知技術の種々の欠点を改良し衝撃強度が著しく高く、金属腐蝕の少く、嫌気性でなく、被着材の範囲が広く、硬化ムラの少く、接着作業環境に好適な、しかも取扱い可能な強度発現に至る時間が数分ないしは数10分と短い接着剤を提供するものである。」(第2頁右欄第22行〜第27行)、
(2-4)「A)ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合エラストマー、及び又はブタジエンとアクリロニトリル及び5%以下の官能性モノマーとの共重合エラストマー、ブタジエンとアクリロニトリル、スチン及びメタアクリル酸エステルの一種以上とのモノマーからなるグラフト共重合体からなる群から選ばれたポリマー又はエラストマー5〜30重量%、
B)2ハイドロキシエチルメタクリレート、及び、又は2ハイドロキシプロピルメタクリレートを不飽和二重結合を含む化合物の全量に対して30〜80重量%、
C)炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを不飽和二重結合を含む化合物の全量に対して20〜70重量%及び
D)ハイドロパーオキサイドを使用する不飽和二重結合を含む化合物の全量に対して0.1〜10重量%
を必須成分として含み、必要であればパラフィンワックスを加え、上記重合開始剤の還元成分の存在下で室温で空気に接触している部分を含めて硬化する速硬性アクリル系接着剤組成物に存する。」(第3頁左欄第19行〜第40行)、
(2-5)「さらに具体的に説明すれば、本発明の接着剤組成物は下記の各必須成分からなる。A)使用するエラストマーはブタジエンとアクリルニトリル(AN)との共重合エラストマー、及び又は、ブタジエンとAN及び5%以下の官能性モノマーを混合することによって改善された共重合エラストマーであり、官能性モノマーとしてはメタクリル酸アクリル酸、無水マレイン酸、イタマン酸等があげられる。」(第3頁左欄第41行〜同頁右欄第5行)、
(2-6)「エラストマーとしてポリクロロプレンを用いた場合、それと本発明に用いられる不飽和二重結合を含む化合物及びハイドロパーオキサイドと共存させると、その組成物の貯蔵安定性が著しく悪く、常温において数日間で硬化するので好ましくない。」(第3頁右欄第11行〜第16行)、
(2-7)「使用されるグラフト共重合体としては、ブタジエンを必須成分として含むAN,ST,メタクリル酸エステルの一種以上のモノマーからなるグラフト重合物であって、ブタジエンホモポリマー或はブタジエンとAN,ST,メタクリル酸エステルのうちの一種以上との共重合エラストマーをAN,ST,メタクリル酸エステルの一種以上のモノマーによりグラフトした共重合物である。本発明に用いられる代表的なグラフト共重合体としはブタジエン、AN及びSTから製造されるABSグラフト物と、ブタジエン、AN,ST及びメタクリル酸エステルから製造されるMBS又はBASグラフト物がある。ABS,MBS又はMBASグラフト物のいずれも本発明の目的である衝撃及び剥離強度を向上せしめ、更に接着剤として好ましい取扱粘度にするための増粘効果があり、そしてグラフト物を用いた場合はエラストマーを用いた場合と異なり構造粘性(チクソトロピー)を強く示し、これは接着作業時における糸曳き現象を少なくするので作業能率が向上する。しかしABSグラフト物を使用する場合は組成物を貯蔵中数日間で層分離を生じ、ゲル状になる場合がある。貯蔵中層分離及びゲル化を防ぐためには、ABSグラフト物のほかにエラストマ一を併用すると効果があり、貯蔵中組成物の粘度を一定に保つことができ、層分離及びゲル化がおきにくい。」(第3頁右欄第17行〜第42行)
(2-8)「以上のエラストマー及びグラフト共重合体は使用する原料に完全に溶解する必要はないが、微視的に見て十分分散している事が必要である。以上のエラストマー及び或はグラフト共重合体は、接着剤組成物に対して5〜30重量%使用される。使用目的によって異なるが、好ましい添加量は10〜25%である。」(第4頁左欄第7行〜第13行)、
(2-9)「本発明に使用する、B)及びC)にて使用されるモノマー以外に、B)及びC)の本発明の範囲内の量において、他の不飽和二重結合を有する化合物を使用する事が出来る。一般に使用される不飽和二重結合を有する化合物としては(メタ)アクリルメタクリル酸エステルとして、アクリル酸メチル、エチル、ブチル、イソブチル、2エチルヘキシル各エステル、メタクリル酸2エチルヘキシル、シクロヘキシル、ラウリル各エステル、メタクリル酸、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、テトラエチレン、グリコール等或は、酢酸ビニル、スチレン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられるが、これらに限定されない。」(第4頁右欄第12行〜第26行)、
(2-10)ブタジエン-ニトリルゴム(商品名ハイカー1042)を用いること(第5頁右欄第35行〜第36行、実施例-1、第1表の脚注)、ブタジエンニトリルゴム(Hycarl042)を用いること(第6頁右欄第14行〜第15行、実施例-2、第3表の脚注)、NBR(Hycarl072)を用いること(第6頁右欄第30行〜第31行、実施例-4、第6表の脚注)、ブタジエン-スチレン-AN、グラフト共重合体を用いること(第7頁左欄第14行及び同頁右欄第10行、実施例-5、第8表)、ブタジエン-スチレン-MMA-AN(MBAS)共重合体を用いること(第7頁、左欄第33行〜第35行、実施例-6)、及び、ブタジエンニトリルゴム(ハイカー1072)、MMA、2HEMA、CHPおよびナフテン酸コバルトを用いること。(第9頁右欄、実施例-11、第17表)
(4)訂正拒絶理由通知に引用した特開昭55-16018号公報(特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第2号証、刊行物3)には次の記載がなされている。
(3-1)「(1)アクリレート及び/又はメタクリレート単量体と有機過酸化物を含むA成分と、アクリレート及び/又はメタクリレート単量体と硬化促進剤を含むB成分からなる二液主剤型のアクリレート及び/又はメタクリレートの硬化性組成物において、B成分に硬化促進剤としてチオ尿素及び/又はチオ尿素誘導体と有機酸の銅塩及び/又は銅有機キレート化合物を含有することを特徴とするアクリレート及び/又はメタクリレートの硬化性組成物。」(特許請求の範囲第1項)、
(3-2)「本発明はいわゆる二液主剤型のアクリレート及び/又はメタクリレートの硬化性組成物、特に硬化促進剤としてチオ尿素及び/又はチオ尿素誘導体と有機酸の銅塩及び/又は銅有機化合物を含有し、取扱い便利な数分ないし数十分で硬化可能なアクリレート及び/又はメタクリレート組成物に関する。」(第1頁右下欄第7行〜第13行)、
(3-3)「本発明は有機過酸化物を含む(メタ)アクリレート硬化性組成物において、実際の作業上要する時間、例えば接着剤の場合混合又は塗布、接着後の接着材の位置調整などが充分行なうことができる程度の時間が経過した後、できるだけ速く硬化せしめる硬化促進剤を提供するものである。又、本発明は特に混合などの取扱い作業に要する時間内は硬化が開始せず、且つその時間経過後迅速に硬化する二液主剤型(メタ)アクリレート硬化性組成物を提供するものである。」(第2頁右上欄第14行〜同頁左下欄第3行)、
(3-4)「本発明によれば、アクリレート及び/又はメタクリレート単量体と有機過酸化物を含むA成分と、アクリレート及び/又はメタクリレート単量体と硬化促進剤を含むB成分からなる二液主剤型のアクリレート及び/又はメタクリレートの硬化性組成物において、B成分に硬化促進剤としてチオ尿素及び/又はチオ尿素誘導体と有機酸の銅塩及び/又は銅有機キレート化合物を含有することを特徴とするアクリレート及び/又はメタクリレートの硬化性組成物が提供される。」(第2頁左下欄第10行〜第19行)、
(3-5)「この硬化性組成物の性能を更に有効にするため、所望により他の添加剤を加えることもできる。例えば、粘度調節又は硬化物の性質を変えるために、各種のポリマー又は可塑剤を該組成物に溶解又は分散させたり、各種の無機又は有機の粉末を溶解又は分散させることができる。NBR、SBR、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、及びこれらのポリマーのカルボキシル化変性されたポリマー、クロルスルフォン化ポリエチレン、ブタジエンを必須成分とし、それにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタアクリレートの少なくとも1種とを成分とするグラフトポリマー等を添加することは接着特性、特に衝撃強度、剥離強度の改善に非常に有効である。」(第5頁右上欄第9行〜同頁左下欄第3行)
(3-6)カルボキシル化されたNBRゴムの例であるHycar1072を用いること。(第7頁左下欄実施例4、第8頁右上欄実施例6、第8頁左下欄実施例7)
(5)訂正拒絶理由通知に引用した特開昭59-91165号公報(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第3号証、刊行物4)には次の記載がなされている。
(4-1)「(1)A液及びB液の二液からなり、少なくともA液はA液100重量部のうち強磁性体10〜70重量部と、アルキル基の炭素数がそれぞれ1〜13であるアクリル酸アルキルモノエステル、メタクリル酸アルキルモノエステル、アクリル酸ヒドロキシアルキルモノエステル及びメタクリル酸ヒドロキシアルキルモノエステルから選ばれたエステルモノマー10〜70重量部と、有機過酸化物及び該有機過酸化物の分解を促進してラジカルの発生を容易ならしめる化合物のうちいずれか一方のみとを含有し、そして少なくともB液は前記有機過酸化物及び該有機過酸化物の分解を促進してラジカルの発生を容易ならしめる化合物のうち残りの他方のみを含有することを特徴とする透磁性接着剤組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(4-2)「(8)A液及び/又はB液が0〜80℃のガラス転移温度を有する高分子化合物を含有する特許請求の範囲(1)項記載の透磁性接着剤組成物。」(特許請求の範囲第8項)、
(4-3)「本発明は強磁性体粉末を含有する、良透磁性のアクリル系接着剤に関する。」(第2頁左上欄第8行〜第9行)、
(4-4)「本発明はエポキシ系接着剤における上記作業性及び接着性の欠点を有せず、そして接着剤組成物自身が強磁性体を含有するので、磁気性能を有し、面精度の悪いフェライトマグネット及びプレートの接着においても、磁束密度を大きく減ずることなく強い接着力を短時間で与えることができる透磁性接着剤組成物を提供するものである。」(第2頁右上欄第18行〜同頁左下欄第5行)、
(4-5)「更にA液及び/又はB液はガラス転移温度0〜80℃の高分子化合物を前記エステルモノマー100重量部に対し5〜50重量部含むことが好ましい。例えば、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体及びメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体等が特に好ましく含有される。」(第4頁左上欄第6行〜第14行)、
(4-6)「以下実施例及び比較例をもって説明する。
(1)還元成分含有液の製造
R-1:250メッシュの鉄粉500g、アクリロニトリルーブタジエン共重合体ゴム(グッドリッチ社製、商品名ハイカー1042)300g、メチルメタクリレート450g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート450g及びテトラメチルチオ尿素100gを混合し、ニーダーで24時間撹拌し、均一な分散液(R-1)を製造した。
R-2:300メッシュの酸化鉄(Fe203)350g、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(電気化学工業(株)製、商品名BL-20)150g、メチルメタクリレート450g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート550g、パラフィンワックス(m.p.48℃)10g、エチレンチオ尿素……20gを混合撹拌し均一な分散液(R-2)を製造した。
R-3:鉄粉を除いたほかはR-1と同一組成で均一な分散液(R-3)を製造した。……
(2)有機過酸化物含有液の製造……
P-2〜P-5:エチレンチオ尿素の代りに第1表記載の過酸化物をそれぞれ70g添加した以外はR-2と同一組成を有する均一な分散液(P-2〜P-5)を製造した。……
P-6〜P-9:酸化鉄を除いた以外はP-2〜P-5と同一組成を有する均一な分散液(P-6〜P-9)を製造した。」(第4頁右上欄第7行〜同頁右下欄末行)
(4-7)「P-3」に添加した過酸化物がt-ブチルハイドロパーオキサイドであり(第4頁右下欄第1表)、「P-6」が「P-2」の組成物中酸化鉄を除いたものである(第5頁左上欄第2表、「P- 」と記載されているが、「P-6」の誤記であると認められる。)こと、及び、比較例2の接着剤組成物がR-3とP-6から製造されたものであること。(第5頁下欄第3表)
(6)特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第2号証(特開昭62-1772号公報、刊行物7)には次の記載がなされている。
(7-1)「重合性物質成分として一般式


(但し、R1およびR2は水素またはメチル基、R3は水素または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、またはフェニル基、または炭素数1〜4個のアルキル基を有するフェニル基、nは2〜27の整数を表わす)で示される重合性モノマーを含み、更に可溶性ポリマー(但しポリエステルを除く)、有機過酸化物および還元剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。」(特許請求の範囲)、
(7-2)「本発明はプラスチックフィルム、金属箔、紙、布など各種被着体に対する剥離強度に優れ、柔軟性かつ耐久性の良好な接着剤組成物に関する。」(第1頁左下欄下から第3行〜末行)、
(7-3)「本発明の接着剤組成物は以下に述べるような、従来の接着剤の欠点を改良するものである。
(1)従来の接着剤は、プラスチックフィルム、金属箔、紙、布など材質の異なる被着体を一種類の接着剤で接着するのは困難であったが、本発明の接着剤組成物は一種類の接着剤でこれら各種の被着体を接着可能とするものであり、特に従来の接着剤では充分な剥離強度の得られなかった、ポリエステルフィルム、アルミ箔に対して、非常に優れた剥離強度を示すものである。
(2)従来の反応型アクリル系接着剤は、金属接着をその主な目的としていたため硬化した接着剤層は非常に硬いものであるが、本発明の接着剤組成物は、非常に柔軟性に富む硬化物を与えるものである。
(3)従来、プラスチックフィルム、金属箔、紙、布などの各種被着体に対し一種類の接着剤で接着しようとする場合は、ゴム系溶剤型接着剤が使用されるが、ゴム系接着剤は、耐熱劣化性、耐湿性などの耐久性が悪いという点があったが、本発明の接着剤組成物はこれら耐久性に非常に優れたものである。
(4)ゴム系接着剤は従来知られている接着剤の中では一種類の接着剤で各種被着体を接着できるという面はあるが、接着するまでに数時間から、数十時間かかり、作業スピードに問題があった。本発明の接着剤組成物は、これら欠点を全て解決し、各種被接着体を一種類の接着剤で接着可能とし、しかも室温下に於て、数分から数十分で接着できる非常に作業性の良好な接着剤である。」(第2頁右下欄第2行〜第3頁左上欄13行)、
(7-4)「本発明者は前記問題点を改良するため鋭意検討した結果、従来のゴム系溶剤型接着剤、あるいは、反応型アクリル系接着剤などではとうてい得られなかった優れた接着性能、作業性を示す接着剤組成物を見い出し、本発明を完成するに至った。」(第3頁左上欄第15行〜末行)、
(7-5)「この接着剤組成物は速硬化性で、プラスチックフィルム、金属箔、紙、布など各種被着体を一種類の接着剤で接着可能なうえ、剥離強度に優れ、しかも柔軟性かつ耐久性が良好である。本発明の組成物において最大の特徴点は、重合性物質として前記一般式で示されるGAモノマーを使用する点にあり、そのため本発明の接着剤組成物は、従来の反応型アクリル系接着剤ではとうてい考えられなかった、非常に柔軟性に富む硬化物を形成し、しかもプラスチックフィルム、金属箔、紙、布などの各種被着体に対して優れた剥離強度、耐久性を示し、中でも従来接着の困難であったポリエステルフィルム、アルミ箔などに対して格段に優れた接着性を示す。更に従来のゴム系接着剤などではとうてい無理な被着体の組み合せでも接着可能であり、その作業性も室温下数分から数十分で硬化可能なため非常に良好である。」(第3頁右上欄下から第8行〜同頁左下欄第10行)、
(7-6)「本発明に用いる接着剤組成物に含まれる可溶性ポリマーはアクリロニトリル-ブタジエンゴム、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、ポリメチルメタクリレート、フェノール樹脂などがあげられるが、中でも、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が好ましい。ポリマーは、相溶性が良ければ、2種以上の併用も可能である。組成物中のポリマーの割合は5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。」(第4頁左下欄第14行〜同頁右下欄第11行)、
(7-7)メトキシポリエチレングリコールメタクリレート50重量部、MMA50重量部、市販NBR8重量部、MBAS8重量部、有機過酸化物〔BPO(ベンゾイルパーオキサイド)〕8重量部、重合禁止剤〔p-BQ(p-ベンゾキノン)〕0.12重量部の割合で配合した接着剤組成物(第5頁右下欄第13行〜第6頁上欄に記載の実施例-1)
(7)特開昭62-104883号公報(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第5号証、刊行物8)には次の記載がなされている。
(8-1)「(1)(A)重合性ビニルモノマーの1種又は2種以上、
(B)結合ブタジエン量が75〜95%のアクリルニトリル-ブタジエン共重合体エラストマー、
(C)遷移金属化合物
以上のA),B),C)を必須成分として含み、有機過酸化物の存在下で室温で空気に接している部分を含めて硬化する常温硬化性の接着剤組成物。」(特許請求の範囲第1項)、
(8-2)「本発明は空気に接している部分を含めて室温で硬化し、且つ低温から高温に至る広い環境温度条件下で優れた接着性能を有するアクリル系の常温硬化型接着剤組成物に関する。」(第1頁右下欄第13行〜第16行)、
(8-3)「本発明ではこれを更に進め、後述する特定の成分を特定の量組合せて使用することにより、高温に於ける接着強度のみならず、低温に於ける接着強度も優れた接着剤組成物が得られることを見出し本発明に至った。」(第3頁左上欄第3行〜第7行)、
(8-4)本発明に係る接着剤組成物が-40℃の低温から80℃の高温に至る範囲で、接着剤の剥離強度、引張剪断強度等の物性が優れていること。(第5頁右上欄第2行〜第8頁左上欄に記載の実施例-1〜実施例-3)
(8)特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドの提示した甲第3号証(特開昭62-113546号公報、「刊行物9」という。)には次の記載がなされている。
(9-1)「1.アクリレート系モノマー及び/又はメタクリレート系モノマーと結合ブタジエン量が75重量%以上のアクリロニトリル-ブタジエン共重合体エラストマーを主成分とするアクリル系接着剤の硬化物を介して金属の板と補強材が接合してなる金属補強パネル。
2.金属板と補強材とを、アクリレート系モノマー及び/又はメタクリレート系モノマーと結合ブタジエン量が75重量%以上のアクリロニトリル-ブタジエン共重合体エラストマーを主成分とし、有機過酸化物と有機過酸化物の分解を促進しラジカルの発生を容易ならしめる成分の共存下で硬化するアクリル系接着剤で接着接合することを特徴とする金属補強パネルの製造法。」(特許請求の範囲)、
(9-2)「本発明は、金属の板(以下しばしば「パネル板」と呼ぶ)と補強材とをアクリル系接着剤で接着接合した金属補強パネル及びその製造方法に関する。」(第1頁右下欄第2行〜第5行)、
(9-3)「しかし、前記アクリル系接着剤は著しい低温に於いて剥離強度及び衝撃強度が低下するという欠点を有するため、上記の補強パネルを著しい低温に曝される用途、例えば寒冷地の屋外構造物や輸送機の外板等に使用した場合、外力により接合部が剥れる恐れがあり、従って、その使用範囲は、屋内等使用条件の比較的温和な箇所に限定されていた。本発明は、これらの点に鑑みなされたものであり、パネル板と補強材の接合に、後述の特定な成分を含有するアクリル系接着剤を用いることにより、接合部への応力集中が少なく低温に於いても耐久性に優れ、接合の痕跡が残らないため意匠性に優れ、気密性が高く、しかもパネル板と補強材との接合に際しての作業性に優れた金属補強パネル、及びその製造方法を提供することを目的とする。」(第2頁左下欄第3行〜末行)、
(9-4)「NBRの結合ブタジエン量が75重量%未満では、低温に於ける接着強度(剥離強度、衝撃強度)の低下が大きく、従って補強パネルの低温に於ける耐久性が低下し本発明の目的を達し得ない。」(第3頁左上欄第9行〜第13行)、
(9-5)本発明に係る接着剤が低温に於ける剥離強度や衝撃強度が優れていること。(第5頁に記載の第2表、第6頁に記載の第3表)。
(9)特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第4号証(特開昭52-151325号公報、刊行物10)には次の記載がなされている。
(10-1)「1.アクリレートを主成分とし、有機過酸化物の分解を促進してラジカルの発生を容易ならしめる化合物を含む組成物(A)と、不飽和二重結合をもつ有機化合物を主成分とし、有機過酸化物を含む組成物(B)からなり、組成物(A)及び組成物(B)の少なくとも一方に未加硫ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレングラフト共重合体、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレングラフト共重合体又はメタクリル酸メチル・ブタジエン・アクリロニトリル・スチレングラフト共重合体を含む二液非溶剤型アクリル系接着剤を塗布するにあたり、内管及び外管とからなる二重管で、内管が外管より長いノズルを用い組成物(A)と組成物(B)の二液を接触せしめることを特徴とする塗布方法。」(特許請求の範囲第1項)、
(10-2)「本明細書においては本発明に用いられるこのような接着剤を総称して二液非溶剤型アクリル系接着剤という。二液非溶剤型アクリル系接着剤は衝撃強度及び剥離強度等の接着物性において、二液型のエポキシ系接着剤よりすぐれている。又、エポキシ系接着剤は使用に際し、二液を厳密に計量して混合する必要があるが、この二液非溶剤型アクリル系接着剤ではエポキシ系接着剤に比較して二液の計量を厳密にする必要がなく、接着後常温で数分で実用強度が得られる。」(第2頁左上欄第3行〜第13行)
(10-3)「特開昭50-129632号公報に、アクリレートを主成分とし、有機過酸化物の分解を促進してラジカルの発生を容易ならしめる化合物を含む組成物(A)と、不飽和二重結合をもつ有機化合物を主成分とし有機過酸化物を含む組成物(B)の少なくとも一方に未加硫ゴムを含む二液非溶剤型接着剤が開示されている。本発明の塗布方法及び塗布装置に用いられる接着剤はこの接着剤と、この接着剤において、未加硫ゴムの一部又は全部をアクリロニトリル・ブタジエン・スチレングラフト共重合体、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレングラフト共重合体又はメタクリル酸メチル・ブタジエン・アクリロニトリル・スチレングラフト共重合体に変えた接着剤である。」(第1頁右下欄第8行〜第2頁左上欄第3行)、
(10-4)「メタクリル酸メチル80重量部、スチレン5重量部、メタアクリル酸3重量部及びクロロプレンゴム5重量部を溶解した原液93重量部にテトラメチルチオ尿素1.5重量部及びナフテン酸コバルト0.2重量部を溶解させた溶液をA液とし、A液を外管の圧送タンクに入れ、そして上記原液93重量部にキュメンハイドロパーオキサイド5重量部を溶解させたものをB液とし、B液を内管の圧送タンクに入れ、それぞれを2Kg/cm2Gの圧力でノズルかた吐出せしめ次の接着試験を行なった。吐出量はA液及びB液とも、それぞれ0.2g/secであった。」(第3頁左上欄第11行〜同頁右上欄第2行)
(10)特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第3号証(特開昭58-111876号公報、刊行物11)には次の記載がなされている。
(11-1)「(1)a)重合性ビニル単量体、有機酸、パーオキシ重合開始剤及び高分子量重合体を含む結合剤成分、及び、b)重合性ビニル単量体、チオン重合促進剤及び高分子量重合体を含む硬化剤成分を含む二成分硬化性組成物。」(特許請求の範囲第1項)、
(11-2)「(8)高分子量重合体はアクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロルプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂及びポリメタクリル酸メチルから選択される特許請求の範囲(1)〜(7)項のいずれか一つの項に記載の組成物。」(特許請求の範囲第8項)、
(11-3)「本発明は改善された硬化性質を有する二成分組成物に関する。」(第2頁左下欄第6行〜第7行)、
(11-4)「本発明において、特定の処方が広い隙間を接着剤によって結合させうるという改善された硬化性質を有していることが見出された。」(第2頁左下欄第17行〜第19行)、
(11-5)「好適な高分子量重合体には、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロルプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂及びポリメタクリル酸メチルが含まれる。これらは硬化した接着剤の硬度、レジリエンス等の必要な性質を達成するため所望に応じて単独でも混合物としても使用できる。」(第3頁右下欄末行〜第4頁左上欄第6行)、
(11-6)メタクリル酸メチル、メタクリル酸、クメンヒドロパーオキシド及びHycar1072を含有する二成分硬化性組成物(第4頁右下欄末行〜第5頁左下欄に記載の実施例)
4-2.対比判断
(1)申立理由(イ)について
本件請求項12に係る発明と特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第1号証(特開昭61-89275号公報、刊行物5)に記載された発明を対比すると、両者は、上記4-1の(1)項と(7)項で述べた点で一致しているが、弾性ポリマーが上記甲第1号証(刊行物5)に記載された発明では塩素化またクロロスルフォン化ポリエチレンであるのに対し本件請求項12に係る発明ではポリクロロプレンである点で相違している。また、上記甲第1号証(刊行物5)には、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した甲第2号証(特開昭62-1772号公報、刊行物7)には、可溶性ポリマー成分としてポリクロロプレンとメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体を併用することについても記載されているが(7-6)、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した甲第3号証(特開昭59-91165号公報、刊行物4)には、0〜80℃のガラス転移温度を有する高分子化合物成分の一例としてポリクロロプレン及びメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体が記載されてはいるが、本件請求項12に係る発明における約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマーの要件に合致しないものである。また、上記甲第3号証(刊行物4)には、ポリクロロプレンとメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体を併用することについて記載されておらず、しかも、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」についても記載されていない。
以上のように、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物5、7、4)に本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていないのであるから、上記甲第1、2、3号証(刊行物5、7、4)に記載された発明には、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、上記甲第1号証(刊行物5)に記載された発明における塩素化またクロロスルフォン化ポリエチレンに代えてポリクロロプレンを使用しようとする動機は見あたらない。
よって、本件請求項12に係る発明は、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物5、7、4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
また、本件請求項14に係る発明は、本件請求項12に係る発明に対してさらにモノマーの使用割合を本件請求項13に係る発明で特定する数量範囲に限定するものである。
したがって、本件請求項12に係る発明が同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物5、7、4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできないものである以上、本件請求項14に係る発明も、本件請求項12に係る発明と同様に、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物5、7、4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
(2)申立理由(ロ)について
本件請求項15に係る発明と特許異議申立人宮崎幸雄が提示した上記甲第1号証(特開昭61-89275号公報、刊行物5)に記載された発明を対比すると、両者は、上記4-1の(1)項、(7)項及び(12)項で述べた点で一致しているが、弾性ポリマーが上記甲第1号証(刊行物5)に記載された発明では塩素化またクロロスルフォン化ポリエチレンであるのに対し、本件請求項15に係る発明ではニトリルゴムである点で相違している。また、上記甲第1号証(刊行物5)には本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した上記甲第2号証(特開昭62-1772号公報、刊行物7)には、可溶性ポリマー成分としてアクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)とメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体を併用することについても記載されているが(7-6)、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した上記甲第3号証(特開昭59-91165号公報、刊行物4)には、0〜80℃のガラス転移温度を有する高分子化合物成分の一例としてアクリロニトリル-ブタジエン共重合体(即ち、ニトリルゴム)及びメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体が記載されてはいるが、本件請求項15に係る発明における約-25℃以下のTgを有する弾性ポリマーの要件に合致しないものである。また、上記甲第3号証(刊行物4)には、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(即ち、ニトリルゴム)とメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体を併用することについて記載されておらず、しかも、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」についても記載されていない。
また、同人が提示した甲第4号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、刊行物2)には、D)成分としてハイドロパーオキサイド、C)成分としてメタクリル酸メチル、A)成分としてニトリルゴム、ブタジエンとスチレンの共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体などを使用した接着剤が記載されており、本件請求項15に係る発明と同人の提示した甲第4号証(刊行物2)に記載された発明を対比すると、両者は、ラジカル発生触媒、メタクリル酸メチル、及び、ニトリルゴム、または、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の3成分を含む接着剤である点で一致しているが、本件請求項15に係る発明におけるニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが上記甲第4号証(刊行物2)に記載されていない点で相違している。また、上記甲第4号証(刊行物2)には、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
また、同人が提示した甲第5号証(特開昭62-104883号公報、刊行物8)には、(A)重合性ビニルモノマー、(B)アクリルニトリル-ブタジエン共重合体エラストマー(即ち、ニトリルゴム)、(C)遷移金属化合物を含み、有機過酸化物で硬化する接着剤組成物が記載されており、それにより低温における引張剪断強度及び剥離強度が優れていることが記載されているが、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されておらず、また、本件請求項15に係る発明におけるブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するコア-シェルグラフトポリマーを併用する必要性を何ら示唆するものではない。
以上のように、同人が提示した上記甲第1、2、3、4、5号証(刊行物5、7、4、2、8)に本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていないのであるから、上記甲第1、2、3、4、5号証(刊行物5、7、4、2、8)に記載された発明には、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、上記甲第1号証(刊行物5)に記載された発明における塩素化またクロロスルフォン化ポリエチレンに代えてニトリルゴムを使用しようとする動機は見あたらない。
したがって、本件請求項15に係る発明は、同人が提示した上記甲第1、2、3、4、5号証(刊行物5,7、4、2、8)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
(3)申立理由(ハ)について
特許異議申立人宮崎幸雄が提示した上記甲第4号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、刊行物2)には、D)成分としてハイドロパーオキサイド、C)成分としてメタクリル酸メチル、A)成分としてポリクロロプレン、ブタジエンとスチレンの共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体などを使用した接着剤が記載されており、本件請求項12に係る発明と同人が提示した甲第4号証(刊行物2)に記載された発明を対比すると、両者は、ラジカル発生触媒、メタクリル酸メチル、及び、ポリクロロプレン、または、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の3成分を含む接着剤である点で一致しているが、本件請求項12に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが上記甲第4号証(刊行物2)に記載されていない点で相違している。また、上記甲第4号証(刊行物2)には、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
してみれば、同人が提示した上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することは当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできない。
したがって、本件請求項12に係る発明は同人が提示した上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない
また、本件請求項14に係る発明は、本件請求項12に係る発明に対してさらにモノマーの使用割合を本件請求項13に係る発明で特定する数量範囲に限定するものである。
したがって、本件請求項12に係る発明が同人が提示した上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできないものである以上、本件請求項14に係る発明も、本件請求項12に係る発明と同様に、同人が提示した上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
本件請求項15に係る発明は、本件請求項14に係る発明におけるポリクロロプレンに代えて、ニトリルゴムを使用するものである。
特許異議申立人宮崎幸雄が提示した上記甲第4号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、刊行物2)には、D)成分としてハイドロパーオキサイド、C)成分としてメタクリル酸メチル、A)成分としてブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体(即ち、ニトリルゴム)、ブタジエン-スチレンの共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体などを使用する接着剤が記載されており、本件請求項15に係る発明と同人が提示した上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明を対比すると、両者は、ラジカル発生触媒、メタクリル酸メチル、及び、ニトリルゴム、または、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の3成分を含む接着剤である点で一致しているが、本件請求項15に係る発明におけるニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが上記甲第4号証(刊行物2)に記載されていない点で相違している。また、上記甲第4号証(刊行物2)には、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
してみれば、同人が提示する上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することは当業者が容易に想到し得ることであると言うことができない。
したがって、本件請求項15に係る発明は同人が提示した上記甲第4号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
(4)申立理由(ニ)について
特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第1号証(特開昭59-115371号公報、刊行物1)には、A〜Cの成分を含有する接着剤が記載され、そのA成分としてアクリル酸メチル、B成分としてポリクロロプレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体、C成分としてレドックス系の触媒が例示されているが、ポリクロロプレンとメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体を併用したものは記載されていない。
また、上記甲第1号証(刊行物1)の実施例3には、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体およびベンゾイルパーオキサイドの4成分を含む接着剤が記載されている(第4表)(1-13)。しかし、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体はアクリロニトリル成分を含んでいる点で本件請求項12に係る発明におけるブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するコポリマーとは異なるものである。
そこで、上記甲第1号証(刊行物1)に記載された発明と本件請求項12に係る発明を対比すると、両者は、アクリル酸メチル、ポリクロロプレン又はメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びラジカル発生触媒を有する接着剤である点では一致しているが、本件請求項12に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することが上記甲第1号証(刊行物1)に記載されていない点で少なくとも相違している。
また、上記甲第1号証(刊行物1)の実施例3には、B成分としてアクリロニトリル-ブタジエンゴムとメタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体を併用することが記載されてはいるが、上記甲第1号証(刊行物1)にはこれ以外にB成分を2者併用することは何も具体的には記載されていない。
したがって、本件請求項12に係る発明は、同人が提示した上記甲第1号証(刊行物1)に記載された発明と同一であると言うことはできない。
(5)申立理由(ホ)について
特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した上記甲第1号証(特開昭59-115371号公報、刊行物1)に記載された発明と本件請求項12に係る発明を対比すると、両者は、アクリル酸メチル、ポリクロロプレン又はメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びラジカル発生触媒を有する接着剤である点では一致しているが、本件請求項12に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することが上記甲第1号証(刊行物1)に記載されていない点で少なくとも相違している。
また、上記甲第1号証(刊行物1)の実施例3には、B成分としてアクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)とメタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体を併用することが記載されてはいるが、上記甲第1号証(刊行物1)にはこれ以外にB成分を2者併用することは何も具体的には記載されていない。
そして、同人が提示した上記甲第1号証(刊行物1)には、 本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した甲第2号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第4号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、刊行物2)には、本件請求項12に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが記載されておらず、また、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した甲第3号証(特開昭62-113546号公報、刊行物9)に記載された発明は、(メタ)アクリレート系モノマーとアクリロニトリル-ブタジエン共重合体エラストマーとから成る接着剤に係るものであって、上記甲第3号証(刊行物9)には本件請求項12に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することは全く記載されていない。
また、上記甲第3号証(刊行物9)には、接着剤の低温に於ける耐衝撃性を改善することについては記載されているが、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
してみれば、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物1、2、9)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することは当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできない。
したがって、本件請求項12に係る発明は、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物1、2、9)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
(6)申立理由(ヘ)について
特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した上記甲第1号証(特開昭59-115371号公報、刊行物1)に記載された発明と本件請求項14に係る発明を対比すると、両者は、アクリル酸メチル、ポリクロロプレン又はメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びラジカル発生触媒を有する接着剤である点では一致しているが、本件請求項14に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することが上記甲第1号証(刊行物1)に記載されていない点で少なくとも相違している。
また、上記甲第1号証(刊行物1)の実施例3には、B成分としてアクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)とメタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体を併用することが記載されてはいるが、上記甲第1号証(刊行物1)にはこれ以外にB成分を2者併用することは何も具体的には記載されていない。
そして、同人が提示した上記甲第1号証(刊行物1)には、 本件請求項14に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した甲第2号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第4号証、特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証、刊行物2)には、本件請求項14に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが記載されておらず、また、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項14に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した甲第3号証(特開昭62-113546号公報、刊行物9)に記載された発明は、(メタ)アクリレート系モノマーとアクリロニトリル-ブタジエン共重合体エラストマーとから成る接着剤に係るものであって、上記甲第3号証(刊行物9)には本件請求項14に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することは全く記載されていない。
また、上記甲第3号証(刊行物9)には、接着剤の低温に於ける耐衝撃性を改善することについては記載されているが、本件請求項14に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
また、同人が提示した上記甲第4号証(特開昭52-151325号公報、刊行物10)には、メタクリル酸エステルとしてメタクリル酸メチルが50重量%以上用いられた接着剤組成が記載されているだけであり、本件請求項14に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
してみれば、同人が提示した上記甲第1、2、3、4号証(刊行物1、2、9、10)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することは当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできないし、その上にさらに接着剤の原料モノマーの使用割合を特定することは尚更当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできない。
したがって、本件請求項14に係る発明は、同人が提示した上記甲第1、2、3、4号証(刊行物1、2、9、10)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
本件請求項15に係る発明は、本件請求項14に係る発明におけるポリクロロプレンに代えて、ニトリルゴムを使用するものである。
特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドの提示した上記甲第1号証(特開昭59-115371号公報、刊行物1)に記載された発明と本件請求項15に係る発明を対比すると、両者は、アクリル酸メチル、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合エラストマー(即ち、ニトリルゴム)又はメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びラジカル発生触媒を有する接着剤である点では一致しているが、本件請求項15に係る発明におけるニトリルゴムとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することが上記甲第1号証(刊行物1)に記載されていない点で少なくとも相違している。
また、上記甲第1号証(刊行物1)の実施例3には、B成分としてアクリロニトリル-ブタジエンゴムとメタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体を併用することが記載されてはいるが、メタクリル酸メチル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体はアクリロニトリル成分を含んでいる点で本件請求項15に係る発明におけるブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するコポリマーとは異なるものであり、また、上記甲第1号証(刊行物1)にはこれ以外にB成分を2者併用することは何も具体的には記載されていない。
そして、上記甲第1号証(刊行物1)には、 本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。
また、同人が提示した上記甲第2号証(特公昭54-28178号公報、刊行物2)には、本件請求項15に係る発明におけるニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが記載されておらず、また、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
また、同人が提示した上記甲第3号証(特開昭62-113546号公報、刊行物9)に記載された発明は、(メタ)アクリレート系モノマーとアクリロニトリル-ブタジエン共重合体エラストマーとから成る接着剤に係るものであって、上記甲第3号証(刊行物9)には本件請求項15に係る発明におけるニトリルゴムとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトコポリマーを併用することは全く記載されていない。
また、上記甲第3号証(刊行物9)には、接着剤の低温における耐衝撃性を改善することについては記載されているが、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されてされていない。
また、同人が提示した上記甲第4号証(特開昭52-151325号公報、刊行物10)には、メタクリル酸エステルとしてメタクリル酸メチルが50重量%以上用いられた接着剤組成が記載されているだけであり、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
してみれば、同人が提示した上記甲第1、2、3、4号証(刊行物1、2、9、10)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することが当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできないし、その上にさらに接着剤の原料モノマーの使用割合を特定することは尚更当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできない。
したがって、本件請求項15に係る発明は同人が提示した上記甲第1、2、3、4号証(刊行物1、2、9、10)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
(7)申立理由(ト)について
特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第4号証、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、刊行物2)には、D)成分としてハイドロパーオキサイド、C)成分としてメタクリル酸メチル、A)成分としてポリクロロプレン、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体などを使用した接着剤が記載されており、本件請求項12に係る発明と同人が提示した甲第1号証(刊行物2)に記載された発明を対比すると、両者は、ラジカル発生触媒、メタクリル酸メチル、及び、ポリクロロプレン、または、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の3成分を含む接着剤である点で一致しているが、本件請求項12に係る発明におけるポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが上記甲第1号証(刊行物2)に記載されていない点で相違している。また、上記甲第1号証(刊行物2)には、接着剤の耐衝撃性を向上させることについては記載されているが、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
また、同人が提示した甲第2号証(特開昭55-16018号公報、刊行物3)には、(メタ)アクリレート、有機過酸化物及び特定の硬化促進剤からなる硬化性組成物に、NBR(即ち、ニトリルゴム)、ポリクロロプレン、ブタジエンを必須成分としそれにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタクリレートの少なくとも1種を成分とするグラフトポリマー等を添加すると、接着特性、特に衝撃強度、剥離強度の改善に有効であることが記載されているが(3-5)、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されていない。また、上記甲第2号証(刊行物3)には、ポリクロロプレンとブタジエンを必須成分としそれにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタクリレートの少なくとも1種を成分とするグラフトポリマーの両者を併用することが記載されているわけではない。また、上記甲第2号証(刊行物3)におけるブタジエンを必須成分としそれにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタクリレートの少なくとも1種を成分とするグラフトポリマーという文言から直ちにブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトポリマーが示唆されるわけではない。
また、同人が提示した甲第3号証(特開昭58-111876号公報、刊行物11)には、重合性ビニル単量体、パーオキシド重合開始剤及び高分子量重合体を含む硬化性組成物の発明において、高分子量重合体として、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)、ポリクロロプレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂及びポリメタクリル酸メチルなどは、硬化した接着剤の硬度、レジリエンス等の必要な性質を達成するためにも使用できる旨の記載がされている(11-5)が、ブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトポリマーについての記載がないことはもとより、それとポリクロロプレンとを併用することも記載されていないし、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」についても記載されていない。
してみれば、上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)には、本件請求項12に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されておらず、また、ポリクロロプレンとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトポリマーを併用することについても記載されていない。
それ故、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ポリクロロプレンとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することが当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできない。
したがって、本件請求項12に係る発明は同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
また、本件請求項14に係る発明は、本件請求項12に係る発明に対してさらにモノマーの使用割合を本件請求項13に係る発明で特定する数量範囲に限定するものである。
したがって、本件請求項12に係る発明が同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできないものである以上、本件請求項14に係る発明も、本件請求項12に係る発明と同様に、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
本件請求項15に係る発明は、本件請求項14に係る発明におけるポリクロロプレンに代えて、ニトリルゴムを使用するものである。
特許異議申立人高木鉄雄が提示した甲第1号証(特公昭54-28178号公報、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第4号証、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルドが提示した甲第2号証、刊行物2)には、D)成分としてハイドロパーオキサイド、C)成分としてメタクリル酸メチル、A)成分としてブタジエンとアクリロニトリルとの共重合エラストマー(即ち、ニトリルゴム)、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体などを使用した接着剤が記載されており、本件請求項15に係る発明と同人が提示した上記甲第1号証(刊行物2)に記載された発明を対比すると、両者は、ラジカル発生触媒、メタクリル酸メチル、及び、ニトリルゴム、または、ブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の3成分を含む接着剤である点で一致しているが、本件請求項15に係る発明におけるニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体の両者を併用することが上記甲第1号証(刊行物2)に記載されていない点で相違している。また、上記甲第1号証(刊行物2)には、接着剤の耐衝撃性を改善することについては記載されているが、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」については記載されていない。
また、同人が提示した甲第2号証(特開昭55-16018号公報、刊行物3)には、(メタ)アクリレート、有機過酸化物及び特定の硬化促進剤からなる硬化性組成物に、NBR(即ち、ニトリルゴム)、ポリクロロプレン、ブタジエンを必須成分としそれにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタクリレートの少なくとも1種を成分とするグラフトポリマー等を添加すると、接着特性や衝撃強度の改善に有効であることが記載されているが(3-5)、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されてされていない。また、上記甲第2号証(刊行物3)には、NBR(即ち、ニトリルゴム)とブタジエンを必須成分としそれにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタクリレートの少なくとも1種を成分とするグラフトポリマーの両者を併用することが記載されているわけではない。また、上記甲第2号証(刊行物3)におけるブタジエンを必須成分としそれにアクリロニトリル、スチレン及びメチルメタクリレートの少なくとも1種を成分とするグラフトポリマーという文言から直ちにブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトポリマーが示唆されるわけではない。
また、同人が提示した甲第3号証(特開昭58-111876号公報、刊行物11)には、重合性ビニル単量体、パーオキシド重合開始剤及び高分子量重合体を含む硬化性組成物の発明において、高分子量重合体として、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)、ポリクロロプレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂及びポリメタクリル酸メチルなどは硬化した接着剤の硬度、レジリエンス等の必要な性質を達成するためにも使用できる旨の記載がされているが(11-5)、ブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトポリマーについての記載がないことはもとより、それとアクリロニトリル-ブタジエンゴム(即ち、ニトリルゴム)とを併用することも記載されていないし、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」についても記載されていない。
してみれば、上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)には、本件請求項15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されておらず、また、ニトリルゴムとブタジエンスチレンコアとメタクリル酸メチルシェルを有するグラフトポリマーを併用することも記載されていない。
それ故、同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)に記載された発明に基づいて、「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」を目的として、ニトリルゴムとブタジエン-スチレン共重合体にメタクリル酸エステルをグラフトした共重合体を併用することが当業者が容易に想到し得ることであると言うことはできない。
したがって、本件請求項15に係る発明は同人が提示した上記甲第1、2、3号証(刊行物2、3、11)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言うことはできない。
5.その他
特許異議申立人有限会社ツヤチャイルド、高木鉄雄及び宮崎幸雄が本件請求項12、14及び15に係る発明について拒絶の直接の根拠とはしていないが本件異議申立てにおいて提示された証拠としては(既に言及したものを除き)次のようなものがあるが、以下に述べるように、いずれも、本件請求項12、14及び15に係る発明を構成するための動機を与えるものではない。
(1)特公昭53-24103号公報(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第6号証、昭和53年7月19日発行、以下「刊行物12」という。)
該刊行物には、
「(A)(1)ポリブタジエンホモポリマー、(2)ブタジエンと、スチレン、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルからなる群より選ばれた少なくとも一つのモノマーとのコポリマーおよび(3)ポリマー中に痕跡量ないし約5%の官能性モノマーを混入することによって改質された上記(1)のホモポリマーおよび(2)のコポリマーからなる群より選ばれたブタジエンのコポリマーからなる群より選ばれガラス転移温度が約-9.4℃以下のポリマー・エラストマー約1ないし約30%、
(B)アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルからなる群より選ばれた少なくとも一つのアクリルモノマー約25ないし約85%、
(C)少なくとも一つのエチレン式不飽和非アクリルモノマー0ないし約50%、
(D)上記成分(B)および(C)のモノマーの中の少なくとも一つから誘導された固有粘度が約0.1ないし約1.3の範囲のポリマー0ないし約60%、
(E)メタクリル酸約5ないし約20%ならびに
(F)レドックス触媒系の還元成分約0.04ないし約4%を必須成分として含み、上記触媒系の酸化成分の存在下で室温で硬化して取り扱いのできる接着部を約15分間以内に形成する組成物を生成するような上記の範囲内における割合で上記の諸成分を含む接着剤組成物。」(特許請求の範囲)が記載されており、
これにより「効率の良い作業のために望ましい短かいキュアタイムを有ししかも高性能熱可塑性エンジニアリングプラスチックまでも含めた広い範囲にわたる基材の間に強くて柔軟な、耐衝撃性の周囲環境に対して安定した工業的な接着作業に有用な接着剤組成物を提供すること」が記載されており(第3頁右欄第14行〜第21行)、また、従来技術では低温で脆化を生じることが欠点として記載されてはいるが、本件請求項12、14及び15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されておらず、また、本件請求項12、14及び15項に係る発明におけるコア-シェルグラフトポリマーを併用する必要性を何ら示唆するものではない。
(2)特開昭51-137744号公報(特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第7号証、昭和51年11月27日発行、以下「刊行物13」という。)
該刊行物には、
「A液はアクリル酸アルキルモノエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルモノエステルおよびハイドロパーオキサイドよりなり、B液はアクリル酸アルキルモノエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルモノエステルおよびチオアミド化合物よりなり、A、B両液の少くとも一方にアクリロニトリル・ブタジエン・スチレングラフト共重合体、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレングラフト共重合体およびメタクリル酸メチル・ブタジエン・アクリロニトリル・スチレングラフト共重合体から選ばれた1種以上を含有させてなる二液型の重合性組成物。」(特許請求の範囲)が記載されており、
これにより、「プラスチック類に高強度の接着物性を有し、室温で短時間に硬化するモノマー重合型接着剤または表面被覆用組成物を得ること」についても記載されているが(第1頁右下欄第17行〜第2頁左上欄第1行)、本件請求項12、14及び15に係る発明が目的とする「-23℃(-10°F)またはそれ以下の温度で測定したときに、高い耐衝撃結合強度(0.32kg-m/cm2(15ft-lbs/in2)以上)および高い(10%以上)バルク引張伸張度を有し、かつ該バルク引張伸張度は低温であっても大きな可逆性を有する構造用接着剤を提供すること」について記載されておらず、また、本件請求項12、14及び15項に係る発明における弾性ポリマーを併用する必要性を何ら示唆するものではない。
(3)「合成ゴム一覧表」(日本ゼオン株式会社が本出願後の1998年4月に発行したものと考えられるパンフレット、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第9号証、以下「刊行物14」という。)
該パンフレットには、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第2号証に記載された日本ゼオン社のNBR、ニッポール1072Jのアクリロニトリル含有量が27.0%であることが記載されているが、それ以上の記載はなく、本件請求項12、14及び15に係る発明を何ら示唆するものはない。
(4)日本合成ゴム株式会社合成ゴム第二事業部編集「JSR HANDBOOK」(1993年9月に日本合成ゴム株式会社から発行された刊行物、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第10号証、以下「刊行物15」という。)
該刊行物には、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の熱的性質についてグラフが記載され、NBRのアクリロニトリル含有量が35%以下になるとTg値は-25℃以下になることが図示されているが、それ以上の記載はなく、本件請求項12、14及び15に係る発明を何ら示唆するものはない。
(5)「Elastomer Properties」(BFGoodrich社が1987年6月に発行したものと考えられるパンフレット、特許異議申立人宮崎幸雄が提示した甲第11号証、以下「刊行物16」という。)
BFグッドリッチ社のニトリルゴム、ハイカー1042及び1072のTg値は、それぞれ、-34℃及び-31℃であることが記載されているが、それ以上の記載はなく、本件請求項12、14及び15に係る発明を何ら示唆するものはない。
[4]むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1〜11、13、16〜22に係る発明は、いずれも、上記刊行物6の記載を参酌すると、上記刊行物5に記載された発明と同一であると認められる。したがって、本件請求項1〜11、13、16〜22に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
そして、本件請求項12,14及び15に係る発明の特許については、特許異議申立人有限会社ツヤチャイルド、高木鉄雄及び宮崎幸雄が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項12,14及び15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-04-04 
出願番号 特願平1-216190
審決分類 P 1 651・ 121- ZE (C09J)
P 1 651・ 113- ZE (C09J)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 川上 美秀  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 谷口 浩行
柿沢 紀世雄
登録日 1998-02-13 
登録番号 特許第2745425号(P2745425)
権利者 イリノイ ツール ワークス インコーポレーテッド
発明の名称 低温塗布用接着剤  
代理人 下坂 スミ子  
代理人 須藤 阿佐子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ