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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04F
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04F
審判 全部申し立て 発明同一  E04F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  E04F
管理番号 1046902
異議申立番号 異議2001-71236  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-10-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-02 
確定日 2001-08-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第3098927号「配線用床材及び床配線装置」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3098927号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3098927号に係る出願は、平成7年3月23日の出願であって、平成12年8月11日に特許の設定の登録がなされ、請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1ないし6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】 床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体が床材本体の表面と面一になるようにするために蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工される配線用床材において、接続器、開閉器等の配線器具を取り付けるための器具取付板の板厚にほぼ等しい深さの段落ちが蓋体を受ける段部から下方に凹設され、上記器具取付板を装着保持するためのスリットが段落ちの表面から凹溝の下端に達するように凹溝の両側面に設けられたことを特徴とする配線用床材。
【請求項2】 配線用の凹溝の両側に設けたスリットに装着されるように凹溝の溝幅より幅の広い寸法で凹溝の両側面の両スリット間の最大幅よりも幅の狭い寸法の器具取付板であって、器具取付板が横片と縦片よりなる逆L字状に形成されると共に器具取付板に接続器、開閉器等の配線器具が取り付けられ、器具取付板の縦片の両側をスリットに挿入すると共に器具取付板の横片の両側が段落ちに収められるように請求項1記載の配線用床材に器具取付板が装着されたことを特徴とする床配線装置。
【請求項3】 配線用の凹溝の両側に設けたスリットに装着されるように凹溝の溝幅より幅の広い寸法で凹溝の両側面の両スリット間の最大幅よりも幅の狭い寸法の器具取付板であって、器具取付板が横片と一対の縦片よりなるコ字状に形成されると共に器具取付板に接続器、開閉器等の配線器具が取り付けられ、器具取付板の縦片の両側をスリットに挿入すると共に器具取付板の横片の両側が段落ちに収められるように請求項1記載の配線用床材に器具取付板が装着されたことを特徴とする床配線装置。
【請求項4】 床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体が床材本体の表面と面一になるようにするために蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工される配線用床材において、段部から凹溝の下端部に至るようにスリットが凹溝の両側面に設けられ、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられ、固定具の下端から両側に突出する係止部がスリットから係止溝に挿入係止されて固定具が固定され、凹溝に配置した接続器、開閉器等の配線器具が固定具で凹溝内に固定されたことを特徴とする床配線装置。
【請求項5】 固定具に配線通穴が設けられたことを特徴とする請求項4記載の床配線装置。
【請求項6】 床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体が床材本体の表面と面一になるようにするために蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工される配線用床材において、段部から凹溝の下端部に至るようにスリットが凹溝の両側面に設けられ、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられ、接続器、開閉器等の配線器具の下端から側方に突設された係止片がスリットから係止溝に挿入係止されて配線器具が凹溝に固定され、配線器具の係止片以外の部分の幅を凹溝の幅より狭くして凹溝の両側面と配線器具の両側面との間にカーペットが入る程度の隙間が形成されたことを特徴とする床配線装置。

2.申立ての理由の概要
申立人江井浩孝は、「本願請求項1から6は、以下の甲第1号証〜甲第11号証の先行技術の存在により、新規性進歩性の欠如により発明としての創作性、有効性が認められず、また、記載不備によって登録されるべきものではありません。」、「本願の出願前に公知であった甲第1号証、甲第2号証(請求項1)甲第2号証、甲第5号証(請求項4)、甲第1号証(請求項6)に記載された技術と同一又は実質的に同一であり、特許法第29条の2の規定を満たしていません。」、「請求項1においては甲第1号証〜甲第5号証の少なくともいずれか2つ、請求項4においては甲第1号証〜甲第11号証の少なくともいずれか2つ、請求項6においては甲第1号証〜甲第5号証と甲第6号証〜甲第11号証との少なくともいずれか2つ、これらの先行技術に基づいて、単なる和、又は寄せ集め、或いは設計的事項程度の技術レベルに過ぎないこと明らかであり、当業者であれば、何の困難も無く、極めて容易に想起、創作することができる程度の極めて単純な周知慣用技術であり、特許法第29条の規定を満たしていません。また、特許法第2条の発明の定義に係る『技術思想の創作のうち高度なものをいう』発明の定義に係る事項をも満足しません。、「本願は、請求項1〜請求項6において、記載不備があり、発明の特定、特徴が明確になっておらず、また、請求項1,請求項4,請求項6の各構成の記載は、表現上において相違するのみで、何ら本質的、特徴的に大きな差違が無く、実質的に共通する構成の単なる和、寄集めの技術事項に過ぎず、特許法第36条の規定を満たしておりません。以上のことから、本願の技術事項は、先行技術である各甲号証に基づいて、本願は、特許法第49条の規定によって拒絶されるべきものであります。」、「本願請求項1の技術は甲第1号証又は甲第2号証と、請求項4の技術は甲第2号証又は甲第5号証と、請求項6の技術は甲第1号証と、夫々、実質的同一又は同一の技術思想であり、新規性が無いこと明らかであります。また、例え同一でないとしても、上記甲第2号証、甲第5号証に、他の甲第6号証〜甲第11号証のうちの少なくともいずれか1つを任意に適宜に組合せることにより、本願は、この種の業界における当業者であれば、極めて容易に想起、創作できるものであり、明らかに進歩性が欠如するものであります。特に、周知技術である甲第2号証〜甲第11号証の存在により、本願請求項1〜6は、技術思想の創作のうち、高度なものとは明らかに言えず、特許性は無いものであります。」と申し立てているが、これは、本件請求項1ないし3,6に係る発明は、本件の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された、甲第1号証〔特願平6-187826号(特開平8-33167号公報参照)の明細書及び図面〕に記載された発明と同一又は実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により、また、本件請求項1ないし3に係る発明は、本件の出願前に公知であった甲第2号証〔特公平5-15866号公報〕、本件請求項4、5に係る発明は、甲第2号証または本件の出願前に公知であった甲第5号証〔実公平7-587号公報〕に記載された発明と同一又は実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、また、例え同一でなくとも、本件請求項1ないし6に係る発明は、甲第2号証、甲第5号証、および周知技術である甲第3号証〔実願昭62-97741号(実開昭64-2518号)のマイクロフィルム〕、甲第4号証〔実願平1-2438号(実開平2-93444号)のマイクロフィルム〕、甲第6号証〔実開平2-34371号(実開平3-127431号)のマイクロフィルム〕、甲第7号証〔特開平4-165915号公報〕、甲第8号証〔特開平5-91623号公報〕、甲第9号証〔特開平5-230981号公報〕、甲第10号証〔実願昭61-162278号(実開昭63-69243号)のマイクロフィルム〕、甲第11号証〔実願昭60-153791号(実開昭62-62779号)のマイクロフィルム〕のうち、少なくともいずれか2つの技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、さらに、本件特許明細書の請求の範囲には、記載不備があるから特許法第36条第5項の規定により、本件の特許を取り消すべきであると主張しているものと解される。

3.特許法第36条第5項に関して
本件特許請求の範囲の請求項1ないし6には、発明の詳細な説明に記載されている、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されていると認められる。

4.特許法第29条の2に関して
甲第1号証には、明細書(以下、「先願明細書」という。)の段落【0015】〜【0020】、【0025】および図1,4,7の記載からみて、表面側が開口せる配線路が設けられ、この配線路を閉塞するために上面開口に被着される配線路カバーを受ける落し込み段部が配線路の開口縁両側に設けられ、落し込み段部の深さは、配線路カバーの厚みと、電気配線部品を内部に収納した収納部の天板の厚みとの合計にほぼ等しく凹設され、不陸追従用に上面から配線路に達するスリットが縦横に形成され、該スリットは上記収納部を装着保持に用いられ、敷きつめることにより施工されるフロアパネル、および、該フロアパネルの配線路の両側に位置するスリットに、配線路の幅より広い寸法で収納部両側に突設された爪部を嵌合して位置決めし、収納部の天板を落し込み段部に上置して、電気配線部品を内部に収納した収納部がフロアパネルの配線路に固定された配線用二重床(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
本件発明1の「配線用床材」と先願発明の「フロアパネル」とを対比すると、先願発明の「フロアパネル」も本件発明1と同様に、床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、明記はされていないが、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工されるであろう配線用床材であり、不陸追従用に形成されたスリットではあるが、該凹溝の下端に達するスリットが配線器具を取り付けるための装着保持部に使用される点では、同じであるが、配線器具を取り付けるための器具取付板の板厚にほぼ等しい深さの段落ちが蓋体を受ける段部から下方に凹設されておらず、上記器具取付板を装着保持するためのスリットは段落ちの表面からではなく、床材本体の上面から設けられていて、これらの構成は、自明な事項とはいえないから、先願明細書に記載された先願発明は、本件発明1と同一とも実質的に同一ともいえない。また、本件発明1が、先願発明と同一とも実質的に同一ともいえない以上、本件発明1を引用している本件発明2,3の「床配線装置」は、先願発明の「配線用二重床」と同一とも実質的に同一ともいえない。
さらに、本件発明6の「床配線装置」と先願発明の「配線用二重床」とを対比すると、先願発明の「配線用二重床」も本件発明6と同様に、床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、明記はされていないが、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工されるであろう配線用床材において、不陸追従用に形成されたスリットではあるが、凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられたスリットを利用して、配線器具を凹溝に固定する床配線装置ではあるが、スリットは段落ちの表面からではなく、床材本体の上面から設けられ、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられておらず、したがって、配線器具の下端から側方に突設された係止片がスリットから係止溝に挿入係止されて配線器具が凹溝に固定されることにはならず、また、配線器具の係止片以外の部分の幅を凹溝の幅より狭くして凹溝の両側面と配線器具の両側面との間にカーペットが入る程度の隙間が形成されてなく、これらの構成は、自明な事項とはいえないから、先願明細書に記載された先願発明は、本件発明6と同一とも実質的に同一ともいえない。

5.特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項に関して
(1)甲各号証記載の発明
甲第2号証には、特許請求の範囲、第2頁第4欄第18〜32行、第3頁第5欄第27〜42行、第4頁第8欄第4〜20行および第1〜3,8図の記載を参照すると、「複数の小片駒を、隣合う小片駒の間にはブロックをたわみやすくするために微少間隙を設けて平面状に並設した集合体によって構成した配線溝形成用ブロックを、所定の間隔を置いて配置し、配線溝形成用ブロック相互を可撓性シートで結合して、ブロックとブロックの間に可撓性シートを底とする配線溝を形成し、その配線溝の上面開口縁に、カバー板の厚さと略等しい高さの段差部を設けるとともに、カバー板に取付ける電線類引出器具が取付けられ、カバー板の下に位置する、両脚付すなわちコ字形あるいは単に平板のタップ穴付受け台を、落とし込んで支持する段部を配線溝の両側に設け、床に敷設することにより施工されるフロアパネルおよび、該フロアパネルの段部に、電線類引出器具のねじ付首部がカバー板の電線引出穴を貫いて受け台のタップ穴にねじ込まれて取付けられる、タップ穴付受け台を落とし込んで支持し、フロアパネルの上面にカーペットタイルを敷き詰めたフロアパネル装置」が記載されている。
甲第3号証には、第6頁第15行〜第7頁第10行、第8頁第4〜13行、第9頁第10行〜第10頁第11行および第1〜4,8図の記載を参照すると、「個々の配線溝形成用ブロックにも可撓性を与えて、ユニットパネル全体の床面の不陸に対するなじみが更に良くなるように、複数の小片駒を間隙を設けて縦横平面状に並設した集合体によって構成した配線溝形成用ブロックを、所定の間隔を置いて配置し、配線溝形成用ブロック相互を可撓性シートで結合して、ブロックとブロックの間に可撓性シートを底とする配線溝を形成し、その配線溝の開口縁に、カバー板の厚さと等しい高さの段部を設け、配線溝の底面にはジョイントユニットがジョイントユニット取付枠を介して固定される、床に敷設することにより施工されるユニットパネルおよび、該ユニットパネルの配線溝の底面にジョイントユニットがジョイントユニット取付枠を介して固定され、ユニットパネルの上にカーペットタイル等の仕上げ材を張ったフロアの配線装置」が記載されている。
甲第4号証には、実用新案登録請求の範囲、第9頁第2〜12行、第11頁第4〜19行および第1,2,4図の記載を参照すると、「側面下部に水平外向鍔を有するブロック状フロアー材本体を被施工床面に敷き並べたときに上記鍔により形成される溝にケーブルが這回されるフリーアクセスフロアー材において、側面の上縁部には上蓋が跨架担持される段部が形成され、側面の中間部には中間段部が上蓋用段部から下向きに掘削するようにして連続もしくは不連続に形成され、中間段部には中間蓋が跨架担持されて溝内を上下に仕切り、上下に仕切られた区画空間内には各々異種のケーブルを這回するようにしたフリーアクセスフロアー材」が記載されている。
甲第5号証には、実用新案登録請求の範囲、第2頁第4欄第37〜50行、第3頁第5欄第15〜19行、第3頁第6欄第20行〜第4頁第7欄第18行および第1,8,10図の記載を参照すると、「所定の間隔を置いて配置した配線溝形成用ブロック相互を可撓性シートで結合して、ブロックとブロックの間に可撓性シートを底とする配線溝を形成し、その配線溝の上面開口縁に、カバー板の厚さ分の段差を有する段部およびカバー板に下面に形成した凸部に対応して凹部が設けられ、配線溝形成用ブロックには、配線溝の長さ方向に対し直交する線に沿って、可撓性シートに達する深さのスリットが格子状に入っており、スリットを利用して配線溝の一側のブロックの一部を切り取り削除して配線溝に連なる配線器具配置のための凹部を設けたフロアパネルおよび、該フロアパネルの凹部と配線溝の一部とで構成される空間には配線器具等が収容設置され、凹部には、凹部の底に当たる高さの脚部を一端または両端を下方に折り曲げてL字形または逆凹字形に形成したカバー部材をその脚部が凹部の側壁に沿うようにはめて、カバー部材の上面が配線溝形成用ブロックの上面と同一平面に揃うようにしたフロアパネル装置」が記載されている。
甲第6号証には、第6頁第12〜16行、第7頁第5〜14行および第7図の記載を参照すると、「二重床用パネルの平板状部に第2取付穴を開設するとともに、パネル上面側の口縁に沿って載せ段部が形成され、第2取付穴に二重床用アウトレットが装着されるものにおいて、二重床用アウトレットの鍔部と載せ段部間に平板状部上面に敷設したカーペットの端部が挿入されている」ことが記載されている。
甲第7号証には、第1,4図の記載を参照すると、「床材表面に敷設されたカーペットの開口部端部が、インナーコンセント取付け用開口部に取付けられたインナーコンセントのプレート枠にまで延出している」ことが記載されている。
甲第8号証には、第2図の記載を参照すると、「床材の上に貼られたタイルカーペットの端部が、床材の開口からプレート枠にまで延出している」ことが記載されている。
甲第9号証には、図25,30,32,37の記載を参照すると、「タイル状カーペットのような床仕上げ材に通線チップの外周に沿ってコ字状の切り込みを入れ、この部分を落とし込むため、切欠と通線チップとの間に隙間が形成されている」ことが記載されている。
甲第10号証には、実用新案登録請求の範囲、第4頁第6〜15行、第5頁第7〜19行および第2,12図の記載を参照すると、「複数の小片駒を、配線用パネルユニットをたわみやすくするために相互間に微少間隙を設けて、縦横一面に配列し、それらの小片駒を底面に張った可撓性シートで結合した配線用パネルユニットであって、配線用パネルユニットの一部の小片駒を除いて可撓性シートを底とする配線溝を形成し、その配線溝の上面開口縁に、カバー板を落し込み式にはめるための、カバー板の厚さと等しい高さの段差を形成し、床面に置敷施工される配線用パネルユニットおよび、該隣接する配線用パネルユニットの小片駒相互間の微少間隙に、位置決め片を嵌着したフロアパネル装置」が記載されている。
甲第11号証には、一般通信機器等に使用されるケーブル接続状態を維持するためのケーブルコネクタ抜け止め具が記載されている。
(2)対比・判断
本件発明1と、甲第2号証に記載された発明とを比較すると、甲第2号証に記載された発明の「配線溝形成用ブロック」、「配線溝」、「カバー板」、「段差部」および「フロアパネル」は、それぞれ本件発明1の「床材本体」、「(配線用の)凹溝」、「蓋体」、「段部」および「配線用床材」に相当し、甲第2号証に記載された発明の「電線類引出器具」、「両脚付すなわちコ字形あるいは単に平板のタップ穴付受け台」、「段部」および「微少間隙」は、それぞれ本件発明1の「配線器具」、「器具取付板」、「段落ち」および「スリット」に対応するから、両者は、床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体が床材本体の表面と面一になるようにするために蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工される配線用床材において、配線器具を取り付けるための器具取付板を支持する段落ちが凹溝の両側に凹設され、スリットが凹溝の下端に達するように凹溝の両側面に設けられた配線用床材の点で一致し、下記の点で相違している。
a.段落ちが、本件発明1では、器具取付板の板厚にほぼ等しい深さで、蓋体を受ける段部から下方に凹設されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、そのような構成を有していない点。
b.スリットが、本件発明1では、器具取付板を装着保持するため、段落ちの表面から設けられているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、配線溝形成用ブロックをたわみやすくするため、ブロックを構成する複数の小片駒の間に設けられている点。
上記相違点a、bについて検討すると、甲第5〜10号証に記載された発明には、本件発明1の「配線器具を取り付けるための器具取付板」に相当する構成がなく、該本件発明1の構成に対応する「ジョイントユニット取付枠」を有する甲第3号証に記載された発明は、「ジョイントユニット取付枠」が配線溝の底面に固定されるものであって、本件発明1の「段落ち」および「スリット」に相当する構成を有しておらず、また、同じく本件発明1の「配線器具を取り付けるための器具取付板」に対応する「中間蓋」を有する甲第4号証に記載された発明は、本件発明1の「蓋体を受ける段部から下方に凹設された段落ち」に対応する、「上蓋用段部から下向きに掘削するようにして連続もしくは不連続に形成された中間段部」を有しているが、甲第4号証に記載された発明の中間蓋は、その上下にケーブルを這回させるための空間を区画するものであるから、中間段部の深さを、中間蓋の板厚にほぼ等しくすることはあり得ず、本件発明1の「スリット」に相当する構成は有していない。さらに、甲第11号証には、一般通信機器等に使用されるケーブル接続状態を維持するためのケーブルコネクタ抜け止め具が記載されているが、本件発明1の「配線用の凹溝」に相当する構成との関係については何ら記載されていない。そして、上記相違点a、bにおける本件発明1に係る事項はいずれも、自明な事項でも周知技術でもなく、本件発明1は、当該事項によって明細書記載の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1および本件発明1を引用している本件発明2,3は、いずれも、甲第2号証に記載された発明と同一又は実質的に同一であるとも、甲第2〜11号証のうち、少なくともいずれか2つの技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
次に、本件発明4と甲第2号証に記載された発明とを比較すると、甲第2号証に記載された発明の「配線溝形成用ブロック」、「配線溝」、「カバー板」、「段差部」、「フロアパネル」および「フロアパネル装置」は、それぞれ本件発明4の「床材本体」、「(配線用の)凹溝」、「蓋体」、「段部」、「配線用床材」および「床配線装置」に相当し、甲第2号証に記載された発明の「電線類引出器具」、「タップ穴付受け台」および「微少間隙」は、それぞれ本件発明4の「配線器具」、「固定具」および「スリット」に対応するから、両者は、床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体が床材本体の表面と面一になるようにするために蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工される配線用床材において、段部から凹溝の下端部に至るようにスリットが凹溝の両側面に設けられ、凹溝に配置した配線器具が固定具で凹溝内に固定された床配線装置の点で一致し、下記の点で相違している。
c.本件発明4では、スリットは段部から凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられ、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられ、固定具の下端から両側に突出する係止部がスリットから係止溝に挿入係止されて固定具が固定されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、スリットは配線溝形成用ブロックをたわみやすくするため、ブロックを構成する複数の小片駒の間に設けられていて、結果として段部から凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられているが、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられておらず、かつ、固定具の下端に両側に突出する係止部が設けられていないから、固定具がスリットから係止溝に挿入係止されて固定されていない点。
上記相違点cについて検討すると、甲第5〜10号証に記載された発明には、本件発明4の「配線器具の固定具」に相当する構成がなく、該本件発明4の構成に対応する「ジョイントユニット取付枠」を有する甲第3号証に記載された発明は、「ジョイントユニット取付枠」が配線溝の底面に固定されるものであって、本件発明4の「スリット」および「係止溝」に相当する構成を有しておらず、「固定具の下端から両側に突出する係止部がスリットから係止溝に挿入係止されて固定具が固定されて」いない。また、同じく本件発明4の「配線器具の固定具」に対応する「中間蓋」を有する甲第4号証に記載された発明は、「中間蓋」が上蓋用段部から下向きに掘削するようにして連続もしくは不連続に形成された中間段部に跨架担持されるものであって、本件発明4の「スリット」および「係止溝」に相当する構成を有しておらず、「固定具の下端から両側に突出する係止部がスリットから係止溝に挿入係止されて固定具が固定されて」いない。さらに、甲第11号証には、一般通信機器等に使用されるケーブル接続状態を維持するためのケーブルコネクタ抜け止め具が記載されているが、本件発明4の「配線用の凹溝」に相当する構成との関係については何ら記載されていない。
したがって、甲第2〜11号証のいずれにも、本件発明4の、段部から凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられたスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられ、固定具の下端から両側に突出する係止部がスリットから係止溝に挿入係止されて固定具が固定されているという事項は記載されておらず、自明な事項でも周知技術でもなく、本件発明4は、当該事項によって明細書記載の作用効果を奏するものであるから、本件発明4および本件発明4を引用している本件発明5は、いずれも、甲第2号証に記載された発明と同一又は実質的に同一であるとはいえないし、甲第5号証に記載された発明には、本件発明4の「配線器具の固定具」に相当する構成もないから、甲第5号証に記載された発明と同一又は実質的に同一であるともいえないし、甲第2〜11号証のうち、少なくともいずれか2つの技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
最後に、本件発明6と甲第2号証に記載された発明とを比較すると、甲第2号証に記載された発明の「配線溝形成用ブロック」、「配線溝」、「カバー板」、「段差部」、「フロアパネル」、「カーペットタイル」および「フロアパネル装置」は、それぞれ本件発明6の「床材本体」、「(配線用の)凹溝」、「蓋体」、「段部」、「配線用床材」、「カーペット」および「床配線装置」に相当し、甲第2号証に記載された発明の「電線類引出器具」、「タップ穴付受け台」および「微少間隙」は、それぞれ本件発明6の「配線器具」、「係止片」および「スリット」に対応するから、両者は、床材本体に表面側が開口せる配線用の凹溝が設けられ、この凹溝を閉塞するために凹溝の上面開口に被着される蓋体が床材本体の表面と面一になるようにするために蓋体を受ける段部が凹溝の開口縁に設けられ、スラブ上に床材本体を敷きつめることにより施工される配線用床材において、段部から凹溝の下端部に至るようにスリットが凹溝の両側面に設けられ、配線器具の下端から側方に突設された係止片で配線器具が凹溝内に固定され、カーペットが配置される床配線装置の点で一致し、下記の点で相違している。
d.本件発明6では、スリットは段部から凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられ、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられ、配線器具の係止片がスリットから係止溝に挿入係止されて配線器具が凹溝に固定されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、スリットは配線溝形成用ブロックをたわみやすくするため、ブロックを構成する複数の小片駒の間に設けられていて、結果として段部から凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられているが、凹溝の両側面のスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられておらず、かつ、配線器具の係止片がスリットから係止溝に挿入係止されて固定されていない点。
e.本件発明6では、配線器具の係止片以外の部分の幅を凹溝の幅より狭くして凹溝の両側面と配線器具の両側面との間にカーペットが入る程度の隙間が形成されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、そのような構成を有していない点。
上記相違点eに関しては、異議申立人が周知例としてあげている甲第6〜9号証、特に甲第9号証に、同様な構成が記載されているが、相違点dにおける本件発明6に係る構成は、上記本件発明4における検討において述べたように、甲第2〜11号証のいずれにも、段部から凹溝の下端部に至るように凹溝の両側面に設けられたスリットの下端にスリットと連続するように水平方向に係止溝が設けられ、配線器具の係止片がスリットから係止溝に挿入係止されて配線器具が凹溝に固定されているという事項は記載されておらず、自明な事項でも周知技術でもなく、本件発明6は、当該事項によって明細書記載の作用効果を奏するものであるから、本件発明6は、甲第2〜11号証のうち、少なくともいずれか2つの技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-07-12 
出願番号 特願平7-64543
審決分類 P 1 651・ 534- Y (E04F)
P 1 651・ 121- Y (E04F)
P 1 651・ 161- Y (E04F)
P 1 651・ 113- Y (E04F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 麻由子  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 鈴木 憲子
鈴木 公子
登録日 2000-08-11 
登録番号 特許第3098927号(P3098927)
権利者 松下電工株式会社
発明の名称 配線用床材及び床配線装置  

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