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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1048275 |
審判番号 | 不服2000-18575 |
総通号数 | 24 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-06-02 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-11-24 |
確定日 | 2001-11-08 |
事件の表示 | 平成10年特許願第266741号「発光ダイオード及びその製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 6月 2日出願公開、特開平11-150293]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明の要旨 本願は、昭和63年3月4日に出願した特願昭63-50837号の一部を平成10年9月21日に新たな特許出願としたものであって、その発明の要旨は、平成12年12月22日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項6にかかる発明は、次のとおりである。(以下、「本願発明」という。) 「直接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層及び間接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層を含むヘテロ構造を有する発光ダイオードであって、該単結晶層のエピタキシャル成長工程終了時点で上記間接遷移型バンド構造を有する単結晶層内で、上記両単結晶層の界面から、0.2μm以上離れた位置にpn接合を設けたエピタキシャルウエハを用いた発光ダイオードの製造方法において、直接遷移型バンド構造を有する単結晶層と、間接遷移型バンド構造を有する単結晶層との界面とpn接合に挟まれた領域を、専用の単結晶層成長用融液を収容した融液槽(C)を用いて液相エピタキシャル成長することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。」 2.引用刊行物 これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である昭和56年3月10日に頒布された特開昭56-24986号公報(以下、「刊行物1」という。)には、 「Ga1-xAlxAs材料はx=0から0.4付近まで直接遷移型のバンド構造を持ち、0.6〜0.9μmの波長の発光素子材料として有用である。従来この材料を用いた発光素子の構造は、発光波長に対応した禁制帯幅を持つGaAlAs層上に、この波長に対して透明となるようにこれより広い禁制帯幅を持つGaAlAs層を成長させ、これらの層の伝導型を互に異なるものとすることによりP-N接合を得、発光素子とする。このような構造では禁制帯幅が異なるヘテロ接合面と、伝導型が異なるP-N接合面が一致するため、P-N接合近傍のバンド構造は第1図に示すようにスパイク4,ノッチ5を有する不連続な形状となる。・・・・・このダイオードに電界を印加した場合、ノッチ5がトラップとして働くため、発光の主波長と異なる光が生成され、発光スペクトルが悪化し発光効率が低下する。また、スパイク4,ノッチ5の影響により電流-電圧特性にスイッチング現象が現れ、再現性良い発光の妨げとなる。従って、発光効率の改善と電流-電圧特性の安定化の実現のため、P-N接合部で不連続部のない素子の製造が望まれる。本発明はP-N接合部とヘテロ接合部を分離し、P-N接合近傍の不連続な接続を解消することを目的としたものである。以下実施例をあげて説明する。第2図は、本発明による注入型発光素子10の断面を示す。素子10は導電性P型GaAsの単結晶基板11上に構成される。GaAs基板11の典型的な厚さは150μmで、アクセプターとしてZnを1×1019原子数cm-3程度含む。GaAlAs層12,13,14は基板11上に液相エピタキシャル成長法を用いて成長させる。層12は望む発光波長によってAl量を変化させる。典型的な例では0.66μmの発光波長を得るため、Ga0.65Al0.35Asを約25μm成長させる。伝導型はP型とし、アクセプターとしてZnを約1×1017原子数cm-3程度の濃度で含む。層13,14はGa0.2Al0.8Asであり、上記発光波長に対して透明であるため、光の取り出し窓となる。層13はGa0.2Al0.8Asの成長中および成長後の適当な熱処理により層12中のZnを拡散せしめることにより、ドナー不純物の補償がなされ、P型領域となる。層13の厚さは電子-正孔の再結合が層12の領域内で起こる必要があるため、少数キャリアである電子の拡散距離よりも薄くなくてはならない。この厚さを得るための熱処理は温度が300〜1,200℃の間で0.1〜30時間程度行うと可能である。本実施例では、この熱処理を温度800℃で2時間行なった。層14は濃度1×1017原子cm-3程度のTeまたは他の適当なドナー不純物をドープした厚さ10μm程度のN型Ga0.2Al0.8As層である。」(1頁右上欄12行〜2頁左下欄8行)と記載されている。 また、その第2図には、P型GaAs基板11の上に、P型Ga0.65Al0.35As12、P型Ga0.2Al0.8As13、N型Ga0.2Al0.8As14を順に積層した発光半導体装置が記載されている。 上記の記載事項によると、刊行物1には、「Ga0.65Al0.35As層及びGa0.2Al0.8As層を有する発光半導体装置であって、上記両層の界面から離れた位置にpn接合を設けた単結晶基板を用いた発光半導体装置の製造方法において、Ga0.65Al0.35As層と、Ga0.2Al0.8As層との界面とpn接合に挟まれた領域を、液相エピタキシャル成長することを特徴とする発光ダイオードの製造方法」の発明が記載されていると認められる。 さらに、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開昭59-225580号公報(以下、「刊行物2」という。)には、 「1.バンドギャップの大きい第1の層、第1の層よりもバンドギャップの小さい第2の層、および、第2の層よりもバンドギャップの大きい第3の層の少なくとも3つの層から成り、3層が順に接触している半導体素子において、P-n接合面が第1の層もしくは第2の層、もしくは第3の層内部にあり、各層との境界とは不一致である事を特徴とする半導体発光ダイオードおよびその製造方法。 2.各々、Pまたはn型の第1および第2,第3の層を順次エピタキシャル成長させる際に、n型と接触するP型層の不純物濃度を該n型層よりも高くしておき、エピタキシャル成長中またはその後の熱処理工程によって、該P型層に含まれる不純物を該n型層に拡散させてPn接合面を成長境界から移動させる事を特徴とする半導体発光ダイオードおよびその製造方法。」(特許請求の範囲)と、 「本発明は従来のダブルへテロ構造の欠点を無くし、リーク電流が無く、発光効率の高い発光ダイオードを歩留まり良く作製できるダイオードの構造および製造方法を提供することにある。 〔発明の概要〕 上記の目的を達成するため、本発明はダブルへテロ構造からなる発光ダイオードPn接合面をヘテロ接合面と異なる所に形成する。すなわち、最も結晶性の悪くなるヘテロ接合面にPn接合を形成するのでは無く、ヘテロ接合面と離れた位置にPn接合面を形成する。この結果、発光ダイオードの電気的特性を支配するPn接合面は結晶性の良い所に形成されるため、結晶格子のミスマッチング等に帰因するリーク電流の発生を無くす事が可能である。本発明におけるPn接合面の位置は、2カ所あるヘテロ接合面の外側でも良いし、内側でも良い。ただし、外側にある場合には、Pn接合と近接のヘテロ接合は電子の拡散距離以内の間隔に位置している事が重要である。これは、発光ダイオードの発光メカニズムが電子とホールの再結合にある事は言うまでも無いが、距離が大巾に大きいときは通常のバンドギャップの障害の無いホモ接合での発光と本質的に差が無くなるからである。すなわち、ダブルへテロ構造の利点は、バンドギャップの大きい物質ではさまれた発光領域となるバンドギャップの小さい領域にキャリアを注入して再結合をさせる事によって生まれるのであるが、Pn接合の位置がヘテロ接合位置と異なることから、キャリアがヘテロ接合を超える以前から再結合が生じてしまい、キャリアの注入効率が低くなってしまい、目的とする波長の発光効率も低くなる。しかし、Pn接合とヘテロ接合の距離がキャリア(特に、電子)の拡散長以内にあるならば、電子の大部分はヘテロ接合面を超えてバンドギャップの小さい発光領域に注入させる事が可能である。通常、発光ダイオードに用いるn及びP型層中の電子の拡散長は〜5μmである。従って、Pn接合面がダブルへテロ接合の外側にある場合、両者の間隔は5μm以内であれば良好である。しかし、上記の間隔が小さい程、注入効率の低下を防止できるのは当然であって、本発明においては0.1μm〜2μmの範囲内にするのが最も望ましく、従来の構造における注入効率を1.00とした時の相対的な効率は0.99〜0.90であって、実質上、発光効率の低下は無い。この結果、リーク電流の無い、効率の良い発光ダイオードを歩留まり良く作製できる。本発明の構造を形成するには、成長接合法を用いて良い。すなわち、ヘテロ接合を有する結晶を気相から成長する方法において、成長を行なう系に導入するP型及びn型不純物種の切換えをヘテロ接合の形成のタイミングとずらすことによって行なって良い。また、液相成長の場合には、母材成分は同じであるがP型とn型の不純物を含む二つの溶液を組合せる事で行なってもよい。」(2頁左上欄1行〜左下欄15行)と記載されている。 3.対比・判断 刊行物1記載の発明における「発光半導体装置」は、第2図に示されているP型GaAs基板11の上に、P型Ga0.65Al0.35As12、P型Ga0.2Al0.8As13、N型Ga0.2Al0.8As14を順に積層した構造から見て、明らかに発光ダイオードであるから、刊行物1記載の発明における「発光半導体装置」は、本願発明における「発光ダイオード」に相当する。また、本願明細書第9段落の「ひ化ガリウム・アルミニウム(Ga1-x Alx As)では、Alの混晶率xを0.45より小さくして直接遷移型バンド構造の層を、また0.45より大きくして間接遷移型バンド構造の層を得ることができる。」との記載からみて、刊行物1記載の発明における「Ga0.65Al0.35As」及び「Ga0.2Al0.8As」が、本願発明における「直接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物」及び「間接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物」に相当すると認められる。さらに、刊行物1記載の発明におけるP型Ga0.65Al0.35As12、P型Ga0.2Al0.8As13及びN型Ga0.2Al0.8As14は単結晶基板であるP型GaAs基板11上に、液相エピタキシャル法で形成していることからみて、刊行物1記載の発明における「P型Ga0.65Al0.35As」、「P型Ga0.2Al0.8As」及び「N型Ga0.2Al0.8As」はいずれも単結晶層であり、P型GaAs基板は「エピタキシャルウエハ」であると認められる。 そこで、本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、両者は、直接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層及び間接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層を含むヘテロ構造を有する発光ダイオードであって、上記間接遷移型バンド構造を有する単結晶層内で、上記両単結晶層の界面から、離れた位置にpn接合を設けたエピタキシャルウエハを用いた発光ダイオードの製造方法において、直接遷移型バンド構造を有する単結晶層と、間接遷移型バンド構造を有する単結晶層との界面とpn接合に挟まれた領域を、液相エピタキシャル成長することを特徴とする発光ダイオードの製造方法である点で一致し、(1)間接遷移型バンド構造を有する単結晶層内で、直接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層及び間接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層の界面から、離れた位置にpn接合を設けるのが、本願発明は、単結晶層のエピタキシャル成長工程終了時点であるのに対し、刊行物1記載の発明は、熱処理による不純物拡散工程終了時点である点、(2)本願発明は、直接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層及び間接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層の界面から、0.2μm離れた位置にpn接合を設けているのに対し、刊行物1記載の発明は、pn接合の位置について、具体的な数値は言及されていない点、及び、(3)直接遷移型バンド構造を有する単結晶層と、間接遷移型バンド構造を有する単結晶層との界面とpn接合に挟まれた領域の、液相エピタキシャル成長を、本願発明は、専用の単結晶層成長用融液を収容した融液槽(C)を用いて行うのに対し、刊行物1記載の発明は、融液槽のことについて、特に記載されていない点で相違している。 以下、上記相違点について、検討する。 ・(1)の点について 刊行物2には、「Pまたはn型の第1および第2,第3の層を順次エピタキシャル成長させる際に、n型と接触するP型層の不純物濃度を該n型層よりも高くしておき、エピタキシャル成長中またはその後の熱処理によって、該P型層に含まれる不純物を該n型層に拡散させてPn接合面を成長境界から移動させる」(特許請求の範囲第2項)と記載されており、この記載は、単結晶のエピタキシャル成長工程終了時点で単結晶の成長界面から、離れた位置にpn接合を設けることを意味しているに他ならない。そして、刊行物1,2記載の発明はともに、ヘテロ接合からなる発光ダイオードにおいて、ヘテロ接合とpn接合の界面をずらす技術であるという点で共通するものであるから、刊行物2に記載された、単結晶のエピタキシャル成長工程終了時点で単結晶の成長界面から、離れた位置にpn接合を設ける点を、刊行物1記載の発明に適用することに、何ら困難性が認められない。 ・(2)の点について 刊行物2には、ヘテロ接合面とpn接合の間隔について、通常の発光ダイオードでは電子の拡散長は〜5μmであり、これ以内であれば良いが、注入効率の低下を防止するには、0.1μm〜2μmの範囲内にすることが最も望ましい旨が記載されている。そして、刊行物1記載の発明は、ヘテロ接合とpn接合面とが一致すると、発光効率が低下し、発光が不安定になるとの問題点を解決するために、電子の拡散距離の範囲内で再結合面を分離しようとするものであるから、特段の支障がなければ、再結合面の間隔を大きくすることを意図しているものと認められる。さらに、本願明細書の記載からみて、本願発明の数値である0.2μmに臨界的意義があるとは認められない。 してみれば、刊行物1記載の発明において、直接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層及び間接遷移型バンド構造を有するIII-V族化合物単結晶層の界面から、0.2μm以上離れた位置にpn接合を設けようとすることは、当業者が容易になしえたことである。 ・(3)の点について 刊行物2には、pn接合の位置とヘテロ接合の位置とが異なるダブルへテロ構造からなる発光ダイオードの製造方法において、「液相成長の場合には、母材成分は同じであるがP型とn型の不純物を含む二つの溶液を組合わせる事で行なってもよい」(2頁左下欄13行〜15行)ことが記載されているが、刊行物2記載の発明は、ダブルへテロ構造の発光ダイオードの形成方法であること、及び、刊行物2に、「エピタキシャル成長中またはその後の熱処理によって、該P型層に含まれる不純物を該n型層に拡散させてPn接合面を成長境界から移動させる」(特許請求の範囲第2項)と記載されていることを考慮すると、上記記載の「液相成長」は液相エピタキシャル成長を意味することは明らかである。 そして、上記記載の、母材成分が同じでありp型とn型の不純物を含む二つの溶液を組み合わせて液相エピタキシャル成長させるということは、ヘテロ接合と位置が異なるpn接合を、別々の溶液で成長させることを意味しており、さらに、別々の溶液で液相エピタキシャル成長させる場合、それぞれ専用の溶液を収容した融液槽を用いることは、この出願前の周知技術(必要ならば、原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭61-183977号公報、特開昭59-104122号公報参照。)である。 してみれば、刊行物1記載の発明において、直接遷移型バンド構造を有する単結晶層と、間接遷移型バンド構造を有する単結晶層との界面とpn接合に挟まれた領域の、液相エピタキシャル成長を、専用の単結晶層成長用融液を収容した融液槽(C)を用いて行うことは、当業者が容易になしえたことである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-09-11 |
結審通知日 | 2001-09-11 |
審決日 | 2001-09-25 |
出願番号 | 特願平10-266741 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近藤 幸浩 |
特許庁審判長 |
豊岡 静男 |
特許庁審判官 |
吉田 禎治 土屋 知久 |
発明の名称 | 発光ダイオード及びその製造方法 |
代理人 | 阿部 龍吉 |
代理人 | 内田 亘彦 |
代理人 | 蛭川 昌信 |