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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25J
管理番号 1048290
審判番号 不服2000-18328  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-11-17 
確定日 2001-11-06 
事件の表示 平成 6年特許願第501866号「固定装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 6年 1月 6日国際公開、WO94/00374、平成 8年 2月 6日国内公表、特表平 8-501027]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、1992年(平成4年)12月22日(パリ条約による優先権主張1992年6月26日オーストラリア国、1992年8月10日米国、1992年11月25日オーストラリア国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」、…、「本願発明9」という。)は、平成12年11月17日付け手続補正書によって補正された明細書及び国際特許出願に係る国際出願日における図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 物品の表面に工具(6〜12、17、51)を一時的に取り付けるための固定装置(2)であって、
(a)下側表面を有する基板(20)を有すること;
(b)基板の下側表面に形成され、基板の周囲付近で延びる溝部(19)を有し、溝部は、底面、内側に面している側面及び外側に面している側面によって形成されており、各側面は、底面から基板の下側表面に延びていること;
(c)側面が、溝部(19)中に位置し、そこから外側に突出する圧縮自在なシール(18)を有し、固定装置の使用の際に基板が物品の表面を押圧するときに基板の下側表面と圧縮自在なシールとが、物品の表面と共に真空域(26)を形成し、圧縮自在なシールは、溝部に関して、物品の表面と密着するときにシールが溝部内で両側面と密着係合するように横方向に変形し、及び、溝部に直近した下面と密着係合するように溝部の外側で横方向に変形するような寸法に形成されており、シールの変形が、その気密性を改善し、且つ、基板に関して内側及び外側方向の横の動きに対してシールを制限し、それによって基板を物品に対し安定化すること;及び
(d)真空域(26)へ真空状態を形成させる手段を有すること、
を特徴とする固定装置。
【請求項2】 基板(20)の下側表面が不規則面に密着することができるように、基板にある程度の可撓性が与えられていることを特徴とする、請求項1に記載の固定装置。
【請求項3】 基板(20)の下側表面に少なくとも1つの突起部を有し、突起部は、下側表面からある距離だけ突起しており、この距離は、圧縮自在なシールが変形していないときに、溝から突出する距離より短く、突起部は、圧縮自在なシールが変形すると物品の表面と係合し、それによって、シールの変形の限度を制限し、及び更に基板を物品上に安定化させることを更に特徴とする、請求項1または2に記載の固定装置。
【請求項4】 圧縮自在なシール(18)が、溝部の外側から内側へ実質的な程度で動くことができて、握持または加工されるべき物品の表面の粗さにシールを適合する助けをすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の固定装置。
【請求項5】 圧縮自在なシール(18)が、溝部の底に接着されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の固定装置。
【請求項6】 真空室内へ真空を供給する手段が、真空発生装置を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の固定装置。
【請求項7】 真空室内へ真空を供給する手段が、基板から離れていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の固定装置。
【請求項8】 基板(20)に取り付けられる工具(6〜12、17、51)を有し、その工具は、工具と固定装置とが同時操作されるように設けられていることを更に特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の固定装置。
【請求項9】 溝部(19)が、圧縮自在なシール(18)をグリップするように基板(20)の下側表面から外側へ下広になるようにテーパがついていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の固定装置。」

2 引用例
(1)引用例1
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された特開昭54-58289号公報(以下「引用例1」という。)には、次の記載がある。
a 「本発明は特に穿孔工具に使用する取付具であって排出領域に衝合することができ、排出孔を有する吸込部と、前記排出孔に連通し、また穿孔屑排出装置に達する排出導管とを設けた吸込装置の取付具に関するものである。」(第2頁左上欄第8から12行)
b 「穿孔すべき加工片にできるだけ高い保持吸着力が加わるように吸着窪みの突出表面はできるだけ大きくなるよう設計すると有利である。
吸込装置の取付具の保持力は主に吸着窪みと加工片との間に形成される吸着空間に得られる封鎖の度合により決定される。特に加工片の表面が荒いとき吸込端部において吸着窪みを包囲するよう突出弾性唇部を設けると有利である。このような唇部は加工表面が平坦でない場合にも適合することができ、これにより吸着窪みに形成される吸着空間に洩れが生ずるのが極く僅かになる。」(第3頁右上欄第17行から左下欄第7行)
c 「第1図に示す吸込装置の取付具に吸込部1と、フランジを有する拡散部2とを設け、この拡散部の流入口はベンチュリーノズルまたは噴流ポンプの一部、および排出導管の一部をなす。この拡散部2により可撓性の排出ホース3を支持し、この排出ホースは吸込部1に固着し、排出装置(図示せず)に達せしめる。この吸込部1に更に摺動弁4を設ける。」(第4頁左上欄第7から14行)
d 「吸込部1を弾性円形唇部6に嵌着し、この唇部6を吸込部の端部から突出させ、またこの唇部6をゴム製とし、例えばコンクリートなどの穿孔すべき加工片7に衝合させる。唇部6は吸込部1の前方凹部1dとともに吸着窪み8を形成し、この吸着窪み8は図示のように唇部6を加工片7に衝合させたとき密閉空間を形成する。」(第4頁右上欄第5から11行)
e 「最小断面領域において減少した圧力即ち負圧は環状間隙9aにもかかり、接続通路9の他の部分を経て吸着窪み8にも加わる。従って負圧は吸着窪み8と加工片7の表面とにより形成される空間にかかり、このことにより吸込部1および吸込装置の取付具全体を大気圧により加工片7に圧着させることができる。
穿孔作業が終了した後第2図に示すようにドリル5を穿孔した穴7aから引き抜き、吸込装置の取付具を取外し、次に穿孔をすべき位置に移動する。」(第4頁右下欄第1から11行)
これらの記載を踏まえて第1図を参照すれば、第1図には、次の事項が記載されているものと認める。
吸込部1の加工片7に対向させる面に、吸着窪み8を設けること。
上記吸着窪み8の周囲に溝が設けられ、ゴム製の弾性円形唇部6が、その側面は上記溝中に位置し、そこから上記溝の外側に突出するように嵌着されていること。
上記溝は、底面と、上記吸込部1の加工片に対向させる面の内側に面している側面及び外側に面している側面によって形成されており、各側面は、底面から上記吸込部1の加工片に対向させる面に延びていること。
以上より、引用例1には次の発明が記載されているものと認める。
加工片に吸込装置を一時的に取り付けるための取付具において、
吸込部に加工片に対向する面を有すること;
吸込部の加工片に対向する面に形成され、該面に設けられた吸着窪みの周囲に延びる溝を有し、該溝は、底面、上記吸込部の加工片に対向させる面の内側に面している側面及び外側に面している側面によって形成されており、各側面は、底面から上記吸込部1の加工片に対向させる面に延びていること;
側面が、溝中に位置し、そこから外側に突出するゴム製の弾性円形唇部を有し、取付具の使用の際に加工片に衝合されたときに吸着窪みと弾性円形唇部とが、加工片とともに負圧の吸着空間を形成し、弾性円形唇部は、加工表面が平坦でない場合にも適合することができ、吸着空間に洩れが生ずるのが極く僅かになること;及び
吸込部に連通する排出装置を有すること、
を特徴とする固定装置。

(2)引用例2
また、原査定の拒絶の理由で引用された特開昭49-43287号公報(以下「引用例2」という。)には、次の記載がある。
a 「本発明は保持吸着盤を電動工具に取付けることによってその作業性能を向上させる電動工具の自己保持装置に関するものである。」(第1頁左下欄第10から12行)
b 「第3図は電動ドリルに実施した一例で8は従来の電動ドリルでこれに保持環9を付加したものである。
10は中空の電動ドリル保持棒で加工面側に柔軟なゴム11付の吸着板12と一体となり反対側には電動機13によって回転する真空ポンプ14を内蔵するものである。この電動ドリルによって穴明け作業を行なうには、まず吸着板12を被加工面Bに押しつけてから真空ポンプ駆動用の電動機13のスイッチ15を入れて吸着板内を真空にすることにより電動ドリル8を保持させ、しかる後に電動ドリル8のスイッチ16を入れてキリ17を回転させながら被加工面Bに押しつけることによって穴明け作業を行なうものである。」(第2頁右上欄第10行から左下欄第2行)
これらの記載から、引用例2には次の発明が記載されているものと認める。
真空ポンプとゴム付の吸着板を有し、被加工面に押しつけられた前記吸着板内を前記真空ポンプで真空にすることにより、一時的に被加工面に電動ドリルを取付ける電動工具の自己保持装置。

3 対比
そこで、本願発明1と上記引用例1記載の発明とを対比すれば、両者は、物品の表面に装置を一時的に取り付けるための固定装置という限りにおいて共通している。また、引用例1記載の発明における「加工片に対向する面」は、物品に対向する面という限りにおいて、本願発明1の「基板の下側表面」と共通している。さらに、引用例1記載の発明における「溝」は、本願発明の「溝部」に相当し、引用例1記載の発明における「吸着窪みの周囲に延びる溝」は、吸着部位の周囲付近で延びる溝部という限りにおいて、本願発明の「基板の周囲付近で延びる溝部」と共通している。そして、引用例1記載の発明における弾性円形唇部は、ゴム製であるから、本願発明1における「圧縮自在なシール」に相当するほか、引用例1記載の発明における「負圧の吸着空間」及び「排出装置」は、それぞれ本願発明1における「真空域」及び「真空状態を形成させる手段」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
物品の表面に装置を一時的に取り付けるための固定装置であって、
物品に対向する面に形成され、吸着部位の周囲付近で延びる溝部を有し、溝部は、底面、内側に面している側面及び外側に面している側面によって形成されており、各側面は、底面から物品に対向する面に延びていること;
側面が、溝部中に位置し、そこから外側に突出する圧縮自在なシールを有し、固定装置の使用の際に物品に対向する面と圧縮自在なシールとが、物品の表面と共に真空域を形成すること;及び
真空域へ真空状態を形成させる手段を有すること、
を特徴とする固定装置。
一方、両発明は、次の各点で相違する。
(相違点1)本願発明1は、物品の表面に工具を一時的に取り付けるための固定装置であるのに対し、引用例1記載の発明は、物品の表面に装置を一時的に取り付けるための固定装置である点。
(相違点2)本願発明1は、下側表面を有する基板を有し、該下側表面に基板の周囲付近で伸びる溝部を有するのに対し、引用例1記載の発明には、基板に相当する部材がなく、吸込部の加工片に対向する面の吸着部位の周囲付近に伸びる溝部を有すること。
(相違点3)本願発明1では、圧縮自在なシールが、溝部に関して、物品の表面と密着するときにシールが溝部内で両側面と密着係合するように横方向に変形し、及び、溝部に直近した下面と密着係合するように溝部の外側で横方向に変形するような寸法に形成されており、シールの変形が、その気密性を改善し、且つ、基板に関して内側及び外側方向の横の動きに対してシールを制限し、それによって基板を物品に対し安定化するのに対し、引用例1記載の発明では、加工片に衝合されたときに、ゴム製の弾性円形唇部が、どのように変形するかについて明示がないこと。
以下、上記各相違点について検討する。
まず、相違点1に関し、引用例1記載の発明は、そもそも工具に伴って使用される吸込装置の固定装置であり、引用例2には被加工面に一時的に電動ドリルを取り付けるための固定装置が記載されているから、引用例1記載の発明を工具を取り付けるための固定装置に適用した点に何ら困難性があったは認められない。
次に、相違点2に関し、引用例1記載の発明における吸込部の立体的形状は明らかでないが、吸込部の加工片に対向する面は少なくとも加工片に付着し得る程度の大きさを有するものであるから、引用例1記載の発明における吸込部を板状に形成することは、設計上適宜なし得る事項であったものと認められる。なお、引用例1記載の発明において、加工片が吸込部の下側にあれば、加工片に対向する面は下側に向いた表面という意味で下側表面である。また、加工片に対向する面の周辺付近に弾性円形唇部を設けることが、該加工片に対向する面を加工片に安定的に付着させるために有利であることは、設計上当然に考慮される事項である。
さらに、相違点3に関し、引用例1記載の発明における弾性円形唇部はゴム製であるから、加工片と密着するときに横方向に変形することは、当然に起こるべき事項である。そして、円形唇部が溝内で両側面と密着係合するように横方向に変形し、溝に直近した加工片に対向する面と密着係合するように溝の外側で横方向に変形するような寸法とすることは、装置設計上、必要とされる吸着力の大きさに応じて、当然に設定される程度の事項である。また、引用例1記載の発明において、弾性円形唇部がゴム製であることからして、その変形が、気密性を改善するものであることは明らかであって、弾性円形唇部が加工片に対向する面に関して内側及び外側方向に横に動くことを制限し、それによって加工片に対し対向面を安定化する効果を奏することも、ごく普通に考えられる程度の事項である。そして、本願発明1は、それらの効果を著しく増進するような格別の構成を有するものではない。
結局、上記相違点はいずれも格別なものではなく、本願発明によって奏する効果は、上記引用例1及び2記載の発明から、当業者が当然に予想できる範囲内のものである。

4 むすび
したがって、本願発明1は、引用例1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願発明2ないし9に係る発明について検討するまでもなく、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-13 
結審通知日 2001-06-14 
審決日 2001-06-26 
出願番号 特願平6-501866
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 三原 彰英
中村 達之
発明の名称 固定装置  
代理人 鈴木 守三郎  

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