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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1048303
審判番号 審判1999-10546  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-03-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-06-28 
確定日 2001-11-06 
事件の表示 平成9年特許願第182576号「不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラム」拒絶査定に対する審判事件[平成10年3月10日出願公開、特開平10-68383]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年7月8日(パリ条約による優先権主張1996年7月9日、米国)の出願で、その請求項1〜21に係る発明は、平成10年12月25日付け手続補正がなされた後の特許請求の範囲の請求項1〜21に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、平成11年7月28日付け手続補正は却下された。
「衛生用ポンプに適用される不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムにおいて、
(a)前記不活性プラスチックで被覆された可撓性ダイアフラムのほぼ中央に位置すると共に、第1度の可撓性を呈し、第1の所定形状を有する第1の本体部分と、
(b)該第1の本体部分に隣接して形成され、該第1の本体部分の周囲を取り巻いて延びると共に、前記第1の本体部分と比べ相対的に薄く、前記第1度の可撓性より大きい第2度の可撓性を呈し、第2の所定形状を有する第2の本体部分と、
(c)該第2の本体部分に隣接して形成され、該第2の本体部分の周囲を取り巻いて延び、前記衛生用ポンプのハウジング部内の動作位置にある前記不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムを封止する、第3の所定形状を有するシール手段と、
(d)ポンプ送りすべき所定の物質と直に接触する前記第1の本体部分、前記第2の本体部分及び前記シール手段の各表面に付着された、実質的に一様な所定の厚さを有する予め選定した可撓性プラスチック層と、
(e)前記第1の本体部分内に埋め込まれて、前記不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムを前記衛生用ポンプ内に往復動自在に配設されたロッド状ピストン部材に接続可能とするインサート部材とを備え、該インサート部材は、
i)第1の所定サイズと第1の所定形態の両方を有する第1のディスク状部分と、
ii)第2の所定サイズと第2の所定形態の両方を有する第2のディスク状部分であって、その一面近くで前記第1のディスク状部分の第1の面に取着されると共に、前記第1のディスク状部分の前記第1の面から所定距離だけ延出し、前記インサート部材の前記第1のディスク状部分の前記第1の面のほぼ中央に配設された前記第2のディスク状部分と、
iii)前記第1のディスク状部分を貫いて形成され、第3の所定サイズと第3の所定形態の両方を有する複数の開孔であって、予め選定したゴムコンパウンドを内部に受け入れることによって、前記不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムの前記第1の本体部分へ前記インサート部材を結合させるための、全体として所定の開口面積を与える前記複数の開孔と、
iv)少なくとも前記第2のディスク状部分と係合可能で、前記インサート部材を前記ロッド状ピストン部材に固定する固定手段とを含む、不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラム。」

2.引用例記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に国内で頒布された実願昭54-169877号(実開昭56-86387号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(イ)「本考案はダイヤフラムポンプにおけるダイヤフラムの改良に関し、その目的とするところは、耐薬品性及び耐久性に優れしかも簡単な構造からなるダイヤフラムを提供するにある。」(第1頁18行〜第2頁2行)
(ロ)「以下その具体的構成を図面に示した一実施例に従って説明する。(1)はゴム等からなるダイヤフラム本体で、ポンプ室内側側面(1’)の中央部にはピストンロッド(2)の心金(3)が連結されている。(4)は前記ダイヤフラム本体(1)のポンプ室内側側面(1’)に沿って被覆された厚手のテフロンシート(厚さ0,8mm)で、その外周部(5)が前記ダイヤフラム本体(1)の周縁部(6)に貼着されてなる。(7)は前記ダイヤフラム本体(1)と厚手のテフロンシート(4)間に介在されたテフロンからなる薄手の柔軟なシート(厚さ0,3mm)で、前記ダイヤフラム本体(1)の周縁部(6)を除く中央側のみを被覆してダイヤフラム本体(1)に貼着されてなる。」(第4頁1行〜14行)
(ハ)「また薄手の柔軟なシート(7)は、該実施例では、ダイヤフラム本体(1)の周縁部(6)を除く中央側のみを被覆できる大きさに成形してなるが、これに限定されるものではなく、第2図のように厚手シート(4)と同様にダイヤフラム本体(1)のポンプ室内側側面(1’)全体を被覆できるように形成してもよく」(第6頁4行〜9行)

これら(イ)〜(ハ)の摘記事項及び第1〜2図によると、引用例には、
「ポンプに適用されるテフロン(4)(7)被覆のダイヤフラムにおいて、
(a)前記テフロン(4)(7)で被覆されたダイヤフラムのほぼ中央に位置すると共に、第1の所定形状を有する、ピストンロッドの心金(3)の存在する、ゴム等からなるダイヤフラム本体部分(以下、「本体部分A」という。)と、
(b)該本体部分Aに隣接して形成され、該本体部分Aの周囲を取り巻いて延びると共に、第2の所定形状を有し、ゴム等からなる、ピストンロッドの心金(3)の存在しないダイヤフラム本体部分(以下、「本体部分B」という。)と、
(c)該本体部分Bに隣接して形成され、該本体部分Bの周囲を取り巻いて延び、前記テフロン(4)(7)被覆のダイヤフラムを封止し、第3の所定形状を有し、ゴム等からなるダイヤフラム本体の周縁部(6)と、
(d)ポンプ送りすべき所定の物質と直に接触する前記本体部分A、前記本体部分B及び前記ダイヤフラム本体の周縁部(6)の各表面に付着された、実質的に一様な所定の厚さを有するテフロン(4)(7)層と、
(e)前記本体部分A内に埋め込まれて、前記テフロン(4)(7)被覆のダイヤフラムを前記ポンプ内に往復動自在に配設されたピストンロッド(2)に接続可能とする心金(3)とを備え、該心金(3)は、
i)第1の所定サイズと第1の所定形態の両方を有する第1のディスク状部分と、
ii)前記第1のディスク状部分とピストンロッド(2)とを接続し、第2の所定サイズと第2の所定形態の両方を有する第2のディスク状部分であって、その一面近くで前記第1のディスク状部分の第1の面に取着されると共に、前記第1のディスク状部分の前記第1の面から所定距離だけ延出し、前記心金(3)の前記第1のディスク状部分の前記第1の面のほぼ中央に配設された前記第2のディスク状部分と、
iv)前記第2のディスク状部分を、前記ピストンロッド(2)に一体固定している、
テフロン(4)(7)被覆のダイヤフラム」の発明が記載されているものと認められる。

3.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、後者の「ダイヤフラム」、「ダイヤフラム本体の周縁部(6)」及び「ピストンロッド(2)」は、それらの機能からみてそれぞれ、前者の「可撓性ダイアフラム」、「ポンプのハウジング部内の動作位置にあるダイアフラムを封止するシール手段」及び「ロッド状ピストン部材」に相当する。
また、後者の「テフロン(4)(7)」は、耐薬品性に優れているから、前者の「不活性プラスチック」に相当し、ピストンロッドの心金(3)が存在しないダイヤフラム本体部分である「本体部分B」は、ピストンロッドの心金(3)が存在するダイヤフラム本体部分である「本体部分A」に比して、心金がないことから、相対的に薄くかつ大きい可撓性を有しているといえるから、後者の「本体部分A」及び「本体部分B」はそれぞれ、前者の「第1度の可撓性を呈する第1の本体部分」及び「第1の本体部分と比べ相対的に薄く、前記第1度の可撓性より大きい第2度の可撓性を呈する第2の本体部分」に相当する。
さらに、後者の心金(3)は、ダイヤフラムの本体部分A内に埋め込まれて、ダイヤフラムをピストンロッド(2)に接続可能とするものであるから、後者の「心金(3)」、「心金(3)の第1のディスク状部分」及び前記第1のディスク状部分とピストンロッド(2)とを接続する「心金(3)の第2のディスク状部分」は、それらの機能又は設置位置からみてそれぞれ、前者の「インサート部材」、「インサート部材の第1のディスク状部分」及び「インサート部材の第2のディスク状部分」に相当する。
してみれば、両者は、
「ポンプに適用される不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムにおいて、
(a)前記不活性プラスチックで被覆された可撓性ダイアフラムのほぼ中央に位置すると共に、第1度の可撓性を呈し、第1の所定形状を有し、ゴムコンパウンドからなる第1の本体部分と、
(b)該第1の本体部分に隣接して形成され、該第1の本体部分の周囲を取り巻いて延びると共に、前記第1の本体部分と比べ相対的に薄く、前記第1度の可撓性より大きい第2度の可撓性を呈し、第2の所定形状を有する第2の本体部分と、
(c)該第2の本体部分に隣接して形成され、該第2の本体部分の周囲を取り巻いて延び、前記ポンプのハウジング部内の動作位置にある前記不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムを封止する、第3の所定形状を有するシール手段と、
(d)ポンプ送りすべき所定の物質と直に接触する前記第1の本体部分、前記第2の本体部分及び前記シール手段の各表面に付着された、実質的に一様な所定の厚さを有する予め選定した可撓性プラスチック層と、
(e)前記第1の本体部分内に埋め込まれて、前記不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムを前記ポンプ内に往復動自在に配設されたロッド状ピストン部材に接続可能とするインサート部材とを備え、該インサート部材は、
i)第1の所定サイズと第1の所定形態の両方を有する第1のディスク状部分と、
ii)第2の所定サイズと第2の所定形態の両方を有する第2のディスク状部分であって、その一面近くで前記第1のディスク状部分の第1の面に取着されると共に、前記第1のディスク状部分の前記第1の面から所定距離だけ延出し、前記インサート部材の前記第1のディスク状部分の前記第1の面のほぼ中央に配設された前記第2のディスク状部分と、
iv)前記第2のディスク状部分を、前記ロッド状ピストン部材に固定している、
不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラム」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】可撓性ダイアフラムの適用されるポンプが、前者では、衛生用ポンプであるのに対して、後者では、衛生用ポンプであるか否かが明らかでない点。
【相違点2】インサート部材の第1のディスク状部分に、前者では、前記第1のディスク状部分を貫いて形成され、第3の所定サイズと第3の所定形態の両方を有する複数の開孔であって、予め選定したゴムコンパウンドを内部に受け入れることによって、前記不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラムの前記第1の本体部分へ前記インサート部材を結合させるための、全体として所定の開口面積を与える前記複数の開孔を備えているのに対して、後者では、開孔を備えていない点。
【相違点3】インサート部材が、前者では、ダイアフラムを往復動自在に駆動させる部材である、ロッド状ピストン部材とは別体の部材で、インサート部材を前記ロッド状ピストン部材に固定する固定手段を含むのに対して、後者では、ロッド状ピストン部材とは一体であり、インサート部材を前記ロッド状ピストン部材に固定する固定手段を備える必要のないものである点。

4.当審の判断
上記【相違点1】〜【相違点3】につき、以下検討する。
【相違点1について】
引用例記載の発明の可撓性ダイアフラムは、本願発明のものと同様に、ポンプ送りすべき所定の物質と直に接触する側の表面に、金属表面域及びクレビスを有さず、連続した不活性プラスチックで被覆されている構造のものであるから、該引用例記載の発明の可撓性ダイアフラムを適用するポンプとして、衛生用ポンプを想到することは、当業者が容易になしうるものと認められる。
【相違点2について】
ゴムコンパウンドからなるダイアフラムと、該ダイアフラムにインサートする部材との結合を強固なものとするために、インサートする部材を、所定の開口面積を与える複数の開孔を備え、その開孔の内部にゴムコンパウンドを受け入れる構造のものとすることは、特開昭56-113082号公報、実願昭60-113994号(実開昭62-21490号)のマイクロフィルム等に示されているように、本願の出願前、ダイアフラムの技術分野で周知の技術である(前者の文献については、第3図及び第6頁左下欄10行〜14行の記載を、後者の文献については、第1図及び第4頁13行〜第5頁6行の記載を、特に参照されたい。)。
してみれば、引用例記載の発明のインサート部材に、該周知の技術を適用して、相違点2に係る事項を本願発明のものとすることは、当業者が容易になし得るものである。
【相違点3について】
インサート部材を、ロッド状ピストン部材等、ダイアフラムを往復動自在に駆動させる部材とは別体のものとし、しかも、インサート部材を前記往復動自在に駆動させる部材に固定する固定手段を含むものとすることは、実願昭49-56692号(実開昭50-145003号)のマイクロフィルム、特開平4-224286号公報等に示されているように、本願の出願前周知の技術である(前者の文献については、第1図、第3頁16行〜18行及び第4頁13行〜17行の記載を、後者の文献については、【図2】及び第10欄21行〜31行の記載を、特に参照されたい。)。
してみれば、引用例記載の発明のインサート部材に、該周知の技術を適用して、相違点3に係る事項を本願発明のものとすることは、当業者が容易になし得るものである。
そして、本願発明の作用効果につき検討するに、該作用効果は、引用例及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-05-29 
結審通知日 2001-06-08 
審決日 2001-06-19 
出願番号 特願平9-182576
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就佐藤 正浩中野 宏和  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 氏原 康宏
舟木 進
発明の名称 不活性プラスチック被覆の可撓性ダイアフラム  
代理人 池谷 豊  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道治  
代理人 福井 宏司  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道照  
代理人 長谷 正久  

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