• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
管理番号 1048369
異議申立番号 異議2000-72620  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-03-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-27 
確定日 2001-07-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2996490号「ポリエステル編織物用原糸」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2996490号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 A.手続きの経緯
本件特許第2996490号に係る発明は、平成2年7月4日に特許出願され、平成11年10月29日にその特許の設定登録がなされたが、その後、東レ株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成12年10月20日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年12月27日に訂正請求がなされたものである。

B.訂正の適否についての判断
1、訂正の目的及び内容
(1)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲1の記載中、「広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上」を、
「広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上93%以下」と訂正する。
(2)誤記の訂正を目的として、明細書の第16頁第1表におけるNo.5の右端欄の「〃」を、「比較例」と訂正する。
2、訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
上記(1)の訂正は、訂正前の特許請求の範囲請求項1における「広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)の数値範囲「88%以上」を、「88%以上93%以下」という狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、本件特許明細書には、実施例における結晶配向度(Co)の最大のものとして「93%(実施例No.14)」が記載されているので、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記(2)の訂正は、特許請求の範囲の記載内容及び本件特許公報第4欄13〜14行などの記載からみて、第1表においてNo.5(沸水収縮率4%)のものを「本発明」としているのは誤記であると認められるから、誤記の訂正を目的とするものであり、したがって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3、むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

C.特許異議の申立についての判断
1、特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という)は、甲第1〜3号証を提出し、訂正前の本件請求項1の発明は、甲第1号証記載の発明と同一であるから、本件請求項1に係る特許は取り消されるべきである旨の主張をしている。
2、本件発明
本件発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。
「【請求項1】測定周波数110Hzにおける力学的損失正接のピーク温度(Tmax)が120℃以下であり、広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上93%以下で、沸水収縮率が5%以上で、かつ非捲縮性であることを特徴とするポリエステル編織物用原糸。」(以下、【請求項1】記載の発明を「本件訂正発明」という)
3、申立人の提出した甲号証の記載事項
a.「繊維は延伸せずに巻き取られて、繊度およびフィラメント数が167 dtex30 フィラメントで一定となるよう紡糸された。紡糸温度は290℃、孔の直径は250ミクロンであった。巻取速度は2000、2500、3000、3500、4000、4250、4500、4750、5000、5500、6000m/分であった。紡糸された繊維の繊度およびフィラメント数を一定に保つために、単位時間あたりの流量は口金の単孔あたり2000m/分の時の1.11g/分から6000m/分時の3.34g/分まで変化させた。チップの固有粘度は、25℃において100gのm-クレゾール中にPET 1gを溶解させた溶液で測定され、0.63であった。」(第297頁)
b.「巻取速度4500(m/min)でCrystalline Orientation Factor(結晶配向因子)fc 0.76、4750で 0.965、5000で 0.972、5500で 0.976、6000でが 0.979」(303頁表2)
c.「巻取速度5000(m/min)で沸水収縮率が30%以上であること」(312頁表14)
甲第2号証:平成12年6月16日 実験報告書 東レ株式会社 テトロンフィラメント技術部 主任部員 橋本浩二
d.「紡糸速度[km/分]とTmax[℃]との関係
3[km/分]=91.7、4[km/分]=104.9[℃]、5[km/分]=114.8[℃]、 6[km/分]=109.1[℃]」(表2)
甲第3号証:繊維機械学会誌 Vol.38, No.5 (May, 1985) 第27〜31頁
e.「SeriesI 繊維の紡速の変化に伴う(tanδ)max、Tmaxの変動」(図3)
4、対比・判断
本件訂正発明(前者)と上記甲1号証の発明(後者)とを対比すると、両者は共にポリエステル編織物用原糸ではあるけれども、前者は、特に「広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上93%以下」という要件を備えるものであるのに対して、後者においてはかかる要件を備えるものではない点で相違している。
すなわち、甲第1号証の記載(上記b)における「Crystalline Orientation Factor(結晶配向因子)fc」は、その値に100を乗じたものが、前者における結晶配向度(Co)に相当するものと認められるが、上記bにはCrystalline Orientation Factor(結晶配向因子)fcが、 0.76、 0.965、 0.972、 0.976、 0.979のものが記載されており、これらの数値を結晶配向度(Co)に換算すると、76%、96.5%、97.2%、97.6%、97.9%となり、甲第1号証には結晶配向度(Co)が88%以上93%以下の範囲に入るポリエステル編織物用原糸は記載されていないといえる。
したがって、本件訂正発明は、甲第1号証記載の発明と同一の発明であるとすることはできない。
申立人は、甲第2号証を提出して、「甲第1号証のII章2項(P297)に記載のポリエチレンテレフタレート繊維を得て、これの力学的損失正接(tanδ)を測定した結果、巻取速度3000〜6000 m/分の条件下では巻取速度にかかわらずTmax[℃]は120℃以下となる。」旨の主張をしているけれども、甲第1号証記載のポリエチレンテレフタレート繊維の結晶配向度(Co)の数値は、上記のようにすべて本件特許発明における数値範囲を外れており、また、甲第2号証においても測定に使用したポリエチレンテレフタレート繊維の結晶配向度(Co)については記載されていないから、結局、甲第2号証をもってしても本件訂正発明が、甲第1号証記載の発明と同一の発明であるとすることはできない。
また、甲第3号証には、繊維の紡速の変化に伴う(tanδ)max、Tmaxの変動に付いての記載がなされているだけであって、「広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)」についての記載はない。
5、むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエステル編織物用原糸
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 測定周波数110Hzにおける力学的損失正接のピーク温度(Tmax)が120℃以下であり、広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上93%以下で、沸水収縮率が5%以上で、かつ非捲縮性であることを特徴とするポリエステル編織物用原糸。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、ポリエステル編織物用原糸に関する。更に詳しくは、易染性であり且つアウター編織物分野にも展開可能な熱収縮率を有するポリエステル編織物用原糸に関する。
〔従来の技術と発明が解決しようとする課題〕
近年、ポリエステル繊維の製造は生産性向上が強く求められるようになり、製糸工程、特に紡糸工程で、例えば5500m/分を越える高速度の引取速度を用いるいわゆる高速紡糸引取法による製造が試みられるようになってきた。この種の高速紡糸引取法によって得られるポリエステル繊維は、その微細構造が従来の紡糸工程と延伸工程との2つの工程により製造される低速紡糸/延伸工程とは著しく異なったものであり、そのために低速紡糸/延伸糸とは、実用上の要求性能について際立った有用な特長を持つことが特開昭57-121613号公報等により知られている。
最も際立つ特長は実用上、高度な易染性を有していることである。易染性は汎用の低速紡糸/延伸糸を高温高圧染色して得られる程度のものを実用染色温度を110℃ないし常圧で達成することができる程、優れたものであり、特に、6000m/分以上の引取速度を用いる高速紡糸引取法で得られる繊維に至ってはその効果が顕著であることが特開昭57-121613号公報に開示されている。
しかしながら、以上の利点とは逆に高速紡糸引取法によって得られる繊維は、沸水収縮率などの熱収縮率が極めて低い為、編織物としては使用範囲が狭いという欠点がある。例えば高速紡糸引取法によって得られた繊維を撚糸し、緯糸としてアウター用織物にした場合、熱収縮率が低い為、フクラミ感が得られ難く、微妙な風合が得られない。更に織物加工工程中での巾入れ、巾出し等の織物設計が困難であるという問題点を有している。また編物とする際も低熱収縮率の為編密度の設計が難しく、後工程での熱セット性が不充分であり、裁断した際編地の端がカールし易く縫製しづらくなる。これらの問題の為、高速紡糸引取法で得られた繊維は織物分野では無撚で使用する裏地用織物として、編物分野では、丸編としてわずかに用いられているのが現状である。
かかる問題点を解決する方法として、高速紡糸引取法によって得られた繊維を冷延伸し、熱収縮率を高くする方法があるが、5500m/分を越える引取速度により得られた繊維は残留伸度が低い為、延伸倍率が上がらず、低速紡糸/延伸糸並の熱収縮率には至らない。また冷延伸により繊維の非晶配向を上昇させる為、染色性の低下も招く。
易染性と熱収縮率を満足させるもう一つの方法としてポリエステルに第3成分を共重合させることが従来から知られているが、この方法はポリエステルの融点の低下を起こし易く、且つコストアップにつながり好ましくない。
従って、易染性であり、広範囲な編織物分野に展開可能なポリエステル編織物用原糸は得られていないのが現状である。
本発明の目的は、高速紡糸引取法を基礎として得られる繊維で易染性を有し且つ広範囲な編織物分野にも展開可能な熱収縮率を有するポリエステル編織物用原糸を提供することにある。
〔課題を解決する為の手段〕
本発明者らは上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。即ち、本発明によるポリエステル編織物用原糸は、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接のピーク温度(Tmax)が、120℃以下であり、広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が85%以上、沸水収縮率が5%以上であることを特徴とする。
本発明に使用するポリエステルは、エチレンテレフタレートの繰返し単位を90モル%以上、好ましくは95モル%以上含有する実質的にエチレンテレフタレートからなるポリエステルであるが、熱および機械的安定性を損なわない範囲で少量の第三成分を含有していても良い。
本発明のポリエステル編織物用原糸は、測定周波数110Hzにおける力学的損失正接のピーク温度(Tmax)が120℃以下であることを必要とする。
染色性を支配する非晶領域の構造を表現する特性値として、上記Tmaxが適切である。Tmaxが120℃以下であれば染色温度が110℃以下で実用染色可能である。好ましいTmaxは118℃以下である。
従来の低速紡糸/延伸法によって得られる繊維のTmaxは130℃以上であり、この為に130℃以上の高温高圧での染色が必要であった。
本発明の編織物用原糸では、広角X線回折法で測定される結晶配向度Coが88%以上でなければならない。88%未満では、編織物用原糸の平均配向が不充分で強度が低く、衣料用繊維としての使用は不適当である。Coの好ましい範囲は90%以上である。
本発明の編織物用原糸は沸水収縮率を5%以上有していることが必要である。アウター織物とした際のフクラミ感や微妙な風合を引出す為には、5%以上の沸水収縮率を必要とする。また、編物を熱セットし、裁断した際の編地端の部分のカールも5%以上であれば生じない。沸水収縮率が5%未満では織物とした際のフクラミ感が不足し、織物設計も難しくなる。編物にした場合、熱セットし裁断後の編地端のカールが生じたり、編密度設計も難しくなる。好ましい沸水収縮率は6%以上、更に好ましくは7%以上である。
上記3者のいずれか一つでも満足していない場合、本発明の目的とするポリエステル編織物用原糸は得られない。
以下、本発明のポリエステル編織物用原糸の製造方法について説明する。
本発明のポリエステル編織物用原糸を得る製造法は、ポリエステルを溶融紡糸するに際し、紡口より紡出されたフィラメントを空冷し、糸条の温度が150℃以下に達する以前に水性液を付与して、フィラメントの全周を急冷し、しかる後に、紡糸速度5500m/分以上で引取ることにより達成される。
第1図に本発明の製造方法を実施する紡糸設備の一例を示す。
第1図に於いてポリエステルはスピンヘッド1に装着した紡口2よりフィラメントとして紡出される。紡口下に設けられた加熱筒3を出たフィラメント4は冷却チャンバー7からの冷却風で冷却され、水付与ロール5によりフィラメントは全面を急冷される。次いで給油ノズル6により油剤付与後巻取機によってパッケージ8として巻取られる。
本発明のポリエステル編織物用原糸を得る製造法に於いては紡糸速度が5500m/分以上であることが必要である。5500m/分未満では、本発明の目的とするTmaxが20℃以下、Coが85%以上のものは得られない。
紡糸速度は5500〜8000m/分に於いて、効果的に本発明の目的が達成される。紡糸速度が8000m/分以上であっても、極めて多量の水性液を付与することなどによっても本発明の織物用原糸を得ることは可能であるが、紡糸中に水性液の飛散などの障害が生じる。編織物用原糸の力学的性質を考慮すると最も好ましい紡糸速度は6000〜7500m/分である。
本発明では紡口から押出されたフィラメントを空冷し、フィラメントの温度が150℃以下に達する以前に水性液を付与して全周を急冷することが重要である。水性液を付与することで、フィラメントの結晶成長を凍結し、熱収縮率を向上させることが可能となる。水性液の付与なしには、いかに紡糸条件を選択しても本発明の編織物用原糸が得られない。水性液を付与する際のフィラメント温度が150℃未満では、本発明の目的は達せられない。好ましいフィラメント温度は150℃〜250℃、更に好ましくは、160℃〜230℃である。
水性液はフィラメントの全周に付与し急冷する必要がある。フィラメントの片側からの偏冷却では後工程中の熱処理の際、捲縮が生じ本発明の目的とする編織物には適さない。
水性液を付与する方法は、フィラメントの全周を急冷できる方法であれば良く、例えば通常の紡糸油剤を付与するロールを対向させ水膜をつくり、膜中をフィラメントを通過させる方式(第2図参照)や水槽中を通過させる方式が採用されるが本発明の目的を損なわない範囲で他の方式も採用可能である。
付与する水性液の量はフィラメントに対する重量パーセントで示される。本発明の目的とする編織物原糸を得る為には約50重量パーセント以上付与すれば良い。
フィラメントの冷却に用いる水性液は、水又は、通常の紡糸用油剤エマルジョンなどが適用される。簡便には水が用いられる。また水性液の温度は、低温程好ましいが、特に常温以下に冷却せずとも本発明は達成される。
本発明で紡口から紡出されたフィラメントに水付与するまで、空冷するが、その方法は溶融紡糸で一般に採用される冷却風による冷却によって達成される。
〔実施例〕
以下実施例をもって本発明を詳細に説明する。尚、本発明の繊維の特性の測定方法を述べる。
◎ 力学的損失正接(tanδ)
東洋ボールドウィン製、レオバイブロンDDV-E II P型動的粘弾性測定装置を用い、試料約0.1mg測定周波数110Hz、昇温速度5℃/分において乾燥空気中で各温度におけるtanδを測定する。tanδ-温度曲線からtanδのピーク温度Tmax(℃)と、同ピーク値(tanδ)maxが得られる。
◎ 沸水収縮率
繊維に0.1g/dの荷重をかけ長さL1を測定する。次いで無荷重下で98℃×5分間沸水処理を行なった後、一昼夜恒温恒湿室内(20℃±1℃,60%)で乾燥後、再び繊維に0.1g/dの荷重をかけ、長さL2を測定した。沸水収縮率は、次式で表わされる。

◎ 強度・伸度
東洋ボールドウィン社製TENSILON UTM-II-20型引張試験機により初長20cm、引張速度20cm/分で測定した。
◎ 染着率
試料を一口編地とし、スコアロールFC2g/lを用い60℃で20分間精練し乾燥、調湿(20℃×50%RH)したものを用いた。
分散染料レゾリンブルー(Resolin Blue)FBL(バイエル社商品名)を使用し、3%owf、浴比1:50で100℃×120分間染色した。分散剤としてディスパーTLを1g/l加え、更に酢酸によりpH=6に調整した。
染着率は染色後の染液を採取し、吸光度を測定する方法により染着率を算出した。
染着率が60%以上であれば染色性良好であり70%以上になると極めて良好といえる。
◎ 結晶配向度(Co)
X線回折装置を用い測定する。ポリエステルは一般に赤道方向の回折角2θ=17°〜26°の範囲に3つの主要な反射を有する。(低角度側から(100),(010),(110)面)。結晶配向度(Co)の測定には(010)面の反射を使用する。使用される(010)面の反射は赤道線方向の回折強度曲線から決定する。尚赤道線方向の回折強度曲線は下記の方法により求める。
X線発生装置は30kV,80mAで運転する。試料は、厚み約0.5mmとなる様調整する。スキャニング速度1°/分、チャート速度10mm/分、タイムコンスタント1秒、ダイパージエンスリット1/2°、レシービングスリット0.3mm、スキャックリングスリット1/2°において2θが35°から7°まで回折曲度を記録させる。
上記方法によって(010)面の2θが決定される。決定された2θ値にゴニオメーターをセットする。対称透過法を用いて方向を-30°〜+30°走査し、方位角方向の回折強度を記録する。さらに-180°+180°の方位角方向の回折強度を記録する。この時のスキャニング速度4°/分、チャート速度10mmタイムコンスタント1秒、コリメーター2mmφ、レシービングスリット縦幅19mm、横幅3.5mmである。
得られた方位角方向の回折強度曲線からCoを求めるには、±180°で得られる回折強度の平均値をとり、水平線を引きベースラインとする。ピーク頂点からベースラインに垂線をおろしその高さの中点を求める。中点を通る水平線を引き、これと回折強度曲線との2つの交点間の距離を測定し、この値を角度(°)に換算した値を配向角H(°)とする。結晶配向度は次式によって与えられる。

◎ フィラメント温度
走査赤外温度計を用いて紡糸線上に沿ってフィラメント温度を非接触で測定した。
◎ フクラミ感
本発明のポリエステル編織物原糸をS撚り300T/M加撚し、緯糸として製織する。その際、緯糸密度は140本/インチになるように設定する。得られた織物を精練・染色し、フクラミ感を評価する。評価は官能検査で行ない、H.E.S.C.風合い評価標準No.1のサンプルと比較し風合値(HV)を決定した。HV値が大きい程、フクラミ感を大である。
実施例1
固有粘度〔η〕=0.62のポリエチレンテレフタレートを孔径0.35mmφ、孔数24を有する紡糸口金を用いて第1図に示す紡糸機で紡糸した。紡糸温度300℃とし、紡口下には内径12cm、長さ25cmのアルミ鋳込みヒーター加熱方式の加熱筒を紡口面と筒との間に間隙がない状態で設置し、ヒーター温度を250℃に調整した。
加熱筒を出たフィラメントは、横吹き型冷却風チャンバーにより、冷風温度20℃、風速0.30m/秒の冷却風によって冷却し、次いで第1図に示した方式で、2個のロールを対向させ水膜をつくり、膜中にフィラメントを通過させ急冷した。フィラメントには糸量当り120重量パーセントの室温の水を付与した。
急冷されたフィラメントは延伸することなく、油剤付与後、紡糸速度6000m/分で50d/24fとし巻取った。尚水付与位置は第1表に示す如く変化させた。
得られた編織物用原糸の物性を第1表に示す。
第1表から明らかな如く、本発明のポリエステル織物用原糸であれば、易染性でアウター用として充分なフクラミ感のある織物が得られた。
第1表中のNo.1(比較例)は、フクラミ感は充分なものの、染色性が不充分であり、原糸強度も低く織物としては不適当である。
また、第1表で得られた編織物用原糸をトリコット編に供したところ本発明例であれば熱セットし、裁断した後の編地端部のカールは生じず縫製を行い易いものとなった。

実施例2
紡糸速度を第2表の如く変化させた他は、実施例1と同一条件で50d/24fの織物用原糸を得た。水付与は紡口下50cm一定とした。この位置での糸温度は第2表に示すように、この紡糸速度範囲では約180℃〜190℃であった。
得られた編織物用原糸の物性を第2表に示す。
第2表から明らかなように紡糸速度5500m/分以上で本発明の編織物用原糸が得られる。

〔発明の効果〕
本発明のポリエステル編織物用原糸は、易染性と、広範囲な編織物分野に展開可能な熱収縮率を有している。本発明の編織物用原糸を織物にすると実用上充分なフクラミ感と柔らかな風合のものとなる。また編物にした際も充分な風合とが得られ、縫製時の編地のカールも生じない。編織物とする際の設計も容易となる。
更に高速紡糸引取法によって得られるので生産性が高く、低コストとなり経済的メリットも格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本願発明を実施する紡糸機の略図である。第2図は水付与ロールを対向させできた水膜中を複数本のフィラメントを通過させフィラメントの全周を急冷している様子を示す側面図である。
図面において、
1…スピンヘッド
2…紡口
3…加熱筒
4…フィラメント
5…水付与ロール
6…給油ノズル
7…冷却風チャンバー
8…パッケージ
9…水膜
 
訂正の要旨 特許第2996490号発明の明細書中、
1.特許請求の範囲の請求項1の記載、
「1.測定周波数110Hzにおける力学的損失正接のピーク温度(Tmax)が120℃以下であり、広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上で、沸水収縮率が5%以上で、かつ非捲縮性であることを特徴とするポリエステル編織物用原糸。」を、
「1.測定周波数110Hzにおける力学的損失正接のピーク温度(Tmax)が120℃以下であり、広角X線回折法によって求められる結晶配向度(Co)が88%以上93%以下で、沸水収縮率が5%以上で、かつ非捲縮性であることを特徴とするポリエステル編織物用原糸。」と訂正する。
2.明細書の第16頁第1表におけるNo.5の右端欄の「〃」を、「比較例」と訂正する。
異議決定日 2001-06-25 
出願番号 特願平2-175414
審決分類 P 1 651・ 113- YA (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 喜納 稔
仁木 由美子
登録日 1999-10-29 
登録番号 特許第2996490号(P2996490)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 ポリエステル編織物用原糸  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 鶴田 準一  
代理人 西山 雅也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ