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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1048371
異議申立番号 異議1999-73445  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-10-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-10 
確定日 2001-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2869931号「一方向配列強化繊維シート及びその製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2869931号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2869931号(平成2年1月30日出願、平成11年1月8日設定登録)の請求項1〜5に係る特許について、中久喜美和から特許異議の申立があったので、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成12年4月17日に特許異議意見書と訂正請求書が提出された。
次いで、特許異議申立人に対して、上記特許異議意見書と訂正請求書について意見を求める旨の審尋をしたところ、その指定期間内に回答書は提出されなかった。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
訂正請求書による訂正事項a.〜e.は次のとおりである。
a.特許請求の範囲を下記の通りに訂正する。
「1)接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート。
2)樹脂浸透性を有し,且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。
3)前記炭素繊維の繊維束を前記接着剤層上に間隔を開けてまたは間隔を開けずに一方向に並べて、前記繊維束を上方から押し潰してバラすことにより、前記強化繊維が前記シート上に接着される請求項2記載の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。」
b.明細書第4頁第20行〜第5頁第9行(公報第3欄第39行〜第47行)の「接着剤層を設けた支持体シートと・・・前記シートが樹脂浸透性を有する。」を「接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート、および樹脂浸透性を有し、且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法である。」と訂正する。
c.明細書第12頁第18行〜第13頁第5行(第6欄第28行〜第34行)の「以上の実施例では、一方向配列強化繊維シート1を・・・適用可能である。」を削除する。
d.明細書第13頁第7行〜第12行(公報第6欄第36行〜第41行)の「本発明の一方向配列強化繊維シートは・・・室温硬化型のマトリクス樹脂を用いて、」を「本発明の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートは、接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmであり、強化繊維にマトリクス樹脂を予め含浸していないシートであることから保存安定性が良く、又、室温硬化型のマトリクス樹脂を用いて、」と訂正する。
e.明細書第14頁第4行〜第9行(公報第7欄第3行〜第8行)の「更にまた本発明の一方向配列強化繊維シートは・・・できる。」を削除する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
上記訂正a.は、特許明細書の特許請求の範囲において、(1)請求項2及び3を削除する、(2)請求項1、4及び5において、イ.強化繊維について、炭素繊維と限定する、ロ.支持体シートについて、樹脂浸透性を有し、且つ、その厚みを5〜100μmと限定する、ハ.一方向配列強化繊維シートの用途を、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物を補強するためのものと限定する、(3)請求項2及び3の削除に伴い、請求項4及び5を請求項2及び3とするものであるが、上記ハ.は、特許明細書第5頁第14〜19行(公報第4欄第2〜7行)の「本発明の一方向配列強化繊維シート1は、接着剤層3を設けた支持シート2と、接着剤層3を介して支持体シート2上に一方向に配列して接着した強化繊維4とからなり、橋梁や高架道路などの補強現場で強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させて、補強に使用できるようにしたある。」の記載等を、上記イ.は、特許明細書第8頁第11行(公報第5欄第2行)の「炭素繊維の場合を示す」の記載、上記ロ.は、特許明細書第6頁第2〜6行(公報第4欄第10〜13行)の「通常は支持体シート2は樹脂浸透性を有することを要しないが、マトリクス樹脂をシート2側から強化繊維4に含浸できるようにしたい場合には、シート2に上記のスクリムクロス、ガラスクロス等が使用できる」の記載及び特許明細書第6頁第6〜10行(公報第4欄第13〜16行)の「支持体シート2の厚みとしては、可撓性を有し且つ強化繊維4を支持可能な強度を備える観点から、1〜500μm、好ましくは5〜100μm程度あればよい。」の記載を、それぞれ根拠とするものであるから、上記(1)、(2)イ.〜ハ.は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、上記(3)は、特許請求の範囲の減縮に伴う明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
上記訂正b.〜e.は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に伴う明細書の明瞭でない記載に釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項a.〜e.は、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項を追加するものでもないし、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものでもない。
3.独立特許要件の判断
(1)訂正後の発明
訂正後における請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲請求項1〜3に記載された前記のとおりのものである。
(2)取消理由の趣旨
これに対して、取消理由の趣旨は、(理由1)訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、下記刊行物1〜3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の該当し、特許を受けることができない、(理由2)本件請求項3及び5に係る発明は、下記刊行物1、2、3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(3)刊行物の記載
ここでは、取消理由通知で引用した刊行物1〜4に限定せず、特許異議申立人が提出した他の証拠を含めて、それらについての記載を摘示する。
a.「日本複合材料学会誌」第14巻 第5号 第173〜180頁(1988年発行(以下、刊行物1という。)には次の記載がなされている。
1-1「炭素繊維中間基材-その1」(第173頁、表題)
1-2「・・・炭素繊維の成形加工を効率化するため、1972年から1977年にかけ一方向プリプレグ、織物、組紐やマットなどの中間基材が製品化され、高級スポーツ用具のみならず、飛行機の構造材料や人工衛星の部材などとして広く使われ、先端複合材料の中間基材として定着してきた。」
(第173頁左欄第11行〜第16行)
1-3:倉敷紡績商品アドヒーブは、接着剤を付与した細い糸(ガラス繊維など)を一方向に配向させた炭素繊維糸条に接着させ、布帛形成して製造したものであること。(第178頁、表5、第5列目)
1-4:東紡績商品ハイブリッド・ラミは、ガラスマット、クロス等に接着剤をつけて炭素繊維ストランドと接着させ、布帛形成して製造したものであり、その特徴は、1)ACM用としては接着剤とマトリクス樹脂の相溶性が問題であり、2)ハンドレイアツプ用であり、3)炭素繊維ストランド以外に裏打ち材が必要であること。(第178頁、表5、第6列目)
b.「工業材料」第35巻第13号第32〜42頁 1987年9月発行、(以下、刊行物2という。)には次の記載がなされている。
2-1:一方向CF(炭素繊維)繊維不整による成形ひずみ
(第35頁左欄、図6)
2-2:ハイブリッド・ラミ(日東紡績)の写真(第37頁左欄、図13)
2-3「ガラスマットと一方向CF長繊維をあらかじめペアとしてハイブリッド用基材とした「ハイブリッド・ラミ」はハンドレイアップ用のCFハイブリッド基材として有名である。〔日東紡績(株)製品〕」
(第38頁左欄第1行〜第5行)
c.特開平1-22147号公報(以下、刊行物3という。)には次の記載がなされている。
3-1「ガラス繊維シート状物の一表面に、平面状に引揃えた多数の引揃え繊維を、緊張状態で部分固着した、繊維強化複合材成型用繊維基材。」
(特許請求の範囲第1項)
3-2「この発明は繊維強化複合材成型用繊維基材、特にガラス繊維シート状物の一表面に、平面状に引揃えられた多数の引揃え繊維を、緊張状態で部分固着した、合成樹脂や、センメント、金属、ゴムなどの強化に使用する、繊維基材に関するものである。」(第1頁左欄第20行〜第25行)
3-3「第1図は、この発明の繊維基材の第1の実施例を示す斜視図であって、1は引揃え繊維であって、ガラス繊維シート状物としてのガラス繊維マット2の一表面に平面状に多数引揃えられ、微粒子状の熱溶融性合成樹脂3で点接着により部分的に固着されている。」
(第2頁左欄第40行〜右欄第1行)
3-4「・・・隣り合うストランド同志又はロービング同志を互に密に引揃えるも、僅に間隔をあけて引揃えるも任意である。」
(第2頁右欄第32行〜第34行)
3-5:実施例を示す図(第5頁〜第6頁、第1図〜第6図)
d.特公昭63-3724号公報(以下、刊行物4という。)には次の記載がなされている。
4-1「縦方向のみに引揃えたカーボン引揃えシート上に該シートの横巾とほぼ同じ長さのグラスヤーンを横糸方向へのみ上記カーボン引揃えシートが縦割れを生じない範囲のピッチで載置し、両者を一体的に結合して成ることを特徴とするカーボン引揃えシートとグラスヤーンを組合せたプリプレーグシート。」(特許請求の範囲第1項)
4-2「・・・従来の上述プレプレーグシートは、第1図に示す如く、極細のグラスヤーンa′……を、縦横の密度を略同等として平織りした厚さ0.025〜0.03〜0.05mmのスクリムクロスaに合成樹脂を含浸させるか又は、含浸させないで、合成樹脂を含浸したカーボンシートbへ一体的に貼り合わせて成るものであって・・・」(第1頁右欄第12行〜第2頁左欄第2行)
4-3:従来のカーボン引揃えシートとグラスヤーンを組み合わせたプリプレーグシートの分解斜視図(第4頁、第1図)
e.特開昭63-35967号公報(以下、刊行物5という。)には、次の記載がなされている。
5-1「コンクリート構造物の梁、床版等曲げ補強をすべき構造要素の表面に繊維強化プラスチックス部材を貼付することを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。」(特許請求の範囲)
5-2「・・・FRP部材10の上面に接着材12をまんべんなく塗布する(第1図)。また同時に、補強をすべきコンクリート構造物Cの構造要素(図示例では床版1)の補強箇所(破損部分3)、及びその周囲にも、接着材12との親和性を良好にするプライマー13を予め塗布した後に、接着材12をまんべんなく塗布する(第2図)。・・・次に、前記FRP部材10を補強箇所に貼付、圧着し、接着材12が硬化するまでこの圧着状態を保持する。」(第3頁右上欄第3行〜左下欄第4行)
5-3「半硬化状態、あるいは現場にて直線連続繊維に合成樹脂を合浸させて貼付し、前記構造要素上でFRP部材10を成形してしまうような方法では・・・」(第4頁左上欄第14行〜右上欄第1行)
f.森本尚夫著「新高分子文庫23 FRP成形の実際」第71頁、1984年10月30日、(株)高分子刊行会発行(以下、刊行物6という。)には、次の記載がなされている。
6-1「成形法の概要 成形型として雌型あるいは雄型のいずれか一方を使用する。型にゲルコート(表面樹脂)を塗布し初期硬化後、ガラス繊維と樹脂で積層する。積層はガラス繊維にて硬化剤を添加した樹脂を刷毛やロールによって合浸しながら脱泡する。室温あるいは40〜60℃の硬化炉内で硬化した後、離型する。」(第71頁第9行〜第12行)
g.高分子学会高分子辞典編集委員会編「高分子辞典」第282頁 昭和46年6月30日、株式会社朝倉書店発行(以下、刊行物7という。)には、次の記載がなされてている。
7-1「室温硬化接着剤 ・・・20〜30℃の温度範囲で硬化する接着剤で、加熱することが困難な材料の接着に用いられ、効果を促進する触媒および硬化剤の添加が必要である。ユリア樹脂接着剤、フェノール樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリエステル接着剤などに強酸のアンモニウム塩、パラアルデヒド、アミン類などの触媒および硬化剤を用いる。これらの硬化剤の添加は、ポットライフの短い欠点があり不便である。」(第282頁右欄第3行〜第14行)
(4)判断
刊行物1〜7には、訂正後の請求項1〜3に係る発明の構成、即ち、
「接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート。」(請求項1)
「樹脂浸透性を有し,且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。」(請求項2)および
「前記炭素繊維の繊維束を前記接着剤層上に間隔を開けてまたは間隔を開けずに一方向に並べて、前記繊維束を上方から押し潰してバラすことにより、前記強化繊維が前記シート上に接着される請求項2記載の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。」(請求項3)
の構成は記載されておらず、示唆もされていない。
そのため、訂正後の請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜7に記載された発明であると認めることができないだけでなく、それらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
したがって、訂正後における請求項1〜3に係る発明は、出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項においてなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定の適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立についての判断
1.申立の理由の概要
特許異議申立人は、甲第1〜7号証(刊行物1〜7と同じ)を提示して、(1)訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明である、
(2)訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、からその特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされた旨の主張をしている。
2.判断
本件明細書は、前記のとおり訂正請求が認められ、訂正後のものとなった。
そして、訂正後の請求項1〜3に係る発明は、独立特許要件の判断の項に示したとおり、刊行物1〜7に記載された発明であると認めることができないだけでなく、それらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることはできない。
3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張及び挙証によって訂正後の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
一方向配列強化繊維シート及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
1)接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜101μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート。
2)樹脂浸透性を有し、且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。
3)前記炭素繊維の繊維束を前記接着剤層上に間隔を開けてまたは間隔を開けずに一方向に並べて、前記繊維束を上方から押し潰してバラすことにより、前記強化繊維が前記シート上に接着される請求項2記載の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、繊維強化プラスチックにより橋梁や高架道路などを初めとする構築物の補強をするに際し、補強現場で施行性良く補強を行なうことができ且つ補強強度も向上することを可能とした一方向配列強化繊維シート及びその製造方法に関する。
従来の技術
橋梁や高架道路などの橋脚を繊維強化プラスチックにより補強することが行なわれている。
その補強の仕方として、従来、
(1)硬化した繊維強化プラスチックを橋脚の補強箇所に貼り付ける方法、
(2)橋脚の補強箇所にプリプレグを貼り付け、その上に加熱硬化時の変形を防止するための押さえテープを巻回して、加熱硬化することにより繊維強化プラスチックと為す方法、
(3)橋脚の補強箇所に強化繊維のクロスを巻き付けて、それに室温硬化型のマトリクス樹脂を含浸させ、押さえテープを巻回後に放置して硬化せることにより、繊維強化プラスチックと為す方法、
が知られている。
発明が解決しようとする課題
しかしながら、上記(1)の方法では、橋脚の補強箇所に対する補強の効率は良好であるが、湾曲した補強箇所では実施できないという大きな欠点がある。
(2)の方法では、橋脚の補強箇所に貼り付けたプリプレグを現場で加熱硬化しなけれらばならないので、加熱硬化の作業が容易でない欠点がある。又、プリプレグは、強化繊維に樹脂が予め含浸されているので保存安定性に問題がある。
(3)の方法では、強化繊維を平織、綾織等によりクロスにして用いているため、強化繊維はその縦糸と横糸とが交わる箇所で強度が弱く、これが原因で繊維強化プラスチックとしたときに十分な補強効果が得られない欠点がある。
上記以外に、橋脚の補強箇所に現場でフィラメントワィンディング法により樹脂を含浸させた強化繊維の糸を巻き付け、その後硬化して繊維強化プラスチックと為す方法も考えられているが、補強対象が限られる上に設備コストが高い等の欠点があり、実用的でない。
従って本発明の目的は、上述の現状に鑑み、保存安定性が良く、繊維強化プラスチックにより橋梁や高架道路などを初めとする構築物の補強をするに際し、補強現場で施行性良く補強を行なうことができ且つ補強強度も向上することを可能とした一方向配列強化繊維シート及びその製造方法を提供することである。
課題を解決するための手段
上記目的は本発明に係る一方向配列強化繊維シートにて達成される。要約すれば本発明は、接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート、および樹脂浸透性を有し、且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法である。
実施例
以下、本発明の実施例について説明する。
第1図は、本発明の一方向配列強化繊維シートの一実施例を示す断面図である。
本発明の一方向配列強化繊維シート1は、接着剤層3を設けた支持体シート2と、接着剤層3を介して支持体シート2上に一方向に配列して接着した強化繊維4とからなり、橋梁や高架道路などの補強現場で強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させて、補強に使用できるようにしてある。
上記支持体シート2としては、スクリムクロス、ガラスクロス、離型紙、ナイロンフィルム等が使用される。通常は支持体シート2は樹脂浸透性を有することを要しないが、マトリクス樹脂をシート2側から強化繊維4に含浸できるようにしたい場合には、シート2に上記のスクリムクロス、ガラスクロス等が使用される。支持体シート2の厚みとしては、可撓性を有し且つ強化繊維4を支持可能な強度を備える観点から、1〜500μm、好ましくは5〜100μm程度あればよい。
接着剤層3を形成する接着剤としては、原則として支持体シート2上に強化繊維4を少なくとも一時的に接着できるものならば何でもよいが、マトリクス樹脂による強化繊維4の補強効果と同様な効果を接着剤層3にも与えるようにすれば好ましい。その観点から接着剤はマトリクス樹脂との相溶性のよい樹脂を使用することが好ましく、例えばマトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を使用するときには、エポキシ系の接着剤を用いることがよい。接着剤層3の厚みとしては、強化繊維4を一時的に接着できればよいことから、5〜100μm、好ましくは10〜30μm程度あればよい。
強化繊維4は、これをフィラメントとして収束剤で多数本収束した繊維束または軽度に撚りをかけて収束した繊維束を接着剤層3上に並べて上方から押し潰すことにより軽度にバラされ、これにより強化繊維4は収束剤または撚りによる結合により複数層に積層した状態で、支持体シート2上に接着剤層3を介して一方向に配列して接着され、かくして所望の強化繊維シート1が得られる。
この場合、複数層の強化繊維4は、第2図(a)に示すように、繊維束4Aを接着剤層3を介して支持体シート2上に密に一方向に並べて、繊維束4Aを上から押し潰すことにより繊維束4Aの下部を接着剤層3に接着して、第2図(b)に示すように、支持体シート2上に横方向に間隔を置かずに密に設けてもよく、或いは、第3図(a)に示すように、繊維束4Aを接着剤層3を介して支持体シート2上に横方向に間隔を開けて一方向に並べて、同様に繊維束4Aを上から押し潰すことにより繊維束4Aの下部を接着剤層3に接着して、第3図(b)に示すように、支持体シート2上に横方向に間隔を置いて疎に設けてもよい。
繊維束4Aは、繊維4同士の間、即ちフィラメント同士の間の開繊を行ったものでも、行わないものでもどちらでも使用することができる。繊維束4Aの押し潰しの程度は、これによって配列した複数層の繊維4の層に得たい層厚にもよるが、炭素繊維の場合を示すと、直径5〜15μmの炭素繊維フィラメントを12000本程度収束した炭素繊維束のとき、これを横方向の幅が5mm程度になるように押し潰すことが一例として挙げられる。
以上のような本発明の一方向配列強化繊維シート1は、例えば第4図に示すようにして製造することができる。
即ち、シート供給ロール6から供給された支持体シート2上に接着剤塗布ロール7で接着剤を塗布して接着剤層3を設けた後、シート2を一対の加圧ローラ8a、8bが設けられた加圧部8へ送り込み、同時に加圧部8へ強化繊維4の繊維束4Aと離型紙ロール10からの離型紙9とを送り込んで、シート2上の接着剤層3上に繊維束4Aを一方向に並べ、その上に離型紙9を重ねる。そしてその状態で加圧ローラ8a、8bと図示しない支持板とで加圧し、繊維束4Aを押し潰すと同時に、これにより軽度にバラされた強化繊維4を接着剤層3を介してシート2上に接着する。その後、離型紙9を離型紙巻取りローール11で巻き取り、必要に応じてフィルム供給ロール12から供給したカバーフィルム13をシート2上の強化繊維4上に被せ、これにより支持体シート2上の接着剤層3を介して強化繊維4を一方向に配列して接着してなる一方向強化繊維シート1が得られる。得られたシート1はシート巻取りロール14に巻き取られる。
本発明の一方向配列強化繊維シート1は、補強現場で強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させて使用されるが、補強箇所へのシート1の貼り付け後にそのまま放置することにより、マトリクス樹脂を硬化することができるようにするために、マトリクス樹脂は室温硬化型の樹脂を使用する。しかしながら、本発明は、加熱硬化によってマトリクス樹脂の硬化の促進を図ることを妨げられるものではない。
室温硬化型樹脂としては、硬化剤の配合を調節して室温で硬化するようにしたエポキシ樹脂等が挙げられる。
一方向配列強化繊維シート1上の強化繊維4へのマトリクス樹脂の含浸は、シート1を補強箇所周囲に貼り付ける前に行っても、シート1の支持体シート2を樹脂含浸性として置いて、シート1を補強箇所の周囲に貼り付けたのち支持体シート2側から行ってもよく、或いは補強箇所の周囲にマトリクス樹脂を塗布し、その上からシート1を貼り付けて押し付けることによりマトリクス樹脂を強化繊維に含浸させてもよい。
一方向配列強化繊維シート1を補強箇所の周囲に貼り付けたのち、支持体シート2側から強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸する場合、第5図に示すように、補強箇所15の周囲表面上にプライマー16としてマトリクス樹脂と同系の樹脂を塗布し、その上からシート1を貼り付けて所望の数だけ積層し、その後最外層のシート1の支持体シート2上からローラ等によりマトリクス樹脂を塗布してシート2を通って浸透させ、マトリクス樹脂を強化繊維4に含浸させるようにする。
以上のいずれかの方法によって強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させられ且つ補強箇所の周囲に貼り付けられた一方向配列強化繊維シート1は、その上に押さえテープを巻回するなどしてカバーを行い、その後そのまま放置してマトリクス樹脂を硬化させ、繊維強化プラスチックと為せばよい。これにより繊維強化プラスチックによる補強が行われる。
本発明の一方向配列強化繊維シート1は以上のように構成される。これによれば、繊維強化プラスチックにより橋梁や高架道路などを初めとする構築物の補強をするに際し、補強現場で強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させて使用するようにしているので、室温硬化型のマトリクス樹脂を使用して、強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させたシート1を補強箇所の周囲に貼り付けてそのまま放置することにより、マトリクス樹脂を硬化させてシート1を繊維強化プラスチックと為すことができ、補強現場でのマトリクス樹脂の加熱硬化という面倒な作業を行うことなく、施行性良く繊維強化プラスチックによる補強を行なうことができる。また強化繊維4を一方向に配列しているので、これをクロスにしたときのような繊維強化プラスチックの強度低下がなく、従って補強強度を向上することができる。更にシート1を補強箇所の周囲に貼り付けた後にマトリクス樹脂を硬化させるので、湾曲した補強箇所でも補強の実施をすることができる。
発明の効果
以上説明したように、本発明の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートは、接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmであり、強化繊維にマトリクス樹脂を予め含浸していないシートであることから保存安定性が良く、又、室温硬化型のマトリクス樹脂を用いて、補強現場で強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させて使用できるようにしているので、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた強化繊維シートを補強箇所の周囲に貼り付けてそのまま放置することにより、補強現場でのマトリクス樹脂の加熱硬化という面倒な作業を行うことなく、マトリクス樹脂を硬化させて繊維強化プラスチックと為して、施工性よく補強を行わせることができる。また強化繊維を一方向に配列しているので、得られる繊維強化プラスチックによる補強強度を向上することができる。また補強箇所が湾曲していても補強の実施を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の一方向配列強化繊維シートの一実施例を示す断面図である。
第2図(a)は、第1図の強化繊維シートでの強化繊維の繊維束の並べ方の一態様を示す断面図である。
第2図(b)は、第2図(a)の繊維束から得られる強化繊維の配列を示す断面図である。
第3図(a)は、第1図の強化繊維シートでの強化繊維の繊維束の並べ方の他の態様を示す断面図である。
第3図(b)は、第3図(a)の繊維束から得られる強化繊維の配列を示す断面図である。
第4図は、第1図の強化繊維シートの製造法の一例を示す説明図である。
第5図は、第1図の強化繊維シートの強化繊維へのマトリクス樹脂の含浸のさせ方の一例を示す断面図である。
1:強化繊維シート
2:支持体シート
3:接着剤層
4:強化繊維
4A:繊維束
15:補強箇所
16:プライマー
17:マトリクス樹脂
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1〜5について、請求2及び3を削除し、請求項4及び5を、請求項2及び3とした上で、下記の通りに訂正する。
「1)接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート。
2)樹脂浸透性を有し,且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。
3)前記炭素繊維の繊維束を前記接着剤層上に間隔を開けてまたは間隔を開けずに一方向に並べて、前記繊維束を上方から押し潰してバラすことにより、前記強化繊維が前記シート上に接着される請求項2記載の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法。」
b.明細書第4頁第20行〜第5頁第9行(公報第3欄第39行〜第47行)の「接着剤層を設けた支持体シートと・・・前記シートが樹脂浸透生を有する。」を「接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmである、補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シート、および樹脂浸透性を有し、且つ、厚みが5〜100μmである支持体シート上に接着剤層を設けて、前記シート上に前記接着剤層を介して炭素繊維を一方向に配列して接着したことを特徴とする補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートの製造方法である。」と訂正する。
c.明細書第12頁第18行〜第13頁第5行(第6欄第28行〜第34行)の「以上の実施例では、一方向配列強化繊維シート1を・・・適用可能である。」を削除する。
d.明細書第13頁第7行〜第12行(公報第6欄第36行〜第41行)の「本発明の一方向配列強化繊維シートは・・・室温硬化型のマトリクス樹脂を用いて、」を「本発明の補強現場で炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて構築物の補強をするための一方向配列強化繊維シートは、接着剤層を設けた支持体シートと、前記接着剤層を介して前記支持体シート上に一方向に配列して接着した炭素繊維とからなり、前記支持体シートが樹脂浸透性を有し、且つ、前記支持体シートの厚みが5〜100μmであり、強化繊維にマトリクス樹脂を予め含浸していないシートであることから保存安定性が良く、又、室温硬化型のマトリクス樹脂を用いて、」と訂正する。
e.明細書第14頁第4行〜第9行(公報第7欄第3行〜第8行)の「更にまた本発明の一方向配列強化繊維シートは・・・できる。」を削除する。
異議決定日 2001-06-20 
出願番号 特願平2-19927
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B32B)
P 1 651・ 113- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鴨野 研一  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 仁木 由美子
石井 克彦
登録日 1999-01-08 
登録番号 特許第2869931号(P2869931)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 一方向配列強化繊維シート及びその製造方法  
代理人 倉橋 暎  
代理人 倉橋 暎  

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