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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
管理番号 1048436
異議申立番号 異議2000-70065  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-04-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-12 
確定日 2001-08-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2918315号「ゴルフボール」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2918315号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続の経緯
特許第2918315号の請求項1に係る発明(以下、「本件請求項1に係る発明」という。)は、平成2年9月7日の出願であって、平成11年4月23日にその発明についての特許の設定登録がなされ、その後、本件請求項1に係る発明について、平成12年1月11日に荒井純子及び同年同月12日に菊地公明より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、これに対して、その指定期間内である平成12年12月25日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。

第2.訂正請求について
1.請求の趣旨及び訂正事項
訂正請求の趣旨は、特許第2918315号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正事項は、下記のイ、ロからなる。
イ.特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を、
「重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3 に設定し、ディンプル総容積を400mm3 より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボール。」と訂正する。
ロ.特許明細書の4頁11〜20行(特許公報の2頁3欄31〜38行)の「課題を解決するための手段」の項における記載を、
「詳しくは、重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3 に設定し、ディンプル総容積を400mm3 より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボールを提供するものである。」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項イ、ロは、上記取消理由において、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1等に記載された「弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている」は不明瞭との指摘に対する訂正で、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、「ディンプル総容積を400mm3 より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている」と訂正したものである。
訂正事項イ、ロにおける「ディンプル総容積400mm3 より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている」ことは、願書に添付した明細書の7頁20行〜8頁7行の「上記ディンプル総容積を、飛距離が最大で弾道高さが最適となる前記280〜400mm3 の範囲から外して、400〜600mm3 としているのは、400mm3 以下にするとボールの飛距離が出すぎるから上記最適範囲の400mm3 以上としており、また、最適範囲の280mm3 以下にするとボールの弾道高さが高くなりボールが上がりすぎるためである。」の記載および表2に表されているデータに基づき訂正し、また、「ゴルフ練習場で使用」は、願書に添付した明細書の1頁17〜19行の産業上の利用分野の項の「ゴルフ練習場においてゴルフボールが場外に飛び出すことがないようにするものである。」との記載に基づき訂正したもので、それぞれ願書に添付した明細書の記載事項の範囲内において訂正したものであるということができる。
そして、訂正事項イ、ロは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件請求項1に係る発明
上記第2.2.で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3 に設定し、ディンプル総容積を400mm3 より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボール。」

2.取消理由通知の概要
当審が通知した取消理由は、
刊行物1として「ゴルフ練習場経営総論」,山下修一著,有限会社KGR出版,昭和63年7月20日,p.92-94、刊行物2として特開昭60-111665号公報、刊行物3として特公昭58-50744号公報、刊行物4として特開平2-102681号公報、刊行物5として特開昭60-92780号公報、刊行物6として特開昭61-71070号公報、刊行物7として特開平2-152475号公報、刊行物8として「解説 平成6年改正特許法の運用」,社団法人発明協会,平成7年10月26日,p.30-35、刊行物9として「ゴルフマガジン1985年7月号」,ゴルフマガジン社,昭和60年7月1日,p.84-93、刊行物10として特開昭63-11179号公報、刊行物11として特開平1-223979号公報、刊行物12として特開昭60-92782号公報、刊行物13として実公昭53-60965号公報、刊行物14として特開昭63-309282号公報、刊行物15として特開昭58-25180号公報をそれぞれ引用し、
本件請求項1に係る発明は、刊行物2、3、7、10〜15に記載された発明であり、また、刊行物5、6、あるいは刊行物2〜5、7、10〜15に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本件請求項1の記載は、菊地公明が提出した特許異議申立書の第13頁第2〜10行に記載された理由により、特許法第36条第4、5項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
以上の理由により、本件請求項1に係る発明についての特許は取り消すべきものであるとしている。

3.引用刊行物の記載事項
当審が通知した取消理由に引用した、
刊行物2(特開昭60-111665号公報)には、
a.「(1)球面を8等分する仮想区画線で囲まれる各球面区割部に全く或はほぼ同一配列パターンにて複数のディンプルが形成されているゴルフボールに於て、ディンプル数400〜550個であって隣り合うディンプルが重ならないことを特徴とするゴルフボール。
(2)下記α値
α=(Σ〔K=1〜N-1〕(Ek-1×Ek)+2×Σ〔K=1〜N-1〕Ek2 )×N/R2ここでR:ゴルフボールの直径(mm)
N:ディンプル総数
Ek:ディンプルエッジからkミクロン深さ方向に下がった地点での直径寸法(ディンプルエッジの開口径面と平行に切断した時の見かけ直径)
n:ディンプル深さ(ミクロン)
が500〜1000の範囲である特許請求の範囲第1項に記載のゴルフボール。」(1頁特許請求の範囲第1、2項)、
b.「ここで用いられる「ディンプル直径」とは、ディンプルが円形の場合、ディンプルに仮想平面を乗せた時その平面にできるディンプルの接円の直径をいう。」(6頁右上欄7〜10行)、
c.「第4図に示す如く開口径面に平行で直径が夫々Ek-1、Ekである2つの面によって形成される円錐台部分の体積ΔV(mm3)は次式で示される。
ΔV=(0.001π/12)×(Ek-12+Ek-1・Ek+Ek2)
深さがnミクロンのディンプルについて有効容積Σ〔K=1〜N-1〕ΔVの近似値(E20を省略、E2n-1と2En-12を近似させる)を求めると
Σ〔K=1〜N-1〕ΔV=(0.001π/12)×Σ〔K=1〜N-1〕(Ek-1・Ek+2Ek2)
で表され、定数部分(0.001π/12)を省略すると前記計算式を得ることができる。」(6頁左下欄14行〜右下欄4行及び第4図)、
d.さらに、刊行物2記載の発明におけるα値を、異議申立人荒井純子提出の特許異議申立書8頁に示すように、下記のとおりディンプル総容積に換算することができる。
A: Σ〔K=1〜N-1〕(Ek-1・Ek+2Ek2)
V1 =(0.001π/12)×A(V1:ディンプル1回の容積)
α=A×N/R2(N:ディンプル数、R:ボール直径)
A=(α×R2)/N
V1 =(0.001π/12)×(α×R2)/N
ディンプル総容積:V=V1×N=(0.001π/12)×(α×R2)
この換算式から刊行物2に示す第3表のディンプル総容積を求めると、異議申立人荒井純子提出の特許異議申立書9頁に示す第3表のように、ボール直径42.7mm、ディンプル総数416又は336のゴルフボールにおいて、No. 11、123、124、126は、ディンプル総容積がそれぞれ468.3mm3 、445.4mm3 、503.6mm3 、534.6mm3 であり、これらのものは、ディンプル総容積が372.8mm3(No.10)〜232.5mm3(No.125)のものより、飛距離(キャリー)が短く、弾道高さが低くなることが、表されていると認められる。
上記a〜dの記載及び第4図の記載からみて、刊行物2には、
「直径が42.7mm、ディンプル総数が416又は336のゴルフボールにおいて、ディンプル総容積が445.4mm3 〜534.6mm3 のものは、ディンプル総容積が372.8mm3 〜232.5mm3 のものより、飛距離(キャリー)が短く、弾道高さが低くなること。」という技術事項が記載されていると認める。

刊行物4(特開平2-102681号公報)には、
a.「1個のゴルフボールに設けるディンプルの総数は240〜600の範囲としており、かつ、ディンプル10の表面を図中仮想線で示す平板20で閉鎖した場合におけるディンプルの空間体積の1個のゴルフボールに示す総和Vは、
250mm3 <V<400mm3 の範囲に設定している。」(3頁左下欄12〜18行及び第4図)、
b.「1個のゴルフボールに占めるディンプルの空間体積の総和を250mm3 以上、400mm3 以下としているのは、250mm3 以下にすると球筋が高くなりすぎ、また400mm3 以上にすると球筋が低くなりすぎる理由による。」(3頁右下欄15〜19行)、
c.「ゴルフボール ラージサイズ(直径42.8mmφ)、」(4頁左上欄6〜7行)と記載されている。
以上のa〜cの記載及び第4図の記載によれば、刊行物4には、
「直径42.8mm、すなわち1.685インチで、ディンプルを240〜600個設け、かつ、各ディンプルの表面を仮想線で示す平板で閉鎖した場合におけるディンプルの空間体積のゴルフボール全体における総和を400mm3 以上にすると250mm3 以上400mm3 以下のものより球筋が低くなるゴルフボール。」という技術事項が記載されていると認められる。

刊行物5(特開昭60-92780号公報)には、
「一般にゴルフボールはその用途により2種に大別される。1種はゴルフコースで通常に使用されるラウンド用ボールであり、他の1種は練習場で使用される練習場用ゴルフボールである。
上記2種のゴルフボールに要求される性能は、同じゴルフボールとは言いながら同じとは言い難い。すなわち、ラウンド用ゴルフボールに要求される性能は良好な打球感と優れた飛距離あるいは伸びのある打球、さらにある程度の耐久性が要求される。
しかしながら、このようなラウンド用ゴルフボールを練習場に用いた場合、何回となく繰返して使用される練習場用のゴルフボールには耐久性が著しく悪く、良好な打球感を保有するものの飛距離が大き過ぎて練習場用には用いることができない。一般にゴルフの練習場は、特に日本の場合、一部の例外を除いて非常に狭い所が多く、フィールドが100mもない所がほとんどである。このような練習場では、先ず高いネットを施しているが、打たれたボールはこのネットに当たり特に初速度の大きいボールをはじめとする飛距離の大きいボールは、ネットを早く損傷し、その寿命を短くし、しばしば練習場の経営を苦しくする。また大きな練習場であってもその全体をネットで覆い尽すのはコスト的に不可能である。従って往々にして打たれたボールがネットを飛び越えてしまう。しかしながら日本のように、民家あるいは他の施設と隣接している練習場でこのようにボールが、ネットを飛び越すことは非常に危険である。従って練習場用ゴルフボールには夫々の大きさやネットの高さに応じてある程度飛距離をコントロールすることが重要である。」(2頁左上欄20〜左下欄11行)と記載されており、

刊行物11(特開平1-223979号公報)には、
a.「ディンプルの総数を、一般的に好ましいディンプル総数の範囲である240〜600個に設定する」(3頁左上欄6〜8行)、
b.「第1実施例においては、……具体的には、直径42.67mmのゴルフボールにおいて、」(3頁左下欄1〜4行)、
c.「第2図中において、Xで示す部分の容積をディンプル1個当たりの容積とすると、ディンプル総数を掛けた総容積は250〜400mm3 としている。」(3頁右下欄19行〜4頁左上欄2行及び第2図)、
d.表1には、「ディンプル諸元として、実施例1は、ディンプル総数360個総容積356mm3 のもので、実施例2は、ディンプル総数384個総容積364mm3 のもので、実施例3は、ディンプル総数432個総容積330mm3 のもので、実施例4は、ディンプル総数504個総容積366mm3 のもの」が示され、「従来例のゴルフボールは、構造を実施例1〜4と同一とし、……ディンプル総数は432個、……総容積411mm3 とした。」(5頁左上欄11〜16行)と記載され、表3には、実施例A〜D(実施例1〜4と同じ)と従来例との飛距離テストを行った結果のものが表されており、これによれば、「従来例のゴルフボールは、実施例1〜4のそれぞれのゴルフボールに比べ、キャリーが短く、キャリーとランを合計したトータルの飛距離においても短いこと」が示されている。
以上のa〜dの記載及び第2図の記載によれば、刊行物11には、
「ボール直径が42.67mm、ディンプル総数が240〜600個の範囲内の432個にし、ディンプル総容積が411mm3 としたゴルフボールは、同直径でディンプル総数が360〜504個、ディンプル総容積が330mm3 〜366mm3 のゴルフボールより、飛距離が短くなること。」という技術事項が記載されていると認める。

4.対比・判断
本件請求項1に係る発明と刊行物4記載の技術事項とを対比すると、
刊行物4記載の技術事項の「ディンプルの表面を仮想線で示す平板で閉鎖した場合におけるディンプルの空間体積」は、通常ディンプルは円弧面に凹設されるものであるから、本件請求項1に係る発明の「ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積」とは、単に表現が相違するのみで、実質上同一の事柄を意味しているということができる。
よって、本件請求項1に係る発明と刊行物4記載の技術事項とは、
「各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和を400mm3 以上に設定すると、ディンプル総容積を400mm3 より小さく設定したゴルフボールより弾道高さが低くくなるゴルフボール」を開示している点で一致しているが、以下の点で相違している。
(1)本件請求項1に係る発明は、重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、ディンプルを300〜550個設けているのに対して、刊行物4記載の技術事項は、直径1.685インチで、ディンプルを240〜600個設けている点、
(2)本件請求項1に係る発明は、ディンプル総容積を400〜600mm3 に設定し、弾道高さが低くくなるとともに飛距離も小さくなるのに対して、刊行物4記載の技術事項は、ディンプル総容積の上限値については限定がなく、また飛距離についての記載もない点、
(3)本件請求項1に係る発明のゴルフボールは、ゴルフ練習場で使用されるものであるのに対して、刊行物4には、そのような用途が記載されていない点。
そこで、(1)の相違点について検討すると、
刊行物4にはゴルフボールの重量について開示されていないが、本件の出願前、日本ゴルフ協会の規格基準は、重量は、45.93グラム以下でなければならないとされ、球の直径は、1.680インチ以上とされており(「ゴルフ規則1990年版」,(財)日本ゴルフ協会,1990年1月1日,p.163、異議記申立人荒井純子提出の参考資料2参照)、これらの数値範囲は周知のことである。
したがって、上記日本ゴルフ協会の規格基準の重量の規格に代え本件請求項1に係る発明のゴルフボールの重量を43〜48gとした点に、臨界的効果は認められない。また、ゴルフボールの直径、ディンプル数においては、本件請求項1に係る発明と刊行物4記載の技術事項又は上記日本ゴルフ協会の規格基準とは、一致する数値範囲のものもあり、特に本件請求項1に係る発明の数値範囲にした点に作用効果上格別の差異も認められないから、相違点(1)にかかる本件請求項1の発明のようにすることは、当業者が容易に変更しうる数値範囲にすぎないことというべきである。
(2)の相違点について検討すると、
刊行物2及び刊行物11には、いずれもディンプル総容積が400〜600mm3 の範囲内にあるゴルフボールは、ディンプル総容積が400mm3 より小さく設定したゴルフボールより飛距離が小さくなることが示されており、(2)の相違点における本件請求項1に係る発明の事項は、当業者が容易に想到できることにすぎない。
(3)の相違点について検討すると、
刊行物5には、練習場ゴルフボールとして、飛距離が小さく、弾道高さの低いものが要求されることが示唆されており、そして、刊行物4、刊行物2及び刊行物11記載の技術事項として、ディンプル総容積を400mm3 以上に設定したゴルフボールは、通常使われるディンプル総容積を400mm3 より小さく設定したゴルフボールより飛距離が小さく、弾道高さの低いゴルフボールとなることが開示されており、かかるゴルフボールを刊行物5に示唆された機能を果たすものとし、ゴルフ練習場で使用するゴルフボールとすることは、当業者であれば容易に想到できることである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物2、4、5、11記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴルフボール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3に設定し、ディンプル総容積を400mm3より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、ゴルフボールに関し、特に、ゴルフボールの表面に設けるディンプルを改良して飛距離と弾道高さを抑え、小さいゴルフ練習場においてゴルフボールが場外に飛び出すことがないようにするものである。
従来の技術
周知のように、ゴルフボールの表面には、ボールが飛ぶ際に、揚力係数を増大させる一方、抗力係数を低減して飛距離の増加を図るために、ディンプルが設けられており、飛距離アップを目指してディンプルの改良が進められている。
しかしながら、ゴルフ練習場では十分な練習面積が確保できないため、ヘッドスピードが速いゴルファーが打ったボールが練習場を飛び出してしまうケースがある。よって、練習用ゴルフボールとして、飛距離および弾道高さが抑制されたゴルフボールが望まれている。
従来、ゴルフボールの飛距離を抑える方法として、特開昭60-92780号でゴルフボールに低反発ゴムを配合して反発係数を低下させ、打出時のボール初速を抑えて飛距離を抑制する方法が提案されている。
発明が解決しようとする課題
しかしながら、従来の低反発ゴムを配合すると共に、通常のレンジボール用ディンプル総容積の金型で製造したゴルフボールは、反発係数を若干低下させることが出来、その結果、通常のゴルフボールと比較して飛距離を5%前後少なくすることが出来るが、弾道を低くする効果は余りない。よって、ネットの低い練習場ではボールが場外に出やすい問題が発生する。弾道を低くしてネット越えを防止するため、さらに、低反発ゴムを多く加えて反発を低くすると、打撃時のフィーリングが悪化する問題がある。
従って、本発明は低反発ゴムを配合することなく、即ち、打撃時のフィーリングを悪化させることなく、弾道高さと飛距離とを抑制し、ゴルフ練習場用で使用するのに適したゴルフボールを提供せんとするものである。
上記したゴルフボールの弾道高さと飛距離は、ゴルフボールの表面に設けられる全てのディンプルの容積の総和、即ち、ディンプル総容積に関連性を有し、ディンプル総容積を増加する程、弾道高さが低くなり、その結果、飛距離が低下する。一般にディンプル総容積が280〜400mm3(ペイントを塗る前のボール測定結果)の時、飛距離が最も大きく、最適の弾道高さになると認められている。
上記した点から鑑みて、本発明は、弾道高さおよび飛距離に関連を有するディンプル総容積を400mm3以上として、弾道高さおよび飛距離が抑制された練習用ゴルフボールを提供し、多少小さい練習場でも飛距離の確認が出来ると共に、ヘッドスピードの速いゴルファーが打ったボールでもネット越えしないようにするものである。
課題を解決するための手段
詳しくは、重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3に設定し、ディンプル総容積を400mm3より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボールを提供するものである。
さらに、上記ディンプルの直径を2.5〜4.2mmの範囲とし、かつ、ディンプルの直径を1種類以上、即ち、直径の異なるディンプルを設けることが好ましい。
作用
上記したように本発明に係わるゴルフボールでは、ディンプルの総容積を400mm3以上としているため、弾道高さ及び飛距離が抑制され、小さい練習場でも飛距離の確認が出来ると共に、ヘッドスピートが速い人でもネット越えを抑制することが出来る。
また、円弧状の各ディンプルの円弧面の深さを深くして各ディンプル容積の増大を図るだけであるため、通常のボルフボールと同様に簡単に金型により製造することが出来る。さらに、低反発ゴムを加えた場合に生じる打撃時のフィーリングの悪さの問題もない。
実施例
以下、本発明に係わるゴルフボールを図面に示す実施例により詳細に説明する。
第1図は本発明に係わるゴルフボールの一部を拡大して示しており、1はゴルフボールの表面に凹設したディンプル、2はディンプル1の外端縁、3はディンプル1が設けられていないゴルフボールの球面状表面である。ディンプル1は断面真円Cの一部を構成する円弧状凹部からなり、その底部中心に最深部Pが位置する円弧状としており、ゴルフボールの表面に設けるディンプル1の形状を全て円弧状としている。しかしながら、ディンプル1の表面積(即ち、外端縁2に囲まれた仮想平面Fからなる直径tの真円の面積)は1種類に限定されず、上記直径tを2.5〜4.2mmの範囲としたディンプルを複数種類設けることが出来る。但し、1種類としても良いことは言うまでもない。
本発明のゴルフボールは、重量が43〜48g、直径が1.65〜1.71インチで、上記円弧形状のディンプルを300〜550個備えている。
上記ディンプル1は、その形状を上記したように円弧状に限定している以外に、ゴルフボールの表面全体に設ける全てのディンプルの容積の総和(ディンプル総容積)が400〜600mm3の範囲になるように設定している。
本発明のディンプル容積は外端縁2により囲まれた円形の仮想平面Fと球面上に凹設された円弧面Sとにより囲繞された図中斜線で示す部分Zの容積をさしている。具体的には、
VD:ディンプルの容積、
x:ディンプルの深さ(仮想平面Fからディンプル中心の最深位置Pまでの距離)、
t:ディンプルの半径(仮想平面Fの半径)
r:ディンプルの曲率(円Cの半径)、
ディンプル最深位置Pの座標を(0,0)とした時に、該ディンプル最深位置Pと円Cの中心Oを結ぶ直線と仮想平面Fとの交点の座標(0、Xo)とすると、

とし、DV×(ディンプル総数)=400〜600mm3としている。
上記ディンプル総容積を、飛距離が最大で弾道高さが最適となる前記280〜400mm3の範囲から外して、400〜600mm3としているのは、400mm3以下にするとボールの飛距離が出すぎるから上記最適範囲の400mm3以上としており、また、最適範囲の280mm3以下にするとボールの弾道高さが高くなりボールが上がりすぎるためである。上記ディンプルの総数を300〜550個としているのは、この範囲外ではディンプルの適正な効果が得られないからである。
上記したディンプル1の配列は限定されず、周知の正八面体配列、立方八面体配列などの適宜な配列が採用される。
上記本発明に係わるゴルフボールの飛距離と弾道高さを実証するために、下記の表1に示すように、本発明のゴルフボールの実施例と従来のゴルフボールの比較例とを作成した。実施例1〜5および比較例1のゴルフボールは練習用ボールに使われている一層のゴムよりなる1ピースボールで製作しており、ディンプル総容積はペイント前の状態で測定している。

上記表1に示すように、実施例1、2、3と比較例1は第2図(I)(II)に示す正八面体配列で、ディンプル総数は336個とし、ディンプルは全て直径3.7mmとしている。しかしながら、ディンプル総容積を変えるために、実施例1、2、3はディンプルの深さxと曲率rとを変えて、ディンプル総容積を420〜570mm3の範囲としている。一方、比較例1はディンプルの深さx及び曲率rを変えてディンプル総容積を370mm3として飛距離及び弾道高さが増大する範囲内に設定している。
実施例4および実施例5は第3図(I)(II)に示す立方八面体配列としており、ディンプルとしては直径が相違する4種類のディンプルを設け、ディンプル総容積はそれぞれ420mm3、470mm3としている。
上記した実施例1〜5および比較例1のゴルフボールをドライバーを使用して、ヘッドスピード49m/sと45m/sで、ツルーテンパー社製フライトマシーンを使って打撃し、飛距離および弾道高さを測定した。
測定項目である飛距離は、第4図に示すように、ゴルフボール打出点G1から打ち出されたボールが初めて着地した地点G2までを示し、弾道高さは打出点G1より飛行中のボールの最高点を結んだ線と水平線のなす角度αを示す。また、ゴルフボール打出点G1より175mの地点に高さ20mのネットがあるように想定し、その地点を通過するボール高さを測定し、ネット越えをするか否かを調べた。測定は1種類のボールについて20個打撃して、その平均値を出している。天候条件は晴天、微風、気温25℃であった。
実験結果は下記の表2に示すように、ヘッドスピード49m/s、45m/sで打撃されたボールは、そのディンプル総容積が増大するに伴って、飛距離および弾道高さを抑えることが出来た。また、175mの地点での高さでは、比較例のみ20mを越えるが、本実施例1〜5の場合はいずれも20mに達せず、20mのネットがあると想定した場合には、ネット越えを防止出来ることが確認された。

効果
以上の説明より明らかなように、本発明に係わるゴルフボールはディンプル総容積を400mm3〜600mm3に設定しているために、飛距離および弾道高さを抑制することが出来る。その結果、小さい練習場でも飛拒離の確認が出来ると共に、ヘッドスピードの速いゴルファーが打ったボールについてもネット越えを抑制することが出来る。
かつ、ディンプル総容積と弾道高さとの関係より、ネット高さに合わせてディンプル総容積を設計して、ネット越えを防止することが出来る。
また、ディンプルの形状は通常のディンプルの形状と同様な円弧状で、その深さおよび曲率を変えるだけであり、かつ、低反発ゴムを加えていないため、通常のゴルフボールと同様に容易に製造出来ると共に、ゴルファーにおいても打撃時のフィーリングが悪くなることなく、かつ違和感を生じない等の種々の利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係わるゴルフボールの要部拡大図、第2図(I)は本発明に係わるゴルフボールの第1実施例から第3実施例および第1比較例のディンプルの配列を示す平面図、第2図(II)は第2図(I)の正面図、第3図(I)は本発明に係わるゴルフボールの第4実施例および第5実施例のディンプルの配列を示す平面図、第3図(II)は第3図(I)の正面図、第4図は測定方法を示す図面である。
1……ディンプル、2……外縁部。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を、特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的として、
「重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3に設定し、ディンプル総容積を400mm3より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボール。」と訂正する。
2.特許明細書の4頁11〜20行(特許公報の2頁3欄30〜38行)の「課題を解決するための手段」の項における記載を、明りようでない記載の釈明を目的として、
「詳しくは、重量43〜48g、直径1.65〜1.71インチで、円弧形状に凹設されたディンプルを300〜550個設け、かつ、各ディンプルの凹設された円弧面とその外縁によって囲まれた仮想平面とで囲繞される各ディンプルの容積のゴルフボール全体における総和(ディンプル総容積)を400〜600mm3に設定し、ディンプル総容積を400mm3より小さく設定したゴルフボールより弾道高さを低くするとともに飛距離を小さくしている、ゴルフ練習場で使用されるゴルフボールを提供するものである。」と訂正する。
異議決定日 2001-05-31 
出願番号 特願平2-238414
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A63B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 北川 清伸  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 鈴木 寛治
白樫 泰子
登録日 1999-04-23 
登録番号 特許第2918315号(P2918315)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 古関 宏  
代理人 大和田 和美  
代理人 豊田 武久  
代理人 大和田 和美  

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