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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1048461 |
異議申立番号 | 異議2000-71311 |
総通号数 | 24 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-04-04 |
確定日 | 2001-07-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2955213号「プロスタグランジン誘導体を含有する緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2955213号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2955213号の発明についての出願は、平成1年9月6日(優先権主張1988年9月6日、1988年10月28日、スウェーデン)に特許出願した特願平1-509228号の一部を平成7年9月20日に新たな特許出願とし、平成11年7月16日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成13年3月19日に訂正請求(その後取り下げ)がなされ、再度取消の理由が通知され、その指定期間内である平成13年6月8日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正請求について 1.訂正の内容 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の【請求項1】に記載中の「R2はフェニル基のような環構造であり、」を、「R2はフェニル基であり、」と訂正する。 イ.訂正事項b 特許請求の範囲の【請求項1】に記載中の「;または環原子5〜6個を有する芳香族ヘテロ環基、または環内に炭素原子3〜7個を有するシクロアルカンまたはシクロアルケン、ただし、場合により炭素原子1〜5個の低級アルキル基で置換されているもの」を削除する。 ウ.訂正事項c 特許請求の範囲の【請求項1】に記載中の「PGA、PGB、PGD、PGEまたは」を削除する。 エ.訂正事項d 特許請求の範囲の【請求項8】に記載中の「(5)17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGE2-イソプロピルエステル (6)13,14-ジヒドロ-17-フエニル-18,19,20-トリノル-PGA2-イソプロピルエステル」を削除する。 エ.訂正事項e 明細書の段落【0010】記載中の「R2はフェニル基のような環構造であり、」を、「R2はフェニル基であり、」と訂正し、明細書の段落【0010】記載中の「;または環原子5〜6個を有する芳香族ヘテロ環基、または環内に炭素原子3〜7個を有するシクロアルカンまたはシクロアルケン、ただし、場合により炭素原子1〜5個の低級アルキル基で置換されているもの」を削除し、明細書の段落【0001】記載中の「PGA、PGB、PGD、PGEおよび」を削除し、明細書の段落【0007】記載中の「A、B、D、Eおよび」を削除し、明細書の段落【0014】記載中の「PGA、PGD、PGEまたは」を削除し、さらに「PGA2、PGD2、PGE2および」を削除し、明細書の段落【0015】記載中の「PGA、PGB、PGD、PGEおよび」を削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、訂正前の請求項1に記載された「R2」の範囲を「R2はフェニル基であり、」に限定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、訂正事項bは、請求項1に記載されたR2についてのさらなる定義を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、訂正事項cは、「プロスタグランジンPGA、PGB、PGD、PGEまたはPGF」を「プロスタグランジンPGF」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、訂正事項dは、請求項8に記載された化合物から(5)、(6)の化合物を削除し、プロスタグランジン誘導体を「PGF2α」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、訂正事項eは、訂正事項a〜dにより生じた特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するもので、いずれの訂正事項も、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 3.むすび したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する同第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.本件発明 訂正後の請求項に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜8に記載されたとおりのものである。 「【請求項1】オメガ鎖が下記式: (13) (14)(15-24) C B C - D - R2〔式中、Cは炭素原子(数はカッコ内に表示)であり、Bは単結合、二重結合または三重結合であり、Dは炭素原子1〜10個の鎖であり、各炭素原子上の置換基はH、アルキル基、カルボニル基、またはヒドロキシ基であり、R2はフェニル基であり、末置換であるか、またはC1〜C5アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、トリフルオロメチル基、C1〜C3脂肪族アシルアミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、およびフェニル基から選択される置換基の少なくとも1つを有するものである〕の構造を有する、プロスタグランジンPGFの、治療活性があり生理学的に許容される誘導体(但し、13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステルを除く)の、眼圧低下有効量を眼科用に適する担体中に含有する緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物。 【請求項2】プロスタグランジン誘導体がエステルである請求項1記載の眼科用組成物。 【請求項3】式中、Dが炭素原子2〜8個を有する鎖である請求項1または2記載の眼科用組成物。 【請求項4】式中、Dが炭素原子2〜5個を有する鎖である請求項3記載の眼科用組成物。 【請求項5】式中、Dが炭素原子3個を有する鎖である請求項4記載の眼科用組成物。 【請求項6】式中、Bが単結合または二重結合であり、C15がカルボニル基であるかまたは(R)-OHもしくは(S)-OHで置換されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼科用組成物。 【請求項7】式中、R2が未置換であるかまたはC1〜C5アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、トリフルオロメチル基、C1〜C3脂肪族アシルアミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子またはフェニル基から選択される置換基の少なくとも1つを有するフェニルである請求項1〜6のいずれか1項に記載の眼科用組成物。 【請求項8】プロスタグランジン誘導体が (1)16-フエニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル (2)17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (3)15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (7)15-(R)-17-フエニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (8)16-〔4-(メトキシ)-フェニル〕-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル (10)18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2α-イソプロピルエステル (20)19-フェニル-20-ノル-PGF2α-イソプロビルエステル からなる群から選択される請求項1記載の眼科用組成物。」 IV.特許異議申立について 1.特許異議申立の概要 特許異議申立人 花井恭子は、甲第1号証及び甲第2号証を提出して、訂正前の特許第2955213号の請求項1〜8に係る各発明は、前記甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1〜8に係る各発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の特許第2955213号の請求項1〜8に係る各発明は、前記甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る各発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、特許第2955213号の請求項1〜8に係る発明の特許は、その明細書が特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべき旨主張している。 2.異議申立についての判断 (1)特許法第29条第1項又は第29条第2項違反について (i)甲号証の記載事項 甲第1号証(特開昭54-16453号公報)には、以下の記載がされている。 「1.式 のプロスタサイクリン類似体、 〔式中Z1は(1)・・・であり、 R8は水素、ヒドロキシ又はヒドロキシメチルであり、 Y1は(1)トランス-CH=CH-、 (2)シス-CH=CH-、 (3)-CH2-CH2-、 (4)トランス-CH=C(ハロ)-、又は (5)-C≡C- (ここでハロはクロロ又はブロモ)であり、 M1は (ここでR5は水素又は1〜4個の炭素原子のアルキル)であり、 L1は との混ざったもの (ここでR3とR4は水素、メチル、又はフルオロであって同じもの又は異なるものであるが、但しR3とR4の一方が水素又はフルオロの時にのみ他方がフルオロであるとの条件付き)であり、 X1は(1) -COOR1{ここでR1は、水素・・・}、 (2)-CH2OH、又は (3)-CH2NL2L3 (・・・) (4)-COL4 {ここでL4は・・・}、又は (5) テトラゾルであり、 R7は (ここでmは整数1〜5であり、hは整数0〜3であり、sは整数0、1、2又は3であり、Tはクロロ、フルオロ、トリフルオロメチル、1〜3個の炭素原子のアルキル又は1〜3個の炭素原子のアルコキシであるか、又は2個を越えないTがアルキル以外であることを条件としている)であり、〜はα又はβ立体配置、或いはα及びβ立体配置の混合している結合を示す〕 及びR2がアルキルカルボニルでなく、R1が薬理学的に受け入れられる陽イオンでない時には、薬理学的に受け入れられるその酸付加塩。」(特許請求の範囲1) 「本発明はプロスタサイクリン(PGI2)の薬理学的類似体であるプロスタグランジンE化合物の構造上の新規な類似体に関する。更に詳しくは、本発明はC-6炭素原子がヒドロキシで置換されているプロスタグランジンE型化合物に関する。」(5頁左上欄2行〜6行) 「R7が-(CH2)m-CH3(mは上に定義されたとおり)の時には、本明細書の新規化合物は、mが1、2、4又は5の時にそれぞれ19,20-ジノル-PGE1型、20-ノル-PGE1型、20-メチル-PGE1型、又は20-エチル-PGE1型化合物と名付けられる。 (Tとsは上に定義されとおり)で、R3とR4のいずれもメチルでない時には、本明細書の新規化合物はsがゼロの時に16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGE1型化合物と名付けられる。sが1、2又は3の時には、対応する化合物は16-(置換フェニル)-17,18,19,20-テトラノル-PGE1型化合物と名付けられる。・・・R7が本節で定義されたとおりの対応化合物は、それぞれ16-フェニル-又は16-(置換フェニル)-18,19,20-トリノル-PGE1型又は16-メチル-16-フェニル又は16-(置換フェニル)-18,19,20-トリノル-PGE1型化合物と名付けられる。 (Tとsは上に定義されとおり)の時には、本明細書の新規化合物はsがゼロの時には17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGE1型化合物と名付けられる。sが1、2又は3の時には、対応化合物は17-(置換フェニル)-18,19,20-トリノル-PGE1型化合物と名付けられる。 (Tとsは上に定義されとおり)の時には、本明細書の新規化合物類は、sが0の時には18-フェニル-19,20-ジノル-PGE1型化合物と名付けられる。sが1、2又は3の時、対応化合物は18-(置換フェニル)-19,20-ジノル-PGE1型化合物と名付けられる。 (Tとsは上に定義されとおり)の時には、本明細書の新規化合物は、sが0の時には19-フェニル-20-ノル-PGE1型化合物と名付けられる。sが1、2又は3の時には、対応化合物は19-(置換フェニル)-20-ノル-PGE1型化合物と名付けられる。」(8頁左下欄5行〜9頁左上欄6行) 「本発明で明らかにされた新規プロスタグランジン類似体は複数のプロスタサイクリン状の生物学的応答を作り出すため、これらの化合物が種種の薬理学上の目的に有用なものとなっている。生物学的応答は特に血小板凝集の阻止、平滑筋刺激、血圧低下、・・・及び眼球内圧の減少を包含する。従って、本発明の新規プロスタグランジン類似体は下記のように哺乳類、特に人間・・・における疾病と他の望ましくない生理的条件の・・・薬剤として使用される。」(13頁左下欄10行〜右下欄5行) 「(l)眼球内圧力の減少 最後に本発明の新規プロスタグランジン類似体は、人間の眼球内の異常な高圧が患者の視力に脅威となる疾病状態(すなわち緑内障)において、眼球内圧の減少に対して有用である。この目的には多くの投与経路がうまく用いられるが、無菌の眼薬(たとえば点眼薬の形のもの)の直接適用が便宜上、また全身的影響を最小限度にするためにも好ましい経路である。究極適量は患者の反応により、著しく低い眼球内圧及び眼球組織の刺激のような局所的副作用ないことから容易に決定されるが、無菌点眼溶液数滴当たり約0.05〜50mgの初期適量水準を一日2〜4回繰り返して使用する。点眼薬の形で投与されるときには、薬剤の吸収を適当にするためには、本発明の2-デカルボキシ-2-アミノメチルPGE1類似体が使用される。・・・更に本明細書のプロスタグランジン類似体はプロスタサイクリンに比べてより長い化学的安定性を示し、薬理学的薬剤として処方及び使用を容易にしている。・・・この改良された有用性は、本発明の新規プロスタサイクリン類似体が高められた効力又は作用の選択度を示し、このためこれらの好ましい薬理学上の用途の一つに対して投与された時に、より少ない望ましくない副作用しか示さない。」(17頁右上欄3行〜左下欄14行) 「上記の実施例の手順に従うが、適当な出発材料を使用して、遊離酸、アミド又はエステル型の(6S)-6-ヒドロキシ-PGE1型化合物、又は(6R)-6-ヒドロキシ-PGE1型化合物、(6RS)-6-ヒドロキシ-PGE1型化合物がつくられ、これらは次のような側鎖の置換基をもっている。」(28頁右下欄10行〜15行) 「及びそれらの対応する11-デオキシ-PGF1及び11-デオキシ-11-ヒドロキシメチル-PGF1類似体類。」(36頁左下欄3行〜5行) そして、図A〜図Cを記載し、「上の図は、本発明の新規プロスタグランジン類似体の製造が達成される方法を記載したものである。」(18頁右上欄〜20頁左下欄3行)と記載され、「図Aに関して、式XXIラクトールへのアルキン添加によって6-ケト-PGF型中間体を生じ、次にこれを式XXXプロスタグランジン類似体へ添加する方法が提供されている。」(21頁左上欄8行〜11行)と記載され、「図Bは、式XL生成物の製造が式XXXIPGF2α型11,15-ビス(エーテル)から進む方法を記載している。」(22頁左上欄6行〜7行)と記載され、「図Cに関しては、6-オキソ-PGF1型化合物が対応する6-ヒドロキシ-PGE1型化合物へ転化される方法が提供されている。」(22頁右下欄10行〜12行)と記載されている。 甲第2号証(特開昭59-1418号公報)には、以下の記載がされている。 「(1)有効量のPGF2αのC1乃至C5アルキルエステルと眼科的に許容し得るキャリヤとを含んでいることを特徴とする霊長類の眼の緑内障局所治療用組成物。 (2)前記C1乃至C5アルキルエステルがPGF2αメチルエステル、PGF2αエチルエステル、PGF2αイソプロピルエステル又はPGF2αイソブチルエステルであることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の組成物。 (3)前記C1乃至C5アルキルエステルが脂質溶解性であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の組成物。」(特許請求の範囲1〜3項) 「本発明の霊長類の緑内障と眼圧亢進との治療法はこれらの疾患に懼つた眼に有効量のエイコサノイドを局所適用することからなる。・・・本発明の目的達成に使用され得るエイコサノイドには、プロスタグランジンとその誘導体、例えばPGE2、PGF2αとこれらの誘導体、が包含される。PGF2αのC1乃至C5アルキルエステル、特にPGF2α-メチル-エステルが好ましい。」(3頁左下欄11行〜右下欄2行) 「エイコサノイド類の中でもプラスタグランジン(PGs)はとりわけ有効であることが判明した。特にPGE2とPGF2αとこれらの誘導体とは長期に亘り効力を発揮し続けた。」(3頁右下欄13行〜16行) 「脂質溶解性のPGE2誘導体とPGF2α誘導体とは眼圧亢進の治療上特に好ましい化合物である。その脂質溶解性によって霊長類の眼の保護層により容易に浸透し且つ使用量も非脂質溶解性のPGsより少量でよいことが確認されたからである。特にPGF2αのC1乃至C5アルキルエステル、例えばPGF2αメチルエステル、PGF2αエチルエステル、PGF2αイソプロピルエステル、及びPGF2αイソブチルエステルなどが適切な脂溶性PGF2α誘導体として挙げられよう。」(4頁左上欄4行〜13行) 「PGE2は眼圧降下としてPGF2αよりもかなり有用であるが、PGE2のいくつかは血液-房水障壁破裂、眼圧亢進及び虹彩充血などの副作用も強いことが判明している。さらにE型のPGを生体内、特にPG輸送抑制剤で前処理した動物へ、多量投与した場合、網膜電気作用に対して悪影響を持つことが知られている。・・・さらにE型のPGは水溶液内で不安定であるが、PGF2α、その塩及びそのほとんどの誘導体は室温においても極めて安定性がある。最後にF型のPGsはPGE2よりもより水溶性である。以上の考察から、F型のPGsはE型のPGsより緑内障を長期治療する際強力な治療薬としてより多く選択され得ることが示唆される。」(12頁左下欄9行〜7行) (ii)判断 (a)訂正後の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)について 甲第1号証には、プロスタサイクリン類似体が示され、具体的にはプロスタグランジンE型化合物が示されている。そして、そのプロスタグランジンE型化合物誘導体のオメガ鎖(プロスタグランジンの側鎖であり、シクロペンタン環の12位に結合した番号13から20番の炭素鎖)がフェニル基又はその誘導体で置換されたプロスタグランジンE型化合物が示されており、このフェニル基又はその誘導体で置換されたプロスタグランジンE型化合物が眼圧低下作用及び緑内障の治療に用いられることが示されている。 本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、オメガ鎖にフェニル基又はその誘導体を置換基として有するプロスタグランジン類化合物の、緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物の点で一致するものであるが、 プロスタグランジン類化合物として、本件発明がプロスタグランジンFであるのに対し、甲第1号証のものはプロスタグランジンEである点で相違している。 この相違点について検討する。 甲第1号証の図A〜図Cに示された合成経路及びその図についての説明を参酌すると、甲第1号証の眼科用組成物として使用するプロスタグランジンE化合物は、プロスタグランジンF化合物誘導体を経由して得る方法も示されている。しかしながら、前記プロスタグランジンE化合物はR7の定義からも明らかなように、R7は必ずしもフェニル基又はその誘導体で置換された化合物ではないし、28頁右下欄〜36頁左下欄の記載からも明らかなように、出発原料として用いられるプロスタグランジンF化合物に対応する化合物は11-デオキシ又は11-デオキシ-11-ヒドロキシメチルを有するものであり、プロスタグランジンF化合物(9-ヒドロキシ-11-ヒドロキシ置換基を有する化合物)そのものではないのである。したがって、甲第1号証には、本件発明のプロスタグランジンPGFからなる緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物が記載されているとはいえない。 また、甲第1号証の眼科用組成物は、プロスタグランジンEのオメガ鎖をフェニル基誘導体で置換することにより、特定のプロスタグランジン類似体を得、このプロスタグランジン類似体を眼科用組成物として使用するものであり、このプロスタグランジンE化合物を得る方法として、プロスタグランジンF化合物誘導体から得る方法を示していることを考慮すると、甲第1号証の発明が、プロスタグランジン類似体としてプロスタグランジンEと同様にプロスタグランジンFも含むことを意図していたとはいえない。 してみると、甲第1号証の眼科用組成物に使用するプロスタグランジン類似体として、プロスタグランジンFも含まれることが予想できるものではないから、プロスタグランジン類似体として、プロスタグランジンPGFを採用する本件発明は、甲第1号証の記載から容易に予測できたものとはいえない。 甲第2号証には、エイコサノイドを局所適用することからなる緑内障と眼圧亢進との治療について示され、エイコサノイドには、プロスタグランジンとその誘導体があり、PGE2、PGF2αが包含されることが示されている。そして、PGE2誘導体とPGF2α誘導体とが眼圧亢進の治療上特に好ましい化合物であることも示されている。しかしながら、眼圧亢進の治療上特に好ましい化合物であるとするPGE2誘導体とPGF2α誘導体との記載は、プロスタグランジン化合物のアルファ鎖をエステル化した脂質溶解性を共通とする化合物について示されているものであり、オメガ鎖にフェニル基誘導体を置換基として有するプロスタグランジン化合物についてまで、作用効果が同等なものであることを示しているものではないし、示唆されているといえるものでもない。 そうすると、甲第2号証に、PGE2誘導体とPGF2α誘導体とが眼圧亢進の治療上特に好ましい化合物であることが示されているとしても、示されている技術はプロスタグランジン化合物のアルファ鎖のエステルに関する技術であり、オメガ鎖に関するものではないから、オメガ鎖に関する技術が記載されている甲第1号証に、甲第2号証の技術を適用しても、本件発明の構成は導きだせないというべきである。 そして、本件発明は特許明細書に記載された格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明は、前記甲第1〜2号証に記載された発明から容易に発明をすることができたとはいえない。 (b)訂正後の請求項2〜8に係る各発明について 訂正後の請求項2〜8に係る各発明は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、訂正後の請求項1について示した理由と同様、訂正後の請求項2〜8に係る各発明が、前記甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)特許法第36条違反について (i)特許異議申立人主張は、 「請求項1には、オメガ鎖のみにより特定されるプロスタグランジンPGA、PGB、PGD、PGE又はPGFの誘導体が記載されている。しかしながら、本件特許発明の誘導体は、アルファ鎖については全く規定されておらず、その誘導体で規定される化合物の範囲は極めて不明瞭であり、その外延は技術的に把握することが困難である。特に、本件特許明細書では、具体的にその薬効を確認しているプロスタグランジン誘導体は、例えば、アルファ鎖に関して言えば、以下の式で示されるものだけである(4頁表L参照)。 COOIE(IEは、イソプロピル基である。) このような極めて僅かな化合物の効果を確認しただけで、あらゆる天然アルファ鎖及びその誘導体まで包含されるとすることは、開示の対象として独占権を付与するとする特許法の趣旨に全く反することである。特に、医薬発明の場合には、用途発明であるから、その用途との関係で合理的な予測性のある範囲に限定されるべきものである。例えば、アルファ鎖の範囲を、エステルに限定すべきであるとともに、本件特許明細書3頁に記載されている具体的な構造に基づいて妥当な範囲に限定すべきである。 因みに、本件特許に対応する米国特許では、その審査の過程で、やはり、「誘導体」の用語が問題になり、クレームから「誘導体」という用語を削除し、化合物として構造を特定し、その構造において、アルファ鎖も特定している。 また、請求項1の記載「フェニル基のような環構造」についても、どの範囲の環構造のものが包含されるのか技術的に不明瞭である。」というものである。 (ii)判断 訂正後の請求項1に係る発明については、その記載中「プロスタグランジンPGA、PGB、PGD、PGE」は削除され、また、「フェニル基のような環構造」についても「フェニル基」に限定され、さらに、「;または環原子5〜6個を有する芳香族へテロ環基、または環内に炭素原子3〜7個を有するシクロアルカンまたはシクロアルケン、ただし、場合により炭素原子1〜5個の低級アルキル基で置換されているものである」との記載も削除され、結局、「フェニル基」は末置換であるか、またはC1〜C5アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、トリフルオロメチル基、C1〜C3脂肪族アシルアミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、およびフェニル基から選択される置換基の少なくとも1つを有するフェニル基に限定された。 そして、訂正後の請求項1に係る発明は、プロスタグランジンPGFに限定され、R2に関しても前記記載の「フェニル基」に限定され、少なくともそれらの化合物についてのいくつかは具体的な試験例で裏付けされたものであるから、訂正後の請求項1に係る発明の範囲が格別不明瞭であるとはもはやいえない。さらに、訂正後の請求項1に係る発明は、オメガ鎖をフェニル基で置換したことにより従来の化合物とは異なる効果を得るものであることから、オメガ鎖とは直接関係しないアルファ鎖が特定されていないとしても、アルファ鎖については、通常使用されている定義に含まれる範囲のものと理解でき、また、具体例でも示されており、アルファ鎖に関し格別従来の化合物とは異なるものでない以上、訂正後の請求項1に係る発明が不明瞭であるとはいえない。 したがって、本件明細書に、特許異議申立人の言う記載不備があるとはいえない。 V.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜8に係る各発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜8に係る各発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 プロスタグランジン誘導体を含有する緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 オメガ鎖が下記式: 【化1】 〔式中、Cは炭素原子(数はカッコ内に表示)であり、Bは単結合、二重結合または三重結合であり、Dは炭素原子1〜10個の鎖であり、各炭素原子上の置換基はH、アルキル基、カルボニル基、またはヒドロキシ基であり、R2はフェニル基であり、未置換であるか、またはC1〜C5アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、トリフルオロメチル基、C1〜C3脂肪族アシルアミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、およびフェニル基から選択される置換基の少なくとも1つを有するものである〕の構造を有する、プロスタグランジンPGFの、治療活性があり生理学的に許容される誘導体(但し、13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステルを除く)の、眼圧低下有効量を眼科用に適する担体中に含有する緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物。 【請求項2】 プロスタグランジン誘導体がエステルである請求項1記載の眼科用組成物。 【請求項3】 式中、Dが炭素原子2〜8個を有する鎖である請求項1または2記載の眼科用組成物。 【請求項4】 式中、Dが炭素原子2〜5個を有する鎖である請求項3記載の眼科用組成物。 【請求項5】 式中、Dが炭素原子3個を有する鎖である請求項4記載の眼科用組成物。 【請求項6】 式中、Bが単結合または二重結合であり、C15がカルボニル基であるかまたは(R)-OHもしくは(S)-OHで置換されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼科用組成物。 【請求項7】 式中、R2が未置換であるかまたはC1〜C5アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、トリフルオロメチル基、C1〜C3脂肪族アシルアミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子またはフェニル基から選択される置換基の少なくとも1つを有するフェニルである請求項1〜6のいずれか1項に記載の眼科用組成物。 【請求項8】 プロスタグランジン誘導体が (1) 16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル (2) 17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (3) 15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (7) 15-(R)-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (8) 16-〔4-(メトキシ)-フェニル〕-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル (10) 18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2α-イソプロピルエステルおよび (20) 19-フェニル-20-ノル-PGF2α-イソプロピルエステル からなる群より選択される請求項1記載の眼科用組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 本発明は環構造を有するようにオメガ鎖が変性されたことを共通の特徴とするPGFのプロスタグランジン誘導体の緑内障または眼圧亢進の治療のための、使用に関する。また本発明はこれらのプロスタグランジン誘導体の有効量を含有する眼科用組成物およびこれらの組成物の製造に関する。 【0002】 緑内障は眼圧増大、視神経頭部の陥凹および徐々に視野を失うという特徴を有する眼の疾患である。異常に高い眼圧が眼に悪影響を与えることは一般的に知られており、緑内障患者においてはこれはおそらく網膜の退行性変化の最重要因子であることが明らかに示されている。しかしながら、開放角緑内障の病理生理学的機構は未だ明らかにされていない。もし緑内障の治療が成功しないと早晩失明するが、その段階に至る過程は概して遅く、視界の低下の進行を伴う。 【0003】 眼圧、即ちIOPは下記式: IOP=Pe+F×R (1) 〔式中、Peは強膜上静脈圧で一般的に約9mmHgとされており、Fは房水の流量を示しており、Rは小柱網および隣接組織を通過してシュレム管へ房水が流出する際の抵抗である〕 に従って定めることができる。シュレム管を通過するほか、さらに房水は毛様体筋を通過して脈絡上板窩へ至り、最終的に強膜を通過して眼を離れる場合もある。このブドウ膜強膜経路は例えばBillにより報告されている(1975)。この場合の圧力勾配は前に述べた場合のシュレム管と隣接組織の内壁にかかる勾配と比較して取るに足りないものである。ブドウ膜強膜経路の流動の律速段階は前眼房から脈絡上板窩への流動であると考えられている。 【0004】 より完全には式は以下の通りである。 IOP=Pe+(Ft-Fu)×R (2) (式中、PeおよびRは前記した通りであり、Ftは房水の全流量そしてFuはブドウ膜強膜経路を通る画分である)。 ヒトのIOPは正常では12〜22mmHgの範囲である。より高い値、例えば22mmHgを超えた場合、眼が冒される危険がある。緑内障の1つの形態である低圧緑内障においては、生理学的に正常であるとみなされる水準ではない眼圧において障害が起こる場合がある。その原因はこれらの患者個人の眼が圧力に対して特に敏感であるためと考えられる。逆の場合も知られており、患者によっては、視野や視神経頭部に何ら明らかな障害もないのに異常に高い眼圧を示す場合もある。このような症状は通常眼圧亢進と呼ばれている。 【0005】 緑内障の治療は薬物、レーザーまたは外科的処置により行うことができる。薬物流量においては、流量(F)または抵抗(R)の低下を目的としており、これにより、前記の式(1)に従って、IOPが低下する。あるいは、ブドウ膜強膜経路の流量を増大させることにより、式(2)に従って、圧力を低下させる。コリン作用性のアゴニスト、例えばピロカルピンは、主にシュレム管からの流出量を増加させることにより眼圧を低下させる。 【0006】 近年IOP低下物質としてますます注目されているプロスタグランジンはブドウ膜強膜流出量を増大させる作用を有している(Crawford等、1987年;Nilsson等、1987年)。しかしながらこれらは房水の形成またはシュレム管からの従来の流出量に対する作用を有していないと考えられている(Crawford等、1987年)。 プロスタグランジンおよびその誘導体の使用は、例えば、米国特許4599353号、欧州特許87103714.9号に記載されており、また、Bito LZ等(1983年)、Camras CB等(1981年、1987年a、1987年b、1988年)、Giuffre G(1985年)、Kaufman PL(1986年)、Kersetter JR等(1988年)、Lee P-Y等(1988年)、およびVillumsen J等(1989年)により報告されている。 【0007】 前記したプロスタグランジンおよび誘導体のいくつかの、緑内障または眼圧亢進治療薬としての実用上の有効性に関しては、それらが結膜の表面刺激および血管拡張を誘発する性質を有する点が1種の制限因子となっている。さらに、プロスタグランジンは各膜の知覚神経に対しても刺激作用を有すると考えられる。即ち、プロスタグランジンの投与量が極めて少量である場合でも、即ち、投与量が最大の圧力低下を達成するのに望ましい用量より低い場合でも、眼における局所的な副作用が起こる。例えば、この理由のために最大の降圧低下を与える量でPGF2α-1-イソプロピルエステルを使用することは臨床的に不可能であることがわかっている。天然のオータコイドであるプロスタグランジンは薬理学的に極めて強力であり、知覚神経および血管の平滑筋の両方に作用する。眼にPGF2αおよびそのエステルを投与することにより起こる作用には、降圧作用の外に刺激作用および充血作用(血流増大)も含まれるため、現在臨床試験で実際に用いられる用量は極めて少量とならざるを得ない。PGF2αまたはそのエステルを適用した場合に生じる刺激は、主に眼のざらつきや異物感であり、これには通常流涙増加が伴う。 今回、我々は、緑内障または眼圧亢進の治療のために、環構造を有するようにオメガ鎖を変性したプロスタグランジンFの特定の誘導体を使用することにより、上記の問題点が解決されることを発見した。 【0008】 プロスタグランジン誘導体は一般的構造として下記式で示される。 【化2】 上記式中AはC6〜C12脂環式基を有し、そして環と側鎖との間の結合は種々の異性体を示す。PGA、PGB、PGD、PGEおよびPDFにおいては、Aはそれぞれ下記式: 【化3】 を有する。 【0009】 本発明はオメガ鎖に特徴を有する誘導体を使用することを基本にするが、さらにアルファ鎖の種々の変形が可能である。アルファ鎖は典型的には天然のアルファ鎖であり、これをエステル化して下記式: 【化4】 〔式中、R1はアルキル基、好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜6個の炭素原子を有するもの、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ネオペンチルまたはベンジルである〕 を有する構造にするかまたは緑内障剤としての最終物質に等しい特性を与えるような誘導体とする。この鎖は飽和されているか、または1つ以上の二重結合、アレンまたは三重結合を有する不飽和のC5〜C10鎖であり、そして鎖は、場合によりヘテロ原子を有するアルキル基、脂環式基または芳香族環のような置換基1つ以上を含んでいてよい。 【0010】 オメガ鎖は下記式: 【化5】 〔式中、Cは炭素原子(数はカッコ内に表示)であり、Bは単結合、二重結合または三重結合であり、Dは炭素原子1〜10個、好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜5個、特に好ましくは3個の鎖であり、各炭素原子上の置換基はH、アルキル基、好ましくは炭素原子1〜5個の低級アルキル基、カルボニル基、またはヒドロキシル基であり、ここでC15上の置換基は好ましくはカルボニル基または(R)-OHまたは(S)-OHであり;各D鎖はヒドロキシル基好ましくは3個以下またはカルボニル基3個以下を有し、R2はフェニル基であり、未置換であるか、またはC1〜C5アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、トリフルオロメチル基、C1〜C3脂肪族アシルアミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、およびフェニル基から選択される置換基の少なくとも1つを有するものである〕の構造により定義される。 【0011】 評価を行った誘導体のいくつかの例を以下に示す(構造は後記表Iを参照)。 (1) 16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル (2) 17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (3) 15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (5) 17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGE2-イソプロピルエステル (6) 13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGA2-イソプロピルエステル (7) 15-(R)-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル (8) 16-〔4-(メトキシ)-フェニル〕-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル (10) 18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2α-イソプロピルエステル (20) 19-フェニル-20-ノル-PGF2α-イソプロピルエステル 【0012】 【表1】 【0013】 現在最も好ましい誘導体は、プロスタグランジンのオメガ鎖が18,19,20-トリノル型、特に17-フェニル類縁体、例えば15-(R)-、15-デヒドロおよび13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル型を有するものである。このような誘導体は表Iに示す式の(3)、(6)、(7)および(9)により表わされる。 【0014】 従って、上記式において、現在最も好ましい構造は、プロスタグランジンがPGF、特にPGF2αの誘導体であり、Bが単結合または二重結合であり、Dが炭素原子2〜5個、特に3個を有する炭素鎖であり、C15がカルボニルまたは(S)-OH置換基を有し、C16〜C19が低級アルキル置換基または好ましくはHを有し、R2は場合によりアルキルおよびアルコキシ基から選択される置換基を有するフェニル環である場合に得られる。 【0015】 即ち、本発明は、緑内障または眼圧亢進の治療のためのPGFの特定の誘導体の使用に関する。前に定義したこれらの誘導体のうち、いくつかのものは刺激性を有するかまたは他の点で適さないことが判明し、さらに特定の症例に対しては副作用のために使用できないことが解ったためこれらを除外し、前記したプロスタグランジン誘導体の群は治療に有効でありそして生理学的に許容される誘導体に限定することにした。即ち、例えば、(1)の16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステルは刺激性が有るが、メトキシ基でフェニル環を置換して治療上より有効な化合物である式(8)とすることにより刺激性を除くことができる。 【0016】 緑内障または眼圧亢進の治療法は眼圧を低下させ、低下した状態を維持するために、前述したように、眼圧低下有効量の組成物を眼と接触させることからなる。組成物は前記活性物質、即ち、治療活性を有し生理学的に許容される誘導体を、適用1回あたり、0.1〜30μg、特に1〜10μg含有する。治療は約30μlに相当する組成物1滴を患者の眼に1日当たり約1〜2回投与するのが有利である。この治療は人間および動物の両方に対して適用することができる。 さらに本発明は緑内障または眼圧亢進の治療のための眼科用組成物の調製のための、前記治療活性があり生理学的に許容されるプロスタグランジン誘導体の使用に関する。プロスタグランジン誘導体はそれ自体知られた眼科用に適するビヒクルと混合する。本発明の組成物を調製するのに用いてよいビヒクルとしては水溶液、例えば生理食塩水、油性溶液または軟こうである。さらにビヒクルは眼科用に適する保存料、例えば塩化ベンザルコニウム、界面活性剤、例えばポリソルベート80も含有してよく、リボソームまたは重合体、例えばメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびヒアルロン酸も、粘度を増大するために使用してよい。さらにまた、薬物投与時には可溶性または不溶性の薬剤インサートも使用してよい。 【0017】 本発明はまた、前記したプロスタグランジン誘導体の眼圧降下有効量および眼科用に適するビヒクルを含有する、緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物に関し、この場合有効量は組成物約10〜50μ中約0.1〜30μの薬物投与量を含有する。 本試験において実施した実験では、薬物の効力に応じて30μg〜300μg/mlの範囲の量の活性化合物を、可溶化剤として0.5%ポリソルベート80を含有する滅菌水溶液(食塩0.9%)に溶解した。 【0018】 【実施例】 本発明を以下の実施例により説明するがこれに限定されるものではない。 プロスタグランジン誘導体の合成 実施例1 16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-イソプロピルエステル(1)の調製 磁気撹拌子を有する50mlの丸底フラスコに16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α(Cayman Chemical)社製17.5mg(0.04ミリモル)、CH2Cl25ml、ジイソプロピルエチルアミン30.2mg(0.23ミリモル)を仕込んだ。この溶液を-10℃で撹拌し、イソプロピルトリフレート(新たに調製)13.5mg(0.07ミリモル)を添加した。この溶液を15分間-10℃で放置し、次にゆっくり室温まで加温した。TLCによりエステル化が終了したことを確認して(通常、室温で3〜4時間)、溶媒を真空下に除去した。残留物を酢酸エチル20mlで希釈し、5%炭酸水素ナトリウム(2×10ml)および3%クエン酸(2×10ml)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。溶媒を真空下に除去し、残留物を、酢酸エチル:アセトン(2:1)を溶離剤とするシリカゲル60のカラムクロマトグラフィーにより精製した。標題化合物を無色油状物として得た(収率71%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),2.85(2H d),3.8(1H m),4.1(1H t),3.3(1H q),5.0(1H m),5.3-5.7(4H m),7.1-7.3(5H m) 【0019】 実施例2 17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α-イソプロピルエステル(2)の調製 磁気撹拌子付き50ml容丸底フラスコに、17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α-(Cayman Chemicals)20mg(0.05ミリモル)、アセトン6ml、DBU 39.2mg(0.25ミリモル)およびヨウ化イソプロピル42.5mg(0.25ミリモル)を入れた。溶液を24時間室温で放置し、溶媒を真空下に除去し、残留物を酢酸エチル30mlで希釈し、2回5%炭酸水素ナトリウム10mlおよび3%クエン酸10mlで洗浄した。溶媒を真空下に除去し、粗生成物を、溶離剤として酢酸エチル:アセトン(2:1)を用いたシリカゲル60上のクロマトグラフィーに付した。標題化合物(2)を油状物として得た(収率65%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),3.9(1H m),4.1(1H t),4.2(1H m),4.9(1H m),5.4-5.6(4H m),7.1-7.3(5H m) 【0020】 実施例3 15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-イソプロピルエステル(3)の調製 DDQ 20.9mg(0.092ミリモル)をジオキサン8ml中の17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α-イソプロピルエステル(2)10mg(0.023ミリモル)の溶液中に添加した。反応混合物は直ちに茶色に変わり、反応混合物を24時間室温で撹拌した。形成した沈殿を濾過し、酢酸エチル10mlで洗浄し、濾液を酢酸エチル10mlで希釈し、水2×10ml、NaOH 1M 2×10mlおよび食塩水20mlで洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、溶媒を真空下に除去し、残留物を溶離剤として酢酸エチル:エーテル(1:1)を用いたシリカゲルのカラムクロマトグラフィーにより精製した。標題化合物(3)を無色油状物として得た(収率76%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),4.0(1H m),4.2(1H m),5.0(1H m),5.4(2H m),6.2(1H d),6.7(1H q),7.1-7.3(5H m) 【0021】 実施例4 16-フェノキシ-17,18,19,20-テトラノルPGF2α-イソプロピルエステル(4)の調製 16-フェノキシ-17,18,19,20-テトラノルPGF2α(Cayman Chemicals)20mg(0.051ミリモル)を用いて実施例2と同様の方法で行なった。粗生成物は、溶離剤として酢酸エチル:アセトン(2:1)を用いたシリカゲル60のカラムクロマトグラフィーにより精製した。標題化合物(4)は油状物質であった(収率53.2%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),3.9(3H m),4.2(1H m),4.5(1H m),5.0(1H m),5.4(2H m),5.7(2H m),6.9(3H m),7.3(2H m) 【0022】 実施例5 17-フェニル-18,19,20-トリノルPGE2-イソプロピルエステル(5)の調製 17-フェニル-18,19,20-トリノルPGE2(Cayman Chemicals)10mg(0.026ミリモル)を用いて実施例2と同様の方法で行なった。粗生成物は、溶離剤としてエーテルを用いたシリカゲル60のカラムクロマトグラフィーにより精製した。標題化合物(5)は油状の物質であった(収率38.9%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),3.9-4.1(2H m),4.9(1H m),5.3(2H m),5.6(2H m),7.2(5H m) 【0023】 実施例6 13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノルPGA2-イソプロピルエステル(6)の調製 13,14-ジヒドロ-17-フェニルPGA2(Cayman Chemicals)10mg(0.026ミリモル)を用いて実施例2の方法と同様に行なった。粗生成物を、溶離剤としてエーテルを用いたシリカゲル60のクロマトグラフィーに付した。標記化合物(6)は油状の物質であった(収率48%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),4.3(1H m),5.0(1H m),5.4(2H m),7.3(5H m), 【0024】 実施例7 15-(R)-17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α-イソプロピルエステル(7)(後記表II参照)の調製 7.1 1-(S)-2-オキサ-3-オキソ-6-(R)-(3-オキソ-5-フェニル-1-トランス-ペンテニル)-7-(R)-(4-フェニルベンゾイルオキシ)-シス-ビシクロ〔3.3.0〕オクタン(13)の調製 アルコール(11)18g(0.05モル)、DCC 32g(0.15モル)、DMSO(CaH2より新しく蒸留)39.1g(0.5モル)およびDME30mlを窒素下200ml容のフラスコに入れた。オルトリン酸0.49g(0.005モル)を1回で加え、発熱反応を起こした。反応混合物を2時間室温で機械的に撹拌し、得られた沈殿を濾過し、DMEで洗浄した。濾液(12)を直接用いてEmmon縮合反応を行った。 【0025】 窒素下DME 100ml中のNaH(80%、n-ペンタンで洗浄して鉱油を除いたもの)1.2g(0.04モル)の懸濁液に、DME 30ml中のジメチル-2-オキソ-4-フェニルブチルホスホネート12.3g(0.048モル)を滴下して添加した。混合物を室温で1時間機械的に撹拌し、次に-10℃に冷却し、粗製のアルデヒド(12)の溶液を滴下して添加した。0℃15分間、そして室温1時間の後、反応混合物を水酢酸で中和し、溶媒を真空下に除去し、残留物に酢酸エチル100mlを添加し、水50mlおよび食塩水50mlで洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。溶媒を真空下に除去し、得られた白沈を濾過し、冷エーテルで洗浄した。標題化合物(13)は結晶として得られた。融点134.5〜135.5(収率53%)。 【0026】 7.2 1-(S)-2-オキサ-3-オキソ-6-(R)-〔3-(R,S)-ヒドロキシ-5-フェニル-1-トランス-ペンテニル〕-7-(R)-(4-フェニルベンゾイルオキシ)シス-ビシクロ〔3.3.0〕オクタン(14)の調製 メタノール50ml中のエノン(13)10g(0.021モル)および塩化セリウム7水和物3.1g(0.008モル)およびCH2Cl220mlを磁気撹拌子付き200m1容丸底フラスコに入れ、窒素下-78℃に冷却した。ナトリウムボロハイドライド0.476g(0.012モル)を少しずつ加え、30分後反応混合物に飽和NH4Clを加えてクエンチングし、酢酸エチル2×50mlで抽出した。抽出液を乾燥し、濃縮して無色油状物とした(収率98%)。 【0027】 7.3 1-(S)-2-オキサ-3-オキソ-6-(R)-〔3-(R,S)-ヒドロキシ-5-フェニル-1-トランス-ペンテニル〕-7-(R)-ヒドロキシ-シス-ビシクロ〔3.3.0〕オクタン(15)の調製 無水メタノール100ml中のラクトン(14)9.8g(0.02モル)の溶液に、炭酸カリウム1.7g(0.012モル)を添加した。混合物を室温で磁気撹拌子で撹拌した。3時間後に混合物を1M塩酸40mlで中和し、酢酸エチル2×50mlで抽出した。次に抽出液を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、濃縮した。粗生成物を、溶離剤として酢酸エチル;アセトンを用いたシリカゲル上のクロマトグラフィーに付した。標題化合物(15)は油状の物質として得られた(収率85%)。 【0028】 7.4 1-(S)-2-オキサ-3-ヒドロキシ-6-(R)-〔3-(R,S)-ヒドロキシ-5-フェニル-1-トランス-ペンテニル〕-7-(R)-ヒドロキシ-シス-ビシクロ〔3.3.0〕オクタン(16)の調製 磁気撹拌子で撹拌し、-78℃に冷却した無水THF 60ml中のラクトン(15)3g(0.011モル)の溶液に、トルエン中DIBAL-H 4.5g(0.0315モル)を滴下して添加した。2時間後、メタノール75mlを添加して反応混合物をクエンチングした。混合物を濾過し、濾液を真空下に濃縮し、残留物を、溶離剤として酢酸エチル:アセトン(1:1)を用いたシリカゲル60のクロマトグラフィーに付した。標題化合物(16)を半固体物質として得た(収率78%)。 【0029】 7.5 15-(R,S)-17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α(17)の調製 DMSO中ナトリウムメチルスルフィニルメチド(無水ナトリウムとDMSOより新しく調製)2.5g(25ミリモル)をDMSO 12ml中の4-カルボキシブチルトリフェニルホスホニウムプロミド5.6g(12.6ミリモル)の溶液に滴下して添加した。得られたイリドの赤色溶液をDMSO 13ml中のヘミアセタール(16)1.2g(4.2ミリモル)の溶液に滴下して添加し、混合物を1時間撹拌した。反応混合物を氷10gおよび水10mlを用いて希釈し、酢酸エチル2×50mlで抽出した後、水層を冷却し、1M塩酸で酸性化し、酢酸エチルで抽出し、次に有機層を乾燥して濃縮した。得られた粗生成物は無色の物質であった。標題化合物(17)の純度は、溶離剤として酢酸エチル:アセトン:酢酸1:1:0.2(容量)を用いたシリカゲル上のTLCにより推定した。 【0030】 7.6 15-(R)-17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α-イソプロピルエステル(7)の調製 粗生成物(17)を実施例2に記載の方法と同様の方法でエステル化した。生成物は、溶離剤として酢酸エチルを用いたシリカゲル60上のカラムクロマトグラフィーにより精製し、得られたC15エピマーアルコールの混合物を分離した。 標題化合物(7)は無色油状物として得られた(収率46%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H m),3.9(1H m),4.15(2H m),4.95(1H m),5.4(2H m),5.6(2H m),7.2(5H m) 【0031】 【表2】 試薬:a)DCC/DMSO/DME b)NaH/ジメチル-2-オキソ-4-フェニルブチルホスホネート/DME c)CeCl3・7H2O/NaBH4/CH3-OH/-78℃ d)K2CO3/CH3OH e)Dibal/-78℃ f)NaCH2SOCH3/(4-カルボキシブチル)-トリフェニルホスホニウムブロミド/DMSO g)DBU/iprl/アセトン 【0032】 実施例8 16-〔4-(メトキシ)フェニル〕-17,18,19,20-テトラノルPGF2α-イソプロピルエステル(8)の調製 工程7-2を変更して実施例7記載の方法に従い、工程7-2に記載のアルデヒド12をジメチル-2-オキソ-3-〔4-(メトキシ)フェニル〕-プロピルホスホネートを反応させ、溶離剤として酢酸エチル:トルエン(1:1)を用いたシリカゲル60のカラムクロマトグラフィーにより精製した。無色の油状物を得た(収率57%)。 【0033】 標題化合物16-〔4-(メトキシ)-フェニル〕-17,18,19,20-テトラノルPGF2α-イソプロピルエステル(8)は油状物として得られ、溶離剤として酢酸エチルを用いたシリカゲル60のカラムクロマトグラフィーにより精製した(収率46%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),2.8(2H d),3.75(3H s),3.9(1H m),4.15(1H m),4.3(1H m),5.0(1H m),5.4(2H m),5.6(2H m),6.8(2H d),7.2(2H d) 【0034】 実施例10 18-フェニル-19,20-ジノルPGF2α-イソプロピルエステル(10)の調製 工程7-2を変更して実施例7の方法に従い行った。7-2に記載のアルデヒド(12)をジメチル-2-オキソ-5-フェニルペンチルホスホネートと反応させて、結晶物質のトランスエノンラクトンを得た(収率67%)。 最終生成物18-フェニル-19,20-ジノルPGF2α-イソプロピルエステル(10)は、溶離剤として酢酸エチルを用いたシリカゲル60上のカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色油状物を得た(収率41%)。 1.2(6H d),3.95(1H m),4.10(1H m),4.20(1H m),5.0(1H m),5.4(2H m),5.6(2H q),7.2(5H m) 【0035】 実施例11 19-フェニル-20-ノル-PGF2α-イソプロピルエステル(20)の調製 工程(7-2)を変更して実施例7記載の方法を用いた。工程7-2に記載のアルデヒド(12)をジメチル-2-オキソ-6-フェニル-ヘキシルホスホネートと反応させ、無色の油状物としてトランスエノンラクトンを得た(収率56%)。 最終生成物19-フェニル-20-ノル-PGF2α-イソプロピルエステル(20)は無色の油状物であり、これは溶離剤として酢酸エチルを用いたシリカゲル60上のカラムクロマトグラフィーにより精製した(収率30%)。 NMRスペクトル(CDCl3)-ppm:δ 1.2(6H d),2.6(2H t),3.9(1H m),4.1(1H m),4.2(1H m),5.0(1H m),5.4(2H m),5.5(2H t),7.2(5H m) 【0036】 【0037】 【0038】 眼圧降下作用および副作用に関する検討 眼圧(IOP)は特定の種の目に合わせて特に調節した呼吸圧計(Digilab Modular OneTM,Bio Rad製)を用いて動物により測定した。各IOP測定の前にオキシブプロカイン1〜2滴を用いて角膜を麻酔した。健康体のボランティアによって圧平眼圧測定によるかまたは空気噴射眼圧計(Keeler pulsair)を用いてIOPを測定した。圧平眼圧測定には、スリットランプ顕微鏡上に搭載した呼吸圧計(Digilab)またはGoldmannの圧平眼圧計を用いた。角膜はオキシブプロカインを用いて麻酔した後に各々圧平眼圧測定を行った。Pulsair眼圧測定計を用いる測定の前には局所麻酔は行わなかった。 【0039】 被験物質適用後の目の不快感をネコにより測定した。被験薬物の局所適用後のネコの挙動を追跡観察し、目の不快感を0〜3の点数で評価した。その際、0は如何なる不快徴候も全く無いことを示し、3は完全なまぶたの閉鎖として現われる最大刺激を示すものとした。 被験物質の局所適用の後の結膜の充血をウサギにより評価した。目の上直筋の挿入部の結膜を、一定間隔をおいて観察または写真撮影し、後に、盲検法により充血の程度をカラー写真から評価した。結膜の充血は0〜4の点数で評価した。その際0は全く充血のない状態、そして4は結膜の水腫を伴った顕著な充血を示すものとした。 【0040】 眼圧に対する作用の測定には主にサル(カニクイザル)を用いた。その理由は、サルの眼はヒトの眼に極めて似ており、そのため一般的に、薬剤の作用をヒトの眼の場合に容易に当てはめることができるためである。しかしながら、モデルとしてサルの眼を用いる場合の不都合な点は、この種の結膜は着色されており、結膜の充血を評価できず、また、サルの眼は比較的刺激に対して感受性が低い点である。従って、プロスタグランジンに対して極めて感受性の高いネコの眼を用いて眼不快感評価を行い、充血性応答の傾向が顕著なウサギの眼を用いて結膜および強膜上の充血を評価した。 【0041】 【表3】 【0042】 表IIIよりプロスタグランジン骨格のオメガ鎖の変性により、プロスタグランジンに眼の刺激(不快感)に関する、新しい、そして予想外の特徴が導入したことは明白である。特に17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-IEおよびその類縁体はサルにおいてIOPの低下作用の持続を伴った眼の刺激の完全な消失を示した点で特徴的なものであった。17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α誘導体は極めて高い耐容性をしめしたが、16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-IEはPGF2α-IEまたは15-プロピオネ-ト-PGE2-IEより低い程度であったものの顕著な眼の不快感を誘発した(表III)。しかしながら、フェニル環の水素原子を電子供与性を有するメトキシ基で置換することにより、分子の眼の刺激作用を事実上無くすことができた(表III)。さらにまた、表IIIより、18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2αIE、19-フェニル-20-ノル-PGF2α-IEならびに17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGE2-IEおよび13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGA2-IEのネコの眼の刺激作用は全く無いかあるいは極めて小さかった。これは、本発明はPGF2αの16-、および17-テトラ-およびトリノル類縁体に対してのみならず、オメガ鎖が変性され環が置換されたPGF2α類縁体のある範囲(例えば16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-IEから19-フェニル-20-ノル-PGF2α-IE)に対しても、そして更に重要なことは、同様に変性されたPGE2およびPGA2のようなプロスタグランジン同族物質に族する別のものに対しても有効であることを示している(表III)。即ち、オメガ鎖を変性し、鎖内の炭素原子を環構造で置換することにより、結膜と角膜への刺激作用が無くなるという、完全に新しい、予期しなかった有利な性質が天然のプロスタグランジンに導入されるのである。ある程度の刺激作用を示す16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-IEの場合は、環構造内の水素原子を例えばメトキシ基で置換することにより、刺激作用を低下ないし消失させることができる。 眼の不快感の消失に加えて、オメガ鎖変性類縁体は、それらの結膜充血誘発性が、ウサギの眼の試験で示されたとおり、かなり低いものである点において、天然のプロスタグランジンよりも有利である性質を示した(下記表IV参照)。 【0043】 【表4】 【0044】 特に、15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-IEおよび13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGA2-IEはこの点において有利であった。また、18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2α-IEおよび19-フェニル-20-ノル-PGF2α-IEの結膜充血誘発性は殆ど無かった(表IV)。 オメガ鎖変性および環置換プロスタグランジン類縁体の眼圧降下作用を下記表Vに示した。 【0045】 【表5】 【0046】 特に16-フェニル-テトラノルおよび17-フェニル-トリノルプロスタグランジン類縁体が動物の眼のIOPを有意に低下させることが解る(表V)。2つの一連の試験を除いて全ての実験で、カニクイザルを用いた。眼刺激性を全く示さず、結膜/強膜上の充血の程度も低い17-フェニル-18,19,20-トリノルPGF2α-誘導体が、霊長鎖のIOPを有意に低下させたことは特に興味深い。さらに、16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-IE、18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2α-IEおよび19-フェニル-20-ノル-PGFα-IEがともに眼圧を低下させること、即ち、オメガ鎖の変性と鎖の炭素原子の環構造による置換は、眼圧に対する作用の点においては、分子を不活性化させないことも観察されている。 【0047】 さらに、16-フェニル-17,18,19,20-テトラノル-PGF2α-IEの環構造上の水素原子をメトキシ基で置換することにより、眼圧降下作用は殆ど維持したまま眼の刺激作用の大部分を取り除くことができることも観察されている。即ち、オメガ鎖が変性され、環置換されたプロスタグランジン類縁体は動物のIOPを効果的に低下させる。 【0048】 殆どの17-フェニル-18,19,20-トリノル-プロスタグランジン類縁体は、高投与量においても、ネコに対する眼圧降下作用が小さいことも注目に値する。表IIIに示された化合物の用量は、例えば表Vの用量より低いことがわかる。表IIIの用量は同じ表内の天然プロスタグランジンの用量とはっきりと比較しなければならない。同様のことが表IVの場合にも言える。用量を増大させるにつれて副作用も増大することは明白である。しかしながら、サルで用いられたプロスタグランジン誘導体の用量はヒトボランティアで使用された用量と相対的に同じであり(後記表VI参照)、副作用は事実上無い。 【0049】 オメガ鎖変性プロスタグランジン類縁体の幾つか、特に、17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-IE、15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-IE、15(R)-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-IEおよび18-フェニル-19,20-ジノル-PGF2α-IEの健常人ボランティアの眼圧に対する作用を表VIに示す。 【0050】 【表6】 【0051】 表VIから解るように、全化合物とも眼圧を有意に低下させている。この点においては、化合物のいずれも、有意な眼の刺激作用(眼の不快感)を有さず、そして15-デヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α-IEのヒトにおける結膜/強膜充血の誘発性が極めて小さかったことは、特に重要である。即ち、オメガ鎖が変性され、環置換されたプロスタグランジン類縁体の特徴は、これらの化合物が充血や不快感のような顕著な眼への副作用を誘発することなくIOPを低下させるという点である。 【0052】 【0053】 【0054】 以上のように本発明は、眼への副作用が小さく眼圧降下作用が維持されているという独特の性質を示す1群の化合物である。上記したとおり、分子の重要な変形はオメガ鎖の環構造である。さらに、ある分子では環構造および/またはオメガ鎖の置換基を導入しても、なお、ある程度の眼への副作用が認められる場合がある。ヘテロ原子もまた環置換オメガ鎖に導入してよい、現在の時点では、特に17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGF2α誘導体が緑内障の治療のために非常に期待されている。技術文献により、PGE2およびPGA2またはそのエステルがサルのIOPを低下させることが知られている〔Bito等(1989)を参照〕。PGE2の臨床試験も行われており、ヒトにおけるIOPの低下作用が認められている(FlachおよびEliason(1988))。即ち、霊長類のIOPを低下させるPGF2αおよびそのエステルの類似性は理論的である。オメガ鎖が変性されたその他のプロスタグランジンがオメガ鎖が変性されたPGF2αと本質的に同じ性質、即ち、副作用の無いIOPの低下作用を示すと推定することが最も合理的である。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 特許第2955213号の明細書の記載を、次のとおり訂正する。 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の【請求項1】に記載中の「R2はフェニル基のような環構造であり、」を、「R2はフェニル基であり、」と訂正し、 イ.訂正事項b 特許請求の範囲の【請求項1】に記載中の「;または環原子5〜6個を有する芳香族ヘテロ環基、または環内に炭素原子3〜7個を有するシクロアルカンまたはシクロアルケン、ただし、場合により炭素原子1〜5個の低級アルキル基で置換されているもの」を削除する。 ウ.訂正事項c 特許請求の範囲の【請求項1】に記載中の「PGA、PGB、PGD、PGEまたは」を削除する。 エ.訂正事項d 特許請求の範囲の【請求項8】に記載中の「(5)17-フェニル-18,19,20-トリノル-PGE2-イソプロピルエステル (6)13,14-ジヒドロー17-フエニル-18,19,20-トリノル-PGA2-イソプロピルエステル」を削除する。 エ.訂正事項e 明細書の段落【0010】記載中の「R2はフェニル基のような環構造であり、」を、「R2はフェニル基であり、」と訂正し、明細書の段落【0010】記載中の「;または環原子5〜6個を有する芳香族ヘテロ環基、または環内に炭素原子3〜7個を有するシクロアルカンまたはシクロアルケン、ただし、場合により炭素原子1〜5個の低級アルキル基で置換されているもの」を削除し、明細書の段落【0001】記載中の「PGA、PGB、PGD、PGEおよび」を削除し、明細書の段落【0007】記載中の「A、B、D、Eおよび」を削除し、明細書の段落【0014】記載中の「PGA、PGD、PGEまたは」を削除し、さらに「PGA2、PGD2、PGE2および」を削除し、明細書の段落【0015】記載中の「PGA、PGB、PGD、PGEおよび」を削除する。 |
異議決定日 | 2001-07-05 |
出願番号 | 特願平7-241200 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(A61K)
P 1 651・ 121- YA (A61K) P 1 651・ 534- YA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 上條 のぶよ |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 石井 あき子 |
登録日 | 1999-07-16 |
登録番号 | 特許第2955213号(P2955213) |
権利者 | フアーマシア・アンド・アツプジヨン・アー・ベー |
発明の名称 | プロスタグランジン誘導体を含有する緑内障または眼圧亢進の局所治療のための眼科用組成物 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 伏見 直哉 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 伏見 直哉 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 船山 武 |
代理人 | 中村 至 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 中村 至 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 船山 武 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 熊倉 禎男 |