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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1048468
異議申立番号 異議2000-70984  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-06 
確定日 2001-07-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2946573号「表面保護用フィルムおよび表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2946573号の請求項3に係る特許を取り消す。 同請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成1年12月6日
特許設定登録 平成11年7月2日
特許異議の申立て
(申立人三菱レイヨン株式会社 請求項1ないし4に係る特許に対して)
平成12年3月6日
(申立人住友化学株式会社 請求項1、2に係る特許対して)
平成12年3月6日
取消理由通知(請求項1ないし4に係る特許に対して)
平成12年7月7日
訂正請求 平成12年9月25日

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
(a)請求項1を下記のとおり訂正し、請求項2を削除する。
「【請求項1】アクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなる表面保護用フィルム。」
(b)請求項3および4の項番号を、それぞれ2および3に繰り上げる。
(c)明細書の発明の詳細な説明において、【課題を解決するための手段】の第一段落(公報第3欄第48行〜第4欄第1行)を、下記のとおり訂正する。
「本発明の表面保護用フィルムは、基本的には図面に示すように、熱融着性をもつ合成樹脂、とりわけアクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなるものである。」

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張変更の存否
訂正(a)は、請求項1に記載された表面保護用フィルムを、合成樹脂層の表面に凹凸を設けたものに特定するものであり、また、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであると認められる。
訂正(b)は訂正(a)に伴い請求項の項番を繰り上げるものであり、訂正(c)は、訂正(a)に伴い、発明の詳細な説明中の記載の整合を図るものであるから、両訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
また、訂正(a)、(c)の内容は、訂正前の請求項2の記載に基づくものであり、いずれも新規事項の追加に該当せず、更に訂正(a)ないし(c)はいずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

(3)むすび
上記訂正は、特許法第120条の4第2項および第3項において準用する平成6年法改正前の特許法第126条第1項ただし書および第2項の規定に適合するので、この訂正を認める。

3.特許異議申立について
(1)特許異議申立の概要
特許異議申立人三菱レイヨン株式会社(以下、申立人Aというは、甲第1号証(特開昭63-64744号公報、取消理由通知で引用した刊行物1)、甲第2号証(特開昭57-193323号公報、同じく刊行物2)、甲第3号証(特開昭62-183886号公報、同じく刊行物3)、甲第4号証(特公平1-33332号公報、同じく刊行物4)、甲第5号証(特開昭59-202832号公報、同じく刊行物5)を提出して、
1)訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、訂正前の請求項第1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2項の規定により取り消されるべきものであり、2)本件出願の明細書は特許法第36条第4項の規定を満たしておらず、特許法第113条第4項の規定により取り消されるべき旨、主張している。
特許異議申立人住友化学工業株式会社(以下、申立人Bという)は、甲第1号証(特開昭57-2735号公報)、甲第2号証(特開昭62-143940号公報)、甲第3号証(特開昭62-80041号公報)、甲第4号証(「Plastics Age」第60-65頁、1978年9月号)、甲第5号証(特開昭62-183886号公報、取消理由通知で引用した刊行物3)を提出して、
1)訂正前の請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1ないし2に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、2)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1ないし4号証に記載された発明に基づいて、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1ないし2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、訂正前の請求項第1ないし2に係る特許は、特許法第113条第2項の規定により取り消されるべき旨、主張している。

(2)甲各号証の記載
(2)-1 申立人Aの提出した甲第1ないし5号証の記載
甲第1号証には、
ア)「1.ポリ(メタ)アクリレート化合物より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する架橋硬化性樹脂材料の架橋被膜を備えた熱可塑性樹脂フィルムであり、かつ当該樹脂フィルムを厚さ2mmのポリカーボネート樹脂板に熱可塑性樹脂フィルムを重ね、温度110〜150℃、圧力20〜50kg/cm2で2〜10分間圧着接合せしめた物品よりの架橋被膜の剥離強度が、ゴバン目剥離試験法にて測定したとき90/100以上の残存ゴバン目数をもつような密着性を有するものであることを特徴とする表面硬化樹脂フィルム。
2.熱可塑性樹脂フィルムがアクリル系樹脂フィルムである特許請求の範囲第1項記載の表面硬化樹脂フィルム」(特許請求の範囲第1-2項)、
イ)「本発明は活性エネルギー線によって硬化する架橋硬化性樹脂材料を熱可塑性樹脂フィルムに塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化せしめた架橋被膜を備えた表面硬化樹脂フィルムに関するものであり、とくにプラスチック基材の表面の硬度、耐摩耗性を改善するのに用いうる圧着または溶着可能な表面硬化樹脂フィルムに関するものである」(第1頁右欄第5-12行)、
ウ)「樹脂や金属の板あるいは成型品等の基材の耐擦傷性、耐摩擦性等の表面特性を改善するために、これら基材の表面に架橋被膜を形成させる方法が従来よりとられている」(第1頁右欄第14-17行)、
エ)「本発明による架橋被膜を備えた表面硬化樹脂フィルムは、表面改質をしようとする基材表面にラミネートするだけで表面硬化処理された基材を得ることができ」(第2頁右上欄第18行-左下欄第1行)、
オ)「本発明の表面硬化樹脂フィルムは、表面硬度の高い、耐摩耗性にすぐれた架橋被膜を片面に有する熱可塑性樹脂フィルムであるために種々の用途、特にプラスチック基材の表面硬度、耐摩耗性を向上させる積層フィルムの用途に有用であり、従来方法の如くプライマー層を設けることなく単に圧着もしくは溶着するのみで、表面硬化樹脂成形品を得ることができ」(第7頁左下欄第2-9行)が記載されていると認められる。

甲第2号証には、
カ)「1.所定厚のハードコート膜を片面に形成した熱可塑性プラスチックフィルムもしくはシート。
2.……。
3.前記熱可塑性プラスチックフィルムもしくはシートがポリメチルメタアルリレートでなる前記特許請求の範囲第1項に記載のフィルムもしくはシート」(特許請求の範囲第1-3項)、
キ)「ここで「ハードコート膜」とは,プラスチック成形品表面の主として耐擦過傷性を改良するために用いられる表面被膜を意味する。搬入された上記ハードコート膜形成プラスチックフィルムもしくはシートは,所望合成樹脂成形品の外面形状片に打ちぬかれる。この打ちぬき片は,公知の打ちぬき装置により得られうる。次いで,所望の成形品を成形するための射出成形機に取付けられた第1図に示すような金型1の移動側金型2を開き,キャビティ部3に上記打ちぬき片4を装着する。この打ちぬき片4は,そのハードコート膜形成面41が最終製品としての合成樹脂成形品の最外面に位置するように,成形品外面となるキャビティ表面31上に配置される。配置された打ちぬき片4は,適当な方法により所定キャビティ面上に保持されつつ移動側金型2が閉じられる。次いで,この打ちぬき片4のハードコート膜形成面41が最終成形品の外面となりハードコート膜非形成面42が内面となるように,このキャビティ部3へ溶融樹脂5が射出成形機ノズルなどの射出成形手段6から高圧射出される。この溶融樹脂5は望ましくは,前記プラスチックフィルムもしくはシートと同種もしくは同系統の熱可塑性プラスチックである。高圧射出された溶融樹脂5はスプルー10を通ってキャビティ部3に侵入する。キャビティ部3に入った溶融樹脂5はキャビティ面に直接もしくは打ちぬき片4を介してキャビティ面に間接的に接触するや否や冷やされ瞬時に固化層51,51を形成する。固化層51,51はキャビティ面にはりつき決してすべらない。冷却されていない流動層50は,すでに形成された固化層51,51の内側を射出圧により既成の固化層よりさらに前方へ流動していく。前方へ流動した流動層500,すなわち溶融樹脂,も同様にキャビティ面に直接もしくは打ちぬき片4を介してキャビティ面に間接的に接触するや否や冷やされ固化層を新たに形成していく。キャビティ部3へ注入された溶融樹脂5は,このようにして,キャビティ表面もしくは打ちぬき片との接触面に固化層51,51をあたかも廊下にじゅうたんを敷きつつ前進するかのような態様でキャビティ部3に侵入していく。その結果,打ちぬき片4のプラスチックフィルムもしくはシートは,キャビティ部3内で溶融樹脂により当初の装着位置から寸分たりとも決してずれることなくキャビティ面に沿って瞬時に賦形される。一方,プラスチックフィルムもしくはシートの打ちぬき片4のハードコート膜非形成面42は,その界面42が溶融樹脂50の熱により溶融される。溶融樹脂50とプラスチックフィルムもしくはシート打ちぬき片4の膜非形成面42とは,同種もしくは同系統の樹脂であるため,両者はその界面42を介して相溶する。それゆえ,この打ちぬき片フィルムもしくはシートと溶融樹脂とが界面42において完全に一体化する。次いで,冷却を待って合成樹脂成形品が金型1から取出される。その成形品は所望部分が完全にハードコート膜によりカバーされた製品である」(第4頁右下欄第3行-第5頁右上欄第19行)、
ク)「なお、成形品を成形する成形装置としては,公知の射出成形機と金型とが準備されるだけでよく,なんら特殊な付帯設備や金型構造は必要とされない」(第5頁左下欄第6-9行)が記載されていると認められる。

甲第3号証には、
ケ)「(1)表面に微少凹凸からなる艶消面を有する艶消基材の艶消面に微少凹凸に沿って設けられた架橋硬化皮膜からなる耐擦傷性層を有することを特徴とする耐擦傷性艶消材」(特許請求の範囲第1項)、
コ)「プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、……並びに以上の各材料の複合体等」(第2頁右上欄第19行-左下欄第18行)が記載されるとともに、
サ)第2、3図には基材1の表面に設けた微小凹凸2がその上に設けた被膜3を通して、表面に現れている化粧材の断面図が記載されていると認められる。

甲第4号証には、
シ)「1 押し出し成形において、所望の絵柄が印刷された熱可塑性樹脂フィルムを成形品の表面にラミネートするか、又は転写フィルムを使って表面に絵柄を印刷する際に、ダイスから押し出された成形品の表面に、ラミネート用のフィルム或は転写フィルムを成形品の表面形状に沿って密着させるべく、挿入口においては成形品と該フィルムが離れた位置にあり、漸次フィルムの形状が変化しつつ成形品に近づいて、出口においてはフィルムが成形品の表面に密着するようにフィルムの導入路を設けた型治具をダイスの次に設置し、該型治具内で、ダイスから押し出された成形品の持つ熱、あるいは、別個に設置した予備加熱用ヒーターによって柔軟化した熱可塑性樹脂フィルムあるいは転写フィルムを、脱気により該型治具内に設けられたフィルムの導入路に密着させながらフィルムを成形品の表面に密着させることにより、任意の形状の成形品表面に絵柄を付与することを特徴とする成形同時絵付け方法」(特許請求の範囲)、
ス)「押し出し機1によって溶融された硬質塩化ビニルは、ダイス2を通って第2図に示すような所望の形状に押し出され、冷却する前にラミネート用型治具4に挿入される。一方、ラミネート用フィルムである半硬質塩化ビニルフィルム10には、予め、接着剤を塗布しておき、……、これもラミネート用型治具4に挿入される。……すなわち、硬質塩化ビニル成形体3のもつ熱で柔軟になった半硬質塩化ビニルフィルム10は、フィルム用導入路に設けられた脱気孔12からの脱気により導入路の形状に半ば強制的に一致させられ、その形状に沿って進むようになる。成形体の熱だけでは不十分な時には、予備加熱用のヒーターを設置することができる」(第2頁第3欄第41行-第4欄第33行)が記載されていると認められる。

甲第5号証には、
セ)「1.真空引きおよび絵付シートブロー用の通気孔を有する雌型に対して上下方向に移動可能に溶融樹脂の射出孔を設けた雄型を配置し、前記雌型と雄型の間を略水平方向に絵付シートを間欠的に移動せしめ、前記絵付シートを雌型上の所定位置に展張せしめた後に、雌型上において絵付シートを加熱して軟化せしめ、雌型内を真空引きして絵付シートを雌型成形面に吸着して予備成形し、次いで雄型を雌型上に被せた後に前記射出孔から溶融樹脂を射出することを特徴とする竪形射出成形絵付方法」(特許請求に範囲)が記載されていると認められる。

(2)-2 申立人Bの提出した甲第1ないし5号証の記載
甲第1号証には、
「(A)エポキシ基並びにシラノールおよび/またはシロキサン基の両者又は一方を含有する化合物群から選ばれた1種または2種以上の混合物(ただし、いずれの場合にもエポキシ基並びにシラノールおよび/またはシロキサン基の両者が同一分子中もしくは各々異なる分子中に含まれるよう選択される)
(B)粒径1ないし100ミリミクロンのシリカ微粒子、および
(C)一般式Al・XnY3-n[XはOL(Lは低級アルキル)、Yは一般式M1COCH2COM2(M1、M2はいずれも低級アルキル)で示される化合物に由来する配位子および一般式M3COCH2COOM4(M3,M4はいずれも低級アルキル)で示される化合物に由来する配位子から選ばれる少なくとも1つであり、nは0、1もしくは2である]
で示されるアルミニウムキレート化合物から主としてなるコーティング用組成物」(特許請求の範囲)、
「本発明は表面硬度、耐摩耗性、可とう性、透明性、耐電防止性、染色性、耐熱性などのすぐれたコーティング用組成物に関するものである」(第2欄第7-9行)、
「本発明組成物には、……充てん剤を分散させたり、……ことも容易に可能である」(第6欄第21-30行)、
「本発明組成物を適用する被コーティング物としては、ポリメチルメタクリレート、およびこれらの共重合体、……などのプラスチック成形品、フィルム、あるいは無機ガラス、木材、金属物品などがあげられる」(第6欄第34-43行)、
「本発明組成物の硬化は主として加熱処理することによって行われるが」(第7欄第18-19行)、
「以上のようにして本発明により得られる塗膜あるいは成形品は透明で硬度とくに耐スクラッチ性がすぐれ、スチールウールなどの硬い材料で強く摩擦してもほとんど傷がつくことなく……さらに、……(3)帯電防止性がすぐれ、汚れ防止効果がある」(第7欄第26-41行)、
「実施例4 厚さ50μの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(……)の片面にアクリル酸エステル共重合体を主剤とする接着促進層を設けたのち、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを0.01N塩酸水溶液で加水分解して得られた加水分解物(固形分58%を含む)100部に、約15mμの粒径のシリカ微粒子20%を含む、pH3〜4の水性コロイダルシリカ分散液(……)384部、“デナコールEX-314”(長瀬産業(株)製エポキシ化合物)58部、アルミニウムアセチルアセトネート8部、……を添加配合した塗料固形分塗布厚さが3μになるようにロール塗布し、150℃、1分間乾燥硬化したのち連続的に巻き取った」(第11欄第6-23行)が記載されていると認められる。

甲第2号証には、
「(1)a.1分子中に4ケ以上の水酸基を有する多価アルコールにおいて、該水酸基を3ケ以上アクリロイルオキシ基にて置換した多官能モノマー20〜75重量部と
b.ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパンまたはジトリメチロールエタンとジカルボン酸およびアクリル酸とを共エステル化して得られるポリエステルアクリレート10〜60重量部および
c.沸点150℃以上(常圧)でかつ粘度10センチポイズ以下(25℃)のモノ及びジアクリル酸エステル0〜40重量部
とからなるアクリレート混合物100重量部に対して少なくとも1種以上の環状ヒンダードアミン構造を有する光安定剤0.01〜5重量部、さらに少なくとも1種以上の酸化防止剤0.01〜5重量部を添加することからなるコーティング組成物」(特許請求の範囲第1項)、
「本発明は合成樹脂成形品、シート及びフィルムの表面硬化用のコーティング組成物及びそれを用い紫外線により耐候性、耐摩耗性、硬度、密着性、可撓性に優れた被膜を形成させた合成樹脂成形品の製造方法に関するものである」(第2頁左上欄第15-19行)、
「本発明のコーティング用組成物を表面塗布する合成樹脂成形品としては熱可塑性樹脂成形品、熱硬化性樹脂成形品の区別なく、使用され例えばポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリルジグリコールカーボネイト樹脂、ABS樹脂、ポリスチロール、PVC、ポリエステル樹脂、アセテート樹脂等の成形品が用いられる。また合成樹脂成形品の形状としては一般の成形品の外、シート、フィルム等も対象となる」(第6頁左上欄第15行-右上欄第4行)、
「また本発明の組成物は耐摩耗性、硬度、耐候性、耐ヒートサイクル試験及び可撓性に優れている」(第6頁右上欄第20行-左下欄第2行)が記載されていると認められる。

甲第3号証には、
「(1)合成樹脂フィルム基材と,該基材の片面または両面に設けられた電離放射線硬化型樹脂の三次元架橋硬化皮膜よりなる表面保護層とからなることを特徴とする耐擦傷性複合フィルム」(特許請求の範囲)、
「本発明複合フィルムを化粧材用基材として用いた場合には,内装材,遮光フィルム等の化粧材の美観を長期間に亘って保持することができる」(第4頁右上欄第11-14行)が記載されていると認められる。

甲第4号証には、
「1.1アクリル系硬化型塗料
……これらによる塗膜はプラスチックの表面硬度を改良するだけでなく,耐溶剤性を向上させる作用を兼ね備えており,また塗膜自体の耐候性も良好である」(第60頁中欄第4-19行)、
「1.3ポリオルガノシロキサン系塗料
……この系統の塗料は……非常に優れた耐擦傷性と耐溶剤性を有する塗膜が得られる」(第61頁左欄第3行-第62頁中欄第5行)が記載されていると認められる。

甲第5号証には、上記(2)-1において甲第3号証の記載として示した発明が記載されていると認められる。

(3)請求項1ないし3に係る発明
訂正前の本件請求項1ないし4は、上記の適法な訂正により新たな請求項1ないし3となった。
新たな本件請求項1ないし3に係る発明(以下、本件発明1ないし3という)は訂正後の明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される下記のとおりのものと認められる。
【請求項1】アクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなる表面保護用フィルム。
【請求項2】熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、合成樹脂を溶融して押出ダイから押出し、押出された成形体がもつ余熱を利用するか、または必要に応じて加熱した上で、表面保護用フィルムを、その熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層が成形品表面に接するように密着させ、熱融着により成形品の表面に表面保護用フィルムを一体化させることからなる表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法。
【請求項3】熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、必要により予備成形したのち、射出成型用割型のうち射出ゲートをもたない側の金型表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層がキャビティ側を向くように配置し、割金型を閉鎖してキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出し、表面に表面保護用フィルムが一体化した成形品を得ることからなる表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法。

(4)特許法第36条第4項違反について
申立人Bは、訂正前の請求項1ないし4に係る発明における、「耐擦傷性」及び「耐汚染性」の記載は発明を特定するに値する明りょうな記載ではなく、さらに、「耐擦傷性及び耐汚染性に『すぐれた』合成樹脂」の記載もどの程度優れているのか比較の基準又は程度が不明確でどのような合成樹脂層なのか判断できないので、訂正前の請求項1ないし4に係る発明の特許は特許法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであることを主張していると認められる。
しかしながら、「耐擦傷性」及び「耐汚染性」という用語は、表面保護フィルム等の表面保護層に求められる性質を表す用語として従来周知のものであると認められ、「すぐれた」という用語は、実用上十分な機能を有するという程度の意味で用いられていると認められるので、これらの記載をもって本件発明1ないし3を特定することができず、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとも、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した項に区分してないとも認められない。
したがって、本件発明1ないし3に係る特許が特許法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められない。

(5)本件発明1について
(5)-1 申立人Aの主張する理由及び提出した証拠について
甲第1号証には、アクリル系樹脂フィルムの一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層を設けてなる表面保護用フィルムが、甲第2号証には、ポリメチルメタアクリレートフィルムの一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層を設けてなる表面保護用フィルムが、それぞれ、記載されていると認められる。
本件発明1(前者)と上記甲第1、2号証に記載された発明(後者)とを対比すると、
両者はアクリル樹脂フィルムの一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層を設けてなる表面保護用フィルムである点で共通しているが、
(a)前者が合成樹脂層の表面に凹凸を設けているのに対して、後者はこのような凹凸を設けていない点、
(b)前者が耐擦傷性に加えて耐汚染性にすぐれた表面保護フィルムであるのに対して、後者は耐汚染性については不明である点の二点で相違していると認められる。
相違点(a)について検討する。
甲第3号証には、表面に微少凹凸からなる艶消面を有する艶消基材の艶消面に微少凹凸に沿って設けられた架橋硬化皮膜からなる耐擦傷性層を有する耐擦傷性艶消材であって、基材1の表面に設けた微小凹凸2が、その上に設けた被膜3を通して、表面に現れているものが記載されているが、本件発明1の凹凸は、甲第3号証の基材に相当する、アクリル系樹脂フィルムの表面に設けられるものではなく、甲第3号証の耐擦傷性層に相当する、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層の表面に設けられている点で相違している。また、本件発明の凹凸は、特許明細書の第4頁第22行-第5頁第5行(特許公報第3頁第5欄第12-28行)の記載からみて、美麗な外観を与えるためのものであると認められ、艶消しを目的とするものではないと認められるので、甲第3号証には、本件発明1の凹凸に相当する技術的事項は記載されていないと認められる。
さらに、甲第4及び5号証にも、本件発明1の凹凸に相当する技術的事項は記載されていないと認められる。
そして、本件発明1は、特許明細書に記載された効果を有するものと認められる。
したがって、本件発明1は、相違点(B)について検討するまでもなく、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(5)-2 申立人Bの主張する理由及び提出した証拠について
本件発明1と甲第1ないし5号証に記載された発明とを対比すると、後者は、前者の「合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなる」という技術的事項を有していないと認められる。
なお、甲第1号証にはコーティング用組成物中に充填剤を分散させうることが記載されているとは認められるが、これによってコーティング層の表面に凹凸が生ずるものとは直ちに認めることはできず、たとえ生じたとしてもその凹凸は、上記(5)-1中で甲第3号証について示したと同様の理由で、本件発明1の凹凸に相当するものとは認められない。
また、甲第5号証(特開昭62-183886号公報、取消理由で引用した刊行物3)には、表面に微少凹凸からなる艶消面を有する艶消基材の艶消面に微少凹凸に沿って設けられた架橋硬化皮膜からなる耐擦傷性層を有する耐擦傷性艶消材であって、基材1の表面に設けた微小凹凸2がその上に設けた被膜3を通して、表面に現れているものが記載されているが、上記(4)-1中で甲第3号証について示したように、甲第5号証には本件発明1の凹凸に相当する技術的事項は記載されていないものと認められる。
そして、本件発明1は、特許明細書に記載された保護層に美麗な外観を与えるという効果を有するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

(6)本件発明2について
申立人Aの提出した甲第1号証には、アクリル系樹脂フィルムの一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層を設けてなる表面保護用フィルムが記載され、この表面保護用フィルムは、表面改質をしようとする基材表面に従来方法の如くプライマー層を設けることなく単に圧着もしくは溶着するのみで、ラミネートでき、表面硬化樹脂成形品を得ることができることが記載されていると認められる。
又、同じく甲第2号証には、ポリメチルメタアクリレートフィルムの一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層を設けてなる表面保護用フィルムを所望合成樹脂成形品の外面形状片に打ちぬき、この打ちぬき片を、射出成形用割型のうち、移動金型の表面に沿って、ポリメチルメタアクリレートフィルムがキャビティ側を向くように配置し、割金型を閉鎖してキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出し、表面に表面保護用フィルムが一体化した成形品を得る、表面保護層を有する合成樹脂成形品の製造方法が記載されていると認められる。
そして、甲第1号証に記載された発明のアクリル系樹脂フィルム及び甲第2号証に記載された発明のポリメチルメタアクリレートフィルムは共に熱融着性を有する合成樹脂フィルムであると認められる。
本件発明2(前者)と、甲第1ないし2号証に記載された発明(後者)とを対比すると、
両者は熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを、合成樹脂成形品表面に、熱融着により、表面保護用フィルムを一体化させる、表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法である点で共通すると認められるが、
(A)後者が、前者の合成樹脂を溶融して押出ダイから押出し、押出された成形体がもつ予熱を利用するか、または必要に応じて加熱した上で、表面保護フィルムを、その熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層が成形品表面に接するように密着させ、熱融着により成形品の表面に表面保護フィルムを一体化させるという技術的事項を有していない点、
(B)前者が耐擦傷性に加えて耐汚染性にすぐれた表面保護フィルムであるのに対して、後者は耐汚染性については不明である点の二点で相違していると認められる。
相違点(A)について検討する。
同じく甲第3ないし5号証には、本件発明2の上記相違点(A)に係る技術的事項について記載も示唆もされていないと認められる。
なお、甲第4号証には、押し出し成形において、所望の絵柄が印刷された熱可塑性樹脂フィルムを押し出し成形品の表面にラミネートする方法の発明について記載されているが、この発明は、所望の絵柄が印刷された熱可塑性樹脂フィルムを、ダイスから押し出された成形品の持つ熱、あるいは、別個に設置した予備加熱用ヒーターによって柔軟化させ、型治具内に設けられたフィルムの導入路に密着させ、成形品の表面形状に対応する導入路の形状に半ば強制的に一致させた上で、成形品の表面にラミネートさせるものであると認められる。
したがって、上記の成形品の持つ熱、又は、予備加熱用ヒーターによる熱は、所望の絵柄が印刷された熱可塑性樹脂フィルムを柔軟化させるために与えられるものであって、該フィルムの熱融着のためのものではなく、ス)の記載からみて、該フィルムは予め塗布した接着剤によって押し出した成形品の表面にラミネートされるものと認められから、甲第4号証には、本件発明2の上記相違点(A)に係る技術的事項については記載も示唆もされていないと認められる。
そして、本件発明2は、特許明細書に記載された効果を有するものと認められる。
よって、本件発明2は、相違点(B)について検討するまでもなく、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(7)本件発明3について
当審が通知した取消理由において引用した刊行物2には、上記「(6)本件発明2について」において、申立人Aの提出した甲第2号証に記載された発明として示したとおりの発明が記載されていると認められる。
本件発明3(前者)と、刊行物2に記載された発明(後者)とを対比すると、後者の、ポリメチルメタアクリレートフィルムは熱融着性を有する合成樹脂フィルムであると認められ、また、表面保護用フィルムを所望合成樹脂成形品の外面形状片に打ちぬく処理は前者の予備成形に相当すると認められるから、
両者は熱融着性を有する合成樹脂フィルムの一方の面に、耐擦傷性にすぐれた合成樹脂層を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、必要により予備成形したのち、射出成型用割型内部の金型表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層がキャビティ側を向くように配置し、割金型を閉鎖してキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出し、表面に表面保護用フィルムが一体化した成形品を得ることからなる表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法である点で共通し、
(A)前者が射出成型用割型のうち射出ゲートをもたない側の金型表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルムを配置するのに対し、後者は移動金型の表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルムを配置しているが、射出ゲートの配設部位が不明瞭であって、射出ゲートをもたない側の金型表面に沿って配置することが明示されていない点、
(B)前者が耐擦傷性に加えて耐汚染性にすぐれた表面保護フィルムであるのに対して、後者は耐汚染性については不明である点の二点で相違していると認められる。
(A)の点について検討する。
両者とも射出成形金型内にフィルムを配置した後この金型内に溶融樹脂を射出して表面にフィルムが一体化した樹脂成型物を得るという、いわゆるインサート射出成形法に包含される成形方法であり、フィルムが一体化した樹脂成型物を得るインサート射出成形法において、射出ゲートからの射出樹脂の影響等を考慮して、射出ゲートを持たない側の割金型内表面にフィルムを配置することは、実施に際して当然採用される手段であって、従来周知のことであると認められる。
したがって、後者の金型として射出ゲートが固定金型に設けられたものを用いることにより、フィルムを配置する部位を射出ゲートをもたない側の金型表面とすることは当業者が必要に応じて適宜採用できる程度のことと認められる。
また、本件特許明細書の記載をみても、射出成型用割型のうち射出ゲートをもたない側の金型表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルムを配置したことにより格別の効果を奏し得たものとは認められない。
(B)の点について検討する。
表面保護用フィルム等の表面保護層に求められる性質として耐擦傷性や耐汚染性があることは従来周知のことであると認められるので、本件発明3において耐擦傷性に加えて耐汚染性を有する合成樹脂層を用いた点は当業者が容易に実施できる程度のことと認められる。
また、本件特許明細書の記載をみても、耐擦傷性に加えて耐汚染性を有する合成樹脂層を用いたことにより特に予測し難い効果を奏し得たものとは認められない。
よって、本件発明3は刊行物2に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることが出来たものと認められ、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、申立人A及びBの特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面保護用フィルムおよび表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなる表面保護用フィルム。
【請求項2】 熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、合成樹脂を溶融して押出ダイから押出し、押出された成形体がもつ余熱を利用するか、または必要に応じて加熱した上で、表面保護用フィルムを、その熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層が成形品表面に接するように密着させ、熱融着により成形品の表面に表面保護用フィルを一体化させることからなる表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法。
【請求項3】 熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、必要により予備成形したのち、射出成形用割型のうち射出ゲートをもたない側の金型表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層がキャビティ側を向くように配置し、割金型を閉鎖してキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出し、表面に表面保護用フィルムが一体化した成形品を得ることからなる表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、金属板、ガラス板、プラスチック板または化粧板などの表面に貼って、それらの損傷や汚染を防止する表面保護用フィルムの改良に関する。本発明はまた、表面保護用フィルムを使用して行なう、表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法にも関する。
【従来の技術】
金属、ガラス、プラスチック、各種化粧材でつくった板や立体形状をもつ成形品の表面を保護し、スリ傷や摩耗、汚染を防ぐ手段として、保護用フィルムをそれらに貼ることが行われている。保護用フイルムは、基材とする合成樹脂のフィルムに所望の表面物性をもった合成樹脂の層を設けたものである。
しかし、この保護用フィルムを上記のような基板に貼るには接着剤を塗布しなければならず、その作業は面倒である。接着剤に代えてあらかじめ粘着剤を塗布したものがあるが、粘着剤では耐クリープ性や接着力が低く、性能面で不満足であり、使用までは粘着剤の面に剥離紙を当てておく必要もある。
出願人は、上記の問題を解決すべく、基材となる合成樹脂フィルムの一方の面に耐擦傷性などにすぐれた合成樹脂層を設け、他方の面に感熱接着剤層を設けてなる表面保護用フィルムを考案し、すでに提案した(実願平1-6472号)。この表面保護用フィルムは、施工者が使用に先立って接着剤を塗布する必要がなく、熱ロールなどを使用して簡単に貼ることができ、しかもいったん貼ったのちは、接着力が強く、保護の目的を十分に果たすことができる。
上記の表面保護用フィルムにおいて、基材フィルムの存在意義は、合成樹脂層および接着剤層を設けるためのよりどころである。つまり、保護用フィルムの製造時にはまだ流動性をもっている樹脂や接着剤を、固まるまで保持するために必要なものである。
しかし、表面保護用フィルムの製造が終わった後は、基材フィルムは基板との接着にも表面の保護にも関与しない、無用な層となる。無用な層の存在は好ましいことではなく、とくに化粧板などに貼る場合は、保護用フィルムの層が厚くなれば、それにともなって基板の意匠が損なわれるし、厚さが増加する分、可撓性や成形性が低下し、とくに凹凸の多い形状の成形品に接着しようとする場合、その形状にうまく合致させられなかったり、シワが入ったりするので、無用な層の存在は避けたい。
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第一の目的は、保護用フィルムに対する上記の要望に応え、必要最小限の構成からなる表面保護用フィルムを提供することにある。
本発明の第二の目的は、表面保護用フィルムを使用して、表面保護層を有する合成樹脂成形品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明の表面保護用フィルムは、基本的には図面に示すように、熱融着性をもつ合成樹脂、とりわけアクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなるものである。
ここで、「熱融着性」の語は、ホットプレス、ホットスタンプ、真空成形(圧空成形を含む)、溶融押出しなどの手段により融着可能な性質を意味する。
本発明の表面保護層を有する合成樹脂成形品の製造方法において好適な一態様は、上記した意味の熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、合成樹脂を溶融して押出ダイから押出し、押出された成形体がもつ余熱を利用するか、または必要に応じて加熱した上で、表面保護用フィルムを、その熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層が成形品表面に接するように密着させ、熱融着により成形品の表面に表面保護用フィルを一体化させることからなる。
本発明の表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法において好適な別の態様は、上記の表面保護用フィルムすなわち熱融着性を有する合成樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設けてなる表面保護用フィルムを用意し、必要により予備成形したのち、射出成形用割型のうち射出ゲートをもたない側の金型表面に沿って、熱融着性をもつ合成樹脂フィルム層がキャビティ側を向くように配置し、割金型を閉鎖してキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出し、表面に表面保護用フィルムが一体化した成形品を得ることからなる。
【発明の実施形態】
表面保護用フィルムは、表面物性に関して、耐擦傷性と耐汚染性に加えて、耐候性、耐摩耗性、耐薬品性などが、用途によっては要求されることがあるから、それに応じて、保護層の材質として、熱硬化性樹脂や電離放射線硬化性樹脂の中から、適当なものを選ぶ。
熱硬化性樹脂には、アミンやイソシアネートを硬化剤として用いるポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリシロキサン樹脂など多くのものが知られている。ポリシロキサン樹脂にはアルコキシシラン系のものとカーボンファンクショナルシランとがあり、硬化層の硬さにおいては前者がまさり、プラスチックヘの接着性と可撓性などの加工性は後者がよい。用途に応じて選択使用する。
電離放射線硬化性樹脂は、一般に重合性不飽和結合を有する多官能(メタ)アクリレート系、エポキシ系、ポリチオール系などのものが用いられている。未硬化状態では固体であるが熱可塑性をもつ電離放射線硬化性樹脂を用いると、後記する凹凸の形成が容易になる。そのような樹脂には、ガラス転移温度が0〜250℃のポリマー中にラジカル重合性不飽和基を有するものや、融点が20〜250℃でありラジカル重合性不飽和基を有する化合物があり、本発明においては、これらを混合して用いることもでき、さらにそれに対してラジカル重合性不飽和単量体を加えることもできる。
さらに、電離放射線硬化性樹脂の中に、アクリル系、セルロース系などの非架橋型の熱可塑性樹脂を混合することもできる。ここで、一般に官能基の数を少なくしてより高分子量の樹脂を架橋させるようにし、さらに非架橋型熱可塑性樹脂を最高70重量部まで添加することにより、電離放射線硬化性樹脂の硬化物の可撓性、成形品の立体形状に適合する加工性およびエンボス適正を高めることができる。ただし、耐擦傷性や耐薬品性はそれに伴って低下するから、これらの諸物性が最適のバランスを保つように配合を選ぶ。
合成樹脂の保護層(1)は、任意のエンボス模様などの凹凸を設けて美麗な外観を与えるが、用途に応じて透明なものにしたり、ツヤ消しにしたりする。保護層(1)をツヤ消しにするには、従来どおりマット材、たとえば粒径が0.1〜10ミクロン程度の炭酸カルシウム、シリカ、炭酸バリウム、アルミナなどの微粉末を添加すればよい。
凹凸の形成も、既知のエンボス技術に従って行えばよい。凹凸形状は任意にえらんでよいが、ひとつの好適な例を示せば、平行な直線または曲線の群とそれを囲む閉じた線とからなるパターンの集合体であって、辺を共有して隣り合うパターンの平行な直線または曲線の方向が異なり、線の深さおよび間隔が0.1〜100ミクロンであって、線群の方向差は5度以上のものである。この種のパターンは、みる方向によって、各々閉じた線内のツヤが変化して見えるという意匠上の特性がある。
熱融着性を有するフィルムは、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩ビ-酢ビ共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルブチラール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アイオノマー、ポリウレタン、アクリル樹脂などの1種または2種以上の混合物のフィルム、あるいは1層または2層の積層フィルムの中から、保護用フィルムを貼る対象物の材質を考慮して、適宜のものを使用する。
たとえば、対象物が金属板であるならば、アイオノマーのフィルムが、接着力が強くて好適である。アイオノマーは、メタクリル酸のようなα、β-不飽和カルボン酸とエチレンとの共重合体のH+をNa+,Zn2+などの金属イオンで部分的に、または完全に置換したものであり、常用の製品の中から、用途に応じて適切なグレードをえらんで、フィルムにして使用する。
とくに高い耐候性を必要とする場合には、後記する実施例に見るように、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂を用いることが望ましい。必要に応じて、これにべンゾトリアゾールのような紫外線吸収剤を添加する。熱融着性を有するフィルムの厚さは、12〜200μmで足りる。
本発明の表面保護層を有する合成樹脂成形品の製造方法は、前記した好適な二つの態様に限らず、上述の表面保護用フィルムを既知の任意の手法で合成樹脂成形品の表面に接着または融着することからなる、一般的な方法を包含する。表面保護の対象となる成形品は、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂など任意の合成樹脂から製造した板状体や、凹凸のある立体形状をもった成形品である。表面保護用フィルムの接着は適宜の接着剤を用いて行なうことができる。融着は、たとえばホットプレス、ホットスタンプによることもできるし、真空および(または)圧空成形により成形品表面に沿わせて熱融着する方法によることもできる。融着に必要な熱の与え方は任意で、予熱、加圧同時加熱、加圧積層後加熱の一つまたは組み合わせによればよい。
表面保護層を与えるべき成形品が立体的な形状をもつものである場合に有利な製造方法のひとつは、前述の、合成樹脂を溶融して押出ダイから押出し、それと表面保護用フィルムを一体化する態様である。表面用フィルムを押し出された成形品の表面形状に沿わせる技術は、特開昭59-20666号、特公昭60-5000号、特公平1-33332号などに記載されている。成形体のもつ予熱では融着に不足な場合は、赤外線ヒーターを用いた予備加熱や接着時加熱などを併用する。
立体的な形状をもつ成形品に表面保護層を与える、いまひとつの有利な製造方法は、これも前述した、射出成形と同時に表面保護用フィルムを一体化する態様である。たとえば、特公昭50-19132号、特開昭59-202832号に記載の技術が参考になる。
【実施例1】
厚さ50μmのアクリル樹脂のフィルム(鐘淵化学工業(株)製)上に、紫外線硬化型耐候性塗料「HC」(大日精化工業(株)製)を塗布し、出力160W/cmのオゾン発生型紫外線ランプの下を2.5m/min.の速度で通過させ、厚さ3μmの硬化樹脂層を設けて本発明の表面保護用フィルムを得た。
ポリ塩化ビニルの表面層をもつ化粧板に、上記の表面保護用フィルムを、温度130度、加圧力5kg/cm2の条件で5分間ホットプレスした。
得られたポリ塩化ビニル化粧板は、スチールウール#0000で10往復こすっても傷がつかず、赤色マジックインキで書き込み、室温(25℃)に48時間放置した後も、ラッカーシンナーで拭き取ると、色残りなく消すことができた。
【実施例2】
厚さ100μmのアクリル樹脂のフィルム(同前)上に、紫外線硬化型耐候性塗料「HC」(前記)を塗布し、実施例1と同様に厚さ3μmの硬化樹脂層を設けて、表面保護用フィルムを得た。
ポリカーボネート樹脂を押出機で溶融し、ダイ温度150〜160℃で厚さ3mmの板に押し出し、板の表面温度が140℃になった時点で、上記の表面保護フィルムを表面温度130℃のシリコンゴムローラーで、圧力5kg/cm2で加圧融」着することにより、表面保護層をもつポリカーボネート板を得た。
【実施例3】
実施例2で用いたものと同じアクリル樹脂のフィルム上に、紫外線硬化型耐候性塗料として、上記の「HC」にポリメチルメタクリレートを20重量%添加したものを塗布し、同じ条件で硬化させて、厚さ2μmの硬化樹脂層を有する表面保護用フィルムを得た。
最小曲率半径が90mmの立体形状をもつ成形品をつくる射出成形割金型を用い、そのゲートのない側の金型表面に、赤外線ヒーターで130℃に加熱して軟化させた上記の表面保護用フィルムを真空成形で沿わせ、予備成形した。表面保護用フィルムは、もちろん熱融着性をもつ合成樹脂の側がキャビティを向くように配置した。
型閉めしてABS樹脂を射出成形し、予備成形した表面保護用フィルムが一体化した成形品を得た。この成形品において、表面保護用フィルムは完全に成形樹脂の表面に密着しており、シワもなかった。耐擦傷性も、スチールウール#000で5往復こすって傷のつかない程度にあった。油性赤マジックインキの消去性について前記と同じ試験をしたところ、若干色残りが認められたものの、ABS樹脂だけの成形品より、はるかに消去性が高いものであった。
【発明の効果】
本発明によれば、基材フィルムをもたない表面保護用フィルムを実現できる。本発明の表面保護用フィルムは、従来その存在が避けられなかった基材フィルムをなくしたことにより、保護の対象物がもっている意匠を損なう度合いを著しく低くした。施工に際して接着剤を塗布する必要はなく、熱ロールなどを使用して簡単に貼ることができ、いったん貼ったのちは接着力が強く、保護の目的を十分に果たすことができる。
この表面保護用フィルムを、立体形状をもつ成形品に接着する場合にも、硬質な基材フィルムがないため凹凸ある形状によく追従して変形し、熱融着フィルムの溶融により強固に融着してシワが生じない。
本発明の表面保護層を有する成形品の製造方法によるときは、成形品の形状に沿って完全に密着した表面保護層ができるという上記の利益を確保した上で、押出成形や射出成形と同時に表面保護層が形成されることにより、成形品製造の生産性が高まる。
【図面の簡単な説明】
図面は、本発明の表面保護用フィルムの基本的な態様を説明するための、模式的な断面図である。
1 保護層
2 熱融着性フィルム(アクリル樹脂フィルム)
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(a)請求項1を下記のとおり訂正し、請求項2を削除する。
「【請求項1】アクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなる表面保護用フィルム。」
(b)請求項3および4の項番号を、それぞれ2および3に繰り上げる。
(c)明細書の発明の詳細な説明において、【課題を解決するための手段】の第一段落(公報第3欄第48行〜第4欄第1行)を、下記のとおり訂正する。
「本発明の表面保護用フィルムは、基本的には図面に示すように、熱融着性をもつ合成樹脂、とりわけアクリル樹脂フィルム(2)の一方の面に、耐擦傷性および耐汚染性にすぐれた合成樹脂層(1)を設け、合成樹脂層の表面に凹凸を設けてなるものである。」
異議決定日 2001-05-21 
出願番号 特願平1-317148
審決分類 P 1 651・ 534- ZD (B32B)
P 1 651・ 113- ZD (B32B)
P 1 651・ 121- ZD (B32B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 野村 康秀芦原 ゆりか平井 裕彰  
特許庁審判長 藤井 彰
特許庁審判官 喜納 稔
石井 克彦
登録日 1999-07-02 
登録番号 特許第2946573号(P2946573)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 表面保護用フィルムおよび表面保護層を有する合成樹脂成型品の製造方法  
代理人 中山 亨  
代理人 高橋 詔男  
代理人 久保山 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 神野 直美  

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