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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 F16D 審判 全部申し立て 2項進歩性 F16D |
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管理番号 | 1048493 |
異議申立番号 | 異議2001-71094 |
総通号数 | 24 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-05-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-04-10 |
確定日 | 2001-10-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3097042号「ボールジョイント式差動制限装置」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3097042号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件特許3097042号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成5年5月25日に出願され、平成12年8月11日に、その発明について特許権の設定登録がなされ、その特許について、平成13年4月10日に特許異議申立人 日立金属株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年8月27日に特許異議意見書が提出されたものである。 II.特許異議の申立てについての判断 1.特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が甲第1号証(米国特許第2841036号明細書)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、と主張している。 また、本件特許の請求項1及び2に係る本件特許発明の差動装置を反覆作動させた場合、目的とする効果を挙げることができないものであるので、構成要件の記載に不備があり、特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない、と主張している。 2.本件発明 本件の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。また、それらを総称して、「本件発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された下記のとおりのものである。 「【請求項1】 一方のシャフト(1)の外周に、蛇行しながらシャフトを一周する輪状の溝(2)を作り、他方の中空のシャフト(3)の内周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)を作り、前記輪状の溝(2)の断面の形状及び前記縦溝(4)の断面の形状を、いずれも自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分とし、両方のシャフトの溝に噛み合わせた自在球(5)を介して2本のシャフトを連結することを特徴とするボールジョイント式差動制限装置。 【請求項2】 一方の中空のシャフト(1)の内周に、蛇行しながらシャフトを一周する輪状の溝(2)を作り、他方のシャフト(3)の外周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)を作り、前記輪状の溝(2)の断面の形状及び前記縦溝(4)の断面の形状を、いずれも自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分とし、両方のシャフトの溝に噛み合わせた自在球(5)を介して2本のシャフトを連結することを特徴とするボールジョイント式差動制限装置。 」 3.通知した取消しの理由に引用した刊行物に記載された発明 (1) 刊行物1:米国特許第2841036号明細書(申立人が甲第1号証として提出) (刊行物1) 刊行物1には、刊行物1の記載に対応する申立人の提出した翻訳文(甲第1号証の1)の記載を参照すれば、下記の技術的事項が記載されている。 (a)「私の発明は、ギヤ無し差動装置に関し、特に、軌道中のボールベアリングによるカム作用を利用して力を伝導するギア無し差動装置に関する。」(第1欄第15〜18行)、 (b)「私の発明は、比較的容易にかつ安価に製造でき、数個の丈夫な部品からなる単純構造の差動装置を得ることを目的とする。また私の発明は、自動車が前進及び構体する際の両方とも駆動力を車輪に伝達することが可能な装置を得ることを、別の目的とする。更に私の発明は、車輪の1つによる牽引にかかわらず自動車の車輪に駆動力を車輪に伝達することを可能にする装置を得ることを、また別の目的とする。更に私の発明は、自動車の従動輪の何れかがスピンするのを妨げて、滑りやすい路面や雪や氷の路面でエンジンの駆動力をフルに用いることを保証するのを、また別の目的とする。」(第1欄第19〜35行)、 (c)「図面に詳細を参照されるように、私の差動装置は3つの基本的な部品、駆動ケージ11、右側の軸12、そして左側の軸13を有する。駆動ケージ11は、筒状に形成され、お互いに45°おきにケージ11の表面の周囲に配列された8つの縦溝14、15を有する。これらの溝14、15は互いに食い違うように配置され、交互の溝14の一つのグループは、右側の内と外の軌道の範囲に符号しており、残りのグループである交互の溝15は、左側の内と外の溝との範囲に付合している。駆動ケージ11は、その終端に垂直な輪状のフランジ16を設けている。このフランジは、駆動軸19上のピニオン18に共同して噛み合うリングギア17を外周に有する。」(第1欄第49〜63行)、 (d)「右側の軸12は、軸12の主要部よりいくらか大きい直径を持つ端部20を有し、また、それに外部で交差する一対の軌道21、22を通している。これらの軌道は、各々90°おきに変化するように配置され、最初に分岐しそしてお互いが集合し、端部20において180°で交叉している。これらの正確な特性は図5に示されている。端部20は、駆動ケージ11に正確に適合するように調和されている。」(第1欄第64行〜第2欄第2行)、 (e)「左側の軸13は、筒状で、軸12の主要部よりいくらか大きい直径を持つ端部23を有する。これには、内側の平行な一対の軌道24、25を有する。これらの軌道は、軌道21、22に対応して、90°ごと変わるように配置されている。端部23には、ボールベアリング27が挿入可能なように外表面から軌道24、25に延びる通路26、26を有している。ボールベアリング27が全ての位置に配置されるとき、すなわち、駆動ケージ11の各溝内にあるときには、通路26、26はプラグ28で封止される。」(第2欄第3〜13行)、 (f)「私のギア無し差動装置の動作は以下のとおりである。自動車が正常の牽引力で通常の路面を走行時、駆動ケージ11は自動車のモーターに強制されて回転し、そして、ボールベアリング27のカム作用で、溝によって軸と駆動ケージが一体となって回転させられる。自動車が、円弧を描き、一方の車輪が他方のより大きい距離で進むときであっても、それでも確実な駆動力が両方の車輪に加わる。従って、明白なことは、駆動ケージ11がどちらかの方向に移動するとき、溝14はボールベアリング27と軌道21、22、24、25とカム関係にあるため、カムの表面に力が与えられる。それぞれの軸を回転させるために必要な力とそれらの回転速度は異なるかもしれないが、回転半径か表面状態のため、これらの力は、すべりなしに一定の駆動力として作用する。」(第2欄第14〜33行) 4.対比・判断 【請求項1】について 本件発明1においては、「他方の中空のシャフト(3)の内周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)」を設ける構成、及び「縦溝(4)の断面の形状を、自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分」とする構成により、 (イ)他方の中空のシャフト(3)を入力側とした場合、他方の中空のシャフト(3)の内周の自在球(5)の外周側に速度を与える、 (ロ)自在球(5)の、シャフト(3)の回転軸からみて外方側への移動を規制して支える、といった役割を果たしていると認められる。 一方、刊行物1に記載されたものにおいては、駆動ケージ11、及び駆動ケージ11の縦溝14、15は、ボールベアリング27の、「右側の軸12の外側をボールベアリング27が転動する際の速度」を与える役割を果たしているものと認められる。 してみれば、刊行物1に記載された駆動ケージ11、及び駆動ケージ11の縦溝14、15を、仮に、上記(ロ)のように、ボールベアリング27の、右側の軸12の回転軸からみて外方側への移動を規制して支えるために、本件発明1の「他方の中空のシャフト(3)の内周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)」を設ける構成、及び「縦溝(4)の断面の形状を、自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分」とする構成としてみたところで、その構成の変更に伴って、刊行物1に記載されたものの上記駆動力の伝達とは別異の、上記(イ)のような駆動力の伝達となり、そのような異なる駆動力の伝達とする構成の変更は、当業者が上記刊行物1の記載に基いて容易に想到することができたものとはいえない。 結局、上記刊行物1に記載の発明は、本件発明1を特定する事項である、「他方の中空のシャフト(3)の内周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)」を設けた構成及び「縦溝(4)の断面の形状を、自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分」とした構成を備えておらず、また、それらの構成は、刊行物1に記載も示唆もされていない。 当該構成により、本件発明1は、「二つのシャフトの回転数の差が少ない場合、自在球(5)は、一方のシャフト(1)の外周を蛇行しながら一周する輪状の溝(2)を、回転数の差に相当する角速度で転がり、この溝(2)が蛇行しながらシャフト(1)を一周するものであることから、他方のシャフト(3)では、自在球(5)は縦溝(4)に沿って転がりながら軸方向を往復する。このとき自在球(5)と両シャフトの溝との摩擦力は小さく、二つのシャフトの回転数の差は、維持される。二つのシャフトの回転数の差が大きくなると、自在球(5)と両シャフトの溝との摩擦力が大きくなり、回転数の差に自在球(5)の転がり速度が追随できなくなり、二つのシャフト間でトルクが伝達され、回転数の差が制限される。」(明細書の段落【0005】参照)及び「従来の差動制限装置に比べ、形状および機構的に単純で部品数が少なくなる。」(明細書の段落【0012】参照)という明細書記載の顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1は、当業者が上記刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 【請求項2】について 本件発明2においては、「他方のシャフト(3)の外周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)」を設ける構成、及び「縦溝(4)の断面の形状を、自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分」とする構成により、 (ハ)他方のシャフト(3)を入力側とした場合、他方のシャフト(3)の外周の自在球(5)の内周側に速度を与える、 (ニ)自在球(5)の、シャフト(3)の回転軸からみて内方側への移動を規制して支える、といった役割を果たしていると認められる。 一方、刊行物1に記載されたものにおいては、駆動ケージ11、及び駆動ケージ11の縦溝14、15は、ボールベアリング27の、「中空の左側の軸13の内側をボールベアリング27が転動する際の速度」を与える役割を果たしているものと認められる。 してみれば、刊行物1に記載された駆動ケージ11、及び駆動ケージ11の縦溝14、15を、仮に、上記(ニ)のように、ボールベアリング27の、左側の軸13の回転軸からみて内方側への移動を規制して支えるために、本件発明2の「他方のシャフト(3)の外周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)」を設ける構成、及び「縦溝(4)の断面の形状を、自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分」とする構成としてみたところで、その構成の変更に伴って、刊行物1に記載されたものの上記駆動力の伝達とは別異の、上記(ハ)のような駆動力の伝達となり、そのような異なる駆動力の伝達とする構成の変更は、当業者が上記刊行物1の記載に基いて容易に想到することができたものとはいえない。 結局、上記刊行物1に記載の発明は、本件発明2を特定する事項である、「他方の中空のシャフト(3)の内周に、シャフト(3)の軸と平行に縦溝(4)」を設けた構成及び「縦溝(4)の断面の形状を、自在球(5)と同程度の半径の扇型の円弧部分」とした構成を備えておらず、また、それらの構成は、刊行物1に記載も示唆もされていない。 当該構成により、本件発明2は、「二つのシャフトの回転数の差が少ない場合、自在球(5)は、一方のシャフト(1)の外周を蛇行しながら一周する輪状の溝(2)を、回転数の差に相当する角速度で転がり、この溝(2)が蛇行しながらシャフト(1)を一周するものであることから、他方のシャフト(3)では、自在球(5)は縦溝(4)に沿って転がりながら軸方向を往復する。このとき自在球(5)と両シャフトの溝との摩擦力は小さく、二つのシャフトの回転数の差は、維持される。二つのシャフトの回転数の差が大きくなると、自在球(5)と両シャフトの溝との摩擦力が大きくなり、回転数の差に自在球(5)の転がり速度が追随できなくなり、二つのシャフト間でトルクが伝達され、回転数の差が制限される。」(明細書の段落【0005】参照)及び「従来の差動制限装置に比べ、形状および機構的に単純で部品数が少なくなる。」(明細書の段落【0012】参照)という明細書記載の顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明2は、当業者が上記刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 5.特許法第36条第4項について 申立人は、本件特許の請求項1及び2に係る本件特許発明の差動装置においては、「自在球(5)と両シャフトの溝間を潤滑すると、摩擦係数が極端に小さくなってトルクを伝達することができない」し、また、「実用される差動回転数、例えば5〜1000rpmで、自在球(5)と両シャフトの溝間を潤滑せずに作動させると、自在球(5)と両シャフトの溝間で次第に焼き付きが起こり、差動の機能が果たせなくなってしまう」ので、本件特許発明の差動装置を反覆作動させた場合、目的とする効果を挙げることができないので、構成要件の記載に不備があり、特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない、と主張している(特許異議申立書第9頁下から第9行〜第10頁第6行の記載を参照)。 しかしながら、自在球(5)と両シャフトの溝間を潤滑する潤滑剤の種類、シャフトの材料及び表面状態、等を適宜選択して本件特許発明の差動装置を作動させれば、そのような問題を回避できない程のものとは認められないので、請求項1及び2に係る発明の構成は、明細書及び図面の記載から理解できるものであり、その点で明細書の記載に不備があったものとすることはできず、申立人の主張は採用することができない。 6.特許異議の申立てについてのむすび 以上のとおり、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が上記刊行物1に記載された発明、すなわち、申立人が提出した甲第1号証刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、上述のとおり、本件特許の明細書の記載に不備があったものとすることはできない。 III.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-09-28 |
出願番号 | 特願平5-204401 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F16D)
P 1 651・ 531- Y (F16D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 遠藤 謙一、中屋 裕一郎 |
特許庁審判長 |
西川 一 |
特許庁審判官 |
常盤 務 長屋 陽二郎 |
登録日 | 2000-08-11 |
登録番号 | 特許第3097042号(P3097042) |
権利者 | 嶋田 実 |
発明の名称 | ボールジョイント式差動制限装置 |
代理人 | 河野 昭 |