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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1049410
審判番号 審判1999-11325  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-07-12 
確定日 2001-11-13 
事件の表示 平成9年特許願第113286号「薄い、変形可能なフィルム」拒絶査定に対する審判事件[平成10年3月31日出願公開、特開平10-82902]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本願は、昭和61年11月20日(米国での出願に基づくパリ条約の優先日:1985年11月21日)に出願された特願昭61-277790号の一部を、平成9年3月27日に、特許法第44条第1項の規定に基づいて新たな出願としたものであり、本願の特許請求の範囲第1項に記載された発明の要旨は、平成12年8月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの以下のものと認められる。
「一方の側に構造面を、該構造面とは反対の他方の側に滑らかな面を含み、透明であり、かつ、均質で等方性である高分子材料で形成された薄い変形可能なフィルムであって、前記構造面が複数の突起と溝とを形成するために並置された、概ね直角の二等辺をもつ微小なプリズムの直線配列を含み、前記プリズムの直角の二辺が前記構造面と反対側の前記滑らかな面に対して概ね45度の角度をなしていることを特徴とするフィルム。」(以下、「本願発明」という。)

【2】引用例
これに対して、当審の平成12年9月20日付けの拒絶理由通知で引用した、米国特許第4120565号明細書(以下、「引用例」という。)、実願昭54-58380号(実開昭55-159304号)のマイクロフィルム(以下、「周知例1」という。)、及び米国特許第2248638号明細書(以下、「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

引用例: 米国特許第4120565号明細書
[1]第1欄第39行〜第48行
「放射エネルギーの集中及び収集装置において、与えられた受け入れ角に対して高い反射性を有する改良された反射壁が提供される。この改良された反射壁は、各プリズムの前面が隣接するするように配置された複数の矩形プリズムからなる。前面及び稜線の形状は、ラインフォーカスパラボラ、ポイントフォーカスパラボラ、トラフ型及びコーン型のような各種のエネルギー収集装置においてよく知られた理想的な形状に対応する。」
[2]第1欄第65行〜第2欄第11行
「Fig.1には、矩形プリズム10が立体的に示されている。矩形プリズムは、同じ長さで互いに90°を成しプリズムの稜線14を形成する2つの側面11を有する3側面のプリズムである。前面16は第3面であり稜線14に対向している。前面16上の入射エネルギー線Sに対するプリズムの作用を考察する。Fig.2はxy平面でのSの射影を、また、yz平面でのSの射影を示す。Fig.1、2及び3において、Pはプリズムにより理想的に反射された光線である。プリズム10の材料の屈折率nはこれを取り囲む環境の屈折率に対して十分高いとすると、側面11及び12からの反射はTIRにより発生する。」
[3]第2欄第23行〜第31行
「太陽エネルギー集中装置のための反射性壁としての複数のプリズムの応用は、Fig.4、Fig.5、Fig.6及びFig.7に示されている。それぞれの場合において、複数のプリズムは互いに接するように配置されている。Fig.4において、複数の隣接するプリズム20はラインフォーカスパラボリックリフレクターの反射性壁を構成し、与えられた受け入れ角内で各プリズム20の前面22上に入射するエネルギーは焦線24に沿って入射するように方向付けられる。」
[4]第4欄第23行〜第44行
「図示された収集装置の形態及びプリズムはプラスチックのような材料から形成できるという事実によって、この反射性壁の形成によく知られた大量生産技術を用いることを可能にする。特殊な材料又は製造技術は必要とされない。ガラスはその耐久性から魅力的ではあるけれども、その融点の観点で、プラスチックよりモールドするのが困難である。プラスチックの中では、アクリル(n=1.49)、NAS(n=1.562)ポリカーボネート(n=1.586)及びスチレン(n=1.590)が満足できる材料の例である。プリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーであって、その厚さは押出又は注入モールディングによりプラスチックで製造することを助ける。・・・Fig.9には、隣接するプリズムの他の形態が示されている。ここでプリズム60は、全てのプリズム60が取り付けられる一様な上部分62とともに1部材として形成されている。ある材料において、この形態は、取り扱いと製造を簡単にし、より強度のある反射性壁を形成する。」

以上の記載から、引用例には、「一方の側に互いに90°を成し同じ長さの側面11及び12を、該側面11及び12とは反対の他方の側に前面16,22を含み、アクリル(n=1.49)、NAS(n=1.562)、ポリカーボネート(n=1.586)及びスチレン(n=1.590)で形成された前記側面11及び12が複数の突起と溝とを形成するために並置された、90°を成し同じ長さの側面11及び12をもち、プリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーであって、押出又は注入モールディングにより形成されたプリズムの直線配列を含み、前記プリズムの90°を成し同じ長さの側面11及び12が前記側面11及び12と反対側の前記前面16,22に対して45度の角度をなし、側面11及び12からの反射はTIRにより発生するように、すべてのプリズムと上部分とが1部材として形成された反射性壁。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

周知例1:実願昭54-58380号(実開昭55-159304号)のマイクロフィルム
[1]明細書第1頁第11行〜第17行
「光再帰性(反射光が入射位置に戻るもの)構造体については、従来透明アクリル樹脂などの裏面にキュービック構造を形成し、樹脂-空気界面の屈折率を利用し、入射光が表面上で再帰反射し、反射光が入射光と同一方向に再帰する光再帰性を持たせたものが、安全標識や反射板に用いられている…」
[2]明細書第2頁第4行〜第6行
「この考案は、柔軟性を有する合成樹脂モールに光再帰性を付与することにより、曲面部に装着可能な光再帰性光輝モールの提供を目的とする。」
[3]明細書第3頁第1行〜第14行
「この光再帰性光輝モールは柔軟弾性体を素材としていることから、例えば…自動車のバンパーモール5又はサイドモール6...ステップモール、ランプモール、ラッゲージモールとしても装着可能である。上記のように構成された光再帰性光輝モールは、樹脂モール表面上にキュービック構造面を持つため光再帰性を有し、また軟質樹脂を使用しているため、外部からの衝撃が加わった場合にも損傷することなく光再帰性は維持され、被装着物が自動車外装面のような曲面にも接着剤、両面粘着テープ、クリップ、ボルト、又は相手部品との嵌合などの手段によって容易に装着可能である。」

周知例2 :米国特許第2248638号明細書
[1]第1頁左欄第25行〜第36行
「この発明は、光偏向する複数のプリズム状のエレメントを担持するシートからなり、このシート材が薄く柔軟で、これに担持されるプリズム状エレメントが微小であることを特徴とし、これによりこの材が巻き上げられ、さもなくば通常の方法で格納され、又は、必要に応じてのばすことができる。この光偏向プリズム状要素が反射面を有するならば、それらは入射光を反射の通常の光路の一方の側に偏向するような角度に配置される。」
[2]第1頁右欄第26行〜第44行
「Fig.1において、11は例えばセルロイドからなる透明なシート材料を表し、同図において大きく拡大して示されている。実施の際の実際の厚さは1インチの1/100より小さい。この材料の表面は多数の平行なプリズム状リブ12で覆われている。…図示の例では、リブの間隔は1インチの約1/500、すなわち1mmの1/20で、この大きさでリブは裸眼で個別に視認することはできなくなる。Fig.2において、ブラインドとして使用するためのローラ15に巻かれた、リブ12を有する材料11を示す。」
[3]第2頁左欄第16行〜第21行
「この発明において、柔軟なリブ付きシートの製造のために特に考慮される材料は、セルロースアセテート、他のセルロースエステル(又はエーテル)のようなセルロース系材料、アルギン材料及び合成樹脂である。」

【3】対比
本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明における(a)「側面11及び12」、(b)「前面16,22」、(c)「アクリル(n=1.49)、NAS(n=1.562)、ポリカーボネート(n=1.586)及びスチレン(n=1.590)」は本願発明の(a)「構造面」または「プリズムの直角の二辺」、(b)「滑らかな面」、(c)「均質で等方性である高分子材料」に相当する。また、引用発明の「反射性壁」も本願発明の「フィルム」も、いずれも入射する光に対して光学作用(全反射すなわちTIR作用)を及ぼすものであるから光学部材に属するものである。
よって、両者は、「一方の側に構造面を、該構造面とは反対の他方の側に滑らかな面を含み、透明であり、かつ、均質で等方性である高分子材料で形成され、前記構造面が複数の突起と溝とを形成するために並置された、概ね直角の二等辺をもつ微小なプリズムの直線配列を含み、前記プリズムの直角の二辺が前記構造面と反対側の前記滑らかな面に対して概ね45度の角度をなしていることを特徴とする光学部材。」の点で一致する。

そして、本願発明は、以下の点で引用発明と相違する。
[相違点1]
本願発明においてはプリズムが「微小」であるのに対して、引用発明はプリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーである点。
[相違点2]
本願発明においては光学部材が「薄い変形可能なフィルム」であるのに対して、引用発明は光学素子についてそのような明示の記載がない点。

【4】判断
そこで、まず、上記[相違点1]を検討するに、光学素子を形成するプリズムが微小であることは、引用発明の光学部材の機能である、入射光に対してTIR(全反射)するという作用とは直接関係のない事項であるから、その観点からすれば、引用発明のプリズムの大きさは微小であっても微小でなくてもよい。引用発明について検討するに、「プリズムの厚さは、一般的に1cmの半分のオーダーであって、その厚さは押出又は注入モールディングによりプラスチックで製造することを助ける。」と記載され、Fig.4に示されるラインフォーカスパラボラシステムに示される反射性壁の大きさから見て、1cmの半分のオーダーのプリズムは比較的小さいとも考えられる。また、TIR作用はプリズムの大きさと関係ないのであるから、製造上許す限り、プリズムを1cmの半分のオーダーよりさらに小さくすることが可能であり、それを妨げる要因は見いだせない。よって、引用発明のプリズムを微小なもとすることは当業者が設計上適宜に設定できる事項である。なお、シート状の光学素子のプリズムを微小なものとすることは、周知例2にリブの間隔を1インチの約1/500、すなわち1mmの1/20とする例が示されているように何ら格別の困難を伴う技術事項ではない。
よって、引用発明の光学部材のプリズムを微小なものとすることは、当該技術分野に携わる当業者が容易に想到できる事項である。

次に上記[相違点2]を検討するに、引用発明において、光学部材はFig.9のように隣接するプリズムが一様な上部分62とともに1部材として1cmの半分のオーダーの厚さのシートとしてプラスチックよりモールドして形成されるものであり、変形可能なフィルムとしても、側面11及び12が90°をなしている限りその光学的作用(入射光をTIRさせる)は変わらないから、このようなシートを、薄い変形可能なフィルムとすることは、当業者にとって、設計上格別困難なく採用できる事項である。なお、このような厚さの小さい高分子材料からなる光学素子を、薄い変形可能なフィルムとすることは、周知例1,2に示すように当該技術分野におけるありふれた技術事項である。
よって、引用発明の光学部材を薄い変形可能なフィルムとすることは、当該技術分野の当業者が容易に想到できる事項である。

そして、[相違点1]及び[相違点2]に関する本願発明の構成によってもたらされる効果は引用例及び周知例1,2から予測される範囲のものである。
なお、平成13年3月29日付け意見書において主張する本願発明の効果は引用例、又は周知例1,2の構成によって生じる効果に他ならない。

【5】むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲第1項に記載された発明は引用例及び周知例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-05 
結審通知日 2001-06-15 
審決日 2001-06-26 
出願番号 特願平9-113286
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 末政 清滋瀬川 勝久後藤 亮治  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 柏崎 正男
矢沢 清純
発明の名称 薄い、変形可能なフィルム  
代理人 小林 純子  
代理人 片山 英二  

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