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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1049902
異議申立番号 異議2000-74138  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-11-15 
確定日 2001-08-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3040993号「ナノ複合材料の製造方法」の請求項1ないし24に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3040993号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第3040993号は、平成11年(1999年)6月10日(優先権主張 H10(1998).10.29 台湾)に特許出願され、平成12年3月3日にその特許の設定登録がなされた。
その後、株式会社豊田中央研究所より特許異議の申立がなされ、当審より平成13年2月19日付けの取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年5月30日付けで訂正請求がなされた。
〔2〕訂正の適否についての判断
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
明細書の特許請求の範囲の請求項1〜24において、もとの請求項1〜13を削除し、もとの請求項14を独立形式の請求項1と訂正することにより、もとの請求項14〜24を新たに訂正明細書の請求項1〜11と訂正する。
(2)訂正事項b
(i)明細書の段落番号[0013]を、
「[課題を解決するための手段]
すなわち、本発明は、
(a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す工程、(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状の珪酸塩粘土に有機官能化・膨潤処理を施す工程、(c)膨潤処理を経た前記層状の珪酸塩粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる工程、および(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する工程からなるナノ複合材料の製造方法に関する。」
と訂正する。
(ii)明細書の段落番号[0014]を削除する。
(iii)明細書の段落番号[0016]を
「詳しくは、本発明によるビニル系高分子化合物のナノ材料の製造方法は次の各工程からなる。
(a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す。
(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状粘土に有機官能化・膨潤処理を施す。
(c)有機官能化・膨潤処理を経た前記層状粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる。
(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する。」
と訂正する。
(iv)明細書の段落番号[0041]における「実施例2」を「比較例1」に訂正する。
(v)明細書の段落番号[0043]における「実施例3」を「実施例2」に訂正する。
(vi)明細書の段落番号[0044]における「比較例1」を「比較例2」に訂正する。
(vii)明細書の段落番号[0046]における「実施例4」を「実施例3」に訂正する。
(viii)明細書の段落番号[0048]における「実施例5」を「比較例3」に訂正する。
(ix)明細書中の簡単な説明における「実施例1、実施例2および比較例1」を「実施例1、比較例1および比較例2」に訂正し、「実施例3および実施例4」を「実施例2及び実施例3」に訂正する。
2.訂正の適否の判断
訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、(1)訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1〜13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、(2)訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮に伴う特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加にも該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項および第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を適法なものとして認める。
〔3〕特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
特許異議申立の対象となった本件訂正前の請求項1〜24に係る発明は、その後上記訂正請求がなされ、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される次のとおりのものとなっている。
「【請求項1】 (a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す工程、
(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状の珪酸塩粘土に有機官能化・膨潤処理を施す工程、
(c)膨潤処理を経た前記層状の珪酸塩粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる工程、および
(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する工程からなるナノ複合材料の製造方法。
【請求項2】 前記工程(a)で使用する界面活性剤が、塩化ピリジニウムセチルまたは塩化トリメチルアンモニウムセチルである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 前記工程(a)で使用する層状の珪酸塩粘土が、モンモリロナイト、雲母、および滑石よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】 前記工程(b)で使用するシランカップリング剤が、ビニル、アクリル、およびエポキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】 前記工程(b)で使用するシランカップリング剤が、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、および3-グリシジルオキシプロピル-トリメトキシシランよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】 前記工程(c)で使用するビニルモノマーが、スチレン、アクリロニトリル、およびアクリルよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
【請求項7】 前記工程(c)で使用する触媒が、有機過酸化物またはジアゾ化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項8】 前記工程(c)で使用する触媒が、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、およびアゾビスイソブチロニトリルよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】 前記工程(c)で使用する珪酸塩粘土の使用量が、ビニルモノマー100重量部に対して0.05〜30重量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項10】 前記工程(c)で実施する重合反応の設定反応温度が、50〜100℃である請求項1記載の製造方法。
【請求項11】 前記工程(d)で加える懸濁液が、ポリビニルアルコールの水性懸濁液または無機塩の水性懸濁液である請求項1記載の製造方法。」
2.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人株式会社豊田中央研究所は、証拠として下記刊行物1〜5に対応する甲第1〜5号証を引用し、
本件請求項1〜24に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することが出来たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、
本件特許を取り消すべき旨主張する。
3.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1(甲第1号証:特開昭63-215775号公報)には、
「(2)上記粘土鉱物は、樹脂100重量部に対して0.5〜150重量部含有してなる特許請求の範囲第(1)項記載の複合材料。
(3)陽イオン交換容量が50〜200ミリ当量/100gの層状粘土鉱物を、末端ビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換するイオン交換工程と、該イオン交換された粘土鉱物とビニル系高分子化合物のモノマーとを混合する混合工程と、上記混合物中の上記モノマーを重合させる重合工程からなることを特徴とする複合材料の製造方法。」(特許請求の範囲)、
「該オニウム塩としては、アンモニウム塩、ピリジニウム塩・・が挙げられ、一般式が・・・R2は水素原子、アルキル基、・・・であり、同一でも異なってもよい。」(第4頁右上欄第2〜19行)、
「また層状の無機質物質が均一に分散しているために寸法安定性、耐衝撃性、表面潤滑性、耐水性に優れている。また、無機層状物質である粘土鉱物が10オングストロームという分子レベルの厚さの単位で分散し、」(第5頁右上欄第1〜4行)、
「更に、本第2発明の方法により得られた複合材料は、機械的強度および耐熱性に優れた複合材料である。」(第5頁左下欄第8〜10行)、
と記載されている。
(2)刊行物2(甲第2号証:特開平6-43692号公報)には、「(1)水溶モノマー、および油溶性モノマーを任意の重合開始剤、任意の架橋成分および任意の連鎖移動成分と混合し、(2)水溶および油溶性モノマーの約10〜約40重量%が重合するまで塊重合を行い;・・・サスペンジョンを形成し、(6)懸濁重合して、前記モノマーのポリマーへの転化を完了させ;、・・トナー組成物の製造方法。」(特許請求の範囲)、
「有効量で存在する水溶性モノマーあるいはコモノマーの実例には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、・・」(第4頁左欄第29〜31行、第46行〜第48行)、
「有効量で存在する開始剤の例には、・・ジアゾ化合、それらの混合物等がある。」(第4頁右欄第16〜20行)、
と記載されている。
(3)刊行物3(甲第3号証:「第4版実験化学講座28「高分子合成」」第86〜89頁 平成4年5月6日 丸善株式会社発行)には、
「(2)塊重合・・・」(第86頁下段)、
「(3)懸濁重合・・」(第87頁中段)。
に関する重合方法が記載されている。
(4)刊行物4(甲第4号証:「粘土ハンドブック」第106〜109頁 昭和42年1月15日 株式会社技報堂発行)には、
「負電荷をもつモンモリナイトと塩基性アミノイオンを有する有機物との反応はイオン交換反応の好例である。」(第107頁右欄中段)、
「主鎖に炭素数の異なる一連の脂肪族アミンでベントナイトを処理してC軸の関係を測定した。」(第108頁右欄下段)、
と記載されている。
(5)刊行物5(甲第5号証:「KA0 chemicals」 1990年6月 花王株式会社発行)には、
「脂肪アミンは、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤の主な原料で、その誘導体は衣料用の柔軟仕上げ剤、・・」(第3頁第2〜3行まえがき)、
「1級アミン・・・主な用途;陽イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤の主要原料」(第4頁、1級アミンの表の下)
と記載されている。
4.対比および判断
進歩性違反について〉
本件訂正後の請求項1〜11に係る発明(以下「本件発明1〜11」という。)は、層状粘土に特殊な有機官能化・膨潤処理を施し、その分散性を改善することにより、層状粘土が均一に分散したナノ複合材料の製法を提供するものである。
そこで本件発明1〜11と上記刊行物1〜5記載の発明とを順次対比するに、
(1)本件発明1は、「(a)層状の珪酸塩粘土(以下「層状粘土」という。)を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す工程(以下、「(a)界面処理工程」という。)、
(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状の珪酸塩粘土に有機官能化・膨潤処理を施す工程(以下、「(b)シランカップリング処理工程」という。)、
(c)膨潤処理を経た前記層状の珪酸塩粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる工程(以下、「(c)塊重合工程」という。)、および
(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応(以下、「(d)懸濁重合工程」という。)を起こさせ(以下、(C)と(d)工程を「(c)(d)二段階重合工程」という。)、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する工程からなるナノ複合材料の製造方法」にかかるものである。
これに対して、刊行物1記載の発明は、「(a)層状粘土鉱物を、末端にビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換する工程と、(c)該イオン交換された粘土鉱物とビニル系高分子化合物モノマ一とを混合する混合工程と、上記混合物中の上記モノマーを重合させる重合工程とからなる複合材料の製造方法。」(第1頁左下欄第13行〜右下欄第2行参照)にかかるものである。
そして、本件発明1の(a)界面処理工程」は、刊行物1の「イオン交換する工程」と操作上実質的に差異がないと解し得る。
してみると、本件発明1と刊行物1記載の発明とは、層状粘土鉱物が10オングストローム(ナノ)という分子レベル程度に均一に分散した、機械的強度および耐熱性が優れた複合材料を、(a)層状粘土を用い、それを(c)界面処理工程により処理し、次いで(c)塊重合工程によるナノ複合材料の製造方法、という点で両者は一致するが、
本件発明1は、(イ)界面活性剤として、「炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有する」という特定の化合物を用いること、
(ロ)本件発明1は「(b)シランカップリング処理工程」を採用すること、および
(ハ)「(c)(d)二段階重合工程」を採用する、というに対して、刊行物1にはそのいずれの化合物又は工程も明示する記載がない、という点で両者が相違する。
その違いを子細に検討すると、まず(イ)の点は、本件発明1で限定する特定の界面活性剤は、刊行物1に特にオニウム塩として例示されている各種化合物とは、「炭素数が12以上」のアルキルという限定の有無において違いが認められ、この限定事項は、刊行物1記載のアルキルという程度の記載からは勿論のこと、刊行物4の「粘土と有機物との複合体として、粘土(ベントナイト)と脂肪族アミンとの複合体」(第108頁右欄第5〜7行)の記載事項、および刊行物5の「脂肪族アミンが界面活性剤の主な原料であること」(まえがきの第2〜3行、1級アミンの表の下)の記載事項を参酌しても、容易に為し得ることではない。
同様に、(ロ)の点は、汎用の複合材料の充填剤をシランカップリング処理することは慣用手段であるとともに、本件発明1は、一応複合材料の製法に関する発明であるとはいえ、その製法の詳細は層状粘土を用い、(a)界面処理工程、および(c)(d)二段階重合工程という特殊な工程の採用に基づくナノ複合材料の製造方法という、いわゆる通常の複合材料の製法とは著しく異なる特異な手法に基づくものであり、このような特異な手法に「(b)シランカップリング処理工程」を導入することなど全く予期されないことである。
さらに、(ハ)の点について、刊行物2には、トナー組成物の製造方法として、「水溶性および油溶性モノマーを重合開始剤により約10〜40重量%まで塊重合(加熱重合)した後、懸濁重合させる方法」が記載され(第2頁左欄第2〜16行、第3頁右欄第11〜15行)という二段階重合技術が記載されており、刊行物3にも、ビニルモノマーの重合方法として、塊重合(加熱重合)方法、懸濁重合方法などがそれぞれ記載されており、塊重合、懸濁重合、およびそれを組み合わせた二段階重合技術は知られているが、刊行物2はトナー組成物の製法という本件発明1とは異なる技術分野に属し、刊行物3は一般の塊重合、懸濁重合方法を教示する程度のものであるという事情を鑑みれば、本件発明1のナノ複合材料の製造方法という特殊な材料の製法に、(c)(d)二段階重合工程を採用することは容易に為し得るほどの技術的な因果関係或いは必然性などないということになるから、結局、この(ハ)の点も当業者が容易に為し得ることではない。
以上のとおり、本件発明1と刊行物1〜5記載の発明とは(イ)〜(ハ)と点で、本質的な違いが認められる故に、結局、本件発明1は、刊行物1〜5記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(2)本件発明2〜11は、本件発明1の実施態様の詳細をそれぞれ具体化したものであるから、本件発明1の検討で指摘したそれと同じ理由で、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
本件発明1〜11は、機械的強度および耐熱性の優れたナノ複合材料を製造するという点で有意な作用効果を奏している。
よって、本件発明1〜11は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
5.むすび
したがって、特許異議申立人の主張および証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜11に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ナノ複合材料の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す工程、
(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状の珪酸塩粘土に有機官能化・膨潤処理を施す工程、
(c)膨潤処理を経た前記層状の珪酸塩粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる工程、および
(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する工程
からなるナノ複合材料の製造方法。
【請求項2】 前記工程(a)で使用する界面活性剤が、塩化ピリジニウムセチルまたは塩化トリメチルアンモニウムセチルである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 前記工程(a)で使用する層状の珪酸塩粘土が、モンモリロナイト、雲母、および滑石よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】 前記工程(b)で使用するシランカップリング剤が、ビニル、アクリル、およびエポキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】 前記工程(b)で使用するシランカップリング剤が、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、および3-グリシジルオキシプロピル-トリメトキシシランよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】 前記工程(c)で使用するビニルモノマーが、スチレン、アクリロニトリル、およびアクリルよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
【請求項7】 前記工程(c)で使用する触媒が、有機過酸化物またはジアゾ化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項8】 前記工程(c)で使用する触媒が、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、およびアゾビスイソブチロニトリルよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】 前記工程(c)で使用する珪酸塩粘土の使用量が、ビニルモノマー100重量部に対して0.05〜30重量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項10】 前記工程(c)で実施する重合反応の設定反応温度が、50〜100℃である請求項1記載の製造方法。
【請求項11】 前記工程(d)で加える懸濁液が、ポリビニルアルコールの水性懸濁液または無機塩の水性懸濁液である請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子複合材料を製造する方法に関するもので、とくに、層状粘土が均一に分散したビニル系高分子化合物のナノ複合材料(nanocomposite)を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
機械的強度および耐熱性に優れたナノ複合材料は、電気電子、情報科学、自動車製造など各分野の部品製造に広く応用されている。
【0003】
ナノ複合材料の調製方法には次の4通りがある。
【0004】
(i)層間挿入法(intercalation)
層状無機質材料の層間に重合体を挿入する。たとえば、珪酸塩よりなる層状粘土の層間にカプロラクタムのモノマーを挿入してナイロン6を重合し、珪酸塩層(100nm×100nm×1nm)に層ごとに剥離・分散したナノ級補強剤を形成する。または、ポリスチレン(PS)と有機化珪酸塩層とを直接溶融させて層間挿入する。
【0005】
(ii)現場(In-Situ)法
現場フィラー形成法および現場重合法の2通りがある。前者はゾル-ゲル(sol-gel)法であり、末端基Si(OEt)3を有するポリオキサゾリン(polyoxazolin(POZO))とSi(OEt)4をエタノールに溶かし、さらに珪酸を添加することにより透明なゲル状物体を形成し、POZOをシリカゲル基材中に微細分散させる。後者は、重合体および別のモノマーを共通の溶媒中で重合させ、または貴金属錯体をモノマーに溶かして分散重合させた後、加熱してナノ級の金属グループを析出させ、高分子基材中に微細分散させる。
【0006】
(iii)分子複合材料(molecular composite)形成法
液晶高分子とエンジニアリングプラスチックを溶融して高分子の合金を得る。
【0007】
(iv)超微粒子直接分散法
液晶ブラッシング(flashing)法で粒径5〜10nmの超微粒子TiO2およびFe2O3を製造するさい、表面が単分子層で覆われた界面活性剤、およびポリプロピレン(PP)などの高分子を押出機のなかで溶融混練することにより二次凝集を防止し、ナノ級の分散効果を達成する。
【0008】
ナノ複合材料の特徴は、少量のナノ次元分散相で、物性および機械的性質を大幅に向上できる点にあり、これは応用材料工学における大きな進歩である。たとえば、ナノ複合材料ナイロン6と、無機充填剤またはガラス繊維を30〜40%添加した従来の複合材料とを比較してみる。ナノ複合材料は、微細分散したナノ補強材(液晶高分子または無機層材)を僅か10%以下含有するだけで、大幅に引張弾性率を向上させることができる。補強材の添加量1%当たりで見ると、従来の複合材料の実に5〜10倍もの効率で引張弾性率を向上させられることがわかる。また、高分子基材は、高温下で軟化するという欠点を有するため、耐熱性の強化がその研究開発において検討されてきたが、従来の高分子基材に有機耐熱性重合体、無機充填剤、またはガラス繊維のいずれを添加しても、耐熱性の改善という点において、ナノ複合材料に5%以下の層状無機材料を添加した場合に遥かに及ばず、添加量1%当たりで見ると実に約5〜40倍も劣ってしまう。したがって、機械的性質の向上に加え、透明性の保持、難燃性の向上、ガス透過率の1/2〜1/3引き下げなど種々の効果を考慮すれば、ナノ複合材料が材料工学への応用において無二独特の競争力を有していることがわかる。
【0009】
ビニル系高分子化合物のナノ複合材料の製造方法が、最近の文献資料「J.Mater.Sci.,31(13),3589-3596,1996.」に開示されている。すなわち、ポリスチレン/粘土鉱物重合体の合成過程において、まずビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(vinylbenzyltrimethylammonium chloride、CH2=CH-C6H4-CH2-N+H(CH3)2Cl-)で層状のモンモリロナイトをイオン交換し、表面処理を施した後、このモンモリロナイトおよびスチレンモノマー化合物を有機溶媒(たとえばトルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル(MeCN)など)に入れて混合し、溶液重合によりポリスチレン/粘土鉱物重合体を合成するものである。こうして調製されたポリスチレン/粘土鉱物重合体に対してX線回折を行ったところ、モンモリロナイトの層間距離は約0.96nm、ポリスチレン/粘土鉱物重合体の粘土鉱物の層間距離は約1.72〜2.45nmであった。
【0010】
特開昭63-215775号公報(出願人:株式会社トヨタ中央研究所)は、ビニル系高分子化合物のナノ複合材料を製造する方法を開示した。すなわち、分子状に分散した層状の粘土鉱物を、末端にビニルを含有するアンモニウム塩化合物(CH2=CH-C6H4-CH2-N+H(CH3)Cl-)によりイオン交換し、次に、イオン交換により膨潤したこの粘土鉱物を有機溶媒(N-N-ジメチルホルムアミド)に分散させ、さらにビニルを含有するモノマーを添加して重合反応を起こさせることにより、均一に分散したナノ複合材料を形成するものである。
【0011】
特開平08-151449号公報(出願人:三菱化学株式会社)もまた、ビニル系高分子化合物のナノ複合材料を製造する方法を開示した。すなわち、非晶性熱可塑性樹脂、層状珪酸塩、および有機溶媒を混練機で溶融混練し、混練機のベント口を減圧に保持することにより有機溶媒を除去するというものである。有機溶媒を層状珪酸塩に予め加えておいたうえで、さらに混練機で溶融混練して非晶性熱可塑性樹脂/粘土鉱物混合物を調製する。こうして得られる混合物の組成は、(a)非晶性熱可塑性樹脂(たとえばポリフェニルエーテル(PPE)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、メチルメタクリル樹脂(PMMA)、スチレンアクリロニトリル(SMA)など)が100重量部、(b)層状珪酸塩が0.05〜30重量部、(c)有機溶媒(たとえばキシレン、トリクロロベンゼンなど)が1.4重量部以上である。ポリフェニルエーテル(PPE)を使用した場合、曲げ弾性率(FM)および耐熱性(HDT)が明らかに向上した。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主要目的は、層状粘土が均一に分散するような、ビニル系高分子化合物のナノ複合材料を製造することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、
(a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す工程、(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状の珪酸塩粘土に有機官能化・膨潤処理を施す工程、(c)膨潤処理を経た前記層状の珪酸塩粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる工程、および(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する工程
からなるナノ複合材料の製造方法に関する。
【0014】
【0015】
【発明の実施の形態】
前述した目的を達成するため、本発明では、カチオン界面活性剤およびシランカップリング剤などにより有機化表面処理を施した層状粘土を、ビニルモノマーと塊状・懸濁重合させることにより、層状粘土が均一に分散したビニル系高分子化合物のナノ複合材料を調製する。
【0016】
詳しくは、本発明によるビニル系高分子化合物のナノ複合材料の製造方法は次の各工程からなる。
(a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す。
(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状粘土に有機官能化・膨潤処理を施す。
(c)有機官能化・膨潤処理を経た前記層状粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる。
(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する。
【0017】
本発明の製造方法によれば、工程(a)で使用する層状の珪酸塩粘土は、主にモンモリロナイト、雲母、および滑石(talc)類の層状粘土鉱物である。本発明で使用する界面活性剤は、アンモニウム塩のカチオン界面活性剤で、たとえば炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物または第4アンモニウム塩であり、具体的には塩化ピリジニウムセチル、塩化トリメチルアンモニウムセチルなどを例示することができる。
【0018】
界面活性剤の添加量は、層状の珪酸塩粘土の陽イオン交換容量に対して、0.2〜2.0当量であることが好ましい。添加量が2.0当量をこえる場合、処理を経た層状珪酸塩粘土の層間距離の膨潤程度が一定値に維持することとなり、著しく増加することはなく、添加量が0.2当量未満の場合、層状珪酸塩粘土の層間距離の膨潤効果がわずかなため、粘土の層間距離が広がらない傾向がある。
【0019】
工程(b)で使用するシランカップリング剤は、ビニル、エポキシ、アクリルなどの官能基を有することが好ましい。好ましいシランカップリング剤として、具体的にはビニルトリエトキシシラン(vinyltriethoxysilane)、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(3-methacryloxypropyltrimethoxysilane)、および3-グリシジルオキシプロピル-トリメトキシシラン(3-glycidyloxypropyl-trimethoxysilane)などを例示することができる。
【0020】
シランカップリング剤の添加量は、層状珪酸塩粘土の陽イオン交換容量に対して0.05〜1.0当量であることが好ましい。添加量が1.0当量を超える場合、層状珪酸塩粘土に接するシラン官能基が多いため、重合反応する際に、層状珪酸塩粘土との架橋程度が増え、粘土が膨潤して広がる可能性が低くなる。また、添加量が0.05当量未満の場合、層状珪酸塩粘土に接するシラン官能基がわずかなため、重合反応する際に、重合体と層状珪酸塩粘土界面との結合の可能性が減少し、重合体と層状粘土との界面性質を効果的に改善できない傾向がある。
【0021】
工程(c)で実施する重合反応は、設定温度50〜100℃の反応条件下で行われる。前記層状粘土の含有量は、前記ビニルモノマーの重量を基準として0.05〜30重量%であることが好ましい。前記粘土鉱物の含有量が30重量%を超えると生成複合材料の加工性が不十分となり、0.05重量%未満だと生成複合材料に対する補強効果が得られないからである。
【0022】
前記ビニルモノマーとしては、具体的にはスチレンモノマー、アクリロニトリルモノマー、およびアクリルモノマーなどを例示することができる。
【0023】
該重合反応の触媒としては、具体的にはベンゾイルペルオキシド(BPO)、ラウロイルペルオキシド(LPO)などの有機過酸化物、およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのジアゾ化合物を例示することができる。
【0024】
触媒の添加量は、重合反応単体総重量に対して、0.1〜3.0重量%であることが好ましい。添加量が3.0重量%を超える場合、重合反応するときに生じた遊離基が多く、重合の反応速度があがるとともに、重合体の分子量が減ってゆく。添加量が0.1重量%未満の場合、重合反応する時に生じた遊離基が少なく、重合の反応速度がさがる傾向がある。
【0025】
工程(d)で加える懸濁液は、ポリビニルアルコールの水性懸濁液、または炭酸マグネシウムなど無機塩の水性懸濁液であることが好ましい。
【0026】
本発明によれば、カチオン交換容量が50〜200ミリ当量/100gの層状の珪酸塩粘土を、アンモニウム塩およびシラン化合物により膨潤させると、該層状粘土間に層間挿入構造が形成される。X線回折を行ったところ、該層状粘土間の層間距離は17Å以上に達した。
【0027】
本発明によれば、膨潤した層状の珪酸塩粘土とビニルモノマーを混合させ、該層状粘土が均一に分散した混合物を形成した後、さらに総体重合、溶液重合、懸濁重合、または乳化重合などの重合反応を起こさせ、ナノ分散の高分子複合材料を形成する。該ナノ複合材料は、その層間に均一に分散した層状粘土を有しており、X線回折で分析した結果、その層間距離は33Å以上に達した。該層状構造中の層状粘土の含有量は、ビニル樹脂の重量を基準として0.05〜30重量%であることが好ましい。前記粘土鉱物の含有量が30重量%を超えると生成複合材料の成形加工性が不十分となり、0.05重量%未満だと生成複合材料に対する補強効果が得られないからである。
【0028】
本発明によるナノ複合材料の製造方法は、ポリスチレン(PS)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)などのスチレン系複合材料、並びにポリメチルメタクリル酸などのアクリル系複合材料の分野に応用することができる。
【0029】
【実施例】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、および長所をいっそう明瞭にするため、以下に好ましい実施例を挙げ、図を参照にしつつさらに詳しく説明する。
【0030】
層状粘土の膨潤処理
本発明の実施例で使用する粘土を、次の方法で膨潤させた。使用した粘土および化合物を表1に示した。
【0031】

【0032】
層状粘土の有機官能化・膨潤処理は、まず層状の珪酸塩粘土を水で膨潤させ、有機アンモニウム化合物でイオン交換させることにより、層状粘土の層間にアルキル基含有の構造物を形成して層間距離を僅かに広げた後、ついで層間距離が僅かに広がった該層状粘土の表面を、官能基を含有するシラン化合物と反応させ、該層状粘土の表面に官能特性を付与するというものである。
【0033】
層状粘土の有機化・膨潤処理
24.0gのN-塩化ピリジニウムセチル(Cpdc)を水に溶かし、100gのモンモリロナイト(Kunipia F)を加えて均一に混合した。ついで、混合後の水溶液を濾過・乾燥させて水分を除去し、粘土層間にアルキル基を含有するような構造物(clay-01)を調製した。
【0034】
層状粘土の有機官能化・膨潤処理
(clay-01)の調製で使用したCpdcとモンモリロナイトの水溶液に、9mlのシラン化合物(S-710)および約2mlの濃縮塩酸を加えて混合し、得られた水溶液を濾過・乾燥させて水分を除去することにより、粘土層間にアルキル基を含有し且つ官能(二重結合)特性を有するような構造物(clay-02)を調製した。
【0035】
層状の珪酸塩粘土
層状の珪酸塩粘土(clay-03)は、主にモンモリロナイトKunipia F(Na-O-MMT タイプ)であり、そのカチオン交換容量は115ミリ当量/100gである。
【0036】
層状珪酸塩粘土のX線回折
表2は、層状の珪酸塩粘土をX線回折した結果を示したものである。表2から、モンモリロナイト(clay-03)の層間距離(d001)は約12Åであったが、有機官能化・膨潤処理を経た層状粘土(clay-01)または(clay-02)の層間距離(d001)は約17Åまで膨潤しており、層間挿入により層間距離が広がったことがわかる。
【0037】
層状珪酸塩粘土の熱重量分析
表2は、層状珪酸塩粘土を熱重量分析した結果を示したものであり、同表より、200〜500℃の温度範囲において、膨潤処理を経た層状粘土が15〜20重量%の損失重量を出すことがわかった。これは、有機アンモニウム化合物と層状粘土と間に、膨潤した層間挿入層が形成されたことを示している。
【0038】

【0039】
実施例1
膨潤処理を経た層状粘土(clay-02)を3重量部取り、100重量部のスチレンモノマーに溶解させ、ベンゾイルペルオキシドを0.5重量部加えた。ついで、得られた溶液を、攪拌器、温度調節器、窒素ガス注入口、凝固管などを備えた反応容器に入れ、温度70℃で6時間ブロック重合させた。この間、1時間ごとにサンプルを取り出してX線回折を行った。ブロック重合が終了したら(転化率30%)、懸濁液(ポリビニルアルコールPVAの0.7重量%水溶液)を300重量部加え、15時間懸濁重合させた。懸濁重合終了後、濾過により、均一顆粒状のポリスチレン重合体を得た。転化率は76%以上であった。
【0040】
X線回折を行った結果、分散した層状粘土間の層間距離が反応時間とともに増加し、よって層間挿入および膨潤構造が形成されたことが判別した。図1より、膨潤処理を経た粘土(clay-02)の層間距離(d001)約17Åが、反応時間の経過とともに増加を続け、スチレンモノマーにより完全に膨潤・分散された時点で約21Åになり、最終的には33Åに達することがわかる。
【0041】
比較例1
(clay-02)の替わりに(clay-01)を使用し、実施例1と同様な手順で重合反応を実施した結果、均一顆粒状のポリスチレン重合体を転化率66%以上で得た。
【0042】
X線回折を行ったところ、分散した層状粘土間の層間距離が反応時間ととも増加し、よって層間挿入および膨潤構造が形成されたことが判明した。均一顆粒状のポリスチレン重合体の層間距離(d001)は、最終的には33Åに達した。したがって、本実施例では層状粘土が均一に分散したポリスチレンナノ複合材料が形成された。
【0043】
実施例2
(clay-02)の使用量を5重量部に増加させ、実施例1と同様の手順で均一顆粒状のポリスチレン重合体を調製した。得られたポリスチレン重合体を射出成形機に通してASTM試料を作成し、その機械的性質を測定したところ、(264psiにおける)熱変形温度約86℃、衝撃強さ約0.164ft-lbs/in、曲げ強さ270kgf/cm2、曲げ弾性率約36000kgf/cm2であった。また、X線回折を行ったところ、得られたポリスチレン重合体中の層状粘土の層間距離(d001)は約31Åであった。したがって、本実施例では層状粘土が均一に分散したポリスチレンナノ複合材料が形成された。
【0044】
比較例2
(clay-02)のかわりにモンモリロナイト(clay-03)を使用し、実施例1と同様の手順で重合反応を実施した結果、均一顆粒状のポリスチレン重合体を転化率約88%で得た。
【0045】
しかしながら、X線回折を行ったところ、層状粘土モンモリロナイトの層間距離(d001)は反応時間とともに増加することはなく、反応過程中一律して約12Åであることが判明した。したがって、本比較例では層間挿入や膨潤構造が形成されなかった。
【0046】
実施例3
実施例1と同様の手順で、スチレンモノマー100重量部のかわりにアクリロニトリルモノマー20重量部およびスチレンモノマー80重量部を使用し、均一顆粒状のポリスチレン/アクリロニトリル共重合体を転化率85%以上で得た。
【0047】
X線回折を行ったところ、分散した層状粘土の層間距離が反応時間とともに増加し、よって層間挿入および膨潤構造が形成されたことが判明した。膨潤処理を経た粘土(clay-02)の層間距離(d001)約17Åは、反応時間の経過とともに増加を続け、スチレンモノマーおよびアクリロニトリルモノマーにより完全に膨潤・分散された時点で約21Åになり、最終生成物であるポリスチレン/アクリロニトリル共重合体の層間距離(d001)は約36Åに達した。したがって、本実施例では層状粘土が均一に分散したポリスチレン/アクリロニトリルナノ複合材料が形成された。
【0048】
比較例3
(clay-02)3重量部のかわりに(clay-03)を1.5重量部、スチレンモノマー100重量部のかわりにアクリロニトリルモノマー20重量部およびスチレンモノマー80重量部を使用し、実施例4と同様の手順で重合反応を実施した結果、均一顆粒状のポリスチレン/アクリロニトリル共重合体を転化率85%以上で得た。
【0049】
X線回折を行ったところ、分散した層状粘土の層間距離が反応時間とともに増加し、よって層間挿入および膨潤構造が形成されたことが判明した。膨潤処理を経た粘土(clay-03)の層間距離(d001)約17Åは、反応時間の経過とともに増加を続け、スチレンモノマーおよびアクリロニトリルモノマーにより完全に膨潤・分散された時点で約21Åになり、最終生成物である顆粒状のポリスチレン/アクリロニトリル共重合体の層間距離は約35Åに達した。したがって、本実施例では層状粘土が均一に分散したポリスチレン/アクリロニトリルナノ複合材料が形成された。
【0050】
以上に好ましい実施例を開示したが、これらは決して本発明の範囲を限定するものではなく、当該技術に熟知した者ならば誰でも、本発明の精神と領域を脱しない範囲内で各種の変動や潤色を加えられるべきであって、従って本発明の保護範囲は特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
【0051】
【発明の効果】
本発明によるナノ複合材料の製造方法は、層状粘土に特殊な有機官能化・膨潤処理を施し、その分散性を改善することにより、層状粘土が均一に分散したナノ複合材料を調製するものである。このようにして得られたナノ複合材料は、機械的強度および耐熱性に優れ、電気電子、情報科学、自動車製造などの各分野の部品製造に広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例1、比較例1および比較例2の重合反応過程における、層状粘土の層間距離(d001)と反応時間との関係を示したグラフである。
【図2】
実施例2および実施例3の重合反応過程における、層状粘土の層間距離(d001)と反応時間との関係を示したグラフである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
明細書の特許請求の範囲の請求項1〜24において、もとの請求項1〜13を削除し、もとの請求項14を独立形式の請求項1と訂正することにより、もとの請求項14〜24を新たに訂正明細書の請求項1〜11と訂正する。
(2)訂正事項b
(i)明細書の段落番号[0013]を、
「[課題を解決するための手段]
すなわち、本発明は、
(a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す工程、(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状の珪酸塩粘土に有機官能化・膨潤処理を施す工程、(c)膨潤処理を経た前記層状の珪酸塩粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる工程、および(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する工程からなるナノ複合材料の製造方法に関する。」
と訂正する。
(ii)明細書の段落番号[0014]を削除する。
(iii)明細書の段落番号[0016]を
「詳しくは、本発明によるビニル系高分子化合物のナノ材料の製造方法は次の各工程からなる。
(a)層状の珪酸塩粘土を提供し、炭素数が12以上のアルキルを少なくとも1つ含有するピリジニウム塩化合物および第4アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤により有機化・膨潤処理を施す。
(b)シランカップリング剤を使用し、前記層状粘土に有機官能化・膨潤処理を施す。
(c)有機官能化・膨潤処理を経た前記層状粘土をビニルモノマー中に分散させ、触媒存在下で加熱して重合反応を起こさせる。
(d)前記重合反応の転化率が10〜50%に達した後、懸濁液を加えて懸濁重合反応を起こさせ、顆粒が均一に分散したナノ複合材料を形成する。」
と訂正する。
(iv)明細書の段落番号[0041]における「実施例2」を「比較例1」に訂正する。
(v)明細書の段落番号[0043]における「実施例3」を「実施例2」に訂正する。
(vi)明細書の段落番号[0044]における「比較例1」を「比較例2」に訂正する。
(vii)明細書の段落番号[0046]における「実施例4」を「実施例3」に訂正する。
(viii)明細書の段落番号[0048]における「実施例5」を「比較例3」に訂正する。
(ix)明細書中の簡単な説明における「実施例1、実施例2および比較例1」を「実施例1、比較例1および比較例2」に訂正し、「実施例3および実施例4」を「実施例2及び実施例3」に訂正する。
異議決定日 2001-07-30 
出願番号 特願平11-163696
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 船岡 嘉彦
柿沢 紀世雄
登録日 2000-03-03 
登録番号 特許第3040993号(P3040993)
権利者 財団法人工業技術研究院
発明の名称 ナノ複合材料の製造方法  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 佐木 啓二  
代理人 佐木 啓二  

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