• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41M
管理番号 1049963
異議申立番号 異議2000-73247  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-25 
確定日 2001-08-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3013509号「熱転写記録用インクリボン」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3013509号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3013509号の請求項1に係る発明は、平成3年6月19日に出願され、平成11年12月17日のその特許の設定の登録がなされ、その後、株式会社ディスク及び沢江健治より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされその指定期間内である平成13年2月26日に訂正請求がなされ、次いで、取消理由通知がなされ、先の訂正請求が取下げられると同時に、指定期間内である平成13年7月6日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否について
2.1 訂正の内容
A.特許請求の範囲【請求項1】の「基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせたことを特徴とする熱転写記録用インクリボン。」を
「 基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、 前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、
前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることを特徴とする熱転写記録用インクリボン。」と訂正する。
B.特許明細書の段落【0007】の「本発明の熱転写記録用インクリボンは、基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせたことを特徴とする。」を
「本発明の熱転写記録用インクリボンは、基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、
前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、
前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることを特徴とする。」と訂正する。

2.2訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項Aは、特許明細書の段落【0007】〜【0017】の記載を根拠とし、インク層の潜熱量分布をさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、願書に添付した明細書に記載の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記訂正事項B.は、特許請求の範囲の記載にあわせて明細書の該当箇所を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
2.3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法という。」)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.訂正後の発明
訂正後の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、
前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、
前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることを特徴とする熱転写記録用インクリボン。」(以下、「本件発明」という。)
4.特許異議申立の概要
4.1 申立人 沢江健治の申立について
本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証(特開平2-147279号公報)又は甲第2号証(特開昭62-21592号公報)に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない発明に対して特許されたものであると主張する。
4.2 申立人 株式会社ディスクの申立について
本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証(特開平2-147279号公報)に記載された発明であるか、又は、甲第1号証、甲第2号証(JISK7121-1987,JISK7122-1987)及び甲第3号証(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典」5、474頁「潜熱」の項)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許することはできない発明に対して特許されたものであると主張する。
5.対比判断
5.1 申立人 沢江健治の申立について
5.1.1 甲第1及び2号証の記載
(a)「1.耐熱性基材の片面に剥離層を設け、更にその上に剥離層より溶融粘度の高いイエロー、マゼンタ、シアン、又はこれら3色の他に、更に、黒色のインク層を面方向に繰り返し単位で設けたことを特徴とする感熱転写記録媒体。
2.剥離層の吸熱量が20〜65mcal/mgで、インク層の吸熱量が10mcal/mg以下である請求項1の記録媒体。」(特許請求の範囲)
(b)「剥離層に用いられる熱溶融性物質としてはa)鯨ロウ、蜜ロウ、ラノリン、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、セレシンワックスなどの天然ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;酸化ワックス、エステルワックス、b)低分子量ポリエチレン、フィッシャートロプシュワックスなどの合成ワックス;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロメン酸、ベヘニン酸などの高級脂肪酸;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール;庶糖の脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステルなどのエステル類;ステアリンアミド、オレインアミドなどアミド類などが用いられる。」(第2頁左下欄第15行〜右下欄第9行)
(c)「本発明の剥離層は吸熱量20〜65mcal/mgの範囲にすることが好ましくは、これにより剥離層の熱印加時の状態変化が急激で、且つ加熱部分と未加熱部分との間で層が切れ易く、ドット抜けのないシャープな印字が行なえる上、高速印字にも適したものとなる。なお吸熱量は島津製作所製熱分析装置DT-30で試料のDSC曲線を記録し、このDSC曲線のピーク面積から下記式により算出される。
吸熱量=(ピーク面積)/(試料の質量)
この条件範囲に含まれる材料としては上記(a)群で挙げた物質がある。従って剥離層は(a)群から選ばれた物質を主成分とし、必要により(b)群及び/又は(c)群の物質を混合して吸熱量20〜65mcal/mgの範囲にすることが好ましい。」(第2頁右下欄第20行〜第3頁左上欄第15行)
(d)「またインク層は吸熱量10mcal/mg以下にすることが好ましく、これにより熱印字時のインク層の液化による転写紙中への浸透を防止して転写インクの表面濃度の低下を回避することができる。 インク層に使用される熱溶融性物質としては例えばポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系共重合体樹脂、エチレン-アクリル系共重合体樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴムなどのエラストマー類が用いられる。」(第3頁右上欄第13行〜左下欄第8行)
(e)「実施例1 厚さ3.5μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの片面に、パラフィン(融点68.3℃)とラノリン脂肪酸モノ・ジ混合グリセライ(融点72℃)とを重量比7:3に混合した組成物をホットメルトフレキソ印刷法によって厚さ3.0μmになるように印刷することにより剥離層を形成した。なお剥離層の溶融粘度(110℃において、以下同様)は31cps、また吸熱量は45mcal/mgであった。
次に上記剥離層上に下記第1表に示す各色インクを第1図に示した構成になるように、グラビア印刷によって厚さ0.5μmになるように塗布してインク層を形成し、感熱転写記録媒体を作製した。なおインク層の溶融粘度は約3500cps、また吸熱量は9.5mcal/mgであった。」(第4頁左上欄第19行〜右上欄第14行)
甲第2号証には、
(f)「ベースフィルムの一方の面に、熱溶融性インキ層と転写時に被転写紙の印字部を目止めする表面層との2層からなる転写膜が形成された熱転写シートであって、前記表面層が樹脂からなることを特徴とする感熱転写シート。」(特許請求の範囲)が記載され、
実施例1には、ポリエチエレンテレフタレートベースフィルム上に、
熱溶融性インキ層として、
カーボンブラック「ダイヤブラックG」(三菱化成) 15部 エチレン/酢ビ共重合体「EVAフレックス310」(三井ポリケミカル) 8部 パラフィンワックス「パラフィン150F」(日本精蝋) 50部
カルナバワックス 25部
を混練し、ホットメルトロールコート法により塗布し、
表面層として、
ポリアミド樹脂DPX-1163(ヘンケル白水) 10部
トルエン 10部
イソプロパノール 10部
を塗布した感熱転写記録媒体が記載されている。
5.1.2 対比判断
本件発明は上記構成要件を備えることにより、熱転写記録用インクリボンをサーマルヘッド等によりインクを溶融転写するにあたり、インク層の溶融部分が、ベースフィルム側の一辺が対向する辺よりも長い台形状に溶融するので、剥離の際にインクの溶融部分は上の方向に引っ張られ、未溶融部分は基材側に引っ張られてインク層の破壊が起こり転写画像の大きさが不安定になったり、エッジ部分にガタが生じるという従来の問題点を解決するものであり、インク層の剥離が容易で安定した転写が可能な熱転写記録用インクリボンを提供するものである。(本件特許明細書段落【0002】〜【0006】)
一方、甲第1号証には、基材上に吸熱量が20〜65mcal/mgの剥離層及び吸熱量が10mcal/mg以下であるインク層を順次設けた感熱記録媒体であり、剥離層の吸熱量を特定したことにより剥離層の熱印加時の状態変化を急激として層間の切れが良くシャープな印字を行うことができ、インク層の吸熱量を特定することによってインク層の液化による転写紙中への浸透を防止して転写インクの表面濃度の低下を回避することができることが記載されている。(上記記載(c)及び(b))
「剥離層」は転写層が溶融し転写される際にその一部はインクと共に転写されるのでインク層と認識することもできるので、甲第1号証には、インク層数が2の感熱記録媒体が記載されていることとなる。
また、甲第1号証に記載の「感熱転写記録媒体」「吸熱量」は、本件発明の「熱転写記録用インクリボン」、「溶融潜熱」に相当する。
そこで、本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、「基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量の分布を持たせた熱転写記録用インクリボン」である点で一致し、次の点で相違する。
(1)インク層の層数が、本件発明では「1層構成」又は「3層以上である」のに対し、甲第1号証に記載の発明では「2層である」点
そこで、上記相違点について検討すると、甲第1号証に記載の発明は、インク層を構成する2層をそれぞれ単独の層としての作用効果に基づいて溶融潜熱量を特定するものであり、2層間の潜熱量の相関性について配慮するものではない。
一方、本件発明は、インク層全体又は層間相互の溶融潜熱を配慮することにより、甲第1号証に記載の発明では認識されていなかった問題点を解決し、インク層の剥離が容易で安定した転写が可能な熱転写記録用インクリボンを提供するものであるから、本件発明が甲第1号証に記載されているものとすることはできない。
甲第2号証には、ベースフィルム上にインキ層と表面層とが設けられた感熱転写シートが記載され、その実施例には、両層を構成する樹脂、顔料等の種類、商品名及び配合割合が記載されてはいるものの、それら2層の溶融潜熱量については記載されていない。
そして、剥離層又はインク層を形成することができる樹脂等の組成が上位概念で羅列されているにすぎない甲第1号証の(b)及び(d)の記載は、樹脂の種類、商品名及びその配合割合を特定した組成物の溶融潜熱を推定する根拠とはならないので、甲第2号証の実施例に記載のインキ層及び表面層の溶融潜熱量が甲第1号証の記載を参照することによって推定できるとする異議申立人の主張は採用できない。
したがって、甲第2号証にはインク層の溶融潜熱量が記載されていない点で本件発明とは相違し、甲第2号証に本件発明が記載されているとすることはできない。
5.2 株式会社ディスクの申立について
5.2.1 甲第1ないし3号証の記載
甲第1号証(特開平2-147279号公報)は、5.1ですでに検討した、申立人沢江健治の提示した第1号証と同じであり、上記摘示の事項が記載されている。
甲第2号証には、プラスチックの転移熱(融解熱、及び結晶化熱)を測定する方法について規定されている。
甲第3号証には潜熱は融解熱と同義語であることが記載されている。
5.2.2 対比判断
本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、5.1.2で検討したように、「基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量の分布を持たせた熱転写記録用インクリボン」である点で一致し、次の点で相違する。
(1)インク層の層数が、本件発明では「1層構成」又は「3層以上である」のに対し、甲第1号証に記載の発明では「2層である」点
そこで、上記相違点について検討すると、甲第2及び3号証には、上記相違点に係る本件発明の構成要件について記載又は示唆するものはない。
また、甲第1号証に記載の発明は、インク層を構成する2層をそれぞれ単独の層としての作用効果に基づいて溶融潜熱量を特定するものであり、2層間の潜熱量の相関性について配慮するものではない。
一方、本件発明は、インク層全体又は層間相互の溶融潜熱を配慮することにより、甲第1号証に記載の発明では認識されていなかった問題点を解決し、インク層の剥離が容易で安定した転写が可能な熱転写記録用インクリボンを提供するものであるから、本件発明が甲第1号証に記載されているとも、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
6.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により上記の通り決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱転写記録用インクリボン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、
前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、
前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることを特徴とする熱転写記録用インクリボン。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、サーマルヘッドまたはレーザー光等の熱源によってインクを溶融し、記録紙上に熱転写画像を得るのに用いる熱転写記録用インクリボンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱転写記録用インクリボンは、ワックスとカーボンブラック等の顔料の混合物を熱溶融状態でポリエチレンテレフタレート(以下PETと表記)等の基材上に塗布することによって作成されていた。図3はこのようなインクリボンをサーマルヘッドHによって基材10側から加熱した場合のインク層11の溶融形状を示しており、斜線で示したように溶融部分は上辺の方が下辺より長い台形状になる。この台形の作る角度θは、サーマルヘッドに与える転写エネルギーを低減させると、指数関数的に減少する。
【0003】
この点を改善するために、従来よりインクリボンに融点の異なるインク層を設けたものがあったが、インクを溶融するのに必要なエネルギーを比較する上ではあまり有効な手段ではなかった。
【0004】
図4はこのような台形状になったインク溶融部分の剥離過程を示している。剥離の際、インクの溶融部分は紙Pのある矢印A方向に引っ張られ、未溶融部分は基材11側の矢印B方向に引っ張られるので、角度θが90度以上のときには容易に剥離が生じる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、角度θが小さいときには端部で引っかかりが生じ、インク層の破壊が起こって、転写画像の大きさが不安定になったり、エッジ部にガタが生じたりするという問題点がある。角度θがある程度より小さくなると、溶融部分全体が基材11側に持っていかれてしまい、まったく転写画像が得られなくなってしまうこともある。角度θが小さいのは低転写エネルギーの場合であるため、当然小さいドットはほとんど転写されなくなる。このように、熱転写記録では従来のインクリボンを使用すると転写ドットの大きさが不安定になるだけでなく、面積階調を出すことも困難であるという欠点がある。
【0006】
本発明は以上のような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、インク層の剥離が容易で安定した転写が可能な熱転写記録用インクリボンを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の熱転写記録用インクリボンは、基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることを特徴とする。
【0008】
インク層中に潜熱量分布を持たせるために主成分のワックスの潜熱量の異なるものを層状にコーティングする。または連続的に分布させることも可能である。
【0009】
【作用】
基材側からサーマルヘッド等の熱源によって加熱されると、基材側に近いインクは潜熱量が大きいため融点近傍で温度が長時間保持されるので、横方向への熱の拡散が抑制される。一方、基材側から遠いインク層の表面付近では潜熱量が小さいので少ないエネルギーで相変化が起こり溶融状態となる。従って、インク層の溶融形状が台形から長方形に近くなるので剥離の際のインクの切れが良好になり、転写画像の安定性及び再現性が向上する。
【0010】
【実施例】
本発明を図1、図2に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る熱転写記録用インクリボンの断面図で、PET等の基材1上には潜熱量が最大の第1のインク層2、潜熱量が中程度の第2のインク層3、潜熱量が最小の第3のインク層4が順次にコーティングされている。コーティングの方法としては、3つのインク層2、3、4の成分を溶剤中に分散させたものを、基材1上にまず第1のインク層2から塗布し、溶剤蒸発乾固後第2のインク層3、第3のインク層4を順次同様に塗布していけばよい。
【0011】
インク層2、3、4に潜熱量分布を与えるには、その主成分とされるワックスを適当に選んで潜熱量の調整を行えばよい。たとえば5種類のワックスA,B,C,D,Eは表1に示すように種々の潜熱を有するものがあるのでこれらを適当に混合して所望の潜熱量分布をインク層2、3、4に持たせることができる。
【0012】
【表1】

【0013】
以下、その具体的な例について説明する。第1のインク層として、ワックスCを2重量部、顔料としてカーボンブラックを8重量部を混ぜ合わせたものを、グラビアコーターで塗布した。乾燥後のインク層の厚みは2μmであった。第2のインク層はワックスB、第3のインク層はワックスDを用いて第1のインク層と同じ条件で塗布した。
【0014】
図2は、このように潜熱量分布をもたせたインクリボンをサーマルヘッドで加熱溶融させたときのインク層5の溶融形状を示しており、斜線部分が溶融部分である。潜熱量分布を設けていない図3の場合と比較すると、どちらも溶融形状は上辺の方が下辺よりも長い台形状を呈しているが、台形の作る角度θは潜熱量分布を設けた場合の方が大きくなっており、剥離の際インク層5の破壊が起こる可能性が緩和されている。
【0015】
従って、潜熱量分布を設けたインクリボンを用いた方が、安定した転写ドットを得ることができ、かつ小さいドットであっても従来よりもドット抜けの発生を低減し、確実に転写を行うことができるようになる。
【0016】
なお、上述の実施例ではインク層は3層で構成されているが、更に層数を増やすことも可能であるし、一層構成として連続的な潜熱量分布を持たせることも可能である。
【0017】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明に係る熱転写記録用インクリボンは、インク層の溶融潜熱量が基材表面から遠ざかるにつれて減少するように、インク層に潜熱量分布を設けているので、サーマルヘッド等による加熱溶融の際、インク層の溶融形状が従来のインクリボンよりも長方形状に近くなる。よって、インクリボンを紙から剥離させる際にインク層の破壊が起こり難くなるためドットが安定し、かつより小さなドットであっても転写させることができるようになる。特に、熱転写記録の高解像度化及び階調記録への適用に伴い、小さなドットを安定して転写できることは極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る熱転写記録用インクリボンの一実施例を示す説明図である。
【図2】
本発明に係る熱転写記録用インクリボンの一実施例より得られるインク層の溶融形状を示す説明図である。
【図3】
従来の熱転写記録用インクリボンのインク層の溶融形状を示す説明図である。
【図4】
従来のインク層の剥離の原理を示す説明図である。
【符号の説明】
1…基材
2…第1のインク層
3…第2のインク層
4…第3のインク層
5…インク層
10…基材
11…インク層
A…溶融部分の引っ張られる方向
B…未溶融部分の引っ張られる方向
H…サーマルヘッド
P…紙
θ…基材側インク溶融部分の角度
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3013509号の明細書を次のとおり訂正する。
A.特許請求の範囲【請求項1】の「基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせたことを特徴とする熱転写記録用インクリボン。」を特許請求の範囲の減縮を目的として「基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、
前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、
前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることをを特徴とする熱転写記録用インクリボン。」と訂正する。
B.特許明細書の段落【0007】の「本発明の熱転写記録用インクリボンは、基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、前記インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせたことを特徴とする。」を特許請求の範囲の減縮に伴う不明瞭な記載の釈明を目的として
「本発明の熱転写記録用インクリボンは、基材上にインク層を形成してなる熱転写記録用インクリボンにおいて、
前記インク層の層数が3層以上であって、該インク層にインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように潜熱量分布を持たせてあるか、又は、
前記インク層の層数が1層構成であって、該1層内でインクの溶融潜熱量が前記基材表面から遠ざかるにつれて減少するように連続的な潜熱量分布を持たせてあるかのいずれかであることをを特徴とする。」と訂正する。
異議決定日 2001-08-01 
出願番号 特願平3-147234
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B41M)
P 1 651・ 113- YA (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 伏見 隆夫
植野 浩志
登録日 1999-12-17 
登録番号 特許第3013509号(P3013509)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 熱転写記録用インクリボン  
代理人 韮澤 弘  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 菅井 英雄  
代理人 青木 健二  
代理人 米澤 明  
代理人 白井 博樹  
代理人 内田 亘彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ