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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1050034
異議申立番号 異議2001-71927  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-11 
確定日 2001-11-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3127238号「分離プロセスのための方法および検出器」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3127238号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1. 本件特許発明
本件特許第3127238号(平成5年(1993年)4月7日国際出願(パリ条約による優先権主張1992年4月7日、スウェーデン)、平成12年11月10日設定登録)の請求項1ないし10に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「 【特許請求の範囲】
1. 例えば毛管電気泳動法、動電学的な毛管クロマトグラフィーまたは毛管カラムクロマトグラフィにより細い毛管中の試料成分を分離し、毛管を照射し、そして試料成分により発光されるまたは吸収される光を検出することにより試料を分析する方法であって、同時に分離毛管の長さの全部または少なくともその大部分について分離プロセス中、短時間で前記光を検出して分離パターン、したがって分離の進行の連続的な瞬間像を形成することを特徴とし、それにより試料成分の所望の分離が達成された時に分離を停止させることができる方法。
2.検出が試料成分のケイ光に基づいている請求項1記載の方法。
3.検出が試料成分の光散乱に基づいている請求項1記載の方法。
4.照射がレーザーにより行なわれる請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
5.分離原理が毛管電気泳動法である請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
6.分離原理が毛管カラムクロマトグラフィーである請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
7.特に毛管電気泳動法、動電学的なクロマトグラフィーまたは毛管カラムクロマトグラフィーのための分離毛管、毛管を照射するための光源、および試料成分により発光されるまたは吸収される光を検出するための検出器を包含し、光源は分離毛管の全体または少なくともその大部分に照射し、そして検出器は同時に分離毛管の全体または少なくともその大部分について分離中、短時間で試料成分により発光されるまたは吸収される光を記録して分離パターン、したがって分離の進行の連続的な瞬間像を形成するようにしたイメージング検出器であることを特徴とする試料分析装置。
8.イメージング検出器が、2次元CCD(電荷結合素子)である請求項7記載の装置。
9.CCD検出器はその入口スリット上に空間的に分離された試料成分を有する分離毛管の像が試料成分から発光される光のスリットに対して垂直なスペクトル分離のため作られ、それにより空間的分離が2次元検出器の一方向で、そしてスペクトル分離がその他方向で達成される分光計がその前にある請求項8記載の装置。
10.イメージング検出器がダイオード列である請求項7記載の装置。

2. 申立て理由の概要
申立人株式会社島津製作所は、証拠として次の甲第1号証を提出し、請求項1ないし10に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1ないし10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:Anal.Chem.1991, 63, 496‐502

3.甲第1号証刊行物の記載事項
甲第1号証は、J.V.Sweedler らの「Fluorescence Detection in Capillary Zone Electrophoresis Using a Charge‐Coupled Device with Time‐Delayed Integration(電荷結合素子(CCD)を使用したキャピラリ電気泳動法における蛍光検出-遅延積算法)」と題する論文であって、下記の事項が記載されている。
(1a) アブストラクト(496頁左欄1〜7行)
「 軸方向照射されるキャピラリカラムの2cm区域を電荷結合素子(CCD)で観測することができる、キャピラリ電気泳動用蛍光検出システムについて記述する。このCCDは2つの読出モードで機能する:即ち、一連の波長及びキャピラリ位置のイメージを取得するスナップショットモードと、アナライト移動ゾーンへの長時間の照射を与えておく遅延積算モードである。」
(1b) レーザ誘導蛍光法(LIF)(496頁右欄7行〜17行)
「 レーザ誘導蛍光法(LIF)が、現在、CZE(註:キャピラリ電気泳動、capillary zone electrophoresis)のための最も感度の高い方法である;検出限界は、アトモル(註:10-18モル))レンジの下側である(10-12)。これらのシステムでは、キャピラリは“フローセル”として使われ、キャピラリに垂直にレーザ光が照射され、ホトマルチプライア(PMT)で蛍光をモニタする。 ダビチとその協力者(13-15)は、同一の励起幾何的構造を有するが、サンプルセルとしてシースフローキュベットを用い、それによって大半の散乱光と溶融シリカキャピラリからのルミネッセンスを除去するようにした点のみが異なる、さらに感度の高い方法を開発した。」
(1c) LIF/CZEシステム(496頁右欄24行〜497頁左欄12行)
「 ここで紹介するLIF/CZEシステムでは、516×516検出素子を含む二次元電荷結合素子(CCD)を使用する。さまざまな評論(16-19)で蛍光測定用CCDの利点や機能的特徴が記述されている。CCDは、性能最良のホトマルよりも低い暗電流と高い量子効率を有するけれども、小さいながらも重要な読出ノイズを持っている。二次元型というのはCCDの重要な利点である;即ち、CCDは64×64素子から2048×2048以上の素子までアレー状に整列することができる。 現在まで、CZE検出器に、マルチチャンネル紫外可視吸光度検出器(20、21)としてのフォトダイオードアレイの使用とマルチチャンネル蛍光検出器(22)としてのCCDの使用とを含む、光学アレー検出器が採用されたことがいくつかの報告で記述されている。」
(1d) CZE用軸方向照射配置(497頁左欄13行〜27行)
「 我々は、マルチチャンネル検出器とともに使用すればさまざまな利点を有するCZE用一軸方向照射装置を紹介する。レーザ出力はキャピラリ端に焦点が合わせられ、アナライトからの蛍光放出が2cm区域チャンネルにわたって収集され、全蛍光スペクトルがCCDアレーの使用によって測定される。この方法において、蛍光セルはオンカラム方式になっており、完全な蛍光スペクトルが同時に取得できる。2cm区域観察ゾーンにおけるアナライトの存在時間は2〜45秒である。軸方向照射法ではCCDを2つの読出モードにて働かせることができ、従来の照射方法とCCD検出によるよりも意味のある利点を与える。これらの読出モードはスナップショットモードと遅延積算モード(TDI)であり、以下に記述する。」
(1e) スナップショットモード(497頁左欄28行〜右欄4行)
「 スナップショットモード. 多くの大型CCDは、研究者にかなりのフレキシビリティをもたらすけれども、低い読出速度はしばしば欠点となる。大部分の科学用CCDは50KHz/画素の読出速度を有しており、大型アレーの読み出しに数秒間要する。したがって、CCDでは連続的なスナップショット(19)を取るために、主としてシャッタとともに使用される。検出器を蛍光信号に露光させた後、シャッタが閉じられて光生成電荷の情報がデジタル化される。次の露光までの間の長時間の遅れは、CZEで生じるような、場面変更時の情報取得におけるこの読出モードの有用性を制限する。
CCDを用いたCZEのある報告には、CCDを読み出すのに5秒以上が必要であり、データは各0.2秒露光(22)毎の後にホストコンピュータに伝送される。CZEではピーク幅は、典型的には0.5秒から5秒の範囲であり;それゆえ、シャッタがバンドが観測ゾーン内にある時間中閉じられるために、1つのアナライトバンド全体が見つけられない場合がある。いくつかのサンプルが観測されたとしても、CCDへのアナライト露光時間が未知であるために定量するには問題がある。
軸方向照射で、バンドが行方不明になることや、不完全にアナライトを露光したりする問題が除去される。図1は単純化された3×6素子CCDを用いた軸方向照射キャピラリ用スナップショットモードを図解するものである。アナライトバンドはシャッターが閉じている期間中に移動するけれども、第2のバンドは次の露光時間中未だ観測ゾーンに存在する。2cm観測ゾーンを選ぶことは、すべてのアナライトが少なくとも1回、通常は10〜30回の完全露光がなされることを意味する。加えて、スナップショットモードは、個々のバンドの追跡や光学焦点合わせのためのリアルタイムフイードバックを可能にするので、光学システムの診断に役立つ。」
(1f) 図1(497頁図1の脚注)
「 スナップショットモードを図解するCCD/LIFシステムの図.(a)2つのアナライトバンド蛍光をCCDが露光するためにシャッタが開かれる。(b)露光後、シャッタが閉じられて光生成電荷情報が読まれる。(c)シャッタが次に開くと、アナライトバンドはキャピラリに沿づて移動しており、1つのバンドがバンド観測ゾーンに残留している。」
(1g)軸方向照射
(1g-1)垂直照射の露光時間(498頁右欄15行〜21行)
「 軸方向照射. これらCCD読出モードのいずれかを用いてCCDシステムでの高い感度を達成するためには、アナライト蛍光へのCCDのより長時間露光を行うことが有利である。大部分のLIF/CZEシステムではレーザビーム径が50μm以下にフォーカスされ、分離チャンネルに垂直に向けてキャピラリに照射するようにされている。それゆえ、アナライトはレーザによりたった数ミリ秒しか照射されないことになる。」
(1g-2)軸方向照射(498頁右欄44行〜47行)
「 同寸法のキャピラリを用いた軸方向照射開口チューブ液体クロマトグラフイ(OTLC)システムが記述されている。」
(1g-3) レーザ照射(499頁左欄2行〜16行)
「 アルゴンイオンレーザ(モデル164、Spectra-Physics、Mountain View、CA)でレーザ照射を行い、488nm又は514nmレーザ線干渉フィルタ(Oriel Corporation,Stanford,CT)により要求される波長以外のすべてをブロックするようにする。・・・
レーザビームに対する正確なアラインメントを可能にするために、・・・により調整される。」
(1h)検出システム(499頁左欄17行〜右欄12行)
「 検出システム. 検出システムの全体が図3に示され、さらに光学システムの詳細図が図4に示される。図3に見られるように、光学系はCCD上にキャピラリ像を形成し、分光器はその像のスペクトル分散を形成する。このようにして2次元CCDアレーは異なる情報を含むようになる;即ち、1つはキャピラリ像を含み、他の1つは波長情報を含む。明確にするため、横列を分散次元とし、縦列をキャピラリ像次元と定義する。それゆえ、キャピラリ上の-点からの蛍光(又は特定時間におけるあるアナライトバンド)はアレーの横列に沿って分散される。光学系に対する要件は2つの次元ごとで異なるために、シリンドリカル光学系が用いられる。
光学系システムは5つの要素から構成される。ビーム 3光線トレーサ(Stellar Software)を用いて、収差を最小にしつつ光の収束を最大限にするように設計された。最初の要素は、20cm焦点距離のシリンドリカルミラー(LCP178、Melles Griot)であり、色収差や球面収差を低減するためのレンズに代えて用いられる。続いてのものは、2つの色消しンズ(造影要素として用いられる)と2つのシリンドリカルレンズ(LAO288,LAO126,LCP155,LCN129,Melles Griot)である。システムのアラインメントを簡略にするために、2つのシリンドリカルレンズは1体にマウントされ、2つの色消しシズが別にマウントされ、分光器のスリットが固定されている。この全体システムで2.5cm×50μmのキャピラリ像を6×0.25mmの分光器のスリット上に形成する。このシステムの波長次元はF/1で、像次元はF/12であって、両方とも分光器のF/3にマッチするようにしている。
スリット像とCCD焦点面との間の、点と点との対応関係を維持するために、収差補正像分光器(CP200, Instruments SA,Edison,NJ)が用いられる。133本溝/mmの回折格子を備えたCP200の使用により、CCDの観測範囲は370nmとなる;この波長窓は200〜1000nmに調節可能である。スペクトルバンド幅は大体0.72nm/CCD画素;解像度は100μmスリット使用で3.6nm、250μmスリット使用で9nmである。」
(1i)コンピュータ制御(499頁右欄48行〜51行)
「 加えて、Dellコンピュータが電圧、モニタ電圧、電流、他のシステム性能の状況を制御し;スペクトルとエレクトロフエログラムとのすべてがASYST により書き込まれたルーチンを用いることによって記憶され、表示される。」
(1j)結果と議論(500頁左欄71行〜右欄20行)
「 結果と議論
システムの動作. 図5は、キャピラリ像を正確に作る光学システムと電気泳動中のアナライトからの蛍光を測定するCCD/LIFシステムとの性能を示す。図は8×10-10M FITC を4nL中に注入したときのCCDの焦点面からの出力を示す。CCDは従来のスナップショットモードで用いられ、そこではシャッタがキャピラリと分光器スリットの間に設けられてCCDの露光時間を調節する。シャッタが閉じられた後に、CCDが読み出される。図5aは約13分後に 0.5秒露光を行ったものであり、5bはさらに4秒経過後、5cは5bからさらに6秒経過後である。図5におけるデータは、ほぼ460-600nmの範囲で、CCDにおいて蓄積されたスペクトル情報の50%以下のものを示している。さらにデータを減少させるために、CCDは4×4ビンニングで読まれて、その結果が波長次元上で滑らかになるよう調整されて、毎秒毎の波長ポイント、毎秒毎の空間ラインがプロットされる。この手順により焦点面出力が250000検出素子数からほぼ2000点に減らすことになる。 4×4ビンニングによって各素子は検出器の焦点面上80×80μm領域に相当し、キャピラリの320μm長さに相当する。レイリー線と最強ラマン線の双方がFITCからの蛍光に沿って明瞭に見られる。これらの像の比較することによりFITCバンドの動きが示される。」
(1k)図5(500頁図5の脚注)
「 8×10-8 M FITCを4nL中に注入したときの焦点面出力のスナップショット(0.5秒露光):(a)13分後、(b)4秒後、(c)(b)から6秒後、水のレーリー及び主ラマンバンドが、移動するFITCバンドとともに見ることができる。」

4. 本件発明の概要
本件明細書によれば、本件発明の概要は、次のようである。
(ア) 生体分子の複雑な混合物の分析(本件特許公報3欄28行〜32行参照)
「 生物科学の分野において、生体分子の複雑な混合物を分析することがかなり要求される。その例は臨床分析における代謝物質、タンパク質、抗体および薬剤の分析である。他の例は遺伝子エ学により特定されたタンパク質の発酵におけるタンパク質組成の分析である。」
(イ) クロマトグラフィーおよび電気泳動法(本件特許公報3欄33行〜42行参照)
「 バイオ分析を行なう通常の方法は試料をその成分に分離し、次にその成分を定量することである。従来の分離法はクロマトグラフィーおよび電気泳動法である。電気泳動法は分析法として有力である。その理由はこの方法の分離能力が高いからであり、このことはとりわけ多くの成分を一度に、また同一の試験で分析できることを意味する。分離された物質に適した検出法と組合せた場合、本法もまた非常に感度をよくすることができる。他方、本方法は一般に遅く、典型的な分離時間は1〜10時間である。」
(ウ) 毛管電気泳動法(本件特許公報3欄43行〜4欄9行参照)
「 ここ数年の間、特定の形態の電気泳動法、すなわち毛管電気泳動法が相当注目を集めている。電気泳動プロセスは石英の細い毛管(内径:約0.005〜0.1mm)中で起こる。細い毛管は電気泳動プロセス中に生じるジュール熱を容易に冷却する。したがって、電気泳動分離において非常に高い電界強度、例えば300V/cmを使用することができる。高い電界強度は非常に急速な泳動速度を与えるため、毛管電気泳動法では分離時間が好都合に短くなる。通常の電気泳動法において、温度勾配が分離層で容易に起こる。温度勾配は試料成分の分離を相当減じる。この問題は、細い毛管が容易に冷却し、そのため問題の温度勾配をひき起こさない毛管電気泳動法により解決される。結果として、毛管電気泳動法においては分離能力もまた非常によい。実列となる論文がH.CarchonおよびE.Eggermontにより書かれている〔International Chromatography Laboratory,第6巻,第17〜22頁(1991年)〕。」
(エ) 毛管電気泳動法における、検出および定量(本件特許公報4欄10行〜27行参照)
「 毛管電気泳動法により分離された混合物の検出および定量は通常、紫外/可視検出器またはケイ光検出器を用いて行なわれる〔毛管電気泳動法における種々の検出原理についての論文がLC-GC,第8巻,NO.10,第788〜799頁(1990年)においてD.M.Goodall,D.K.LloydおよびS.J.Williamsにより書かれている〕。これらの検出器は常に毛管の一端に配置される。通常、光線は毛管を垂直に通過し、そして検出器は通過した光の量または放出されたケイ光の量を測定する。これにより、分離された物質はそれらが検出器を通過するにつれて順々に検出される。このことは、すべての物質が検出器を通過するまで電気泳動を継続しなければならないことを意味する。しばしば試料中の物質の数は不明であり、そのため電気泳動試験は確実にすべての試料成分が検出器を通過するように、実際に必要な時間よりかなり長く実施しなければならない。このように毛管電気泳動法の制限要因、すなわち、連続的な検出原理、換言すれば試料成分が順々に検出されることが示される。」
(オ) 新規な検出原理(本件特許公報4欄27行〜37行参照)
「 代わりにもしも毛管全体が特定の検出器により瞬時に検査される検出原理が得られるならば、すべての成分が同時に検出される同様の検出原理が得られる。本発明はこのような原理および適当な装置の構成を開示する。
新規な検出原理は短い間隔で毛管全体を検査し、毛管中の試料成分の場所を記録する検出器により毛管電気泳動を監視することにある。同時に、検出器は試料成分のスペクトル特性を記録し、このことはそれらの同定を容易にする。得られるデータはコンピューターに記憶させる。」
(カ) 機能の特徴(本件特許公報4欄38行〜5欄14行参照)
「 機能の特徴を説明するために、以下の短い装置についての記載は手引きとなるものと思われる(より詳細な記載がさらに与えられる): 本発明の検出器は強力な光源、例えばレーザーからなる。レ一ザーは好ましくは短い時間間隔で毛管全体を照射する。各照射により、空間的に分離された試料物質はケイ光を発する。毛管からのケイ光発光はレンズシステムを経てCCD(電荷結合素子)検出器上に焦点が合わせられ、毛管の外観の電子像を形成する。コンピューターはこの像を記憶する。各照射時間の間、試料成分は少し移動し、この移動はCCD検出器により記録される。コンピューターは連続的に記憶データを変換し、そしてリアルタイムで分離の進行をディスプレーのスクリーン上に示すことができる。このことは非常に大きな利点である。試料成分の分離が十分な精度でこれらを定量するのに十分良好である場合、それはコンピューターのスクリーン上で直接見られる。場合によっては、コンピューターは自分でこの判断を行なってもよい。このことは分離が毛管の端部に位置する検出器の場合よりもかなり早く停止されうるため、時間の大きな節約を意味する。これは試料が非常にゆっくり泳動する成分を含有する場合特にそうである。
本発明においては、十分に良好な分離が達成された時に電気泳動プロセスの極性を逆にし、そして試料を後方に洗い流して次の試料のための毛管を準備することができる。試料がゆっくり泳動する物質を含有する場合、本発明が効率(試料/時間)を10倍程改善することは容易に理解される。

5.本件請求項1発明と甲第1号証記載の発明との対比・検討
ここで、請求項1に係る発明(以下、「本件請求項1発明」という。)と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
(1)甲第1号証記載発明と本件特許発明の構成要素との対応関係
甲第1号証に記載の「キャピラリ電気泳動法」は、「毛管電気泳動法により細い毛管中の試料成分を分離し、毛管を照射し、そして試料成分により発光されるまたは吸収される光を検出することになり試料を分析する方法」である。
甲第1号証に記載の「キャピラリ電気泳動法」は、検出器が常に毛管の一端に配置されるものである。本件明細書の従来技術の検出法がそうであるように(前記4.(エ)参照)、これにより、分離された物質はそれらが検出器を通過するにつれて順々に検出される。このことは、すべての物質が検出器を通過するまで電気泳動を継続しなければならないことを意味する。
甲第1号証に記載の「キャピラリ電気泳動法」は、「軸方向照射」が行われ、従前の垂直照射に比較して長時間露光が行えるという利点を有するとされている(前記(1g-1)参照)。

(2) 一致点・相違点
そうすると、本件請求項1発明と甲第1号証記載の発明とは、
(一致点)
「 毛管電気泳動法により細い毛管中の試料成分を分離し、毛管を照射し、そして試料成分により発光されるまたは吸収される光を検出することになり試料を分析する方法であって、分離プロセス中、前記光を検出して瞬間像を形成する方法。」である点で一致するものの、次の点で相違する。
(相違点1)
分離成分の瞬間像の形成対象箇所が、本件請求項1発明では、「同時に分離毛管の長さの全部または少なくともその大部分について分離プロセス中、短時間で前記光を検出して分離パターン、したがって分離の進行の連続的な瞬間像を形成する」ものであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、分離毛管の「キャピラリ端」の「2cm区域チャンネル」の分離成分の瞬間像を形成するものである点。
(相違点2)
本件請求項1発明では、相違点1の構成により、「試料成分の所望の分離が達成された時に分離を停止させることができる」のに対し、甲第1号証記載の発明では、すべての物質が検出器を通過するまで電気泳動を継続しなければならない点。
(相違点3)
「毛管」の「照射」について、本件請求項1発明では、照射方向の限定がされていないのに対し、甲第1号証記載の発明では、「軸方向照射」に限定されている点。

(4) 相違点についての検討
本件請求項1発明において、相違点1の構成(同時に分離毛管の長さの少なくとも大部分につい短時間で前記光を検出する工程)は、本件明細書によれば、従来の毛管電気泳動法の連続的な検出原理(分離毛管の端部で検出する工程)を改良するものである(前記4.(エ)〜(オ)参照)。本件請求項1発明は、この構成を採ることにより、相違点2の利点を有するものであり、分離が毛管の端部に位置する検出器の場合よりもかなり早く停止されうるという、顕著な効果を奏するものである(前記4.(カ)参照)。
甲第1号証には、分離毛管の「キャピラリ端」の「2cm区域チャンネル」の分離成分の瞬間像を形成することは記載されているものの、その構成では、すべての物質が検出器を通過するまで電気泳動を継続しなければならない点は従来技術と変わることがなく、また、「同時に分離毛管の長さの全部または少なくともその大部分について分離プロセス中、短時間で前記光を検出して分離パターン、したがって分離の進行の連続的な瞬間像を形成する」ことについては、記載も示唆もない。
そうすると、本件請求項1の発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

6. 本件請求項2ないし6に係る発明についての検討
本件請求項2ないし6は、請求項1を引用するものである。
そうすると、本件請求項2ないし6に係る発明は、本件請求項1発明について検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

7. 本件請求項7ないし10に係る発明についての検討
本件請求項7ないし10に係る発明は、装置の発明であるが、前記相違点1の構成要素と同様の構成要素を有している。
そうすると、本件請求項7ないし10に係る発明は、本件請求項1発明について検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

8. むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由および証拠によっては、本件請求項1ないし10に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1ないし10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-10-26 
出願番号 特願平5-517383
審決分類 P 1 652・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 渡部 利行
関根 洋之
登録日 2000-11-10 
登録番号 特許第3127238号(P3127238)
権利者 ユイロス・アクチボラグ
発明の名称 分離プロセスのための方法および検出器  
代理人 江口 裕之  
代理人 青山 葆  
代理人 喜多 俊文  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 西岡 義明  

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