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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1050064
異議申立番号 異議2000-71566  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-17 
確定日 2001-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2964393号「調湿セラミックス建材」の請求項1及び2に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2964393号の請求項1及び2に係る発明の特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2964393号は、平成8年6月18日に出願され、平成11年8月13日に設定登録されたものであり、その後、藤田肇より、特許異議の申立がなされ、これに基づいて、平成12年7月31日付けで取消理由通知がなされ、特許権者より、その指定期間内である平成12年10月13日に明細書の訂正請求がなされ、これに対して平成12年10月31日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、特許権者より、その指定期間内である平成13年1月15日に手続補正がなされたものである。

II.訂正の適否
1.訂正事項
本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載される次の(a)〜(h)の訂正を求めるものである。
(a)特許請求の範囲の請求項1における、
「【請求項1】天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物に水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。」を、
「【請求項1】天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有すると共に、而もその粒径が1mm以下に調製された珪質頁岩の粉砕物に水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。」と訂正する。

(b)特許請求の範囲の請求項2における、
「【請求項2】天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物に、成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的からその他のセラミックス原料を配合し、水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。」を、
「【請求項2】天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有すると共に、而もその粒径が0.4mm以下に調製された珪質頁岩の粉砕物に、成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的からその他のセラミックス原料を配合し、水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。」と訂正する。

(c)明細書段落0005における、
「3.珪藻土を利用した調湿建材の調湿機能は、配合する珪藻土の特性とその量に依存する。しかし、珪藻土は細孔半径250Å以上のマクロポアが大部分を占め、吸水性に優れるが、吸湿性が小さいため調湿機能は小さい。」を、
「3.珪藻土を利用した調湿建材の調湿機能は、配合する珪藻土の特性とその量に依存する。しかし、珪藻土は細孔半径250Å以上のマクロポアが大部分を占め、吸水性に優れるが、吸湿性が小さいため調湿機能は小さい。
そこで、出願人および当該発明者等は、珪質頁岩が調整機能に優れているという点に着目し、物性の評価、更にはそれらの実際に調湿材料への製品化に当たっての実証試験、評価テスト等を重ね、当該粉砕物が細孔半径26〜100Åの数値であること、而も全細孔容積が70%以上であること等を確証し、その成果として特許出願し、また学会での発表を経てきたのである。
これらが、特許第2652593号であり、また空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集’94.10.7〜10.9(熊本)、更には第11回寒地技術シンポジウム1995年11月8,9,10日にある。
ところで、この珪質頁岩の粉砕物を実際に調湿機能材料に利用する場合、更なる技術課題を無視することができなくなった。即ち、珪質頁岩の粉砕物の粒径、配合量、特に他のセラミックスとの配合比率によって調湿機能、或いは曲げ強度に大きく影響することが判明した。」と訂正する。

(d)明細書段落0006における、
「本願は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、天然無機鉱物を出発原料として、木材以上の調湿機能を有し、耐火性、不燃性、耐腐食性、耐害虫性、耐水性などの耐久性、寸法安定性に優れた調湿セラミックス建材を安価に提供しようとするものである。」を、
「本願は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、天然無機鉱物を出発原料として、木材以上の調湿機能を有し、耐火性、不燃性、耐腐食性、耐害虫性、耐水性などの耐久性、寸法安定性に優れ、而もその調湿機能を重視したもの、更には強度を向上させたものが自在に得られることとした調湿セラミックス建材を安価に提供しようとするものである。」と訂正する。

(e)明細書の段落0007における、
「細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有することを特徴とする。」を、
「細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有すると共に、而もその粒径が1mm以下に調製されたことを特徴とする。」と訂正する。

(f)明細書段落0008における、
「細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有することを特徴とする。」を、
「細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有すると共に、而もその粒径が0.4mm以下に調製されたことを特徴とする。」と訂正する。

(g)明細書段落0009における、
「本発明の実施の形態について以下に説明する。
本発明で用いる珪質頁岩粉砕物の粒度は成形方法によって異なり、プレス成形の場合にはその粒度が大きくなるほど製品強度が小さくなるため、概略粒径5mm以下に調製する。
また、押し出し成形などによる湿式成形の場合にはその成形性を向上させるために、概略粒径1mm以下に調製する。」を、
「本発明の実施の形態について以下に説明する。
本発明における成形には、プレス成形や押し出し成形など一般的なセラミックスの成形法を用いることができる。」と訂正する。

(h)明細書段落0022における、
「さらに、本発明の調湿セラミックス建材は、セラミックスであることから、耐火性、不燃性、耐腐食性、耐害虫性、耐水性などの耐久性に優れるため、資源の節減にもつながり、環境保全に貢献するものである。」を、
「さらに、本発明の調湿セラミックス建材は、セラミックスであることから、耐火性、不燃性、耐腐食性、耐害虫性、耐水性などの耐久性に優れるため、資源の節減にもつながり、環境保全に貢献するものである。
また、本発明の調湿セラミックス建材は、調湿機能を重視する場合、珪質頁岩粉砕物の粒径を1mm以下に調製したものとすることによって、図7に示す様な卓越した調湿機能結果が得られる。
一方、用途によっては、曲げ強度を向上させる場合、珪質頁岩粉砕物の粒径を0.4mm以下に調製したものとすることによって、上記粒径1mm以下のものよりその他のセラミックス原料との最密充填が良好となり、その分調湿機能を重視するセラミックスの強度より強度を向上させることができる。(図8〜10に示す)
従って、本発明の調湿セラミックス建材は、珪質頁岩の粉砕物の粒径及び配合比によって調湿機能、または強度に大きく影響を及ぼし、要求される目的の性能に応じてセラミックスの特性を用途別に自在に対応できるものである。」と訂正する。

2.訂正請求書の補正
訂正請求書の訂正事項につき、次の(イ)〜(ホ)の補正を求めるものである。
(イ)上記(c)の訂正を削除する。
(ロ)上記(d)の訂正を削除する。
(ハ)上記(g)の訂正を次のとおり補正する。
「本発明の実施の形態について以下に説明する。
本発明で用いる珪質頁岩粉砕物の粒度は成形方法によって異なり、プレス成形の場合にはその粒度が大きくなるほど製品強度が小さくなる。
また、押し出し成形などによる湿式成形の場合にはその成形性を向上させるために、概略粒径1mm以下に調製する。」
(ニ)上記(h)の訂正を削除する。
(ホ)上記補正に合わせて、訂正の原因の項の記載を補正する。

3.補正の判断
上記(イ)、(ロ)及び(ニ)の補正は、それぞれ、上記(c)、(d)及び(h)の訂正を削除するもので、訂正請求の趣旨を減縮するものであって、その要旨を変更するものではなく、また、上記(ホ)の補正は、訂正の原因の項の記載を補正するだけで、訂正請求の要旨を変更するものではない。
しかし、上記(ハ)の補正は、上記(g)で「本発明における成形には、プレス成形や押し出し成形など一般的なセラミックスの成形法を用いることができる。」と訂正請求したものを、更に、「本発明で用いる珪質頁岩粉砕物の粒度は成形方法によって異なり、プレス成形の場合にはその粒度が大きくなるほど製品強度が小さくなる。また、押し出し成形などによる湿式成形の場合にはその成形性を向上させるために、概略粒径1mm以下に調製する。」と補正するものであり、これは、別個の訂正事項を追加することになり、訂正請求の要旨を変更するものに該当する。
してみると、上記(ハ)の補正事項を含む平成13年1月15日付けの上記補正は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第131条第2項の規定に違反するので、当該補正を認めない。

4.訂正の判断(訂正の目的、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否)
上記(c)の訂正は、出願人及び当該発明者の発明に至る経緯及び知見等に関する記載を付加するものであるが、明細書中、同様な趣旨で不明瞭な記載があったものではなく、したがって、その訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでなく、また、特許請求の範囲の減縮ないしは誤記の訂正を目的とするものとも認めることができない。
そして、該(c)の訂正は、具体的には、「珪質頁岩の粉砕物が細孔半径26〜100Åの数値である」という記載、及び、「即ち、珪質頁岩の粉砕物の粒径、配合量、特に他のセラミックスとの配合比率によって調湿機能、或いは曲げ強度に大きく影響することが判明した」という記載を付加するものであるが、そのようなことは、願書に添付された明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことができず、該訂正は、新規事項の追加に該当するものである。
上記(d)の訂正は、本願の発明の目的の記載を付加するものであるが、明細書中、同様な趣旨で不明瞭な記載があったものではなく、したがって、その訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでなく、また、特許請求の範囲の減縮ないしは誤記の訂正を目的とするものとも認めることができない。
そして、該(d)の訂正は、具体的には、天然無機鉱物を出発原料として、「而もその調湿機能を重視したもの、更には強度を向上させたものが自在に得られることとした」調湿セラミックス建材を提供しようとするものであるという記載を付加するものであるが、そのようなことを目的とする点は、願書に添付された明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことができず、該訂正は、新規事項の追加に該当する。
上記(g)の訂正は、本発明における成形に、「一般的なセラミックスの成形法を用いることができる」という記載を付加することを含むものであるが、そのことが、願書に添付された明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことができず、該訂正は、新規事項の追加に該当する。
上記(h)の訂正は、発明の効果の記載を付加するものであるが、明細書中、同様な趣旨で不明瞭な記載があったものではなく、したがって、その訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでなく、また、特許請求の範囲の減縮ないしは誤記の訂正を目的とするものとも認めることができない。
そして、該(h)の訂正では、まず、「用途によっては、曲げ強度を向上させる場合、珪質頁岩粉砕物の粒径を0.4mm以下に調製したものとすることによって、上記粒径1mm以下のものよりその他のセラミックス原料との最密充填が良好となり、その分調湿機能を重視するセラミックスの強度より強度を向上させることができる。(図8〜10に示す)」として、珪質頁岩の粉砕物につき、粒径が0.4mmのものが粒径1mm以下のものより強度が向上するとの記載を付加するものであるが、そのようなことは、願書に添付された明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことができず、該訂正は、新規事項の追加に該当する。
ついで、該(h)の訂正では、「本発明の調湿セラミックス建材は、珪質頁岩の粉砕物の粒径及び配合比によって調湿機能、または強度に大きく影響を及ぼし、要求される目的の性能に応じてセラミックスの特性を用途別に自在に対応できるものである」との記載を付加するものであるが、このようなことは、願書に添付された明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことができず、該訂正は、新規事項の追加に該当する。

5.訂正の適否の結論
以上のとおり、上記(c)、(d)及び(h)の訂正は、特許法第120条の4第2項のただし書きのいずれの規定にも該当するものではなく、また、上記(c)、(d)、(g)及び(h)の訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項の規定に適合するものではない。
よって、平成12年10月13日付けの上記訂正請求を認めることができない。

III.特許異議申立及び取消理由について
1.本件発明
本件特許第2964393号の請求項1及び2に係る発明は、登録時の明細書に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物に水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。
【請求項2】天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物に、成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的からその他のセラミックス原料を配合し、水、または水と有機バインダーを加えて成形し、焼成することによって連続気孔を多数形成することを特徴とする調湿セラミックス建材。

2.特許異議申立の概要
特許異議申立人は、証拠として、
甲第1号証(後述する取消理由における引用例1)
甲第2号証(後述する取消理由における引用例2)
甲第3号証(後述する取消理由における引用例3)
甲第4号証(後述する取消理由における引用例4)
を提示し、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、若しくは、甲第4号証を参照して甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は、取り消されるべきものである旨、主張する。

3.取消理由の概要
本件請求項1及び2に係る発明は、引用例1〜3に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。
また、本件請求項1及び2に係る発明は、引用例1〜4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は取り消すべきものと認める。
引用例1(「空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集{’94.
10.7〜10.9(熊本)}」、第221〜224頁)
引用例2(「第11回 寒地技術シンポジウム 1995年11月8,
9,10日」、第716〜720頁)
引用例3(特開平4-354514号公報)
引用例4(特開平6-234567号公報)

4.証 拠
引用例1は、本件出願前に頒布された刊行物に該当すると認められ、そこには、「稚内層珪質頁岩を利用した調湿材料の開発」と題し、
(A-1)「最近の建物は高気密、高断熱化の趨勢にあり、省エネルギー面の改善が進められているが、その一方、結露とダニやカビの発生が深刻な住環境問題となっている。これらの問題は室内の高温多湿状態に起因するため、これを解決できる吸放湿機能に優れた材料の開発が求められている。」(第221頁第5〜8行)、
(A-2)「北海道天北地方には様々なタイプの珪藻土が大量かつ広範囲に分布しているが、地質上、稚内層と呼ばれる珪質頁岩に優れた吸放湿機能を見いだした。この珪質頁岩は特徴のある細孔分布を示し結晶化しているため酸や熱で処理してもその特性を失わず、安定している。しかも容易に粉砕することができ、任意の粒径の粉体や造粒物に加工することができる。したがって、この粉粒体を利用することによって、種々多様な調湿材料の開発が可能となった。」(第221頁第20〜27行)、
(A-3)「表1に稚内層珪質頁岩(TMU-29)の化学分析値を示す。SiO2を約80wt%含有し、そのほかに粘土鉱物や長石の成分であるAl2O3、Na2O、K2Oなどが多く含まれている。鉱物組成は主としてクリストバライトからなり、ほかに石英、長石、粘土鉱物等を含有する。」(第221頁下から第3行〜第222頁第1行)、
(A-4)「これに対し、写真2は稚内層珪質頁岩SEM写真である。珪藻遺骸は認められず、珪藻が変質したと思われる球状、針状あるいはそれらが集合した微粒子が観察される。」(第222頁第4〜6行)、
(A-5)「細孔分布測定はBET法(N2ガス吸着法)で行った。その結果を図1に示す。稚内層は細孔半径10〜150Åという特徴ある細孔分布を示し、比表面積は約130m2/gで一般的な珪藻土の3〜4倍である。」(第222頁第8〜11行)、
これに関連し、第222頁下段には、図1 稚内層(TMU29)の細孔分布図が掲載され、その図では横軸が細孔半径(Å)で縦軸が細孔容量(cc/g)のヒストグラムが記載され、計算によると、全細孔容積中の、細孔半径20〜100Åの細孔容積を合算したものの割合が、約78%、に当たることが解る。
(A-6)「調湿タイル
タイルの原料として本道の代表的な粘土窯業原料である旭川神楽粘土を用い、これに稚内層珪質頁岩を配合比50wt%、60wt%、70wt%で混合し、この素地を水分約20wt%に調整した後、成形圧20MPaで大きさおよそ110×66×10mmにプレス成形し、焼成した。焼成条件は電気炉を用い、加熱速度200℃/h、最高温度850℃、最高温度での保持時間1時間とした。」(第223頁第7〜19行)、
(A-7)「試作した調湿タイルの吸放湿変化をスプルース材と比較して図4に、・・・示す。・・・。これらの図から、吸放湿機能をほとんど有しない粘土や石膏に稚内層珪質頁岩を配合することによって、吸放湿機能が発現し、その配合量が多いほど機能が大きく、またスプルース材よりも優れていることがわかる。このように稚内層珪質頁岩の焼成および不焼成を問わず、多様な調湿材料の開発が可能である。」(第223頁第29行〜第224頁本文第3行)、
(A-8)「この調湿タイルを一般住宅の内装材として床、天井を除く周囲壁面全体に施工し、その室内の温度および湿度を隣室の温湿度と共に24時間連続測定した。その結果を図6に示す。これらから、隣室の湿度は外気の影響を受け大きく変動しているのに対し、調湿タイルを施工した部屋の湿度は外気にほとんど影響されず、ほぼ60%前後に保たれているのが分かる。このように稚内層珪質頁岩を配合したタイルは極めて湿調湿効果に優れ、室内を適度な湿度変幅内に抑えることから、それを壁装材として施工することによって、より快適な室内環境を作り出すことが可能である。」(第224頁本文第7〜13行)、
(A-9)「この珪質頁岩を利用して試作した調湿タイル及び調湿石膏ボードについて吸放湿機能を測定した結果、珪質頁岩の配合量が多いほど吸放湿機能が大きく、スプルース材などの内装材よりも優れた調湿効果を有することがわかつた。」(第224頁本文第17〜19行)ことが記載されている。

以上のとおり、引用例1には、(a)鉱物組成は主としてクリストバライトからなり(前記A-3)、(b)SEM写真でみると、珪藻遺骸は認められず、珪藻が変質したと思われる球状、針状あるいはそれらが集合した微粒子が観察され(前記A-4)、(c)細孔半径10〜150Åという特徴ある細孔分布を示し、比表面積は約130m2/gで一般的な珪藻土の3〜4倍であって、全細孔容積中の、細孔半径20〜100Åの細孔容積を合算したものの割合が約78%である(前記A-5)ところの、「稚内層と呼ばれる珪質頁岩」を用いて調湿材料を製造する発明が記載され、具体的には、「タイルの原料として本道の代表的な粘土窯業原料である旭川神楽粘土を用い、これに稚内層珪質頁岩を配合比50wt%、60wt%、70wt%で混合し、この素地を水分約20wt%に調整した後、成形圧20MPaで大きさおよそ110×66×10mmにプレス成形し、焼成した。焼成条件は電気炉を用い、加熱速度200℃/h、最高温度850℃、最高温度での保持時間1時間とした。」(前記A-6)ことにより調湿タイルを製造すること、その稚内層珪質頁岩を配合したタイルは極めて湿調湿効果ないしは調湿効果に優れ、室内を適度な湿度変幅内に抑えることから、それを壁装材として施工することによって、より快適な室内環境を作り出すことが可能である(前記A-8及びA-9)とする発明が、実質上、記載されている。

引用例2は、本件出願前に頒布された刊行物に該当すると認められ、そこには、「稚内層珪藻頁岩を利用した調湿機能材料の開発」と題し、
(B-1)「最近の建物は高気密、高断熱化の趨勢にあり、省エネルギー面の改善が進められているが、その一方、結露とダニやカビの発生が深刻な住環境問題となっている。これらの問題は室内の高温多湿状態に起因するため、これを解決できる吸放湿機能に優れた材料の開発が求められている。」(第716頁左欄第2〜9行)、
(B-2)「北海道天北地方に地質上、稚内層と呼ばれる珪藻頁岩に優れた吸放湿機能を見いだした。この珪藻頁岩は特徴のある細孔分布を示し結晶化しているため酸や熱で処理してもその特性を失わず、安定している。しかも容易に粉砕することができ、任意の粒径の粉体や造粒物に加工することができる。したがって、この粉粒体を利用することによって、種々多様な調湿材料の開発が可能となった。」(第716頁右欄第4〜13行)、
(B-3)「表1に稚内層珪藻頁岩(TMU-29)の化学分析値を示す。SiO2を約80wt%含有し、そのほかに粘土鉱物や長石の成分であるAl2O3、Na2O、K2Oなどが多く含まれている。鉱物組成は主としてクリストバライトからなり、ほかに石英、長石、粘土鉱物等を含有する。」(第716頁右欄第19〜25行)、
(B-4)「これに対し、写真2は稚内層珪藻頁岩SEM写真である。珪藻遺骸は認められず、珪藻が変質したと見られる円形の中にサブミクロンの球状微粒子の集合体が観察される。」(第717頁左欄第2〜7行)、
(B-5)「細孔分布測定はBET法(N2ガス吸着法)で行った。その結果を図1に示す。稚内層は細孔半径10〜150Åという特徴ある細孔分布を示し、比表面積は約130m2/gで一般的な珪藻土の3〜4倍である。」(第717頁左欄下から第20〜下から第16行)、
これに関連し、第717頁右欄下段には、図-1 稚内層(TMU29)の細孔分布図が掲載され、その図では横軸が細孔半径(Å)で縦軸が細孔容量(cc/g)のヒストグラムが記載され、計算によると、全細孔容積中の、細孔半径20〜100Åの細孔容積を合算したものの割合が、約78%、に当たることが解る。
(B-6)「呼吸性セラミックス(タイル形状)
稚内層珪藻頁岩を原料として、粉砕・混合し、素地の水分を調整した。それを500t油圧プレス機を用いて、成形圧250kgf/cm2で219×104×15mmの大きさに成形し、乾燥後、LPGシャトルキルンを用いて、850℃で焼成した。」(第718頁左欄本文第7〜13行)、
(B-7)「図5に示すのは、この呼吸性セラミック(タイル形状)を一般建築の内装材として、容積209m3の室内の西側一面28m2に施工し、その室内の温度および湿度を屋外の温湿度と共に24時間連続測定したものである。これから屋外の湿度は大きく変動しているのに対し、呼吸性セラミックスを施工した室内の湿度は外気にほとんど影響されず、相対湿度60〜70%に保たれているのがわかる。このように稚内層珪藻頁岩を利用したセラミックスは、極めて調湿効果に優れ、室内を適度な湿度変幅内に抑えることから、それを壁装材として施工することによってより快適な室内環境を作り出すことが可能である。」(第719頁左欄下から第10行〜右欄第6行)ことが記載されている。

以上のとおり、引用例2には、(a)鉱物組成は主としてクリストバライトからなり(前記B-3)、(b)SEM写真でみると、珪藻遺骸は認められず、珪藻が変質したと見られる円形の中にサブミクロンの球状粒子の集合体が観察され(前記B-4)、(c)細孔半径10〜150Åという特徴ある細孔分布を示し、比表面積は約130m2/gで一般的な珪藻土の3〜4倍であって、全細孔容積中の、細孔半径20〜100Åの細孔容積を合算したものの割合が約78%である(前記B-5)ところの、「稚内層と呼ばれる珪藻頁岩」を用いて呼吸性セラミックス(タイル形状)を製造する発明が記載され、具体的には、「稚内層珪藻頁岩を原料として、粉砕・混合し、素地の水分を調整した。それを500t油圧プレス機を用いて、成形圧250kgf/cm2で219×104×15mmの大きさに成形し、乾燥後、LPGシャトルキルンを用いて、850℃で焼成した。」(前記B-6)ことにより呼吸性セラミックス(タイル形状)を製造すること、その稚内層珪藻頁岩を利用したセラミックスは、極めて調湿効果に優れ、室内を適度な湿度変幅内に抑えることから、それを壁装材として施工することによってより快適な室内環境を作り出すことが可能である(前記A-7)とする発明が、実質上、記載されている。

本出願前に頒布された刊行物である引用例3には、
(C-1)「稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれとその他のセラミックス原料と配合して任意の形状に成形し、焼成することを特徴とする稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法。」(特許請求の範囲第1項)、
(C-2)「北海道の天北地方などには珪藻土が大量に賦存するが、地質学上稚内層と呼ばれる珪藻土は地質的変質作用を受け、結晶化が進み、化学的、熱的に安定な鉱物になっている。また、稚内層珪藻土の細孔構造はその他の珪藻土と異なる多孔質構造となっている。
この特性の一つに、吸放湿する調湿機能があり、この稚内層珪藻土粉砕物をその他の原料と配合するか、またはフィラーとしてその他の材料と複合するだけで調湿機能を発現することができる。
従って、従来の工程を大幅に変えることなしに多様な調湿材料が製造できるため、その用途は極めて広い。例えば、最近の建築様式は高断熱、高気密化の趨勢にあるが、一般に使用されている内装材は調湿機能がなく、結露及びカビやダニの発生が住環境の重大問題となっており、多種多様な調湿材料が期待されている。」(段落0001の抜粋)、
(C-3)「【実施例】実施例について図面を参照して説明する。
本発明で使用する稚内層珪藻土粉砕物の粉体特性の一例は下記の通りである。粉体は大部分が1μ以下のサブミクロンの粒子で構成され、極めて微細である。比表面積は128.9m2 /gを示し、一般的な珪藻土の3〜4倍の大きさである。図1に細孔分布を示したが、半径20〜100Åの細孔が全体の70%以上を占める。また、これを800℃で焼成した粉体の比表面積は133.7m2 /g、その細孔分布を図2に示したが加熱によって殆ど変化がなく、熱的に極めて安定している。以上のように、稚内層珪藻土は極めて多孔質であり、特有の細孔分布を示す。図3は、この粉体の20℃における水蒸気吸着等温線である。また、30℃に温度を一定とし、24時間毎に湿度を変化させ、この粉体及びそれを800℃焼成したものの吸放湿機能、すなわち調湿機能を見たのが図4である。調湿機能を杉材と比較したが、それよりも優れている。しかも、加熱によって殆ど変化しない。
第1発明の稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法の構成は下記の通りである。図5は稚内層珪藻土を粉砕し、それ単独で乾式プレス成形後、800℃で焼成し、タイル状にしたものの調湿機能である。図6は稚内層珪藻土を粉砕し水を加えて練り土状にし、土練成形後800℃で焼成し、タイル状にしたものの調湿機能である。図7は稚内層珪藻土粉砕物と粘土窯業原料として使用されている北海道旭川地区のせっ器質粘土と配合し、タイル状に乾式プレス成形後、800℃焼成したものの調湿機能である。このように稚内層珪藻土粉砕物を単独で使用するか、またはその他のセラミックス原料と配合することによって、従来の製造工程を変えることなしに、多様な調湿機能セラミックスが容易に製造できる。しかも、この調湿機能は図7からわかるように、稚内層珪藻土の配合比に一義的に支配され、その制御は極めて容易である。」(段落0006及び0007)、
(C-4)「本発明は、上述の通り構成されているので次に記載する効果を奏する。A.本発明の稚内層珪藻土を利用した調湿材料は湿度の変化によって吸放湿するものであり、特に快適な生活環境と思われる湿度50%RH以上で著しく吸湿する特性を持っている。これによって、結露及びカビやダニの発生が防止できる快適な住環境を創出することができる。」(段落0009の抜粋)ことが記載されている。

本出願前に頒布された刊行物に該当する引用例4には、
(D-1)「クリストバライトを粒径0.05〜5mmに粉砕し、この粉状乃至粒状のクリストバライトを本質的成分とする乾燥物を、水を用いて調湿し、圧縮成型して、しかる後、900〜1250℃で焼結することを特徴とするクリストバライトの成形方法。」(特許請求の範囲)、
(D-2)「そこで、特開平4-26574号公報において、クリストバライト岩を1〜60ミクロン程度の微粉末に粉砕処理するとともに若干の水分を補給して粘土状とし、このクリストバライト微粉末の粘土状物を成形型内に充填して、700〜900℃程度の比較的低温により焼成することが提案されている。」(段落0012)、
(D-3)「粉砕したクリストバライトを単独で、または必要に応じてバインダーや成形用潤滑物質と混合した後、この乾燥物に対して15〜20%の水を加える。水をこの程度添加した場合、調湿物は「パサパサ」した状態にとどまり、上記の公知技術に記されるような「粘土状」乃至「泥状」にはならない。このような泥状になるためには、水を40%以上加える必要がある。
バインダーとしては、公知のように、でん粉、セルロース、ポリビニルアルコール、ベントナイト、粘土などを挙げることができる。成形用潤滑物質は、ステアリン酸やパラフィンなどを指し、これらバインダーや成形用潤滑物質を粒度分布や用途にあわせて1〜5%程度添加する。」(段落0016及び0017)、
(D-4)「実施例2
クリストバライト原石を粒径0.05〜0.6mmの範囲に粉砕し、この粉体100重量部に対して水を20重量部加えて調湿し、100kg/cm2の圧力で圧縮成型する」(段落0028)ことが記載されている。

5.取消理由についての当審の判断
《請求項1について》
本件請求項1に係る発明(以下、適宜、「第1発明」という)と、引用例2に記載のものとを対比する。
引用例2に記載される稚内層珪藻頁岩は、第1発明の「天然無機鉱物」である「珪質頁岩」に相当し、また、その稚内層珪藻頁岩は、全細孔容積中の、細孔半径20〜100Åの細孔容積を合算したものの割合が約78%であって、第1発明のように細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有するものである。更に、引用例2の稚内層珪藻頁岩については、「鉱物組成は主としてクリストバライトからなり」とされ、そのうえ、SEM写真でみるとサブミクロンの球状粒子の集合体が観察され、細孔半径10〜150Åという細孔分布を示し、比表面積は約130m2/gで一般的な珪藻土の3〜4倍であり、このように、該稚内層珪藻頁岩は基本的に多孔質であり、その主たる成分であるクリストバライトも多孔質であると解され、したがって、引用例2の稚内層珪藻頁岩においても、第1発明のように多孔質クリストバライトを主成分とするものである。
そして、引用例2に記載される呼吸性セラミックス(タイル形状)は、「稚内層珪藻頁岩を原料として、粉砕・混合し、素地の水分を調整した。それを成形し、乾燥後、850℃で焼成した。」とされるものであって、第1発明と同じように、珪質頁岩の粉砕物を成形し、焼成してセラミックスとするものであり、また、その呼吸性セラミックス(タイル形状)は、極めて調湿効果に優れるのであって、第1発明のように調湿セラミックスといえるものである。
よって、両者は、
「天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩の粉砕物を成形し、焼成する調湿セラミックス」である点で共通する。
しかし、第1発明では、更に、(1)「水、または水と有機バインダーを加えて」成形する、(2)「連続気孔を多数形成する」調湿セラミックである、(3)調湿セラミックスが「建材」であるとするものであるが、引用例2に記載にものでは、それらのことが明示されず、以上の点で、両者は、相違する。
以下、この相違点につき検討する。
相違点(1)について
本件明細書では、水、または水と有機バインダーを加えて成形することの意義については、特段、説明されるところはない。
一方、引用例2には、成形前に水を加えることが直載されないが、焼成及び成形前に素地の水分の調整をすることが記載されるのであって、実質上、水の存在下で素地を成形することが示されるものである。
そして、成形、焼成を経て製品が製造されるこの種のセラミック分野においては、素地に水を存在させる場合、成形前にその水を加えること、ないしは、水と有機バインダーを加えることは、引用例3の前記(C-3)の後段、引用例4の前記(D-1)〜(D-4)等に示されるとおり、極く普通のことに過ぎないものである。
してみれば、引用例2に記載のものにおいて、成形前に、素地に、水、または水と有機バインダーを加えて、第1発明のようにすることは、当業者の適宜なし得るところに過ぎない。
相違点(2)について
本件明細書では、調湿セラミックの連続気孔につき、
「本発明における焼成温度は、600〜1100℃である。
珪質頁岩の調湿機能は焼成温度700℃まではほとんど変化しないが、それ以上では焼成温度が高くなるほどその機能は低下する。
水に崩壊しない程度の耐水性を付与するためには、600℃以上の焼成温度が必要であるが、焼成温度が高くなるほど調湿機能は低下するため、あまり高温焼成は望ましくない。
焼成温度を1100℃以上にすると、半径20〜100Åの細孔が焼成によって激減すると共に、連続気孔が減少するために、調湿機能はほとんど発現しなくなる。
木材よりも大きな調湿機能を発現させ、セラミックス建材としての強度と耐久性を満足させるためには800〜1000℃の焼成温度で焼成することが適切である。」(段落0015の抜粋)と記載され、このように、焼成温度を1100℃以上にすると連続気孔が減少するために、調湿機能はほとんど発現しなくなると示されるのである。
これに対して、引用例2に記載の呼吸性セラミックス(タイル形状)の製造においては、その焼成温度は850℃であって、本件明細書でいう焼成温度が1100℃以下の条件を満たすものであり、したがって、連続気孔が減少化されたものではなく、そして、引用例2で示されるように、その呼吸性セラミックス(タイル形状)は調湿効果に優れるものである。
この外、引用例2に記載のものでは、原料として珪藻頁岩(珪質頁岩)を用い、成形、焼結するものであって、第1発明のものと、その製造条件が本質的に異なるものではない。
してみれば、引用例2に記載の呼吸性セラミックス(タイル形状)には、第1発明のように連続気孔が多数形成されているものと解され、この点は、実質的な相違点とはならないものである。
相違点(3)について
引用例2においては、稚内層珪藻頁岩を利用したセラミックスは、極めて調湿効果に優れ、室内を適度な湿度変幅内に抑えることから、それを壁装材として施工することによってより快適な室内環境を作り出すことが可能であることが示されるのであるから、その呼吸性セラミックス(タイル形状)を建材として用いることは、当然のことである。
してみれば、上記相違点(1)〜(3)は、実質的相違点ではなく、ないしは、その事項は、当業者が容易に想到できるものである。
したがって、第1発明は、引用例2〜4の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

《請求項2について》
本件請求項2に係る発明(以下、適宜、「第2発明」という)と、引用例1に記載のものとを対比する。
引用例1に記載される稚内層珪質頁岩は、第2発明の「天然無機鉱物」である「珪質頁岩」に相当し、また、その稚内層珪質頁岩は、全細孔容積中の、細孔半径20〜100Åの細孔容積を合算したものの割合が約78%であって、第2発明のように細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有するものである。更に、引用例1の稚内層珪質頁岩については、「鉱物組成は主としてクリストバライトからなり」とされ、そのうえ、SEM写真でみると珪藻が変質したと思われる球状、針状あるいはそれらが集合した微粒子が観察され、細孔半径10〜150Åという細孔分布を示し、比表面積は約130m2/gで一般的な珪藻土の3〜4倍であり、このように、該稚内層珪質頁岩は基本的に多孔質であり、その主たる成分であるクリストバライトも多孔質であると解され、したがって、引用例1の稚内層珪質頁岩においても、第1発明のように多孔質クリストバライトを主成分とするものである。
そして、引用例1に記載される調湿タイルは、「タイルの原料として旭川神楽粘度を用い、これに稚内層珪質頁岩を配合比50wt%、60wt%、70wt%で混合し、この素地を水分約20wt%に調整した後、プレス成形し、焼成した。焼成条件は最高温度850℃、最高温度での保持時間1時間とした。」とされ、引用例1に記載の調湿タイルにおいても、第2発明と同じように、珪質頁岩の材料にその他のセラミックス原料を配合し、成形し、焼成されるものであり、また、その調湿タイルは、このように、成形、焼成されて製造される非金属材料から構成されるものであるから、セラミックスといえるものである。
よって、両者は、
「天然無機鉱物であり、多孔質クリストバライトを主成分とし、細孔分布において半径20〜100Åの細孔が全細孔容量の70%以上を有する珪質頁岩材料に、その他のセラミックス原料を配合し、成形し、焼成する調湿セラミックス」である点で共通する。
しかし、第2発明では、(1)珪質頁岩を「粉砕物」にする、(2)「成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的から」その他のセラミックス原料を配合する、(3)「水、または水と有機バインダーを加えて」成形する、(4)「連続気孔を多数形成する」調湿セラミックである、(5)調湿セラミックが「建材」であるとするものであるが、引用例1に記載にものでは、それらのことが明示されず、以上の点で、両者は、相違する。
以下、この相違点につき検討する。
相違点(1)について
引用例1には、調湿タイルの製造段階において、珪質頁岩を粉砕物とすることが直載されないが、成形、焼成を経て製品が製造されるこの種のセラミック分野においては、その原料は、通常、何らかの粉砕の後に、配合、混合、成形及び焼成されるものであり(必要ならば、引用例2〜引用例4等を参照)、したがって、この引用例1に記載のものにおいても、粉砕処理が行われているものと解され、この点が、実質上の相違点とはならない。
相違点(2)について
本件明細書には、成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的からその他のセラミックス原料を配合する場合に、具備すべき発明を特定する事項につき、具体的に規定されるところはない。
ところで、一般に、基礎材料に他の材料を配合は、基礎材料の持つ諸機能を改善するために設けられるものであり、したがって、この相違点に関する規定には、特段の意味はない(必要ならば、引用例1の(A-7)、引用例3の(C-3)の後段、等を参照)。
しかも、第2発明の具体例に当たる本件明細書の実施例2においては、その他セラミックス原料として、神楽粘土を用い、珪質頁岩と神楽粘土との配合比が10:0、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5で素地を調製している例が示されるが、この神楽粘土は、引用例1の調湿タイルで用いられる粘土と同じ種類のものであり、また、その調湿タイルにおける内層珪質頁岩と神楽粘土の配合比が、7:3、6:4、5:5となっており、このように、引用例1におけるものが、その他セラミックス原料の種類、及び配合比の何れにおいても、第2発明の実施例のものと一致するものである。
してみれば、引用例1に記載される調湿タイルにおいては、第2発明のものと同様な目的で神楽粘土が配合されているものと解され、したがって、成形性と強度の向上およびデザインの多様化を図る目的からその他のセラミックス原料を配合するという点も、実質上の相違点とはならない。
相違点(3)について
本件明細書では、水、または水と有機バインダーを加えて成形することの意義については、特段、説明されるところはない。
一方、引用例1では、調湿タイルの製造段階において、成形前に水を加えることが直載されないが、そこでは、焼成及び成形前に素地の水分の調整をすることが記載されるのであって、実質上、水の存在下で素地を成形することが示されるものである。
そして、成形、焼成を経て製品が製造されるこの種のセラミック分野において、素地に水を存在させる場合、成形前に、水を加えること、ないしは、水と有機バインダーを加えることは、引用例3の前記(C-3)の後段、引用例4の前記(D-1)〜(D-4)等に示されるとおり、極く普通のことに過ぎないものである。
してみれば、引用例1に記載のものにおいて、成形前に、素地に、水、または水と有機バインダーを加えて、第2発明のようにすることは、当業者の適宜なし得るところに過ぎない。
相違点(4)について
本件明細書では、調湿セラミックに連続気孔を多数形成させることにつき、
「本発明における焼成温度は、600〜1100℃である。
珪質頁岩の調湿機能は焼成温度700℃まではほとんど変化しないが、それ以上では焼成温度が高くなるほどその機能は低下する。
水に崩壊しない程度の耐水性を付与するためには、600℃以上の焼成温度が必要であるが、焼成温度が高くなるほど調湿機能は低下するため、あまり高温焼成は望ましくない。
焼成温度を1100℃以上にすると、半径20〜100Åの細孔が焼成によって激減すると共に、連続気孔が減少するために、調湿機能はほとんど発現しなくなる。
木材よりも大きな調湿機能を発現させ、セラミックス建材としての強度と耐久性を満足させるためには800〜1000℃の焼成温度で焼成することが適切である。」(段落0015の抜粋)と記載され、このように、焼成温度を1100℃以上にすると連続気孔が減少するために、調湿機能はほとんど発現しなくなると示されるのである。
これに対して、引用例1に記載の調湿タイルの製造においては、その焼結温度が850℃であって、本件明細書でいう焼成温度が1100℃以下の条件を満たすものであり、したがって、連続気孔が減少化されたものではなく、そして、引用例1で示されるように、その調湿タイルは調湿効果に優れるものである。
この外、引用例1に記載のものでは、原料として珪質頁岩と神楽粘土とを用い、成形、焼結するものであって、第2発明のものと、その製造条件が本質的に異ならないものである。
してみれば、引用例1に記載の調湿タイルには、第1発明のように連続気孔が多数形成されているものと解され、この点は、実質的な相違点とはならないものである。
相違点(5)について
引用例1においては、稚内層珪質頁岩を配合したタイルは調湿効果に優れ、室内を適度な湿度変幅内に抑えることから、それを壁装材として施工することによって、より快適な室内環境を作り出すことが可能であるとするものであるから、その調湿タイルを建材として用いることは、当然のことである。
してみれば、上記相違点(1)〜(5)は、実質的相違点ではなく、ないしは、その事項は、当業者が容易に想到できるものである。
したがって、第2発明は、引用例1〜4の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、前記訂正請求(前記したとおり、認められないものであるが)においては、その請求項1及び2において、珪質頁岩の粒径を「1mm以下に調製された」、ないしは、「0.4mm以下に調製された」と訂正することを意図するものであるが、セラミックス一般の製造方法においてはもとより、この種のクリストバライトないしは珪藻土を主要成分とするセラミックの製造方法においても、原料成分の粒径を1mm以下ないしは0.4mm以下に調製することは、通常実施される事項に他ならないものであり(必要ならば、引用例4の前記(D-4)、特開平7-39289号公報の段落0006〜0008、特開平7-330422号公報の特許請求の範囲、特開平4-26574号公報の特許請求の範囲、等)、したがって、珪質頁岩の粒径を「1mm以下に調製された」、ないしは、「0.4mm以下に調製された」とする程度のことは、当業者の容易に想到できるものである。また、粒径をそのように限定したことにより、本件の図7に示されるような卓越した調湿機能を有する旨、併せて主張するが、本件のものが、引用例1の図3、引用例2の図-3、及び、引用例3の図5のものに比べ、調湿機能につき改善されているとまではいえない。

6.特許異議申立に対する審理
本件請求項1及び2に係る発明は特許を受けることができないものであるが、このことは、上記5.で説示したとおりであり、したがって、特許異議申立人の主張については、もはや必要がないので、審及しないこととする。

IV. まとめ
以上のとおりであり、上記補正及び上記訂正は認めない。
そして、本件請求項1及び2に係る発明は、上記引用例に記載された発明基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-09-18 
出願番号 特願平8-178558
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (E04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 山田 充
唐戸 光雄
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2964393号(P2964393)
権利者 鈴木産業株式会社 北海道
発明の名称 調湿セラミックス建材  
復代理人 森 治  
代理人 川成 靖夫  
復代理人 森 治  
代理人 川成 靖夫  

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