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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1050121
異議申立番号 異議2000-71052  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-13 
確定日 2001-11-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第2948324号「高強度・高靭性耐熱鋼」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2948324号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2948324号(平成8年4月10日出願、平成11年7月2日設定登録)の請求項1〜4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】重量比で、0.08から0.25%の炭素、0.10%以下のけい素、0.10%以下のマンガン、0.05から1.0%のニッケル、10.0から12.5%のクロム、0.6から1.9%のモリブデン、1.0から1.95%のタングステン、0.10から0.35%のバナジウム、0.02から0.10%のニオブ、0.01から0.08%の窒素、0.001から0.01%のボロン、2.0から8.0%のコバルトを含有し、残部が実質的に鉄であり、組織が焼戻しマルテンサイト基地からなる耐熱鋼の次式によって求められるCr当量(Cr当量=Cr+6Si+4Mo+1.5W+11V+5Nb-40C-2Mn-4Ni-2Co-30N)が7.5%以下であり、(B+0.5N)で表されるB当量が0.030%以下であり、(Nb+0.4C)で表されるNb当量が0.12%以下であり、(Mo+0.5W)で表されるMo当量が1.40〜2.45%であり、かつ、不純物元素のうち、硫黄0.01%以下、リン0.03%以下に抑えてなり、M23C6型炭化物および金属間化合物を主として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させ、かつMX型炭窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させ、これら析出する析出物の合計量が1.8〜4.5重量%である耐熱鋼より形成されることを特徴とする高強度・高靭性耐熱鋼。
【請求項2】旧オーステナイト結晶粒径が45〜125μmである耐熱鋼より形成されることを特徴とする請求項(1)記載の高強度・高靭性耐熱鋼。
【請求項3】溶体化・焼入れ熱処理温度が1050〜1150℃であり、焼入れ後少なくとも530〜570℃の温度において第1 段焼戻し熱処理後、それより高い温度の650〜750℃の温度において第2段焼戻し熱処理を施すことを特徴とする請求項(1)または(2)に記載の高強度・高靭性耐熱鋼。
【請求項4】上記耐熱鋼から成る鋼塊がエレクトロスラグ再溶解法またはそれに準じる鋼塊製造法を用いて得られることを特徴とする請求項(3)記載の高強度・高靭性耐熱鋼。」
2.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証〜甲第13号証を提出して、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである、と主張している。
3.甲号証に記載された発明
当審で通知した取消しの理由で引用した刊行物1〜刊行物13(特許異議申立人が提出した甲第1号証〜甲第13号証と同じ)には、次の発明が記載されている。
刊行物1(特開平2-290950号公報、特許異議申立人が提出した甲第3号証と同じ)には、
「2.重量%で、C0.05〜0.20%、Mn0.05〜1.5%、Ni0.05〜1.0%、Cr9.0〜13.0%、Mo0.05〜0.50%(0.50%を含まず)、W2.0〜3.5%、VO.05〜0.30%、Nb0.01〜0.20%、Co2.1〜10.0%、NO.01〜0.1%、BO.001〜0.030%を含み、残部が実質的にFeおよび不可避の不純物よりなり、特にSiを不純物として0.15%以下に制限したことを特徴とする高温強度の優れたフェライト系耐熱鋼。」(特許請求の範囲第2項)
が記載され、また、
「本発明は火力発電用スチームタービン部品、ガスタービン部品などに利用可能で、特にタービンブレード、タービンディスク、ボルト等に最適な高温強度の優れたフェライト系耐熱鋼に関するものである。」(第2頁左上欄6〜10行)
「・・・特開昭61-69948号に開示される10種類の合金はいずれもCoを含まないか、Coを含んでも1%以下である。従来Coはシャルピー衝撃値を低下させるため、特に延性が低下しがちなW含有鋼においては、Coの多量添加は不適当と考えられていたからである。ところが、本発明者等の研究によれば実施例で述べるように、Coを2.1%以上添加してもこのような悪い傾向は認められず、むしろCoを2.1%以上、望ましくは2.7%以上を添加すると高温強度の向上には著しい効果があることがわかった。そこで、本発明においてはCoを2.1%以上含有させることによって、高温強度の一段の向上を達成することができるのである。」(第3頁右上欄5〜17行)
「MoはM23C6型炭化物の微細析出を促進し、凝集を妨げる作用があり、このため高温強度を長時間保持するのに有効で、最低0.05%必要であるが、0.50%以上になるとδフェライトを生成し易くするので0.05〜0.50%(0.50%を含まず)に限定する。・・・
WはMo以上にM23C6型炭化物の凝集粗大化を抑制する作用が強く、またマトリックスを固溶強化するので高温強度の向上に有効であり、最低2.0%必要であるが、3.5%を越えるとδフェライトやラーベス相を生成しやすくなり、逆に高温強度を低下させるので、2.0〜3.5%に限定する。」(第3頁右下欄下から4行〜左上欄8行)
「Coは本発明を従来の発明から区別して特徴づける重要な元素である。本発明においてはCoの添加により高温強度が著しく改善される。これはおそらく、Wとの相互作用によるものと考えられ、Wを2%以上含む本発明合金において特徴的な現象である。このようなCoの効果を明確に実現するために、本発明合金におけるCoの下限は2.1%とするが、一方Coを過度に添加すると延性が低下し、またコストが上昇するので、上限は10%に限定する。」(第4頁右上欄5〜14行)
と記載され、
第1表には、この発明の実施例として、その化学組成が、C:0.06〜0.18%、Si:0.01%、Mn:0.09〜1.30%、Ni:0.09〜0.89%、Cr:9.33〜12.63%、Mo:0.09〜0.44%、W:2.05〜3.33%、V:0.09〜0.27%、Nb:0.02〜0.18%、Co:2.15〜9.43%、N:0.012〜0.090%、B:0.003〜0.027%、残部Feであるものが示されている。
刊行物2(特開平4-147948号公報、甲第4号証と同じ)には、
「2.重量%で、CO.05〜0.20%、Si0.15%以下、Mn0.05〜1.5%、Ni0.05〜1.0%、Cr9.0〜13.0%、Mo0.05〜0.50%(0.50%を含まず)、W2.0〜3.0%、VO.05〜0.30%、Nb0.01〜0.20%、Co2.1〜10.0%、NO.01〜0.1%、BO.001〜0.030%を含み、残部が実質的にFeおよび不可避の不純物よりなり、特にSiを不純物として0.15%以下に制限したことを特徴とする高温蒸気タービン用ローターシャフト。」(特許請求の範囲第2項)
が記載され、また、
「本発明は超々臨界圧火力プラントの高強度高温蒸気タービン用ロータに関するものである。」(第2頁左上欄14〜15行)
「・・・特開昭61-69948号に開示される10種類の合金はいずれもCoを含まないか、Coを含んでも1%以下である。従来Coはシャルピー衝撃値を低下させるため、特に延性が低下しがちなW含有鋼においては、Coの多量添加は不適当と考えられていたからである。ところが、本発明者等の研究によれば実施例で述べるように、Coを2.1%以上添加してもこのような悪い傾向は認められず、むしろCoを2.1%以上、望ましくは2.7%以上を添加すると高温強度の向上には著しい効果があることがわかった。そこで、本発明においてはCoを2.1%以上含有させることによって、高温強度の一段の向上を達成することができるのである。」(第3頁左上欄14行〜右上欄7行)
「MoはM23C6型炭化物の微細析出を促進し、凝集を妨げる作用があり、このため高温強度を長時間保持するのに有効で、最低0.05%必要であるが、0.50%以上になるとδフェライトを生成し易くするので0.05〜0.50%(0.50%を含まず)に限定する。・・・
WはMo以上にM23C6型炭化物の凝集粗大化を抑制する作用が強く、またマトリックスを固溶強化するので高温強度の向上に有効であり、最低2.0%必要であるが、3.5%を越えるとδフェライトやラーベス相を生成しやすくなり、逆に高温強度を低下させるので、2.0〜3.5%に限定する。」(第4頁左上欄7〜末行)
「Coは本発明を従来の発明から区別して特徴づける重要な元素である。本発明においてはCoの添加により高温強度が著しく改善される。これはおそらく、Wとの相互作用によるものと考えられ、Wを2%以上含む本発明合金において特徴的な現象である。このようなCoの効果を明確に実現するために、本発明合金におけるCoの下限は2.1%とするが、一方Coを過度に添加すると延性が低下し、またコストが上昇するので、上限は10%に限定する。」(第4頁右上欄下から4行〜左下欄6行)
「次式によって求められるクロム当量は4〜10.5が好ましく、特に6.5〜9.5が好ましい。
クロム当量=-40×C%-30×N%-2×Mn%-4×Ni%+Cr%+6×Si%+4×Mo%+11×V%+5×Nb%-2×Co%
本発明のロータシャフトはインゴットを真空溶解、真空C脱酸、ESR溶解によって鋳造し、鍛造を行った後、900〜1150℃で加熱し、中心孔で50〜600℃/h冷却による焼入れし、次いで500〜620℃で一次焼戻し及びそれより高い温度の600〜750℃2次焼戻しが施される。」(第4頁右下欄9行〜第5頁左上欄2行)
と記載され、
第1表には、この発明の実施例として、その化学組成が、C:0.06〜0.18%、Si:0.01%、Mn:0.09〜1.30%、Ni:0.09〜0.89%、Cr:9.33〜12.63%、Mo:0.09〜0.44%、W:2.05〜3.33%、V:0.09〜0.27%、Nb:0.02〜0.18%、Co:2.15〜9.43%、N:0.012〜0.090%、B:0.003〜0.027%、残部Feのものが示されている。
刊行物3(特開昭62-60845号公報、甲第1号証と同じ)には、
「(2)重量パーセントで
炭素 0.05%以上 0.20%以下
シリコン 0.10%以下
マンガン 0.05%以上 1.50%以下
クロム 8%以上 12%以下
ニッケル 1.5%以下
モリブデン 0.3%以上、 1.34%未満
タングステン 0.5%を越え、 2.4%未満
但し、1/2〔タングステンパーセント〕+〔モリブデンパーセント〕は、0.75%以上2%以下とし、〔タングステンパーセント〕/〔モリブデンパーセント〕は、1を越え3未満とする。
バナジユーム 0.10%以上 0.30%以下
ニオブ 0.01%以上 0.10%以下
窒素 0.01%以上 0.1%以下
アルミニユーム 0.02%以下
を含有し、且つ
タンタル 0.05%以下
チタン 0.05%以下
ボロン 0.01%以下
ジルコニユーム 0.1%以下
の中1種または2種以上の元素を含有し、残部が鉄および不可避的不純物よりなる鉄基合金で構成されていることを特徴とする、高温用蒸気タービンロータ。」(特許請求の範囲第2項)
が記載され、また、
「とくに、本発明は、・・・550〜650℃ですぐれた長時間クリープ破断強度、切欠クリープ破断強度、クリープ破断伸びおよびクリープ破断絞りを有するとともに常温においてもすぐれた靭性を有するロータに関するものである。」(第2頁左上欄15行〜右上欄1行)
「モリブデンとタングステンは、周期律表において、ともにVI-B族の元素であり、炭化物生成元素として、ほぼ同じような挙動を示す。
今、タングステンの原子量がモリブデンの原子量の約2倍であることから、モリブデン及びタングステンの含有量を、等価のモリブデン含有量に換算した値をモリブデン当量とする。すなわち
モリブデン当量=1/2〔タングステン含有量〕+〔モリブデン含有量〕
である。
モリブデン当量0.75%未満では、析出する炭化物(Fe,Cr,Mo,W)23C6〔一般にM23C6と書く〕が、550〜650℃での範囲で安定でないので、長時間クリープ破断強度が低くなる。
一方モリブデン当量が2%をこえると、550〜650℃の温度範囲で、これまた不安定な相が析出するため長時間クリープ破断強度が低くなる。また同時に、モリブデン当量が高いとδ-フェライトも析出するため、高温の疲れ強度も低下するので、好ましくない。」(第3頁右下欄9行〜第4頁左上欄12行)
「本発明は、同一のモリブデン当量においても、タングステンの含有量を、モリブデンの含有量より、多くすることによって、高温のクリープ破断特性、特に593℃以上でのクリープ破断強度を上昇させたのが特徴である。
具体的には
W/Mo比=〔タングステン含有量〕/〔モリブデン含有量〕
を1を越えるものとし、クリープ破断強度を、上昇させた。
これは、タングステンがモリブデンとほぼ同一の挙動は示すが、モリブデンより溶融点が高いことからわかるように、高温でより安定であることを利用したのである。」(第4頁左上欄下から6行〜右上欄7行)
「0.10%を超えてニオブを添加すると1020℃〜1150℃の焼入れ温度でNbCが十分固溶できず、又析出したNbCが使用中に凝集し粗大化して長時間のクリープ破断強度が低下する。」(第4頁右下欄1〜5行)
「〔実施例2〕
12Crロータの製造に当って、その鋼塊は電気炉精錬のあと真空カーボン脱酸で作る方法か、もしくは、そうして作った1次鋼塊をエレクトロスラグ再溶解(ESR)にかけて更に均質清浄な2次鋼塊とする方法、のどちらかで作られる。これは12Crロータ製造において鋼塊中心部の偏析の低減が重要であることによる。」(第8頁左下欄12行〜下から2行)
と記載されている。
刊行物4(特公平3-60905号公報、甲第2号証と同じ)には、
「2.重量でC:O.03〜0.15%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:8.0〜13.0%、Mo:0.5〜2.3%、W:0.2〜2.0%、V:0.05〜0.30%、Nb:0.02〜0.12%、B:0.001〜0.008%、N:0.02〜0.05%、Ni,Coの1種又は2種合計で0.1〜1.0%を含有し、Si:0.2%以下に制限し、さらにMoとW量の関係が下記の座標点を占める第1図ABCDに囲まれた範囲、また(Mo+W)とNb量の関係が下記の座標点を占める第2図EFGHに囲まれた範囲にあり、残部Feおよび不可避不純物よりなることを特徴とする高クリープ強度フェライト系耐熱鋼。
Mo%、W% (Mo+W)%、Nb%
A(2.3,0.2) E(2.5,0.02)
B(0.7,0.2) F(0.7,0.05)
C(0.5,0.6) G(0.9,0.12)
D(0.5,2.0) H(2.5,0.09)」(特許請求の範囲第2項)
が記載され、また
「本発明は高クリープ強度フェライト系耐熱鋼に関するものであり、さらに詳しくは高温におけるクリープ特性を改良した溶接性、靭性のすぐれたフェライト系Cr含有耐熱鋼に係わるものである。」(第1頁第2欄12〜15行)
「Moは固溶体強化により、高温強度を顕著に高める元素であるので通常耐熱鋼には添加されるが、多量に添加された場合溶接性、耐酸化性を損なうので上限を2.3%とし、一方Wとの共存においてもクリープ破断強度の向上に効果のあるのは0.5%以上からであるので下限を0.5%と定めた。
WもMoと同様に固溶体強化および炭化物中に固溶して粗大化を抑制することにより高温強度を顕著に高める元素であり、とくに600℃を超えて長時間側の強化に有効である。しかし多量に添加すると溶接性、耐酸化性を損うので上限を2.0%とし、一方Moとの共存において効果を発揮するのは0.2%以上からであるので下限を0.2%と定めた。」(第3頁第5欄36行〜第6欄16行)
「Bは本来焼入性を著しく高める元素としてよく知られているが、・・・0.008%を超すと熱間加工性、溶接性を損うので上限を0.008%・・・とした。
Nはマトリックスに固溶あるいは窒化物、炭窒化物として析出し、クリープ破断強度を高める元素であるが、・・・0.05%を超すと鋳造時にブローホールを発生し健全な鋼塊ができにくい等の問題を生ずるので上限を0.05%・・・とした。」(第3頁第6欄35行〜第4頁第7欄2行)
「直線BCはクリープ破断強度の観点からの下限界線であって(Mo+1/2W)%=0.8%の線である。Wはその効果がMoの約半分であるのでMo+1/2Wで整理できる。」(第4頁第7欄20〜23行)
「本発明においてはさらに靭性向上の目的でNiとCoの1種又は2種を合計0.1〜1.0%含有させることができる。すなわちNiとCoはそれぞれオーステナイト生成元素であって多量に発生すると靭性の点で好ましくないδ-フェライト量を抑制するために1種又は2種添加される。また、Ni,Coの添加によって前記組織的変化が期待される以外にも元素自体の添加効果として靭性改善が期待される。」(第4頁第8欄11〜19行)
と記載されている。
刊行物5(特開平2-197550号公報、甲第5号証と同じ)には、
「(1)重量%で、C O.05〜0.25%、Cr 9〜13%、Mo 0.1〜2.0%、V 0.1〜0.5%、W O.5〜2.5%、N O.03〜0.10%を含有し、さらにNi 0
.5〜1.5%、Co 0.5〜1.5%の1種又は2種を含有し、残部がFeと不可避不純物からなる高純度耐熱鋼。
(2)請求項(1)の組成に、さらに重量%でNb 0.02〜0.10%、Ta 0.02〜0.10%の1種又は2種を含有してなる高純度耐熱鋼。
(3)不可避不純物のうち、重量%でSi 0.05%以下、Mn 0.05%以下、P O.005%以下、S O.005%以下を許容含有量とする請求項(1)又は(2)記載の高純度耐熱鋼。」(特許請求の範囲第1項〜第3項)が記載され、また、
「Moは合金中に固溶し、低温及び高温における強度を向上させるとともに、焼戻し脆化を抑制するのに必要な元素である。その含有量が0.1%未満ではその作用効果が少なく、一方2%を超えて含有させるとデルタフェライト組織を生成し、低温及び高温における強度を低下させるので、その含有量を0.1〜2.0%に限定した。」(第2頁右下欄4〜10行)
「Wは合金中に固溶し、低温及び高温における強度を向上させるのに必要な元素である。その含有量が0.5%未満ではその作用効果がほとんど認められず、一方2.5%を超えて含有させると、デルタフェライト組織を生成して低温及び高温における強度を低下させるので、その含有量を0.5〜2.5%に限定した。」(第2頁右下欄下から2行〜第3頁左上欄5行)
「Ni及びCoは高温におけるオーステナイト組織を安定化させ、フェライトの生成を抑制する作用があり、この作用により低温の靱性及び高温クリープ破断強さが向上する。・・・
なお、それらの含有量が0.5%以下では前記作用が顕著にあらわれず、1.5%を超えると、クリープ破断強さが逆に低下する傾向が見られるので、Ni、Coの含有量をそれぞれ、0.5〜1.5%に限定した。」(第3頁左上欄15行〜右上欄7行)
「Pは焼戻脆化感受性を助長する元素であって、経年劣化の少ない材料を得るために極力低減することが望ましく、現状の製錬技術レベルを考慮して、その許容含有量を0.005%以下に制限した。
Sは大型鋼塊において微量の含有でもV状あるいは逆V状の偏析を発生せしめ、鋼の品質を劣化せしめるので、極力低減することが望ましく、Pと同様に現状の製錬技術レベルを考慮して、その許容含有量を0.005%以下に制限した。」(第3頁右下欄3〜12行)
と記載されている。
刊行物6(特開平4-371551号公報、甲第6号証と同じ)には、
「【請求項1】重量%で
C:0.05〜0.15%未満
Si:0.20%以下
Mn:0.05〜1.50%
Cr:8.00〜13.00%
Ni:0.01〜1.50%
Mo:0.50%超〜1.50%
W:1.00%超〜4.00%
V:0.05〜0.40%
Nb:0.02〜0.15%
Co:1.00〜5.00%
Al:0.002〜0.050%
B:0.0010〜0.0300%
N:0.01〜0.11%
を含有し、残部がFe及び不可避の不純物よりなり、すぐれた高温強度と十分な常温靭性を有する高強度フェライト系耐熱鋼。」(特許請求の範囲)
が記載され、また、
「Moは固溶体強化をもたらすと同時にM23C6を安定化させ、高温強度を向上させる。0.50%以下では効果が小さく、1.5%超ではδフェライト生成を促進すると同時にM6CとLaves相の析出及び凝集粗大化を促進させるので、0.50%超〜1.50%とした。Wは固溶体強化とM23C6の微細析出の効果を奏すると同時に、炭化物の凝集粗大化を抑制し、高温長時間側のクリープ破断強度を著しく向上させる。最低1.00%超が必要であるが、4.00%を超えるとδフェライトと粗大なLaves相が生成しやすくなり、高温強度と靱性を低下させるため、1.00%超〜4.00%とした。」(第2欄48行〜第3欄9行)
「Coの積極的な利用は本発明の大きな特徴の一つである。Coはオーステナイト生成元素であり、δフェライト生成を抑制すると同時に、析出物を安定化させ、高温強度を高める。1.00%未満では効果が小さく、また5.00%超ではコストが高く、脆化も起こりやすくなるので、1.00〜5.00%に限定する。」(第3欄24行〜第4欄2行)
と記載されている。
刊行物7(特開平5-263196号公報、甲第7号証と同じ)には、
「【請求項2】重量%で
C:0.01〜0.15%、
Si:0.01〜0.80%、
Mn:0.05〜1.50%、
Cr:8.00〜13.00%、
Mo:0.05〜1.50%、
W:0.10〜4.00%、
V:0.05〜0.50%、
Nb:0.02〜0.15%、
Al:0.002〜0.050%、
N:0.010〜0.110%、
を含有し、さらに
B:0.001〜0.030%
かつ
Ni:0.10〜3.00%、
Co:0.10〜5.00%、
の1種または2種を含有し、
P:0.030%以下、
S:0.010%以下、
O:0.015%以下
に制限し、残部がFeおよび不可避の不純物よりなり、かつ上記成分範囲のCr、Ni、Coが
Cr-4Ni-2Co≦9
の関係式を満足することを特徴とする高温強度ならびに靭性に優れたフェライト系耐熱鋼。」(特許請求の範囲の請求項2)
が記載され、また、
「Moは固溶体強化をもたらすと同時に、M23C6を安定化させ、高温強度を向上させる。0.050%未満では効果が小さく、1.50%超ではδフェライト生成を促進すると同時に、M6CとLaves相の析出及び凝集粗大化を促進させるので、0.05〜1.50%とした。Wは固溶体強化とM23C6の微細析出に寄与すると同時に、炭化物の凝集粗大化を抑制し、高温長時間側のクリープ破断強度を著しく向上させる。最低0.10%以上が必要であるが、4.00%を超えると、δフェライトと粗大なLaves相が生成しやすくなり、高温強度と靱性を低下させるため、0.10%〜4.00%とした。」(第3欄33〜44行)
「Coの積極的な利用は本発明の大きな特徴の一つである。Coはオーステナイト生成元素であり、δフェライト生成を抑制すると同時に、析出物を安定化させ、高温強度を高める。0.10%未満では効果が小さく、また5.00%超ではコストが高くなり、脆化も起こりやすくなるので、0.10〜5.00%に限定する。」(第4欄22〜28行)
と記載されている。
刊行物8(特開平6-306550号公報、甲第10号証と同じ)には、
「【請求項2】重量%で、CO.05〜0.30%、Cr8.0〜13.0%、Sil.0%以下、Mnl.0%以下、Ni2.0%以下、VO.10〜0.50%、Nb0.05〜0.25%、WO.50〜5.0%、NO.025〜0.10%、BO.0005〜0.05%、Re3.0%以下を含有し、さらに、Hf0.001〜1.0%、Ti0.001〜1.0%、Zr0.001〜1.0%、Co0.001〜3.0%、Mol.5%以下の少なくとも1種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐熱鋼。
【請求項3】請求項1または請求項2記載の耐熱鋼において、熱処理により、析出する析出物の合計量が2.5〜7.0重量%であることを特徴とする耐熱鋼。
【請求項4】請求項1または請求項2記載の耐熱鋼において、焼入れ後550℃から630℃未満、630℃以上から680℃未満、及び680℃以上から770℃未満の温度域のうちからそれぞれ選ばれた少なくとも2種以上の温度において熱処理を施すことを特徴とする熱処理方法。」(特許請求の範囲の請求項2〜請求項4)
が記載され、また、
「焼入れ後550℃以上から630℃未満、630℃以上から680℃未満、及び680℃以上から770℃未満の温度域のうちからそれぞれ選ばれた少なくとも2種以上の温度において適切な時間の熱処理を施すことにより、(Fe,Cr)2W(Laves相)の型を有する金属間 化合物及びCr23C6等のM23C6型析出物を主に結晶粒界及びマルテンサイトラス境界へ、炭窒化物Nb(C,N)を主にマルテンサイトラス内へ析出させることができる。その結果、金属間化合物及びM23C6型析出物による粒界析出強化と、Nb、C、Nからなる炭窒化物であるNb(C,N)による析出分散強化を複合的に働かせることが可能な金属組織をを得ることができる。このような金属組織はすぐれた高温クリープ破断強度を示すとともに、金属組織そのものが高温長時間にわたり安定する。さらに、本発明の熱処理方法は、上述した組成範囲の添加元素を含有する耐熱鋼に適用すると、よりすぐれた金属組織が得られる。」(第3頁第3欄4行〜19行)
「上述の熱処理を施すことにより、結晶粒界及びマルテンサイトラス境界、ならびにマルテンサイトラス内部に析出させる析出物の合計量が2.5〜7.0重量%の範囲にあると高温クリープ破断強度及びクリープ抵抗が向上し、高温長時間後の 特性低下が少なくなる。」(第3頁第4欄15〜19行)
「Wは固溶強化とともに本発明の耐熱鋼において最も重要である主としてFe、Cr、Wからなる金属間化合物の形成に寄与する。適切な熱処理を施すことにより、金属間化合物の大半を結晶粒界及びマルテンサイトラス境界上に析出させ、クリープ変形に対して有効に働かせるためには0.5%以上の添加が必要であるが、5.0%を超えると靱性及び加熱脆化特性を著しく低下させるため、その含有量を0.50〜5.0%とした。」(第4頁第5欄16〜23行)
「NbはC及びNと結合してNb(C、N)の微細炭窒化物を形成することにより、転移の移動を抑制し、クリープ抵抗の増加に寄与する。Nb(C、N)は600〜650℃程度の高応力下のクリープ破断強度の向上には極めて有効であるが、0.05%未満では析出密度が低いため上述の効果が得られない。一方、0.25%を超えると未固溶の粗大なNb(C、N)の体積率が急激に増加し、クリープ抵抗の低下を生じ、かつ凝集粗大化が加速するため、その含有量を0.05〜0.25%とした。」(第4頁第5欄36〜44行)
「Moは固溶強化元素及び炭化物の構成元素として有用であり、必要に応じて添加する。しかし、過剰な添加はδ-フェライトを生成し靱性を著しく低下させるとともに、主としてFe、Cr、Moからなる高温長時間における安定性が低い金属間化合物の析出を招くため、その含有量を1.5%以下とした。」(第4頁第6欄16〜21行)
「Coはδ-フェライトの析出を抑制するとともに靱性の確保に有用であり、必要に応じて添加する。しかし、0.001%未満では上述の効果がほとんど認められない。一方、3.0%を超える添加はクリープ抵抗を低下させるとともに経済性を損なうため、その含有量を0.001〜3.0%とした。」(第4頁第6欄37〜42行)
と記載され
表1には、本発明として、その化学組成が、C:0.11%、Si:0.07%、Mn:0.50%、Ni:1.01%、Cr:9.07%、V:0.28%、Nb:0.20%、W:2.45%、N:0.050%、B:0.020%、Re:0.501%、Mo:0.11%、Co:2.45%、残部Feであるものが示されている。
刊行物9(特開平7-34202号公報、甲第11号証と同じ)には、
「【請求項4】重量%で、C:O.05〜0.30%、Cr:8.0〜13.0%、Si:l.0%以下、Mn:l.0%以下、Ni:2.0%以下、V:O.10〜0.50%、Ta:0.03〜0.50%、Nb:0.03〜0.25%、W:O.50〜5.0%、N:O.025〜0.10%、Mo:l.5%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなるフェライト/マルテンサイト組織を有する耐熱鋼より形成されることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
・・・
【請求項6】請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5記載の前記耐熱鋼であって、耐熱鋼全体に対する重量%で、Co:0.001〜5.0%およびB:0.0005〜0.05%の少なくとも1種以上を更に含有するフェライト/マルテンサイト組織を有する耐熱鋼より形成されることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
・・・
【請求項8】請求項7記載の蒸気タービン用ロータにおいて、焼入れ後少なくとも620〜760℃の温度において熱処理を施すことを特徴とする耐熱鋼より形成されることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項9】請求項8記載の蒸気タービン用ロータにおいて、前記熱処理により析出する析出物の合計量が2.5から7.0重量%である耐熱鋼より形成されることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項10】請求項9記載の蒸気タービン用ロータにおいて、前記焼入れ熱処理後のオーステナイト結晶粒径が50〜100μmである耐熱鋼より形成されることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項11】請求項10記載の前記耐熱鋼であって、前記耐熱鋼を形成する鋼塊がエレクトロスラグ再溶解法を用いて得られることを特徴とする蒸気タービン用ロー夕。」(特許請求の範囲の請求項9〜請求項11)
が記載され、また、
「本発明の蒸気タービン用ロー夕は、上述の熱処理により結晶粒界及びマルテンサイトラス境界、マルテンサイトラス内部へ析出させる析出物の合計量が2.5から7.0重量%である耐熱鋼より形成されることを特徴とする。また、焼入れ温度による熱処理後のオーステナイト結晶粒径が50〜100μmであることを特徴とする。」(第3頁第4欄9〜15行)
「Wは固溶強化とともに本発明に係わる耐熱鋼において最も重要である主としてFe、Cr、Wからなる金属間化合物の形成に寄与する。適切な熱処理を施すことにより、金属間化合物の大半を結晶粒界及びマルテンサイトラス境界上に析出させるためには0.5%以上の添加が必要であるが、5.0%を超えると靱性及び加熱脆化特性を著しく低下させるため、その含有量を0.50〜5.0%とした。」(第4頁第5欄7〜14行)
「Moは固溶強化元素及び炭化物の構成元素として有用であり、必要に応じて添加する。しかし、過剰な添加はδ-フェライトを生成し靱性を著しく低下させるとともに、主としてFe、Cr、Moからなる高温長時間における安定性が低い金属間化合物の析出を招くため、その含有量を1.5%以下とした。」(第4頁第6欄7〜12行)
「Coは固溶強化に寄与するとともにδ-フェライトの析出抑制に有用であり、必要に応じて添加する。0.001%未満では上述の効果がほとんど認められない。一方、5.0%を超える添加はクリープ抵抗を低下させるとともに経済性を損なうため、その含有量を0.001〜5.0%とした。」(第4頁第6欄13〜18行)
「本発明に係わる耐熱鋼の特徴は、Fe、Cr、Wからなる金属間化合物及び主にCr、Cからなる析出物を主に結晶粒界及びマルテンサイトラス境界に析出させ、主にTa、C、N及び主にNb、C、Nからなる析出物をマルテンサイトラス内へ析出させることができる焼戻し熱処理温度範囲である620〜760℃の熱処理方法を採用していることである。・・・620〜760℃での焼戻し熱処理を施す前に必要に応じて別の焼戻し熱処理を追加することもできる。」(第4頁第6欄45行〜第5頁第7欄12行)
と記載され、
表1には、本発明として、その化学組成が、C:0.11%、Si:0.05%、Mn:0.50%、Ni:0.72%、Cr:9.03%、Mo:0.10%、V:0.20%、Nb:0.10%、W:1.55%、N:0.045%、B:0.020%、Re:1.205%、Ta:0.15%、Co:2.88%、残部Feであるものが示されている。
刊行物10(「火力原子力発電」No.455、Vol.45、平成6年8月15日、第900〜909頁、甲第8号証と同じ)には、
「図4は、δ-フェライト量とCr等量の関係である。焼ならし温度1050℃の場合、δ-フェライト量を5%以下に抑制するためには、Cr等量を9mass%以下とすべきである。」(第901頁右欄下から2行〜第902頁左欄2行)
と記載されている。
刊行物11(「鉄と鋼」1985年、Vol.71、NO.1、第78〜79頁、甲第9号証と同じ)には、
「Nb入り12Cr鋼においては、NbおよびC量が高い場合には引け巣のまわりに共晶NbCが発生する。」(第79頁左欄10〜12行)
と記載されている。
甲第12号証(特公昭57-25629号公報)には、
「4.C:0.05〜0.50%、N:0.02〜0.30%(ただしC+N=0.10〜0.70%)、Si:0.2〜3.0%、Mn:2.0%以下、Cr:7〜15%、Co:0.5〜5.0%を基本成分とし、さらにNi:0.2〜5.0%、Cu:0.3〜3.0%、B:0.001〜0.10%のうちから選んだ1種または2種以上とMo:0.15〜5.0%、W:0.15〜3.0%、Nb:0.05〜2.0%、V:0.05〜1.0%、Ti:0.05〜0.5%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残余が実質的に鉄からなる内燃機関燃焼室材料。」(特許請求の範囲第4項)
が記載され、また、
「(5)Co:0.5〜5.0%
CoはCrと共存させることにより必要な高温強度を保有した状態において、0.5%以上含有させると耐熱疲労性ないし耐熱きれつ性が改善される。しかしCo量を5.0%以上に増量するも、添加の割に上記効果が増大しなくなる。」(第2頁第4欄30〜35行)
「(7)Mo:0.15〜5.0%、W:0.15〜3.0%、Nb:0.05〜2.0%、V:0.05〜1.0%、Ti:0.05〜0.5%
Cr:7〜15%、Co:0.5〜5.0%よりなる耐熱鋼に対し、これらの元素を選択含有させると該鋼中のCおよびNと結合して炭窒化物を形成して高温強度の向上に寄与するが、多量に含有させることは靱延性および耐熱疲労性が低下する。基礎実験結果によれば上記範囲が適量であることを確認した。」(第3頁第5欄1行〜第6欄1行)
と記載されている。
甲第13号証(特開昭60-165360号公報)には、
「(2)重量パーセントで、C:0.10〜0.25%、Si:0.01〜0.10%、Mn:0.05〜1.50%、Cr:10.0〜11.50%、Mo:0.80〜2.20%、V:0.10〜0.30%、Nb:0.02〜0.15%、N:0.01〜0.05%、Ni:0.01〜1.5%を含有し、且つコバルト5%以下、タンタル0.05%以下、チタン0.05%以下、ボロン0.01%以下、ジルコニウム0.1%以下、セリウムとランタンの合計0.1%以下の中の1種または2種以上の元素を含有し、残部鉄および不可避的不純物よりなる鉄基合金で構成されていることを特徴とする高強度・高靱性蒸気タービンロータ。」(特許請求の範囲第2項)
が記載され、また、
「Moは最も重要な元素で長時間クリープ破断強度を著しく高めるものであり、含有量が0.8%未満では析出する炭化物(Fe、Cr、Mo)23C6〔一般にM23C6と書く。〕が550〜650℃の温度で安定でないので長時間クリープ破断強度が低くなり、また、2.2%を越えて含有されると1100℃の焼入温度でも炭化物の固溶が充分でなく、かつ、デルタフェライトも析出し始めるためクリープ破断強度、高温の疲労強度も低下する。よって、Mo含有量は0.8〜2.2%とする。」(第2頁右下欄9〜19行)
「Coは鋼中のデルタフェライトを消し、炭化物のマトリックス(地鉄)への固溶量を増大させる元素であり、含有量が5.0%を越える含有量では550〜600℃の長時間クリープ破断強度が低下する。よって、Co含有量は5.0%以下とする。」(第3頁右上欄17行〜左下欄2行)
と記載されている。
4.対比・判断
本件請求項1に係る発明と刊行物1又は2に記載された発明とを対比すると、刊行物1又は2に記載された発明は、本件請求項1に係る発明と同様の焼入れ、焼戻し処理を施しており(刊行物2には、「900〜1150℃で加熱し、中心孔で50〜600℃/h冷却による焼入れし、次いで500〜620℃で一次焼戻し及びそれより高い温度の600〜750℃2次焼戻し」を施すことが示されている。)、その組織が焼戻しマルテンサイト基地からなることは明らかであるから、両者は、「炭素、けい素、マンガン、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、窒素、ボロン、コバルトを含有し、残部が実質的に鉄であり、組織が焼戻しマルテンサイト基地からなる耐熱鋼より形成される高強度・高靭性耐熱鋼。」である点で一致し、モリブデン及びタングステンを除いて上記各化学成分の含有量が重複し、Cr当量、(B+0.5N)で表されるB当量、(Nb+0.4C)で表されるNb当量、(Mo+0.5W)で表されるMo当量においても重複する範囲を有する(なお、B当量という記載自体は、刊行物1及び2にはないが、刊行物4には、「Bは本来焼入性を著しく高める元素としてよく知られているが、・・・0.008%を超すと熱間加工性、溶接性を損うので上限を0.008%・・・とした。Nはマトリックスに固溶あるいは窒化物、炭窒化物として析出し、クリープ破断強度を高める元素であるが、・・・0.05%を超すと鋳造時にブローホールを発生し健全な鋼塊ができにくい等の問題を生ずるので上限を0.05%・・・とした。」と記載されているように、BはNと化合してBNを生成するものであり、Bが多すぎると熱間加工性を損なうものであるから、鍛造段階での機械的性質を低下させないために、(B+0.5N)で表されるB当量を0.030%以下に規制することは当業者が適宜なし得るものである。また、Nb当量という記載自体も、刊行物1及び2にはないが、刊行物11に示されているようにNb及びCの量が多い場合に共晶NbCが発生することは周知であり、刊行物3には、「0.10%を超えてニオブを添加すると1020℃〜1150℃の焼入れ温度でNbCが十分固溶できず、又析出したNbCが使用中に凝集し粗大化して長時間のクリープ破断強度が低下する。」と記載されているから、粗大NbCを析出させないために、(Nb+0.4C)で表されるNb当量を0.12%以下に規制することも当業者が適宜なし得るものである。)が、両者は、以下の点で相違する。
(1)本件請求項1に係る発明が、「0.6〜1.9%のモリブデン、1.0〜1.95%のタングステン」を含有するのに対し、刊行物1又は2に記載された発明は、「Mo0.05〜0.50%(0.50%を含まず)、W2.0〜3.5%」を含有する点、
(2)本件請求項1に係る発明が、「不純物元素のうち、硫黄0.01%以下、リン0.03%以下に抑えて」いるのに対し、刊行物1又は2に記載された発明には、硫黄、リンの含有量が示されていない点、
(3)本件請求項1に係る発明が、「M23C6型炭化物および金属間化合物を主として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させ、かつMX型炭窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させ、これら析出する析出物の合計量が1.8〜4.5重量%である」と規定しているのに対し、刊行物1又は2に記載された発明には、これらの規定がない点で相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(2)について
耐熱鋼において、不純物成分としての硫黄及びリンの含有量を本件請求項1に係る発明と同程度に低く抑えることは、刊行物5及び7に記載されているように周知であるから、刊行物1又は2に記載された耐熱鋼の硫黄及びリンの含有量を刊行物5及び7に記載されているように低く抑えることは当業者が適宜なし得るものである。
相違点(3)について
耐熱鋼の熱処理における炭化物、金属間化合物及び炭窒化物の析出については、刊行物8及び9に記載されているように周知であり、刊行物1又は2に記載された耐熱鋼においても、同様の熱処理により、炭化物、金属間化合物及び炭窒化物が析出しているものと認められるから、この点で、両者が、実質的に相違するとはいえない。
相違点(1)について
本件明細書には、「Moは0.5%程度以上添加すると、鋼の焼戻し脆性を阻止するため、非常に有効な元素である。しかし、Moの過剰添加はδ-フェライトを生成し、靱性を著しく低下させるとともに、金属間化合物であるラーベス相(Fe2M)の新たな析出を招くが、本発明鋼の場合、Coを同時に添加しているため、上記δ-フェライトの生成は抑制される。したがって、Mo添加量の上限は1.9%まで高められるので、Mo量は0.6〜1.9%とした。」(第9欄24〜32行)、「Wの添加量はMoの添加量の他に、後述のCoの添加量に影響され、2.0〜8.0%のCoの添加量の範囲では、Wを2%より多く添加すると、大型鍛造品として、凝固偏析等の好ましくない現象もでてくる。これらを考慮して、W量は1.0〜1.95%とした。」(第9欄40〜45行)と記載されており、Mo及びWの添加による作用効果の相違を前提に、Coの添加量との関係で、Moの添加量を0.6〜1.9%、Wの添加量を1.0〜1.95%としたものである。
これに対して、刊行物1及び2には、「MoはM23C6型炭化物の微細析出を促進し、凝集を妨げる作用があり、このため高温強度を長時間保持するのに有効で、最低0.05%必要であるが、0.50%以上になるとδフェライトを生成し易くするので0.05〜0.50%(0.50%を含まず)に限定する。」、「本発明においてはCoの添加により高温強度が著しく改善される。これはおそらく、Wとの相互作用によるものと考えられ、Wを2%以上含む本発明合金において特徴的な現象である。」と記載されているから、Coの添加量は、本件請求項1に係る発明と重複するものの、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、Coを2.0〜8.0%添加してδ-フェライトの生成を抑制しながら、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることは全く示唆されていない。
刊行物3及び4には、Mo及びWを本件請求項1に係る発明と同程度添加することが示されているものの、Coは添加しないか、添加しても0.1〜1.0%であり、また、「本発明は、同一のモリブデン当量においても、タングステンの含有量を、モリブデンの含有量より、多くすることによって、高温のクリープ破断特性、特に593℃以上でのクリープ破断強度を上昇させたのが特徴である。・・・これは、タングステンがモリブデンとほぼ同一の挙動は示すが、モリブデンより溶融点が高いことからわかるように、高温でより安定であることを利用したのである。」、「Moは固溶体強化により、高温強度を顕著に高める元素であるので通常耐熱鋼には添加されるが、・・・Wとの共存においてもクリープ破断強度の向上に効果のあるのは0.5%以上からであるので下限を0.5%と定めた。」、「WもMoと同様に固溶体強化および炭化物中に固溶して粗大化を抑制することにより高温強度を顕著に高める元素であり、とくに600℃を超えて長時間側の強化に有効である。しかし多量に添加すると溶接性、耐酸化性を損うので上限を2.0%とし」と記載されているように、高温でのクリープ破断強度を向上させるために、MoとWを複合添加し、Wの上限は溶接性、耐酸化性の観点から規制するものであるから、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、Coを2.0〜8.0%添加してδ-フェライトの生成を抑制しながら、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることが示唆されているとはいえない。
刊行物5には、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、本件請求項1に係る発明と同程度のMoを添加することが示されており、また、低温及び高温における強度を向上させるために、本件請求項1に係る発明と同程度のWを添加することが示されているが、Coの添加量は0.5〜1.5%であるから、Coを2.0〜8.0%添加してδ-フェライトの生成を抑制しながら、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることが示唆されているとはいえない。
刊行物6及び7に記載された発明は、Mo及びWを本件請求項1に係る発明と同程度添加するものであり、Coも本件請求項1に係る発明と同程度添加してδフェライトの生成を抑制するものであるが、組織を焼戻しマルテンサイト基地とするものではなく、Moは単に高温強度を向上させるために添加するものであり、また、Wは高温長時間側のクリープ破断強度を向上させるために添加し、その上限は、δフェライトと粗大なLaves相の生成を防止するために4.00%に規制するものであるから、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることを示唆するものではない。
刊行物8及び9には、Moを固溶強化元素及び炭化物の構成元素として、必要に応じて1.5%以下添加すること、Wを固溶強化とともに主としてFe、Cr、Wからなる金属間化合物の形成に寄与させるために0.50〜5.0%添加すること、Coをδ-フェライトの析出を抑制するとともに靱性の確保のために、必要に応じて、0.001〜3.0%又は0.001〜5.0%添加することが記載されているが、実施例として示されているCoを2.0%以上添加しているものは、Moの添加量が0.11%、0.10%であり、Wの添加量の上限も靱性及び加熱脆化特性を低下させないために5.0%と規定されているだけであるから、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることが示唆されているとはいえない。
刊行物10及び11には、Mo、W及びCoを添加することについては記載されていない。
甲第12号証及び甲第13号証には、Coを本件請求項1に係る発明と同程度添加することによりδ-フェライトの生成を抑制することが示唆されているが、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることは示唆されていない。
以上のとおり、刊行物3〜11、甲第12号証及び甲第13号証には、鋼の焼戻し脆性を阻止するために、Coを2.0〜8.0%添加してδ-フェライトの生成を抑制しながら、Moの添加量を0.6%以上とすること、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくすることは記載乃至示唆されていないから、刊行物1及び2に記載された発明において、Moの添加量を「0.6〜1.9%」、Wの添加量を「1.0〜1.95%」とすることを、刊行物3〜11、甲第12号証及び甲第13号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえない。
なお、特許異議申立人は、刊行物3及び4(甲第1号証及び甲第2号証)に記載された発明を主引例としているので、この点について検討する。
本件請求項1に係る発明と刊行物3及び4に記載された発明と対比すると、本件請求項1に係る発明が、「2.0から8.0%のコバルト」を含有しているのに対して、刊行物3及び4に記載された発明は、コバルト(Co)を含有しないか、「Ni,Coの1種又は2種合計で0.1〜1.0%」を含有する点で主として相違する。
上記相違点について検討すると、刊行物1及び2には、「・・・特開昭61-69948号(刊行物4の公開公報)に開示される10種類の合金はいずれもCoを含まないか、Coを含んでも1%以下である。従来Coはシャルピー衝撃値を低下させるため、特に延性が低下しがちなW含有鋼においては、Coの多量添加は不適当と考えられていたからである。ところが、本発明者等の研究によれば実施例で述べるように、Coを2.1%以上添加してもこのような悪い傾向は認められず、むしろCoを2.1%以上、望ましくは2.7%以上を添加すると高温強度の向上には著しい効果があることがわかった。そこで、本発明においてはCoを2.1%以上含有させることによって、高温強度の一段の向上を達成することができるのである。」と記載されているが、さらに、「Coは本発明を従来の発明から区別して特徴づける重要な元素である。本発明においてはCoの添加により高温強度が著しく改善される。これはおそらく、Wとの相互作用によるものと考えられ、Wを2%以上含む本発明合金において特徴的な現象である。」と記載されているから、Wの添加量が2%より少ない場合に、Coの添加量を「2.0から8.0%」とすることが示唆されているとはいえない。
また、刊行物5〜11、甲第12号証及び甲第13号証にも、Coを2.0〜8.0%添加して大型鍛造品とした場合の凝固偏析等の好ましくない現象を防止するために、Wの添加量を2%より少なくするこは記載乃至示唆されていないから、刊行物3及び4に記載された発明において、Coを「2.0から8.0%」添加すると共に、Wの添加量を2%より少なくすることを、刊行物1、2、5〜11、甲第12号証及び甲第13号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1〜11、甲第12号証及び甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件請求項2及び3に係る発明は、請求項1を引用する発明であり、本件請求項4に係る発明は、請求項3を引用する発明であるから、本件請求項1に係る発明と同様の理由により、刊行物1〜11、甲第12号証及び甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-10-17 
出願番号 特願平8-530876
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長者 義久  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 板谷 一弘
綿谷 晶廣
登録日 1999-07-02 
登録番号 特許第2948324号(P2948324)
権利者 三菱重工業株式会社
発明の名称 高強度・高靭性耐熱鋼  
代理人 奥山 尚一  
代理人 武田 正男  
代理人 秋山 暢利  
代理人 横井 幸喜  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚男  
代理人 松島 鉄男  

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