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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1050124
異議申立番号 異議2001-70366  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-30 
確定日 2001-10-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3072355号「魚肉ねり製品およびすり身の製造法」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3072355号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3072355号は、平成4年4月21日に特願平4-129533号として出願され、平成12年6月2日に登録され、その後、日本水産株式会社より特許異議の申立てがなされ、この申立てを受けて取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年7月24日に意見書が提出されたものであり、その請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】チオールプロテアーゼを含有する魚肉にキニノーゲンを添加することを特徴とする魚肉ねり製品およびすり身の製造法。
【請求項2】キニノーゲンがエタノール分画法により牛または豚の血漿から得られたものである請求項1記載の製造法。」

2.申立ての理由の概要
申立人 日本水産株式会社は、証拠として甲第1号証(特公昭61-42552号公報)、甲第2号証(特開平2-113873号)、甲第3号証(「FEBS LETTERS」Vol 182, No. 1, 1985, March)、甲第4号証(生化学辞典 第2版)、甲第5号証(Research monographs in cell and tissue physiology, Vol.12, ELSEVIER出版社, p529-531)、甲第6号証(Ann. Rev. Biochem, 52 , p655-709(1983))及び甲第7号証(食の科学、No.59、1981、p9-10)を提出し、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、その特許は取り消されるべきであると主張している。

3.引用刊行物記載の発明
先の取消理由通知において引用した刊行物1(特公昭61-42552号公報)には、「ジェリーミートを有する魚から、その魚肉を採取し、水晒し、脱水し、この脱水肉にチオール系蛋白分解酵素阻害物質を添加混練し、成型し、包装し、要すれば更に冷凍することを特徴とする魚肉すり身の製造方法」(特許請求の範囲の請求項1)との記載、
同刊行物2(特開平2-113873号)には、「胞子中が寄生してジェリーミートを有する魚肉を原料として加工するに当り、その魚肉に血漿タンパク、血清タンパクと血清グロブリンの中いずれか一種又は数種を添加することを特徴とする、胞子虫寄生魚肉の加工方法」(特許請求の範囲)との記載、
同刊行物3(「FEBS LETTERS」Vol 182, No. 1, 1985, March)には、「キニノーゲンのチオールプロテアーゼインヒビターとしての新機能:牛、ラットおよび人プラズマ由来キニノーゲンによるパパインおよびカテプシンB,H,Lの阻害」という表題下、「パパインおよびラット肝臓カテプシンB,HおよびLのamidolytic活性は、牛、ヒトおよびラットのプラズマ由来の高分子量(HMM)および低分子量(LMM)キニノーゲンによって強く阻害され、そして、それらのKi値はパパインでは10-10-10-11M、カテプシンでは10-8-10-9Mのオーダーであると見積もられた。牛キニノーゲンの誘導体、HMMキニン-不含タンパク質、HMMキニン-および断片1・2-不含タンパク質、およびLMMキニン-不含タンパク質もまた、これらのチオールプロテアーゼに強い阻害活性を示した。これらの結果から、チオールプロテアーゼに作用する反応部位はキニノーゲンの重鎖部分に含まれていることが示唆される。」(要約部分)との記載、
同刊行物4(生化学辞典 第2版)には、「・・血漿中には分子量8万の高分子量キニノーゲンおよび分子量5万の低分子量キニノーゲンが存在する。・・また両キニノーゲンにはシステインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)インヒビター活性がある・・」(第327頁左欄)との記載、及び
同刊行物5(Research monographs in cell and tissue physiology 、Vol.12, ELSEVIER出版社、p529-531)には、「2.4.キニノーゲン、α-システインプロテイナーゼインヒビター」と題する項で、「Jarvinen(1976)によってラットの皮膚から分子量の大きい(70,000)システインプロテイナーゼインヒビターが見いだされ、ヒトの血清から類似の蛋白が部分的に精製され、α2電気泳動動作を示すことが見いだされて、それは『α2-チオールプロテイナーゼインヒビター(α2-TPI)』と名づけられた(Sasaki et al.,1977)。・・・Gounarisら(1984)およびPaganoとEngler(1984)はα-システインプロテイナーゼインヒビターによるヒトのカテプシンB,HおよびLの阻害についてのKi値を報告している。Ohkuboら(1984)はインヒビターをコードするcDNAの配列を決定し、牛のL-キニノーゲンと非常に類似していることを見い出した(Nawaら1983)。免疫沈殿法によりヒトのα-システインプロテイナーゼインヒビターとヒトのL-キニノーゲンが同一であることを示した(Ohkuboら1984;Muller-Esterlら1985)。」(第529頁7〜24行)との記載があり、さらに、
同刊行物6(Ann. Rev. Biochem, 52 , p655-709(1983))には、「α-システインプロテイナーゼインヒビター」の項目で、システインプロテイナーゼを著しく特異的に阻害する血漿蛋白質として1976年に発表されたαCPIについての研究結果、及びα-システインプロテイナーゼインヒビターは血漿中で高い濃度(0.5mg/ml)を有すること、及び
同刊行物7(食の科学、No.59、1981、p9-10)には、「血液の食飼料化について」という表題下で、血漿中に含まれるタンパク質量は、7.9%=79mg/mlであること(第10頁の表3の「血漿」の欄)が、それぞれ記載されている。

4.対比・判断
(本件発明1について)
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者はチオールプロテアーゼを含有する魚肉にチオールプロテアーゼインヒビターを添加することを特徴とする魚肉ねり製品およびすり身の製造法である点で一致しており、前者においては、チオールプロテアーゼインヒビターをキニノーゲンに限定しているのに対して、後者においては、「きわめて特異的にチオールプロテアーゼだけを阻害するものから、チオールプロテアーゼは勿論阻害するがその他の1乃至数種のプロテアーゼをも阻害する多価の蛋白分解阻害物質を含むものである。本発明では対象が食品原料又は食品であるから食品衛生上無害なチオール系蛋白分解酵素阻害物質はすべて利用できる、・・・」(第2頁第3欄36〜44行)と記載されていることから明らかなように、チオールプロテアーゼインヒビターは特定物質に限定されておらず、また、キニノーゲンについて明示的に言及する記載がない点で相違している。
上記相違点について検討する。
魚肉練り製品にあっては、本件特許明細書の段落【0002】欄に記載されているように、従来から、魚肉ねり製品としてのかまぼこの品質評価はゼリー強度、食感、白度についてなされているところ、従来の製造法ではゼリー強度を満足させる良質の魚肉製品が得られておらず、又、血漿を多量に使用するとかまぼこが着色して白度が低下するため、血漿粉末の添加量が限定され、期待する効果が得られないことがあるという問題が生じており、本件発明はこれらの問題を解決するためになされたものであると認められる。
ところで、個々のキニノーゲンについては、本件特許明細書の「後記試験例に示すように、キニノーゲンのパパイン(チオールプロテアーゼ)によるカゼイン分解阻害効果は他のTPIに比べて著しく強くはないが、魚肉に対しては特異的に著しい効果を示した。すなわち、キニノーゲンを添加した場合のみに、ゼリー強度が強く、色調が白く、かつ弾力のあるかまぼこが得られた。」(明細書第4欄5〜11行)との記載、及び、各種チオールプロテアーゼインヒビター(TPI)のかまぼこに対する効果(表2を参照)からわかるように、例え、チオールプロテアーゼインヒビターであっても、良好な魚肉練り製品を製造するという観点からは、個々のインヒビター毎に異なることが明らかである。
本件発明は、このような状況において、各種のチオールプロテアーゼインヒビターの中からキニノーゲンという特定の物質を選択したものであり、上記引用例に記載の事項から明らかのように、そのことにより従来の問題点を解決するものであるから、チオールプロテアーゼインヒビターの中から特定物質を選択することの必要性については何も指摘していない刊行物1の記載からは、キニノーゲンに限定することは当業者が容易になし得たことであるということはできない。
次に、引用例2には、「ジェリーミート化する魚類原料に対して、少量添加で、胞子虫酵素を阻害でき、良好な加工品を製造できる物質」(第2頁右上欄8〜11行)として、血漿タンパク、血清タンパクと血清グロブリンの中のいずれか1種又は数種を添加すること、及び実施例1及び2では牛血漿タンパク粉末を添加すること、及び実施例3では牛血清タンパクを添加することが記載されている。
しかしながら、同引用例では、「少量添加で、・・・良好な加工品を製造できる物質を見出すために」(第2頁右上欄9〜11行)、特に研究を行ったにも拘わらず、単に一般的に血漿タンパク、血清タンパクと血清グロブリンを記載するに留まり、本件発明の如く、キニノーゲンという特定物質を添加し得ることを見出していない。
そして、本件発明1は、血漿蛋白中に含まれる種々の蛋白質の中からキニノーゲンを選択したことにより、本件明細書の段落【0003】(本件特許公報第2頁第4欄17〜23行)に記載されている如く、他のチオールプロテアーゼインヒビターより著しく少量で使用可能であり、かつ本件明細書の上述の問題(段落【0002】を参照)を解決し得たものであるから、かかる特定物質であるキニノーゲンについて示唆していない引用例2記載の発明からは、当業者が本件発明1を容易になし得たものはいうことはできない。
また、引用例3には、キニノーゲンがチオールプロテアーゼとして作用することが、引用例4には、キニノーゲンにはシステインプロテアーゼインヒビター活性があることが、それぞれ記載され、引用例5ないし引用例7には、1984年当時においては、α-システインプロテアーゼインヒビターがキニノーゲンと同じ蛋白質であることが認識されていたことが示されているが、これらの各引用例には、キニノーゲンと魚肉すり身の加工法との関係については何も記載されていない。
ところで、異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明の課題について、「本件発明の明細書では先行技術水準の認識を誤っており、キニノーゲンに着目することは甲第1号証記載の発明そのものあるいは極めて容易に想到する課題である。」(第10頁2〜5行)と主張している。しかしながら、引用例5ないし引用例7から血漿中のキニノーゲンがチオールプロテアーゼインヒビターであることが認識できたにもかかわらず、引用例2記載の発明においては、キニノーゲンを開示することなく、単に血漿タンパク、血清タンパク、血清グロブリンとして記載している事実は、キニノーゲンという特定物質に着目することが引用例1記載の発明そのものであるとか、又極めて容易に想到することであるとは言い難いことを示唆していると考えられ、魚肉ねり製品等の製造により一層適した特定物質を選択するという課題は依然として要請されていたものと認められる。
一方、本件特許発明1により得られる効果について検討すると、本件発明1は表2より明らかなように、かまぼこに添加した際のゼリー強度低下防止効果は特異的に高いことを示している。
そして、この点についても、異議申立人は、申立書の第12頁17行〜第13頁12行において、キニノーゲンのインヒビター効果は血漿タンパク質のキニノーゲン存在量を勘案すれば、予期しうる程度の効果であると主張している。
しかしながら、本件特許公報の表1及び2に示されているように、例え、チオールプロテアーゼインヒビターであっても、例えば、「チオ-ルプロテアーゼ」であるパパインに対する阻害効果は化合物毎に異なっており、また、かまぼこにおける阻害効果も化合物毎に異なっている中で、本件発明1は、特に、キニノーゲンがゼリー強度、食感、白度等の観点から優れており、とりわけゼリー強度の良好な魚肉ねり製品を製造するために適していることを見出したものであるから、キニノーゲンが好適に使用できることが開示された後にその量的な側面を議論してみても、それは結果に基づく主張と思われ、かかる本件発明が奏する効果を予測を超えない効果であるとする異議申立人の主張は採用し難い。
以上述べたとおりであり、本件発明1は当業者が予想し得ない効果を奏し得たものと認められる。
したがって、本件発明1は、引用例1ないし7に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお、異議申立人は、申立書第11頁17行以下において、キニノーゲンは「必ずしも純品である必要はなく、すなわち、血漿から分画されたキニノーゲン区分であればよい。キニノーゲンを血漿粉末・・・などに配合して添加することもできる。」のであり、請求項1の「キニノーゲン」は「キニノーゲンを含有する血漿粉末」を包含する定義となっているから、チオールプロテアーゼインヒビターとして作用する血液起源の物質である引用例2に記載のものと区別できないとも主張している。
しかしながら、異議申立人主張の本件特許明細書の上記記載は、単に、微量の「キニノーゲン」を均一に分散させるため、卵白粉末、ホエイ蛋白、でんぷん、糖類等と同様に、血漿粉末を分散基材として使用し得ることを述べたにすぎないものであって、本件発明1の「キニノーゲンの配合された血漿粉末」とは、あくまで、通常の血漿粉末に特定物質としてのキニノーゲンが添加されたものであって、通常の「血漿粉末」に比べて、キニノーゲンが何十倍も多く含有されているキニノーゲン組成物となっている点で、キニノーゲン自体の濃度が他の血中成分と比較して通常の割合の範囲にある血漿粉末や引用例2に記載の「血漿タンパク、血清タンパクと血清グロブリン」とは区別し得るものであり、本件発明1と引用例2記載の発明は別発明であると認められる。
(本件発明2について)
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様な理由により、引用例1乃至7記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-09-27 
出願番号 特願平4-129533
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 一朗  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 大高 とし子
田村 明照
登録日 2000-06-02 
登録番号 特許第3072355号(P3072355)
権利者 太陽化学株式会社
発明の名称 魚肉ねり製品およびすり身の製造法  
代理人 須藤 阿佐子  

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