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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G01P
審判 一部申し立て 2項進歩性  G01P
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G01P
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G01P
管理番号 1050129
異議申立番号 異議2001-71850  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-03 
確定日 2001-12-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第3123318号「加速度センサの製造方法」の請求項1、4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3123318号の請求項1、4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3123318号(平成5年10月27日出願、平成12年10月27日設定登録)の請求項1及び4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された次の事項により特定されるものである。
請求項1
加速度に応動するセンサと、このセンサの出力を調整してシステム側に出力する調整回路とからなる加速度センサの製造方法において、所定の加速度を加えて調整回路からの出力を検出する工程と、負荷手段によって上記調整回路に上記出力と略同一の出力を発生させる工程と、この工程に付加して上記負荷手段によって上記調整回路に発生させた上記出力を上記調整回路を調整して所定の出力とする工程とからなる加速度センサの製造方法。
請求項4
負荷手段を調整回路の入力側に直接入力する電気回路手段とした請求項1記載の加速度センサの製造方法。

2.申立ての理由の概要
申立人株式会社村田製作所の申し立てた理由の概要は、次のとおりである。
理由1
請求項1及び4に係る特許発明は、甲第1号証(特開平5-232134号公報)に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1及び請求項4に係る特許を取り消すべきである。
理由2
請求項4は、負荷手段としての電気信号を入力する電気的手段の具体的な構成がなく、電気的負荷手段の具体的構成が、当業者が実施することができる程度に記載されていないので、特許法第36条第4項の規定を満たしていないものであるから、請求項4に係る特許を取り消すべきである。

3.理由1、特許法第29条第1項3号違反
3-1.甲第1号証(特開平5-232134号公報)の記載事項
「本実施例にかかる加速度センサ1は、図1で示すように、作用する加速度の大きさに応じた変形動作を行う圧電体からなる加速度検出素子11と、これからの出力信号を処理する信号処理手段12とを備えるとともに、この信号処理手段12の出力信号入力側に設けられた出力ゲイン調整用入力回路2を具備している。
そして、この出力ゲイン調整用入力回路2はコンデンサ3を介して加速度検出素子11及び信号処理手段12と接続されており、この出力ゲイン調整用入力回路2に対しては信号処理手段12をその実際の使用時と同様に動作させる一定値の交流信号Aが外部から加えられるようになっている。」(段落【0009】)
「図5で示すように、被調整用の加速度センサ1及び基準用の加速度センサ20を同一の加振機21に取り付けた後、この加振機21の運転によって加速度センサ1,20のそれぞれに対して同時に振動を加える。」(段落【0013】)
「すると、加速度センサ1,20のそれぞれは振動が加わることによって同一の動作を行うことになり、加速度センサ1の外部端子13及び加速度センサ20の外部端子22からは加わった振動に対応した大きさの電圧信号S1,S0がそれぞれ出力されてくる。そして、これらの電圧信号S1,S0はA/D変換コンバータ(図示していない)を介してマイクロ・コンピュータからなる出力ゲイン調整必要量算出手段23に取り込まれた後、この出力ゲイン調整必要量算出手段23において電圧信号S1,S0を比較することによって加速度センサ1における出力ゲイン調整必要量が算出される。」(段落【0014】)
「さらに、図6で示すように、出力ゲイン調整必要量が算出された加速度センサ1をレーザトリミング装置24上に載置して固定支持した後、この加速度センサ1の出力ゲイン調整用入力回路(図示していない)に対して一定値の交流信号Aを外部から加える。すると、この加速度センサ1の外部端子13からは交流信号Aに対応した大きさの電圧信号S1が出力されてくる。」(段落【0015】)
「そこで、交流信号Aを加えることによって出力されてくる電圧信号S1をマイクロ・コンピュータである出力ゲイン比較手段25によってモニターし、かつ、この電圧信号S1と予め算出されていた出力ゲイン調整必要量との比較を行いながら、レーザトリミング装置24に接続されたマイクロ・コンピュータであるトリミング制御手段26を通じて加速度センサ1を構成する信号処理手段12のうちの増幅回路を具体的に構成する印刷抵抗(図示していない)のレーザトリミングを行う。そして、交流信号Aの印加による電圧信号S1と出力ゲイン調整必要量とが一致した時点で、被調整用の加速度センサ1における出力ゲインの調整作業が終了することになる。」(段落【0016】)
なお、異議申立人は、上記甲第1号証の他に、甲第2号証(特開昭63-241467号公報)及び甲第3号証(特開平3-142364号公報)を引用し、甲第2号証には、「前記入力端子(1b)への入力で圧電素子(1)の出力端子(1a)に逆圧電効果による出力電圧が発生されるようにし、」(第2頁左下欄14〜16行)との記載から、入力端子を設けた圧電素子の外周部分が逆圧電効果により歪み、この歪みにより出力端子を設けた圧電素子の中央部分も歪まされて圧電効果による出力電圧が生起されることが開示されている旨を主張し、甲第3号証には、「加速度センサ31のアクチュエータ部電極33c、33dが圧電ブザーとして働き、発信器41の出力電圧に比例した撓みを生じる。この撓みは、上記したように、センサ電極33a,33bを撓ませ、この撓みに応じた出力42が得られる。」(第2頁左上欄10〜15行)との記載から、発信器から適当な電圧を与えると、そのセンサが正常か否かを検出できることが開示されている旨を主張している。

3-2.請求項1に係る発明との対比
上記甲第1号証には、次の事項が記載されている。
加速度センサ1は加速度検出素子11とこれからの出力信号を処理する信号処理手段12を備えるものであって、被調整用の加速度センサ1及び基準用の加速度センサ20を同一の加振機21に取り付けた後、この加振機21の運転によって加速度センサ1,20のそれぞれに対して同時に振動を加え、加速度センサ1の外部端子13及び加速度センサ20の外部端子22から加わった振動に対応した大きさの電圧信号S1,S0を出力し、これらの信号をA/D変換コンバータを介してマイクロ・コンピュータからなる出力ゲイン調整必要量算出手段23に取り込み、この出力ゲイン調整必要量算出手段23において電圧信号S1,S0を比較して出力ゲイン調整必要量を算出し、次に、出力ゲイン調整必要量が算出された加速度センサ1をレーザトリミング装置24上に載置して固定支持した後、この加速度センサ1の出力ゲイン調整用入力回路に対して一定値の交流信号Aを外部から加えることにより、この加速度センサ1の外部端子13からは交流信号Aに対応した大きさの電圧信号S1を出力し、マイクロ・コンピュータの出力ゲイン比較手段25によってモニターしつつ、この電圧信号S1と予め算出されていた出力ゲイン必要量との比較を行いながら、加速度センサ1の信号処理手段12のうちの増幅回路の印刷抵抗をレーザートリミングすることにより、交流信号Aの印加による電圧信号S1と出力ゲイン調整必要量とが一致した時点で被調整用の加速度センサ1の出力ゲインの調整を終了する点。
そこで本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
甲第1号証に記載された発明は、加速度センサのゲイン調整方法であって、このゲインの調整は加速度センサの出荷前、すなわち製造過程において行われることは明らかである。
加速度センサ1の信号処理手段12、とりわけ増幅回路は、出力ゲインの調整を行う印刷抵抗を備えているから、本件請求項1に係る発明の「調整回路」に相当する。
そして、加振機21に加速度センサ1を取り付けた後、振動を加え、電圧信号S1を出力して出力ゲイン調整必要量算出手段23に取り込んでいるのであるから、甲第1号証には「所定の加速度を加えて調整回路からの出力を検出する工程」が存在する。
次に、甲第1号証は、加速度センサ1をレーザトリミング装置24上に載置固定した後、加速度センサ1の信号処理手段12の出力信号入力側に設けられた出力ゲイン調整用入力回路に一定値の交流信号Aを外部から加えることにより、加速度センサ1の外部端子13から電圧信号S1を出力させるものである。また、交流信号Aを外部から付加する以上、負荷手段が存在する。
ただし、加振機21の振動に対応した電圧信号S1と、交流信号Aを外部から加えることにより出力される電圧信号S1とが同じである旨を示唆する記載はない。
よって、甲第1号証には、「負荷手段によって上記調整回路に出力を発生させる工程」が存在するものの、「上記出力と略同一の出力」であるとは言えない。
更に、甲第1号証は、レーザトリミングにより交流信号Aの印加による電圧信号S1と出力ゲイン調整必要量とが一致するように調整するものであるから、「この工程に付加して上記負荷手段によって上記調整回路を調整して所定の出力とする工程」が存在する。
以上を整理すると、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と「加速度に応動するセンサと、このセンサの出力を調整してシステム側に出力する調整回路とからなる加速度センサの製造方法において、所定の加速度を加えて調整回路からの出力を検出する工程と、負荷手段によって上記調整回路に出力を発生させる工程と、この工程に付加して上記負荷手段によって上記調整回路に発生させた上記出力を上記調整回路を調整して所定の出力とする工程とからなる加速度センサの製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点
本件請求項1に係る発明は、負荷手段によって発生させる出力が、所定の加速度を加えた時の出力と略同一であるのに、甲第1号証に記載された発明は、係る限定がない点。

3-3.相違点の判断
特許明細書には、次の記載がある。
「この調整回路の調整の従来の方法は、
(1)センサ部と調整回路を分離し、センサ部のみに加速度を加え、静止した調整回路を調整し、規定出力となるようにした後、センサ部と調整回路を組合わせる。
【0003】
(2)加速度を加速度センサに加え、出力を検出する工程と、この出力に応じて調整する工程を複数回繰り返して規定の出力とする。
のいずれかが行われていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1)項の調整方法では、センサ部と調整回路を分けているため、構造が複雑になり、また、センサ部の出力信号が、微弱なため、ノイズの影響を受け、調整精度に十分な精度が得られなかった。
【0005】
又、上記(2)項の調整方法では、繰り返して調整する必要があるため、工数が増加し、規定の出力に調整することも困難であった。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、加速度センサの構造に大きな制限を与えず、工数の増加を抑え、精度の良い、加速度センサの調整を行える製造方法を提供するものである。
・・・・・
上記製造方法により、加速度センサを静止の環境下で疑似的に所定の加速度が加わった状態にできるので加速度センサの調整を極めて簡単に精度良く行えるものである。
【0009】
【実施例】
以下、本発明の加速度センサの製造方法の一実施例について図1〜図2により説明する。
・・・・・
【0012】
まず、(1)上記構成の加速度センサの組立を終了する。
次に、調整回路7の出力端子7bに出力が検出できるようにモニタ(図示せず)を接続し、(2)加速度センサにこの加速度センサを用いるシステムが作動する設計上の加速度(例えば車両用のエアバックシステムの場合であれば10G程度)を加え、(3)モニタにより出力端子7bからの出力電圧Vxを検出した後、(4)加速度センサへの加速度の印加を停止する。
【0013】
更に、(5)負荷手段3の端子6a,6bに出力可変の電源手段(図示せず)から制御信号を供給し、負荷手段3のコイル3aによって片持ち梁2を偏奇させ、この偏奇量を歪み抵抗素子4を歪ませることで出力端子7bに接続された上記モニタで検出するとともに、この出力電圧Voが上記出力電圧Vxと略同一となるように上記電源手段を調整する(これにより実際に加えられた加速度により片持ち梁2に加えられた偏奇量を負荷手段3により片持ち梁2に与えていることになる。)。
・・・・・
【0017】
なお、負荷手段は上記実施例においては片持ち梁2を偏奇させるコイル3a、抵抗3bとで構成したが、自己診断機能を有す必要のない加速度センサにあっては図2に示す調整回路7の入力端子8a,8b間に電気信号を入力するなどの電気的手段によっても可能となるものである。
【0018】
【発明の効果】
以上のように本発明は、所定の加速度を加え、調整回路からの出力を検出し、負荷手段により、検出した信号と略同一の出力を出させることにより、加速度センサを、疑似的に、所定の加速度が加わった状態とし、静止した状態で調整回路を調整するので加速度センサの構造に大きな制限を与えず、工数の増加を抑え、精度の良い、加速度センサの製造方法を提供するものである。」
上記特許明細書の記載によれば、従来、センサ部と調整回路とを分離する方法と、出力検出工程と調整工程とを複数回繰り返していたところ、構造の複雑化や工数の増加などの問題点が生じており、本件請求項1に係る発明は係る課題を解決するためになされたものである。
そして、10G等の所定の加速度を加えてその出力電圧を検出し、ついで負荷手段により前記出力電圧と略同一となるように制御信号を送り、その状態でトリミング等により調整することにより、加速度センサを擬似的に所定の加速度が加わった状態とし、静止した状態で調整回路を調整するので加速度センサの構造に大きな制限を加えず、工数の増加を抑えるようにしたものである。
この場合、加速度を所定の加速度とすること、及び出力電圧を略同一とすることにより、基準となる基準加速度センサが必要とはならないことが明らかである。
一方、甲第1号証に記載された方法においては、基準センサを必要とするものであり、そのため特定の加速度とするする必然性がなく、また、交流信号Aに対応した大きさの電圧信号S1は、加振機21の振動によって出力した電圧信号S1と一致する必要はなく、ゲイン調整必要量算出手段23によって算出された出力ゲイン調整必要量に基づいて、交流信号Aに対応した電圧信号S1の調整を行えば済むものである。
すなわち、上記相違点に係る構成は、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明との技術的思想の相違によって生じたものであり、技術的思想が相違する以上、これを同一とすることができない。
また、甲第2号証には圧電効果により出力電圧が生起されることが、甲第3号証には、加速度センサ31のアクチュエータ部電極33c、33dが圧電ブザーとして働き、発信器41の出力電圧に比例した撓んだとき、センサ電極33a,33bを撓ませ、この撓みに応じた出力42が得られることがそれぞれ示されるにとどまり、上記相違点に係る構成を示唆する記述は見あたらない。
よって、甲第1号証に記載された発明に甲第2,3号証に記載された事項を考慮したとしても、本件請求項1に係る発明に到達することができないのであるから、本件請求項1に係る発明は、甲第1乃至3号証に記載された発明に基いて容易に想到することができたものともすることができない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることができないばかりか、甲第1乃至3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-4.請求項4に係る発明との対比・判断
本件請求項4に係る発明は、請求項1を引用し、さらに「負荷手段を調整回路の入力側に直接入力する電気回路手段とした」点を限定するものである。
請求項1を引用した部分についての認定・判断は、上述したとおりであるから、前記限定事項について検討するまでもなく、本件請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることができないばかりか、甲第1乃至3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4.理由2、特許法第36条第4項違反
異議申立人は、請求項4の記載に関し、特許明細書に、負荷手段としての電気信号を入力する電気的手段の具体的な構成がなく、電気的負荷手段の具体的構成が、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項の規定を満たしていない旨主張しているので、この点について検討する。
まず、特許明細書の請求項4には「負荷手段を調整回路の入力側に直接入力する電気回路手段とした」との記載がある。
次に、特許明細書の発明の詳細な説明の段落[0017]には、「負荷手段は・・・・調整回路7の入力端子8a,8b間に電気信号を入力するなどの電気的手段によっても可能となるものである。」との記載がある。
ここで明細書等の記載を検討する場合は、記載のみならず、当業者の技術常識をも参酌して、これに不備があるか否かを判断すべきものである。
これを基に特許明細書の上記記載を検討するに、請求項4及び段落[0017]の記載からみて、負荷手段は調整回路の入力側に電気信号を入力する電気回路又は電気的手段を意味し、これらを実施可能な状態で想起することは当業者の技術常識を持ってすれば容易な事項であるというべきものである。
例えば、異議申立人が引用した甲第1号証の「一定の交流電圧A」は、調整用入力回路2に対し、何らかの電気回路又は電気的手段によって発生させられたことは当業者にとって、自明な事項であり、それらの具体的態様も当業者であれば当然理解しうる程度のものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項4及び特許明細書の発明の詳細な説明に不備があるとすることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人の申し立てた理由及び証拠によっては、本件請求項1及び請求項4に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1及び請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-11-05 
出願番号 特願平5-268724
審決分類 P 1 652・ 113- Y (G01P)
P 1 652・ 121- Y (G01P)
P 1 652・ 534- Y (G01P)
P 1 652・ 531- Y (G01P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石井 哲北川 創  
特許庁審判長 高瀬 浩一
特許庁審判官 三輪 学
高橋 泰史
登録日 2000-10-27 
登録番号 特許第3123318号(P3123318)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 加速度センサの製造方法  

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