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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する E02D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する E02D
管理番号 1050693
審判番号 訂正2001-39091  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-10-06 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-06-06 
確定日 2001-08-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2806922号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2806922号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 経緯
本件第2806922号に係る出願は、昭和63年1月11日に出願された実願昭63-1949号の一部を平成9年2月10日に新たに実願平9-558号として出願したものを、平成9年10月31日に特許出願に変更(特願平9-300046号)したものであって、平成10年7月24日に特許第2806922号として設定登録され、平成12年4月11日付けで三菱重工業株式会社よりその請求項1に係る発明の特許に対して無効審判が請求され、審判2000-35185号事件として審理され、平成13年1月16日付けで「請求項1に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決がなされ、この審決に対する不服の訴えが東京高等裁判所になされ、現在平成13年(行ケ)第92号事件として審理中である。
その後、平成13年6月6日付けで本件訂正審判がなされた。

第2 訂正の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判請求の趣旨は、特許第2806922号の明細書を審判請求書に添付した明細書のとおり訂正することを求めるものであり、訂正の内容は、明細書の特許請求の範囲の減縮及び明細書の明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1について、
「【請求項1】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームの反力受け部に、作業機のクローラを当接して、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。」
を、
「【請求項1】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法において、前記ビームは長尺構造物であり、前記ビームの一端は前記ケーシングドライバに連結され、前記ビームの他端側には反力受け部が設けられ、その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、前記回転反力を前記作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の明瞭でない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0013】を
「【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法に適用される。そして、ビームを長尺構造物とし、その一端をケーシングドライバに連結し、他端部には反力受け部を設けるとともに、その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、回転反力を作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたものである。」
と訂正する。
なお、訂正審判請求人(特許権者)は、訂正事項1について、明りょうでない記載の釈明をも目的としている旨記載しているが、訂正前の特許請求の範囲に明りょうでない記載はなく、訂正した内容はいずれも構成要件を限定するものであるから、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮することを目的とした訂正であると認められる。

第3 当審の判断
1.本件訂正審判の請求は、平成6年改正前の特許法第126条に規定する次の要件を満たすことを要する。
(1)特許法第126条第1項ただし書きの要件である、
願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内で、かつ次に掲げる事項を目的とするもの
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記の訂正
三 明りょうでない記載の釈明
(2)同条第2項の要件である、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならないこと
(3)同条第3項の要件である、同条第1項ただし書き第1号の場合は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること

2.以下、検討する。
2-1 特許法第126条第1項ただし書き及び同条第2項について
(1)訂正事項1によって新たに特許請求の範囲の請求項1の構成要件の一部となった、
「回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める」ようにした点、
「ビームは長尺構造物であり、前記ビームの一端は前記ケーシングドライバに連結」させた点、
「ビームの他端側には反力受け部が設けられ」るようにした点、
「作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接」させた点、
「回転反力を前記作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにした」点
は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、上記訂正事項1によって実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとも認められない。
(2)訂正事項2は訂正事項1のように特許請求の範囲を訂正したことによる明細書の記載の不都合を整えるための訂正であって、明細書の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内と認められ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとも認められない。

2-2.特許法第126条第3項について
訂正された特許請求の範囲請求項1に記載された発明(上記2の訂正事項1参照)(以下、本件発明という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか検討する。
(1)引用文献
本件特許出願前に頒布された刊行物である「建設の機械化」(1986年8月号No.438」、社団法人日本建設機械化協会、昭和61年8月25日発行、19頁ないし24頁の「オールケーシング工法回転式ケーシングドライバ(CD1500)の開発と施工実績」)(以下、「引用文献」という。)には、次の記載が認められる。
(ア)19頁右欄
「(4)機械稼働率 オールケーシング施工機として専用機化しているため、1台の機械で種々の杭、施行条件に適応できない。以上の点にかんがみ、日進基礎工業と日立建機は、共同でこれらの問題点を解決する新しいオールケーシング施工機の開発を目指すことにした。そして各種検討の結果、
1)揺動のほかにケーシングを全周回転できるものであること、
2)これによる回転反力はケーシング中掘り用掘削機の自重を利用すること、
3)中掘り用掘削機としてハンマグラブを装着したクレーンだけでなく、アースドリルでも使用できること、
4)運搬が容易であること、
等を必須条件とした基本構想をまとめ、昭和59年7月設計製作に着手した。そして昭和60年6月最初の実施工で高い評価を得た後、今までさまざまな現場で数多くの実績を上げている。本報は日立CD1500回転式ケーシングドライバの仕様と構造および施工実績について述べたものである。」
(イ)19頁右欄ないし20頁左欄
「2.本機の特長
1)揺動だけでなく、全周回転させながらケーシングの押込みができるため、硬地盤層、転石層、岩盤への建込みが容易-掘削条件、作業条件に応じて能率の良い作業ができる。
2)掘削機の自重を生かした回転反力取り装置により、過大なウェイトが不要である。
3)ハンマグラブ装着クレーンまたはアースドリルをケーシング中掘り掘削機として使用できるため、敷地コーナ部での掘削が可能である(旋回による排土が可能)。
4)アースドリルでも施工できるため、湧水による施工効率の低下がないほか、一般土質における施工能率の向上が図れる。
5)全周回転によってファーストケーシングの建込みが行えるため芯ずれが少ないほか、ケーシングの建込み精度を常時監視するための垂直計の取付けにより、精度の高い施工が可能である。
6)ミキサ車案内用傾斜台が不要-回転反力取り装置を油圧シリンダで傾斜させることにより不要となる。・・・」
(ウ)22頁左欄
「(b)回転反力取り装置 本装置は2つの機能を有する。1つはケーシングの中掘りを行う掘削機を載荷することで、ケーシングドライバの回転力を受けとめる機能と、もう1つはケーシング建込み後、生コン投入の際本装置を15°に傾斜させ、ミキサ車の案内路を形成する機能である(写真-3参照)。ここで各種掘削機のクローラ幅や生コン投入時のミキサ車の輪距に合せ、本装置の全幅を調整する機構が設けられている。そしてこの機構を用いて輸送時全幅を最小3mにすることができる。」
上記(ア)ないし(ウ)の記載事項、図面の図-1ないし図-3及び写真-3の記載からみて、引用文献において、中掘りを行う掘削機を載荷する部分はケーシングドライバの回転力を受けとめる機能を有し、当該部分は、中掘りを行う掘削機を載荷する時には、地表面に沿って延びていることから、引用文献には次の発明が記載されていると認められる。
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、回転反力取り装置は、一端が前記ケーシングドライバに連結され、他端が地表面に沿って延び、中掘り掘削機のクローラを載荷する部分を有し、中掘り掘削機のクローラが載荷された状態において、前記回転反力を前記中掘り掘削機の自重による地面との摩擦力を用いて受け止めるようにした回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
(2)対比・判断
(ア)本件発明と引用文献記載の発明を対比すると、引用文献記載の発明の、「中掘り掘削機」、「クローラを載荷する部分」は、本件発明における、「作業機」、「反力受け部」に相当し、引用文献記載の発明のクローラを載荷する部分は、長尺構造物であってビームのように長く伸びていることから、両者は、
「回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成する部材を介して受止める方法において、前記部材は長尺構造物であり、その一端は前記ケーシングドライバに連結され、反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、前記回転反力を前記作業機の自重による地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。」
で一致しているが、次の点で相違していると認められる。
相違点:本件発明のビームの他端側には反力受け部が設けられ、その反力受け部において、作業機のクローラに当接して、回転反力を作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしているが、引用文献記載の発明ではそのようになっていない点。
(イ)本件発明は上記相違点に記載した構成を有するものであり、当該相違点に係る構成が、回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法において公知または周知の技術的事項であるとすることはできない。
そして、本件発明は上記相違点に係る構成としたことによって「回転式のケーシングドライバの回転反力を、反力受け部と作業機のクローラとの当接により、ビームを介して作業機の自重によって受け止めることができるので、ピン連結等の取り付けを伴わず容易に回転反力を取ることができ、作業性を大幅に向上できる。しかも、クローラを建設敷地外に設置する必要がないと共に、ケーシングドライバを建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりに設置することができる。その結果、建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりにも、ケーシングを押込むことができまた、建設敷地の建設許容範囲内の境界近傍に押し込まれたケーシングを地中から引き抜くこともできる。」(明細書段落番号0047)という明細書記載の作用効果を奏することが期待できる。
したがって、本件発明は、上記引用文献記載の発明と同一の発明とも、引用文献に記載された発明から当業者が容易に発明できたものとすることもできず、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に該当するものではない。
また、本件発明について他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も発見できない。

3.したがって、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き、同条第2項、第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法において、
前記ビームは長尺構造物であり、
前記ビームの一端は前記ケーシングドライバに連結され 前記ビームの他端側には反力受け部が設けられ、
その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、前記回転反力を前記作業機の自重による前記作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
【請求項2】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、
前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端の反力受け部の側面に作業機のクローラを当接して、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
【請求項3】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、
前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端の反力受け部の前記ケーシングドライバの回転方向と反対側の側面に、作業機のクローラを当接させ、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
【請求項4】
回転式のケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、
前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端のフォーク状の反力受け部に、作業機のクローラの側面を当接させ、前記ケーシングドライバの正逆方向の回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
【請求項5】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、
前記ケーシングドライバに対称的に設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端のフォーク状の反力受け部に、それぞれ作業機のクローラを前記各反力受け部に当接して、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建設、土木の基礎工事に使用する大口径鋼管杭あるいは鋼管類のケーシングの圧入、引き抜きを行うためのケーシングドライバに設置される回転反力取り方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建設、土木の基礎工事に使用する大口径鋼管杭あるいは鋼管類のケーシング(これらを以下ケーシングという)の圧入、引き抜きを行うために、ケーシングドライバが用いられている。このケーシングドライバは、一般的にケーシングを把持するバンド装置と、このバンド装置を回転させる回転装置と、前記バンド装置及び回転装置を昇降させるスラストシリンダとを備えている。
【0003】
上記のケーシングドライバは、前記のケーシングを圧入、引き抜きする場合、回転装置によってケーシングに回転力を加えているため、ケーシングドライバの本体には、その回転反力が作用する。この回転反力を取る方策として、実開昭61-84738号公報及び実開昭61-84737号公報に記載されているものがある。
【0004】
前者の公知例(実開昭61-84738号公報)は、ケーシングを周方向に揺動させる揺動シリンダとケーシングを地中へ押込む押込シリンダ等を備える揺動押込装置において、この装置で発生する揺動反力を受ける反力装置を提供するものであり、具体的には反力支持物体となるクローラ枠体に履帯を回避して延設されるアーム部材を設け、その先端に油圧ジャッキを垂直に取り付け、揺動押込装置の側部の基台をその油圧ジャッキで押圧するように構成したものであり、基台を押圧した油圧ジャッキおよびアーム部材を介してクローラ枠体で揺動反力を受けるようにしたものである。
【0005】
また、後者の公知例(実開昭61-84737号公報)は、前者の公知例(実開昭61-84738号公報)と同様にケーシングを周方向に揺動させる揺動シリンダとケーシングを地中へ押込む押込シリンダ等を備える揺動押込装置において、作業機の下部旋回台の前部中央部に設けたブラケットと揺動押込装置とを、略三角形状の枠体とリンクアームとによって連結し、揺動押込装置の揺動反力をこの枠体とリンクアームとを介して作業機で受止めるようにしたものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術において、前者の公知例では、作業機のクローラ枠体から延設されるアーム部材先端の油圧ジャッキで揺動押込装置本体側面に設けられた基台を押圧する構成のため、アーム部材が揺動押込装置本体の幅よりも外方に突出してしまう。また、後者の公知例では、作業機と揺動押込装置とを連結するリンクアームおよび枠体が作業機の旋回台の前部中央部に設けられるブラケットにピン連結されるため、作業機は揺動押込装置の一側面に対向する位置に配置され、これにより、作業機の一部が揺動押込装置本体の幅よりも外方に突出してしまう。このため、上記の従来技術は、いずれも揺動反力取り装置が揺動押込装置本体の寸法より実質的に大きくならざるを得ない。
【0007】
また、上述した公知例のいずれも、反力を支持する作業機に反力支持用のアーム部材または枠体およびリンクアームを直接連結する構造となっているため、施工に際し揺動押込装置を移動させる場合には、それらの連結を解いた後、作業機および揺動押込装置を移動させなければならず、移動に時間を要し、作業性が良くない。
【0008】
さらにまた、前者の公知例にあっては、揺動反力をアーム部材を介して受けるように構成されているため、油圧ジャッキにより揺動押込装置の基台を押圧した際にアーム部材にたわみが生じるため、アーム部材をあまり長く構成することができず、大きな揺動反力を支持することが難しい。後者の公知例にあっては、枠体およびリンクアームを介して揺動反力を受ける構成のため、強度上、枠体と作業機とを連結するリンクアームや作業機のブラケットが大きくなりやすく、人力による取り付け、取り外し作業が大変労力を要する。また、リンクアームとブラケットとをピン連結する際の位置合わせが必要となるため、作業機やリンクアームの移動を伴い、作業性を著しく低下させるという問題がおきる。
【0009】
一方、近年、地価の高騰に伴い、建築、土木物を敷地の許容範囲内ぎりぎりに建設したいという要求が高まっている。このように、建築、土木の構造物を敷地の許容範囲内ぎりぎりに建設しようとする場合には、建築、土木構造物の基礎となるケーシングを敷地の許容範囲内ぎりぎりの地中に建て込むことが必要である。
【0010】
しかし、前述した従来技術においては、建築、土木構造物の基礎となるケーシングを、建設敷地の許容範囲内ぎりぎりの地中に建て込むことができない。なぜならば、前者の公知例および後者の公知例は、いずれも、揺動反力を受止める反力取り装置が揺動押込装置本体の幅から、外方に突出してしまうため、この揺動押込装置を建設敷地の許容範囲ぎりぎりに設置したとしても、この揺動押込装置によって建て込まれるケーシングは揺動押込装置本体の側面端部からケーシング中心までの距離の他に前述した反力取り装置の寸法分だけさらに建設敷地の内側に位置させなければならないからである。その結果、建築、土木構造物の設計杭芯位置に対し、少しずらした位置に杭を打設しなければならないケースも生じる。従って建築、土木構造物の柱の位置に対し、偏心した杭となるため、当初より大きな杭径にしたり、もしくは本数を増やしたりする必要があった。特に、建設敷地の周囲に建物がある場合には、その影響が大きく作用するものである。
【0011】
また、反力を受ける作業機も揺動押込装置にアーム部材または、枠体およびリンクアームを介して連結される構成のため、その配置位置が限定され易く、作業機自体の制約により敷地境界際の工事ができなくなることもある。
【0012】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたもので、敷地内は勿論のこと敷地境界ぎりぎりの地中にも、ケーシングを押込むことができると共に、ケーシングを地中から引抜くことができるケーシングドライバの回転反力取り方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法に適用される。そして、ビームを長尺構造物とし、ビームの一端をケーシングドライバに連結し、ビームの他端側に反力受け部を設け、その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、回転反力を作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたものである。
【0014】
請求項2の発明は、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法に適用され、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端の反力受け部の側面に作業機のクローラを当接して、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたものである。
【0015】
請求項3の発明は、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法に適用され、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端の反力受け部の前記ケーシングドライバの回転方向と反対側の側面に、作業機のクローラを当接させ、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたものである。
【0016】
請求項4の発明は、回転式のケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法に適用され、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端のフォーク状の反力受け部に、作業機のクローラの側面を当接させ、前記ケーシングドライバの正逆方向の回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたものである。
【0017】
請求項5の発明は、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法に適用され、前記ケーシングドライバに対称的に設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端のフォーク状の反力受け部に、それぞれ作業機のクローラの側面を前記各反力受け部に当接して、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて、さらに具体的に説明する。
【0019】
図1は本発明に用いられる回転反力取り装置を取付けたケーシングドライバの正面図、図2はその平面図である。これらの図において、1はケーシング、2はケーシング1の圧入、引抜きを行うケーシングドライバ、3はケーシングドライバ2に付設された回転反力取り装置、4はケーシング1内の土砂を掘削するための中掘り掘削機で、この掘削機4のクローラ5がケーシングドライバ2で発生する回転反力を支持するための役割を果す。
【0020】
前述したケーシングドライバ2は、ジャッキシリンダ6によって水平位置に調整されるべースフレーム7と、このべースフレーム7の四隅に立脚させたガイドポスト8と、前記べースフレーム7に一端を取付けたスラストシリンダ9によって前記ガイドポスト8に沿って昇降される回転駆動装置10と、この回転駆動装置10の回転側部分に取付けたバンド装置11とによって構成されている。
【0021】
前記回転駆動装置10は、図1に示すように外歯付の旋回ベアリング12と、この旋回ベアリング12の外歯とかみ合い、旋回ベアリング12を回転させるピニオン13と、このピニオン13を駆動する遊星減速機付油圧モータ14とから構成されている。
【0022】
前記バンド装置11は、旋回ベアリング12の回転体側であるアウターレースに固定されている。このバンド装置11は、これに取付けたバンドシリンダ15によってケーシング1のチャッキングと開放とを行うようになっている。
【0023】
前記回転反力取り装置3は、べースフレーム7に設けたブラケット16に垂直ピン17によって一端を揺動可能に取付けられ、その他端側に一方向の回転反力を受ける反力受け部18を有する長尺構造物のビーム19と、このビーム19の他端側に前記反力受け部18と対向するようにピン20によって着脱可能に取付けられた反力受け用ブラケット21と、シリンダ基端がピン22によってべースフレーム7に設けたブラケット23に取付けられ、そのピストンロッド先端がピン24によってビーム19に連結されたビーム揺動用の油圧シリンダ25とにより構成されている。
【0024】
前記反力受け部18と前記反力受け用ブラケット21とは、これらの対向間に前述した掘削機4における一方のクローラ5が挿入し得るように構成しており、フォーク状の反力受け部を形成している。
【0025】
上述した回転反力取り装置3は、ケーシングドライバ2に対して対称に配置されている。
【0026】
次に、上述した回転反力取り装置3によって、ケーシングドライバ2に発生する回転反力を受止めるための本発明の方法を説明する。
【0027】
ケーシング1をバンド装置11でチャッキングする。
【0028】
次に、回転駆動装置10に取付けられた遊星減速機付油圧モータ14を駆動させると、ピニオン13の回転によって外歯付旋回ベアリング12が回転する。これに伴い、旋回ベアリング12のアウターレース上に固定されているバンド装置11が回転する。このバンド装置11の回転によって、ケーシング1が回転する。
【0029】
この状態において、スラストシリンダ9を縮小させると、回転駆動装置10がガイドポスト8に案内されて下降するので、回転しているケーシング1も下降する。このケーシング1の回転を伴う下降により、ケーシング1は地盤に回転しながら食い込む。このとき、ケーシング1の回転掘削力に対する回転反力が、ケーシングドライバ2に作用する。この回転反力は、回転反力取り装置3によって受止められる。
【0030】
なお、本ケーシングドライバにあっては、ケーシング1の押込反力は、ケーシングドライバ2の自重によって受けるようになっているので、ケーシングドライバに押込反力受け装置を付設しない構成となっている。
【0031】
この回転反力取り装置3によって前述した回転反力を受止める第1の方法を、次に説明する。
【0032】
まず、図2に示すビーム19先端側の反力受け用ブラケット21を反力受け部18に固定している先端側のピン20を抜き、ブラケット21をもう1つのピン20を支点として図2面上、反時計方向に回動させる。
【0033】
次に、この状態において、油圧シリンダ25のピストンロッドを伸長させて、ビーム19をピン17を支点として図2面上、反時計方向に回動させ、ビーム19先端の反力受け部18の側面を、クローラ5の側面に当接させる。このとき、反力受け部18の側面によってクローラ5の側面を損傷させないようにするために、反力受け部18の側面とクローラ5の側面との間に、当て木を設けると良い。
【0034】
そして、前述した反力受け用ブラケット21を、図2において時計方向に回動して、元に戻した後、再度ピン20を挿入して、反力受け用ブラケット21を、反力受け部18に固定する。この際、反力受け用ブラケット21の側面によってクローラ5の側面を損傷させないようにするために、反力受け用ブラケット21の側面とクローラ5の側面との間に、当て木を設けると良い。
【0035】
この状態において、前述したように、ケーシングドライバ2によって、ケーシング1を地盤に回転しながら食い込ませると、その回転掘削力に対応した回転反力が、ケーシングドライバ2に発生する。このケーシングドライバ2に作用した回転反力は、ガイドポスト8、べースフレーム7を通して回転反力取り装置3を構成するビーム19の先端側の反力受け部18に伝わり、反力受け部18を図2に示す矢印A方向に移動させる。この反力受け部18の矢印A方向の移動は、図2に示すように、掘削機4におけるクローラ5の側面で受止められる。
【0036】
この回転反力取り方法によれば、回転反力取り装置3を構成するビーム19がケーシングドライバ2の1つの側面からその外方に延在し、その回転反力の作用箇所がケーシング1の中心より離れた位置となるので、回転反力の作用箇所での接線方向力が小さくなる。その結果、掘削機4の自重による地面との摩擦力でも、前述した回転反力を十分に受止めることができる。また、図2に示すように反力受け部18の矢印A方向の移動を、例えば、掘削機4のクローラ5の内側側面で受止めるようにすれば、クローラ5を建設敷地外に設置する必要がないと共に、ケーシングドライバ2を建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりに設置することができる。その結果、建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりにも、ケーシングを押込むことができ、建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりに押し込まれたケーシングを地中から引き抜くこともできる。
【0037】
また、回転反力取り装置3におけるビーム19を回動可能に構成したので、回転反力取り装置3における反力受け部18の側面と掘削機4におけるクローラ5の側面との位置合わせ作業が容易になるとともに、ケーシングの建て込み位置へのケーシングドライバの据え付け作業と、掘削機4のクローラ5等の反力支持体への回転反力取り装置3の当接作業とを分けて行えるので作業能率が向上する。
【0038】
また、掘削機4におけるクローラ5を、反力受け部18と反力受け用ブラケット21とではさみ込むようにしているので、一方向の回転反力でけではなく、両方向の回転反力を受けることができる。
【0039】
また、この実施の形態の方法によれば、回転反力取り装置3から掘削機4のクローラ5に作用する回転反力を、2つの回転反力取り装置3に配分することができるので、回転反力取り装置3を構成するビーム19の寸法を小さくすることができ、回転反力取り装置3の小型化を図ることができ、さらには回転反力取り作業の確実性を高めることができる。
【0040】
次に、本発明の第2の回転反力取り方法を説明する。
【0041】
この本発明の第2の回転反力取り方法は、図2に示す回転反力取り装置3を構成する揺動形式のビーム19を、油圧シリンダ25を介さない固定式のビーム19として回転反力取り作業を行うものである。この場合における固定式のビーム19は、その基端側がピン等によってケーシングドライバ2のべースフレーム7に固定され、先端側には、図2に示すように反力受け部18が一体に形成されて構成されている。
【0042】
この第2の回転反力取り方法では、前述したケーシングドライバ2によって、ケーシング1を地盤に回転しながら食い込ませる動作に先立って、中掘り掘削機4のクローラ5を反力受け部18に当接させることにより、回転反力取り装置3は、ケーシングドライバ2に作用する回転反力を受止められる状態になる。
【0043】
この実施の形態においても、図2に示すように反力受け部18の矢印A方向の移動を、例えば、掘削機4のクローラ4の内側側面で受止めるようにすれば、前述した本発明の第1の回転反力取り方法と同様、クローラ5を建設敷地外に設置する必要がないと共に、ケーシングドライバ2を建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりに設置することができる。その結果、建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりにも、ケーシングを押込むことができると共に、建設敷地の建設許容範囲内の境界近傍に押し込まれたケーシングを地中から引き抜くこともできる。また、この実施の形態の方法によれば、回転反力取り装置3は固定式のビーム19で構成し得るので、その構成部品が少なく、その管理も簡単である。
【0044】
また、中掘り掘削機4のクローラ5をビーム19の先端に形成される反力受け用ブラケット21に当接させて、ケーシングドライバ2に作用する回転反力を受止めることも可能であり、これにより、一方向の回転反力だけでなく、両方向の回転反力を受止めることができるようになる。
【0045】
上述した各実施の形態においては、回転反力取り装置3をケーシングドライバ2に対して対称に配置した例について説明したが、回転反力取り装置3をケーシングドライバ2の一方側にだけ設けることも可能である。この場合においては、回転反力がそれ程大きく作用しない場合、及びケーシングドライバ2を敷地のコーナ部に設置しなければならないような場合に有効である。
【0046】
また、上述した各実施の形態において、ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止めるためには、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビーム先端の反力受け部に作用するケーシングの回転方向とは逆方向の回転反力を、作業機のクローラに前記反力受け部を当接して受け止めることが良い。
【0047】
【発明の効果】
以上、詳述した如く、本発明の請求項1乃至3によれば、回転式のケーシングドライバの回転反力を、反力受け部と作業機のクローラとの当接により、ビームを介して作業機の自重によって受け止めることができるので、ピン連結等の取り付けを伴わず容易に回転反力を取ることができ、作業性を大幅に向上できる。しかも、クローラを建設敷地外に設置する必要がないと共に、ケーシングドライバを建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりに設置することができる。その結果、建設敷地の建設許容範囲内の境界ぎりぎりにも、ケーシングを押込むことができまた、建設敷地の建設許容範囲内の境界近傍に押し込まれたケーシングを地中から引き抜くこともできる。
【0048】
また、請求項4の発明によれば、上述した請求項1の発明の効果に加えて、回転反力をフォーク状の反力受け部と作業機のクローラの側部とを当接させて受ける構成としたので正逆方向の回転式のケーシングドライバにおける回転反力取りが可能となる。
【0049】
さらに、請求項5の発明によれば、回転式ケーシングドライバに対称的に設けたビーム先端の反力受け部にそれぞれクローラを当接するようにしたので、上述した請求項1の発明の効果に加えて、回転反力取り装置から掘削機のクローラに作用する回転反力を、2つの回転反力取り装置に配分することができるので、回転反力取り装置を構成するビームの寸法を小さくすることができ、回転反力取り装置の小型化を図ることができ、さらには回転反力取り作業の確実性を高めることができると共に、回転反力取り装置の小型化に伴い、その構成部品が少なく、その管理も簡単である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のケーシングドライバの回転反力取り方法に用いられる回転反力取り装置を備えたケーシングドライバの正面図である。
【図2】
図1に示すケーシングドライバの平面図である。
【符号の説明】
1:ケーシング
2:ケーシングドライバ
3:回転反力取り装置
4:掘削機
5:クローラ
18:反力受け部
19:ビーム
21:ブラケット
25:油圧シリンダ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1について、
「【請求項1】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を受止める方法において、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームの反力受け部に、作業機のクローラを当接して、前記回転反力を前記作業機の自重で受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。」
を、
「【請求項1】
回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法において、前記ビームは長尺構造物であり、前記ビームの一端は前記ケーシングドライバに連結され、前記ビームの他端測には反力受け部が設けられ、その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、前記回転反力を前記作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の明瞭でない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0013】を
「【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法に適用される。そして、ビームを長尺構造物とし、その一端をケーシングドライバに連結し、他端部には反力受け部を設けるとともに、その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、回転反力を作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたものである。」
と訂正する。
審決日 2001-07-23 
出願番号 特願平9-300046
審決分類 P 1 41・ 851- Y (E02D)
P 1 41・ 856- Y (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中槙 利明  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 中田 誠
鈴木 公子
登録日 1998-07-24 
登録番号 特許第2806922号(P2806922)
発明の名称 回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法  
代理人 永井 冬紀  
代理人 永井 冬紀  
代理人 永井 冬紀  

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