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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C03C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C03C
管理番号 1050699
審判番号 訂正2001-39097  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-04-15 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-06-15 
確定日 2001-08-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2134624号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2134624号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、特許第2134624号[平成2年6月8日特許出願(優先権主張平成1年6月9日)、平成10年1月30日設定登録]の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、即ち下記(1)ないし(4)のとおり訂正することを求めるものである。
(1)特許請求の範囲の請求項1の「波長略400」とあるのを「波長略360」と訂正する。
(2)特許請求の範囲の請求項1,請求項8及び請求項10の「OH基を10」とあるのを、「OH基を100」と訂正する。
(3)明細書中の5個所、第7頁13行(公告公報第2頁4欄30行)、同第17行(公告公報第2頁4欄34行)、第8頁4行(公告公報第2頁4欄41行)、同7行(公告公報第2頁4欄43行)、同第18行(公告公報第3頁5欄3行)、の「400」を「360」と訂正する。
(4)明細書中の2個所、第9頁1行(公告公報第3頁5欄5行)、第11頁11行(公告公報第3頁5欄50行)、の「10」を「100」に訂正する。
2.当審の判断
そこで、これらの訂正事項について検討する。
上記(1)の訂正は、本件明細書第11頁8〜12行(公告公報第3頁5欄48行〜6欄1行)の「本発明者達は略360nm以下の高出力紫外光を作用させた場合に所望の耐レーザ性を得る為にはOH基を少なくとも10重量ppm以上含有させることが必要であることを明らかにした。」という記載に基づいて、本件発明が対象とする紫外線の波長の範囲を「400nm以下」から「360nm以下」に減縮するものであり、また上記(2)の訂正事項は、本件明細書第23頁(公告公報第5頁)の表-1の記載に基づいて、本件発明の構成要件の1つである「OH基の含有量」の範囲を「10ppm以上」から「100ppm以上」に減縮するものであるから、これらの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、上記訂正事項(3)及び(4)は、明細書の記載を特許請求の範囲の訂正事項と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記各訂正は、願書に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。
また、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は、これを無効とすべき理由が見当たらないから、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。
3.むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の基規定により、訂正についてはなお従前の例によるとされる、特許法第126条第1項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項及び第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合成シリカガラス光学体及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 波長略360nm以下の紫外光に使用される合成シリカガラス光学体において、
該光学体を少なくとも一方向脈理フリーで、かつOH基を100ppm以上含有し、更にアルカリ金属(Li、Na、K)の含有量が150ppb以下、アルカリ土類金属(Mg、Ca)の含有量が100ppb以下、遷移金属(Ti,Cr,Fe,Ni、Cu)の含有量が50ppb以下の高純度合成シリカガラス材で形成すると共に、
該光学体に前記紫外光照射による光透過率低下を抑制するに充分な量の水素分子を含有させ、その水素分子含有量が略5×1016(molecules/cm3)以上であることを特徴とする合成シリカガラス光学体。
【請求項2】 波長250nm以下の高出力紫外線レーザに使用される光学体において、該光学体のOH基含有量が略100ppm以上であり、かつ水素分子含有量が略5×1016(molecules/cm3)以上であることを特徴とする請求項1)記載の光学体。
【請求項3】 波長250nm以下の高出力紫外線レーザに使用される光学体において、該光学体のOH基含有量が略100ppm以上であり、かつ真空下での1000℃昇温時における水素分子放出量が略1×1020(molecules/m2)以上になるように水素を含有させてあることを特徴とする請求項1)記載の光学体。
【請求項4】 前記光学体の入射光に直交する平面内におけるΔn(屈折率の変動幅)の値が2×10-6以下である請求項1)記載の光学体。
【請求項5】 前記光学体が、アルカリ金属元素Li、Na、Kの夫々の含有量が50ppb以下、アルカリ土類金属元素Mg、Caの夫々の含有量が10ppb以下、遷移金属元素Ti,Cr,Fe,Ni、Cuの夫々の含有量が10ppb以下の合成シリカガラスであることを特徴とする請求項1)記載の合成シリカガラス光学体。
【請求項6】 前記光学体が、三方向脈理フリーの合成シリカガラスであることを特徴とする請求項1)記載の光学体。
【請求項7】 前記光学体が、複屈折率5(nm/cm)以下の合成シリカガラスであることを特徴とする請求項1)記載の合成シリカガラス光学体。
【請求項8】 OH基を100ppm以上含有するように合成した高純度シリカガラス塊を出発母材とし、
該ガラス塊について軟化点以上の加熱下で脈理を除去する処理、及び1000〜1200℃範囲で一定時間加熱しついで徐冷する内部歪除去の処理を施した後、
常圧ないし加圧の水素ガス雰囲気中で略200から1000℃の範囲内に加熱し、核ガラス塊中に紫外光照射による光透過率低下を抑制するに充分な量の水素ガスをドープし、そのドープされた水素分子含有量が略5×1016(molecules/cm3)以上であることを特徴とする合成シリカガラス光学体の製造方法。
【請求項9】 前記内部歪除去の処理工程を経たガラス塊について、水素ガスドープに先立って減圧下で200〜1000℃の範囲内に加熱することにより脱ガス処理を施すことを特徴とする請求項9)記載の光学体の製造方法。
【請求項10】 OH基を100ppm以上含有するように合成した高純度シリカガラス塊を出発母材とし、
該ガラス塊について軟化点以上の加熱下で脈理を除去する処理、及び1000〜1200℃の範囲で一定時間加熱しついで徐冷する内部歪除去の処理を水素ガス雰囲気中で実施するとともに、その徐冷工程において常圧ないし加圧雰囲気下で200〜1000℃に所定時間維持することにより、ガラス塊中へ充分な量の水素ガスをドープし、そのドープされた水素分子含有量が略5×1016(molecules/cm3)以上であることを特徴とする合成シリカガラス光学体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
「産業上の利用分野」
本発明は、合成シリカガラス光学体及びその製造方法に関し、詳しくは略360nm以下の紫外光、エキシマレーザ等に使用されるレンズ、窓部材、ミラー、プリズム、フィルタ、エタロン板等の光学体に関する。
「従来の技術」
近年におけるLSIの微細化、高集積化の進展は極めて著しく、すでにチップ当りの素子数が百万以上のVLSIの時代に入っている。これに伴ないウエハ上に集積回路パターンを描画するリソグラフィ技術においてもその開発が急速に進み、より微細な線巾例えば1MビットDRAMに対応する線巾1μm、4MビットDRAMに対応する線巾0.8μmが開発されている。そして今やサブミクロンの線巾すなわち16Mビット乃至256MビットDRAMに対応する0.5乃至0.2μmの線巾で描画可能なリソグラフィ技術の開発が急務とされている。
しかしながら従来の光リソグラフィ技術はその欠点として露光波長が大きいため、回折により解像力が制限されるという問題があり、上記要請を満足することはできない。
光の短波長化を図る為に、400nm以下の紫外線を用いた技術が開示されているが、従来の光学ガラスを用いたレンズでは使用波長が365nm(i線)付近より光透過率が急激に低下するために、レンズ材料を従来の光学ガラスから石英ガラスに代える必要があるが、石英ガラスに通常の紫外線を透過した場合光スペクトル巾が広いために色収差が発生してしまう。
そこでスペクトル巾の狭い且つ紫外域で発振する高出力パルスレーザであるエキシマレーザ、特にサブミクロン単位のより鮮明画像を得るために短波長なKrF(248nm),ArF(193nm)を前記光リソグラフィー用の光源として用いた技術が検討されている。
しかしながらエキシマレーザ光は従来のi線、g線等に比較して極めてパワーが大であり而も発振波長の短波長化が進むにつれ、例え前記石英ガラスを用いて前記レーザ光用光学部材を製作したとしても該レーザ光が長時間照射されるとレンズ等の光学部材がダメージを受け、透過率の低下等の耐レーザ性が低下し、最終的にクラックが発生するという問題が生じる。
ところで、従来水晶を溶融して造った天然石英ガラスを水素ガス雰囲気中で約400〜1000℃で加熱することにより電離線の作用によりその石英ガラスが着色を生じるのを防止しようとする技術が提案されている(特公昭40-10228号参照)が、このような単に水素処理を施しただけにすぎない石英ガラスでは耐レーザ性が不充分であり、前記問題点を解決することができない。
「発明が解決しようとする技術的課題」
本発明は、従来のフォトンエネルギーが小さいg線(436nm)ではなくより短波長化、具体的には略360nm〜150nmの高出力紫外光が光学体に作用した場合の耐レーザ性その他の経時劣化を極力防止する事を目的とする。
即ちより具体的には前記光学体を構成する石英ガラスは360nm〜150nmの紫外線波長域の光が作用した場合、他の種類の光(例えば前記波長より長波長の可視光や、短波長のγ線等)に比較して大幅に強い光学的ダメージを受けやすい。
例えば紫外線レーザ光が長時間照射されると石英ガスの網目構造が切断され、いわゆるE´センターと呼ばれる略215nmの吸収バンドと、別の略260nmの吸収バンドが生成し、360nm〜150nmの透過率を低下させ、光学的劣化現象を生じさせてしまう。
そして特に略360 〜150nmのパルス発振レーザであるエキシマレーザは、他のあらゆる種類の紫外線光に比較して最も強いエネルギーをもっており、該エキシマレーザの照射により一層強い光学的ダメージを受けやすい事が確認されている。
従って本発明は、前記石英ガラス材の高純度化を図っても、尚高エネルギー密度の紫外光を照射した場合に生じる経時劣化を極力低減し、耐久性の向上を図った紫外線用光学体とその製造方法を提供する事を目的とする。
「課題を解決する為の技術手段」
すなわち、本発明は、波長略360nm以下の紫外光に使用される合成シリカガラス光学体において、該光学体を少なくとも、一方向脈理フリーで、かつOH基を略100ppm以上含有する高純度合成シリカガラス材で形成すると共に、該光学体に前記紫外光照射による光透過率低下を抑制するに充分な量の水素分子を含有させたことを特徴とする合成シリカガラス光学体を要旨とするものであり、さらにその製造方法を提供するものである。
以下順を追って説明する。
石英ガラスは単にその高純度化を図ったのみでは、高出力で且つ短波長レーザ光用光学体として満足する結果が得られない。その理由は例え高純度化を図っても金属不純物の存在を完全に消去する事は原料及び製造上の問題から不可能であり、又合成シリカガラスには前記耐レーザを低下させる各種欠陥若しくは要素が包含されているものと思慮され、これらが組み合わさって耐レーザ性を低下させているものと推定される。
そこで本発明者達は先ず、前記各種短波長光の内、特に条件の厳しいエキシマレーザにおける耐レーザ性に不純物金属元素がどの様に悪影響を及ぼすかを確認するために、酸水素炎加水分解法のダイレクト法とCVDスート再溶融法に基づいて高純度の合成シリカガラスを製造し、これをアニール処理(内部歪除去処理)したインゴットを用いて試験片を製作して耐レーザ性を確認したが、なお満足されるべき結果が得られなかった。
次に、前記アニール処理後のインゴットにそれぞれ加圧下において水素ドープ処理を行ったところ、ダイレクト法で製造した高純度インゴットの試験片についてのみ好ましい耐レーザ性が得られることが確認できたため、ダイレクト法とスート法で製造した高純度インゴットとの間における物性上の差異を調べた所、前者の方がOH基含有量が多い事が確認できた。
そこでスート法に基づいて、高純度合成シリカガラスを製造する際に酸水素炎を調整してOH基含有量を増大させたインゴットを製造し、前記と同様な方法で耐レーザ性を確認した所、OH基含有量の増大に比例して耐レーザ性が向上する事が知見できた。
又水素ドープ量についても加圧条件を変化させて耐レーザ性を確認した所、特に短波長のフォトンエネルギーの大なるエキシマレーザ光を照射した場合に、その耐レーザ性は水素ドープ量の増減に依存することが知見できた。
即ち、前記実験過程から明らかな如く、水素ドープ材の存在下にOH基含有量の増大が前記経時的な耐熱レーザ性能の低下を防ぐ事は本発明者達が始めて知見した事実であり、そして更に本発明者達は略360nm以下の高出力紫外光を作用させた場合に所望の耐レーザ性を得る為にはOH基を少なくとも100重量ppm以上含有させる事が必要であることを明らかにした。
尚、OH基含有量が何故前述した光学特性に影響するのかはさだかではないが、以下のように考えられる。シリカガラスに強力なレーザ光が長時間照射されると、ガラス網目構造を構成する原子間の結合が徐々に切断され、その結果透過率が低下し、吸収バンドが現われ最悪にはクラック等が発生してしまう。
しかし、これら原子間の切断も、シリカガラス中に存在するOH基自体若しくは、該OH基中の水素原子の存在や移動により大部分が修復され、そして更にクラックの発生においてもOH基が多量に含まれると上記理由により吸収バンドの発生が小さくなり、その結果として光吸収が少なくなり、クラックが少なくなると考えられる。
一方水素ドープ量は、後記実験例のデータにあるように、光学体に250nm以下のようなレーザ光を作用せる場合に充分な抵抗性を得るためには水素分子濃度が略5×1016(molecules/cm3)以上であることが必要である。またこのドープ分子濃度は真空下で1000℃昇温時における放出量としても規定可能であり、この場合は水素分子放出量が略1×1020(molecules/m2)以上になるように水素が含有されていることが必要である。
水素ドープをすべきシリカガラス中には、少なくとも光入射方向における脈理、より好ましくは三方向何れの方向にも脈理が存在しない事が必要となる。
即ち前記のようにOH基が多く存在するようにシリカガラスを合成した場合、その合成過程において脈理が形成され易くなるが、このように脈理の存在するシリカガラス材に水素ガスドープ処理を行っても、均一な水素ガス濃度分布が得られず、これにより好ましい耐レーザ性が得られない。
この理由は前記脈理部分では、OH基が局部的に多くなっており、その為水素ガスの溶存濃度が該OH基含有量によって左右される為、均一な水素ガス濃度分布が得られないからである。
したがって、脈理が存在する合成シリカガラス塊をそのまま本発明の光学体用原料とすることはできず、予め脈理除去の処理を施す必要がある。
この脈理除去の方法としては、例えばUSP2,904,713、同3,128,166、同3,128,169及び同3,483,613等に記載されている方法“横型浮遊帯域融解法”(FZ法)により脈理を除去することができる。具体的には脈理を除去しようとするシリカガラス塊を棒状体とし、その両端を回転し得る旋盤で把持し、棒状体の中間部分をバーナ火炎で軟化点以上に加熱しひねるという操作によって行なわれる。
本発明の光学体はΔnが2×10-6以下であること及び複屈折率5(nm/cm)以下であることが望ましいが、これらの特性を得るためには上記した脈理除去の処理が重要な意味を持つ。
本発明の光学体を製造するには、上記脈理除去の処理を施したシリカガラス塊について内部歪除去の処理を施した後水素ガスドープを行なう。この内部歪除去の処理は通常の場合大気雰囲気中で温度1000〜1200℃に約5時間以上維持しついで徐冷することにより行なわれる。水素ドープはこのシリカガラス塊を常圧ないし加圧の水素ガス雰囲気中で200〜1000℃望ましくは400〜800℃の温度にて約10時間以上維持することにより行なわれる。
なお、別の方法として上記内部歪除去の際の雰囲気を水素ガス雰囲気としついで行なわれる徐冷工程において200〜1000℃に所定時間維持されるようにすることにより、内部歪除去の処理と水素ドープを連続して行なうことができる。
本発明は脈理フリー、OH基、水素ドープ、そして更に後記する高純度の四つの組合せにおいて始めて所期の目的を達成したものと言える。
尚、本発明は、高純度合成シリカガラスを用いることを前提とするものであるが、該シリカガラスは熱処理その他の光学体製造過程で僅かながら汚染され、その汚染を許容し得る程度に純度設定を行う必要がある。
そこで本発明においては前記要件を満たすことにより、光学体中の不純物含有量を、Li、Na及びKのトータル含有量を150ppb以下、Mg及びCaのトータル含有量を100ppb以下、Ti、Cr、Fe、Ni及びCuのトータル含有量を50ppb以下、より具体的には耐レーザ性に悪影響を及ぼす金属不純物を夫々Na≦50ppb、K≦50ppb、Li≦50ppb、Mg≦10ppb、Ca≦10ppb、Ti≦10ppb、Cr≦10ppb、Fe≦10ppb、Ni≦10ppb及びCu≦10ppbの範囲までの不純物の存在であれば十分所期の目的を達成し得る事を確認した。これにより前記製造過程での僅かながら汚染が生じても商業的に且つ再現性よく所望の目的を達成し得る光学体の提供を可能にした。
本発明に係わる合成シリカガラス光学体は、波長略360nm以下の高出力紫外光特にエキシマレーザ、YAG4倍高調波(250mm)レーザによるダメージを受け難いすぐれたものであるので、リソグラフィ用レーザ露光装置等の高集積回路製造装置、レーザ光化学反応装置、レーザ加工装置、レーザ医療装置、レーザ核融合装置その他の高出力紫外線レーザを利用した各種装置に組込まれる各種光学体として有用とされるものである。
「実験例」
本発明に至った経過を具体的な実験例に基づいて説明する。
原料四塩化ケイ素を蒸留処理して不純物を除去させた後弗素樹脂ライニング付ステンレス製容器に貯溜した高純度四塩化ケイ素を用意し、該高純度の四塩化ケイ素原料を用いて酸水素炎加水分解法のダイレクト法とCVDスート再溶融合成法にて、高純度シリカガラスインゴットを各々複数個合成した。これらインゴットを一定の直径の棒状体に延伸した後、横型浮遊帯域溶融法(FZ法)により混練り均質化し、三方向脈理フリーでありかつ光使用領域(クリヤーアパーチャー)における屈折率変動幅(Δn)を2×10-6に設定した。そして前記インゴット群よりOH基の含有量が5ppm以下、100ppm、200ppm、400ppm、800ppmのOH基濃度を有するインゴットを分取した。次に、前記各OH基濃度を有するインゴットを雰囲気加熱炉内のチャンバー内に設置して、第1のインゴット群(I)においては塩化水素雰囲気下(常圧)、第2のインゴット群(II)においては5%のHClを加味した水素ガス雰囲気(常圧)下にて、第3のインゴット群(III)においては水素ガス雰囲気(約10気圧)の加圧下にて、各々約1100〜1200℃で約50時間保持した後、約200℃の温度以下になるまで一定のプログラムにより徐冷を行い、その後大気放冷を行った。
次に、前記熱処理後の各インゴットについてアルカリ金属元素Li、Na、K、アルカリ土類金属元素Mg、Ca及び遷移金属元素Ti、Cr、Fe、Ni、Cuの各元素の含量分析を原子吸光光度法及び中性子放射化分析法にて行ってみるに、いずれもアルカリ金属元素が0.05ppm以下、アルカリ土類が0.01ppm前後、遷移金属元素が0.01ppm以下と高純度が維持されていた。
そして、このようにして形成した内部歪のない複屈折が5(nm/cm)以下のインゴットを40×30×t30mmの寸法に切断しかつ両面鏡面仕上を行ってエキシマレーザ照射実験用試験片を作成するのと同時にH2ガス測定用サンプルとして寸法40×20×t1mmでかつ両面を鏡面仕上したもの及び寸法10×10×20(l)mmでかつ3面を鏡面仕上したものを作成してH2放出量及びH2濃度の測定を行う。前記H2ガス放出量の測定はサンプルをセットした石英チャンバー内を真空雰囲気にした後、4℃/minで1000℃まで昇温させた後、該1000℃にて2hr保持する。その時放出される各種ガスを四重極型質量分析計に導入し、分子の種類と量を測定する。(森本幸裕、他、照明学会東京支部大会誌、pp.16〜25、1989)
かかる測定結果によれば、試料番号I群におけるH2放出量は5×1018〜1×1019(molecules/m2)試料番号II群におけるH2放出量は1×1020〜2×1020(molecules/m2)、又試料番号III群におけるH2放出量は1×1021〜6×1021(molecules/m2)という値を得た(表-1参照)。
さらに、レーザラマン散乱測定法によるH2ガス濃度測定では、サンプルをセットした後Arレーザ(488nm)で照射し4135(cm-1)と800(cm-1)の散乱光の強度比よりH2ガス濃度を計算する。(V.S.Khotimchenko,etal.Zhurnal Prikladnoi Spektroskopii,Vol.46,No.6,PP.987〜991,1986)この測定結果によれば、試料番号I群におけるH2濃度は5×1016(molecules/cm3)未満、II群では2×1017〜5×1017(molecules/cm3)、III群では2×1018〜5×1018(molecules/cm3)という値を得た(表-3参照)。
次に前記耐エキシマレーザー性評価用の試験片に対して、KrFエキシマレーザ(248nm)を用い、パルス当りエネルギー密度100,200,400(mJ/cm2・pulse)及び照射パルス数1×105、1×106、1×107(pulse)の組合せから成る照射条件にて照射を行った。
そして、前記照射終了後の各試験片について、干渉計にて屈折率分布変化、透過率計にてソーラリゼーション、蛍光測定器にて蛍光強度測定を行った。結果は表-1及び表-2に示すとおりであった。
また、前記耐エキシマレーザ性評価用の別の試験片に対してArFエキシマレーザ(193nm)を用い、パルス当りエネルギー密度を100(mJ/cm2・pulse)、周波数を100(Hz)にて連続照射を行い、5.8eV(略215nm)における内部透過率が2%低下するまでの照射パルス数を測定し、KrFエキシマレーザ(248nm)でのデータと比較を行った結果は表-4に示すとおりであった。
前記一覧表より理解される如く、H2放出量が1×1020(molecules/m2)以上,またH2濃度が5×1016(molecules/cm3)以上のII群及びIII群の試験片においては、OH基が100ppm以上含有する試験片(II-2,3,4,5、III-2,3,4,5)が蛍光、透過率、屈折率変動のいずれの面でも極めて好ましい耐レーザ性が得られた。一方H2放出量が1×1020(molecules/m2)未満、またH2濃度が5×1016(molecules/cm3)未満のI群の試験片においては、OH基が800ppm含有する試験片(I-5)においても好ましい評価が得られずいずれも耐レーザ性は平均的水準以下であった。
又、II及びIII群の試験片においても、OH基濃度量が5ppm以下であれば耐レーザ性が低いことが明らかとなった。
次に、耐エキシマレーザ性に対する不純物金属元素の影響を確認するためにダイレクト法にてOH基を800ppm含有するインゴットを合成する際、前述の高純度四塩化ケイ素に蒸留処理前の四塩化ケイ素を混合した原料を用いてインゴットを合成しH2ドープ処理を行った後試験片(II-5´)を作成し、H2ガス濃度測定と耐KrFエキシマレーザ性の評価を行った。その結果、不純物金属元素が一定レベル以上含まれると、耐KrFエキシマレーザ性は大きく低下することが明らかとなった(表-5及び表-6参照)。
最後に、耐エキシマレーザ性と光学的均質性に対する脈理の影響を確認するために、ダイレクト法にてOH基を800ppm含有するインゴットを合成した後、横型浮遊帯域融解法による脈理除去処理は行なわずにH2ドープ処理を行い試験片(II-5´´)を作成しH2ガス濃度測定と透過率低下と屈折率分布に関する耐KrF、エキシマレーザ性の評価を行った。その結果、脈理の存在するインゴットでは、Δnの悪いシリカガラスしか得られず基本的に光学体として使えないものであり、H2ドープも均一に行うことができず、エキシマレーザ照射による透過率低下も不均一に起こってしまった(表-5及び表-6参照)。
かかる実験結果より本発明の効果が円滑に達成されていることが理解出来る。




レーザ照射条件: *1 *2
波長: 248nm 193nm
パルスエネルギー密度: 400mJ/cm2・p 100mJ/cm2・p
周波数: 100Hz 100Hz
サンプル寸法: 40×30×t30mm 40×30×t30mm

*1:レーザ照射条件
波長: 248nm
パルスエネルギー密度: 400mJ/cm2・p
周波数: 100Hz
サンプル寸法: 40×30×t30mm
*2:レーザダメージの説明
KrFエキシマレーザを照射するとサンプル位置によって透過率の低下しやすい部位としにくい部位が存在する。また照射前のΔn(屈折率変動幅)も非常に悪く基本的に光学体に適したものではなかった。

「発明の効果」
以上記載したように、本発明により提供される合成シリカガラス光学体は、高出力紫外光特にエキシマレーザ、YAG4倍高調波レーザに対し、すぐれた抵抗性(ダメージを受け難い)を示す。また本発明の製造方法により、光学特性としてのΔnの値及び複屈折率を満足し、均一な水素ドープの施こされた耐レーザ性にすぐれたシリカガラス光学体を得ることができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第2134624号発明の特許請求の範囲の請求項1の「波長略400」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「波長略360」と訂正する。
2.特許第2134624号発明の特許請求の範囲の請求項1,請求項8及び請求項10の「OH基を10」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「OH基を100」と訂正する。
3.特許第2134624号発明の明細書中の5個所、第7頁13行(公告公報第2頁4欄30行)、同第17行(公告公報第2頁4欄34行)、第8頁4行(公告公報第2頁4欄41行)、同7行(公告公報第2頁4欄43行)、同第18行(公告公報第3頁5欄3行)、の「400」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「360」と訂正する。
4.特許第2134624号発明の明細書中の2個所、第9頁1行(公告公報第3頁5欄5行)、第11頁11行(公告公報第3頁5欄50行)、の「10」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「100」に訂正する。
審理終結日 2001-07-24 
結審通知日 2001-07-30 
審決日 2001-08-14 
出願番号 特願平2-148633
審決分類 P 1 41・ 853- Y (C03C)
P 1 41・ 851- Y (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野 秀幸橋本 傳一城所 宏  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1998-01-30 
登録番号 特許第2134624号(P2134624)
発明の名称 合成シリカガラス光学体及びその製造方法  
代理人 武田 正彦  
代理人 川崎 仁  
代理人 滝口 昌司  
代理人 中里 浩一  
代理人 中里 浩一  
代理人 滝口 昌司  
代理人 川崎 仁  
代理人 武田 正彦  

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