• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 1項2号公然実施 訂正を認める。無効としない B60C
審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない B60C
管理番号 1050703
審判番号 無効2000-35127  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-09-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-03-06 
確定日 2001-09-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2916077号発明「ニューマチック型ソリッドタイヤ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2916077号の請求項1ないし4に係る発明(以下本件特許発明1ないし4という。)についての出願は、平成6年2月22日(優先権主張平成5年12月29日、出願番号:特願平5-350688号)の出願であって、平成11年4月16日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成13年2月20日付けで特許無効請求人愛知タイヤ株式会社から、請求項1、2、4に係る特許を無効にすることについて審判の請求がなされ、被請求人は、答弁書の提出期間内である平成12年7月10日に答弁書の提出とともに、訂正請求書を提出して願書に添付した明細書の訂正が請求された。そこで、請求人に対して訂正請求書と答弁書を送付して期間を指定して弁駁の機会を与えたが、請求人からは何も応答がなかった。
2.訂正の適否について
(1)訂正請求の要旨
平成12年7月10日付けの訂正請求の要旨は、願書に添付した明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項1ないし訂正事項2-2.のとおりに訂正することを求めるものである。
(2)訂正の内容
平成12年7月10日付け訂正請求の訂正事項は次のとおりである。
訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変え」とある記載を、「タイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変え」と訂正する。
訂正事項2-1.特許公報第2頁右欄7〜8行(段落[0010])、特許公報第2頁右欄下11〜下10行(段落[0016]2〜3行)、特許公報第5頁左欄下7〜下6行(段落[0047]4〜5行)の「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変え」とある記載を、「かつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きを反対に変え」とそれぞれ訂正する。
訂正事項2-2.特許公報第4頁右欄15〜16行(段落[0038]9〜10行)の「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変える」とある記載を、「かつタイヤ赤道Cからトレッド縁Eまでの間でタイヤ赤道Cに対する向きをく字状に反対に変える」と訂正する。
なお、訂正事項2-2.の「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変える」という記載に該当する記載は特許公報になく、当審では、訂正の箇所として特許公報第4頁右欄15〜16行(段落[0038]9〜10行)と記載されていることから、該当する特許公報の記載は、「タイヤ赤道Cからトレッド縁Eまでの間で向きを変える」であって、引用符号の脱落による誤記であると認め、そのように訂正箇所を特定し、訂正事項を訂正した。
(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項について検討すると、
訂正事項1について
訂正事項1は、向きとして「タイヤ赤道Cに対する向きをく字状に反対に変える」と特定する訂正を行い、本件の特許の請求項1に係る発明は、明りょうでない記載の釈明を目的として訂正を行ったものである旨主張している。
本件の特許請求の範囲請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明(以下、「訂正前の本件発明1」という)には、「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変え」と記載されており、訂正前の本件発明1にいう「向きを変える」とは何に対して向きを変えるのか、すなわち、向きの基準となるものが明りょうでなく、また、「向きを変える」とは、どのように向きを変えるのかが明りょうに記載されているものとは認められない。
ところで、訂正前の本件発明1では「横溝は、タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変える複数の横溝を設けた」と記載されており、横溝の傾きの基準はタイヤ赤道であり、タイヤ赤道に対して傾きの向きを変えるものであることは、その文脈から導き出せるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としているものと認められる。また、「タイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変える」と特定することは、「向きをく字状に」するということ、つまり、ある点から急角度に下向きにするか、く字状に傾きの向きを変えるかすることを意味することは明らかであり、上記記載の後に「反対に向きを変える」と続くことから、傾きの方向として反対にすることを意味すること、すなわち、タイヤ赤道に対する傾きがそれまでの傾きから反対に傾くようになることを意味するものと解され、訂正前の本件発明1では単に向きを変えれば良かったものを、溝の傾きの向きが変わるもので、その向きの方向が反対になることをも特定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項2-1、2-2に記載された事項は、訂正された特許請求の範囲の請求項1との整合を図るため発明の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項1、2-1、2-2に記載された事項は、特許公報第4頁第8欄段落【0038】及び図2に記載されている事項であり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされるものであって、かつ、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)むずび
したがって、上記訂正事項1、2-1、2-2による訂正は、特許法第134条第2項ただし書き第1号、第3号の規定、及び特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、本件の訂正を認める。
3.本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、4に係る発明(以下、「本件特許発明1、2、4」という。)は、上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、平成12年7月10日付けで提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2、4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
リムに装着されかつ一体なタイヤ基体からなるニューマチック型ソリッドタイヤであって、正規リムに装着された状態でのタイヤ軸を含む子午断面において、トレッド面の曲率半径RTを250〜450mmとするとともに、前記トレッド面に、トレッド面の中央領域内かつタイヤ赤道の両側に配されかつタイヤ円周方向にのびる2本の縦溝と、トレッド縁から該トレッド縁に近い一方の縦溝17に至る複数の横溝6…とを設け、しかも前記横溝は、タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変えることを特徴とするニューマチック型ソリッドタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ基体は、リム側のベースゴム層と、JISA硬度が60〜75度でありかつ100%伸張時の引張弾性率を30〜45kgf/cm2とししかもトレッド面をなすキャップゴム層とを具えることを特徴とする請求項1記載のニューマチック型ソリッドタイヤ。
【請求項4】
前記タイヤ基体は、その縦バネ定数を150〜210kgf/mmとしたことを特徴とする請求項1,2又は3のいずれかに記載のニューマチック型ソリッドタイヤ。」
4.当事者の主張
(1)特許無効審判請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として下記4.(3)の検甲第1号証、甲第1号証ないし甲第17号証を提出し、以下の無効理由(i)ないし(ii)-2により、特許法第29条第1項第2号、及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1、2、4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである旨主張している。
(2)無効理由
無効理由(i):
本件特許発明1、2は、検甲第1号証、甲第1号証の1ないし甲第10号証の3によれば、愛知タイヤ工業株式会社製の検甲第1号証 ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」は、概略構造が添付した甲第1号証の1、甲第1号証の2のとおりのものであり、本件特許発明1、2と同一構成を備えたものであり、かつ日本国内において本件特許の優先日前に公然実施されているものである。したがって、本件特許発明1、2は、本件特許の優先日前に公然実施されている検甲第1号証のソリッドタイヤと全く同じものであり、特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してなされたものである。なお、検甲第1号証が優先日前公用であったことを証するため提出した甲第3号証ないし甲第10号証の事実については、証人吉川晃弘、野竿源治、本間勝行、日比野龍次、及び今井田健治らの証人尋問により明らかとする。
無効理由(ii)-1.:
本件特許発明4は、検甲第1号証の公然実施されたソリッドタイヤ及び甲第14号証ないし甲第16号証の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件特許発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
無効理由(ii)-2.:
本件特許発明1、2、4は、本件特許の優先日前に頒布された甲第11号証の1、2のパンフレットに記載の愛知タイヤ工業株式会社「ニューマチック形ソリッドタイヤ Unique バッテリ車用キャリーエース」及び甲第12号証ないし甲第16号証の周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、本件特許発明1、2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(3)請求人が提出した証拠方法
検甲第1号証 :ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」(重量物のため要請に応じて提出する)。
甲第1号証の1 :「試験報告書」(平成11年11月1日、(財)化学物質評価研究機構作成)
甲第1号証の2 :「添付写真」(撮影日:平成11年9月20日、同月22日、同月28日、撮影者:(財)化学物質評価研究機構 名古屋事業所 稲田 英明)
甲第2号証:「技術情報 春日井工場品質保証部 件名 ユニーク及びソリッドタイヤセリアルの件」(愛知タイヤ工業(株)、平成元年2月15日作成)
甲第3号証:「承認申請願図」(名称「5.50-15/4.50E CA UNIQUE SOLID TIRE(BATTERY)」 平成4年10月18〜20日承認。
甲第4号証:「請求書」(愛知タイヤ工業(株)から神鋼電機(株)伊勢事業所に宛てたもの、平成4年20日作成)
甲第5号証:「検収明細表」(神鋼電機(株)から愛知タイヤ工業(株)に宛てたもの、92年10月分)
甲第6号証:「見積書」(愛知タイヤ工業(株)から住友エール(株)へ宛てたもの、平成4年5月19日)
甲第7号証:「ユニークタイヤ 新キャリーエース性能試験結果のご報告の件」(愛知タイヤ工業株式会社、平成3年10月15日作成)
甲第8号証の1:出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月16日作成)
甲第8号証の2:「日帰り出張、有料道路許可願(精算)」(平成3年10月15日作成)
甲第8号証の3:「試験研究諸費用支払明細」(平成3年10月16日作成)

甲第9号証の1:「出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月18日作成)
甲第9号証の2:「出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月18日作成)
甲第9号証の3「日帰り出張、有料道路許可願(精算)」(平成3年10月9日作成)
甲第9号証の4:試験研究諸費用支払明細」(平成3年10月21日作成)
甲第9号証の1〜4は、本件特許発明の優先日前の平成3年10月頃に検甲第1号証のソリッドタイヤが公然実施されていたことを立証するため、新キャリーエースの説明のため日本輸送機(株)及び東洋運搬機(株)へ出張訪問した際の出張関連書類であるとするもの
甲第10号証の1:「出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月24日作成)
甲第10号証の2:「出張旅費精算書」(平成3年10月21日作成)
甲第10号証の3:「試験研究諸費用支払明細」(平成3年10月24日作成)
甲第11号証の1:「ニューマチック形ソリッドタイヤ Unique バッテリ車用キャリーエース」のパンフレット
甲第11号証の2:「証明書」(上記パンフレットの頒布日を証明するもの)
甲第12号証:特公平2-40521号公報
甲第13号証:特開平4-118303号公報
甲第14号証:特公平3-47202号公報
甲第15号証:特開平4-164630号公報
甲第16号証:特開平4-208442号公報
甲第17号証:「自動車整備技術 タイヤ整備」第6〜11頁、全国タイヤ商工協同組合連合会、平成2年4月30日発行
証人
吉川 晃弘 三重県伊勢市宇治浦田1丁目19-33 神電エンジニアリング株式会社 伊勢事業所 副所長、
野竿 源治 愛知県春日井市東山町2345-1270 愛知タイヤ工業株式会社 監査役(非常勤)、
本間 勝行 名古屋市中川区江松1-201 ラビデンス江松401号 愛知タイヤ工業株式会社 営業本部環境資材部 部長、
日比野 龍次 名古屋市昭和区安田通6-3 朝日プラザ川名203 愛知タイヤ工業株式会社 営業本部本部営業部直需室 室長、
今井田 健治 愛知県春日井市高森台7-1-1 県営高森台住宅304棟207号 愛知タイヤ工業株式会社 営業本部本部営業部直需室 販売促進担当 主任
尋問事項書(証人吉川晃弘、野竿源治、本間勝行、日比野龍次及び今井田健治に対する証人尋問内容を記載したもの)
5.甲各号証記載の事項
検甲第1号証ないし甲第16号証には、以下の事項が
検甲第1号証 ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」 タイヤ基体がリムに装着されたニューマチック型のソリッドタイヤである。本件特許発明1と同一構成を備えた「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」ソリッドタイヤが示されているとするもの。
甲第1号証の1 :「試験報告書」(平成11年11月1日、(財)化学物質評価研究機構作成) 検甲第1号証のソリッドタイヤの各種試験項目について試験を行ったときの試験結果を記載したものとするもの。
甲第1号証の2 :「添付写真」(撮影日:平成11年9月20日、同月22日、同月28日、撮影者:(財)化学物質評価研究機構 名古屋事業所 稲田 英明) 試験報告書を補完するため検甲第1号証のソリッドタイヤの全景写真、トレッドラジアス測定、硬度測定、タイヤ縦バネ定数、100%モジュラス測定を行っている状況を撮影したものとするもの。
甲第2号証:「技術情報 春日井工場品質保証部 件名 ユニーク及びソリッドタイヤセリアルの件」(愛知タイヤ工業(株)、平成元年2月15日作成) ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」の末尾の「BA30」は年月日を表すセリアルナンバであり、平成2年1月30日であり、検甲第1号証のソリッドタイヤが少なくとも平成2年2月には公然と実施されていたとするもの。
甲第3号証:「承認申請願図」(名称「5.50-15/4.50E CA UNIQUE SOLID TIRE(BATTERY)」 平成4年10月18〜20日承認 検甲第1号証のソリッドタイヤの承認申請願図であり、平成3年11月14日に愛知タイヤ工業株式会社技術部が出図し、1992年1月18〜20日に神鋼電機(株)伊勢製作所第二技術部が承認したものとするもの。
甲第4号証:「請求書」(愛知タイヤ工業(株)から神鋼電機(株)伊勢事業所に宛てたもの、平成4年20日作成) 「UT5.50-15CA/4.50E」につき請求書を発行しており、「UT」は「UNIQUE SOLID TIRE」の略称、「CA」は「キャリーエース」の略称であるから検甲第1号証のソリッドタイヤと一致するものとするもの。
甲第5号証:「検収明細表」(神鋼電機(株)から愛知タイヤ工業(株)に宛てたもの、92年10月分) 1992年10月分として品名・仕様「タイヤASSYリブラグ5.50-15」は「UT5.50-15CA/4.50E」を含むタイヤアッシーであることは明らかとするもの。甲第3ないし5号証によれば、検甲第1号証のソリッドタイヤを平成4年10月頃に、愛知タイヤ工業(株)が神鋼電機(株)へ販売したことを神鋼電機(株)の技術本部 第二技術部フォークリフト主管次長である吉川晃弘の証人尋問により立証するための証拠であるとするもの。
甲第6号証:「見積書」(愛知タイヤ工業(株)から住友エール(株)へ宛てたもの、平成4年5月19日) 品名:ユニーク キャリーエース サイズ5.50-15CAである検甲第1号証のソリッドタイヤが本件特許発明の優先日前の平成4年頃に公然実施されていたことを愛知タイヤ工業(株)技術部部長 野竿源治の証人尋問により立証するための証拠であるとするもの。
甲第7号証:「ユニークタイヤ 新キャリーエース性能試験結果のご報告の件」(愛知タイヤ工業株式会社、平成3年10月15日作成) 新キャリーエース”CA”の断面図とトレッドパターン図、及びタイヤ諸元が記載され、検甲第1号証のソリッドタイヤが本件特許発明の優先日前の平成4年頃に公然実施されていたことを愛知タイヤ工業(株)技術部部長 野竿源治の証人尋問により立証するための証拠であるとするもの。
甲第8号証の1:出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月16日作成) 甲第7号証の報告書が出張先で報告したとするものである。
甲第8号証の2:「日帰り出張、有料道路許可願(精算)」(平成3年10月15日作成)
甲第8号証の3:「試験研究諸費用支払明細」(平成3年10月16日作成)
甲第8号証の1〜3は、本件特許発明の優先日前の平成3年10月頃に検甲第1号証のソリッドタイヤが公然実施されていたことを立証するため、新キャリーエースの説明のため住友エール(株)へ出張訪問した際の出張関連書類であるとするもの
甲第9号証の1:「出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月18日作成)
甲第9号証の2:「出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月18日作成)
甲第9号証の3「日帰り出張、有料道路許可願(精算)」(平成3年10月9日作成)
甲第9号証の4:試験研究諸費用支払明細」(平成3年10月21日作成)
甲第9号証の1〜4は、本件特許発明の優先日前の平成3年10月頃に検甲第1号証のソリッドタイヤが公然実施されていたことを立証するため、新キャリーエースの説明のため日本輸送機(株)及び東洋運搬機(株)へ出張訪問した際の出張関連書類であるとするもの
甲第10号証の1:「出張報告書(新キャリーエース説明会)」(平成3年10月24日作成)
甲第10号証の2:「出張旅費精算書」(平成3年10月21日作成)
甲第10号証の3:「試験研究諸費用支払明細」(平成3年10月24日作成)
甲第10号証の1〜3は、本件特許発明の優先日前の平成3年10月頃に検甲第1号証のソリッドタイヤが公然実施されていたことを立証するため、新キャリーエースの説明のため日産自動車(株)へ出張訪問した際の出張関連書類であるとするもの
甲第8号証の1〜3、甲第9号証の1〜4、甲第10号証の1〜3により検甲第1号証のソリッドタイヤが本件特許発明の優先日前の平成3年10月頃に公然実施されていたことを愛知タイヤ工業(株)技術部部長 野竿源治、愛知タイヤ工業(株)営業本部環境資材部部長 本間勝行、愛知タイヤ工業(株)営業本部本社営業部直需室室長 日比野龍次、愛知タイヤ工業(株)営業本部本社営業部直需室販売促進担当 今井田健治らの証人尋問により立証するとしている。
甲第11号証の1:「ニューマチック形ソリッドタイヤ Unique バッテリ車用キャリーエース」のパンフレット 本件特許発明1と同一構成を備えたソリッドタイヤが示されているとするもの。
甲第11号証の2:「証明書」(上記パンフレットの頒布日を証明するもの) 甲第11号証の1のパンフレットが遅くとも平成4年12月迄に公然と頒布されたものであることを証明するためとするもの。
甲第12号証:特公平2-40521号公報
甲第13号証:特開平4-118303号公報
甲第12、13号証は、ソリッドタイヤのトレッド面の曲率半径を250〜400mmとすることが本件特許発明の優先日前に周知技術であったことを示すとするもの。
甲第14号証:特公平3-47202号公報
甲第15号証:特開平4-164630号公報
甲第16号証:特開平4-208442号公報
甲第14号証ないし甲第16号証は、ソリッドタイヤがベースゴム層とトレッドゴム層を備えること、トレッドゴム層が、JISA硬度が63HS、100%モジュラスが30kg/cm2、タイヤ基体の縦バネ定数が205kg/mmであることが本件特許発明1の優先日前に周知技術であったことを示すとするもの。
甲第17号証:「自動車整備技術 タイヤ整備」第6〜11頁、全国タイヤ商工協同組合連合会、平成2年4月30日発行
タイヤ赤道に対し約60°の角度で傾き。トレッド縁に向かう途中で向きが変わっているリブ・ラグ併用型のタイヤトレッド・パターンが周知技術であることを示すとするもの。
各証人別尋問事項書
下記各証人に対する証人尋問事項として、1.職業について。2.ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」について。3.その他本件に関連した事項。の項目について尋問することを記載したもの。
各証人の尋問により証明しようとする内容は、以下のとおりであるとするもの。
吉川 晃弘:平成4年ごろ神鋼電機株式会社の技術本部第二技術部フォークリフト主管次長であり、同年10月に請求人会社より、ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」を購入したことを証明する。
野竿 源治:平成4年ごろ愛知タイヤ株式会社の技術部部長であり、ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」の構造を証明する。
本間 勝行:平成4年ごろ愛知タイヤ株式会社のユニークタイヤ営業部企画課課長であり、ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」のを販売したことを証明する。
日比野 龍次:平成4年ごろ愛知タイヤ株式会社のユニークタイヤ営業部直需課課長代理であり、ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」のを販売したことを証明する。
今井田 健治:平成4年ごろ愛知タイヤ株式会社のユニークタイヤ営業部の一員であり、ソリッドタイヤ「CARRYACE Unique 5.50-15/4.50E SOLID BA30」のを販売したことを証明する。
6.当審の判断
特許無効審判請求人が主張する上記無効理由について検討する。
(1)無効理由(i)について、
甲第1号証の1、2の財団法人化学物質評価研究機構作成の試験報告書の試験項目・結果によれば、検甲第1号証のソリッドタイヤは、試験項目(2)に示されているように、リムに装着された状態でのタイヤ軸を含む子午断面において、トレッド面の曲率半径が250〜280mmであり、また、添付写真全景-3に示されているように、トレッド面には、トレッド面の中央領域内かつタイヤ赤道の両側に、タイヤ円周方向に伸びる2本の縦溝が設けられている。さらに、トレッド面には、トレッド縁からそのトレッド縁に近い一方の縦溝に至る多数の横溝が設けられ、この横溝は、トレッドパターン角度の試験項目に記載されているように、60°(中心側)から90°(淵側)へ変化と表現されている。
そこで、本件特許発明1(以下、前者という)と上記検証物のソリッドタイヤ(以下、後者という)とを特許無効請求人の主張に従い対比すると、両者ともに、リムに装着されかつ一体なタイヤ基体からなるニューマチック型のソリッドタイヤであり、上記のとおりの後者の「トレッド面の曲率半径」、「縦溝」、「多数の横溝」は、それぞれ前者の「正規リムに装着された状態でのタイヤ軸を含む子午断面におけるトレッド面の曲率半径」、「トレッド面中央領域内かつタイヤ赤道の両側に配されかつタイヤ円周方向にのびる2本の縦溝」、「トレッド縁からトレッド縁に近い一方の縦溝に至る複数の横溝」に対応するものであり、さらに、トレッド面の曲率半径については、後者では250〜280mm、前者では250〜450mmと重複するものであり、この点でも一致することが認められる。
前者の構成要件である横溝について、前者では「タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変えること」であるのに対し、後者の構成は、60°(中心側)から90°(淵側)へ変化と試験結果に表現されている点で相違している。
この横溝の構成上の差異について検討すると、前者では、「タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度で傾く」と記載されているのに対し、後者では、中心側で60°と記載されるのみで、何に対しての角度か試験結果では不明であるが、甲第1号証の1、2の全記載を参酌すると、縦溝からトレッド縁側に向かうにつれ、角度が変化する横溝の傾き角は、タイヤ赤道に対する角度と認めることができ、前者のタイヤ赤道に対して45°〜70°の範囲内の60°であるものと認められ、両者に差異は認められない。
また、横溝のトレッドパターンは、前者では、「タイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変える」と記載され、向きは「く字状に反対に」変わるのに対し、後者では、60°(中心側)から90°(淵側)へと変化と記載され、溝全体の形状は、く字状に変化していると言えば言えないことはない。しかしながら、前者は、単に、横溝全体がく字状というだけでなく、向きが「く字状に反対に」変化するという記載から、その「反対に」という特定には、横溝がタイヤ赤道を中心として右下がりに傾きを有していた場合、ある点から跳ね上がり、方向が右上向きを示すようになるようなことを意味しているもので、傾きの「向き」が正負反対に変わると解される。しかも、その傾きの角度は、タイヤ赤道に対して45°〜70°を有するものであるのに対し、後者では、その傾きが右下がりから傾きゼロとなるもので、傾きの向きが変わった後の角度は90°であり、タイヤ赤道に対する角度は前者のそれと一致しない。両者は、トレッドパターンとして明らかに相違するものである。
以上のとおり、検証物のソリッドタイヤは、仮に、検甲第1号証のソリッドタイヤが日本国内において本件特許の優先日前に公然実施されていたものとしても、本件特許発明1と同一の構成を備えたものとは認められない。
したがって、この検証物について検証する必要性は認められず、また、検甲第1号証のソリッドタイヤの構成及び公知性等についての証人吉川晃弘、野竿源治、本間勝行、日比野龍次、今井田健治に対する証人尋問の必要性も認められない。
本件特許発明1について上記のとおりであり、本件特許発明2は、本件特許発明1の構成要件に、新たにタイヤ基体がベースゴム層とキャップゴム層とを具え、キャップゴム層がJISA硬度が60〜75度でありかつ100%伸張時の引張弾性率を30〜45kgf/cm2と特定しており、仮に、検甲第1号証のソリッドタイヤが日本国内において本件特許の優先日前に公然実施されていたものとしても、本件特許発明1と同様な理由で、本件特許発明2は、検甲第1号証のソリッドタイヤと同一の構成を備えたものとは認められない。
(2)無効理由(ii)-1について
本件特許発明4は、本件特許発明1の構成要件に、新たにタイヤ基体は、その縦バネ定数を150〜210kgf/mmと特定しており、仮に、検甲第1号証のソリッドタイヤが日本国内において本件特許の優先日の出願前に公然実施されていたとしても、本件特許発明4は、本件特許発明1と同様な理由で、検甲第1号証のソリッドタイヤと同一の構成を備えたものではないものであり、甲第14号証ないし甲第16号証に記載のようにタイヤ基体の縦バネ定数が205kg/mmである点が本件特許の優先日前周知技術であったとしても、いずれの証拠にも本件特許発明1の構成要件である「タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変えること」からなるトレッドパターンについて記載も示唆もするところがない上、前記トレッドパターンとすることにより空車時であっても積車時と同等に車輌の振動を少なくでき、かつ車両の片流れを減じうるという格別の効果を奏するものであるから、検甲第1号証のソリッドタイヤ、甲第14号証ないし甲第16号証の周知技術から本件特許発明4を容易に想到することができたとすることはできない。
(3)無効理由(ii)-2について
甲第11号証の1の「ニューマチック形ソリッドタイヤ Unique バッテリ車用キャリーエース」のパンフレットは、仮に、甲第11号証の2の証明書どおり本件特許の優先日前に公知であったとしても、上記パンフレットには、ニューマチック形ソリッドタイヤ Unique バッテリ車用キャリーエースと表記され、タイヤの写真が掲載され、タイヤ諸元表にはタイヤサイズ;5.50-15、リム;4.50E、パターン;CA、タイヤ外径、タイヤ巾、重量が記載されるのみであり、さらに、パンフレットの写真から強いて読みとるならば、トレッド面の中央領域内かつタイヤ赤道の両側に配されかつタイヤ円周方向にのびる2本の縦溝と、トレッド縁からトレッド縁に近い一方の縦溝に至る複数の横溝があることまでは認められる。してみると、甲第11号証の1のパンフレットには、本件特許発明1、2、4に記載の、正規のリムに装着された状態でのタイヤ軸を含む子午断面において、トレッド面の曲率半径RTを250〜450mmとすること、横溝がタイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変える構成について記載するところはない。
ここで、仮に、被請求人が答弁書第4頁下から6行〜第5頁7行において記載しているように、パンフレットのソリッドタイヤが検甲第1号証のソリッドタイヤと同じものであったとしても、上記(i)-1の項で詳述したように、パンフレットのソリッドタイヤには、本件特許発明1、2、4の構成要件である「タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変えること」からなるトレッドパターンについて記載も示唆もするところがない上、前記トレッドパターンとすることにより空車時であっても積車時と同等に車輌の振動を少なくでき、かつ車両の片流れを減じうるという格別の効果を奏するものであるから、甲第11号証の1、2及び甲第12号証ないし甲第16号証の周知技術から本件特許発明1、2、4を容易に想到することができたとすることはできない。
したがって、これらの点からも、この検証物について検証する必要性は認められず、また、検甲第1号証のソリッドタイヤ、甲第11号証の1のパンフレットに記載のソリッドタイヤの構成及び公知性等についての証人吉川晃弘、野竿源治、本間勝行、日比野龍次、今井田健治に対する証人尋問の必要性も認められない。
結局、本件特許発明1、2は、特許無効審判請求人の上記無効理由(i)で主張する発明に該当するものとすることはできないし、本件特許発明4又は本件特許発明1、2、4は、特許無効審判請求人の上記無効理由(ii)-1.及び(ii)-2.で主張する発明に該当するものとすることはできない。
(5)むずび
以上のとおりであるから、特許無効審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、特許無効審判請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ニューマチック型ソリッドタイヤ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リムに装着されかつ一体なタイヤ基体からなるニューマチック型ソリッドタイヤであって、
正規リムに装着された状態でのタイヤ軸を含む子午断面において、トレッド面の曲率半径RTを250〜450mmとするとともに、前記トレッド面に、トレッド面の中央領域内かつタイヤ赤道の両側に配されかつタイヤ円周方向にのびる2本の縦溝と、トレッド縁から該トレッド縁に近い一方の縦溝17に至る複数の横溝6…とを設け、しかも前記横溝は、タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変えることを特徴とするニューマチック型ソリッドタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ基体は、リム側のベースゴム層と、JISA硬度が60〜75度でありかつ100%伸張時の引張弾性率を30〜45kgf/cm2とししかもトレッド面をなすキャップゴム層とを具えることを特徴とする請求項1記載のニューマチック型ソリッドタイヤ。
【請求項3】
前記ベースゴム層は、キャップゴム層との間に、JISA硬度が45〜55度でありかつ100%伸張時の引張弾性率を15〜25kgf/cm2とした中間ゴム層を介在させたことを特徴とする請求項1又は2記載のニューマチック型ソリッドタイヤ。
【請求項4】
前記タイヤ基体は、その縦バネ定数を150〜210kgf/mmとしたことを特徴とする請求項1、2、又は3のいずれかに記載のニューマチック型ソリッドタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、車両の振動を抑制して乗心地を向上でき、かつ車両の片流れを減じうるニューマチック型ソリッドタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境改善の一環として、フォークリフト等の産業車両にあってもバッテリカーの比率が高くなっており、路面整備の充実とも関連して、車両の振動問題が大きくとりあげられるようになってきた。
【0003】
特に、フォークリフトなどの産業車両が荷物を積載していないいわゆる空車であるとき、あるいは積荷が軽いときには、産業車両用タイヤとして用いられるソリッドタイヤと路面との接地圧が小さくなり、ソリッドタイヤのトレッド面をなすゴムが路面の凹凸を十分に吸収できないため、車両の振動が増大する傾向にある。
【0004】
しかもフォークリフト等の産業車両には、通常、板バネ、ショックアブソーバー等の振動抑制機能が装備されていないため、前記ソリッドタイヤは、耐カット性、耐摩耗性などの諸特性に加えて、路面からの衝撃等による振動を緩和する性能が強く要求される。
【0005】
他方、前記ソリッドタイヤのトレッドパターンは、従来、車両の進行方向に直角な横溝で構成されたいわゆるラグパターンが主流であり、これにより駆動力、制動力を高めていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながらこのようなラグパターンを設けたソリッドタイヤは、駆動力、制動力を向上しうる反面、振動を緩和する性能は低い。
【0007】
その理由は、横溝がタイヤ赤道に対してほぼ90°の角度で設けられるため、溝縁の偏摩耗(ヒールアンドトウ摩耗)を誘発しやすく、タイヤのトレッド面に凹凸が生じるなど摩耗外観が悪化すること等が挙げられる。
【0008】
従って、図3に示すように、横溝gをタイヤ赤道cに対して傾けることも提案されているが、かかる場合、タイヤに方向性が生じ、例えばハンドルを手放した際において所定の距離を走行する間に、その進行方向線に対して片側に位置ずれし横流れするいわゆる車両の片流れが生じるという新たな問題点が発生する。
【0009】
本発明は、トレッド面の曲率半径RTを250〜400mmとするとともに、トレッド面にタイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変える複数の横溝を設けることを基本として、空車時であっても積車時と同等に車両の振動を少なくでき、かつ車両の片流れを減じうるニューマチック型ソリッドタイヤの提供を目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、リムに装着されかつ一体なタイヤ基体からなるニューマチック型ソリッドタイヤであって、
正規リムに装着された状態でのタイヤ軸を含む子午断面において、トレッド面の曲率半径RTを250〜450mmとするとともに、前記トレッド面に、トレッド面の中央領域内かつタイヤ赤道の両側に配されかつタイヤ円周方向にのびる2本の縦溝と、トレッド縁から該トレッド縁に近い一方の縦溝17に至る複数の横溝6…とを設け、しかも前記横溝は、タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変えている。
【0011】
なお前記タイヤ基体は、リム側のベースゴム層と、JISA硬度が60〜75度でありかつ100%伸張時の引張弾性率を30〜45kgf/cm2とししかもトレッド面をなすキャップゴム層とを具えることが望ましい。
【0012】
さらに前記ベースゴム層は、キャップゴム層との間に、JISA硬度が45〜55度でありかつ100%伸張時の引張弾性率を15〜25kgf/cm2とした中間ゴム層を介在させることが望ましい。
【0013】
又前記タイヤ基体は、その縦バネ定数を150〜210kgf/mmとすることが望ましい。
【0014】
【作用】
トレッド面の曲率半径RTを従来よりも小さい250mm〜450mmとしているため、接地面における接地圧分布を適正な値で均一化でき、振動を低減し、かつ耐摩耗性を向上しうる。すなわち、例えばフォークリフトに装着され前輪をなす本発明のニューマチック型ソリッドタイヤは、空車、あるいは積荷が軽いときには、図4に示すように、例えばタイヤ赤道両側に設けられた周方向にのびる縦溝g1、g1によりトレッド面に形成されるリブrによって接地域s1の大部分が占められるため、このリブrによって接地感を維持しつつ路面との接地面積を減じることができ、接地圧を高めうる結果、路面の凹凸をトレッド面の主にリブrで効果的に吸収し、振動を抑制しうる。
【0015】
前記曲率半径RTが250mmよりも小さいと、トレッドセンター部の接地圧が不均一に高くなり、センター摩耗を引起こす原因となる一方、450mmをこえると、接地面積の広がりに伴い接地圧が低下し、振動を発生させやすくなる。
【0016】
又トレッド面に、タイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変える複数の横溝を設ける。従って、従来の進行方向に直角な横溝に比して溝縁での偏摩耗を減じ、トレッド面の変形を抑制しうるため、振動の発生を効果的に低減でき、乗心地を向上しうるとともに、横溝はその向きを変えるため、タイヤに方向性が生じることもなく、車両の片流れを減少しうる。
【0017】
なお前記角度θが45°未満のとき、グリップ力が不足する傾向が顕著となり、駆動力、制動力を低下させる一方、角度θが70°をこえると、溝縁でのヒールアンドトウ摩耗が発生しやすくなり、トレッド面の摩耗外観を悪化させ、振動を助長するとともに、タイヤ寿命が短くなる。
【0018】
又タイヤ基体を、リム側のベースゴム層、その半径方向外側に配される中間ゴム層、及びトレッド面をなすキャップゴム層から形成し、該中間ゴム層のJISA硬度を45〜55度、キャップゴム層のJISA硬度を60〜75度とするとともに、タイヤ基体の縦バネ定数を従来よりも小さい150kgf/mm〜210kgf/mmの範囲にすることによって、図5に示すように、荷物を積載した積車時において、その接地域s2内に前記横溝を含ませるように接地域を拡大でき、前述したようにこの横溝により振動を低減しうる。
【0019】
なおトレッド面の曲率半径RTを従来のものよりも小さい250mm〜450mmとし、かつ縦バネ定数を150〜210kgf/mmとすることにより、積車時の接地域s2のタイヤ周方向の最大長さL1及びタイヤ軸方向の最大長さL2は、空車時の接地域s1のタイヤ周方向の最大長さL3及びタイヤ軸方向の最大長さL4の夫々1.5〜1.8倍程度に増大できることが判明した。
【0020】
キャップゴム層のJISA硬度を60度より小さくすると、トレッド面などにおける耐カット性、耐損傷性が低下し、タイヤ寿命を短くする一方、75度よりも大きいと、トレッドにおける剛性が過度に大きくなるため、路面との接地性が悪化し、スリップしやすくなる他、衝撃緩和力が不足して、振動が激しくなり、乗心地を低下させる傾向が強くなる。
【0021】
又前記中間ゴム層のJISA硬度が45度未満の場合、タイヤの縦バネ定数が過度に小さくなり、振動の減衰性能及び収斂性能を低下させる一方、55度をこえると、縦バネ定数が過大となり、乗心地性を低下させる。
【0022】
なお前記縦バネ定数の下限値150kgf/mmと上限値210kgf/mmとは、以下に説明する手法で求められ、かつフォークリフトの前輪タイヤとして用いることにより前記接地域s1と接地域s2との寸法比が前記の如く確認された。
【0023】
すなわち図6に示すように、タイヤサイズを横軸に、JIS D6401で規定される最大荷重(ただし最高速度20km/Hのフォークリフトの荷重輪に加わる荷重を代表して採用した)を縦軸にとって、各タイヤサイズに作用する最大荷重をプロットし、タイヤサイズ-最大荷重曲線CLを定めるとともに、タイヤサイズが23×9-10であるソリッドタイヤの縦バネ定数を、従来の同サイズのもの(265kgf/mm)に比して小さい175kgf/mmとしてタイヤサイズ-縦バネ定数曲線CMを図6に併せて描いた。この曲線CMは、タイヤサイズが大きくなるにつれ、最大荷重を担持するべく縦バネ定数も大きくなることから図6において右上がりの滑らかな曲線になるが、大荷重を受けるタイヤの縦バネ定数をあまり大きくすると乗心地が低下するため、曲線CMは前記曲線CLに比して勾配が緩く設定される。又曲線CMを中心線として各タイヤサイズの縦バネ定数の5%程度を下限、上限とする曲線CM1、CM2を夫々描き、下限の曲線CM1の下端を縦バネ定数の下限値、上限の曲線CM2の上端を上限値として採用した。従って、縦バネ定数の適正値はタイヤサイズごとに異なり、例えばタイヤサイズが23×9-10のタイヤでは、その縦バネ定数を165kgf/mm以上かつ185kgf/mm以下とするのが好ましい。
【0024】
さらにキャップゴム層の100%伸長時の引張弾性率を30〜45kgf/cm2の範囲とし、中間ゴム層の100%伸張時の引張弾性率を15〜25kgf/cm2とすることにより、タイヤの縦バネ定数、及び横バネ定数をバランスよく適正化し、振動を抑える。
【0025】
キャップゴム層の100%引張弾性率が30kgf/cm2よりも小さいと、トレッドパターンの横剛性に比例する横バネ定数が小さくなり、タイヤの横力が低減するため、振動を誘発しやすい。逆に45kgf/cm2をこえると、縦バネ定数が低減し、乗心地の低下を招く。
【0026】
又中間ゴム層の100%引張弾性率が15kgf/cm2未満の場合、タイヤの縦バネ定数が過小となり、振動減衰性の低下を招く一方、25kgf/cm2をこえると、縦バネ定数が過度に大きくなり、乗心地を低下させる一因となる。
【0027】
このように本発明は前記した構成が有機的に結合することにより、空車時及び積車時双方において走行中の振動を少なくでき、乗心地を向上しうるとともに、車両の片流れを減じうる。
【0028】
【実施例】
以下本発明の一実施例を図面に基づき説明する。
図1、図2において本発明のニューマチック型ソリッドタイヤ1は、リムRに装着される環状のベースゴム層2と、その半径方向外側を囲む環状の中間ゴム層3と、その半径方向外側に配されるとともにトレッド面4Aをなす環状のキャップゴム層4とからなる一体なタイヤ基体5を具える。
【0029】
又ベースゴム層2は、ビードベースラインBLからの高さTBを、前記リムRのフランジRFのビードベースラインBLからの高さHよりも高く、かつタイヤの半径方向断面高さTHの30〜50%の範囲に設定されるとともに、タイヤ軸を含む子午断面において、前記中間ゴム層3に接しかつタイヤ軸方向にのびる界面S1が形成される。なおベースゴム層2は、JISA硬度が55度以上かつ80度以下、100%伸張時の引張弾性率が25kgf/cm2以上かつ50kgf/cm2以下の比較的硬いゴム組成物を用いて形成され、リムRに対するすべりを防止している。
【0030】
又ベースゴム層2は、その内周面に、前記リムRが嵌着し、押圧されることにより該リムRに取付けられる。
【0031】
前記中間ゴム層3は、JISA硬度が45度以上かつ55度以下、100%伸張時の引張弾性率が15kgf/cm2以上かつ25kgf/cm2以下のゴム組成物を用いて形成されるとともに、中間ゴム層3の半径方向断面高さTAは、タイヤ断面高さTHの20〜30%の範囲に設定されしかも前記子午断面において、キャップゴム層4に接しかつタイヤ軸方向にのびる界面S2が形成される。前記比TA/THの値が20%未満では、比較的柔軟な中間ゴム層3が薄くなり、振動を抑制しきれず、乗心地が低下する。又30%よりも大きくなると、曲げ剛性の大きいベースゴム層2のゴム厚さが薄くなるため、リムスリップが発生しやすくなる。
【0032】
前記キャップゴム層4には、JISA硬度が60度以上かつ75度以下、かつ100%伸張時の引張弾性率が30kgf/cm2以上かつ45kgf/cm2以下の耐摩耗性、耐カット性に優れたゴム組成物が使用される。又正規リムに装着された状態での前記子午断面における前記トレッド面4Aの曲率半径RTは、250mm以上かつ450mm以下に設定されるとともに、キャップゴム層4は、前記中間ゴム層3のタイヤ軸方向外側面において、前記界面S2を半径方向内方にこえて延在し前記リムRに至るサイドウォールゴム15を一体に具え、これによりサイドウォールゴム15の外側面における耐カット性、耐損傷性を向上することが出来る。
【0033】
なお前記中間ゴム層3を省略してベースゴム層2の高さを大きくすることによってタイヤ基体5を形成してもよい。又中間ゴム層3、ベースゴム層2のタイヤ軸方向外側面をタイヤ側面として成形することも出来る。
【0034】
又タイヤ基体5の縦バネ定数は150kgf/mm以上かつ210kgf/mm以下に設定される。なお縦バネ定数を150kgf/mmよりも小さくすると、タイヤ基体5が過度に柔らかくなり、耐摩耗性、操縦安定性を低下させる一方、210kgf/mmよりも大きいと、【作用】の欄で述べた接地域s2を十分に拡大できず、振動の抑制を阻害する。
【0035】
前記トレッド面4Aには、図2に示すように、タイヤ赤道Cの両側に配されかつタイヤ円周方向に連続してのびる2本の縦溝17、17と、トレッド縁Eから該トレッド縁Eに近い一方の縦溝17に至る複数の横溝6…とが設けられる。
【0036】
前記縦溝17は、溝深さD1を8.0mm程度としかつ例えば波形状に周方向にのびるとともに、2本の縦溝17、17は、タイヤ軸方向外側に位置する波形の頂部M…をタイヤ周方向にずらせてトレッド面4Aの中央領域N内に配設される。
【0037】
なお前記中央領域Nとは、タイヤを正規リムに装着しかつ規定の最大荷重を付加した状態での接地域Sのタイヤ軸方向の長さである接地巾WSの1/7倍の距離Dをタイヤ赤道Cから夫々隔てた領域であって、この中央領域N内に、前記縦溝17、17が、その溝巾を含めて完全に形成される。縦溝17、17を中央領域Nの外側に形成した場合には、横力が不足しがちとなり、操縦安定性を低下させる。
【0038】
又前記横溝6は、タイヤ赤道Cに対して45°以上かつ70°以下の角度θ(θ2)で前記縦溝17の頂部Mからタイヤ軸方向に傾いてのびる内側の溝部6Aと、この内側の溝部6Aのタイヤ軸方向外端からく字状に折曲がってトレッド縁Eに向かって前記角度θ(θ1)で傾いてのびかつ該トレッド縁Eで開口する外側の溝部6Bとからなる。従って、タイヤ周方向に平行に並ぶ横溝6は、前記内側、外側の溝部6A、6Bの接合部においてタイヤ赤道Cからトレッド縁Eまでの間でタイヤ赤道Cに対する向きをく字状に反対に向きを変える。なおタイヤ赤道C両側の各横溝6…は、本実施例では、タイヤ赤道C上の一点で180°回転することにより重なる如く形成しているが、タイヤ赤道Cに対して線対称となる如く角度θの向きを設定してもよい。
【0039】
又横溝6の溝深さD2は、前記縦溝17の溝深さD1の3倍程度に設定され、これにより駆動力及び制動力を維持する。
【0040】
さらに前記接地域Sに少なくとも3本の横溝6をほぼ完全に含ませるように該横溝6のピッチ間隔を規制する(パターンピッチ数は28〜31である。)。ここで「ほぼ完全」とは、横溝6のタイヤ軸方向の長さLの1/2以上が接地域Sに含まれていることを意味する。このようにすることによって、横溝6による車両の片流れ防止効果を高め、かつ振動を効率よく抑制することが出来る。なお1/2L以上の長さが接地域Sに含まれる横溝6の数は、3〜5本とする。5本よりも大きくなると、トレッド面4Aの耐摩耗性が低下し、摩耗外観を悪くする場合がある。又前記縦溝17、17は、省略してもよい。
【0041】
【具体例】
タイヤサイズが23×9-10でありかつ図1に示す構成を有する本発明のニューマチック型ソリッドタイヤについて、表1、表2に示す仕様にて試作する(実施例1〜4)とともに、振動乗心地性能についてテストした。なお図3に示すトレッドパターンを有する従来のタイヤ(比較例1)、及び発明外のタイヤ(比較例2〜5)についても併せてテストを行いその性能を比較した。
【0042】
振動乗心地テストは、各試供タイヤをリムに装着するとともに、突起付きドラム試験機上で低速域:5〜8km/H、高速域:15〜16km/Hの基で夫々回転させ、回転中のタイヤの回転軸に生じる力の大きさを測定するものであり、測定結果を比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど良好であることを示す。
【0043】
なお駆動、制動性能、トレッド面の摩耗外観、耐損傷性も併せてテストを行い、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど良好である。
テスト結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
テストの結果、実施例のものは比較例のものに比べて、振動を減じ、乗心地性を向上していることが確認できた。
【0047】
【発明の効果】
叙上の如く本発明のニューマチック型ソリッドタイヤは、トレッド面の曲率半径RTを250〜450mmとし、かつタイヤ赤道に対して45°〜70°の角度θで傾きかつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変える複数の横溝を設けているため、路面との接地域を空車時、積車時夫々において適正化し、トレッド面の耐摩耗性を高め、振動を減じうるとともに、車両の片流れを低減でき、特にフォークリフトの前輪用タイヤとして好適に採用しうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例を示すタイヤ右半分子午断面図である。
【図2】
そのトレッドパターンを示す平面図である。
【図3】
従来の技術を説明するための平面図である。
【図4】
空車状態での接地域を示す平面図である。
【図5】
積車状態での接地域を示す平面図である。
【図6】
縦バネ定数とタイヤサイズとの関係を示す線図である。
【符号の説明】
2 ベースゴム層
3 中間ゴム層
4 キャップゴム層
4A トレッド面
5 タイヤ基体
6 横溝
【表1】

【表2】

 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変え」とあるのを、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的として、「タイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きをく字状に反対に変え」と訂正する。
訂正事項2-1.
特許第2916077号発明の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち出願当初明細書第3頁段落[0010]6〜7行(特許公報第2頁右欄7〜8行)、第4頁段落[0016]1〜2行(特許公報第2頁右欄40〜41行)、第11頁段落[0047]3〜4行(特許公報第5頁左欄44〜45行)に記載した「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変え」とあるのを、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に応じて整合させることを目的として「かつタイヤ赤道からトレッド縁までの間でタイヤ赤道に対する向きを反対に変え」にそれぞれ訂正する。
訂正事項2-2.
特許第2916077号発明の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち出願当初明細書第9頁段落[0038]6〜7行(特許公報第4頁右欄15〜16行)に記載した「タイヤ赤道からトレッド縁までの間で向きを変える」とあるのを、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に応じて整合させることを目的として「かつタイヤ赤道Cからトレッド縁Eまでの間でタイヤ赤道Cに対する向きをく字状に反対に変える」と訂正する。
審理終結日 2001-07-12 
結審通知日 2001-07-17 
審決日 2001-08-01 
出願番号 特願平6-49678
審決分類 P 1 122・ 112- YA (B60C)
P 1 122・ 121- YA (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 喜納 稔
石井 克彦
登録日 1999-04-16 
登録番号 特許第2916077号(P2916077)
発明の名称 ニューマチック型ソリッドタイヤ  
代理人 田中 敏博  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 苗村 正  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 苗村 正  
代理人 足立 勉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ