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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない B63B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない B63B
管理番号 1050704
審判番号 無効2000-35637  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-11-24 
確定日 2001-09-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3048865号発明「船舶の動揺軽減装置の制御方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3048865号は、平成6年11月7日に特許出願され、平成12年3月24日にその設定登録なされたものである。
これに対して、平成12年11月24日付けで、審判請求人エヌケーケー総合設計株式会社より、特許無効審判の請求がなされ、その答弁の期間である平成13年3月7日に、願書に添付された明細書についての訂正の請求がなされたものである。

2.被請求人の求める訂正
被請求人が求める訂正は、平成13年3月7日付け訂正請求書に記載されたとおりの、以下のものである。

2-1-1特許請求の範囲の欄の記載に関して
訂正事項1
請求項1に記載の「・・前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つグループ(8a,9,10)を設定するとともに、・・」を「・・減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、・・」と訂正する。
訂正事項2
請求項1に記載の「・・これらの各グループが持つ有効範囲(7a,7b)の隣接する箇所を・・その有効範囲から・・」を「・・これらの各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を・・その周期範囲から・・」と訂正する。

3.請求人の求めた審判
審判請求人エヌケーケー総合設計株式会社は、
甲第1号証の刊行物として、「雑誌「漁船」第312号(平成6年8月発行)表紙、第90〜106頁、奥付」、
甲第2号証の刊行物として、「雑誌「漁船」第305号(平成5年6月発行)表紙、第41〜53頁、奥付」、
甲第3号証の刊行物として、「雑誌「漁船」第312号(平成6年8月発行)表紙、第59〜89頁、奥付」、及び、
甲第4号証の刊行物として、「プロセス計測制御便覧(昭和35年8月20日発行)中表紙、目次、第62、63、78〜81頁、奥付」
を提出して、概略以下の主張をなしている。

3-1 本件特許発明の新規性に係る主張
本件特許に係る出願の出願前に頒布された刊行物である、甲第1号証には、実習船「加能丸」に関し、以下の記載がある。
「受動U字管型のART(アンチローリングタンク)は狭い範囲の周期に対してのみ減揺効果を発揮するが、・・・という欠点がある。」(第95頁第左欄第8〜12行)
「そのため、刻々変わる船の横揺周期に対し、ARTの固有周期をその都度変更させる必要があり、乗組員に多大の負担を掛けていた。そこで、今回装備するARTの基本的な設計条件は、
1.広範囲の周期に追従させる・・・」(第95頁左欄第第12〜17行)
「これらの条件を満足させるべく、スタビロ製・受動U字管型・周期可変自動制御方式のARTを魚倉区画後部(FR.51〜56間)に装備した。」(第95頁左欄第22〜24行)
「最大の特徴は、『航行中スイッチ』を押すだけで、広い範囲の動揺周期にわたって、最適な減揺効果が得られるよう、液体の移動周期を自動的に制御するもので、制御に必要な油圧ポンプや移送ポンプユニット等は、必要な時だけ自動発停をする。」(第95頁左欄第28〜第32行)
「左右のウイングタンクを下部ダクトで連結する受動U字管型の構造で燃料タンク兼用とした。」(第95頁右欄第10〜11行)
「バルブを廃止し、空気ダクトの中へA重油を注入、あるいは排出させ、空気の流通を制御する事でバルブの機能をもたせる機構とした。そのため、空気ダクト専用の移送ポンプ、電気式液面計及び配管系統を独立させた。(写真1参照)」(第95頁右欄第15〜19行)
「・・周期可変
下部ダクトの縦断面積を調整する油圧駆動の開閉器付ダンパーを2組設けた。」(第95頁右欄第20〜22行)
「海図室後部に設けたスタビロ操作盤は、ARTの効果を充分に発揮させる為、船体の動揺周期を計測演算し平均周期の状態に応じた制御信号を送出し、ART制御室内の下部ダンパー、バルブ等を自動的に制御する。」(第95頁右欄第28〜32行)
「船の横揺周期と本装置の固有周期が合致するときに、最大の減揺効果を発揮する。(図1参照)」(第96頁左欄第6〜7行)
これら記載と「図1 周期設定範囲」と表題される図(第96頁)を併せみれば、本件特許に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載されている。

3-2 本件特許発明の進歩性に係る主張
たとえ、本件特許に係る発明が、「バルブ」及び「切り替えが頻繁に作動しない」ことに関して、甲第1号証のものと若干の差異を有するとしても、甲第2号証には、以下の記載がある。
「(5)減揺タンクについて
三保造船所設計の減揺タンクを船体の中央部付近である上甲板下の凍結室後部に装備している。二重底上部にU字管式とし、上部に空気管、下部に周期調整用伝通管を設けている。各々管には開閉式電磁弁を設け、操作は操舵室よりコントロールされる。」(第45頁右欄第4行〜第48頁左欄第3行)
「減揺タンクの使用は航海状態のGM、波との出会周期よりコンピュータで計算されるバルブ開閉が指示される。」(第48頁左欄第6〜8行)
更に、甲第3号証には、以下の記載がある。
[(6)アンチローリングタンク
・・傾斜計により動揺を検知し、これを演算して平均周期を算出、最適な減揺効果が得られるよう液体(本船は清水)の周期可変装置へ制御信号を送出し、下部ダンパー及びエアーダクトのバルブを開閉するものである。」(第68貢右欄第5〜12行)
「下部ダクトダンパーおよび開閉器
上部エアーダクト動力弁」(第68頁右欄第19〜20行)
これら甲第2,3号証に記載のバルブを甲第1号証のものに採用する点に格別の困難性はなく、甲第4号証にも示されるように、自動制御においてオン・オフを繰り返さないようにすることは技術常識であるから、本件特許に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明、甲第2,3号証に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-3 訂正に係る主張
被請求人が求めた訂正に関して、概略以下の主張をなしている。
訂正事項1は、その訂正により、非作動グループを作動グループの間に含むものまでも包含することとなるから、新規事項を追加するものであり、訂正事項2が、「有効作動範囲」を拡大するものであれば、同訂正は、実質的に特許請求の範囲を変更するものとなるので、被請求人の求める訂正は容認できない。
たとえ、訂正が認められたとしても、甲第1号証には、「また、設定した本船周期範囲外の横揺周期(GM)を検出した場合には、・・ARTを非作動とし・・配慮してある。」(第91頁左欄第1〜4行)と記載されており、作動から非作動への自動移行が開示され、手動での復帰を自動化することに、格別の技術的困難性は何等認められないから、訂正後の発明も、甲第1号証の刊行物に記載された発明、甲第2,3号証に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.被請求人の主張
被請求人は、概略以下の主張をなしている。

4-1 訂正に関して、
訂正事項1は、特許明細書の段落番号【0014】、【図1】に「制御グループ」として、「非作動」の制御グループが符号8,8aを付されて記載されていることに基づいて、特許請求の範囲に記載の「・・バルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つグループ(8a,9,10)を設定する・・」中のグループ(8a)が非作動のものであることを明確にすることにより、特許請求の範囲を限定するものであり、訂正事項2は、特許明細書に特許請求の範囲に記載の「有効範囲」は、「周期範囲」の誤記であるから、それを訂正するものである。

4-2 本件特許発明の進歩性新規性に関して
甲第1号証には、ART(アンチローリングタンク)が開示されるものの、ARTをどのように自動的に制御するかを開示するものではなく、図1に記載の「CASE-1」「CASE-2」「CASE-3」は、バルブやダンパーの開閉組み合わせを行う特定の制御仕様を開示するものではない。ましてや、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することを開示も示唆もしていない。
また、甲第1号証の第96頁左欄第14〜17行には、「本船周期が12秒(仮設定値)を越えた時は、自動的に非作動となり、・・『航行中スイッチ』を押して再作動する」と、非作動状態から自動的に作動状態に復帰しないことが明記されている。
さらに、甲第2、3号証のものには、一般的なARTに係る記載はあるものの、「液体(14)の制動、或いは異なる減揺水槽固有周期を含む有効範囲(7a,7b)を得る操作として、減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパ-の開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、これらの各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することで、どの値の平均横揺周期を検知しても、前記のバルブ(5)やダンパー(3)を含む関連機器の切り替えが頻繁に作動しないこと」に関し何等開示も示唆もする記載はない。
また、甲第4号証は、単にプロセス制御において、オンオフの間に動作隙間を設ける旨の記載があるのみで、減揺水槽を非作動とするグループを含む複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、これらの各グループが持っ周期範囲の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することを開示も示唆もするものではない。
そして、上記訂正のなされた本件発明は、減揺水槽を非作動とするグループを含めて、各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することにより、頻繁な切替が行われることがないとともに、船の動揺軽減装置の有効範囲を拡大するものであるから、本件発明は、この点を開示しない甲第1号証に記載されたものではなく、同じくこの点を開示しない甲第2〜4号証のものを併せみても、それらのものから容易に発明をすることができたものではない。

5.訂正の適否
上記訂正事項1、2は、ともに特許法第123条第1項の審判の請求がなされた請求項に係る訂正である。

5-1 訂正事項1について
請求項1に記載の「・・前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つグループ(8a,9,10)を設定するとともに、・・」を「・・減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、・・」と訂正することは、特許明細書の請求項1に記載された構成である「バルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つグループ」を同段落番号【0014】に記載の「・・具体的に数値を設定し各制御グループ8,9,10について説明する。
(イ).非作動(CASE-1)8は、平均周期の値が11.6秒以上の時と7.8秒以下の時に、バルブ5を強制的に閉じARTは非作動状態となる。この状態は、非作動(CASE‐1a)8aのように平均周期が11秒から8.5秒の間に入るまで保持される。
(ロ).作動(CASE‐2)9は、平均周期の値が11.6秒から9.4秒の範囲内で、バルブ5開、ダンパー3閉の制御を実行しその状態は保持される。
(ハ).作動(CASE‐3)10は、平均周期の値が10秒から7.8秒の範囲内で、バルブ5開、ダンパー3開の制御を実行し保持する。これらの制御の仕様は、平均周期の値が制御実行中のグループを外れ、該当するグループに侵入したとき実行される。」等に記載された非作動とするグループを含むという技術的事項により限定するものであるから、特許明細書の特許請求の範囲に記載された構成を、その目的の範囲において、特許明細書中に記載された技術的事項により限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質的に特許請求の範囲を変更または拡張するものではなく、新規事項を追加するものではない。
なお、同訂正により、請求人は、新規な非作動と作動との組合せを追加する旨主張するが、同訂正は、そのような組合せの追加を直接記載するものでも、それを示唆するものでもなく、しかも、そのような組合せ自体は、当業者にとって、通常の組合せとして把握されるものでもない以上、同新規な組合せが追加される旨の主張は採用できない。

5-2 訂正事項2について
特許明細書には、段落番号【0004】に、「【発明が解決する課題】・・このように従来技術のバルブ制御方法では、ARTが逆効果を起こす周期を検知した時、バルブを自動的に開閉しARTの作動或いは非作動状態を制御するだけで、有効範囲7が狭いと言うもう1つの欠点を補うことはできず、必ずしも安定した操作状態を形成しないなどの問題点が残り、減揺装置の効力を充分に発揮していないのが現状である。」と、段落番号【0007】に、「制御方法は、ARTの目的に添った少なくとも2つ以上の異なる周期範囲を持つ制御グループ8,9,10を形成し、そのグループ毎に機器制御の操作仕様を設定する。そして制御実行中のグループから平均横揺周期が外れない限り、他のグループの所掌する制御は実行されないようにする。そこで船の平均横揺周期がどの制御グループに属するかを判別して、そのグループの定められた制御信号を実行するものである。」と、段落番号【0008】に、「ここで制御グループ8,9,10の設定について説明する。図4は縦軸に船体傾斜角(横揺角)と波傾斜角の比をとり、横軸に横揺周期をとって各周期に於ける船の横揺れの様子を示したものである。ARTの有効範囲7は、一般的に船の横揺れ角が非作動時に比べ、作動時の方が大きくなる減揺効果の分岐点TIから同じくT2までとしている。しかし、この有効範囲7内で高い減揺効果が得られるのはART固有周期付近であり、分岐点TI或いは同じくT2の付近すなはち(Δt1)11或いは(Δt2)12に於ける効果は低くARTを作動、或いは非作動としても減揺効果の大勢には殆ど影響を与えない。」と記載されており、作動・非作動の両制御グループ8,9,10に対応する横揺れ周期を「周期範囲」とし、同「周期範囲」中の作動の制御グループ9,10に係る横揺れ周期を「有効範囲」と記載している。
そして、特許明細書の特許請求の範囲には、「・・異なる減揺水槽固有周期を含む有効範囲(7a,7b)を得る操作として、前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つグループ(8a,9,10)を設定するとともに、これらの各グループが持つ有効範囲(7a,7b)の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その有効範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することで、・・」と記載されており、「グループ(8a,9,10)」が対応する横揺れ周期を表現する語しては、「有効範囲」よりは、「周期範囲」がより適切であることは、「グループ(8a・・)」と記載されることより明らかであり、同訂正は不明瞭な記載を明瞭にする訂正というべきものであって、しかも、「周期範囲」と訂正することにより、「周期範囲」としての技術的限定がなされるものであるから、これは「有効範囲」としての作動時の技術的限定有する上に非作動時の限定を有するものであるから、実質的の特許請求の範囲を変更または拡張するものではなく、新規事項を追加するものではない。
なお、訂正事項2は、単に不明瞭である記載を明瞭とするものであるから、同訂正により、発明の構成が変わるものではなく、本件特許発明が従来技術に比較して有効作動範囲を拡大するか否かはさておいて、訂正事項2に起因しては、有効作動範囲を拡大するものではない。

5-3 むすび
以上のとおり、被請求人が請求した訂正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第2項ただし書きに規定する要件に適合しており、特許法第134条第5項で準用する平成6年法律第116号による改正前の同法第126条第2項及び第3項に規定する要件に適合するので、当該訂正を認める。

6.無効事由の検討
6-1 訂正後の本件特許発明
平成13年3月7日付け訂正請求書による訂正後の本件特許に係る発明は、同請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された、以下の事項により特定されるものである。
船体の両舷に設定した一対の少なくとも2つのウイングタンク(1a,1b)と、これらウイングタンクの底部に液体(14)を左右方向へ移動させる液体通路(2)で連結すると共に、前記のウイングタンク上部に液体(14)の制動を目的としたバルブ(5)等の手段を介して連通させる空気ダクト(4)と、液体通路(2)内に減揺水槽の固有周期の可変を目的としたダンパー(3)等の手段を設け、更に、船の横揺角を検知し、その値を以て横揺れの単周期や平均横揺周期を演算し、更に制御信号等を出力するコントロール部(18)と前記バルブやダンパーを駆動させる開閉機器装置部(19)の手段とを具備した、液体(14)の移動または停止、或いは減揺水槽固有周期の可変操作を自動的に成し得る減揺水槽に於いて、液体(14)の制動、或いは異なる減揺水槽固有周期を含む有効範囲(7a,7b)を得る操作として、減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、これらの各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することで、どの値の平均横揺周期を検知しても、前記のバルブ(5)やダンパー(3)を含む関連機器の切り替えが頻繁に作動しないことを特徴とした船の動揺軽減水槽装置の自動制御方法(以下、「本件発明」という。)。

6-2 甲各号証の刊行物に記載の発明
甲第1号証の刊行物には、「左右のウイングタンクを下部ダクトで連結する受動U字管型の構造で燃料タンク兼用とした。」(第95頁右欄第10〜11行)と記載されることから、
船体の両舷に設定した一対の少なくとも2つのウイングタンクと、これらウイングタンクの底部に液体を左右方向へ移動させる液体の通路である下部ダクトで連結すること
が把握され、「バルブを廃止し、空気ダクトの中へA重油を注入、あるいは排出させ、空気の流通を制御する事でバルブの機能をもたせる機構とした。そのため、空気ダクト専用の移送ポンプ、電気式液面計及び配管系統を独立させた。(写真1参照)」(第95頁右欄第15〜19行)と記載されることから、
前記のウイングタンク上部に液体の制動を目的としたバルブの機能を持たせる機構を介して連通させる空気ダクト
が把握され、「・・周期可変
下部ダクトの縦断面積を調整する油圧駆動の開閉器付ダンパーを2組設けた。」(第95頁右欄第20〜22行)と記載されることから、
下部ダクト内に減揺水槽の固有周期の可変を目的としたダンパーを設けること
が把握され、「海図室後部に設けたスタビロ操作盤は、ARTの効果を充分に発揮させる為、船体の動揺周期を計測演算し平均周期の状態に応じた制御信号を送出し、ART制御室内の下部ダンパー、バルブ等を自動的に制御する。」(第95頁右欄第28〜32行)と記載され、ARTにいう動揺が横揺れであることは自明の事項であるとともに、上記のとおり、甲第1号証のダンパーは開閉するものであるので、同記載より、
船の横揺角を検知し、その平均横揺周期を演算し、更に制御信号を出力するスタビロ操作盤と前記バルブ機能やダンパーを開閉駆動させるように自動的に制御する手段とを具備したこと
が把握され、これらの把握されたARTは、
液体の移動または停止、或いは減揺水槽固有周期の可変操作を自動的に成し得る減揺水槽
ということができるものである。
さらに、甲第1号証の「装置の固有周期=7.7秒、8.8秒、10.4秒」(第95頁右欄第8行)、「船の横揺周期と本装置の固有周期が合致するときに、最大の減揺効果を発揮する。(図1参照)」(第96頁左欄第6〜7行)との記載及び「図1周期設定範囲」と表題される図(第96頁)を併せみれば、
CASE-1、CASE-2、CASE-3として、周期設定範囲が重複するもの
が把握可能であり、「また、設定した本船周期範囲外の横揺周期(GM)を検出した場合には、・・ARTを非作動とし・・配慮してある。」(第91頁左欄第1〜4行)との記載及び上記記載と併せみれば、
液体の制動、或いは異なる減揺水槽固有周期を含む周期設定範囲を得る操作として、減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定し、これらの各グループが持つ設定周期範囲の隣接する箇所を重複させたこと
が把握でき、「受動U字管型のART(アンチローリングタンク)は狭い範囲の周期に対してのみ減揺効果を発揮するが、・・・という欠点がある。」(第95頁第左欄第8〜12行)、「そのため、刻々変わる船の横揺周期に対し、ARTの固有周期をその都度変更させる必要があり、乗組員に多大の負担を掛けていた。そこで、今回装備するARTの基本的な設計条件は、1.広範囲の周期に追従させる・・・」(第95頁左欄第第12〜17行)、「これらの条件を満足させるべく、スタビロ製・受動U字管型・周期可変自動制御方式のARTを魚倉区画後部(FR.51〜56間)に装備した。」(第95頁左欄第22〜24行)、「最大の特徴は、『航行中スイッチ』を押すだけで、広い範囲の動揺周期にわたって、最適な減揺効果が得られるよう、液体の移動周期を自動的に制御するもので、制御に必要な油圧ポンプや移送ポンプユニット等は、必要な時だけ自動発停をする。」(第95頁左欄第28〜第32行)、及び、「本船周期が12秒(仮設定値)を越えた時は、自動的に非作動となり、・・『航行中スイッチ』を押して再作動する」(第96頁左欄第14〜17行)をみれば、
平均横揺れ周期に応じて、バルブ機能、ダンパーの開閉等により、自動的にCASEを切り替えるものであり、設定周期範囲には重複があるものの、そのCASEの切替に重複する範囲を設けることの開示はなく、平均横揺れ周期に応じてARTは、自動的に非作動となるものの、作動への復帰は手動であること
が把握される。
以上を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されるものと認める。
船体の両舷に設定した一対の少なくとも2つのウイングタンクと、これらウイングタンクの底部に液体を左右方向へ移動させる液体の通路である下部ダクトで連結し、
前記のウイングタンク上部に液体の制動を目的としたバルブの機能を持たせる機構を介して連通させる空気ダクトを備え、
下部ダクト内に減揺水槽の固有周期の可変を目的としたダンパーを設け、
船の横揺角を検知し、その平均横揺周期を演算し、更に制御信号を出力するスタビロ操作盤と前記バルブ機能やダンパーを開閉駆動させる用に自動的に制御する手段とを具備し、液体の移動または停止、或いは減揺水槽固有周期の可変操作を自動的に成し得る減揺水槽であって、
液体の制動、或いは異なる減揺水槽固有周期を含む周期設定範囲を得る操作として、減揺水槽を非作動とすることを含む前記のバルブ機能やダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のCASEを設け、
平均横揺れ周期に応じて、バルブ機能、ダンパーの開閉等により、自動的にCASEを切り替えるものであり、設定周期範囲には重複があるものの、そのCASEの切替に重複する範囲を設けることの開示はなく、平均横揺れ周期に応じて自動的に非作動となるものの、作動への復帰は手動である減揺水槽の自動制御方法

次に、甲第2号証には実習船「鹿島丸」の概要が記載されるとともに、次の記載がある。
「(5)減揺タンクについて
三保造船所設計の減揺タンクを船体の中央部付近である上甲板下の凍結室後部に装備している。二重底上部にU字管式とし、上部に空気管、下部に周期調整用伝通管を設けている。各々管には開閉式電磁弁を設け、操作は操舵室よりコントロールされる。」(第45頁右欄第4行〜第48頁左欄第3行)、
「減揺タンクの使用は航海状態のGM、波との出会周期よりコンピュータで計算されるバルブ開閉が指示される。」(第48頁左欄第6〜8行)
また、甲第3号証には実習船「白萩丸」の概要が記載さるとともに、次の記載がある。
「(6)アンチローリングタンク
・・傾斜計により動揺を検知し、これを演算して平均周期を算出、最適な減揺効果が得られるよう液体(本船は清水)の周期可変装置へ制御信号を送出し、下部ダンパー及びエアーダクトのバルブを開閉するものである。」(第68頁右欄第5〜第12行)
「下部ダクトダンパーおよび開閉器
上部エアーダクト動力弁」(第68頁右欄第19〜20行)
したがって、甲第2、3号証の刊行物には、アンチローリングタンクのバルブ機能をバルブの開閉により得ることがそれぞれ記載されるものと認められ、さらに、甲第4号証には、次の記載がある。
「実際には図3.21に示すような動作すきまを有する2位置動作が使用される。」(第80頁第16〜第18行)
「動作すきまがないと、弁の全開全閉や接点のオンオフをひんばんに繰り返すため操作部の故障が多くなるので、検出の感度などから必然的に出るもの以外にわざとすきま(多くは可変)を作ることが多い。」(第80頁第21〜23行)
したがって、甲第4号証には、切替を頻繁に行うことを防止するために、動作すきまを作る旨記載されるものと認められる。

7.対比判断
ここで、本件発明と甲第1号証に記載の発明とを比較すると、甲第1号証のものの「ウイングタンク」、「下部ダクト」、「空気ダクト」、「ダンパー」、「スタビロ操作盤」、「周期設定範囲」及び「CASE」は、それぞれ、本件請求項1に係る発明の「ウイングタンク(1a,1b)」、「液体通路(2)」、「空気ダクト(4)」、「ダンパー(3)等の手段」、「コントロール部(18)」、「周期範囲」及び「グループ」に相当するものと認められ、本件発明の「バルブ(5)等の手段」と甲第1号証の発明の「バルブの機能を持たせる機構」との間に実質的な差異は認められないとともに、甲第1号証に記載の「図1 周期設定範囲」は、上記の通り、各ケースがその周期設定範囲を重複させることを示しており、一のCASEから他のCASEへの切替えは、その重複する範囲内で行われることは自明であるものの、具体的な切り替え位置は不明であるので、両発明は、
船体の両舷に設定した一対の少なくとも2つのウイングタンクと、これらウイングタンクの底部に液体を左右方向へ移動させる液体通路で連結すると共に、前記のウイングタンク上部に液体の制動を目的としたバルブ等の手段を介して連通させる空気ダクトと、液体通路内に減揺水槽の固有周期の可変を目的としたダンパー等の手段を設け、更に、船の横揺角を検知し、その値を以て横揺れの単周期や平均横揺周期を演算し、更に制御信号等を出力するコントロール部と前記バルブやダンパーを駆動させる開閉機器装置部の手段とを具備した、液体の移動または停止、或いは減揺水槽固有周期の可変操作を自動的に成し得る減揺水槽に於いて、液体の制動、或いは異なる減揺水槽固有周期を含む有効範囲を得る操作として、減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループを設定するとともに、これらの各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を重複させた船の動揺軽減水槽装置の自動制御方法
の発明である点で一致し、以下の相違点で相違するものと認める。
相違点
本件発明は、減揺水槽を非作動とするグループを含む各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することで、どの値の平均横揺周期を検知しても、前記のバルブやダンパーを含む関連機器の切り替えが頻繁に作動しないものであるのに対して、甲第1号証の発明では、設定周期範囲には重複があるものの、CASEの切替位置は不明であり、CASEの切替に重複する範囲を設けることの開示はなく、平均横揺れ周期に応じて自動的に非作動となるものの、作動への復帰は手動である点

以下、相違点について検討する。
本件発明は、上記相違点にいう構成を有することにより、周期範囲の隣接する箇所を重複させた、全重複範囲で他のグループが実行されることがないので、バルブやダンパーを含む関連機器の切り替えが頻繁に作動しないものとなるという効果を奏するものであるとともに、非作動のグループの実施から、作動のグループの実行への変化が、非作動のグループの周期範囲の安全側の端部で行われ、非作動から作動への復帰を自動的に行うことに関連する安全性を担保することにより自動化を可能とし、かつ、作動から非作動への変化は、作動のグループの周期範囲である有効範囲の全体を作動として用いることにより、広い周期範囲で動揺軽減水槽を用いることを可能とするものであるから、同構成を設計上の事項に属するとする事はできない。

次に、甲第4号証にもあるように、一般に、切替を頻繁に行うことを防止することは通常に行われる事項であり、そのために、動作すきまを作ることが周知の技術であると認められる。
ここで、同周知の技術を甲第1号証のものに適用することを検討すると、甲第1号証のものは、「図1 周期設定範囲」に上記されるように、各ケースがその周期設定範囲を重複させるものであり、ケースの切り替えは、その重複する範囲内で行われることは明らかであるから、これに、動作すきまを作る周知の技術を適用すれば、重複する範囲内に動作すきまを設けるものが得られることとなる。
しかしながら、上記相違点にいう周期範囲に関して、作動のグループの周期範囲である有効範囲について、特許明細書の段落番号【0008】に「 ・・ARTの有効範囲7は、一般的に船の横揺れ角が非作動時に比べ、作動時の方が大きくなる減揺効果の分岐点T1から同じくT2までとしている。・・」とあるように、周期範囲の重複する範囲は、単に動作すきまとして定義されるものではなく、減揺効果に起因する2端の重複であり、本件発明の上記相違点の構成は、その重複する範囲の全体を周知技術にいう動作すきまとするものである。
そして、このような重複範囲の全体を動作すきまとすることを甲第4号証のものが開示または示唆するものとは認められないとともに、このことが公知または慣用される技術であるとする客観的証拠は何ら認められないから、甲第4号証に示される周知技術に基づいて、上記相違点を容易になしえたとすることはできない。
また、甲第2,3号証には、請求人が主張するように、アンチローリングタンクのバルブ機能をバルブの開閉により得ることが記載されるとともに、アンチローリングタンクに係る各種構成の開示はあるものの、上記相違点にいう周期範囲の重複を所謂動作すきまとする旨を開示するものではなく、それを示唆するものでもない。

したがって、本件発明を、その構成の一部を開示しない甲第1号証に記載された発明とすることはできないとともに、同構成を開示しない甲第2〜4号証を併せみても、本件発明を甲第1〜4号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

8.むすび
以上説示の通り、審判請求人が提出した証拠及び理由によっては、本件特許を無効とすることはできない。
また、他に本件特許を無効とすべき理由を発見しない。
よって、結論の通り審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
船舶の動揺軽減装置の制御方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 船体の両舷に設定した一対の少なくとも2つのウイングタンク(1a,1b)と、これらウイングタンクの底部に液体(14)を左右方向へ移動させる液体通路(2)で連結すると共に、前記のウイングタンク上部に液体(14)の制動を目的としたバルブ(5)等の手段を介して連通させる空気ダクト(4)と、液体通路(2)内に減揺水槽の固有周期の可変を目的としたダンパー(3)等の手段を設け、更に、船の横揺角を検知し、その値を以て横揺れの単周期や平均横揺周期を演算し、更に制御信号等を出力するコントロール部(18)と前記バルブやダンパーを駆動させる開閉機器装置部(19)の手段とを具備した、液体(14)の移動または停止、或いは減揺水槽固有周期の可変操作を自動的に成し得る減揺水槽に於いて、液体(14)の制動、或いは異なる減揺水槽固有周期を含む有効範囲(7a,7b)を得る操作として、減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、これらの各グループが持つ周期範囲の隣接する箇所を重複させ、ある一つの制御仕様を実行中のグループには、その周期範囲から船の平均横揺周期が外れない限り、他のグループが実行されないように設定することで、どの値の平均横揺周期を検知しても、前記のバルブ(5)やダンパー(3)を含む関連機器の切り替えが頻繁に作動しないことを特徴とした船の動揺軽減水槽装置の自動制御方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、減揺水槽内の液体制動の創案に係わり、液体の移動または停止、或いは移動周期(固有周期)の可変操作を自動的に制御する制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より船舶の横揺れを軽減する装置として、U字管型の受動減揺水槽(以下ARTと言う)が知られている。 このARTは、船の横揺周期とART固有周期が等しいとき、船の横揺れに伴ってART内の液体は共振を行い、横揺れに対し約90度の位相遅れが生じたときに高い減揺効果を得られるが、その範囲は狭く船の横揺周期がART固有周期から±約1秒以上外れると効果は極減する。 尚且つ、何らかの理由でART有効範囲を外れ船の横揺周期が長く(遅く)なった時、1揺れの1/4毎に減揺と同調すなわち横揺れが大きくなるという現象を繰り返す不自然な動揺を誘起し、場合によってはARTの無い場合より大きい横揺れを起こすことが知られ、これらの問題点をバルブやダンパ-を備えることで解決する様々な発明、考案がなされた。 バルブやダンパ-の機器操作の自動化に対する制御方法も発明、考案されたが、自動化の実用に際し後述するような難点が多く、このためARTを制作するとき、空気ダクトの解放式や空気ダクト付きのバルブを設けないもの、また、ART固有周期の可変手段を有さない固有周期固定式のもの等、従来通りの欠点を有するARTが多く採用されている。 そのため、これらのARTを装備した在来船では航海状態に於ける出合周期や海気象状況等の影響により、刻々変わる船の横揺周期の値を長年の経験やストップウオッチ等で把握し、ART固有周期をその都度変更させるか、或いは、同調横揺れを防ぐためにARTを非作動とする操作をしていた。 その操作方法は、図3に示すARTに於いて説明すると、
(イ). 空気ダクト4のバルブ5を有する場合は、作動させるときはバルブ5を開け、或いは停止させる時には同じくバルブ5を閉じる。
(ロ). 空気ダクト4のバルブ5を設けていない場合は、作動させる時はART本体6内に排水量の1〜4%という所要量の液体14を注入、或いは停止させる時には同じく液体14を排水する。 また、ART固有周期を遅く(長く)する時は液体通路2内のダンパ-3を閉じ、同じく周期を早く(短く)する時はダンパ-3を開くなどの操作を必要とし乗組員に多大の負担を掛けていた。
【0003】
そこで、1つの対策としてARTが逆効果を起こす周期を検知した時、バルブ5を自動的に閉鎖しARTを非作動とし、この状態からARTが有効に作動する周期を検知したとき、バルブ5を開きARTを作動させる減揺方法が発明された(例えば、特公昭58-30196参照)。
【0004】
【発明が解決する課題】
しかしながら、第4図に示すように船の平均横揺周期が制御基準値(船の横揺角が非作動時に比べ、作動時の方が大きくなる減揺効果の分岐点)T1、或いはT2に対する大小関係のみを判別する従来の方法では、制御基準値T1、或いはT2付近の横揺れが生じた場合、開閉装置機器への切り替え制御信号が頻繁に出力されることになるが、開閉装置の駆動に必要な油圧ポンプ用の電動機などは、起動電力等の兼ね合いから電源スイッチの頻繁なインチングは極力避けなければならづ、しかも、頻繁なインチングは該当する各機器の消耗が激しくなるばかりか、制御方法として適切でない等の理由から、ART固有周期の調整に関する操作は依然として手動操作であり、乗員が期待するほどの自動化のメッリトは少なかった。 このように従来技術のバルブ制御方法では、ARTが逆効果を起こす周期を検知した時、バルブを自動的に開閉しARTの作動或いは非作動状態を制御するだけで、有効範囲7が狭いと言うもう1つの欠点を補うことはできず、必ずしも安定した操作状態を形成しないなどの問題点が残り、減揺装置の効力を充分に発揮していないのが現状である。
【0005】
【目的】
ARTが必要としている制御は、液体の制動もさることながら、その固有周期の可変を可能とし広範囲の横揺周期に対応させることである。 本発明は、前述した従来の問題点を解決するためになされたもので、船の平均横揺周期が制御基準値T1、或いはT2付近の周期でも、頻繁に開閉作動をすることなく、バルブの制御は無論のこと、ダンパ-駆動の油圧ポンプ用電動機も必要なとき数秒間だけ作動そして停止を可能とする自動制御方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するための基本的なARTの構成自体は、図3に示すように、船体の両舷に設定した一対の少なくとも2つのウイングタンク1a,1bとこれらウイングタンク1a,1bの底部に液体14を左右方向へ移動させる液体通路2で連結すると共に、同じくウイングタンク1a,1b上部にバルブ5を介して連通させる空気ダクト4と図示していないが注排水管、測深管、空気抜き管など水槽として必要な艤装を施す。 ART本体6は前記の注排水管、測深管、空気抜き管など外部に通じる全ての管に閉鎖手段を施し密閉状態を可能とする。またART固有周期の可変用として液体通路2を複数に分割しその内にダンパ-3等を設ける。 バルブ5或いはダンパ-3の開閉には自動制御のための動力駆動式を採用するが、中途開度はせず全閉または全開とすることを前提とした図2に示すような制御装置機構を施す。
【0007】
制御方法は、ARTの目的に添った少なくとも2つ以上の異なる周期範囲を持つ制御グル-プ8,9,10を形成し、そのグル-プ毎に機器制御の操作仕様を設定する。 そして制御実行中のグル-プから平均横揺周期が外れない限り、他のグル-プの所掌する制御は実行されないようにする。 そこで船の平均横揺周期がどの制御グル-プに属するかを判別して、そのグル-プの定められた制御信号を実行するものである。
【0008】
ここで制御グル-プ8,9,10の設定について説明する。
図4は縦軸に船体傾斜角(横揺角)と波傾斜角の比をとり、横軸に横揺周期をとって各周期に於ける船の横揺れの様子を示したものである。 ARTの有効範囲7は、一般的に船の横揺れ角が非作動時に比べ、作動時の方が大きくなる減揺効果の分岐点T1から同じくT2までとしている。 しかし、この有効範囲7内で高い減揺効果が得られるのはART固有周期付近であり、分岐点T1或いは同じくT2の付近すなはち(Δt1)11或いは(Δt2)12に於ける効果は低くARTを作動、或いは非作動としても減揺効果の大勢には殆ど影響を与えない。
【0009】
そこで、図1に示す制御グル-プ8,9,10の周期的に隣接する部分は、この(Δt1)11或いは(Δt2)12等を重複させ周期判定値に幅を持たせようとするものである。 尚、この(Δt1)或いは(Δt2)等の値は、ART制御目的に合わせ適宜決定するものとする。
【0010】
【作用】
上記したような本発明によるものの作用関係については、バルブ5やダンパ-3等の開閉装置の動作、即ち、開くときと閉じるときの周期判定基準値T1,或いはT2は、それぞれ同一点でなく異なるため、制御切り替え点に於ける各機器の頻繁な作動状態は少なくなるので、バルブ5に比べ大きいトルクを必要とするダンパ-3の駆動源に電動機などの採用で自動制御も可能となる。 ARTが逆効果を起こす要因は、有効範囲7が狭いと言うことであり、ダンパ-3の自動化は有効作動範囲15の拡大を成し、ARTの宿命的な欠点を取り除くことが可能となる。 また、使用頻度の極減から機器の寿命が飛躍的に延びることになる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して更に説明する。
開閉操作機構は、図2に示すように数値演算や制御信号等を司るコントロ-ル部18と開閉機器装置部19からなる。 コントロ-ル部18は、傾斜計等の傾斜センサ-20により船の横揺れ状況を1揺れ毎に計測しコンピュ-タ-処理で単周期値を求める。 ARTの作動原理は前述の如く、横揺れに対し約90度の位相遅れを生じたときに高い減揺効果が得られるものであるから、間近の横揺周期の状況を把握すれば良く、長時間の横揺れ平均は実用に合わない。 従って、平均横揺周期の算出は、2回から5回位の単周期を平均するものとし、常に新しい値を算入し古い値を除去する移動平均方式を採用する。 この算出された平均値が図1に関して後述する、どのグル-プ8,9,10に属するかを判別せしめ、該当するグル-プ8,9,10に予め設定して有る制御信号を送出する。また、各機器の作動状況は逐一情報処理回路23で把握し、その情報はICメモリ-にて保存すると共に、図示していないがコントロ-ルパネルに表示する。 また傾斜角、周期等の状況は、図示していないが航海情報として他の航海機器へ信号を送出することも可能である。
【0012】
開閉機器装置部19は、駆動機24、電磁弁25,28、開閉装置26,29、リミットスイッチ27,30等で構成する。 機器の開閉制御は、コントロ-ル部18からの制御信号により、駆動機24を始動→電磁弁25,28→開閉装置26,29→リミットスイッチ27,30→駆動機24の停止となる。 機構によっては駆動機24を必要としない場合がある。 例えば、駆動源を他のラインから直接供給を受けられる場合などは駆動機24の始動および、停止の行程は省略できる。
【0013】
本実施例は、バルブ5の装置とダンパ-3の装置を各1組を設けた例で、各グル-プ8,9,10は、周期的に隣接する付近に、ある周期範囲(Δt1)11或いは同じく(Δt2)12、同じく(Δt3)13の値を以て、互いに重複させてあり有効作動範囲15は図1に示すようになる。
【0014】
分かり安くするため、具体的に数値を設定し各制御グル-プ8,9,10について説明する。
(イ). 非作動(CASE-1)8は、平均周期の値が11.6秒以上の時と7.8秒以下の時に、バルブ5を強制的に閉じARTは非作動状態となる。この状態は、非作動(CASE-1a)8aのように平均周期が11秒から8.5秒の間に入るまで保持される。
(ロ). 作動(CASE-2)9は、平均周期の値が11.6秒から9.4秒の範囲内で、バルブ5開、ダンパ-3閉の制御を実行しその状態は保持される。
(ハ). 作動(CASE-3)10は、平均周期の値が10秒から7.8秒の範囲内で、バルブ5開、ダンパ-3開の制御を実行し保持する。 これらの制御の仕様は、平均周期の値が制御実行中のグル-プを外れ、該当するグル-プに侵入したとき実行される。
【0015】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように本発明によれば、バルブの制御は無論のことダンパ-制御も容易にし、しかも必要なときだけ数秒間で作動そして停止操作が人手を煩わすことなく自動的に行われる。 このことはARTの宿命的とも言える欠点、即ち、有効範囲の狭さとその範囲を外れた時の逆効果などは容易に解消することができる。 従って、その船に合った数のバルブやダンパ-等を備えるARTを装備した船舶に於いては、出合周期や海気象状況等の影響により刻々変わる船の横揺周期に対し、最適と思われるART固有周期を自動的に可変し、或いは、前記の逆効果を与える横揺周期に遭遇した場合でも、同調横揺れを防ぐためARTを非作動とすることができるなど、有効作動範囲は拡大し、常に安定した減揺効果が得られると言う作用効果を有しており工業的にその効果の大きい発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
有効作動範囲と本発明に於ける作動関係を示した図表
【図2】
本発明によるバルブ或いはダンパ-の開閉操作機構構成関係を示したブロック図
【図3】
ARTの概略構成を示す全体構成図
【図4】
ARTの有効作動範囲を示す図表
【符号の説明】
1a、1b・・・ウイングタンク、 2・・・液体通路
3・・・ダンパ-、 4・・・空気ダクト
5・・・バルブ、 6・・・ART本体
7、7a、7b・・・有効範囲、
8、8a、9、10・・・制御実行範囲(制御グル-プ)
11、12、13・・・重複させる周期範囲(Δt1、Δt2、Δt3)
14・・・液体、 15・・・有効作動範囲
18・・・コントロ-ル部、 19・・・開閉機器装置部
20・・・傾斜センサ-、 21・・・周期演算判定回路
22・・・制御回路、 23・・・情報処理回路
24・・・駆動源、 25、28・・・電磁弁
26・・・バルブの開閉装置、 27、30・・・リミットスイッチ
29・・・ダンパ-の開閉装置、 30・・・情報処理回路
 
訂正の要旨 特許請求の範囲の欄の記載に関して
訂正事項1
請求項1に記載の「・・前記のバルブやダンパーの開閉組合わせを行う制御仕様を持つグループ(8a,9,10)を設定するとともに、・・」を「・・減揺水槽を非作動とするグループを含む前記のバルブやダンパ‐の開閉組合わせを行う制御仕様を持つ複数のグループ(8a,9,10)を設定するとともに、・・」と訂正する。
訂正事項2
請求項1に記載の「・・これらの各グループが持つ有効範囲(7a,7b)の隣接する箇所を・・その有効範囲から・・」を「・・これらの各グループが持っ周期範囲の隣接する箇所を・・その周期範囲から・・」と訂正する。
審理終結日 2001-07-26 
結審通知日 2001-07-31 
審決日 2001-08-17 
出願番号 特願平6-307157
審決分類 P 1 112・ 113- YA (B63B)
P 1 112・ 121- YA (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 健一  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 蓑輪 安夫
刈間 宏信
登録日 2000-03-24 
登録番号 特許第3048865号(P3048865)
発明の名称 船舶の動揺軽減装置の制御方法  
代理人 大木 健一  
代理人 木村 三朗  
代理人 吉田 聡  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 柿内 瑞絵  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 小林 久夫  
代理人 大村 昇  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 柿内 瑞絵  
代理人 吉田 聡  
代理人 大木 健一  

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