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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1051432
異議申立番号 異議2000-72893  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-26 
確定日 2001-08-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3003413号「多層セラミック基板の製造方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3003413号の訂正後の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3003413号の請求項1〜7に係る発明についての出願は、平成4年9月21日に特許出願され、平成11年11月19日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、京セラ株式会社、株式会社住友金属エレクトロデバイス、遠藤昭子よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成12年12月26日付けで訂正請求書が提出されたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項a〜dのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1中の「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とする多層セラミック基板の製造方法」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第12〜14行)を、「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とし、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上である多層セラミック基板の製造方法」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書中の「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことで厚み方向の収縮だけが起こり平面方向で起こらないガラス・セラミック基板を作製するものである。」(本件特許掲載公報第第3頁第6欄第22〜25行)を、「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことで厚み方向の収縮だけが起こり平面方向で起こらないガラス・セラミック基板を作製するものであり、さらに、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上であることを特徴とするものである。」と訂正する。
(3)訂正事項c
請求項6を削除し、以下項数を繰り上げて請求項6と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、焼成処理を行い、その後焼結しない無機組成物層を取り除く際に、第1の積層体群の厚みに対し、焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比を、焼成処理前で0.143以上であると限定するものである。したがって、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、この数値限定は、実施例3の表3の比の欄(本件特許掲載公報第6頁)に記載されている0.143に基づいているが、請求項6に記載されていた0.1以上という数値範囲において、数値範囲を0.143以上とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、上記訂正によって別個の新たな目的及び効果をもたらすものではないから実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、減縮された特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるための、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、上記訂正事項cは請求項の削除とそれに伴う請求項数の繰り上げであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、しかも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、本件請求項1〜6に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ本件訂正発明1〜6という)。
「【請求項1】焼成処理温度以下に軟化点を有するガラス粉末が重量比で30重量部〜100重量部、セラミック粉末が70重量部〜0重量部混合されたガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを作製し、前記グリーンシートに導体ペースト組成物で電極パターンおよび層間接続バイアを形成し、同様に作製した所望枚数のグリーンシートを積層した第1の積層体群に、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシートを第1の積層体群の両面に挟み込んで積層した後、焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とし、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上である多層セラミック基板の製造方法。
【請求項2】焼成処理を800℃〜1000℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項3】焼成処理で焼結しない無機組成物が、平均粒径0.5μm〜20μmのAl2O3を含むグリーンシートからなることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項4】焼成処理で焼結しない無機組成物を超音波洗浄法で取り除くことを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項5】導体ペーストがAg,Ag/Pd,Ag/Pt,Cuのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項6】導体ペースト組成物の無機組成物が酸化第2銅を主成分とするぺーストを用い、焼成処理が空気中で多層体内部の有機バインダが分解・飛散する温度で熱処理し、しかる後、水素もしくは水素と窒素の混合ガス雰囲気中で還元熱処理を行い、さらに、前記還元熱処理済み多層体を窒素雰囲気中で焼結させることにより得られることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。」
3-2.取消理由通知の概要
(1)理由1
本件請求項1〜7に係る発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜7に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである。
(2)理由2
本件請求項1〜3、5、6に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも本件請求項1〜3、5、6に係る発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また本件の出願時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、本件請求項1〜3、5、6に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきものである。
3-3.理由(1)について
(1)引用刊行物の記載内容
当審の先の取消理由通知で引用した刊行物1〜3には、以下の事項が記載されている。
刊行物1:特開平4-243978号公報
(a)「a)揮発性固体ポリマーバインダー中に分散させたセラミック固体と焼結性無機バインダーとの微粉砕粒子の混合物からなる未焼成セラミック体を準備し、b)未焼成セラミック体の表面に可撓性強制層を、前記強制層を未焼成セラミック体に密接に一致させるように適用し、ここで前記強制層は揮発性ポリマーバインダー中に分散させた非金属無機固体の微粉砕粒子からなり、セラミック体の焼結性無機バインダーの強制層への浸透は50μm以下であり、c)ポリマーバインダーをセラミック体と強制層の両方から揮発させ、強制層中で相互連結された多孔性を形成させ、そして無機バインダーをセラミック体中で焼結するに十分な温度と時間で集成体を焼成し、d)焼成済み集成体を冷却し、そしてe)多孔質強制層を焼結済みセラミック体から除く逐次的工程からなるセラミック体の焼成の間X-Y収縮を減少させる方法。」(請求項1)
(b)「無機バインダーが非晶質ガラスである請求項1記載の方法。」(請求項3)
(c)「強制層中の非金属無機固体の焼結温度がセラミック体中の無機バインダーの焼結温度より少なくとも50℃高い請求項1記載の方法。」(請求項7)
(d)「強制層中のセラミック固体がムライト、石英、Al2O3、CeO2、SnO2、MgO、ZrO2、BN及びそれらの混合物から選ばれる請求項9記載の方法。」(請求項10)
(e)「未焼成セラミックテープと強制層の中の固体の平均粒子サイズが1〜20ミクロンであり、・・・。」(請求項16)
(f)「パターン中の導電性材料が貴金属又はその混合物又は合金である請求項21記載の方法。」(請求項22)
(g)「貴金属が金、銀、パラジウム又はそれらの合金である請求項22記載の方法。」(請求項23)
(h)「多層回路を作る一つのよく知られた方法は多数のセラミックテープ誘電体を同時焼成する方法であり、この誘電体の上には導電体が印刷されてあり、又誘電体層を貫通して延び、種々な導電体層を相互連結する金属化されたバイアがある。」(第3頁第4欄第14〜18行)
(i)「セラミックテープ層の焼結が完了した後集成体を冷却する。その後強制層はダスチング又は超音波処理により部品のセラミック表面又は導電性通路に影響を与えたり損傷することなく完了した部品の表面から除くことができる。」(第7頁第11欄第20〜24行)
(j)「本発明はこれらの温度に限定されるものではないが、焼成は通常800〜950℃のピーク温度で行い、そしてピーク温度に少なくとも10分間保持する。」(第7頁第12欄第20〜23行)
(k)「ガラスと耐火性無機固体がその中に分散されている有機媒質はポリマーバインダーからなるが、場合により他の材料例えば可塑剤、離型剤、分散剤、剥離剤、防汚剤及び湿潤剤をその中に溶解させる。」(第8頁第13欄第4〜7行)
(l)「未焼成テープはバインダーポリマー、可塑剤及び溶剤の溶液に分散させた誘電体粒子及び無機バインダーのスラリーを支持体・・・の上に流延させ、次いで流延スラリーをドクターブレードを通過させて流延フィルムの厚さを調節することにより製造する。かくして本発明に使用するテープはそのような慣用的な方法で作ることができ、これはUsalaに対する米国特許第4536535号に極めて詳細に記述されている。」(第8頁第14欄第13〜21行)
(m)「本発明の方法に使用する未焼成テープはしばしば層の電気的相互接続のためのバイア、登録孔及び装置とチップ付属品を受け入れるためのその他の穿孔を含むことがあるのは言うまでもない。」(第8頁第14欄第22〜25行)
(n)「本発明の方法に使用する強制層は固体有機ポリマーバインダーに分散させた非金属粒子からなる。・・・如何なる非金属無機材料もそれが焼成の間焼結を受けず・・・」(第8頁第14欄第39〜48行)
(o)「次の一組の実験は本発明の方法が焼成の間半径方向収縮(すなわちX-Y収縮)をなくし、そしてきつい寸法許容度を持つ多層パッケージを作る手段を提供することを示すために行った。この実施例はこの方法により作られる正確な線寸法制御を示す。研究の中で測定した試料はDu Pont Green TapeTM(誘電率〜6)から調整した。焼成の間の線寸法変化の測定に使用した方法も概説する。【0077】試料は標準の多層Du Pont Green TapeTM処理法により調整したが、この方法はセラミックテープのブランク層の切断及び低い温度(例えば70℃)と圧力(例えば3000psi)で層を積層させてモノリス未焼成多層体の作成を含む。ある場合、下に示すように金属導体ペーストを積層前テープ層の上にスクリーン印刷した。ある場合には、強制テープの層を積層前多層堆積の上部と底部に付加した。・・・これらの場合、強制層を単純に積層済み誘電体層の上部と底部に付加し、そして全堆積を追加の時間積層させて強制層を接着させた。【0078】表1の実施例1〜5の2”×2”試料を8枚の3”×3”平面ブランクから調製した。金属化を示していない試料については、8層の内2層又は6層のいずれかにDu Pont 6142 Ag導体金属化を用いてクロスハッチ試験パターンをスクリーン印刷した。試験パターンは高密度導体パターンを複製してデザインした。実施例5においては金属を各印刷済み層の表面の半分のみに適用した。厚さ3ミルの強制テープの4層を各堆積の上部と底部に、全部で16層のテープを付加した。全16層を一緒に3000psiと70℃で10分間積層させた。次いで試料を2”×2”の大きさに切断した。未焼成の強制層テープ/回路部品を平滑、無気孔のアルミナセッター上に置き、275℃で1時間バーンアウト(burn out)させた。それらをセッターから除かないで部品をベルト炉を通過させ、850℃で焼結した。冷却後強制層をダスチングにより除いた。」(第11頁第19欄第23行〜第20欄第10行)
刊行物2:特開昭62-2597号公報
(p)「SiO2 60〜90重量%、B2O3 5〜30重量%、Al2O3 0.1〜10重量%、BaO 0.1〜10重量%、M2O(ここでMはアルカリ金属)0.01〜6重量%の組成となるガラス粉末40〜60重量%と、Al2O3 90〜98重量%、SiO2 1〜5重量%、CaO 0.1〜2重量%、MgO 0.5〜4重量%の組成となる結晶質混合物60〜40重量%からなる粉末組成物に有機バインダおよび有機溶剤を加えたグリーンシートまたは絶縁ペーストと、酸化銅を主成分とする無機材料に、有機バインダおよび有機溶剤を加えた導体ペーストにより、少なくとも1層以上の配線を形成する工程と、該未焼結体を炭素に対して充分な酸化雰囲気で、かつ内部の有機成分を熱分解させるに充分な温度で、脱バインダする工程と、さらに、これを前記ガラス組成物の軟化点以下の温度で、還元雰囲気中で熱処理する工程と、その後、窒素雰囲気中で焼成し、焼結させる工程を有することを特徴とするセラミック配線基板の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
刊行物3:特開昭61-26293号公報
(q)「本発明は、半導体IC,チップ部品などを搭載し、かつそれらを相互配線した、セラミック多層配線基板およびその製造方法に関するものである。」(第1頁右下欄第13〜15行)
(r)「まず本発明にかかるセラミック基板材料は、ホウケイ酸ガラス粉末(コーニング社製#7059ガラス平均粒径3μm)とアルミナ(Al2O3平均粒径1.0μm)粉末を重量比で40対60となるように配合したものを用いた。」(第4頁右上欄第6〜10行)
刊行物4:特公平2-13955号公報
(s)「第1図を参照すると、本発明の一実施例に係るハイブリッド基板が示されている。ここでは、まず、このハイブリッド基板の製造方法を説明すると、重量で、CaO10〜55%、SiO245〜70%、及びAl2O30〜30%を含むガラス粉末及びAl2O3粉末を用意する。このガラス粉末にはB2O3が0〜20%含まれていてもよい。次に、上記ガラス粉末を重量で50〜65%、Al2O3粉末を重量で50〜35%含む混合物を形成する。」(第3頁第5欄第25〜33行)
刊行物5:特開昭60-260465号公報
(t)「重量基準で10%までの不純物を含むことあるCaO10〜55%、SiO245〜70%、Al2O30〜30%よりなる組成のガラス粉末50〜65%と、10%までの不純物を含むことあるAl2O3粉末50〜35%からなる混合物を低温焼成してなることを特徴とする低温焼成セラミックス。」(特許請求の範囲第1項)
(u)「本発明を多層基板に利用するときは、成形したグリーンシート上に例えばAg系の導体を印刷し、必要な枚数重ね合わせて、同時に焼成し、必要な場合にはスルーホールを形成して、一体化した基板とすることができる。」(第5頁右上欄第6〜10行)
(2)対比・判断
(2-1)本件訂正発明1について
刊行物1には、上記(a)〜(c)、(n)から「揮発性固体ポリマーバインダー中に分散させたセラミック固体と焼結性非晶質ガラスとの微粉砕粒子の混合物からなる未焼成セラミック体を準備し、未焼成セラミック体の表面に可撓性強制層を、前記強制層を未焼成セラミック体に密接に一致させるように適用し、ここで前記強制層は揮発性ポリマーバインダー中に分散させた上記非晶質ガラスの焼結温度より焼結温度が高く、焼成の間焼結しない非金属無機固体の微粉砕粒子からなり、そして上記非晶質ガラスをセラミック体中で焼結するに十分な温度と時間で集成体を焼成し、焼成済み集成体を冷却し、そして強制層を焼結済みセラミック体から除く逐次的工程からなるセラミック体の焼成の間X-Y収縮を減少させる方法。」が記載されていると云える。
ここで、上記(h)、(o)から未焼成セラミック体が8層のセラミックテープからなる多層回路を目的として、金属導体ペーストがスクリーン印刷されていることが、上記(o)から強制層が厚さ3ミルの強制テープを4層重ねたものであることが、上記(k)、(l)から未焼成セラミック体には可塑剤が含まれていることがそれぞれ明らかであり、上記(h)、(m)から多層基板において層間バイアが設けられていることが明らかであるから、
結局、刊行物1には、
「可塑剤と揮発性固体ポリマーバインダー中に分散させたセラミック固体と焼結性非晶質ガラスとの微粉砕粒子の混合物からなる8層のセラミックテープを重ねた未焼成セラミック体を準備し、上記セラミックテープには金属導体ペーストが印刷され、かつ層間バイアを形成しており、上記未焼成セラミック体の表面に厚さ3ミルの強制テープを4層重ねた可撓性強制層を密接に一致させるように適用し、ここで前記強制テープは揮発性ポリマーバインダー中に分散させた上記非晶質ガラスの焼結温度より焼結温度が高く、焼成の間焼結しない非金属無機固体の微粉砕粒子からなり、そして上記非晶質ガラスをセラミック体中で焼結するに十分な温度と時間で上記未焼成セラミック体と可撓性強制層からなる集成体を焼成し、焼成済み集成体を冷却し、そして強制層を焼結済みセラミック体から除く逐次的工程からなる多層回路の製造方法。」という発明(以下、刊行物1発明という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「セラミック固体」、「焼結性非晶質ガラス」、「微粉砕粒子の混合物」、「揮発性固体ポリマーバインダー」、「セラミックテープ」、「未焼成セラミック体」、「多層回路」は、本件訂正発明1の「セラミック粉末」、「ガラス粉末」、「ガラス・セラミック無機粉末」、「有機バインダ」、「ガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシート」、「第1の積層体群」、「多層セラミック基板」にそれぞれ相当し、刊行物1発明の「金属導体ペーストが印刷され、かつ層間バイアを形成してある」ことは本件訂正発明1の「導体ペースト組成物で導体パターンおよび層間バイアを形成し」に相当し、また、刊行物1発明の「揮発性ポリマーバインダー中に分散させた上記非晶質ガラスの焼結温度より焼結温度が高く、焼成の間焼結しない非金属無機固体の微粉砕粒子からなる厚さ3ミルの強制テープを4層重ねた可撓性強制層」は本件訂正発明1の「ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート」に相当し、刊行物1発明の「焼結性非晶質ガラス」は無機バイイダーとして使用されているのであり焼成処理温度以下に軟化点を有することは明らかである。そうすると、両者は、
「焼成処理温度以下に軟化点を有するガラス粉末とセラミック粉末が混合されたガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを作製し、前記グリーンシートに導体ペースト組成物で電極パターンおよび層間接続バイアを形成し、同様に作製した所望枚数のグリーンシートを積層した第1の積層体群に、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシートを第1の積層体群の両面に挟み込んで積層した後、焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とする多層セラミック基板の製造方法」で一致し、次の点で相違していると云える。
(イ)本件訂正発明1では、ガラス粉末が重量比で30重量部〜100重量部、セラミック粉末が70重量部〜0重量部混合されたガラス・セラミック無機粉末であるのに対し、刊行物1発明では、その点に言及されていない点
(ロ)本件訂正発明1では、第1の積層体群の厚みに対し、ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上であるのに対し、刊行物1発明では、第1の積層体群が8層のガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みであり、ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みが12ミルである点
次に、これら相違点(イ)について検討する。
多層セラミック基板製造のためのグリーンシートとして刊行物2には上記(p)からガラス粉末が40〜60重量%、セラミック粉末が60〜40重量%の例が、刊行物3には上記(q)、(r)からガラス粉末とセラミック粉末との重量比が40対60の例が、刊行物4には上記(s)からガラス粉末50〜65%、セラミック粉末50〜35%の例が、刊行物5には、上記(t)、(u)から、ガラス粉末50〜65%、セラミック粉末50〜35%の例がそれぞれ記載されている。
そして、上記(l)から刊行物1に使用されるテープは米国特許第4536535号明細書に記載された慣用的な方法で製造されることが明らかであるが、該米国特許第4536535号明細書をみてみると、その実施例56には、ガラス粉末が32.2wt%、Al2O3 16.5wt%、SiO2 4.0wt% その他の例が示されている。これをガラス粉末とセラミック粉末との比に換算すると、61.1対38.9の比となる。
これらのことを併せ考えると、本件訂正発明1に規定するガラス粉末とセラミック粉末の重量比の数値範囲は格別なこととは認められない。
次に相違点(ロ)について検討する。
刊行物1発明において、「ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層」の厚さが12ミル(0.305mm)であり、「ガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシート」が8層で第1の積層体群となっているのであるから、「第1の積層体群の厚みに対し、ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上である」ためには、逆算すると、「ガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシート」1層の厚みは0.267mm以下である必要がある。
刊行物1において、上記(o)から実施例では、「DuPont Green TapeTM」が使用されている。
このテープは「Du Pont」社の販売したグリーンテープという商品であるが、その厚みは、特許権者の提出した文献(平成13年4月27日付け回答書添付乙第3号証:米国特許第4806188号明細書第4欄第49〜50行)から、50〜400μmであることが、特許異議申立人京セラ株式会社の提出した文献(平成13年4月26日付け回答書添付参考文献1:米国特許第5041695号明細書第5欄第44〜54行、第6欄第13〜17行)から、0.010〜0.015インチ(0.085〜0.191mm)であることが、特許異議申立人遠藤昭子提出の文献(平成13年5月1日付け回答書添付参考資料1:「IMC 1990 Proceedings,Tokyo」の配付資料第150〜154頁、特に第152頁表2)から、5.0ミル(0.127mm)であることがそれぞれ記載されている。
してみると、「Du Pont」社の販売したグリーンテープには、上記の0.267mm以下のテープが存在することは明らかである。
また上記(イ)について述べたように、刊行物1に使用されるテープの製造法の参考として挙げられている米国特許第4536535号明細書の実施例56には4ミル(0.102mm)の例が挙げられている。
そして、本件訂正発明1においてこの0.143以上の根拠となった表3(本件特許掲載公報第6頁)をみると、0.143以上の0.15、0.25、0.5、1.0で収縮率、基板反りとも0.143の時に比べて悪く、0.143を境に0.143以上と以下で効果に差があるとは云えず、0.143という数値に臨界性があるとは云えない。してみると、この0.143以上という数値限定は、後述する先願明細書に記載された発明の具体的数値を含まないために定めたものにすぎない。
そして、刊行物1に挙げられた先行技術についての記載では、焼成後基体表面から取り除く未焼成セラミックの接触板により「セラミックMLC基体の焼成の間のX-Yゆがみ、反り及び収縮を妨げるためZ方向の抑制力を使用する」(刊行物1第4頁第5欄第30〜32行)ことが記載されている。 してみると、刊行物1発明においても、強制層を使用する以上、上記先行技術の接触板と同じようにZ方向の抑止力を使用していると云えるから、当然X-Y収縮を減少させるだけでなく「反り」を妨げることを考慮していることは明らかである。したがって、刊行物1発明においても、本件訂正発明1の奏する「平面方向の収縮が起こらないばかりか基板反りのない」という効果(本件特許掲載公報第7頁第14欄第6、7行)と同じ効果を奏しているものと認められる。
これらのことを併せ考えると、本件訂正発明1に規定する「0.143以上」の数値範囲は当業者が適宜選択できることと認められる。
以上のとおり、本件訂正発明1は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2-2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用しさらに「焼成処理を800℃〜1000℃の範囲で行う」点を限定したものであるが、この点については上記(j)に記載された数値範囲や、上記(o)に記載された数値と重複している。したがって、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明2は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2-3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は本件訂正発明1を引用しさらに「焼成処理で焼結しない無機組成物が、平均粒径0.5μm〜20μmのAl2O3を含むグリーンシートからなる」点を限定したものであるが、この点については上記(d)にアルミナが記載されており、また粒径の数値範囲は上記(e)に記載された数値範囲と重複する。したがって、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明3は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2-4)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は本件訂正発明1を引用しさらに「焼成処理で焼結しない無機組成物を超音波洗浄法で取り除く」点を限定したものであるが、この点については上記(i)に記載されているから、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明4は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2-5)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は本件訂正発明1を引用しさらに「導体ペーストがAg,Ag/Pd,Ag/Pt,Cuのいずれかを主成分とする」点を限定したものであるが、この点については上記(f)、(g)に記載されているから、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明5は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2-6)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は本件訂正発明1を引用しさらに「導体ペースト組成物の無機組成物が酸化第2銅を主成分とするぺーストを用い、焼成処理が空気中で多層体内部の有機バインダが分解・飛散する温度で熱処理し、しかる後、水素もしくは水素と窒素の混合ガス雰囲気中で還元熱処理を行い、さらに、前記還元熱処理済み多層体を窒素雰囲気中で焼結させることにより得られる」点を限定したものであるが、刊行物2(上記(p))にはセラミック多層基板に酸化銅ペーストを使用する場合、最初に酸化雰囲気、その後還元雰囲気、しかる後窒素雰囲気で焼成することが記載されているから、刊行物1発明において酸化第2銅ペーストを使用する場合に「焼成処理が空気中で多層体内部の有機バインダが分解・飛散する温度で熱処理し、しかる後、水素もしくは水素と窒素の混合ガス雰囲気中で還元熱処理を行い、さらに、前記還元熱処理済み多層体を窒素雰囲気中で焼結させる」ことは格別のこととは認められない。加えて、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明6は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
3-4.理由(2)について
(1)先願明細書の記載内容
当審の先の取消理由通知で引用した先願明細書には、以下の事項が記載されている。
先願明細書:特願平3-207491号(特開平5-28867号)の願書に最初に添付された明細書
(あ)「少なくともガラスセラミック粉末を原料としたグリーンシートを作成する工程と、耐火物粉末を原料としたグリーンシートを作成する工程と、上記のガラスセラミック粉末を原料とした1枚以上のグリーンシートの両面を上記の耐火物粉末を原料としたグリーンシートで挟んで成形する工程と、その成形体を1100℃以下の温度で焼成する工程と、その焼成体から耐火物粉末を除去する工程とを有することを特徴とするガラスセラミック基板の製造方法。」(請求項1)
(い)「・・・グリーンシートに成形した後、導体として通常の厚膜法で使用される金、銀、銅等のペーストを印刷して・・・」(第2頁第1欄第36〜38行、公開公報中での記載箇所、以下同じ)
(う)「本発明において、ガラスセラミック粉末は1100℃以下で充分に焼成するものであればよく、ガラス粉末としては例えば硼珪酸ガラスをベースに酸化鉛、酸化亜鉛、アルカリ土類金属の酸化物などを含有する軟化点600〜800℃の非晶質ガラス粉末・・・などが利用でき、これにアルミナ・・・等のセラミックフィラーを混入させてもよい。そのガラス粉末とセラミックフィラーの混合比率は、ガラスセラミック基板の抗折強度、誘電率、緻密性等の性能を勘案して調整されるが、一般的に重量比で1:1付近で用いることが多い。」(第2頁第2欄第19〜30行)
(え)「一方、耐火物粉末は、1100℃以下の温度で実質的に焼結せず、かつガラスセラミック粉末と有害な化学反応の起こらないことを条件として選定する。・・・上記のような耐火物粉末としては、例えばアルミナ・・・」(第2頁第2欄第31〜38行)
(お)「その耐火物粉末の粒径は、大きいほうが焼成後の除去が容易であるが、あまり大きいとガラスセラミック基板の表面が粗くなるので0.5〜4μm程度のものが好ましい。」(第2頁第2欄第40〜43行)
(か)「上述したガラスセラミック粉末および耐火物粉末の試料を、それぞれバインダー、可塑剤、溶剤とともに混合してスラリー化し、各々をドクターブレード法等でグリーンシートに作成するもので・・・」(第2頁第2欄第44〜47行)
(き)「ガラスセラミック粉末のグリーンシートの厚さは、製造すべきガラスセラミック基板の抗折強度等を勘案して適宜調整するもので、例えば30〜200μm程度に成形する。また耐火物粉末のグリーンシートの厚さは、あまり薄いと膜の強度が弱くてハンドリングが悪く、また厚すぎると耐火物の使用量が多くなり不経済であるので、30〜200μm程度が好ましい。」(第3頁第3欄第4〜10行)
(く)「・・・ガラスセラミック基板が多層基板であるときは、必要に応じて導体ペースト等を印刷する。そしてガラスセラミックのグリーンシートを1枚もしくは必要枚数重ね、その両側に耐火物のグリーンシートを配置してホットプレス機等で加圧、加温して一体化する。」(第3頁第3欄第13〜17行)
(け)「次に、上記の積層体を例えば450〜600℃程度に加熱して有機物を除去した後、1100℃以下例えば800〜1100℃で焼成して基板を製作する。この段階では焼結したガラスセラミック層の両面に耐火物粉末が付着した状態であるので、ブラシ等でこすれば耐火物粉末が基板から除去できる。」(第3頁第4欄第2〜7行)
(こ)「以上の本発明によるガラスセラミック基板の製造方法によれば、ガラスセラミック層は耐火物層に拘束されて基板の面方向には殆ど収縮せず厚さ方向にのみ収縮するもので寸法精度の優れた基板を得ることが可能となるものである。」(第3頁第4欄第12〜16行)
(さ)「ガラスセラミック粉末として、下記の表1に示す組成のガラス粉末(平均粒径2.2μm)とアルミナ粉末を50:50の重量比率で混合した。・・・耐火物粉末としては、平均粒径1.3μmの酸化ジルコニウムを用いた。・・・次に、上記2種類のスラリーを、各々ドクターブレード法でシート状に成形してガラスセラミック粉末のグリーンシートと耐火物粉末のグリーンシートを作成した。その厚さは118μm、131μmであった。その得られたガラスセラミックのグリーンシートを8枚積層し、さらに両面を同じ大きさの耐火物のグリーンシートで挟んで150kg/cm2、85℃の条件で加圧成形した。」(第3頁第4欄第18行〜第30行)
(2)対比・判断
訂正前の請求項1、2、3、5に係る発明は、それぞれ訂正後の請求項1、2、3、5に係る発明に対応し、訂正前の請求項6に係る発明は削除されたから、当審の先の取消理由通知の理由(2)については本件訂正発明1、2、3、5にされたことになる。
(2-1)本件訂正発明1について
先願明細書には、上記(あ)、(う)、(え)、(か)から「軟化点600〜800℃の非晶質ガラス粉末とセラミックフィラーを重量比1:1で混合し、バインダー、可塑剤を含むグリーンシートを作成し、1100℃以下の温度で実質的に焼結しない耐火物粉末を原料としたグリーンシートを作成し、上記のガラスセラミック粉末を原料とした1枚以上のグリーンシートの両面を上記の耐火物粉末を原料としたグリーンシートで挟んで成形し、その成形体を1100℃以下の温度で焼成し、その焼成体から耐火物粉末を除去する工程とを有することを特徴とするガラスセラミック基板の製造方法。」が記載されていると云える。
さらに、先願明細書には、上記(く)から導体ペーストを印刷した多層基板であることが、また上記(き)から「バインダー、可塑剤を含むグリーンシート」の厚みが30〜200μmであることが、「耐火物粉末を原料としたグリーンシート」の厚みが30〜200μmであることがそれぞれ記載されているから、結局先願明細書には、
「軟化点600〜800℃の非晶質ガラス粉末とセラミックフィラーを重量比1:1で混合し、バインダー、可塑剤を含む厚みが30〜200μmのグリーンシートを作成し、該グリーンシートには導体ペーストを印刷し、また1100℃以下の温度で実質的に焼結しない耐火物粉末を原料としたの厚みが30〜200μmのグリーンシートを作成し、上記のガラスセラミック粉末を原料としたグリーンシートを複数枚積層したものの両面を上記の耐火物粉末を原料としたグリーンシートで挟んで成形し、その成形体を1100℃以下の温度で焼成し、その焼成体から耐火物粉末を除去する工程とを有することを特徴とする多層ガラスセラミック基板の製造方法」という発明(以下、先願発明という)が記載されていると云える。
そこで本件訂正発明1と先願発明とを対比すると、先願発明の「耐火物粉末」、「複数枚積層したもの」、「多層ガラスセラミック基板」は、本件訂正発明1の「無機組成物」、「第1の積層体群」、「多層セラミック基板」にそれぞれ相当する。そうすると、両者は
「焼成処理温度以下に軟化点を有するガラス粉末とセラミック粉末が混合されたガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを作製し、前記グリーンシートに導体ペースト組成物で電極パターンを形成し、同様に作製した所望枚数のグリーンシートを積層した第1の積層体群に、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシートを第1の積層体群の両面に挟み込んで積層した後、焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除く多層セラミック基板の製造方法」で一致し、かつガラス粉末とセラミック粉末の重量比の数値範囲も重複するから、両者は
(イ)本件訂正発明1には、層間バイアを形成することが記載されているのに対して、先願発明ではその点に言及されていない点、
(ロ)本件訂正発明1には、第1の積層体群の厚みに対し、ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上であるのに対して、先願発明では、有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みが30〜200μmであり、無機組成物よりなるグリーンシートの厚みが30〜200μmである点で相違している。
上記相違点(イ)について検討すると、層間バイアを形成することは、多層セラミック基板の製造において上記刊行物1にも記載されているように普通に行われることであるから、先願発明において多層セラミック基板を製造する以上、層間バイアを形成することは先願明細書に記載されたに等しい事項であるものと認める。
次に相違点(ロ)について検討する。
上記3-3.(2-1)で述べたように、0.143以上という数値範囲には臨界性はない。
ところで、上記(さ)から先願発明の実施例には、有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みが118μmであり、無機組成物よりなるグリーンシートの厚みが131μmであり、有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを8枚積層していることが記載されているから、これを計算すると、第1の積層体群の厚みと無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比は0.139となる。しかしながら、上記(こ)の「基板の面方向には殆ど収縮せず厚さ方向にのみ収縮するので寸法精度に優れた基板を得る」という記載からみても、先願発明においても、反りを防いでいることは明らかであり、上記の比が0.139を越えて0.143以上になっても、この目的を達成できることは明らかである。
加えて、先願明細書に記載された有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの積層枚数は1枚以上で枚数が限定されているわけではないが、実施例のように有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートが8枚積層しているとすると、先願発明では、有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みが30〜200μmであり、無機組成物よりなるグリーンシートの厚みが30〜200μmであるから、例えば有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みが30μmで、無機組成物よりなるグリーンシートの厚みが200μmの場合は、上記の比は0.83となる。このように先願発明には上記の比が0.143以上となる有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みの数値や積層枚数と、無機組成物よりなるグリーンシートの厚み数値との組合せが数多く存在する。逆に先願明細書には有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートの厚みの数値や積層枚数と、無機組成物よりなるグリーンシートの厚み数値との組合せの中で、上記の比に上限があるような組合せにしなければならないという明示もない。さらに、その実施例に0.139の場合があるにもかかわらず、先願発明には0.143以上の場合が含まれていないと云うような技術常識に反する証拠も理由も特許権者は提出していない。
したがって、先願発明には、上記の比が0.143以上の場合が含まれていることは明らかである。
以上のことから、本件訂正発明1は先願発明と実質的に同一である。しかも本件訂正発明1の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また本件の出願時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない。
(2-2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用しさらに「焼成処理を800℃〜1000℃の範囲で行う」点を限定したものであるが、この点については上記(け)に記載された数値範囲と重複するから、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明2は、先願発明と実質的に同一である。
(2-3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は本件訂正発明1を引用しさらに「焼成処理で焼結しない無機組成物が、平均粒径0.5μm〜20μmのAl2O3を含むグリーンシートからなる」点を限定したものであるが、この点については上記(え)にアルミナが記載されており、粒径の数値範囲は上記(お)に記載された数値範囲と重複している。したがって、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明3は、先願発明と実質的に同一である。
(2-4)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は本件訂正発明1を引用しさらに「導体ペーストがAg,Ag/Pd,Ag/Pt,Cuのいずれかを主成分とする」点を限定したものであるが、この点については上記(い)に記載されているから、上記(2-1)に述べたと同じ理由で、本件訂正発明5は、先願発明と実質的に同一である。
4.むすび
以上のとおり、訂正後の本件請求項1〜6に係る発明は、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、訂正後の本件請求項1〜3、5に係る発明は、いずれも特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、訂正後の本件請求項1〜6についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多層セラミック基板の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】焼成処理温度以下に軟化点を有するガラス粉末が重量比で30重量部〜100重量部、セラミック粉末が70重量部〜0重量部混合されたガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを作製し、前記グリーンシートに導体ペースト組成物で電極パターンおよび層間接続バイアを形成し、同様に作製した所望枚数のグリーンシートを積層した第1の積層体群に、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシートを第1の積層体群の両面に挟み込んで積層した後、焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とし、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上である多層セラミック基板の製造方法。
【請求項2】焼成処理を800℃〜1000℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項3】焼成処理で焼結しない無機組成物が、 平均粒径0.5μm〜20μmのAl2O3を含むグリーンシートからなることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項4】焼成処理で焼結しない無機組成物を超音波洗浄法で取り除くことを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項5】導体ペーストがAg,Ag/Pd,Ag/Pt,Cuのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項6】導体ペースト組成物の無機組成物が酸化第2銅を主成分とするペーストを用い、焼成処理が空気中で多層体内部の有機バインダが分解・飛散する温度で熱処理し、しかる後、水素もしくは水素と窒素の混合ガス雰囲気中で還元熱処理を行い、さらに、前記還元熱処理済み多層体を窒素雰囲気中で焼結させることにより得られることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は半導体LSI、チップ部品などを搭載し、かつそれらを相互配線するためのセラミック多層配線基板とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、低温焼結ガラス・セラミック多層基板の開発によって、使用できる導体材料に高融点金属であるタングステン,モリブデンに代わり、低融点の金、銀、銅、パラジウムまたはそれらの混合物が用いられるようになった。これらの金属は従来使用されたタングステン、モリブデンなどに比べ導体抵抗が低く、且つ使用できる設備も安全で低コストに製造できることから大いに期待されている。
【0003】
一方これらの金属の内、貴金属である金、銀、パラジウムは高価でかつ価格変動が大きいことから、安価で価格変動の少ないCu電極材料の使用が望まれている。ここではそれらの低温焼結多層基板の代表的な製造方法の一例を述べる。低温焼結多層基板の種類には大きく分けて3種類の方法がある。
【0004】
まず第1に多層基板の内層電極に銀を用い、低温焼結基板のグリーンシートを所望の枚数積層し、空気中で焼成し、その後最上層に銀、パラジウムペーストを印刷、焼成して得られるものである。これは内部にインピーダンスの小さい銀を用い、最上層に半田耐熱を有する銀・パラジウムを使用するものである。
【0005】
第2は、内部の電極に前者と同様に銀を用い、最上層に銅を用いる方法で、最上層配線に銅を用いることで、前者の銀・パラジウムに比べ低いインピーダンス、半田濡れの点で有効なものである。しかし、最上層に用いる銅は銀との共晶温度が低いため600℃程度の低温焼成銅ペーストを用いなければならない。その結果、接着強度、半田濡れの点で課題が多い(例えば特公平3-78798号公報。)。
【0006】
最後に第3の方法として、内層および最上層に銅電極を用いる方法がある。導体抵抗、半田濡れ性、コストの点で最も良いがすべて窒素などの中性雰囲気で焼成しなければ成らずその作製が困難である。一般に銅電極を使用するには、基板上にCuペーストをスクリーン印刷にて配線パターンを形成し、乾燥後、Cuの融点以下の温度(850〜950℃程度)で、かつCuが酸化されず導体ペースト中の有機成分が十分燃焼するように酸素分圧を制御した窒素雰囲気中で焼成を行なうものである。多層する場合は、同様の条件で絶縁層を印刷焼成して得られる(例えば特願昭55-128899号)。
【0007】
しかし、焼成工程における雰囲気を適度な酸素分圧下にコントロールすることは困難であり、また多層化する場合、各ペーストを印刷後その都度焼成を繰り返し行なう必要があり、リードタイムが長くなり設備などのコストアップにつながるなどの課題を有している。そこで特公平3-20914号公報において、セラミック多層基板の作製にあたり、酸化第二銅ペーストを用い、脱バインダ工程、還元工程、焼成工程の3段階とする方法がすでに開示されている。それは酸化第二銅を導体の出発原料とし多層体を作製し、脱バインダ工程は、炭素に対して充分な酸素雰囲気でかつ内部の有機バインダを熱分解させるに充分な温度で熱処理を行なう。
【0008】
次に酸化第二銅を銅に還元する還元工程、基板の焼結を行なう焼成工程により成立しているものである。これにより、焼成時の雰囲気制御が容易になり緻密な焼結体が得られるようになった。
【0009】
一方、低温焼結基板材料は、前述の金属材料の融点以下で焼成する必要性から通常850〜1000℃程度の温度で焼成する。一般にこのような低温焼結基板材料としては、ガラス-セラミック複合タイプ、結晶化ガラスタイプ、セラミック複合タイプなどがあり、アルミナなどのセラミックフィラーと結晶化ガラスを組み合わせたガラスーセラミック複合タイプを使用するケースが多い。このガラスーセラミック複合タイプでは、ガラスの組成やフィラーの種類を選択することで種々の特性(熱膨張、熱伝導性、誘電率など)をもつ基板が得られるからである。
【0010】
通常、ガラスとセラミックフィラーであるアルミナの混合比率は約50wt%程度で850〜900℃の低温で焼結させる。焼結の過程において、まずガラスの軟化が起こりガラスとアルミナのネットワークが形成され、ついでガラスとアルミナの界面で結晶化反応が起こりち密な焼結体がえられる。したがって、使用するガラスの粒度分布やアルミナとの分散性などの管理が安定した生産の基本となる。これらの製造方法、基板材料により、低温焼成基板は、今後の電子機器の小型化、高周波化に対応した高密度な配線基板として期待されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、セラミック多層基板には以下に示すような課題がある。
【0012】
それは、セラミック多層基板が焼成時に焼結に伴う収縮が生じることであり、従来の多層セラミック基板のみならず今後大いに発展が期待できる低温焼結基板材料であっても同様である。かつこの焼結に伴う収縮は、使用する基板材料、グリーンシート組成、粉体ロットなどにより異なり一定しない。これにより多層基板の作製においていくつかの問題が生じており、セラミック基板の普及に大きな障害となっている。
【0013】
まず第1に、多層セラミック基板の作製において前述のごとく内層配線の焼成を行なってから最上層配線の形成を行なうため、基板材料の収縮誤差が大きいと、最上層配線パターンと寸法誤差のため内層電極との接続が行えない。その結果、収縮誤差を予め許容するように最上層電極部に必要以上の大きい面積のランドを形成しなければならない。このような手法では、結果的に配線可能な領域が限定され高密度の配線を必要とする回路には使用できない。また収縮誤差にあわせて最上層配線のためのスクリーン版をいくつか用意しておき、基板の収縮率に応じて使用する方法が取られている。この方法ではスクリーン版が数多く用意しなければならず不経済である。
【0014】
一方、最上層配線を内層焼成と同時に行なえば大きなランドを必要としないが、この同時焼成法によっても基板そのものの収縮誤差はそのまま存在するので、基板作製後の部品搭載時のクリーム半田印刷において、その誤差のため必要な部分に印刷できない場合が起こる。また部品実装においても所定の部品位置とズレが生じる。
【0015】
第2にグリーンシート積層法による多層基板は、グリーンシートの造膜方向によって幅方向と長手方向によってもその収縮率が異なる。このこともセラミック多層基板の作製の障害となっている。これらの収縮誤差をなるべく少なくするためには、製造工程において、基板材料およびグリーンシート組成の管理はもちろん、粉体ロットの違いや積層条件(プレス圧力、温度)を十分管理する必要がある。しかし、一般に収縮率の誤差は±0.5%程度存在すると言われている。
【0016】
一方、ソリッドな電極を用い積層体をポーラスなセラミックで加圧しながら焼成する方法が提案されている。(米国特許4、753、694号公報および米国特許4、879、156公報)この方法は、厚膜焼成導体では導体の抵抗が高いことから銅箔などのソリッドな電極パターンをキャリアフィルム上に転写し、さらにその上に絶縁層をグリーンシート法で形成し、ヴィア加工の後積層して多層積層体を形成し、その両面にポーラスな焼結体で挟み込み、さらに金型に挿入して加圧しながら焼成する方法である。この方法によると、横方向の収縮が抑制され加圧により縦方向の収縮が起こるというものである。しかしながらこの方法では次のような課題がある。それは脱バインダ時にバインダの除去が完全に起こるようにポーラスな焼結体であることが必要であるため、逆に基板の焼結時に接着してしまい、取り外しが困難である点。さらに加圧して焼成する必要があるため焼成炉が複雑となり、かつ量産性に欠けるなどの課題がある。
【0017】
このことは多層基板にかかわらずセラミック、およびガラス・セラミックの焼結を伴うものに共通の課題であり、特別な装置を必要とせず量産性に富む方法で基板材料の焼結が厚み方向だけ起こり、平面方向の収縮がゼロの基板が作製できれば上記の様な課題が解決でき、工業上極めて有効である。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の多層セラミック基板の製造方法は、焼成処理温度以下に軟化点を有するガラス粉末が重量比で30重量部〜100重量部、セラミック粉末が70重量部〜0重量部混合されたガラス・セラミック無機粉末に、少なくとも有機バインダ、可塑剤を含むグリーンシートを作製し、前記グリーンシートに導体ペースト組成物で電極パターンおよび層間接続バイアを形成し、同様に作製した所望枚数のグリーンシートを積層した第1の積層体群に、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシートを第1の積層体群の両面に挟み込んで積層した後、焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことで厚み方向の収縮だけが起こり平面方向で起こらないガラス・セラミック基板を作製するものであり、さらに、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上であることを特徴とするものである。
【0019】
【作用】
本発明は前記のような工程を行なうことによって、ガラス・セラミック基板が焼成時において厚み方向だけ収縮し、平面方向には収縮しない多層基板が得られるものである。これは、ガラス・セラミック積層体群の両面に存在する焼結しない材料で挟み込まれているため、平面方向の収縮が阻止されるためである。
【0020】
これは、焼成時にガラスーセラミック基板材料の焼結段階で、両面に存在する焼結しない材料が平面方向の焼結を阻害し、ガラスーセラミック基板材料中のガラス成分の軟化で厚み方向のみ焼結する。その結果、最終的にはガラスーセラミックの焼結体密度が従来法の焼結密度と等しくなる。
【0021】
この後、不必要な焼結しない材料層を取り除くことで、所望の多層基板が得られる訳である。またソリッドな導体だけでなく通常に使用される厚膜導体を用いても厚み方向だけに焼結する基板がえられる。
【0022】
【実施例】
以下本発明の一実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施例のグリーンシート積層体の断面を示す図、図2は同実施例の製造プロセスを示すフロ-チャ-トである。
【0023】
(実施例1)
まず多層セラミック基板作製方法を図2のフロ-チャ-トを参考に説明する。
【0024】
基板材料のガラス・セラミックにはホウ珪酸鉛ガラス粉末にセラミック材料としてのアルミナ粉末を重量比で10対90〜100対0までとした組成物を用いた。ガラス材料は日本電気ガラス社製のGAー4ガラス(平均粒径2μm)、アルミナには住友化学社製ALM-44(平均粒径3.0μm)を用いた。このガラス・セラミック粉を無機成分とし、有機バインダとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてヂ-n-ブチルフタレート、溶剤としてトルエンとイソプロピルアルコールの混合液(30対70重量比)を混合しスラリーとした。
【0025】
このスラリーをドクターブレード法で有機フィルム上にシート成形した。この時、造膜から乾燥、打ち抜き、さらには必要に応じてバイアホール加工を行う各工程を連続的に行うシステムを使用した。このグリーンシートに銀ペーストを用いて導体パターンの形成およびビアホール埋め印刷をスクリーン印刷法によって行った。導体ペーストは、Ag粉末(平均粒径1μm)に接着強度を得るためのガラスフリット(日本電気硝子社製 GA-9ガラス粉末、平均粒径2.5μm)を5wt%加えたものを無機成分とし、有機バインダであるエチルセルロースをターピネオールに溶かしたビヒクルとともに加えて、3段ロールにより適度な粘度になるように混合したものを用いた。なおビア埋め用のAgペーストは更に無機成分として前記ガラス・セラミック粉末を15重量%加えたものを使用して行なった。
【0026】
次に焼結の起こらないグリーンシートの作製は無機成分としてアルミナ(住友アルミ社製 AL-41 平均粒径1.9μm)粉末のみを用い前記ガラス・セラミック基板用グリーンシートと同様のグリーンシート組成で、同様の方法でグリーンシートを作製した。前記基板用グリーンシートの厚みは約200μm、アルミナグリーンシートは約300μmである。
【0027】
前記基板用グリーンシートに印刷を行なったものを5枚打ち抜いて重ね合わせ、さらにその両面に前記アルミナグリーンシートを打ち抜いて重ね合わせる。この状態で熱圧着して積層体を形成した。熱圧着条件は、温度が80℃、圧力は200Kg/cm2であった。図1にその構成を示す。1は前記基板材料によるガラス・セラミックグリーンシート層、2はアルミナによる無焼結グリーンシート層、3は内部電極層である。
【0028】
次に前記積層体をアルミナ96%基板上に乗せ空気中で脱バインダ処理の後焼成する。条件は脱バインダがバッチ炉によって500℃で2時間保持し、焼成はベルト炉によって空気中の850℃〜1100℃の温度で1時間焼成で行なった。(最高温度の保持時間は約12分である。)つぎに前記焼結済みの積層体を酢酸ブチル溶剤中に浸し、超音波洗浄を行なったところガラス・セラミック基板の両面のアルミナ層がきれいに取り除くことができ、ガラス・セラミック焼結体が得られた。この焼成後の基板の収縮率を測定した結果を(表1)にしめす。
【0029】
【表1】

【0030】
(表1)から明らかなようにセラミック成分であるアルミナの多い領域(アルミナ80%以上)では幅方向の収縮が抑えられず、基板の割れが生じる。これは本発明の方法がガラス成分をある程度含む基板材料であることで初めて起こるものであり、焼成段階のガラスの軟化、溶解によって厚み方向のみの収縮が起こることに起因していると考えられる。つぎに積層体を観察するとガラスが30重量%以上の領域で基板の平面方向の収縮が抑えられていることがわかる。以上のようにガラス成分が30重量%以上あれば平面方向の収縮を抑えることが可能であるが45重量%以上が望ましい。
【0031】
さらにこの多層基板に銀・パラジウムペーストによって最上層パターンをスクリーン印刷し、乾燥の後焼成を前記と同様の方法で行なった。内層基板の収縮が極めて小さい為、最上層パターンの印刷ズレがなかった。
【0032】
(実施例2)
つぎに焼結を抑制するためのアルミナグリーンシートのアルミナ粒径を変化させた場合の基板性能を評価した。
【0033】
基板材料はガラス・セラミック(日本電気硝子社製MLS-19、ガラス/セラミックが45重量%/55重量%、平均粒径1.8μm)の組成で実施例1と同様のグリーンシート作製条件で行なった。次に実施例1と同様グリーンシートに銀ペーストを用いて導体パターンの形成およびビアホール埋め印刷をスクリーン印刷法によって行った。導体ペーストは、Ag粉末(平均粒径1μm)に接着強度を得るためのガラスフリット(日本電気硝子社製 GA-9ガラス粉末、平均粒径2.5μm)を5wt%加えたものを無機成分とし、有機バインダであるエチルセルロースをターピネオールに溶かしたビヒクルとともに加えて、3段ロールにより適度な粘度になるように混合したものを用いた。なおビア埋め用のAgペーストは更に無機成分として前記ガラス・セラミック粉末を15重量%加えたものを使用して行なった。
【0034】
次に焼結の起こらないグリーンシートは無機成分としてのアルミナに、平均粒径0.1μm〜33.0μmの粉末を表2に示す種類用い、実施例1と同様の条件でグリーンシート化した。この時のグリーンシート組成は、アルミナ粒径に応じてバインダ量を若干変化させた。前記基板用グリーンシートの厚みは約200μm、アルミナグリーンシートは約300μmである。
【0035】
前記基板用グリーンシートに印刷を行なったものを5枚打ち抜いて重ね合わせ、さらにその両面に前記アルミナグリーンシートを打ち抜いて重ね合わせる。この状態で熱圧着して積層体を形成した。熱圧着条件は、温度が80℃、圧力は200Kg/cm2であった。
【0036】
次に前記積層体をアルミナ96%基板上に乗せ空気中で脱バインダ処理の後焼成する。条件は脱バインダがバッチ炉によって500℃で2時間保持し、焼成はベルト炉によって空気中の900℃の温度で1時間焼成で行なった。(最高温度の保持時間は約12分である。)つぎに前記焼結済みの積層体を酢酸ブチル溶剤中に浸し、超音波洗浄を行なったところガラス・セラミック基板の両面のアルミナ層がきれいに取り除くことができ、ガラス・セラミック焼結体が得られた。
【0037】
このようにして作製されたガラスーセラミック焼結体の平面方向の収縮率、表面粗さ、基板反り、さらに焼結体表面に後で印刷、焼成したAg/Pd導体の接着強度を測定した。その結果を(表2)に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
なおそれぞれの試験の評価は、以下の通りである。まず平面方向の収縮率は、焼結基板の表面の所定位置に形成されたバイアホール(150μm径)の位置から焼成後の変化を求めたものである。また、表面粗さは表面粗さ計で測定した。
【0040】
次に基板反りは図3に示す方法で評価した。図3で4は基板厚み、5は全体の反り量であり、基板反りは全体の反り量から基板厚みを引いた値である。本発明の方法では、基板反りを完全になくすことは無理で、0.3mm以下であれば充分使用に耐え、0.2mm以下が望ましいと判断できる。最後に導体接着強度は、実施例1と同様に多層基板焼結体表面に銀・パラジウムペーストによって最上層パターンをスクリーン印刷し、120℃-10分の乾燥の後860℃の温度焼成を行なった。(最高温度の保持時間は6分、投入から取り出しまで30分のメッシュベルト式電気炉で行なった。)次に焼成済みの導体(2mm角)表面にリン青銅の導線(0.6mm径)をL字状に曲げたもので半田付けし、基板と垂直に引っ張りその破壊までの強度を引っ張り試験機で測定した。
【0041】
評価の結果、アルミナ粒径を変えた場合でも、平面方向の収縮が抑えられていることがわかる。ただしアルミナ粒径が0.1μmと小さい場合は若干その収縮が大きい。これはアルミナ粒径が小さい場合、グリーンシート化するためのバインダ量が多く必要なため(1.8μmアルミナではバインダ量が9重量%に対し、0.1μmアルミナでは、15重量%必要で、アルミナ表面積が大きいとバインダ量が必然的に多くなる。)脱バインダ後の粉体密度が低下し、焼結段階で平面方向の収縮を抑える抑制力が低下したためと考えられる。よって、アルミナの粒径は0.5μm以上が望ましい。
【0042】
次に表面粗さ性能を評価した結果、使用したアルミナ粒径と相関があり、アルミナ粒径が小さいほど表面粗さが小さいことがわかる。これは両面に積層したアルミナ層を超音波洗浄で取り除いてもごく一部のアルミナがガラスに接着し残存するためであると考えられる。したがって、表面粗さが20μm以上になる33μmのアルミナでは実使用上問題となる。
【0043】
次に基板反りに付いてはアルミナの粒径に依存せずばらつき範囲内である。最後の導体接着強度は粒径が1.8μm以上で接着強度が強い傾向がある。ちなみに、同一基板材料で通常の焼成をおこなった場合の接着強度は約2kgfであるのに対し、本願発明の方法では逆に強度が大きい値を示す。これは前述の表面粗さのデータから判断して表面粗さが適度に大きいため、アンカー効果で接着力が向上しているものと考えられる。
【0044】
以上の結果から、焼結の起こらないグリーンシートの無機成分としてのアルミナは、粒径が0.5μm〜20.0μmの範囲であることが望ましいことがわかる。さらにさらに実使用上から平均粒径が1.8μm〜7μmが最も良い。
【0045】
(実施例3)
次に焼結を抑制するためのアルミナグリーンシート層が、ガラスーセラミック層の平面方向の収縮を抑えるためにはどの程度の厚みが必要かを調べた。
【0046】
評価は実施例2のアルミナ粒径1.8μmを用い、ガラスーセラミックも実施例2と同じものを用いた。実験は、表3に示すように基板材料の積層体厚みに対しアルミナグリーンシート層の片面の厚みを変えた場合と、アルミナグリーンシート層の厚みを一定とし、基板材料の積層体の厚みを変化させた場合も両方で評価した。基板の作製条件は、以下の通りである。
【0047】
実施例1と同様に作製したガラスーセラミックグリーンシートにCuOペーストを用いて導体パターンの形成およびビアホール埋め印刷をスクリーン印刷法によって行った。導体ペーストは、CuO粉末(平均粒径3μm)に接着強度を得るためのガラスフリット(日本電気硝子社製 LS-0803ガラス粉末、平均粒径2.5μm)を3wt%加えたものを無機成分とし、有機バインダであるエチルセルロースをターピネオールに溶かしたビヒクルとともに加えて、3段ロールにより適度な粘度になるように混合したものを用いた。
【0048】
なおビア埋め用のCuOペーストは更に無機成分として前記ガラス・セラミック粉末を15重量%加えたものを使用して行なった。
【0049】
焼結の起こらないグリーンシートの作製は無機成分としてアルミナ粉末のみを用い実施例2と同様のグリーンシート組成で、同様の方法でグリーンシートを作製した。前記基板用グリーンシートの厚みは一層当り約250μm、アルミナグリーンシートは造膜段階でドクターブレード厚みを変化させ種々の厚みのグリーンシートを作製した。
【0050】
前記基板用グリーンシートに印刷を行なったものを表3に示す厚みになるよう所定の枚数打ち抜き、重ね合わせ、さらにその両面に前記アルミナグリーンシートを打ち抜いて重ね合わせ、積層する。この状態で熱圧着して積層体を形成した。熱圧着条件は、温度が80℃、圧力は200Kg/cm2であった。
【0051】
次に、焼成の工程を説明する。まず最初は、脱バインダ工程である。発明に使用したグリーンシート、CuOペーストの有機バインダは、PVB及びエチルセルロースである。したがって空気中での分解温度は、500℃以上あれば良いので、600℃の温度で行なった。その後前記積層体を水素ガス100%雰囲気中で200℃ー5時間で還元した。この時のCu層をX線回折により分析したところ100%Cuであることを確認した。 ガラス・セラミック基板層および酸化アルミ層は脱バインダ工程が終わっているのでポーラスなままで存在しており、そのため基板層内部も容易に金属銅に還元できたものと思われる。
【0052】
次に焼成工程は、純窒素中900℃であるメッシュベルト炉で焼成した。
以上の様にして作製したガラス・セラミック積層体両面のアルミナ層を実施例1と同様超音波洗浄にて取り除き、基板性能を評価した。結果を同様に(表3)に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
結果から明らかなように、積層体群の厚みに対し、平面方向の収縮を抑制するためのアルミナグリーンシート層の厚みが薄い場合、平面方向の収縮が大きいばかりでなく、基板反りも大きいことがわかる。このことは基板材料の積層体群の厚みに対しアルミナ層の一層分の厚みの比が0.0625以下であると基板の収縮が抑えにくくなり、且つ基板の反りが起こることがわかる。
【0055】
つぎに、アルミナグリーンシートの厚みを一定とし、積層体群の厚みを変化させるためガラスーセラミックグリーンシートの積層数を変えて実験を行なった。その結果、この場合もアルミナグリーンシート層一層分の厚みが基板の積層体群の厚みに対し、0.091以下で基板反りが大きくなることがわかった。
【0056】
以上の結果から本願発明の製造方法は平面方向の収縮を抑制するためには、両面に存在する焼結を抑制する無機成分による層の一層分の厚みが、前記ガラスーセラミック積層体層の厚みに対し0.1以上の比のものを用いる必要があることが明かとなった。
【0057】
なお本実施例において、無焼結材料としてAl2O3を用いたが、その他MgO,ZrO2,TiO2,BN、BeOを用いても同様の結果が得られた。またガラス・セラミックグリーンシート群と無焼結グリーンシート層を同時に積層したが、ガラス・セラミックグリーンシート群の積層だけを行い、最後にそのガラス・セラミックグリーンシート群と無焼結グリーンシートを組み合わせて積層する場合も同様の効果が得られた。すなわち、積層体群を複数用意し、無焼結グリーンシートを交互に重ね合わせたものでも同様の効果が得られており、この場合も一層分の厚み比が各積層体群の0.1以上であれば基板反りの無い基板が複数個同時に得られる。
【0058】
また、最上層パターンの形成を基板焼成後に行なったが、最上層ペーストをグリーンシート上に印刷し、同時焼成しても得られることは云うまでもない。
【0059】
以上のように本発明は、多層セラミック基板の作製工程において焼結の起こらない無機成分からなるグリーンシート層を基板層間に設け基板焼成を行なうと、焼結による収縮が平面方向で全く起こらないばかりか同時に多数個の多層基板が同時に得られる。
【0060】
【発明の効果】
本発明は、前述の通りガラス・セラミック積層体群の両面に存在する焼結しない材料で挟み込んで焼成することで、平面方向の収縮が阻止される。そのため、焼成時にガラスーセラミック基板材料の焼結段階で、両面に存在する焼結しない材料が平面方向の焼結を阻害し、ガラスーセラミック基板材料中のガラス成分の軟化で厚み方向のみ焼結する。この後、不必要な焼結しない材料層を取り除くことで、所望の多層基板が得られる。
【0061】
またガラスーセラミックのガラス量を所定量以上含む基板材料で、且つ焼結を阻害する無機組成物として所定の粒径範囲のアルミナを選択すること、および積層するアルミナとガラスーセラミックの焼成前の厚み比を適度に選択する事で、平面方向の収縮が起こらないばかりか基板反りのない高精度なセラミック基板が得られる。またこれにより多層基板に使用する基板材料、グリーンシート組成、粉体ロットなどに依存せず常に同一寸法の基板が得られる。
【0062】
同様に多層セラミック基板の作製において前述のごとく内層配線の焼成を行なってから最上層配線の形成を行なっても、最上層配線パターンと内層の接続が完全に行える。その結果、接続用のランド面積が小さくでき、高密度な多層配線基板が得られる。さらにスクリーン版が少なくて済み、基板設計において収縮率を逆算し内層パターンを拡大する必要がないので経済的である。
【0063】
また焼成時に特に加圧を必要としないため、特別な金型、焼成炉を必要とせず通常のベルト焼成炉でも作製が可能な極めて量産性に富む作製方法である。
【0064】
以上のように、グリーンシート積層法の最大の欠点であった、収縮誤差の課題を解決するとともに極めて量産性に富む有効な発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施例のグリーンシート積層体の断面図
【図2】
同実施例の製造方法を示すフローチャート
【図3】
本発明の課題である基板そりの評価方法を示す図
【符号の説明】
1 ガラス・セラミックグリーンシート層
2 アルミナグリーンシート層
3 内部電極層
4 基板厚み
5 全反り量
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3003413号発明の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、
(1)訂正事項a
請求項1中の「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とする多層セラミック基板の製造方法」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第12〜14行)を、「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことを特徴とし、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上である多層セラミック基板の製造方法」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書中の「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことで厚み方向の収縮だけが起こり平面方向で起こらないガラス・セラミック基板を作製するものである。」(本件特許掲載公報第第3頁第6欄第22〜25行)を、「焼成処理を行い、その後前記焼結しない無機組成物層を取り除くことで厚み方向の収縮だけが起こり平面方向で起こらないガラス・セラミック基板を作製するものであり、さらに、前記第1の積層体群の厚みに対し、前記ガラス・セラミックの焼成処理温度で焼結しない無機組成物よりなるグリーンシート層1層の厚みの比が、焼成処理前で0.143以上であることを特徴とするものである。」と訂正する。
(3)訂正事項c
請求項6を削除し、以下項数を繰り上げて請求項6と訂正する。
異議決定日 2001-06-28 
出願番号 特願平4-251016
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C04B)
P 1 651・ 161- ZA (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 渡辺 仁  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003413号(P3003413)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 多層セラミック基板の製造方法  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  

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