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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J |
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管理番号 | 1051475 |
異議申立番号 | 異議1998-71553 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-03-30 |
確定日 | 2001-10-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2659792号「電子写真用粘着シート」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2659792号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2659792号は、平成1年3月17日に出願され、平成9年6月6日にその特許が設定登録され、その後に特許異議の申立てがあり、二度の取消理由通知がなされ、二度目のそれに対して平成13年6月22日に訂正請求書が提出されたものである。 2.本件訂正請求について (1)訂正請求の内容 本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるもので、その具体的内容は以下のとおりである。 訂正事項a: 特許請求の範囲の請求項1及び請求項2において、「【請求項1】剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、且つ表面基材の表面のべック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であることを特徴とする電子写真用粘着シート。 【請求項2】水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種である請求項(1)記載の電子写真用粘着シート。」を、「【請求項1】剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のベック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シート。 【請求項2】水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シート。」に訂正する。 訂正事項b: 本件明細書第6頁3〜18行(特許公報における第2頁左欄43行〜右欄6行)の「本発明は、剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、且つ表面基材の表面のベック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であることを特徴とする電子写真用粘着シートである。また本発明は、水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種である請求項(1)記載の電子写真用粘着シートである。」を、「本発明は、剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のべック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シートである。 また本発明は、水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シートである。」に訂正する。 訂正事項c: 本件明細書第7頁12〜17行(本件特許公報における第2頁右欄16〜21行)の「なかでも、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂は本発明の効果に優れるため、好ましく用いられる。」を、「なかでも、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂は本発明の効果に優れるため、好ましく用いられる。」に訂正する。 訂正事項d: 本件明細書第7頁18行〜第8頁3行(本件特許公報における第2頁右欄22〜27行)の「本発明で使用される高分子の製造方法については、特に限定されるものではないが、例えば、水又は溶剤中で、連鎖移動剤、重合開始剤等の存在下で溶液重合する方法や、連鎖移動剤、重合開始剤、乳化剤(分散剤)等の存在下、水系でエマルジョン重合する方法等で製造される。」を、「本発明で使用される高分子の製造方法については、例えば、連鎖移動剤、重合開始剤、乳化剤(分散剤)等の存在下、水系でエマルジョン重合する方法等で製造される。」に訂正する。 訂正事項e: 本件明細書第11頁12行(本件特許公報における第3頁左欄37行)の「必要により下塗り層」を、「下塗り層」に訂正する。 訂正事項f: 本件明細書第12頁4行(本件特許公報における第3頁左欄48行)の「必要により下塗り層」を、「下塗り層」に訂正する。 訂正事項g: 本件明細書第12頁17〜18行(本件特許公報における第3頁右欄8〜10行)の「溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、ホットメルト型粘着剤等を塗布し、必要により乾燥」を、「アクリル系エマルジョン粘着剤を塗布し、乾燥」に訂正する。 訂正事項h: 本件明細書第23頁20行(本件特許公報における第5頁左欄15行目)の「200秒」を「200秒/10cc」に訂正する。 (2)訂正請求の可否 訂正事項aについて: 当訂正は、(イ)請求項1に「粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有する」との限定を付すと共に、(ロ)請求項2に記載された水分散性高分子の内、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体もしくは共重合体樹脂を削除し、(ハ)請求項2に「下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である」との限定を付し、さらに、(ニ)請求項1及び2の「電子写真用粘着シート」にそれが乾式のものであるとの限定を付すものである。 (イ)については、粘着剤層を限定し下塗り層の要件を付加するものであり、本件特許明細書の実施例1には「粘着シートの製造 この剥離シートの剥離剤塗布面にアクリル系エマルジョン粘着剤・・・・塗布し、120℃で1分間乾燥した。」と記載され(特許公報第4頁左欄41〜45行)、また、本件特許明細書には「剥離層は剥離基体に、必要により下塗り層を設け、更に剥離剤層を形成してなる。」と記載されている(特許公報第3頁左欄37〜38行)から、(イ)は特許請求の範囲を減縮する訂正であって、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (ロ)については、択一的に列記された樹脂の種類の中から特定の樹脂を削除するものであるから、(ロ)は特許請求の範囲を減縮する訂正であって、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (ハ)については、下塗り層の樹脂を限定するものであり、本件特許明細書には「下塗り層の主成分としては例えば・・・・水分散性アクリル酸エステル共重合体樹脂等の高分子が使用される。」と記載されている(特許公報第3頁左欄43〜45行)から、(ハ)は特許請求の範囲を減縮する訂正であって、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 (ニ)については、電子写真用粘着シートを乾式の電子写真用に限定するものであり、特許明細書には「乾式」との直接の記載はないが、特許明細書の実施例(第5頁右欄34〜39行)においては、トナーの定着性についてのテストが複写機(商品名;SF-8100、シャープ社製)を使用して行われており、特許権者が参考資料1として提出した「シャープ静電複写機 形式名SF-8100 取扱説明書」によれば、その形式のものは乾式現像の複写機であることが明記されており、さらに、本件特許明細書においては本件発明の電子写真用粘着シートがカールの防止を目指すものであると記載され(特許公報第2頁左欄35〜41行)、カールの防止は乾式現像方法で大きな問題となる事柄であるから、本件特許明細書においては、本件発明の粘着シートが乾式の電子写真用に使用されることが記載されていたに等しいと考えられるので、(ニ)は特許請求の範囲を減縮する訂正であって、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 以上のとおりであるから、訂正事項aは、特許請求の範囲を減縮する訂正であって、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 訂正事項b〜gについて: 当訂正は、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、それに対応する発明の詳細な説明における記載を特許請求の範囲の記載に整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、訂正事項aと同様に特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 訂正事項hについて: 当訂正は、比較例3におけるベック平滑度の単位が単に「秒」となっていたものを「秒/10cc」と訂正するものであるが、本件特許明細書中におけるその他のベック平滑度の記載の単位は全て「秒/10cc」であるから、そのような記載から類推して「秒」は「秒/10cc」の誤記であることは明白であり、当訂正は誤記の訂正を目的とするものであって、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 以上のいずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、しかも後記するように、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができない発明とも認められない。 したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項ないし第4項の規定に適合するものであり、本件訂正は適法なものと認めることができる。 3.本件発明の認定 訂正後の本件の請求項に係る発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。(以下、各々を「本件発明1」及び「本件発明2」という。) 「【請求項1】剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のベック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シート。 【請求項2】水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シート。」 4.特許異議の申立てについて (1)申立て理由の概要 異議申立人石原庸男は、甲第1〜3号証を挙げて、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当すると主張し、甲第1号証の補足として甲第4号証を提示し、さらに、各請求項における記載の訂正を想定して、甲第5号証〜甲第8号証をも提示している。 (2)甲各号証の記載事項 甲第1号証(特開昭55-88069号公報) には、「表面用紙、感圧接着剤及び剥離シートを順次積層してなる複写機の液体現像用転写粘着紙において、前記表面用紙は基紙の少くとも一方の表面が水溶性塗料と疎水性樹脂ラテックス塗料或いは疎水性樹脂エマルジョン塗料とを含む塗布材料で塗布され、かつ基紙及び前記塗布材料の少くとも一方は無機顔料及び/または有機顔料を含んでおり、そして表面用紙はカレンダー加工により透気度150秒以上、平滑度90秒以上を有することを特徴とする液体現像用転写粘着紙。」(特許請求の範囲)の発明について記載され、発明の詳細な説明には、該エマルジョンの一例としてアクリル酸エステル系エマルジョンを塗布することが記載され(第2頁右下欄)、感圧接着剤の一例としてアクリル樹脂エマルジョンも記載されている(第3頁右上欄)。 甲第2号証(特開昭57-42050号公報) には、「基材の片面に、フマル酸存在下の共重合反応により製造された、分子量MWが18,000<MW≦100,000で且つ2次転移点が10〜80℃の範囲内の熱可塑性アクリル樹脂を塗布してなる電子写真用転写シート。」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされている。 甲第3号証(特開昭55-135853号公報)には、「基紙の少なくとも片面に樹脂および粒径3〜20μの滑性顔料粒子を施こしたことを特徴とする一成分現像圧力定着の電子写真転写用紙。」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされ、発明の詳細な説明には、樹脂としてはガラス転移点が-10〜30℃の範囲にある樹脂が記載され(第2頁右上欄)、その具体例として、アクリル酸エステルなどの水系エマルジョンが使用できることも記載されている(第2頁左下欄)。 甲第4号証(特開昭53-20332号公報) には、「液体現像によって潜像担持体上に得られたトナー像を、記録紙上へ静電転写する方法であって、転写部へいたる記録紙搬送路上に配置された、一対の、表面が滑かな硬質ローラーにより、記録紙を挟圧し、その表面平滑度が100sec以上になるように加圧しつつ上記転写部へ搬送することを特徴とするトナー像転写方法。」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされている。 甲第5号証(特開昭54-4135号公報)には、「表面固有抵抗が、20℃、相対湿度20%において1×1011〜5×1012Ω、20℃、相対湿度80%において1×107〜5×108Ωを示す電子写真用プレーンペーパーの表面に、酸価が1〜50である重合体の層を設けかつ該層の厚さが5μ以下であることを特徴とする電子写真用プレーンペーパー。」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされている。 甲第6号証(特開昭60-130749号公報)には、「表面固有抵抗値が1015Ω/□以下で、かつ光線透過率が70%以上であるプラスチックフィルムの少なくとも片面に、厚さ1μ未満のアクリル共重合体を積層してなる電子写真用フィルム。」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされている。 甲第7号証(特開昭63-75199号公報) には、「基紙の少なくとも片面に下塗り層を介して剥離剤層を設けてなる剥離紙において、該下塗り層の主成分が、下記の単量体組成から成るガラス転移温度-60〜20℃の水溶性共重合体であることを特徴とする剥離紙。(a)親水性のエチレン性不飽和単量体:…5〜50重量%、(b)(メタ)アクリル酸のアルキルエステル単量体:…20〜95重量%、及び・・・・」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされている。 甲第8号証(特開昭61-113679号公報)には、「表面基紙、粘着剤層および剥離紙を積層してなる粘着紙において、該剥離紙の裏面に、水溶性可塑剤および浸透剤を含有する処理液を塗布または含浸させたことを特徴とする粘着紙。」(特許請求の範囲)の発明についての記載がされている。 5.特許異議の申立てについての当審の判断 (1)本件発明1について 本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)とを対比すると、両発明は「剥離基体に少なくとも粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面に水分散性高分子を成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のベック平滑度(JISP 8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成されることを特徴とする電子写真用粘着シート」において一致するものである。 しかし、[イ]本件発明1は水分散性高分子についてそのガラス転移温度が-10〜70℃であることが限定されているのに対して、引用発明1ではその点が限定されてなく、[ロ]本件発明1の粘着シートの用途が乾式電子写真用であるのに対して、引用発明1は液体現像用(即ち、湿式)の電子写真用の粘着紙であり、[ハ]本件発明1は剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有するのに対して、引用発明1にはそのような層が設けられていない、の各点で両発明は相違している。 各相違点について検討するに、[イ]においては、引用発明1では表面基材の表面に水分散性高分子を成分として含有する処理液を塗布または含浸させる場合に、水分散性高分子の一例として本件発明1の表面用処理液のものと同一のアクリル酸エステル系エマルジョンも使用されうるが、引用発明1の水分散性高分子は水溶性塗料と併用されるものであり、また、アクリル酸エステル系エマルジョンはその併用における一成分の一例にすぎないから、引用発明1でのアクリル酸エステル系エマルジョンの使用が、本件発明1における表面処理液の主成分である水分散性高分子としての、ガラス転移温度が-10〜70℃のものの使用を意味するとは直ちにはいえない。そして、本件発明1では、表面処理液の主成分である水分散性高分子として、ガラス転移温度が-10〜70℃のものを使用することが、粘着紙のブロッキング性やカール性及びトナーの定着性などにおいて重要な結果をもたらすものである(特許明細書第2頁右欄28〜35行)。よって、[イ]の相違点は顕著なものであるといえる。 [ロ]においては、本件発明1は乾式法におけるカールの発生の防止を主な課題とするが、引用発明1は湿式法なのでカールの発生は重要な問題ではなく、この課題とも関連がないし、湿式法の粘着紙の乾式法への転用は着想し難いものであるから、[ロ]の相違点も顕著なものである。 [ハ]においては、本件発明1は下塗り層の採用によって、剥離剤の剥離紙への浸透を防止できる機能を備えており、[ハ]の相違点も有意なものであるといえる。 [イ]の相違点に関して、甲第2号証には、フマル酸の存在下に共重合反応により製造された熱可塑性アクリル樹脂であって2次転移点が10〜80℃のものを電子写真転写シートに塗布することが記載され、また、甲第3号証には、アクリル酸エステルなどでガラス転移点が-10℃〜30℃のものを電子写真転写用紙に塗布することが記載されているが、これらの挙証の記載事項はいずれも単層の電子写真転写用紙に係るものであり、本件発明1や引用発明1のような剥離シートを備えた複数の層からなる粘着シートとは層構成を異にするものであって、また、これらの挙証は本件発明1や引用発明1のような層構成の粘着シートで問題になるカール性については何等記載するところがないから、引用発明1にこれらの記載を採用する必然性は乏しいものである。そして、甲第2号証及び甲第3号証には、本件発明1のその余の構成については記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1は[イ]〜[ハ]の相違点を含む特有の構成によって、カールの発生がなく、複写機適性やトナーの定着性に優れた電子写真用粘着シートであるという、格別の効果を奏するものである。 以上のことからして、本件発明1は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、甲第4号証は湿式法としての甲第1号証を補足するために提出されたものにすぎず、単層構成の記録紙の表面平滑度の記載において僅かに本件発明1と関連があるだけであり、甲第5号証〜甲第6号証は、本件発明1が粘着紙に電気抵抗値を加入する訂正をなす場合を想定して提出されたもので、電子写真紙などの表面固有抵抗値が記載されているだけにすぎず、甲第7号証〜甲第8号証は、本件発明1が剥離基体の裏面などに処理液を塗布する訂正をなす場合を想定して提出されたもので、剥離基体の表面又は裏面に樹脂水溶液などの処理液を塗布する記載があるだけのものにすぎない。ただ、甲第7号証には、本件発明1と同様に剥離基体に下塗り層を設けることが記載はされ、乾式の複層構成の粘着紙も示唆はされてはいるが、それ以上に、表面基材へのガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子の塗布、ベック平滑度などの記載は見あたらない。よって、甲第1号証〜甲第8号証を合わせてみても、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の構成を主要な構成として、単に、水分散性高分子及び下塗り層の樹脂を具体的に規定するものにすぎないから、本件発明1の場合と同様な理由により、本件発明2は甲第1号証〜甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提示する証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電子写真用粘着シート (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のべック平滑度(JISP8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シート。 【請求項2】水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シート。 【発明の詳細な説明】 「産業上の利用分野」 本発明は、電子写真用粘着シートに関し、特に複写機での転写・定着プロセスにおいてトナーの定着性に優れ、カールの発生がない電子写真用粘着シートに関するものである。 「従来の技術」 粘着シートは商業用、事務用、家庭用等非常に広範囲な用途にラベル、ステッカー、ワッペン、配送伝票等として使用されている。そして近年、電子写真複写機で所望の画像を複写して簡便な印刷シールラベルあるいは宛名シールラベルとして利用される粘着シートの需要が急速に伸びつつある。 粘着シートは、表面基材と剥離シートとの間に粘着剤層を形成したものであり、表面基材には紙、フィルム、金属フォイル等が用いられ、剥離シートとしてはグラシン紙のような高密度原紙、クレーコート紙、ポリラミ原紙等にシリコン化合物や弗素化合物の如き剥離剤を塗布したものが使用される。また粘着剤としては、溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、ホットメルト型粘着剤等が使用される。 かかる粘着シートは、カールが発生しやすく、例えば複写機中で通紙不良をおこす欠点があった。即ち、粘着シートの一般的な製造工程では、通常剥離基体に剥離剤を塗布乾燥し、この剥離剤層上に粘着剤を塗布乾燥した後、表面基材と貼り合わされるため、剥離基体はこの乾燥工程において収縮しており、水分に対する反応性が極めて高くなっている。そのため外部環境の変化等で偏った吸湿、吸水作用が起こると、直ちにカールが発生してしまう。特に、剥離基体としてグラシン紙のような高叩解、高密度の紙を使用した場合には、乾燥時に普通の紙以上に収縮しているため、吸湿、吸水によって起こる繊維の膨潤を吸収すべき空隙が極めて少なく、結果的にカールの発生がとりわけ著しい欠点があった。 このように粘着シートのカールは、複写機で複写する際には通紙不良や転写不良を起こす他、例えば、粘着シートに印刷、ダイカット、シートカット等の処理を施してラベルやシール等に加工する段階でも給紙不良、紙不揃い、印刷ずれ等のトラブルを起こし、作業適性及び品質面において極めて重大な障害となっていた。 従来、粘着シートのカールを矯正するために、粘着シートをカール方向とは逆の方向に鋭角的に曲げるカールブレーカーの使用、エアーコンディショナーの付設やスチームダンピングを行う方法等が提案されているが、工程の複雑さが伴い、効果の点でも不充分であった。 更に、表面基材として例えば上質紙を用いた粘着シートにおいては、電子写真複写機の感光体上のトナーを表面基材に転写・定着させるプロセスにおいて、トナーが表面基材に充分定着しないという問題があった。 「発明が解決しようとする課題」 かかる現状を鑑み、本発明者らは電子写真用粘着シートのカールを防止し、複写機での転写・定着プロセスにおいて、トナーの定着性を向上させる方法について鋭意研究の結果、表面基材の表面に特定のガラス転移温度を有する高分子を主成分とする処理液を塗布または含浸することにより上記の如き難点が極めて効率良く解消されることを見出し、本発明を完成するに至った。 「課題を解決するための手段」 本発明は、剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のべック平滑度(JISP8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シートである。 また本発明は、水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シートである。 「作用」 本発明において用いられるガラス転移温度-10〜70℃の高分子としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸塩共重合体樹脂、エチレン・メタクリル酸塩共重合体樹脂、ウレタン樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体もしくは共重合体樹脂等の水分散性高分子が例示される。 なかでも、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂は本発明の効果に優れるため、好ましく用いられる。 本発明で使用される高分子の製造方法については、例えば、連鎖移動剤、重合開始剤、乳化剤(分散剤)等の存在下、水系でエマルジョン重合する方法等で製造される。 本発明においては、かくして得られた高分子のガラス転移温度が重要であり、-10〜70℃のガラス転移温度を有する高分子が選択的に使用される。因みに、ガラス転移温度が-10℃より低くなると、被膜の粘着性が強くなり過ぎ、ブロッキングを起こす問題があり、逆に70℃より高くなると、得られる被膜が硬くなり過ぎて処理液塗布面にカールを起こし、トナーの定着性も悪くなるという問題がある。 本発明の特定の高分子を含有する処理液は、処理液の乾燥性、トナーの定着性改良効果、カール矯正効果及び塗布の安全性等の点で水系処理液として調製することが望ましい。 上記の如き高分子含有処理液には、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、デキストリン、酸処理澱粉、酸化澱粉、架橋澱粉、澱粉エステル、グラフト共重合澱粉等の澱粉誘導体等の各種の水溶性天然高分子類;エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類等の水溶性可塑剤;消泡剤;浸透剤;濡れ剤;滑剤;レベリング剤;硬化剤;増粘剤;皮膜形成助剤等を適宜添加することができる。 処理液は、前記特定の高分子を主成分として含有するものであるが必要により各種の添加剤を添加してもよい。かかる処理液の濃度は、1〜50重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲となるように調製されるのが望ましい。 かくして調製された処理液を表面基材の表面に塗布または含浸させるものであるが、剥離基体の裏面に塗布または含浸させることにより一層効果的にカールの発生を防止することができる。塗布または含浸方法については特に限定されず、例えば、エアーナイフコーター、ロールコーター、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、サイズプレスコーター等の各種装置が適宜使用される。 表面基材や剥離基体への塗布または含浸量は、それぞれ乾燥重量で0.05〜20g/m2程度の範囲で調節するのが好ましく、特に0.1〜8g/m2程度が望ましい。かくして形成された表面基材の表面(即ち粘着剤層に接しない方の面)の表面電気抵抗が1.0×1010Ωより大きくなると、粘着シートに構成して電子写真記録装置等で記録した場合に、静電気の影響で通紙不良や転写不良を起こす恐れがあるため、表面電気抵抗を1.0×1010Ω以下に調節するのが望ましい。また更に剥離基体の表面(即ち下塗り層若しくは剥離剤層に接しない面)の表面電気抵抗も1.0×1010Ω以下に調節すると、一層優れた通紙性や転写性を得ることができる。 また、表面基材の表面のペック平滑(JISP8119)が80秒/10ccより小さくなると、電子写真記録装置等で記録した場合に、トナーの定着が不良となる場合もあるためスーパーカレンダー処理等の平滑化処理によりべック平滑度を80秒/10cc以上に調節することが望ましい。 本発明の粘着シートにおいて、表面基材および剥離基体としては通常の坪量30〜300g/m2程度の各種シート類等が使用される。即ち、表面基材としては特に限定されず、紙、フィルム、金属フォイル等が用いられる。 剥離シートは剥離基体に、下塗り層を設け、更に剥離剤層を形成してなる。 剥離基体としては坪量30〜300g/m2程度の上質紙等各種繊維シート類が使用される。剥離基体には剥離剤の浸透を防止する目的で、下塗り層を形成するのが望ましい。 下塗り層の主成分としては例えば乳化剤を2〜10重量%含有するガラス転移温度-60〜20℃の水分散性アクリル酸エステル共重合体樹脂等の高分子が使用される。下塗り層には更に必要によりブロッキング防止のために滑剤等を含有させることができる。 下塗り層を設けた剥離基体には更に剥離剤層が形成されて、剥離シートが得られる。剥離剤についても、特に限定されず、各種のシリコン化合物やフッ素化合物等が常法に従って塗布される。 本発明の粘着シートは、表面基材の表面及び好ましくは剥離基体の裏面にも特定のガラス転移温度を有する処理液を塗布または含浸したことにより、特にカールの発生が効果的に防止され、複写機での転写・定着プロセスにおいて、トナーの定着性に優れたものである。 本発明の粘着シートを構成する方法についても格別の限定はなく、常法に従って例えば、剥離シートにアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布し、乾燥することにより粘着剤層を形成し、表面基材を貼り合わせて調湿等を行って粘着シートに仕上げられるが、上記各工程のいずれかで表面基材の表面に特定の処理液を塗布若しくは含浸するものであり、好ましくは剥離基体裏面にも同様に特定の処理液を塗布若しくは含浸するものである。 具体的には例えば以下の工程で製造する。 ▲1▼ 表面基材の製造 各種シート類に、本発明の処理液を塗布または含浸し、乾燥して、ニップ線圧50〜200kg/cm程度の圧力条件でスーパーカレンダー処理を行う。 ▲2▼ 剥離基体の製造 上質紙等に下塗り層塗液を塗布、乾燥し、ニップ線圧50〜200kg/cm程度の圧力条件でスーパーカレンダー処理を行う。 ▲3▼ 粘着シートの製造 剥離基体の下塗り層上に剥離剤を塗布乾燥し、さらに粘着剤層を塗布・乾燥し、上記表面基材を貼り合わせる。 剥離基体裏面への処理液の塗布は、剥離基体が粘着シートに加工される前または加工された後のいずれで行ってもよく、さらに剥離剤塗布工程、粘着剤塗布工程貼り合わせ工程等の任意の工程で処理することができるが、粘着剤塗布後、表面基材を貼り合わせる直前または直後が望ましい。 このようにして得られた粘着シートの、表面基材及び粘着剤層と、剥離シートを剥離した後、ニップロール等で再貼着することにより乾燥時の歪みを除去することができ、粘着シートのカール発生をさらに完全に防止することができる。 「実施例」 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。なお、例中の塗布量、部数、混合割合などは全て固形分で示した。 実施例1 坪量52g/m2、厚さ70μmの上質紙の表面に下記組成の処理液Aを乾燥塗布量が1.0g/m2となるようにバーコーターで塗布し90℃で30秒間乾燥しスーパーカレンダーで平滑化処理して表面基材を得た。表面基材の処理液塗布面の表面電気抵抗は4.0×108Ωであった(20℃,65%RHの環境下で東亜電波社製,ULTRAMEGOHMMETER MODEL SM-10Eを用いて測定した。以下の表面電気抵抗測定も同様)。表面のべック平滑度100秒/10cc。 処理液Aの調製 アクリル酸エステル共重合体樹脂(ガラス転移温度47℃,商品名:リカボンドES-20,中央理化工業社製)97重量部、ワックスエマルジョン2重量部,消泡剤1重量部を含む水性塗液(濃度8重量%)を調製した。 剥離シートの製造 ブチルアクリレート270g、アクリル酸15g、アクリロニトリル113g、N-メチロールアクリルアミド2g、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル系乳化剤5g、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー系乳化剤5g、イオン交換水170gから成る乳化単量体混合液(I)を調製した。 次に、撹拌機、クーラー、滴下ロート、窒素吸込管、温度計を付帯した2 の四つ口フラスコにイオン交換水240gとポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル系乳化剤とオキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー系乳化剤の1:1混合物2g、過硫酸カリウム0.8gを仕込み、窒素置換しながら70℃まで昇温した後、上記乳化単量体混合液(I)の1/6を滴下した。 反応率が90%に達した時点で残りの乳化単量体混合液(I)を2時間かけて滴下させて重合させた。滴下終了後70℃で2時間熟成して反応を完結させた。熟成終了後、フラスコ内容物を60℃に冷却し、水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和反応を行い、反応終了後に強撹拌して水分散性共重合体を得た。得られた水分散性共重合体のガラス転移温度は-29℃であった。 この水分散性共重合体75重量部に酸化澱粉(商品名:エースC,王子コーン・スターチ社製)水溶液を24重量部添加し、さらにコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス30,日産化学工業社製)を1重量部添加して濃度30重量%の下塗り層用水性塗液(II)を調製した。 坪量50g/m2、厚さ65μmの上質紙(剥離基体)に上記下塗り層用水性塗液(II)をバーコーターで乾燥塗布量が4g/m2となるように塗布し、120℃で1分間乾燥した。 この下塗り層上にシリコン剥離剤(商品名:SRX-211,トーレ・シリコーン社製)の7%トルエン溶液を乾燥塗布量が1g/m2となるように、バーコーターで塗布し、130℃で1分間乾燥して剥離シートを得た。 粘着シートの製造 この剥離シートの剥離剤塗布面にアクリル系エマルジョン粘着剤(商品名:ニカゾールTS-662,日本カーバイド社製)をリバースロールコーターで乾燥塗布量が25g/m2になるように塗布し、120℃で1分間乾燥した。次いで、この粘着剤層上に前記表面基材の処理液Aを塗布していない面を重ねてプレスロールで貼り合わせた後、剥離シート裏面に下記組成の処理液Bを乾燥塗布量が0.5g/m2となるようにバーコーターで塗布し70℃で30秒間乾燥して、粘着シートを製造した。剥離シート裏面の表面電気抵抗は8×108Ωであった。 処理液Bの調製 グリセリン10重量部、ポリオキシエチレンモノオレート1重量部を含む水性塗液(濃度10重量%)を調製した。 得られた粘着シートは、複写機での通紙適性、複写適性は良好であった。 実施例2 実施例1において得られた粘着シートの表面基材及び粘着剤層と、剥離シートを剥離した後、直ちに表面基材及び粘着剤層と、剥離シートをニップロールにて再貼り合わせして粘着シートを製造した。 得られた粘着シートは、カールの発生がなく、複写機での通紙適性、複写適性は極めて優れていた。 実施例3 坪量40g/m2、厚さ50μmの上質紙の表面に下記組成の処理液Cを乾燥塗布量が0.8g/m2となるようにエアーナイフコーターで塗布し、100℃で30秒間乾燥しスーパーカレンダーで平滑化処理して表面基材を得た(表面基材の表面電気抵抗:8×108Ω、べック平滑度85秒/10cc)。 処理液C調製 エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂(ガラス転移温度0℃,商品名:リカボンドBE-800,中央理化工業社製)90重量部、コロイダルシリカ8重量部、消泡剤2重量部を含む水分散性塗液(濃度10重量%)を調製した。 実施例1と同じ剥離シートの剥離剤塗布面にアクリル系エマルジョン粘着剤(商品名:サイビノールAT-560,サイデン化学社製)をコンマコーター(ヒラノテクシード社製)で乾燥塗布量23g/m2になるように塗布し、130℃で90秒間乾燥した。次いで、この粘着剤層上に上記表面基材の処理液Cを塗布していない面を重ねてプレスロールで貼り合わせた後、剥離シート裏面に処理液Bの代わりに実施例1と同じ下塗り層用水分散性塗液(II)を乾燥塗布量が1g/m2となるようにロールコーターで塗布し、乾燥して粘着シートを製造した。剥離シート裏面の表面電気抵抗2×109Ω。 得られた粘着シートは、カールの発生がなく、複写機での通紙適性、複写適性は極めて良好であった。 比較例1 実施例1において、表面基材として坪量52g/m2、厚さ70μmの上質紙(表面のベック平滑度;40秒/10cc)を用い処理液Aを塗布せずスーパーカレンダー処理もしなかった以外は、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。上質紙の表面電気抵抗3×1011Ω。 得られた粘着シートを複写機で複写し、印字部をカミソリで10回削ったところ、トナーが完全に脱落した。 比較例2 坪量53g/m2、厚さ70μmの上質紙の表面に下記組成の処理液Fを乾燥塗布量が0.7g/m2となるようにバーコーターで塗布し、100℃で30秒間乾燥した。 処理液Fの調製 アクリル酸エステル共重合体樹脂(ガラス転移温度-48℃,商品名;AE-516,日本合成ゴム社製)90重量部、ワックスエマルジョン7重量部、コロイダルシリカ3重量部を含む水性塗液(濃度8重量%)を調製した。 この表面基材をスーパーカレンダー加工するために、巻取りを巻きもどした際、表面と裏面で著しくブロッキングを起こし表面基材の表面は完全に破壊された。従って粘着シートは製造出来なかった。 比較例3 坪量64g/m2、厚さ75μmの上質紙の表面に下記組成の処理液Gを乾燥塗布量が1.0g/m2となるようにエアーナイフコーターで塗布し、100℃で30秒間乾燥し、スーパーカレダー加工して表面基材を得た。表面電気抵抗9×108Ω、ベック平滑200秒/10cc。 処理液Gの調製 スチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂(ガラス転移温度130℃,商品名;スクリプトセット520,モンサント社製)97重量部、コロイダルシリカ2重量部、消泡剤1重量部を含む水性塗液(濃度10重量%)を調製した。 実施例1と同じ剥離シートの剥離剤塗布面にアクリル系エマルジョン粘着剤をリバースロールコーターで乾燥塗布量が22g/m2となるように塗布し、120℃で1分間乾燥した。次いで、この粘着剤層上に上記表面基材を重ねてプレスロールで貼り合わせて粘着シートを製造した。 得られた粘着シートを複写機で複写し、印字部をカミソリで10回削ったところ、トナーが完全に脱落した。 実施例4 剥離シート裏面に塗布する処理液を処理液Bではなく下記組成の処理液Hとした以外は実施例1と同様にして粘着シートを製造した。表面電気抵抗5×108Ω。 処理液Hの調製 スチレン・無水マレイン酸共重合体樹脂(ガラス転移温度130℃,商品名;スクリプトセット520,モンサント社製)15重量部、ポリプロピレングリコール1重量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.1重量部、ワックスエマルジョン0.1重量部を含む水性塗液(濃度15重量%)を調製した。 この粘着シートを複写機で複写したところ、トナーの定着性は非常に良好であったが、常湿で若干カールが発生した。 実施例5 剥離シート裏面に塗布する処理液を処理液Bではなく下記組成の処理液Iとした以外は実施例1と同様にして粘着シートを製造した。表面電気抵抗4×108Ω。 処理液Iの調製 エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂(ガラス転移温度30℃,商品名;リカボンドBE-2620,中央理化工業製)10重量部、グリセリン1重量部、ポリオキシエチレンモノオレート0.1重量部、コロイダルシリカ0.1重量部を含む水性塗液(濃度10重量%)を調製した。 この粘着シートを複写機で複写したところ、通紙適性、複写適性は極めて良好であった。 実施例6 剥離シート裏面に塗布する処理液を処理液Bではなく下記組成の処理液Jとした以外は実施例1と同様にして粘着シートを製造した。表面電気抵抗3×108Ω。 処理液Jの調製 アクリル酸エステル共重合体樹脂(ガラス転移温度47℃,商品名;リカボンドES-20,中央理化工業製)15重量部、グリセリン2重量部、ポリオキシエチレンモノオレート0.1重量部、コロイダルシリカ0.1重量部を含む水性塗液(濃度15重量%)を調製した。 この粘着シートを複写機で複写したところ、通紙適性、複写適性は良好であった。 実施例7 剥離シート裏面に塗布する処理液を処理液Bではなく下記組成の処理液Kとした以外は実施例1と同様にして粘着シートを製造した。表面電気抵抗7×108Ω。 処理液Kの調製 アクリル酸エステル共重合体樹脂(ガラス転移温度70℃,商品名;リカボンドSA-Z713,中央理化工業製)15重量部、ポリエチレングリコール1重量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.1重量部、ワックスエマルジョン0.1重量部を含む水性塗液(濃度15重量%)を調製した。 この粘着シートを複写機で複写したところ、通紙適性、複写適性は良好であった。 〔カール評価〕 J.TAPPI紙パルプ試験方法No.16-77に従って評価した。 カール度=100/カール半径(cm) TSは正カール、WSは逆カールを示す。 〔トナー定着性〕 複写機(商品名;SF-8100,シャープ社製)で原稿を複写した後、印字部のトナーを小刃で削り、トナーの定着性を評価した。 ○;トナーが殆ど脱落しない。 ×;トナーが著しく脱落した。 〔複写機適性〕 ○;ジャミングは全く認められない。 △;ジャミングが起きることもあるが実用上問題ないレベルであった。 ×;著しくジャミングが起き、実用上問題がある。 なお、「常温」を28℃、60%RHの環境下で7時間調湿を行い、「高湿」は25℃,90%RHの環境下で7時間調湿を行った後に測定した結果を示す。 以下の結果を第1表に示す。 「効果」 本発明はカールがなく、複写機適性、トナーの定着性に優れた乾式電子写真用粘着シートであった。 |
訂正の要旨 |
[訂正の要旨] 訂正事項a: 特許請求の範囲の請求項1及び請求項2において、[【請求項1】剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、且つ表面基材の表面のべック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であることを特徴とする電子写真用粘着シート。 【請求項2】水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種である請求項(1)記載の電子写真用粘着シート。」を、 「【請求項1】剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のべック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シート。 【請求項2】水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シート。」に訂正する。 訂正事項b: 本件明細書第6頁3〜18行(特許公報における第2頁左欄43行〜右欄6行)の「本発明は、剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、且つ表面基材の表面のベック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であることを特徴とする電子写真用粘着シートである。また本発明は、水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種である請求項(1)記載の電子写真用粘着シートである。」を、「本発明は、剥離基体に少なくとも剥離剤層、粘着剤層及び表面基材を積層してなる電子写真用粘着シートにおいて、該表面基材の表面にガラス転移温度が-10〜70℃の水分散性高分子を主成分として含有する処理液を塗布または含浸させてなり、表面基材の表面のベック平滑度(JIS P8119)が80秒/10cc以上であり、粘着剤層がアクリル系エマルジョン粘着剤を塗布、乾燥して形成され、且つ剥離基体と剥離剤層との間に下塗り層を有することを特徴とする乾式電子写真用粘着シートである。 また本発明は、水分散性高分子が、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂の中から選ばれる1種であり、下塗り層がアクリル酸エステル共重合体樹脂である請求項(1)記載の乾式電子写真用粘着シートである。」に訂正する。 訂正事項c: 本件明細書第7頁12〜17行(本件特許公報における第2頁右欄16〜21行)の「なかでも、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂、メタクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂は本発明の効果に優れるため、好ましく用いられる。」を、「なかでも、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル重合体樹脂もしくは共重合体樹脂は本発明の効果に優れるため、好ましく用いられる。」に訂正する。 訂正事項d: 本件明細書第7頁18行〜第8頁3行(本件特許公報における第2頁右欄22〜27行)の「本発明で使用される高分子の製造方法については、特に限定されるものではないが、例えば、水又は溶剤中で、連鎖移動剤、重合開始剤等の存在下で溶液重合する方法や、連鎖移動剤、重合開始剤、乳化剤(分散剤)等の存在下、水系でエマルジョン重合する方法等で製造される。」を、「本発明で使用される高分子の製造方法については、例えば、連鎖移動剤、重合開始剤、乳化剤(分散剤)等の存在下、水系でエマルジョン重合する方法等で製造される。」に訂正する。 訂正事項e: 本件明細書第11頁12行(本件特許公報における第3頁左欄37行)の「必要により下塗り層」を、「下塗り層」に訂正する。 訂正事項f: 本件明細書第12頁4行(本件特許公報における第3頁左欄48行)の「必要により下塗り層」を、「下塗り層」に訂正する。 訂正事項g: 本件明細書第12頁17〜18行(本件特許公報における第3頁右欄8〜10行)の「溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、ホットメルト型粘着剤等を塗布し、必要により乾燥」を、「アクリル系エマルジョン粘着剤を塗布し、乾燥」に訂正する。 訂正事項h: 本件明細書第23頁20行(本件特許公報における第5頁左欄15行目)の「200秒」を「200秒/10cc」に訂正する。 |
異議決定日 | 2001-10-01 |
出願番号 | 特願平1-66687 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C09J)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 木村 順子 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
三浦 均 小島 隆 |
登録日 | 1997-06-06 |
登録番号 | 特許第2659792号(P2659792) |
権利者 | 王子製紙株式会社 |
発明の名称 | 電子写真用粘着シート |
代理人 | 金谷 宥 |
代理人 | 金谷 宥 |