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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1051479 |
異議申立番号 | 異議1999-73297 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-09-17 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-09-01 |
確定日 | 2001-10-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2875425号「ポリオレフィン樹脂成形材料」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2875425号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1] 手続きの経緯 本件特許第2875425号発明は、平成4年2月28日に出願され、平成11年1月14日にその特許の設定登録がなされ、その後、チッソ株式会社より特許異議申立てがなされ、特許権者に取消理由通知がなされ、特許権者より平成12年4月24日付けで特許異議意見書が提出され、特許異議申立人に審尋通知がなされ、特許異議申立人より平成13年1月12日付けで回答書が提出され、特許権者に取消理由通知が再度なされるとともに審尋通知がなされ、特許権者より平成13年8月6日付けで特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 [2] 訂正の適否についての判断 イ.訂正事項 (1)訂正事項a 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る記載(本件特許公報第1頁第1欄第7行〜第9行)の「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (2)訂正事項b 本件明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る記載(本件特許公報第1頁第2欄第4行〜第6行)の「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正 する。 (3)訂正事項c 本件明細書の段落【0006】(本件特許公報第2頁第3欄第45行〜第47行)に記載の「特定のメルトインデックスを有するプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を「特定のメルトインデックスを有するプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (4)訂正事項d 本件明細書の段落【0007】(本件特許公報第2頁第4欄第12行〜第14行)に記載の「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を「メルトインデックスが5〜100g/分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (5)訂正事項e 本件明細書の段落【0021】(本件特許公報第4頁第7欄第1行〜第2行)に記載の「MIが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を「MIが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (6)訂正事項f 本件明細書の段落【0032】(本件特許公報第5頁)の表2に記載の「実施例3」を「比較例8」と訂正する。 (7)訂正事項g 本件明細書の段落【0032】(本件特許公報第5頁)の表2に記載の「実施例5」を「実施例3」と訂正する。 (8)訂正事項h 本件明細書の段落【0032】(本件特許公報第5頁)の表2に記載の「実施例4」及び「実施例6」を削除する。 (9)訂正事項i 本件明細書の段落【0030】(本件特許公報第5頁第9欄第1行)に記載の「実施例1〜6、比較例1〜7」を「実施例1〜3、比較例1〜8」と訂正する。 ロ.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項a 訂正事項aは、本件特許請求の範囲の請求項1の発明の組成物を構成する(B)成分である「プロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」の内「プロピレン単独重合体」を削除するものであるから、択一選択枝の一つを削除するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (2)訂正事項b 訂正事項bは、本件特許請求の範囲の請求項2の発明の組成物を構成する(B)成分である「プロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」の内「プロピレン単独重合体」を削除するものであるから、択一選択枝の一つを削除するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (3)訂正事項c 訂正事項cは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、それに整合するように発明の詳細な説明における(B)成分に関する記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (4)訂正事項d 訂正事項dは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、それに整合するように発明の詳細な説明における(B)成分に関する記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (5)訂正事項e 訂正事項eは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、それに整合するように発明の詳細な説明における(B)成分に関する記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (6)訂正事項f 訂正事項fは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、本件請求項1及び2に含まれなくなった実施例3を比較例8とするものであるから、特許請求の範囲に整合するように発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (7)訂正事項g 訂正事項gは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、2つの実施例が削除されたことにより実施例番号を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (8)訂正事項h 訂正事項hは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、本件請求項1及び2に含まれなくなった実施例4及び実施例6を削除するものであるから、特許請求の範囲に整合するように発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 (9)訂正事項i 訂正事項iは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及び訂正事項bの訂正に伴い、本件請求項1及び2に含まれなくなった実施例を削除するかまたは比較例とした結果、それらの番号を変更したものであるから、特許請求の範囲に整合するように発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、何等特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 ハ.独立特許要件 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 その詳しい理由は、次の[3]で述べるのでここでは省略する。 ニ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号。以下「平成六年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第百二十条の四第三項において準用する平成六年改正法による改正前の特許法第百二十6条第1項ただし書き、第二項及び第三項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3]特許異議申立てについての判断 イ.特許申立理由の概要 特許異議申立人チッソ株式会社の特許異議申立理由の概要は、 「特許の設定登録時の本件請求項1に係る特許発明は、特許異議申立人が提出した甲第1号証(特開平1-317751号公報)に記載された発明であるか、又は、甲第3号証として提出したチッソ石油化学株式会社高分子研究所主任研究員斎藤晃一が平成11年9月1日に作成した実験成績証明書の試験結果を参酌すると甲第2号証(特公平3-25340号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、 また、特許の設定登録時の請求項2に係る特許発明は、上記甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、又は、上記実験成績証明書の試験結果を参酌すると上記甲第2号証及び甲第4号証(特開平3-181528号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、特許の設定登録時の本件請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3項の規定に違反してされたものであり、また、特許の設定登録時の本件請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3項又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、いずれも、取り消されるべきものである。」 というものである。 ロ.本件発明 本件請求項1及び請求項2に係る発明は、訂正明細書の記載から見て、その特許請求の範囲に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】(A)メルトインデックスが300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維80〜40重量%とから成り、ペレット長が2〜20mmで、かつ該ガラス繊維長がペレット長に実質上等しいペレット10〜70重量部と(B)メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合したポリオレフィン樹脂成形材料。(以下「本件第1発明」という。) 【請求項2】(A’)メルトインデックス300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維80〜40重量%の合計100重量部に、酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る、ぺレット長が2〜20mmで、かつ該ガラス繊維長がぺレット長に実質上等しいペレット10〜70重量部と(B)メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合したポリオレフィン樹脂成形材料。(以下「本件第2発明」という。)」 ハ.刊行物の記載 (1)甲第1号証:特開平1-317751号公報 1回目及び2回目の取消理由通知の際に引用した該刊行物には、次の事項が記載されている。 「押出成形によってファイバを2つの熱可塑性ポリマー樹脂によって順次含浸することによって構成される繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、クロスヘッド式のダイ中でロービング状の繊維をアンカー用熱可塑性ポリマーで含浸させた後、この含浸されたポリマーを、上記アンカー用熱可塑性ポリマーの融点以上で、第2のダイ中で強化用熱可塑性ポリマーで被覆することを特徴とする方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、 「この被覆ダイを出たテープまたはロッドは、次いで、ペレット化される。こうして得られた長繊維を含むペレットは、そのファイバの長さがペレットの長さに一致しており、特に、射出成形、圧縮成形およびトランスファー成形に適している。」(第3頁右下欄第19行〜第4頁左上欄第4行)、 「標準的な被覆ポリマーに対するアンカー用熱可塑性ポリマーの重量比は、最終製品におけるファイバの重量比によって決まる。最終的に得られる製品は、一般に、約20から40重量%のファイバを含んでいる。この条件下では、アンカー用樹脂だけで含浸された連続ファイバの場合、一般に、約70から75重量%のファイバに対して約30から25%のアンカー用ポリマーが含まれる。最終製品の重量組成では、約20から40重量%がファイバ、約8から17重量%がアンカー用ポリマー、約72から43重量%が標準的な被覆ポリマーである。熱可塑性樹脂を強化するのに用いられる連続ファイバ(繊維)は公知であり、有機ファイバか無機ファイバである。例としては、グラスファイバ、……のロービングを挙げることができる。既に述べたように、上記アンカー用熱可塑性ポリマーは、熱可塑性被覆ポリマーと相溶性がなければならない。この相溶性は実際にはかなり重要なファクターであるが、当業者には周知のように、科学的に満足できる方法で定義することのできない特性である。ここでは、問題としている2つのポリマーの部分的な相互の混和性を細部に渡って議論せずに、2つのポリマーを、これらのポリマーの弱い方の機械的特性に近いか、それ以上の機械的特性を示す物質が得られるように混合できる場合に、これらの2つのポリマーは相溶性があると定義する。この定義による例としては以下の組合せを挙げることができる。……グラフト化ポリプロピレン/ポリプロピレン、……本発明のアンカー用熱可塑性ポリマーは、一般に、低粘度のポリマーか、極性が対応する原ポリマーに比例して増大するポリマーの中から選択される。低粘度のポリマーとしては、溶融粘度(θm+40℃)が、ASTM D 1328 規格で、230℃、2.16Kg下でのメルトインデックスが20であるポリプロピレンの溶融粘度以上であるポリマーが好ましい。……極性が対応する原ポリマーに比例して増大するポリマーの中では、極性のサイトを有するポリマーが好ましい。この極性のサイトは場合によっては反応性のあるサイトでもよい。この極性のサイトを有するポリマーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはこれらのコポリマーの場合には、一般に、無水マレイン酸、アクリル酸または酢酸ビニルを出発原料としたグラフト化またはブロック化された変性ポリマーであり、より一般的には、例えば、ケトン、アルデヒド、酸、エステル、シアノ、アミン等の極性サイトを与える化合物を出発原料としたグラフト化またはブロック化変性ポリマーである。このグラフト化またはブロック化変性ポリマーとして特に推奨されるポリマーとしては、無水マレイン酸またはアクリル酸でグラフト化されたポリプロピレン等のグラフト化ポリプロピレン、無水マレイン酸でグラフト化された、または、されていないポリ(エチレン-酢酸ビニル)、アクリル酸または無水マレイン酸でグラフト化された高密度ポリエチレン等のグラフト化高密度ポリエチレン、アクリル酸または無水マレイン酸でグラフト化された線状低密度ポリエチレン等のグラフト化線状低密度ポリエチレンおよびポリ(エーテルーアミド)ブロックコポリマーを挙げることができる。」(第4頁左上欄第18行〜第5頁左下欄第7行)、 「メルトインデックスが350の無水マレイン酸でマレイン化したポリプロピレンでグラスロービングを含浸し、さらにそれにメルトインデックスが12であるポリプロピレンを被覆して、最終的に6mmにペレットにしたこと」(第5頁右下欄第3行〜第6頁右下欄第7行、実施例1)。 (2)甲第2号証:特公平3-25340号公報 1回目及び2回目の取消理由通知の際に引用した該刊行物には次の事項が記載されている。 「長さが2〜100mmでありかつ低分子量の熱可塑性ポリマーと少なくとも30容量%の並行に配列された強化用フィラメントとを含む繊維強化べレットと、該繊維強化ペレットのポリマーよりも高分子量であって前記強化べレットのポリマーと同一であっても異なっていてもよい熱可塑性ポリマーとのブレンドを含むことを特徴とする繊維強化組成物。」( 特許請求の範囲)、 「繊維強化構造物は、連続した整列されたフィラメントを良好にぬらすことができる種々の方法によって製造できる。これらの方法の1つにおいて、溶融粘度が30Ns/m2より小さく、好ましくは1〜10Ns/m2である熱可塑性ポリマーの溶融物中を通して、複数の連続フィラメントを引いて、フィラメントを溶融したポリマーでぬらすことからなり、フィラメントは引く方向に整列されていることを特徴とする、繊維強化組成物の製造法が提供される。必要に応じて、含浸されたフィラメントを固めて繊維強化ポリマー構造物にすることができる。熱可塑性物質の粘度は剪断速度とともに変化し、低い剪断速度におけるほぼ一定の値から減少する。本願の場合、低い剪断速度における粘度を用いる(通常ニュートン粘度を用いる)。これは直径1mm、長さ8mmのダイを用いる毛管粘度計を用いて便利に測定され、溶融粘度は103〜104Ns/m2の範囲の剪断応力において測定する。」(第2頁右欄第9行〜第26行) 『「連続繊維」または「複数の連続フィラメント」という用語は、……、繊維製品を意味する。適当な材料は、ガラス繊維、……である。』(第3頁左欄第19行〜第26行)、 「上記した方法において用いられる熱可塑性ポリマーは、溶融物が30Ns/m2より小、好ましくは10Ns/m2より小の粘度をもつかぎり、溶融して凝集性の塊を形成するいかなるポリマーであることもできる。強化された組成物において許容しうる物理的性質を達成するためには、溶融粘度は1Ns/m2を越えることが好ましい。示したように、要求された溶融粘度の範囲のポリマーの選択は、主としてポリマーの分子量に従う。適当なポリマーの例は、……、ポリプロピレン、……である。」(第3頁右欄第27行〜第41行)、 「含浸生成物は、整列された繊維が3mmから100mmまでの長さを有するペレットまたは粒体に細断することができる。これらは普通の成形法または押出法に使用できる。ガラス繊維を使用するとき、本発明の生成物の繊維含量は生成物の少なくとも50重量%であって、生成物の物理的性質を最高にすべきである。繊維含量の上限は、ロービングの個々の繊維をぬらすのに要するポリマーの量によって決定される。一般に、20重量%より少ないポリマーを用いてすぐれたぬれを達成することは困難であるが、きわめてすぐれた結果は本発明の方法に従い30重量%のポリマーを繊維強化組成物に混入することによって得ることができる。」(第6頁右欄第29行〜第43行)、 「前述の方法から得られた含浸生成物は、強化用繊維が少なくとも3mm、好ましくは少なくとも10mmの長さを有するぺレットまたは粒体に細断すると、特別の実用性を見いだす。これらの生成物は、射出成形のような普通の成形加工法に使用することができ、そしてペレットの形において先行技術の生成物よりもすぐれる。」(第7頁右欄第38行〜第44行)、 「射出成形に適する生成物は、直接使用するか、あるいは他の熱可塑性生成物のペレットと配合することができる。これらの他の生成物は、分子量が高い以外同じポリマーであることができ、あるいは異なるポリマーの存在が組成物の性質の全体のバランスに悪影響を及ぼさないかぎり、異なるポリマーであることができる。他の生成物は充填されないポリマーであることができ、あるいは粒状または繊維状の充填材を含有できる。常法で製造された強化成形用粉末、すなわち長さが約0.25mmまでの強化用繊維を含む成形用粉末、を含有する材料とのブレンドは、とくに適する。」(第8頁左欄第25行〜第36行)、 「低い溶融粘度熱可塑性ポリマーを用いることにより、引っ張り速度を高めてもガラス繊維のぬれがよく、曲げ試験時の破断強度が高い成形品が得られたこと」(第9頁に記載の表2)、 「長さが10mmであり65重量%含有ガラス繊維強化熱可塑性ポリマーペレットを30重量%の短いガラス繊維を含有する熱可塑性ポリマー材料で、50/50基準で希釈した混合物を用いた射出成形品」(第12頁右欄第16行〜第39行、実施例15)、 「ポリプロピレンを用いてガラス繊維を含浸した実施例」(実施例4、実施例7、実施例9)。 (4)甲第4号証:特開平3-181528号公報 1回目及び2回目の取消理由通知の際に引用した該刊行物には次の事項が記載されている。 「(1) オレフィン系重合体(A)を含有してなるサイジング剤で一旦サイジング処理された強化用繊維束の連続物を引きながら、ポリオレフィンを主体とする樹脂成分(B)を該繊維束中に含浸させ、組成物中5〜80重量%の強化用繊維(C)を含有させることを特徴とする長繊維強化成形用ポリオレフイン樹脂組成物の製造法。 (2) ポリオレフィンを主体とする樹脂成分(B)が、ポリオレフィン(B1)98〜50重量部と不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性オレフィン系重合体(B2)2〜50重量部から主としてなるものである請求項1記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。 (3) ポリオレフィン(B1)がポリエチレンまたはポリプロピレンである請求項2記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。 (4) 変性オレフイン系重合体(B2)が、エチレンおよび/またはプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性されたものである請求項2または3記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。 …… (6) 強化用繊維(C)がガラス繊維である請求項1〜5のいずれか1項記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。 (7) 強化用繊維束の連続物をクロスヘッドを通して引きながら、押出機からクロスヘッドに供給される樹脂成分(B)の溶融物で含浸する請求項1〜6のいずれか1項記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。 (8) 請求項1〜7のいずれか1項記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法によって得られ、強化用繊維(C)が樹脂中において実質上その全てが少なくともmm以上の長さを有し且っ互いにほぼ平行な状態で配列していることを特徴とする長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物。 (9) 樹脂組成物が長さ2〜50mmのペレット状であり、強化用繊維(C)が該ペレットの長さ方向に実質上ペレットと同一長さで配列している請求項8記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物。」(特許請求の範囲)、 「しかしながら、本発明において対象とするポリオレフィン系重合体は化学構造上、分子鎖中に極性基がなく、活性に乏しいため、単に上記の如き引抜き成形法を利用し繊維強化を行おうとしても、繊維に対する樹脂の含浸性、密着性は不十分なものとなり、期待される程の強度等の向上はできない。また、得られた組成物から繊維がほぐれて飛散し易いという欠点も有する。ポリオレフイン系重合体を基本樹脂とした引抜き成形による繊維強化においてはかかる如き問題があり、その改善が切望されていた。」(第2頁左下欄第10行〜第3頁右上欄第1行)、 「かかる変性オレフィン系重合体(A3)は、ポリマー構成単位の0.1〜〜40重量%が、上記の如き不飽和カルボン酸またはその誘導体からなるものが好ましく、特にこれらの成分がランダム共重あるいはブロック共重合によりポリマー主鎖中に導入される場合には3〜40重量%、グラフト重合による場合には0.1〜10重量%が好ましい。」(第4頁左上欄第16行〜同頁右上欄第3行)、 「また、樹脂成分(B)として、かかるポリオレフィン(B1)と併用するのが好ましい変性オレフィン系重合体(B2)としては、前記変性オレフィン系重合体(A3)として詳述したものがいずれも使用できる。これらの変性オレフィン系重合体は2種以上混合して使用することも可能である。」(第5頁右上欄第18行〜同頁左下欄第3行)。 ニ.対比・判断 〈1〉同一性について (イ)上記甲第1号証(特開平1-317751号公報)に記載された発明との同一性について 上記甲第1号証に記載された発明におけるアンカー用熱可塑性樹脂は本件第1発明における(A)成分の重合体に相当し、上記甲第1号証に記載された発明における被覆用熱可塑性樹脂は本件第1発明における(B)成分の重合体に対応し、上記甲第1号証に記載された発明における両熱可塑性樹脂のメルトインデックスは本件第1発明におけるそれぞれ対応するもののメルトインデックスと一致し、上記甲第1号証に記載された発明におけるアンカー用熱可塑性樹脂、被覆用熱可塑性樹脂及びガラス繊維の組成物全体における配合量は本件第1発明におけるものと異なるものではなく、甲第1号証に記載された発明におけるガラス繊維の長さも本件第1発明におけるものと異なるものではない。 そして、本件第1発明と上記甲第1号証に記載された発明を対比すると、両者は「(A)メルトインデックスが300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維(ガラス繊維長は2〜20mm)80〜40重量%とから成るペレット10〜70重量部と(B)メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン系重合体90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合したポリオレフィン樹脂成形材料」である点で一致し、本件第1発明は(B)成分がプロピレン-エチレン共重合体であるのに対し、甲第1号証に記載された発明はポリプロピレンである点で、両者は相違している。 してみると、本件第1発明は上記甲第1号証に記載された発明と同一ではない。 また、本件第2発明は、本件第1発明の(A)のペレット成分として更に「酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る」点を付加するものであるから、本件第1発明が甲第1号証に記載された発明と同一でない以上、本件第2発明も甲第1号証に記載された発明と同一ではない。 (ロ)上記甲第2号証(特公平3-25340号公報)に記載された発明との同一性について 上記甲第2号証に記載された発明における低分子量熱可塑性ポリマーは本件第1発明における(A)成分の重合体に相当し、上記甲第2号証に記載された発明におけるより高分子の熱可塑性ポリマーは本件第1発明における(B)成分の重合体に対応するものであり、そして、低分子量の熱可塑性ポリマーのガラス繊維強化ペレットとより高分子の熱可塑性ポリマーとのブレンドであること、そのガラス繊維の長さ及び低分子量熱可塑性ポリマーに対する配合割合でも甲第2号証に記載された発明は本件第1発明と一致している。 しかし、上記甲第2号証には、高分子量ポリマーについて「分子量が高い以外同じポリマーであることができ」と記載されているだけであって、具体的なポリマー種については何の例示的な記載もないし、また、低分子量熱可塑性ポリマーの例示化合物や実施例としてポリプロピレンが記載されているものの本件第1発明におけるプロピレン-エチレン共重合体については何も記載されておらず、ましてやその分子量の程度がどの程度高いのかということについて何も具体的には示されていない。 これについて特許異議申立人は、上記甲第2号証の「低分子熱可塑性ポリマーの粘度は1〜30Ns/m2」はポリプロピレンについてはメルトインデックスでは25〜1550であることを上記甲第3号証に記載の試験結果を基に算出し、高分子量熱可塑性ポリマーのメルトインデックスは相対的にそれより低いことに鑑みれば、上記甲第2号証に記載された発明における2つの熱可塑性ポリマーは本件第1発明における2つのメルトインデックス範囲、即ち300g/10分と5〜100g/10分を包含する旨主張しているが、上記甲第2号証にはこのような具体的な数値で規定される2つのメルトインデックス範囲の組み合わについては何も具体的に記載されてはいない。 その他、上記甲第2号証には、高分子量熱可塑性ポリマーの使用割合についてどの程度の割合で組成物中に配合するするかについての一般的な記載もない。 そして、先に述べた如く、本件第1発明におけるプロピレン-エチレン共重合体について上記甲第2号証には何も記載されていないのであるから、この点だけでも本件第1発明と上記甲第2号証に記載された発明は相違しているといえる。 してみると、本件第1発明は上記甲第2号証に記載された発明と同一でない。 また、本件第2発明は、本件第1発明の(A)のペレット成分として更に「酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る」点を付加するものであるから、本件第1発明が上記甲第2号証に記載された発明と同一でない以上、本件第2発明も上記甲第2号証に記載された発明と同一ではない。 〈2〉進歩性について 本件第1発明と上記甲第1号証に記載された発明とを対比すると、本件第1発明における(B)成分として本件第1発明がプロピレン-エチレン共重合体を使用するのに対し、上記甲第1号証に記載された発明ではポリプロピレンを使用する点で相違している。 そして、本件第1発明における(B)成分としてプロピレン-エチレン共重合体を使用する場合のポリオレフィン樹脂成形材料の特性やその奏する効果が、本件第1発明における(B)成分としてプロピレンを使用する場合から当業者が容易に予測し得ることであると認められない。 それ故、本件第1発明は上記甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 また、上記甲第2号証に記載された発明も、繊維強化組成物において、低分子量のものと高分子量のものという2つのポリマーを組み合わせるという思想はあるが、上記甲第2号証には高分子量のものとしてプロピレン-エチレン共重合体は記載されていないから、上記甲第2号証は上記甲第1号証以上のものを何等示唆するものではない。 そして、上記甲第4号証には、ガラス繊維に含浸させる樹脂としてポリオレフィンと不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンを併用することが記載されており、本件第2発明の特徴点とも言うべき「酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る」点は示唆されているといえるが、低分子量のものと高分子量のものという2つのポリマーを組み合わせるという技術を示唆する記載はない。 一方、本件第1発明では、(B)成分のプロピレン-エチレン共重合体を(A)のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体に対して最小限30重量部/42重量部〔42重量部=70重量部の60重量%〕使用するのであるから、組成物全体に占める割合も決して少ないとはいえない。 してみると、そのような少なからぬ割合を占める(B)成分として、上記甲第1号証や甲第2号証に示されるポリプロピレンに代えてプロピレン-エチレン共重合体を使用することが必ずしも容易であるとはいえない。 そして、本件第1発明は、明細書記載の効果を奏するものである。 よって、本件第1発明は上記甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、また、上記甲第3号証に記載の試験結果を参酌しても甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 また、本件第2発明は、本件第1発明の(A)のペレット成分として更に「酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る」点を付加するものである。 そして、上記甲第4号証には、ガラス繊維に含浸させる樹脂としてポリオレフィンと不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンを併用することが記載されており、本件第2発明の特徴点とも言うべき「酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る」点は示唆されているといえるが、低分子量のものと高分子量のものという2つのポリマーを組み合わせるという技術を示唆する記載はない。 したがって、本件第1発明と同様な理由により、本件第2発明も上記甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、また、上記甲第3号証に記載の試験結果を参酌しても甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 [4] むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号)附則第十4条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成七年政令第二百五号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ポリオレフィン樹脂成形材料 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)メルトインデックスが300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維80〜40重量%とから成り、ペレット長が2〜20mmで、かつ該ガラス繊維長がペレット長に実質上等しいペレット10〜70重量部と(B)メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合したポリオレフィン樹脂成形材料。 【請求項2】 (A’)メルトインデックス300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維80〜40重量%の合計100重量部に、酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る、ペレット長が2〜20mmで、かつ該ガラス繊維長がペレット長に実質上等しいペレット10〜70重量部と(B)メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合したポリオレフィン樹脂成形材料。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は新規なポリオレフィン樹脂成形材料、さらに詳しくは、生産性を高めてもガラス繊維の分散性が良く、かつガラス繊維の破損が生じにくいため、従来のものより機械的強度が高く、耐久性や耐衝撃性に優れる成形品を与えることができ、例えば自動車分野、工業材料分野、家電分野などに好適に用いられるポリオレフィン樹脂成形材料に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂は機械的強度、成形性、耐薬品性、耐久性などに優れていることから、工業材料分野において重要な素材として広く用いられている。しかしながら、このガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂は引張強度や曲げ強度などの機械的強度が高い反面、衝撃強度が低いという欠点を有しており、高い機械的強度を保持するとともに、衝撃強度の改良されたものが強く望まれる。 【0003】 この衝撃強度を改良する方法としては、例えばガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂にゴム状弾性体を添加する方法が知られているが、この方法は衝撃強度は改良されるものの、ガラス繊維強化の特徴である機械的強度が低下するのを免れないという欠点を有している。 【0004】 また、ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂のガラス繊維長を長くするために、混練工程を経ない引抜き法などにより強化樹脂を製造する方法も提案されている。この方法により得られたガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度はもちろんのこと、衝撃強度もかなり改善される。しかしながら、この製造方法においては、一般に生産性が低く、また生産性を高めようとすると、ガラス繊維の分散性が低下して、表面外観が劣化するなどの好ましくない結果を招来する上、射出成形などの成形時においてガラス繊維が破損し、十分に満足しうる特性が得られない。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、このような事情のもとで、生産性を高めてもガラス繊維の分散性が良く、かつガラス繊維の破損が生じにくくて、従来のものより機械的強度が高い上、耐久性や耐衝撃性に優れる成形品を与えうるポリオレフィン樹脂成形材料を提供することを目的としてなされたものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、前記した改善された性質を有する成形品を得ることができるポリオレフィン樹脂成形材料を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のメルトインデックスを有するプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体とガラス長繊維とを特定の割合で含有し、あるいはこれに加えさらに特定量の酸変性ポリオレフィンを含有する原料を、引抜き法によリペレット長が特定の範囲にあり、かつ該ガラス繊維長がペレット長と実質上等しくなるように調製し、このペレットと特定のメルトインデックスを有するプロピレン-エチレン共重合体とを所定の割合で混合したポリオレフィン樹脂成形材料により、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。 【0007】 すなわち、本発明は、(A)メルトインデックスが300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維80〜40重量%とから成り、ペレット長が2〜20mmで、かつ該ガラス繊維長がペレット長に実質上等しいペレット10〜70重量部、又は(A’)メルトインデックス300g/10分以上のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体20〜60重量%とガラス繊維80〜40重量%の合計100重量部に、酸付加量0.1〜10重量%の酸変性ポリオレフィン1〜10重量部を含有させて成る、ペレット長が2〜20mmで、かつ該ガラス繊維長がペレット長に実質上等しいペレット10〜70重量部と、(B)メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合したポリオレフィン樹脂成形材料を提供するものである。 【0008】 本発明成形材料は、(A)成分又は(A’)成分のペレットと(B)成分の樹脂とから成るものであって、(A)成分又は(A’)成分においては、メルトインデックス(MI)が300g/10分以上のプロピレン単独重含体又はプロピレン-エチレン共重合体が用いられる。このMIが300g/10分未満では樹脂の含浸性が不足し、生産量を上げた場合、ガラス繊維の分散不良が発生するおそれがあり、成形時に繊維が破断しやすい。 【0009】 該プロピレン-エチレン共重合体としては、結晶性のプロピレン-エチレンブロック共重合体が好適である。該プロピレン-エチレンブロック共重合体としては、通常エチレン単位の含有量が少ないエチレン-プロピレンランダム共重合体からなる共重合部又はプロピレン単独重合体から成るホモ重合部と、エチレン単位の含有量が比較的多いエチレン-プロピレンランダム共重合体から成る共重合部とから構成された、いわゆる結晶性プロピレンブロック共重合体として市販されているものを用いることができる。また、このプロピレン-エチレンブロック共重合体は、前記ホモ重合部又は共重合部がブテン-1などのα-オレフィン単位を適当な割合で含有するものであってもよい。 【0010】 また、該(A)成分又は(A’)成分において用いられるガラス繊維としては、含アルカリガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラスのいずれであってもよく、また形態については、ロービングが好ましく用いられる。このガラス繊維は適当な表面処理剤で処理して用いてもよい。 【0011】 前記表面処理剤としては、例えばシラン系、チタネート系、アルミニウム系、クロム系、ジルコニウム系、ボラン系カップリング剤などが挙げられるが、これらの中でシラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤が好ましく、特にシラン系カップリング剤が好適である。 【0012】 このシラン系カップリング剤としては、例えばトリエトキシンラン、ビニルトリス(β―メトキシエトキン)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシンラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエテル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でもγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエテル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランが好適である。 【0013】 該ガラス繊維を前記表面処理剤で処理する方法については特に制限はなく、従来慣用されている方法、例えば水溶液法、有機溶媒法、スプレー法など、任意の方法を用いることができる。 【0014】 通常このようにして表面処理された平均繊維径3〜20μmのガラス繊維を適当な収束剤で収束したガラスロービングが用いられる。該収束剤としては、例えばウレタン系、アクリル系、ブタジエン系、エポキシ系などがあり、いずれも用いることができるが、これらの中ウレタン系が好ましい。このウレタン系収束剤は、通常ジイソシアネート化合物と多価アルコールとの重付加反応により得られるポリイソシアネートを50重量%以上の割合で含有するものであって、油変性型、湿気硬化型、ブロック型などの1液タイプ及び触媒硬化型、ポリオール硬化型などの2液タイプがあるが、いずれも用いることができる。 【0015】 前記プロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体とガラス繊維の含有割合は、それぞれ20〜60重量%及び80〜40重量%であることが必要である。ガラス繊維の割合が40重量%未満では引抜きが困難であるとともに経済的に不利であるし、また80重量%を超えると樹脂の含浸性が低下して、ガラス繊維の分散不良が発生する。 【0016】 本発明成形材料においては、強度をさらに向上させるために、所望により前記樹脂成分とガラス繊維に加え、さらに酸変性ポリオレフィンを含有させてもよい。この酸変性ポリオレフィンに使用されるポリオレフィンとしては、例えばポリプロピレンや、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合ゴム、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン系化合物共重合体(例えばEPDMなど)、エチレン-芳香族モノビニル化合物-共役ジエン系化合物共重合ゴムなどが用いられる。また、前記α-オレフィンとしては、例えばプロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1などが挙げられ、これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのポリオレフィンの中では、ホモポリプロピレンが好ましい。 【0017】 さらに、変性に用いられるカルボン酸としては、不飽和カルボン酸及びその誘導体が挙げられ、該不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル駿、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸などが挙げられ、またその誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩などがあり、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、マレイン酸モノエテルエステル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムなどを挙げることができ、特に無水マレイン酸が好ましい。 【0018】 これらの不飽和カルボン酸やその誘導体は、前記ポリオレフィンを変性する場合、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよく、また変性方法については特に制限はなく、公知の種々の方法を用いることができる。例えば該ポリオレフィンを適当な有機溶媒に溶解し、不飽和カルボン酸やその誘導体及びラジカル発生剤を添加してかきまぜ、加熱する方法、あるいは前記各成分を押出機に供給してグラフト共重合を行う方法などを用いることができる。 【0019】 本発明においては、この酸変性ポリオレフィンにおける酸付加量は0.1〜10重量%の範囲で選ばれる。この付加量が0.1重量%未満では強度の改良効果が十分に発揮されないし、10重量%を超えるとこれ以上酸が付加されにくく、むしろ付加されない酸が増え、機械的強度や衝撃強度が低下する場合がある。この酸変性ポリオレフィンは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その含有量は、前記樹脂成分とガラス繊維の合計100重量部に対して、1〜10重量部の範囲で選ぶことが必要である。この量が1重量部未満では強度の改良効果が十分に発揮されないし、10重量部を超えるとその量の割には強度の改良効果の向上はみられず、むしろ経済的に不利となる上、衝撃強度が低下する場合がある。 【0020】 本発明成形材料における(A)成分又は(A’)成分のペレットは、所定原料を引抜き法により、長さが2〜20mmになるようにペレット化することによって調製される。この場合、該ガラス繊維の長さは、実質上ペレットの長さと等しくなる。このペレットの長さが2mm未満では機械的強度及び衝撃強度が劣るし、20mmを超えると成形時に分級が発生しやすく、物性にバラツキが生じるとともに、成形時に噛み込み不良などが発生しやすくなる。 【0021】 本発明成形材料においては、(B)成分としてMIが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体が用いられる。該プロピレン-エチレン共重合体としては、前記(A)成分又は(A’)成分の場合と同じようなものを用いることができる。このMIが5g/10分未満では成形性に劣り、外観が不良になるとともに、成形時に繊維が破断しやすくなり、十分な強度が得られない場合があるし、100g/10分を超えると衝撃強度や耐久性が低下する場合がある。 【0022】 本発明成形材料においては、前記(A)成分又は(A’)成分10〜70重量部と(B)成分90〜30重量部とを全量が100重量部になるように混合することが必要である。該(A)成分又は(A’)成分が10重量部未満では、機械的強度及び衝撃強度が劣るし、70重量部を超えると成形性が低下し、外観不良となる。 【0023】 本発明のポリオレフィン樹脂成形材料には、所望に応じ、本発明の目的がそこなわれない範囲で、前記ガラス繊維以外の繊維状強化剤、タルク、マイカ、ガラスフレークなどの無機系充填剤や有機系充填剤、他の熱可塑性樹脂、滑剤、着色剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤などを添加することができる。 【0024】 【発明の効果】 本発明のポリオレフィン樹脂成形材料は、生産性を高めてもガラス繊維の分散性がよく、かつガラス繊維の破損が生じにくいため、従来のものより機械的強度が高く、耐久性や衝撃性に優れる成形品を与えることができ、例えば、自動車分野、工業材料分野、家電分野などに好適に用いられる。 【0025】 【実施例】 次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。 【0026】 なお、成形品の物性は次のようにして求めた。 (1)アイゾット衝撃強度(ノッチ付) JIS K-7110に準拠して求めた。 (2)曲げ特性 JIS K-7203に準拠して、120℃の曲げ強度及び曲げ弾性率を求めた。 (3)熱変形温度HDT(高荷重) JIS K-6671に準拠して求めた。 【0027】 調製例、比較調製例 各種ポリプロピレン系樹脂、アミノシランで表面処理された繊維径13μmのガラス繊維を170本収束したガラスロービング及び場合により各種酸変性ポリオレフィンを用い、ダイスを50mmφ押出機の先端に取り付け、含浸部に4本のロッドを直線状に配置、予熱温度200℃、溶融温度240℃、ロッド4本、6mm(直径)×3mm(長さ)、傾斜角度25度の条件下において、テンションロール群で繊維束の量を調整しながらダイ内に送り込み含浸を行い、冷却後、ペレタイザでペレットを作成し、A-1、A-2、A’-1〜A’-6を得た。組成、引出し速度及びペレット長を表1に示す。 【0028】 なお、使用した樹脂の種類を以下に示す。 PP-1:MI500のプロピレン単独重合体 PP-2:MI800の結晶性プロピレン-エチレン共重合体 PP-3:MI5のプロピレン単独重合体 PP-4:MI20の結晶性プロピレン-エチレン共重合体 酸変性ポリオレフィン:酸付加量5wt%のポリプロピレン 【0029】 【表1】 【0030】 実施例1〜3、比較例1〜8 表2に示す種類と量の各成分をドライブレンド後、射出成形により試験片及び外観評価用の角板(140×140×3mm)を成形し、物性を評価した。その結果を表2に示す. 【0031】 なお、使用した樹脂の種類を以下に示す。 PP-a:MI30の結晶性プロピレン-エチレン共重合体 PP-b:MI20のプロピレン単独重合体 PP-c:MI50の結晶性プロピレン-エチレン共重合体 PP-d:MI1の結晶性プロピレン-エチレン共重合体 PP-e:MI300のプロピレン単独重合体 【0032】 【表2】 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 特許第2875425号発明の明細書を本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりにすなわち、 (a)本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る記載(本件特許公報第1頁第1欄第7行〜第9行)の「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (b)本件明細書の特許請求の範囲の請求項2に係る記載(本件特許公報第1頁第2欄第4行〜第6行)の「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (c)本件明細書の段落【0006】(本件特許公報第2頁第3欄第45行〜第47行)に記載の「特定のメルトインデックスを有するプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「特定のメルトインデックスを有するプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (d)本件明細書の段落【0007】(本件特許公報第2頁第4欄第12行〜第14行)に記載の「メルトインデックスが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「メルトインデックスが5〜100g/分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (e)本件明細書の段落【0021】(本件特許公報第4頁第7欄第1行〜第2行)に記載の「MIが5〜100g/10分のプロピレン単独重合体又はプロピレン-エチレン共重合体」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「MIが5〜100g/10分のプロピレン-エチレン共重合体」と訂正する。 (f)本件明細書の段落【0032】(本件特許公報第5頁)の表2に記載の「実施例3」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「比較例8」と訂正する。 (g)本件明細書の段落【0032】(本件特許公報第5頁)の表2に記載の「実施例5」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「実施例3」と訂正する。 (h)本件明細書の段落【0032】(本件特許公報第5頁)の表2に記載の「実施例4」及び「実施例6」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する。 (i)本件明細書の段落【0030】(本件特許公報第5頁第9欄第1行)に記載の「実施例1〜6、比較例1〜7」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「実施例1〜3、比較例1〜8」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-09-25 |
出願番号 | 特願平4-75771 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 杉原 進、藤本 保 |
特許庁審判長 |
三浦 均 |
特許庁審判官 |
中島 次一 船岡 嘉彦 |
登録日 | 1999-01-14 |
登録番号 | 特許第2875425号(P2875425) |
権利者 | 出光石油化学株式会社 |
発明の名称 | ポリオレフィン樹脂成形材料 |
代理人 | 片岡 誠 |
代理人 | 片岡 誠 |
代理人 | 東平 正道 |
代理人 | 東平 正道 |