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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  B62D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B62D
管理番号 1051598
異議申立番号 異議2001-72562  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-18 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第3146532号「ゴムクロ-ラの芯金」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3146532号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3146532号(平成3年7月3日出願(優先権主張平成3年1月23日)、平成13年1月12日設定登録。)の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「ゴム弾性体中に埋設される左右の翼部と、中央にスプロケット歯との係合部を備え、この係合部をはさんで一対の角部が形成されているゴムクローラの芯金であって、前記角部はクローラ周方向の前後に逆向きに張出部を備え、張出部頂面を高く設定しかつその頂面をほぼ平坦面とすると共に、角部略中央に対しなだらかな斜面にて連続させ、更にこれに連なって残りの頂面をほぼ平坦面としたことを特徴とするゴムクローラの芯金。」

2.特許異議の申立ての理由の概要
2-1.特許法第29条の2第1項違反について
特許異議申立人・オーツタイヤ株式会社(以下、「異議申立人」という。)は、甲第1号証の1(実開平4-41478号公報)及び甲第1号証の2(実願平2-84389号(実開平4-41478号)のマイクロフィルム)を証拠として提出して、本件発明は、本件発明に係る出願の優先権主張日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された実願平2-84389号(実開平4-41478号公報(甲第1号証の1)、同マイクロフィルム(甲第1号証の2))の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願1の当初明細書等」という。)に記載された考案と同一であると認められ、しかも、本件発明の発明者が上記先願1の当初明細書等に記載された考案の考案者と同一であるとも、本件発明に係る出願の時において、その出願人が上記先願1の出願人と同一であるとも認めらず、本件発明についての特許は、特許法第29条の2第1項の規定により、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべき旨主張している。
また同様に、異議申立人は、甲第2号証の1(実開平4-80782号公報)及び甲第2号証の2(実願平2-122588号(実開平4-80782号)のマイクロフィルム)を証拠として提出して、本件発明は、本件発明に係る出願の優先権主張日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された実願平2-122588号(実開平4-80782号公報(甲第2号証の1)、同マイクロフィルム(甲第2号証の2))の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願2の当初明細書等」という。)に記載された考案と同一であると認められ、しかも、本件発明の発明者が上記先願2の当初明細書等に記載された考案の考案者と同一であるとも、本件発明に係る出願の時において、その出願人が上記先願2の出願人と同一であるとも認めらず、本件発明についての特許は、特許法第29条の2第1項の規定により、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべき旨主張している。

2-2.特許法第29条第2項違反について
更に、異議申立人は、甲第3号証(実開昭63-180483号公報)、甲第4号証(特開平1-212675号公報)及び甲第5号証(実願昭55-68690号(実開昭56-170082号)のマイクロフィルム)を証拠として提出して、本件発明は、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべき旨主張している。

3.甲各号証の記載事項
3-1.先願1の当初明細書等の記載事項
先願1の当初明細書等には、移動建設機械等に使用される芯金及びゴムクローラに関し、転輪の落ち込みを解消して振動の低減を図ることを目的とする考案について、図面第2図ないし第5図と共に、次の事項が記載されている。
ア) 課題を解決するための手段として、「本考案は左右翼部間の係合部の両側に突出し、且つ翼部巾方向前後の張出部を有する一対の突起頂面を転輪軌道とするゴムクローラ用芯金において、該張出部を含む上記左右突記の頂面におけるほゞ中心部を底面として上向きの彎弧面に形成する」(明細書第3頁第15行〜第20行)
イ) 作用として、「(イ) 側輪部が一方の芯金の張出部上に乗ると該芯金の張出部が沈下して、張出部より頂面の中心点の範囲はクローラ内周面とほゞ平行となり、側輪部が頂面上を張出部より中心点へ向けて転輪するにつれて頂面の傾斜は徐々に回復するが、側輪部はこの間においてゴムクローラ内周面からほゞ一定の高さを進行する。
(ロ) 次いで、側輪部が頂面上を中心点より他方の芯金張出部へ転動するにつれて徐々に該張出部が沈下して、側輪部はこの間においてもゴムクローラ内周面からほゞ一定の高さを進行する。
(ハ) この結果、頂面の全域にわたり転輪はほぼ一定の高さを進行するものとなる。」(明細書第4頁第9行〜第5頁第3行)
ウ) 実施例として、「第2図は本考案のゴムクローラ用芯金の実施例を示すものであり、(A)は平面図、(B)及び(C)はそれぞれ長さ方向及び幅方向の側面図、(D)は外観図であって、1は芯金、1a、1b及び1cはそれぞれ芯金1の突起、駆動輪との係合部及び翼部であり、またS及びtはそれぞれ突起1aの頂面及び張出部である。なお、U及びCはそれぞれ頂面の端部及び中心点である。(Oは突起1aの中心線)
こゝに張出部t、tは突起1aの前後に設けてあり、頂面Sは中心点C付近を底面として上向きの彎弧面として、全体的な断面形状を略Y字型となす。」(明細書第5頁第8行〜第20行)
エ) 同じく実施例として、「第4図は第3図のゴムクローラの側面図であって転輪3が頂面Sを転動する際の作用を説明するものであり、同図(イ)に示すように張出部t、tは中心線Oの両側に斜め上方に向って彎弧状に張り出しているのであり、従って同図(ロ)に示す如く側輪部3bが頂面Sの一方の端部Uに乗った時にはクローラ本体2aの内部における芯金1の埋設部周辺に撓みが生じ、中心線は傾斜してO’となって張出部tが沈下し、沈下した端部Uより中心点C付近までの範囲が内周面Fに対してほゞ平行となるのであり、この場合沈下した張出部tは相対する張出部tに接近して芯金間隔が短縮されるのである。
次いで側輪部3bが中心点Cに向って転動するにつれて張出部tは徐々に浮上して頂面Sの傾斜面が徐々に回復するが、この間において側輪部3bはほゞ同じ高さを進行するのであり、同図(ハ)に示す如く側輪部3bが中心点Cに達した時頂面Sの傾斜が回復し、更に側輪部3bが中心点Cより他方の端部Uに向けて転動するにつれて張出部3bが端部Uに達した時、沈下した端部Uと中心点Cまでの範囲が内周面Fとほゞ平行となるのであり、側輪部3bはこの間ほゞ同じ高さを進行するのである。
この結果、端部U、U間の全域において転輪3は同じ高さを進行するものとなり、しかも転輪3が他の芯金の端部Uに乗った時には張出部tが隣接する張出部tに接近して芯金間隔が短縮されるため、転輪の落ち込みが大巾に減少するものとなるのである。」(明細書第6頁第20行〜第8頁第11行)
オ) 別の実施例として、「第5図(A)(B)は本考案に於ける別の実施例を示すものであって、21は芯金、21aは突起、21tは張出部であって21bは係合部、21sは頂面である。本実施例は張出部21tを左右の突起21a、21aの夫々れ一方にのみ、且つ左右千鳥状に設けたL字型芯金であり、同図(C)は上記芯金を埋設したゴムクローラ22である。」(明細書第8頁第12行〜第18行)

上記摘記事項オ及び図面第5図に記載の別の実施例のものは、張出部21tを左右の突起21a、21aの夫々れ一方にのみ、且つ左右千鳥状に設けた点で、上記摘記事項ウ、エ及び図面第2図ないし第4図に記載の実施例のものと異なるが、当該別の実施例のものの張出部21tを含む左右の突起21a、21aの頂面は、上記実施例のものと同様に彎弧面に形成されており、また、その余の構成も上記実施例のものと同じであると認められるから、先願1の当初明細書等には、「ゴム弾性体中に埋設される左右の翼部21cと、中央に駆動輪との係合部21bを備え、この係合部21bをはさんで一対の突起21aが形成されているゴムクローラの芯金21であって、前記突起21aはクローラ周方向の前後に逆向きに張出部21tを備え、張出部21t頂面を高く設定し、突起21a略中央に対しなだらかな斜面にて連続させた、ゴムクローラの芯金21」(以下、「先願1の考案」という。)に関する考案が、記載されているものと認められる。

3-2.先願2の当初明細書等の記載事項
先願2の当初明細書等には、移動式建設機械等のゴムクローラ用芯金及びクローラ装置に関し、特に芯金の角部の外側に設けた肩段の上面を転輪軌道とするゴムクローラに関し、転輪の落ち込みを小さくして振動を可及的に減少させることを目的とする考案について、図面第1図ないし第6図と共に、次の事項が記載されている。
カ) 課題を解決するための手段として、「本考案は、芯金中央付近に対向する一対の角部外側面の境界における左右翼部の一部を該翼部より一段高い肩段とし、該肩段には翼部巾方向の前後に張り出す張出部を形成し、該肩段の上面は中心付近より前後の張出部へ向けて該張出部を高くする上り傾斜面に構成したゴムクローラ用芯金を、ゴムクローラ本体内に、該芯金の肩段上面をゴムクローラ内周面に露出させるように埋設し、該肩段上面を外つば型転輪の外つばが当接する転輪軌道としたことを特徴とする。」(明細書第5頁第7行〜第16行)
キ) 作用として、「本考案においては、外つば型転輪の左右の外つばが芯金のそれぞれ左右の肩段上面を転動する際に、以下の作用となるのである。
(イ)外つばが張出部上に乗ると張出部が沈下するため、肩段上面はクローラ内周面とほぼ平行となり、外つばが肩段上面を張出部から芯金の中心部へ向けて進行するにつれて肩段上面の傾斜は徐々に回復し、外つばはこの間において内周面からほぼ一定の高さを進行するものとなる。
(ロ)次いで、外つばが肩段上面を中心部から張出部へと進行するにつれて、徐々に張出部が沈下するため、外つばはこの間においても内周面から同一のほぼ一定の高さを進行するものとなる。
従って、結局左右の肩段上面全域にわたり転輪は同様高さ位置を進行するものとなり、この場合張出部が沈下する際に該張出部は周方向に隣接する肩段に接近して芯金間隔が狭まるため、転輪軌道が周方向にほぼ連続するものとなって、振動の可及的な減少が図れるものとなる。」(明細書第5頁第18行〜第6頁第16行)
ク) 第2実施例として、「第4図は本考案に係わるゴムクローラ用芯金の第2実施例を示すものであり、Aは平面図、Bは巾方向の側面図、Cは斜視図であって、図に示すように、本実施例では左右の肩段13、13の張出部13a、13aは左右相反する方向にのみ設けてあり、また上面mの中心点Cを過ぎた位置f’より非張出部側を一段低く形成してある。
第5図は本実施例の芯金を埋設したゴムクローラの斜視図であり、内周面F上に2列に配列された張出部13a、13a…は、左右で逆方向へ、且つ同列では同方向へ張り出すものとしてある。
第6図は第5図のゴムクローラの周方向断面図であって転輪が肩段13の上面mを転動する際の作用を説明するものであり、
同図(イ)に示すように紙面の手前及び奥側のそれぞれに位置する肩段13、13’の張出部13a、13a’は中心線Oの両側に斜め上方へ向かって張り出しているのであり、
同図(ロ)に示すようにまず紙面の手前側の外つば部101bが同じ側の上面mの張出部側端部Eに乗った時には、上記第1実施例と同様に張出部13aが沈下して上面mは内周面Fとほぼ平行となり、また張出部13aは沈下すると同時に隣接する角部12に接近して芯金間隔を短縮し転輪軌道をほぼ連続するものとなすのであり、次いで外つば101bが中心点Cに向かって進行するにつれて張出部13aは徐々に回復するが、この間において外つば101bはほぼ同じ高さを進行するのであり(この間、紙面奥側の外つば101bは同じ側の上面mの中心点Cより非張出部側に位置するため上面mと当接しない)、
同図(ハ)において、転輪101が中心点Cに達し上面mの傾斜が回復し(この時、両側の外つば101b、101bが同時にそれぞれ上面m、mに当接する)、更に進行すると紙面の奥側の外つば101bが同じ側の上面mの中心点Cと張出部側端部E’間を転動するものとなって該奥側の張出部13a’が徐々に沈下するものとなり(この時も張出部13a’は沈下すると同時に隣接する角部12に接近して転輪軌道がほぼ連続するものとなる)、
同図(ニ)に示すように外つば101bが張出部側端部E’に達した時上面mは内周面Fとほぼ平行となるのであり、上記同様に外つば101bはこの間ほぼ同じ高さを進行するのである(但し、この間紙面手前側の外つば101bは同じ側の上面mの中心点Cより非張出部側に位置するため上面mと当接しない)。この結果、図において紙面手前側及び奥側のそれぞれの上面mの張出部側端部E、E’間の全域において転輪101は同じ高さを進行するものとなり、しかも転輪が張出部側端部E、E’にある時には張出部13a、13a’が隣接する角部12に接近するため転輪軌道が連続するものとなって、転輪の落ち込みが生じないのである。」(明細書第9頁第9行〜第12頁第1行)
ケ) 考案の効果として、「(1)本考案によれば、芯金中央付近に対向する一対の角部の外側面に設けた肩段に翼部巾方向に張り出す張出部を設け、該肩段の上面を翼部巾中心付近より張出部側へ向けて該張出部を高くする上り傾斜面に形成して、該肩段の上面がゴムクローラ本体内周面に露出するように埋設させたものであるため、
a.転輪が張出部に乗った時に張出部が適度に沈下して転輪軌道の高さを維持するため、芯金間における転輪の落ち込みが生じない。
b.転輪が張出部に乗った時に張出部が沈下すると同時に相対する張出部に接近するため、芯金間隔が短縮され転輪軌道が連続するものとなり、振動の低減に寄与すること大なるものである。」(明細書第15頁第17行〜第16頁第10行)

上記各摘記事項及び図面第4図の記載を総合すると、先願2の当初明細書等には、「ゴム弾性体中に埋設される左右の翼部11と、中央に駆動輪との係合部14を備え、この係合部14をはさんで一対の角部12及び肩段13が形成されているゴムクローラの芯金10であって、前記肩段13はクローラ周方向の前後に逆向きに張出部13aを備え、張出部13a頂面を高く設定し、肩段13略中央に対しなだらかな傾斜面にて連続させ、中心点Cを過ぎた位置より非張出部側を一段低く形成した、ゴムクローラの芯金10」(以下、「先願2の考案」という。)に関する考案が、記載されているものと認められる。

3-3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、ゴムクローラに関して、図面第1図ないし第4図と共に、「無端帯状のゴム製クローラシュー1に、その長手方向に並べた状態で芯金基部2を埋設し、案内輪5が突出端面を転動する左右一対のガイド部3,4を、前記クローラシュー1の内周面から突出する状態で前記芯金基部2夫々に一体連設したゴムクローラであって、前記芯金基部2夫々を前記左右のガイド部3,4の間で屈曲形成して、前記芯金基部2夫々において前記左右のガイド部3,4を前記クローラシュー1の長手方向において位相が相違する配置にし、前記ガイド部3,4を千鳥配置にしてあるゴムクローラ。」(実用新案登録請求の範囲)と記載されている。

3-4.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、土工機等の走行装置に使用されるゴムクローラに関して、図面第1図ないし第3図と共に、「この発明で用いる芯金10は、第1図〜第3図に示すようにクローラ本体5Aに埋設される埋設部11と、この埋設部11から立上がった二つの立上り部12,12と、これら立上り部12,12に連なってその上面を転輪3の走行面とする突起部13,13とを備えている。・・・(中略)・・・この発明は、このように二つの立上り部12,12に設けた突起部13,13の延出方向を互いに逆方向にした所謂千鳥配置のものであり、」(第2頁左下欄第1行〜第12行)と記載されている。

3-5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、ゴムクローラに関して、図面第1図ないし第4図と共に、次の事項が記載されている。
サ) 「この種、クローラでは、従来は芯金に直接転輪が圧接して、金属音を発生するのみならず、金属接触によって摩耗が生じやすかった。特に芯金間のゴム部分にてこのゴムの圧縮によって転輪が、芯金上より下がってしまうことによって、機体振動がはげしくなるばかりでなく、芯金上に転輪が乗り上がるに際し、芯金角部に対し転輪が衝撃的に当ってこの部分で転輪と芯金との相方が大きく摩耗しかつ、大きな騒音を発生する欠点があった。」(明細書第2頁第7行〜第16行)
シ) 「スプロケット(3)が係合する心金中央部分と左右突起(9),(9)の基部との間にベルト(15)と一体の弾性樹脂材層(13),(13)が設けられている。又、前記スプロケット係合穴(8)の左右両横側部には、ベルト(15)と一体に、弾性樹脂材からなる山形状もしくは台形状の隆起部(14),(14)が、前記弾性樹脂層(13)よりも肉厚に突設形成されている。・・・(中略)・・・
以上のように構成されたクローラは、左右の芯金突起(9),(9)間に係入案内された転輪(6)を左右の弾性樹脂材の隆起部(14),(14)によって緩衝的に受けとめ、これを圧縮しながら、弾性樹脂材層(13),(13)に接触する。従って弾性樹脂材層(13),(13)が受ける衝撃は大巾に緩和される。」(明細書第4頁第1行〜第15行)
ス) 「肉厚の隆起部によって、転輪は芯金間においても芯金上より下方にさがるようなことはなく、機体振動がないとともに、芯金角部に対し衝撃的に当るようなことがない」(明細書第5頁第8行〜第11行)

上記各摘記事項及び図面の記載を総合すると、甲第5号証には、「芯金中央部分と左右突起(9)の基部との間にベルト(15)と一体の平坦な弾性樹脂材層(13)を設けると共に、スプロケット係合穴(8)の左右両横側部にベルト(15)と一体の弾性樹脂材からなる台形状の隆起部(14)を前記弾性樹脂材層(13)よりも肉厚に突設形成し、前記弾性樹脂材層(13)の平坦な低い頂面と前記隆起部(14)の平坦な高い頂面を交互に配列せしめると共に、隣り合う二つの頂面をなだらかな斜面にて連続させた、クローラ」に関する発明が、記載されているものと認められる。

4.対比・判断
4-1.特許法第29条の2第1項違反について
4-1-1.先願1の考案との対比・判断
本件発明と先願1の考案とを対比すると、先願1の考案の「翼部21c」、「駆動輪との係合部21b」、「突起21a」、「ゴムクローラの芯金21」、「張出部21t」は、それぞれ、本件発明の「翼部」、「スプロケット歯との係合部」、「角部」、「ゴムクローラの芯金」、「張出部」に相当するから、両者は、「ゴム弾性体中に埋設される左右の翼部と、中央にスプロケット歯との係合部を備え、この係合部をはさんで一対の角部が形成されているゴムクローラの芯金であって、前記角部はクローラ周方向の前後に逆向きに張出部を備え、張出部頂面を高く設定し、角部略中央に対しなだらかな斜面にて連続させた、ゴムクローラの芯金」である点で、一致している。
しかしながら、張出部頂面及び角部頂面の構成に関して、本件発明では、「張出部頂面を高く設定しかつその頂面をほぼ平坦面とすると共に、角部略中央に対しなだらかな斜面にて連続させ、更にこれに連なって残りの頂面をほぼ平坦面とした」ものであるのに対して、先願1の考案では、張出部21tを含む突起21aの頂面を彎弧面に形成することは記載されているものの、張出部21tの頂面及びなだらかな斜面に連続する突起21aの残りの頂面を「ほぼ平坦面」とすることは記載されておらず、この点で、本件発明と先願1の考案とは相違している。
上記相違に関して、異議申立人は、『そうであるならば、甲第1号証の第5図に係る芯金においても、張出端部21tの頂面は、丸みを形成することにより転輪を受けやすくなるように構成しているのであるから、このような「丸み」による構成と、本件特許の前記構成要件Dのような「ほぼ平坦面」とは、少なくとも作用効果の点において何ら差異がなく、相互に均等であると解すべきであり、従って、本件特許の請求項に記載された構成要件Dにおける「ほぼ平坦面」の点は、何ら格別顕著な効果を奏しない無用な限定であって、甲第1号証の第5図に係る芯金の「丸み」と実質的に相違しないと解すべきことが明らかである。』(特許異議申立書第9頁第8行〜第16行)と主張しているが、本件発明と先願1の考案とは、構成を異にしており、たとえ異議申立人が主張するように先願1の考案が同様の作用効果を奏するとしても、そのために同構成の採用を慣用されるとする客観的証拠は何ら認められないので、上記相違が課題解決のための具体化手段における微差であるとすることもできない。
よって、本件発明は、先願1の考案と同一であるとはいえない。

4-1-2.先願2の考案との対比・判断
本件発明と先願2の考案とを対比すると、先願2の考案の「翼部11」、「駆動輪との係合部14」、「角部12及び肩段13」、「ゴムクローラの芯金10」、「張出部13a」は、それぞれ、本件発明の「翼部」、「スプロケット歯との係合部」、「角部」、「ゴムクローラの芯金」、「張出部」に相当するから、両者は、「ゴム弾性体中に埋設される左右の翼部と、中央にスプロケット歯との係合部を備え、この係合部をはさんで一対の角部が形成されているゴムクローラの芯金であって、前記角部はクローラ周方向の前後に逆向きに張出部を備え、張出部頂面を高く設定し、角部略中央に対しなだらかな斜面にて連続させた、ゴムクローラの芯金」である点で、一致している。
しかしながら、張出部頂面及び角部頂面の構成に関して、本件発明では、「張出部頂面を高く設定しかつその頂面をほぼ平坦面とすると共に、角部略中央に対しなだらかな斜面にて連続させ、更にこれに連なって残りの頂面をほぼ平坦面とした」ものであるのに対して、先願2の考案では、肩段13の上面は中心付近より張出部13aへ向けて該張出部13aを高くする上り傾斜面に構成すると共に、中心点Cを過ぎた位置より非張出部側を一段低く形成することは記載されているものの、張出部13aの頂面及びなだらかな斜面に連続する肩段13の残りの頂面を「ほぼ平坦面」とすることは記載されておらず、この点で、本件発明と先願2の考案とは相違している。
上記相違に関して、異議申立人は、『然しながら、甲第1号証に関して前述した通り、本件発明における張出部26の張出端部28の頂面は、請求項に「ほぼ平坦面」と記載されているように、厳密に「平坦面」であることを必要としておらず、しかも、明細書に記載された作用効果の説明からすれば、転輪24を受けやすいような形状であれば良いと解されるから、甲第2号証の第4図に示された張出端部13a、13aの端部E、Eのように形成された「丸み」による構成と何ら実質的に相違しないと解される。』(特許異議申立書第10頁第23行〜第29行)と主張しているが、本件発明と先願2の考案とは、構成を異にしており、たとえ異議申立人が主張するように先願2の考案が同様の作用効果を奏するとしても、そのために同構成の採用を慣用されるとする客観的証拠は何ら認められないので、上記相違が課題解決のための具体化手段における微差であるとすることもできない。
よって、本件発明は、先願2の考案と同一であるとはいえない。

4-2.特許法第29条第2項違反について
まず、甲第3号証及び甲第4号証に開示されているように、本件発明の「ゴム弾性体中に埋設される左右の翼部と、中央にスプロケット歯との係合部を備え、この係合部をはさんで一対の角部が形成されているゴムクローラの芯金」であって、「角部がクローラ周方向の前後に逆向きに張出部を備えた芯金」は、従来周知の技術的事項であるが、当該周知のゴムクローラ用の芯金は、本件発明の「張出部頂面を高く設定しかつその頂面をほぼ平坦面とすると共に、角部略中央に対しなだらかな斜面にて連続させ、更にこれに連なって残りの頂面をほぼ平坦面とした」構成(以下、「本件発明の特徴構成」という。)を備えたものではない。
一方、上記のとおり甲第5号証には、弾性樹脂材層(13)の平坦な低い頂面と隆起部(14)の平坦な高い頂面を交互に配列せしめると共に、隣り合う二つの頂面をなだらかな斜面にて連続させた構成とすることにより、転輪が芯金間においても芯金上より下方にさがらないようにして、機体振動を低減させる発明が記載されているが、当該甲第5号証に記載の発明は、クローラのベルト(15)と一体の弾性樹脂材層(13)と隆起部(14)とを設けるものであって、ゴムクローラの芯金の張出頂面及び角部頂面についての本件発明の特徴構成について、格別の言及はない。
異議申立人は、「本件発明は、甲第3号証及び甲第4号証に示されるような芯金の角部に張出部を設けた周知の技術的構成に対して、甲第5号証に教示された転輪走行面を改善するための技術思想を適用することにより、当業者が容易に推考し得たもので、進歩性を欠如する。」(特許異議申立書第13頁第20行〜第23行)と主張するので、甲第3号証及び甲第4号証に開示されているような周知のゴムクローラ用の芯金と甲第5号証記載の発明との組み合わせについて検討すると、甲第5号証記載の発明は、クローラのベルト(15)自体の圧縮によって転輪が芯金間において芯金上より下がることを補償するために、台形状の隆起部(14)を肉厚に突設形成して転輪の上下動を低減させるものであって、本件発明のように、転輪の通過に伴って芯金が左右に傾くことによる転輪の上下動を教示するものではなく、それ自体が圧縮変形するものではない上記周知のゴムクローラ用の芯金に、甲第5号証記載の発明を適用することの動機付けがあるとはいえず、ゴムクローラの芯金の張出頂面及び角部頂面についての本件発明の特徴構成を、当業者が容易に想到できたとすることはできない。
そして、本件発明は、本件発明の特徴構成を備えたことにより、本件特許明細書に記載の顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、異議申立人が提出した甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-13 
出願番号 特願平3-190807
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B62D)
P 1 651・ 161- Y (B62D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山内 康明  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 鈴木 久雄
藤井 昇
登録日 2001-01-12 
登録番号 特許第3146532号(P3146532)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 ゴムクロ-ラの芯金  
代理人 中野 収二  

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