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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 D01F 審判 一部申し立て 2項進歩性 D01F |
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管理番号 | 1051612 |
異議申立番号 | 異議2001-70543 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-02-03 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-02-21 |
確定日 | 2001-12-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3078158号「アクリル系偏平繊維およびその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3078158号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件発明 本件特許第3078158号は、平成5年7月13日出願の特願平5-196910号の特許出願に係り、平成12年6月16日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「発明1」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】アクリロニトリル84〜94.3重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.7〜3.0重量%及び他のビニル系モノマー5〜15重量%よりなり且つ分子量が4〜5万である共重合体を湿式紡糸してなるアクリル系繊維であって、繊維横断面の長軸/短軸比が4.5以上15以下であることを特徴とするアクリル系扁平繊維。」 2.申立ての理由の概要 これに対し、特許異議申立人・東レ株式会社(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(特開昭63-50518号公報)を提出し、 1)発明1は、甲第1号証(以下、「甲1」という)記載の発明(以下、「甲1発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、 2)本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、 と主張する。 3.申立人の主張の適否の判断 3の1.主張1)について 3の1の1.甲1の記載内容 ア.「アクリル系重合体(A)とアニオン性モノマーを共重合成分として含有するアクリル系重合体(B)とを有機溶媒に溶解した紡糸原液を異形口金を用いて、該有機溶媒の水溶液よりなる凝固浴中に紡糸ドラフト比0.6〜1.5で紡糸し、次いで得られたアクリル系異形断面繊維トウに水又は前記有機溶媒の水溶液を付与せしめた後、複数本重ね合わせて引き取ることを特徴とするアクリル系異形断面繊維の製造法。」(特許請求の範囲第1項)、 イ.「アクリル系重合体(A)が、アクリロニトリル85重量%以上とスルホン酸含有モノマー2重量%以下とその他の共重合成分5〜15重量%とよりなる重合体である特許請求の範囲第1項記載の製造法。」(同第2項)、 ウ.「異形断面が扁平……である特許請求の範囲第1項記載の製造法。」(同第9項)、 エ.「本発明の目的は、ボイドのない異形断面の形態維持性に優れたアクリル系異形断面繊維を工業上有利に製造する方法を提供することにある。」(2頁左下欄15〜17行)、 オ.「実施例1 AN/アクリル酸メチル……/メタリルスルホン酸ソーダ……=91.9/7.5/0.6の組成で分子量5万のアクリル系重合体(A)21部とAN/SAMPS=80/20の組成で分子量4万のアクリル系重合体(B)a部とをDMF(77-a)部及び水2部の混合溶液に溶解して紡糸原液を得た。 上記……原液を0.88mm×0.05mmのスリット状断面を有する2万ホールの口金を通して……紡糸して得たアクリル系扁平断面繊維トウを4本重ね合わせて引き取るに際して、該トウ1本ずつにDMF/水=20/80(20℃)組成の水溶液を予め……付与した後、第2浴にて5倍延伸した。その後さらに水洗、前オイル付与、……後乾燥を行ない、7デニールのアクリル系扁平繊維を得た。 第1表から判るように、アニオン性モノマーを共重合成分として含有するアクリル系重合体を紡糸原液に添加混合せしめると、ボイド発生のない異形断面形態維持性の良いアクリル系扁平繊維が得られた。」(3頁右下欄18行〜4頁右上欄2行。ただし、上記下線は申立人により付与されたものである。)、 カ.上記アクリル系重合体(B)比率が紡糸原液ベース(a部)で0部(=重合体ベースで0%)のExp.No1の場合は「比較例」に相当し、製品断面形態維持性が悪く、判定は「×」であった一方、(B)比率が原液ベースで0.11〜4.20部(=重合体ベースで0.5〜20%)のExp.No2〜8(前記ア記載の発明の実施例)の場合の異形断面形態維持性は良好で、判定は△〜◎であったこと(4頁右上欄第1表)。 3の1の2.対比・判断 申立人は、発明1の構成要件を下記 「A.アクリロニトリル84〜94.3重量%、 B.スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.7〜3.0重量% C.及び他のビニル系モノマー5〜15重量%よりなり D.且つ分子量が4〜5万である共重合体を E.湿式紡糸してなるアクリル系繊維であって、 F.繊維横断面の長軸/短軸比が4.5以上15以下である G.ことを特徴とするアクリル系扁平繊維。」 のとおりに分節し、 「甲1には構成要件Eの一部を除く他の構成要件はすべて記載されているところ、甲1発明においては2成分のアクリル系重合体を紡糸する点で一見相違するようにみえるものの、そこで用いる2成分のアクリル系重合体のうちの1成分の重合体を単独で用いて紡糸し、発明1に至る程度のことは当業者に想到容易(特許異議申立書5頁13〜19行)、 と主張する。 しかしながら、先ず、構成要件A〜Dの共重合体(I)の実例として申立人の挙げたアクリル系重合体(A)(前記オ中の下線付与部参照)は、スルホン酸基含有モノマーに相当するメタリルスルホン酸ソーダの含有量が0.6重量%(これが「重量%」基準であることについては、甲1の3頁右下欄15〜17行参照)と、発明1で規定する「0.7〜3.0重量%」の下限値より小さい点で、発明1の前記共重合体(I)とは一致していない。 そうすると、別物にすぎないアクリル系重合体(A)を用いたExp.1〜8の製品断面形態の長軸/短軸比がどのような値であろうと(実際、ポンチ絵程度の第1表記載の図を基準に、該比を「6〜7」と算出した申立人の主張自体、根拠薄弱とのそしりを免れないのであるが)、その結果が発明1について何ら教示するものとはいえない。 もっとも、申立人摘記の前記実施例以外に、甲1発明に適した前記イ記載のアクリル系重合体(A)の中には、発明1に係る共重合体(I)と共重合組成の点で重複するものが存在する。 しかしながら、そもそも甲1発明は、アクリル系重合体(A)のみでは異形断面形態維持性の良い異形断面繊維が得られない(前記第1表中のExp.No1(=比較例)参照)という従来技術の問題点を、アクリル系重合体(A)とアクリル系重合体(B)とを併用することにより、はじめて解決したものであることは明らかである(前記ア〜カ参照)。 してみると、申立人の主張にかかわらず、甲1により異形断面形態維持性の悪いことが知られたアクリル系重合体(A)単独での紡糸を当業者があえて行い、さらに得られた扁平繊維の繊維横断面の長軸/短軸比を「4.5以上15以下」と規定すべき技術的動機は見出し難い。 一方、発明1は、甲1に記載も示唆もない前記構成要件A〜Gを兼備することにより、「ボアー、ハイパイルのみならずカーペット、マット用途の獣毛調風合を有するアクリル系扁平繊維……を提供する」(本件特許公報段落【0005】参照)という、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって、発明1は、甲1発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。 3の2.主張2)について 申立人は、請求項1中の前記「分子量」について、発明の詳細な説明では「重量平均」によるもの(同段落【0010】)と「数平均」によるもの(同段落【0017】、実施例1〜7)とが混在しており、いずれの基準の「分子量」であるのか明確に定義されていない点で、本件特許明細書の記載では当業者が本件特許発明を容易に実施することはできない、と主張する。 しかしながら、請求項1において「分子量が4万〜5万である共重合体」を用いる旨規定することの技術的意義について、前記段落【0010】には「共重合体の分子量(重量平均)は、4〜5万であることが必要である。4万未満では繊維の強伸度などの物性が劣り、一方5万を越えると紡糸原液の粘度が高くなるため濃度を高くできず、脱溶媒量が大きくなる分扁平形状が崩れやすくなる。」と明記されており、この事実からすると、当業者であれば、請求項1でいう「分子量」とは「重量平均」基準の値であると無理なく解することができる。 そうすると、実施例(段落【0017】)中で「数平均」のみを示した点で、一部首尾一貫性に欠ける部分があるとはいえ、全体として現在の本件特許明細書の記載には、それによっては当業者が本件発明を容易に実施することができないというほどの目的、構成、効果記載上の不備があるとまではいうことはできない。 4.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-12-04 |
出願番号 | 特願平5-196910 |
審決分類 |
P
1
652・
531-
Y
(D01F)
P 1 652・ 121- Y (D01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
小林 正巳 |
特許庁審判官 |
喜納 稔 鴨野 研一 |
登録日 | 2000-06-16 |
登録番号 | 特許第3078158号(P3078158) |
権利者 | 鐘紡株式会社 |
発明の名称 | アクリル系偏平繊維およびその製造方法 |