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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1051654
異議申立番号 異議2001-70140  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-12-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-09 
確定日 2001-12-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第3065482号「軽量コンクリート組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3065482号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3065482号は、平成6年5月20日に特許出願され、平成12年5月12日にその発明について設定登録がされ、平成12年7月17日に特許公報が発行されたところ、平成13年1月9日に特許異議申立人ダイセル化学工業株式会社(以下「申立人」という)により特許異議の申立てがなされ、その後、平成13年4月16日付(平成13年4月27日発送)で取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年6月20日に特許異議意見書が提出されたものである。
2.本件発明
本件特許第3065482号の請求項1ないし3に記載の発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次の通りのものである。
【請求項1】 セメント結合材,骨材,水ならびに高性能減水剤,AE剤,減水剤から選ばれた少なくとも一種の混和剤を含有するコンクリートにヒドロキシエチルセルロースおよびスルホエチルセルロースアルカリ金属塩から成る群から選ばれた少なくとも一種を必須成分として含有し、上記骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代え、かつ、JISA1101によるスランプフロー値が50〜75cmであることを特徴とする軽量コンクリート組成物。
【請求項2】 ヒドロキシエチルセルロースが、その分子内にセルロースのグルコース環単位当たりに置換したエチレンオキサイドのモル数が1.5〜4.0であり、その0.2重量%水溶液の表面張力が58〜68dyne/cm、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cPであり、その添加量がコンクリート1m3当たり0.05〜5.0kgであること、および消泡剤を用いないことを特徴とする請求項1の軽量コンクリート組成物。
【請求項3】 スルホエチルセルロースアルカリ金属塩が、その平均置換度が0.5〜2.5であり、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cPであり、その添加量がコンクリート1m3当たり0.05〜5.0kgであること、および消泡剤を用いないことを特徴とする請求項1または2の軽量コンクリート組成物。
3.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1〜4号証を提示して、
(A)本件請求項1〜2に係る発明は、甲第3号証の記載を参酌するに、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、
また、
(B)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、
よって、本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。
4.引用刊行物に記載された発明
(1)引用刊行物
当審が先の取消理由通知において引用した刊行物は以下のとおりである。
刊行物1:特開平5-147995号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:特公平5-59801号公報(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3:田原正邦編、「日本工業規格 構造用軽量コンクリート骨材」、(財)日本規格協会、昭和53年4月30日、A5002-1978、p.1(申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4:特開平5-85790号公報(申立人の提出した甲第4号証)
(2)引用刊行物に記載された事項
上記引用刊行物1には、以下の点が示されている。
1-ア. 「セメント、水、骨材、ならびに、減水剤、AE剤、AE減水剤および高性能減水剤から選ばれる1種または2種以上の混和剤を含有するとともに、1%水溶液の状態で100〜10,000cPの粘度を示す発泡性の低いセルロース系増粘剤および4%食塩水を溶媒として0.5%濃度の食塩水溶液とした状態で5〜100cPの粘度を示す低粘度のアクリル系増粘剤のいずれか一方または双方を、セメントに対して0.02〜0.5重量%含有する、流動性および材料分離抵抗性に優れたコンクリート組成物。」(【請求項1】)
1-イ.「コンクリート組成物のスランプフロー値が45〜80cmである、請求項1または2記載のコンクリート組成物。」(【請求項3】)
1-ウ.「セルロース系増粘剤としてヒドロキシエチルセルロースを用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。」(【請求項6】)
1-エ.「0.2%水溶液の表面張力が58〜68dyne/cmであるヒドロキシエチルセルロースを用いる、請求項6記載の組成物。」(【請求項7】)
1-オ.「ヒドロキシエチルモル置換度が1.5〜4.0であるヒドロキシエチルセルロースを用いる、請求項6または7記載の組成物。」(【請求項8】)
1-カ.「セルロース系増粘剤の粘度は、100〜10,000cP(センチポイズ)、好ましくは500〜6,000cP、さらに好ましくは700〜5,000cPである。この粘度が100cP未満では骨材沈降抑制に必要な粘度が得られず、10,000cPを越えると発泡性が高くなって空気量をコントロールするために消泡剤が必要になるので、本発明においては、100〜10,000cPと定めた。」(第4頁【0013】欄)
1-キ.「本発明において使用されるセルロース系増粘剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースおよびヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられ、その中でも発泡性の低いヒドロキシエチルセルロースが好ましい。」(第4頁【0014】欄)
1-ク.「さらに、1%水溶液の状態で100〜10,000cPの粘度を示す発泡性の低いヒドロキシエチルセルロースとしては、0.2%水溶液の表面張力が58〜68dyne/cmであるものが好ましい。表面張力が大きいほど発泡性が小さくなるため、このような大きい表面張力を有するものが本発明において好適に使用される。さらに1%水溶液の状態で100〜10,000cPの粘度を示す発泡性の低いヒドロキシエチルセルロースとして、グルコース単位あたりに置換したエチレンオキシドのモル数を意味するヒドロキシエチルモル置換度(MS)が1.5〜4.0であるものが好ましい。ヒドロキシエチルモル置換度が1.5未満のものは、溶解性が低く、一方、4.0より大きいものは、入手しにくいからである。」(第4頁【0015】欄)
1-ケ.「本発明のコンクリート組成物を用いて、振動締固めを行うことなく高品質・高耐久性のコンクリート構造体を得るためには、スランプフロー値を45〜80cmにする必要がある。スランプフロー値が45cm未満では、流動性が十分でないために打設時に空隙を生じやすく締固め作業が必要となり、一方、80cmより大きいと、流動性は高くなるが材料分離を生じやすくなるからである。このスランプフロー値は、減水剤およびAE剤のいずれか一方または双方、ならびに増粘剤の配合量をそれぞれの範囲内で調節することによって得られる。」(第5頁【0030】欄)
1-コ.第6頁【0033】欄には、刊行物1に記載された発明に係るコンクリート組成物の代表的な組成が示されており、「セルロース系および/またはアクリル系増粘剤」の組成割合は、「0.05〜2.1kg/m3」と示されている。
1-サ.「【発明の効果】以上述べた説明から明らかなように、本発明によれば、消泡剤を使用しないで特定の増粘剤を特定量使用したために硬化したコンクリートに3〜6容量%の微細な空気量を容易に確保でき、かつ従来のコンクリート組成物で問題となっていた空気量の経時変化を低く抑えることができるので、コンクリート組成物の混練直後の空気量を多くする必要がない。従って、混練直後に空気量を調べるだけで、その量が適正であるか否かの判断ができ、また、消泡剤を使用しないため、AE剤を用いることによって導入される微細な気泡が破泡されず、耐凍害性に優れたコンクリート構造体を構築できるコンクリート組成物が容易にかつ確実に提供される。さらに、発泡性の低いセルロース系増粘剤および/または低粘度のアクリル系増粘剤を使用することにより、必要な流動性および材料分離抵抗性をも有するコンクリート組成物が提供できる。従って、本発明によれば振動締固めをすることなく、また技術者の技術や施工方法に左右されることなく、高品質・高耐久性のコンクリート構造体を構築できるコンクリート組成物が確実に提供される。」(第15頁【0077】欄)
1-シ.「また、本発明のコンクリート組成物は、高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然物粉から選ばれる1種または2種以上の物質を含むこともできる。」(第5頁【0029】欄)
1-ス.「セメントとしてポルトランドセメントの外に、高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然鉱物粉から選ばれる1種または2種以上の物質を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。」(【請求項11】)
1-セ.実施例4及び5として、第13頁表14中の本発明試料10及び第15頁表17中の本発明試料15では、刊行物1に記載された発明に係るコンクリート組成物に対して、「フライアッシュ」(記号「Fa」として表14及び表17中に示されている。)が添加された例が示されている。一方、第12頁表12及び第14頁表15には、上記実施例4及び5の使用材料が表記されているが、上記「フライアッシュ」(常磐火力産(株)製「常磐フライアッシュ」)は、セメント成分の一部として示されている。
1-ソ.「スランプ試験 高さ30cm、下端内径20cm、上端内径10cmのスランプコーンに、コンクリート組成物を1/3容ずつに分け、標準棒で一定回数突きながら詰める。次いでコーンを垂直に引き上げてコンクリートを抜くと、コンクリート組成物はその柔らかさに応じて形が崩れる。この時の頂面から下がり量を測定しスランプ値(cm)とする。」(第7頁【0041】欄)
1-タ.「なお、表8に示したスランプフロー値は次の試験方法によって得られた値である。スランプフロー試験 上記スランプ試験と同様の試験を行いコンクリートの5分後の広がりを縦および横方向に測定し、その平均値をcmで表した値をスランプフロー値とする。」(第9頁【0049】欄)
上記引用刊行物2には、以下の点が示されている。
2-ア.「セメント、骨材及び水を用いて遠心力締固めコンクリート管を製造する方法において、骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代えかつ、水溶性高分子化合物を使用原材料に対して0.05〜3.0kg/m3添加することを特徴とする遠心力締固め軽量コンクリート管の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
2-イ.「水溶性高分子化合物は、軽量骨材を含むコンクリート原料に水溶性高分子化合物を添加すれば、その混練物の粘性を高めるので、遠心力成型中にコンクリート原料の分離が生ぜず、」(第2頁第3欄第14〜18行)
2-ウ.「軽量骨材は市販されている天然のもの、人工のものいずれも使用できるが閉孔を多く含み、強度の高い構造用人工軽量骨材が好ましい。」(第2頁第3欄第28〜30行)
2-エ.「本発明に用いる水溶性高分子化合物は、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、・・・・・・等である。なお、このほか上記化合物を含む水中コンクリート用混和剤(例えば商品名ハイドロクリートUWB:三井石油化学工業株式会社製及び商品名シーベターAD:三井化成工業株式会社製)なども使用できる。・・・・・・使用量が0.05kg/m3未満ではコンクリート混練物の粘性が高くならず、使用した軽量骨材、特に軽量粗骨材が管内側で浮遊分離しまた、3kg/m3を超えるとコンクリート混練物の粘性が高くなり過ぎて遠心力成形が難しくなり、さらに所要スランプを得るために、減水剤を多く使用しなければならないと云う欠点を生じ好ましくない。」(第2頁第4欄第7〜26行)
2-オ.第3頁表第1表には、刊行物2に記載された発明に係る軽量コンクリート管の原材料(「軽量コンクリート組成物」に相当)の配合割合が示されており、軽量骨材として表乾比重1.92(細骨材)と1.60(粗骨材)のアサノライト(商品名:日本セメント株式会社製)を使用し、また、高性能減水剤を添加した例が示されている。
上記引用刊行物3には、以下の点が示されている。
3-ア.第1頁「2.種類及び呼び方」の表1には、軽量骨材の材料による区分が記載されており、人工軽量骨材として「膨張けつ岩、膨張粘土、膨張スレート、焼成フライアッシュなど」、天然軽量骨材として「火山れき及びその加工品」、副産軽量骨材として「膨張スラグなどの副産軽量骨材及びそれらの加工品」が記載されている。
上記引用刊行物4には、以下の点が示されている。
4-ア.「セメント結合材、骨材、水、減水剤およびAE剤からなるコンクリート配合物に、セメント結合材に対して0.02〜 0.5重量%のスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩を添加したことを特徴とする充填性と流動性に優れたコンクリート組成物。」(【請求項1】)
4-イ.「【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は高流動性でありながら、骨材分離、沈降が少なくて充填性に富み、しかも硬化したコンクリートが耐凍害性などの耐久性に優れているコンクリート組成物を提供するものである。」(第2頁【0005】欄)
4-ウ.「以下、本発明を詳細に説明する。本発明者らは、上記課題の解決のためにはセメント系で増粘し、かつ起泡性の少ない水溶性高分子が必要であると考え、各種水溶性高分子について研究を進めた結果、下記化1式(但し、置換度 1.0の場合を示す)の構造式で表されるスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。」(第2頁【0007】欄)
4-エ.「本発明で用いられるスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩としては、そのスルホエチル基の置換度(DS)が0.3〜2.5のものが好ましい。これが0.3未満の場合には水に対する溶解性が悪く本発明の効果を十分に発揮することができない。また置換度が2.5を超えるものは工業的な製造が経済的に困難になる。」(第2頁【0009】欄)
4-オ.「また、この粘度はその1%水溶液をB型粘度計で測定した値で10〜10,000cPのものが好ましく、これにより本発明の目的を十分に達成することができる。さらに金属塩としてはナトリウム塩が好ましい。」(第2頁【0010】欄)
4-カ.「このスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩は起泡性が少ないため、消泡剤を使用しなくてもコンクリート組成物中の空気含有量のコントロールを可能にする。つまり、本発明のコンクリート組成物は水溶性高分子を含まない通常のコンクリート組成物と同様にAE剤を所定量混合することによって、耐凍害性に有効な微細な気泡を所定量含みながら、全体の空気量を4±1容量%に維持することを可能にした。」(第3頁【0012】欄)
4-キ.「一般に、高流動性の確保にはスランプフロー値を45〜80cmの範囲内に保持することが重要であり、これが45cm未満では十分な流動性が得られず締め固め作業を必要とし、80cmより大きいと骨材が分離し易くなる。増粘剤であるスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩を、前記コンクリート配合物に添加してなる本発明のコンクリート組成物は、上記要求に充分に応えるスランプフロー値を持つものであるから、壁や柱など配筋の密な部材においても振動締め固めなしで、従来のコンクリート組成物を用いて振動締め固めをして得られたものと、同等またはそれ以上の充填性を持つ極めて密実なコンクリート構造体とすることができる。」(第3頁【0013】欄)
4-ク.第3頁【0018】欄には、刊行物4に記載された発明に係るコンクリート組成物の代表的な割合が示されており、「スルホエチルセルロースのアルカリ金属塩」の組成割合は、「0.05〜2.1kg/m3」と示されている。
4-ケ.「【発明の効果】本発明のコンクリート組成物によれば、高流動性でありながら、材料分離、材料沈降が少なく充填性にも優れている。このためバイブレーターなどによる振動締め固めをすることなく、コンクリートを隅々にまで行きわたらせることができ、従来のコンクリートを用いて振動締め固めを行った場合と、同等またはそれ以上の高品質、高耐久性の構造体を得ることができる。」(第6頁【0030】欄)
4-コ.「また、消泡剤を含まないため、通常のAEコンクリートと同等またはそれ以上の耐凍害性を示す。さらに振動締め固めを省くことができるため、省力化を計ることが可能であり、しかもコンクリートの品質がその施工作業者の技術に影響されないという利点もある。」(第6頁【0031】欄)
4-サ.「(試験法)1)スランプフロー:水中不分離性コンクリート・マニュアル、付録1:水中不分離性コンクリートの試験におけるスランプフロー試験に準ずる(JIS A-1101コンクリートのスランプ試験方法に準じて行い5分後の広がりを測定)。」(第4頁【0024】欄)
(3)引用刊行物に記載された発明等
刊行物1には、上記1-アのとおり、「セメント、水、骨材、ならびに、減水剤、AE剤、AE減水剤および高性能減水剤から選ばれる1種または2種以上の混和剤を含有するとともに、1%水溶液の状態で100〜10,000cPの粘度を示す発泡性の低いセルロース系増粘剤および4%食塩水を溶媒として0.5%濃度の食塩水溶液とした状態で5〜100cPの粘度を示す低粘度のアクリル系増粘剤のいずれか一方または双方を、セメントに対して0.02〜0.5重量%含有する、流動性および材料分離抵抗性に優れたコンクリート組成物。」に係る発明が記載されている。また、上記1-ウ及びキに記載のとおり、上記セルロース系増粘剤は、ヒドロキシエチルセルロースが好適なものとして使用されている。さらに、上記1-イ及びケに記載のとおり、スランプフロー値を45〜80cmとする規定がなされている。
してみると、刊行物1には、「セメント,水、骨材ならびに減水剤、AE剤、AE減水剤および高性能減水剤から選ばれる1種または2種以上の混和剤を含有するとともに、1%水溶液の状態で100〜10,000cPの粘度を示す発泡性の低いヒドロキシエチルセルロースを、セメントに対して0.02〜0.5重量%含有する、スランプフロー値が45〜80cmの流動性および材料分離抵抗性に優れたコンクリート組成物。」に係る発明(以下「刊行物1に記載された発明」という)が記載されているものと認められる。
また、刊行物1において、上記1-ア及びサの記載が示すとおり、上記「ヒドロキシエチルセルロース」は、増粘剤として「コンクリート組成物」に必要な材料分離抵抗性などを付与することを目的として添加されているものと認められる。そして、上記1-ケにおける「スランプフロー値が45cm未満では、流動性が十分でないために打設時に空隙を生じやすく締固め作業が必要となり、一方、80cmより大きいと、流動性は高くなるが材料分離を生じやすくなるからである。」という記載からも明らかなように、刊行物1には、上記「スランプフロー値」の規定に関して、流動性と材料分離抵抗性のバランスなどの点から「スランプフロー値は45〜80cm」が好適である旨、示されているものといえる。してみると、刊行物1には、『コンクリート組成物において材料分離抵抗性などの点から「ヒドロキシエチルセルロース」などの増粘剤を配合するにあたり、流動性と材料分離抵抗性のバランスなどの点から「スランプフロー値は45〜80cm」程度とする必要がある点』が示唆されているものと認められる。
さらに、上記1-ケに記載の「このスランプフロー値は、減水剤およびAE剤のいずれか一方または双方、ならびに増粘剤の配合量をそれぞれの範囲内で調節することによって得られる。」という記載からも明らかなように、刊行物1には、『「ヒドロキシエチルセルロース」などの増粘剤が配合されたコンクリート組成物において、45〜80cm程度のスランプフロー値は、増粘剤及びその他の添加剤の配合量の調節により可能である点』が示唆されているものと認められる。
刊行物2には、上記2-アに記載のとおり、「セメント、骨材及び水を用いて遠心力締固めコンクリート管を製造する方法において、骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代えかつ、水溶性高分子化合物を使用原材料に対して0.05〜3.0kg/m3添加することを特徴とする遠心力締固め軽量コンクリート管の製造方法。」に係る発明が記載されているが、これを上記「遠心力締固め軽量コンクリート管」の使用原材料である「コンクリート混練物」という観点から見れば、「セメント、骨材及び水を用い、骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代えかつ、水溶性高分子化合物を使用原材料に対して0.05〜3.0kg/m3添加することを特徴とする遠心力締固めコンクリート管の製造用のコンクリート混練物」に係る発明が記載されているものと認められる。また、上記2-オに記載のとおり、「高性能減水剤」の添加の点についても記載されているから、刊行物2には、「セメント、骨材、水ならびに高性能減水剤を含有し、骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代えかつ、水溶性高分子化合物を使用原材料に対して0.05〜3.0kg/m3添加することを特徴とする遠心力締固めコンクリート管の製造用のコンクリート混練物」に係る発明(以下「刊行物2に記載された発明」という)が記載されているといえる。
刊行物4には、上記4-アのとおり、「セメント結合材、骨材、水、減水剤およびAE剤からなるコンクリート配合物に、セメント結合材に対して0.02〜 0.5重量%のスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩を添加したことを特徴とする充填性と流動性に優れたコンクリート組成物。」に係る発明(以下「刊行物4に記載された発明」という)が記載されている。
ここで、上記「スルホエチルセルロースのアルカリ金属塩」(以下、「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」という)は、上記4-イ、ウ及びケの記載が示すとおり、コンクリート組成物に骨材分離及び材料沈降の防止などの作用を奏することを目的として「水溶性高分子」系の増粘剤の添加を検討したところ、特に好適な増粘剤として選定されたものである。換言すれば、刊行物4には、『コンクリート組成物において、骨材分離及び材料沈降の防止などの点から「水溶性高分子」系の増粘剤を配合するにあたり、上記「水溶性高分子」系の増粘剤としては、「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」が好適である点』が示唆されているものと認められる。
また、刊行物4には、上記4-キ及びサの記載から見て、『コンクリート組成物において骨材分離及び材料沈降の防止などの点から「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を増粘剤として配合するにあたり、流動性と材料分離抵抗性のバランスなどの点から「JIS A1101によるスランプフロー値は45〜80cm」程度とする必要がある点』、及び、『「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」増粘剤が配合されたコンクリート組成物においては、JIS A1101による45〜80cm程度のスランプフロー値は、達成可能である点』が示唆されているものと認められる。
5.対比・判断
A.特許法第29条第1項第3号について
本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という)と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明は、上記4.(3)で示したとおり、「セメント,水、骨材ならびに減水剤、AE剤、AE減水剤および高性能減水剤から選ばれる1種または2種以上の混和剤を含有するとともに、1%水溶液の状態で100〜10,000cPの粘度を示す発泡性の低いヒドロキシエチルセルロースを、セメントに対して0.02〜0.5重量%含有する、スランプフロー値が45〜80cmの流動性および材料分離抵抗性に優れたコンクリート組成物。」
であるが、ここで、上記「セメント」は、その機能などの点から見て、本件発明1の「セメント結合材」と明らかに同義である。してみると、両者は、「セメント結合材,骨材,水ならびに高性能減水剤,AE剤,減水剤から選ばれた少なくとも一種の混和剤を含有するコンクリートにヒドロキシエチルセルロースを必須成分として含有することを特徴とするコンクリート組成物。」の点で一致し、一方、下記a〜bの点で相違しているものといえる。
a.コンクリート組成物のスランプフロー値に関して、本件発明1では、「JIS A1101によるスランプフロー値が50〜75cm」と規定されているのに対し、刊行物1に記載された発明では、「スランプフロー値が45〜80cm」と規定されているだけで、「JIS A1101によるスランプフロー値」が不明である点。
b.本件発明1は、「骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代え」た軽量コンクリートと規定されているのに対し、刊行物1に記載された発明は、その様に規定されていない点。
以下、上記相違点a〜bについて検討する。
[上記相違点aに関して]
刊行物1には、なるほどスランプフロー値測定の試験方法がJIS A1101に従うものであるか明瞭に記載されていない。しかしながら、上記1-ソ及びタに記載のとおり、刊行物1に記載された発明のスランプフロー値測定の試験方法は、「高さ30cm、下端内径20cm、上端内径10cmのスランプコーンに、コンクリート組成物を1/3容ずつに分け、標準棒で一定回数突きながら詰める。次いでコーンを垂直に引き上げ」るものであり、標準棒による突き回数や詰め終わる時間などの詳細な規定はないものの、基本的な手順はJIS A1101による試験方法と同様のものである。また、JIS A1101が、コンクリートのスランプフロー値測定などのための試験方法として日本で規格化されたものである点(この点、例えば、『(社)日本コンクリート工学協会、「コンクリート便覧」(第二版)、1996年7月10日、技報堂出版、p.811の「2.1流動性試験」』参照)を考慮すると、刊行物1に記載された発明においても、スランプフロー値の測定は、JIS A1101に従い行われたか、少なくとも、スランプフロー値がJIS A1101に従い行われた場合と同程度となるような方法で行われたと解するのが妥当である。また、この点に関して、特許権者も特許異議意見書等において何ら反論をしていない。してみると、この点に関して、本件発明1と刊行物1に記載された発明との間に実質的な差異はないものと認められる。
[上記相違点bに関して]
上記1-シに記載のとおり、刊行物1に記載された発明に係るコンクリート組成物では、さらに、「高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然物粉から選ばれる1種または2種以上の物質」を添加する点が記載されている。そして、申立人は、上記「高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然鉱物粉」は、刊行物3に示すとおり、軽量骨材に相当するものであるから、結局、刊行物1に記載された発明でも、「骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代え」た軽量コンクリートが、その実施態様として記載されているものと主張している。
なるほど、刊行物3には、軽量骨材の材料による区分が記載されており、人工軽量骨材として「膨張けつ岩、膨張粘土、膨張スレート、焼成フライアッシュなど」、天然軽量骨材として「火山れき及びその加工品」、副産軽量骨材として「膨張スラグなどの副産軽量骨材及びそれらの加工品」が記載されている(上記3-ア)。しかしながら、実際に軽量骨材として使用するためには、同じく刊行物3の第2頁〜第6頁(「3.品質」、「4.試験」の項)に記載のとおり、材料の種類のみならず、特性、不純物の含有量、粒度、比重などの様々な品質に関して考慮する必要がある。よって、単に軽量骨材として例示されたものに合致する材料が使用されているからといって、直ちに軽量骨材が使用されているものと認定することは出来ない。一方、刊行物1には、上記1-ス〜セの記載からも明らかなように、「高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然鉱物粉」をセメント成分として使用することが示唆されている。また、特許権者により特許異議意見書とともに提出された参考資料1(「コンクリート技術の要点 ’93」、(社)日本コンクリート工学協会、1993年9月24日、p.18〜19)及び2((社)日本建築学会編、「建築学用語辞典」、岩波書店、1993年12月6日、p.253)を参酌すると、上記「高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然鉱物粉」は、骨材ではなく、セメントの混和材としても使用されるものと認められる。
以上の点から見て、刊行物1における「高炉スラグ粉末、膨張材、フライアッシュ、珪石粉および天然物粉から選ばれる1種または2種以上の物質」の添加は、軽量骨材としてではなく、セメント成分としての使用を示すものであって、刊行物1に記載された発明においては、「骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代え」た軽量コンクリートは、その実施態様として記載されていないものと認められる。
したがって、本件発明1は上記刊行物1に記載された発明ではなく、本件発明1の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。
さらに、本件請求項2に記載された発明(以下、「本件発明2」という)は、本件発明1を更に限定した発明であるから、上記本件発明1についての判断と同様に、上記刊行物1に記載された発明ではなく、本件発明2の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。
B.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明は、上記4.(3)で示したとおり、「セメント、骨材、水ならびに高性能減水剤を含有し、骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代えかつ、水溶性高分子化合物を使用原材料に対して0.05〜3.0kg/m3添加することを特徴とする遠心力締固めコンクリート管の製造用のコンクリート混練物」である。ここで、上記「軽量骨材」は、上記2-ウ及びオの記載から見て、本件発明1の「軽量骨材」と同等なものであることは明らかであるから、上記「コンクリート混練物」は、本件発明1同様に「軽量コンクリート混練物」と解することができる。また、「混練物」は「組成物」と同等であり、「セメント」が「セメント結合材」に相当することも明らかである。してみると、本件発明1と刊行物2に記載された発明とは、「セメント、骨材、水ならびに高性能減水剤を含有するコンクリートで、上記骨材の一部ないし全部を軽量骨材に代えた軽量コンクリート組成物。」の点で一致し、一方、下記c〜dの点で相違しているものといえる。
c.本件発明1では、「ヒドロキシエチルセルロースおよびスルホエチルセルロースアルカリ金属塩からなる群から選ばれた少なくとも一種」の添加が必須の構成要件であるのに対し、刊行物2に記載された発明では、「水溶性高分子化合物」の添加が構成要件とされている点。
d.本件発明1では、軽量コンクリート組成物について「JIS A1101によるスランプフロー値が50〜75cm」と規定されているのに対し、刊行物2に記載された発明では、その様な規定がない点。
以下、上記相違点c〜dについて検討するが、本件発明1に関して、「ヒドロキシエチルセルロース」を添加した場合と、「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」あるいは「ヒドロキシエチルセルロースおよびスルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を添加した場合とに分けて検討するものとする。
(i)「ヒドロキシエチルセルロース」を添加した場合
[上記相違点cに関して]
上記2-ア、イ及びエに記載のとおり、刊行物2に記載された発明においても、混練物(「軽量コンクリート組成物」に相当)の粘性を高め、遠心力成型中の軽量骨材の浮遊分離の防止を図るために、「水溶性高分子化合物」を添加することが必須の要件である旨記載されており、しかも、「水溶性高分子化合物」として「ヒドロキシエチルセルロース」が例示されている。してみると、この点に関して、本件発明1と刊行物2に記載された発明との間には、実質的な差異があるものとは認められない。
[上記相違点dに関して]
刊行物2には、「スランプフロー値」は具体的に示されていないものの、上記2-イ及びエの記載から見て、「ヒドロキシエチルセルロース」などの「水溶性高分子化合物」を添加することにより、上記所望の目的の達成を図りつつも、成形性などのために所要スランプ(流動性)を得ることが考慮されているといえる。そして、「JIS A1101によるスランプフロー値」は、コンクリートの流動特性を計る上で規格化された方法であるから、刊行物2に記載された発明において、成形性などのために所要スランプ(流動性)を考慮するに当たり、適切な「JIS A1101によるスランプフロー値」を設定してみることは当業者にとって格別のことではない。一方、刊行物1には、上記4.(3)で示した通り、『コンクリート組成物において材料分離抵抗性などの点から「ヒドロキシエチルセルロース」などの増粘剤を配合するにあたり、流動性と材料分離抵抗性のバランスなどの点から「スランプフロー値は45〜80cm」程度とする必要がある点』が示唆されている。してみると、刊行物2に記載された発明に係る軽量コンクリート組成物においても、同様にして、流動性と材料分離抵抗性のバランスなどの点から、上記「JIS A1101によるスランプフロー値」を45〜80cm程度に設定することは、当業者にとってみれば格別困難なことではない。さらに、刊行物1において示唆された『「ヒドロキシエチルセルロース」などの増粘剤が配合されたコンクリート組成物において、45〜80cm程度のスランプフロー値は、増粘剤及びその他の添加剤の配合量の調節により可能である点』(上記4.(3))から見て、刊行物2に記載された発明においても、上記スランプフロー値を達成することは、増粘剤である「ヒドロキシエチルセルロース」及びその他の添加剤の配合量の調節などにより当業者なら適宜なし得たものと認められる。
以上のとおりであるから、相違点dについては、刊行物1による示唆を参酌することにより、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に推考できたものといえる。また、効果の点についても、本件発明1における「JIS A1101によるスランプフロー値を50〜75cm」とした効果は、打設成型性のために高流動性と材料分離抵抗性とをバランス良く達成したに過ぎないから、当業者にとって予測外のものとは言えない。
なお、特許権者は特許異議意見書の第4頁第16〜23行において、参考資料3(「建築工事標準仕様書・同解説5 鉄筋コンクリート工事」第2刷、(社)日本建築学会、1991年10月25日、p.299〜306)を添付し、参考資料3の第301頁第13〜14行に記載のとおり、軽量コンクリートのスランプフロー値は、「軽量コンクリートにおいてスランプフローを大きくすると、種々の悪影響を生じるので、一般に21cm以下とされている」ので、本件発明1の如く「JIS A1101によるスランプフロー値が50〜75cm」と規定するのは当業者にとって常識外である旨主張している。
しかしながら、特許権者が「一般に21cm以下とされている」と示す値は、「スランプ値」であって、「スランプフロー値」ではない。そして、例えば、『(社)日本コンクリート工学協会、「コンクリート便覧」(第二版)、1996年7月10日、技報堂出版、p.811の「2.1流動性試験」』、あるいは、刊行物1における上記1-ソ及びタの記載が示すとおり、「スランプ値」はスランプ試験においてコンクリートの沈下量を測定した値であるのに対し、「スランプフロー値」はスランプ試験においてコンクリートの拡がりを測定した値であり、両者は測定の対象が全く相違するものである。しかるに、「スランプ値が一般に21cm以下とされている」ことをもって、直ちに『「JIS A1101によるスランプフロー値が50〜75cm」と規定するのは当業者にとって常識外』とすることはできない。また、実際、「スランプ値」と「スランプフロー値」との相関関係について、例えば刊行物1記載の発明においては、スランプ値は12±2.5cm程度(刊行物1の第7頁表4、第8頁表7及び第10頁表10参照)であるのに対して、スランプフロー値は45〜80cm(上記1-ケ参照)となっている。してみると、むしろ、「スランプ値が21cm以下」であっても、50〜75cm程度の高いスランプフロー値が十分達成が可能であると考えるのが妥当である。
一方、「スランプ値」と「スランプフロー値」との挙動に関して、軽量コンクリートと普通コンクリートとの間に著しい差異があるものとも認められない。
以上のとおりであるから、特許権者の上記主張は妥当なものではなく、これを採用することはできない。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(ii)「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」あるいは「ヒドロキシエチルセルロースおよびスルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を添加した場合
[上記相違点cに関して]
上記2-ア、イ及びエに記載のとおり、刊行物2に記載された発明においても、混練物(「軽量コンクリート組成物」に相当)の粘性を高め、遠心力成型中の軽量骨材の浮遊分離の防止を図るために、「水溶性高分子化合物」を添加することが記載されている。
一方、刊行物4には、『コンクリート組成物において、骨材分離及び材料沈降の防止などの点から「水溶性高分子」系の増粘剤を配合するにあたり、上記「水溶性高分子」系の増粘剤としては、「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」が好適である点』(上記4.(3))が示唆されている。
この刊行物4における示唆に関して、特許権者は特許異議意見書第5頁第18行〜第6頁第2行において、刊行物4に記載された発明は、「軽量コンクリート組成物」を意図するものではなく、刊行物4に記載された発明における「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」の添加は骨材の沈降を防止するために行われるものであるから、軽量骨材を用いた場合における骨材の浮き上がり防止を目的とする本件発明1(特許異議意見書では「請求項3の発明」となっているが、主張の内容を考慮し、本件発明1と読み替えた)とは添加目的が相違し、刊行物4における示唆を参酌することは困難である旨主張している。しかしながら、刊行物4における「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」の添加は、上記の通り、増粘剤としてコンクリート組成物における骨材分離を防止するために行われることである。してみると、「増粘剤として・・・スルホエチルセルロースアルカリ金属塩を用いることにより、・・・・骨材分離がな」(本件発明の特許公報第6頁【0032】欄の【発明の効果】の記載参照)いことを目的とする本件発明1と、刊行物4とは、「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」の添加目的は共通しているものといえる。よって、刊行物4の上記示唆を参酌することが格別困難であるとは言えない。また、それ以外の点で、刊行物2に記載された発明において、「水溶性高分子」系の増粘剤として、「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を使用することを阻害するような記載も見いだせない。
以上の点から見て、刊行物2に記載された発明において、刊行物4の示唆を参酌し、増粘剤として配合する「水溶性高分子」として、骨材分離の防止などの点から好適とされる「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を使用することは、当業者なら容易に想到し得た事項である。また、刊行物2に記載された発明において、好適な「水溶性高分子」である「ヒドロキシエチルセルロース」が採用された状態においても、これと併用する形で骨材分離の防止などの点から好適とされる「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を使用してみることも、当業者なら容易に想到し得た事項である。一方、効果の点に関して、骨材の沈降を防止するか、骨材の浮き上がりを防止するかは、骨材の比重などによって生じた結果を表現したものであり、骨材の比重が小さい軽量コンクリートにおいて骨材分離の防止のために「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を増粘剤として配合すれば、骨材の浮き上がりを防止する効果が生じることは、自明のことに過ぎない。よって、本件発明1は、相違点cにより、当業者に予測外の格別の効果を奏しているものともいえない。
[上記相違点dに関して]
刊行物2には、「スランプフロー値」は具体的に示されていないものの、上記2-イ及びエの記載から見て、「水溶性高分子化合物」を添加することにより、上記所望の目的の達成を図りつつも、成形性などのために所要スランプ(流動性)を得ることが考慮されているものといえる。そして、「JIS A1101によるスランプフロー値」は、コンクリートの流動特性を計る上で規格化された方法であるから、刊行物2に記載された発明において、成形性などのために所要スランプ(流動性)を考慮するに当たり、適切な「JIS A1101によるスランプフロー値」を設定してみることは当業者にとって格別のことではない。一方、刊行物4には、『コンクリート組成物において骨材分離及び材料沈降の防止などの点から「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を増粘剤として配合するにあたり、成形性等と材料分離抵抗性のバランスなどの点から「JIS A1101によるスランプフロー値は45〜80cm」程度とする必要がある点』(上記4.(3))が示唆されているから、刊行物2に記載された発明に係る軽量コンクリート組成物において、同様にして、成形性等と材料分離抵抗性のバランスなどの点から、上記「JIS A1101によるスランプフロー値」を45〜80cm程度に設定することは、当業者にとって格別困難なことではない。さらに、刊行物4において示唆された『「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」増粘剤が配合されたコンクリート組成物においては、JIS A1101による45〜80cm程度のスランプフロー値は、適宜達成可能である点』(上記4.(3))から見て、刊行物2に記載された発明においても、上記スランプフロー値を達成することは、当業者なら適宜なし得たものと認められる。
以上のとおりであるから、相違点dについては、刊行物4による示唆を参酌することにより、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に推考できたものといえる。また、効果の点についても、本件発明1における「JIS A1101によるスランプフロー値を50〜75cm」とした効果は、成型性のために高流動性と材料分離抵抗性とをバランス良く達成したに過ぎないから、当業者にとって予測外のものとは言えない。
なお、刊行物2に記載された発明において、増粘剤として「ヒドロキシエチルセルロース」を添加した場合に「JIS A1101によるスランプフロー値」を45〜80cm程度に設定することが当業者にとって容易であることは、上記5.B.(1)(i)において述べたとおりである。これらの点から、刊行物2に記載された発明において、増粘剤として「ヒドロキシエチルセルロースおよびスルホエチルセルロースアルカリ金属塩」を添加した場合に関しても、当業者が容易に推考できたものといえる。
したがって、本件発明1は、刊行物2及び4に記載された発明、あるいは、刊行物1〜2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る軽量コンクリート組成物において、下記e及びfの限定を加えたものである。
e.「ヒドロキシエチルセルロースが、その分子内にセルロースのグルコース環単位当たりに置換したエチレンオキサイドのモル数が1.5〜4.0であり、その0.2重量%水溶液の表面張力が58〜68dyne/cm、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cPであり、その添加量がコンクリート1m3当たり0.05〜5.0kgであること」
f.「消泡剤を用いないこと」
しかしながら、上記eの点に関し、刊行物1には、上記1-ウ〜クに記載のとおり、増粘剤として配合するヒドロキシエチルセルロースは、「その分子内にセルロースのグルコース環単位当たりに置換したエチレンオキサイドのモル数が1.5〜4.0であり、その0.2重量%水溶液の表面張力が58〜68dyne/cm、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cP」であるものが好適なものとされ、上記1-コに記載のとおり、その添加量はコンクリート1m3当たり0.05〜2.1kgとされている。してみると、刊行物2に記載の軽量コンクリート組成物に添加するヒドロキシエチルセルロースとして、「その分子内にセルロースのグルコース環単位当たりに置換したエチレンオキサイドのモル数が1.5〜4.0であり、その0.2重量%水溶液の表面張力が58〜68dyne/cm、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cP」のものを採用し、かつ、その添加量をコンクリート1m3当たり0.05〜2.1kg程度とすることは、当業者によって容易になし得た事項であるといえる。
また、上記fの点に関し、刊行物1には、上記1-カ及びサに記載のとおり、上記「ヒドロキシエチルセルロース」の使用により、消泡剤を使用せずに空気量のコントロールが可能であり、耐凍害性に優れたコンクリート組成物が得られる点も記載されている。してみると、刊行物2に記載の軽量コンクリート組成物においても、「消泡剤を用いないこと」を構成要件とすることは格別困難なものとは言えない。
そして、本件発明2が、上記e及びfの点により、格段の作用効果を奏したものとも認められない。
したがって、本件発明2は、刊行物1〜2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(3)請求項3に記載された発明(以下、「本件発明3」という)について
本件発明3は、本件発明1または2に係る軽量コンクリート組成物において、下記g及びhの限定を加えたものである。
g.「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩が、その平均置換度が0.5〜2.5であり、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cPであり、その添加量がコンクリート1m3当たり0.05〜5.0kgであること」
h.「消泡剤を用いないこと」
しかしながら、上記gの点に関し、刊行物4には、上記4-エ〜オに記載のとおり、増粘剤として配合するスルホエチルセルロースアルカリ金属塩は、「その平均置換度が0.3〜2.5であり、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000cP」であるものが好適なものとされ、上記4-クに記載のとおり、その添加量はコンクリート1m3当たり0.05〜2.1kgとされている。してみると、刊行物2に記載の軽量コンクリート組成物に添加するスルホエチルセルロースアルカリ金属塩として、「その平均置換度が0.3〜2.5であり、かつ、その1重量%水溶液粘度が100〜10,000c」のものを採用し、かつ、その添加量をコンクリート1m3当たり0.05〜2.1kg程度とすることは、当業者によって容易になし得た事項であるといえる。
また、上記hの点に関し、刊行物4には、上記4-カ及びコに記載のとおり、上記「スルホエチルセルロースアルカリ金属塩」の使用により、消泡剤を使用せずに空気量のコントロールが可能であり、耐凍害性に優れたコンクリート組成物が得られる点も記載されている。してみると、刊行物2に記載の軽量コンクリート組成物においても、「消泡剤を用いないこと」を構成要件とすることは格別困難なものとは言えない。
そして、本件発明3が、上記g及びhの点により、格段の作用効果を奏したものとも認められない。
したがって、本件発明3は、刊行物1〜2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3は、その出願日前に頒布された刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-10-23 
出願番号 特願平6-106411
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
冨士 良宏
登録日 2000-05-12 
登録番号 特許第3065482号(P3065482)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 軽量コンクリート組成物  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 河備 健二  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  

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