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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B44F
管理番号 1052361
審判番号 無効2001-35040  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-01-31 
確定日 2002-01-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2777774号発明「交差ニコルと石英結晶を組み合せた装飾装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2777774号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2777774号は、平成6年(1994)1月31日に出願され、平成10年5月8日に設定登録されたものである。
これに対して、審判請求人三橋敏久(以下「請求人」という。)は、平成13年1月31日に本件請求項1ないし2に係る特許を無効とすることにつき審判を請求した。そして、特許権者株式会社エスポワール(以下「被請求人」という。)は、当審の平成13年3月9日付の審判請求書の送付に対し、答弁書を提出しなかった。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下「本件発明1ないし2」という。)は、登録時の明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、一部明らかな誤記を除いて、特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
二酸化珪素の化学組成で6方晶系の石英結晶を少なくとも球状、球状面の組み合わせ、または球状面と平面からなる立体光学構造に形成し、
交差ニコルの間に前記立体光学構造の光学軸に対して一定の位置関係を保って配置し、透過光に干渉パターンを形成して構成した交差ニコルと石英結晶を組み合せた装飾装置。
【請求項2】
前記石英結晶は、天然水晶、人造水晶およびアメジストであり、
前記立体構造は、真球、ファセット、オーバルおよびカボションのいずれかであり、
前記交差ニコルは、偏光素子シートを間隔を保って直交配置し、
前記立体光学構造の光学軸は前記交差ニコルの軸と一致させられている請求項1記載の交差ニコルと石英結晶を組み合せた装飾装置。」
なお、上記請求項2の「人造水晶およびアメジスト」は、「人造水晶またはアメジスト」の誤記と認められる。
第3 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件請求項1ないし2に係る特許を無効とする、との審決を求め、その理由の要点として次ぎの如く主張している。
本件発明1は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、また、本件発明2は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当すると共に、甲第1号証に記載された発明によれば産業上利用できる発明ではないものとして、特許法第29条第1項柱書の規定に反し、無効とされるべきものである。
そして、証拠方法として下記甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。
甲第1号証:「Gem Testing/ジェム・テスティング」、著者 B.W.アンダーソン、訳者 全国宝石学協会、昭和58年(1983年)8月20日発行、発行者 全国宝石学協会、第311〜314頁
甲第2号証:「宝石学GEMS」、著者 ロバート・ウェブスター、訳者代表 砂川一郎、昭和55年(1980年)10月15日発行、発行者 全国宝石学協会、第174〜175頁
甲第3号証:「ジェモロジカル インスティテュート オブ アメリカ ジェム特性チャートA」、著作権・GIA、翻訳権・AGT、昭和60年(1985年)年発行、
甲第4号証:「ジェム アイデンティフィケーション ラボ マニュアル」、平成5年(1993年)発行、版権 ジェモロジカル インスティテュート オブ アメリカ、第35〜36頁、第39〜40頁
甲第5号証:「宝石-その美と科学-」、著者 近山 晶、昭和54年(1979年)11月30日発行、発行者 全国宝石学協会、第249頁、第264〜265頁
甲第6号証:雑誌「CanCam キャンキャン」、第20巻第2号通巻第235号、平成13年(2001年)2月1日発行、発行所 小学館、インフォメーション ビューローの頁
第4 被請求人の主張
第1にみられる如く被請求人による答弁書の提出がなく、請求人の主張に対して、被請求人は、何ら答弁しなかった。
第5 各甲号証の記載内容
1 甲第1号証
甲第1号証の19章にはクォ-ツ(石英)、カルセドニ-、オパールについての説明があり、次の(1)〜(6)の事項が記載されている。
(1) 「クォ-ツは、・・・・・・純粋なシリカ(二酸化珪素:SiO2)から成り、」(第311頁第4〜6行)
(2)「結晶質クォーツ、それぞれ肉眼で見える三方晶系結晶として産出・・・・・ロック・クリスタル(水晶))、アメシスト、・・・・により代表される。」(第311頁第14〜16行)
(3) 「クォーツはら旋状の内部構造を持ち、・・・・・偏光平面を回転させる光軸方向において、石を通過する偏光光線に特別な影響を持つ。これが巡り巡って、クォーツが数ある宝石の中でも独特な”干渉像”を持つという結果となり、これが見える場合は、この像が水晶の美しくかつ有効な検査となる。
一般的に、複屈折性の鉱物の干渉像を見るためには、試料を収斂光線中の直交偏光のもとで、その主軸方向から観察しなければならない。両面が平行な資料平板を用いる場合、正確に石取りされていれば、像を観察するのに必要なことは、完全に消光する”直交”位置の2枚の”ポーラロイド”シートの間に石を挾んで、目にくっつけるように保持し、窓辺または明るく照らした白い紙に向かって、その”サンドイッチ状のもの”を透かして見るということだけである。」(第312頁第2〜16行)
(4) 「ファセット石については、この簡単な方法が常に可能なわけではない。これらに関しては、3章で説明したMeakinまたはRayner型のような光源を組み込んだオープン型の偏光器の直交偏光子の間で、ツィーザ一に挾んだ石を回転することにより、像をしばしば見ることはできるが、ポケット・レンズまたは沃化メチレンを満たした小さなガラス球を、試料のすぐ上に保持して、必要な収斂光線を与えるようにしなければならない。(ガラス棒の端に歪みのないガラス球をつけたものがHanneman社で製造されており、この目的にかなっている)これは微妙で熟練を必要とする。」(第312頁第23〜31行)
(5) 「しかし水晶球や球形の水晶のビーズ(これらはしばしばネックレスに使われる)については、直交したポーラロイドの間でただビーズを回すだけで、干渉像がごく簡単に見られる。ビーズの形そのものが光線を収斂するので、レンズは必要としない。しなければならないことは、ビーズを回して正しい位置に持ってくることだけである。見えるものは、一連のぼんやりとした最初の輪に囲まれた、くり抜いたような色のついた中心を持つ黒い十字である。」(第312頁第31〜37行)
(6) 「ロック・クリスタル(水晶)と呼ばれる無色のクォーツは、申し分のない宝石というにはあまりにも味気ないが、彫刻品、ビーズ、水晶球などの素晴らしい素材である。」(第314頁第5〜7行)
上記(1)〜(6)の記載事項より、甲第1号証には、
「二酸化珪素の化学組成で3方晶系の石英結晶を少なくとも球形の立体光学構造に形成し、直交位置の2枚のポーラロイドシートの間に立体光学構造の光学軸に対して一定の位置関係を保って配置し、透過光に干渉像を形成して構成した交差ニコルと石英結晶を組み合せた装置。」(甲第1号証の第1発明)が記載されていると認める。
また、甲第1号証には、
「石英結晶は、天然水晶、またはアメシストであり、立体構造は、真球であり、2枚のポーラロイドシートを間隔を保って直交配置し、立体光学構造の光学軸は2枚のポーラロイドシートを間隔を保って直交配置した軸と一致させられている2枚のポーラロイドシートと石英結晶を組み合せた装置。」(甲第1号証の第2発明)が記載されていると認める。
2 甲第2号証
甲第2号証のアメシスト、めのう、オパールを含むシリカ群の宝石についての章には次の(1)〜(2)の事項が記載されている。
(1) 「このようなら旋状構造によって結晶の光の偏光面が回転し、この円偏光(circular polarization)と呼ばれている現象は、収斂偏光光線中で見える光学像の特殊性で証明されている。この像は、黒い十字のアームが中央のリングを通らないという点で、普通の一軸性の干渉像とは異なっている(図10.4)。この像が見えれば、宝石鉱物のなかでこの効果を示す唯一の水晶である、と結論できる。」(第174頁第9〜13行)
(2) 「水晶の円偏光のため、収斂偏光光線中で見える一軸性の干渉像では、十字のアームが中心のリング中にはいっていない。これは、大部分の水晶では一般的であるが、アメシストでは違い、アメシストに普通にみられる双晶の性質のため、普通の一軸性の干渉像を示す。水晶のビーズ・ネックレスの、ビーズ自身が収斂レンズの役割を果たすので、振動方向が交差するようにセットした2枚の偏光板の間にビーズを置き、適当な位置まで回転させると典型的な像が見えるので、容易に証明できる。」(第175頁第2〜8行)
3 甲第3号証
甲第3号証の宝石材がクォーツの光学特徴および結晶系の欄には「6方晶系」と、また、説明の欄には「ブルズ・アイ光軸像を示す場合もある」と記載されている。
4 甲第4号証
甲第4号証には次の事項が記載されている。
(1) 「偏光器
光学特徴(SRあるいはDRU、DRB)や多色性を調べる。
偏光器の主要部品
・光源 ― ベース内にある。
・ポラライザ-(偏光板) ― ベース内部で光源の上に取り付けた偏光フィルター。
・アナライザー フィルター ― 上部に据え付けてある偏光フィルター。
ポラライザ-は固定されているかもしれない。アナライザーは回転する。」(第35頁第1〜10行)
(2) 「2.石をポラライザ-とアナライザーの間で持ち、いろいろな方向に回転させる。
3.干渉色、つまり油膜上のような鮮明な色(大抵グリーンやピンク)の部分を探す。ガラス棒を最も鮮明な色の部分に当てる。
4.石の上にガラス棒を当て、それを通して石を観察する。
5.干渉色が見つからなければ、石を回転させる。暗い影、またはブラシが石を横切るのが見えるまで、それを続ける。ブラシが見えるような回転位置を探す。
6.干渉色やブラシの最も狭い先端が見つからない場合、石をいろいろと回して様々な部分に集光球をふれる。光軸像は解像できないことがある。」(第39〜40頁)
(3)第39〜40頁には、「石を回転させ、干渉色を探す。」、「干渉色が見られたら、石に集光レンズを当て、光軸像を解像する。」、「ブラシを最も狭い先端まで辿っていくと、そこに干渉色が見られることがある。見えなくても、最も狭い所にガラス棒を当てる。」、「一軸性」「ブルズ アイの一軸性」との説明とともに図がそれぞれ記載されている。
(4)第39頁の「干渉色が見られたら、石に集光レンズを当て、光軸像を解像する。」と説明のある図には、ファセット石に集光レンズを当て、光軸像を解像している状態が認められる。
5 甲第5号証
甲第5号証の合成宝石の章には、次の(1)〜(3)が記載されている。
(1) 「それまで世に出たものは、本来の宝石に外観的な類似はあっても、その成分は同一ではなく、また結晶化もされていない模造石であったり、天然石の粉末を適当に固めた再生石であったり、少なくとも結晶といえるものではなかった。人工結晶、われわれのいう合成宝石(Synthetic Stones)が、天然石と同一成分、同一結晶など特性を同じゅうして製造されて宝石市場に現われ、合成宝石時代を迎えるにいたったのは、1904年(明治37年)フランスの科学者ベルヌイ(Verneuil)による合成ルビーの製造法の発明に始まる。この天然石と同一特性をもつ人工宝石の市場での流通は、それまでの単なる肉眼検査や経験主義的な宝石取扱いを困難にし、これが一つの転機となって、各国において宝石学の急速な進歩をみるにいたったのは、よく知られた事実である。」(第249頁左欄第5〜25行)
(2) 「合成水晶は、これまで無線用などに重要な用途をもつ水晶発振用材料として、水熱法によって量産されてきた。しかし製造コストが天然産水晶より高価につくために、装飾用用途に合成水晶は全く用いられていない。もしあったとしても、標本用にカットされる程度である。」(第264頁右欄第15〜22行)
(3) 「上記の白(無色)から各色の合成水晶に対する特性値は、天然石のそれと同一である。合成石のインクルージョンは比較的少ないはずである。色水晶においては、現状のものは天然の色との差異において鑑別が可能である。」(第265頁左欄第21〜26行)
6 甲第6号証
インフォメーション ビューローの頁の右上の広告には、「水晶」、「妖精の瞳にひそむレインボーパワー」、「水晶伝説の妖精が浮かび上がる妖精の瞳水晶ペンダント。」、「販売元ミハシ・キャンキャン係」、「東京都墨田区東向島6-50-8」等と記載され、「妖精の瞳、クロスと七色リングがあなたの夢を叶える、西洋の水晶伝説」のキャッチフし-ズと共に水晶特有の干渉像を示す写真が、水晶ペンダントの写真とともに掲載されている。
第6 対比・判断
1 本件発明1の進歩性について
本件発明1(前者)と甲第1号証の第1発明(後者)を対比すると、後者の球形、直交位置の2枚のポーラロイドシート、干渉像が、前者の球状、交差ニコル、干渉パターンにそれぞれ相当しており、両者は、
二酸化珪素の化学組成で石英結晶を少なくとも球状の立体光学構造に形成し、交差ニコルの間に前記立体光学構造の光学軸に対して一定の位置関係を保って配置し、透過光に干渉パターンを形成して構成した交差ニコルと石英結晶を組み合せた装置。
で一致している。しかし、両者は次の点で相違している。
(1)前者は6方晶系であるのに、後者は3方晶系である点。(相違点1)
(2)前者は「装飾装置」であるのに、後者は単に「装置」である点。(相違点2)
相違点1については、甲第3号証の宝石材クォーツの光学特徴および結晶系の欄に6方晶系と記載されている。分類上3方晶系は6方晶系に含まれるものであるが、後者に、3方晶系とあるのは、従前6方晶系と3方晶系を併用していたためと考えられ、後者の3方晶系は、前者の6方晶系を意味するものと認められる。
相違点2については、本件特許公報の参考文献にあげられている実開昭55-52399号公報に見られる如く、この分野において交差ニコルに造形物を組み合せて装飾装置とすることは、周知技術であり、しかも、その全文公開明細書である実願昭53-135456号(実開昭55-52399号)のマイクロフィルムには、造形物として鉱物結晶体を組み合わせることが示唆されている(第3頁参照)ことから、造形物を石英結晶として、後者の装置を前者のような装飾装置とすることは、当業者であれば、容易になし得る程度のものと認める。
2 本件発明2の進歩性について
本件発明2(前者)と甲第1号証の第2発明(後者)を対比すると、後者のポーラロイドシートが、前者の偏光素子シートに相当しており、両者は、
石英結晶は、天然水晶、またはアメジストであり、立体構造は、真球であり、偏光素子シートを間隔を保って直交配置し、前記立体光学構造の光学軸は偏光素子シートを間隔を保って直交配置した軸と一致させられている偏光素子シートと石英結晶を組み合せた装置。
で一致しており、両者は、引用形式で記載した請求項1の前記相違点1、2のみで相違していると言える。
したがって、上記1で検討したように、後者の装置を前者のような装飾装置とすることは、当業者であれば、容易になし得る程度のものと認められる。
3 産業上利用可能性について
審判請求人は、本件請求項2の「立体構造は、真球、ファセット、オーバルおよびカボションのいずれか」のうち、このファセットに関して、産業上利用することができないものであり、特許法第29条第1項柱書きの規定に違反している旨主張している。
その理由として、甲第1号証に「ファセット石については、・・・・・・ポケット・レンズまたは沃化メチレンを満たした小さなガラス球を、試料のすぐ上に保持して、必要な収斂光線を与えるようにしなければならない。」(第5の1の(4)参照)との記載があり、また、甲第4号証に、ファセット石に集光レンズを当て、光軸像を解像することが記載(第5の4の(4)参照)されていて、ファセット石については、光線を収斂する部材が必要と認められることを挙げている。
そして、本件請求項2は、光線を収斂する部材を構成要件としないから、立体構造のファセットは、発明を構成しないものであり、産業上利用できる発明ということができない旨主張している。
しかし、ファセットは、上記の如く立体構造の複数のもののうちの1つであるから、本件請求項2において、ファセット以外の例えば真球のものは産業上利用することができるものであるから、特許法第29条第1項柱書きの規定に違反しているとすることはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1および2は、甲第1号証及び甲第3号証に記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よつて、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-10-19 
結審通知日 2001-10-24 
審決日 2001-11-15 
出願番号 特願平6-29055
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B44F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 小池 正利
特許庁審判官 宮崎 侑久
三原 彰英
登録日 1998-05-08 
登録番号 特許第2777774号(P2777774)
発明の名称 交差ニコルと石英結晶を組み合せた装飾装置  
代理人 吉澤 弘朗  

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