• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01S
管理番号 1052789
審判番号 不服2000-16709  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-19 
確定日 2002-02-19 
事件の表示 平成 9年特許願第304590号「多重量子井戸構造とこれを有する光変調器」拒絶査定に対する審判事件〔平成11年 5月28日出願公開、特開平11-145549、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.出願の経緯と本願発明
本願は、平成9年11月6日の出願であって、その発明は、平成12年7月7日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6(以下、本願発明1〜6という。)に記載されたとおりのものである。
2.引用例に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開平4-234184号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0009】
【課題を解決するための手段】
第1、第2の課題を解決するための請求項1の半導体レーザは、InP基板上に、前記基板と格子整合するP型クラッド層およびN型クラッド層で活性を挟んでなる積層構造を有する半導体レーザにおいて、前記活性層が、InXGa1-XAsまたはInXGa1-XAsYP1-Y 量子井戸層とInZGa1-ZAsUP1-U バリア層とからなる単一または複数の周期の多層膜であり、かつ前記バリア層の格子定数が前記基板の格子定数よりも小さくかつ前記バリア層のバンドギャップが前記量子井戸層のバンドギャップよりも大きいことを特徴とする。更に、第1、第2、第3の課題を解決するための請求項2の半導体レーザは、請求項1の半導体レーザにおいて、前記活性層を形成する前記InXGa1-XAsまたはInXGa1-XAsYP1-Y 量子井戸層の格子定数が、前記基板の格子定数よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
【作用】
請求項1の半導体レーザにおいては、多重量子井戸のバリア層に、InP基板よりも格子定数の大きくかつ量子井戸層よりもバンドギャップの大きいInZGa1-ZAsUP1-U 層を用いることを特徴とする。この結果、バリア層には引っ張り歪が加わり、価電子帯端はライトホールバンド端がエネルギー的に高く、ヘビーホールバンド端がエネルギー的に低くなるように分裂する。InZGa1-ZAsUP1-U 層のバンドギャップ、引っ張り歪量を適当に選ぶことにより、量子井戸とバリア層の間のΔEcが200meV 以上でかつΔEvが100meV 程度となるようにする事ができる。更に、このときのバリア層の価電子帯端は有効質量が伝導帯端と同じ程度となるライトホールバンドとなるので、バリア層内でのホールのモビリティは従来実施例の場合に比較して10倍近く大きくなる。この結果、多重量子井戸への高速のキャリア注入が可能となる。請求項2の半導体レーザにおいては、請求項1の効果に加えて、量子井戸を圧縮歪の歪量子井戸とするため、量子井戸の圧縮歪量とバリア層の引っ張り歪量を同程度とすることにより量子井戸1周期あたりの歪を相殺でき、多くの周期の多重量子井戸においても歪が蓄積することなく、歪多重量子井戸活性層の発光特性を良好に保つことができる。」(3頁左欄34行【0009】〜同頁右欄23行【0010】)
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開平5-55697号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来、半導体レーザの活性層として、InGaAsP等のV族元素を2種類含む混晶よりなる障壁層を持つ歪量子井戸構造を用いた場合、そのエピタキシャル成長が難しいため、急峻なヘテロ界面の歪量子井戸がなかなか作成できない。このため、歪量子井戸構造の持つ本来の素子特性を実現できないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、InGaAsP等の多元混晶を障壁層として用いた歪量子井戸構造においても、急峻なヘテロ界面を形成することができ、良好な素子特性が安定に得られる半導体レーザを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の骨子は、障壁層と井戸層との間に、井戸層の上下のヘテロ界面を良好にするための中間層を設けたことにある。
【0013】
即ち本発明は、III-V族化合物半導体基板上に、V族元素を少なくとも2種類含む混晶からなる障壁層と、V族元素が1種類の混晶からなる井戸層とを、交互に積層してなる量子井戸活性層を設けた量子井戸構造の半導体レーザにおいて、障壁層と井戸層との間に、井戸層の混晶とV族元素が同じで、井戸層に用いた混晶よりも禁制帯幅の広い混晶からなる中間層を挟むようにしたものである。
【0014】
また、本発明の望ましい実施態様としては、III-V族化合物半導体基板としてInP基板を用い、障壁層に用いる混晶としてV族元素がAsとPの2種を含む混晶(例えばInGaAsP)を、井戸層に用いる混晶としてV族元素がAsのみの混晶(例えばInGaAs)を、中間層に用いる混晶としてV族元素がAsのみで III族元素にAl,Ga,Inのうち少なくとも1種類を含む混晶(例えばGaAs)を用いたことを特徴とする。また、障壁層と中間層との間に、障壁層と井戸層との中間の禁制帯幅を有する半導体層を挟んだこと、さらに中間層に用いる混晶にAs以外のV族元素を微量に含ませたことを特徴とする。
【0015】
【作用】
本発明では、V族元素が少なくとも2種類の混晶(例えばInGaAsP)からなる障壁層と、V族元素が1種類のみの混晶(例えばInGaAs)からなる格子歪を伴った井戸層との間に、井戸層の混晶とV族元素が同じ混晶(例えばGaAs)からなる中間層を挿入しているので、井戸層及びその両側はV族元素として1種類(例えばAs)のみを含む半導体層になっている。このため、エピタキシャル成長時に井戸層と上下の層との間で供給V族原料を切り替える必要がなく、急峻なヘテロ界面が形成できる。従って、歪量子井戸構造の特徴を十分に生かした半導体レーザを作成することができる。なお、中間層と障壁層との間ではV族元素の切り替えの必要があるが、この場合、中間層と障壁層とのヘテロ界面の急峻性は、レーザの諸特性にあまり影響がないので問題とならない。」(3頁左欄3行【0010】〜同頁右欄6行【0015】)
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3(特開平7-235730号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0010】
【課題を解決するための手段】
障壁層に井戸層と逆方向の歪を加える場合、歪障壁層と歪井戸層の間に無歪InGaAsP障壁層を挿入することにより前章の問題(2)は解決可能である。また、AsとPの相互拡散の問題(1)は歪井戸層、歪障壁層、無歪障壁層の全てのAsの混晶比(AsとPの比率)を同一とすることにより解決可能であるが、引っ張り歪井戸層と圧縮歪障壁層の組合せではAsの混晶比を同一にすることが不可能である。これはAsの混晶比を一定にしてInを多くして圧縮歪を加えた場合、図9(a)に示すようにエネルギーバンドギャップは狭くなり、Inを少なくして引っ張り歪を加えた場合、(b)に示すようにエネルギーバンドギャップは広くなる。すなわち引っ張り歪層は圧縮歪層よりもエネルギーバンドギャップは広くなり、井戸層として用いることは出来ない。」(3頁左欄16行〜31行【0010】)
3.対比・判断
本願発明1〜6の「圧縮歪井戸層のヘビーホール準位と引っ張り歪障壁層のライトホール準位が等しい」ことは、上記引用例1〜3に記載も示唆もされておらず、当業者に周知又は自明の事項でもない。
そして、本願発明1〜6は、「圧縮歪井戸層のヘビーホール準位と引っ張り歪障壁層のライトホール準位が等しい」ことにより、ホールキャリアの引き抜き時間を短くすることができ、高速変調時の消光比を十分にとることが可能になるという作用効果を呈するものである。
なお、引用例1に記載の発明では、半導体レーザの障壁層と井戸層のホール準位差を小さくしてオーバフロー問題を生じさせるようなことはあり得ないから、本願発明1〜6の半導体レーザの変調器のように「障壁層のライトホール準位と井戸層のヘビーホール準位とを一致させる」ことはあり得ない。
4.むすび
以上のとおり、本願発明1〜6は、上記引用例1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができない。
また他に、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-02-06 
出願番号 特願平9-304590
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小原 博生近藤 幸浩道祖土 新吾  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 稲積 義登
東森 秀朋
発明の名称 多重量子井戸構造とこれを有する光変調器  
代理人 京本 直樹  
代理人 河合 信明  
代理人 福田 修一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ