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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1053019
審判番号 不服2000-5364  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-14 
確定日 2002-02-07 
事件の表示 平成10年特許願第168476号「液晶表示装置」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 1月 7日出願公開、特開2000- 2873]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年6月16日の出願であって、その請求項に係る発明は、平成11年9月27日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。
「【請求項1】視点方向から、第1の偏光板と、第1の位相補償フィルムと、液晶パネルと、第2の偏光板と、面光源とで構成された液晶表示装置において、前記液晶パネルは、透明ガラス基板上に透明共通電極とカラーフィルターとが形成されたカラーフィルタ基板と、ツイスト角がほぼ90度のツイステッドネマティック(TN)液晶層と、透明ガラス基板上にマトリクス状に薄膜トランジスタ(TFT)と透明画素電極が配置されたアクティブマトリクス基板とからなり、前記液晶層は、前記カラーフィルタ基板とアクティブマトリクス基板間に挟まれ、当該液晶層の周囲を封止するシール剤で封止されており、前記TN液晶層のヘリカルピッチは60μm以上であり且つ前記液晶層の屈折率異方性△nと液晶セルの前記液晶層の厚みdとの積△ndを320〜480nmとしたことを特徴とする液晶表示装置。」(以下、「本願発明」という)

2.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-160414号公報(以下「引用刊行物」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
「【従来の技術】液晶表示装置としては、分子配列のねじれ角が90゜以上の液晶を介して、対向するストライプ状の複数の電極を、互いに交差するように配置させ、これらの交差する部分で画素を形成する、単純マトリクス型と、液晶分子の配列のねじれ角が90゜で、薄層トランジスターあるいはダイオードを用いる三端子方式、あるいは二端子方式の非線形能動素子を有する画素電極と、この画素電極と対向電極とで画素を形成するアクティブマトリクス型が提案されている。これらの液晶表示装置のうち、ワードプロセッサ、パソコン、あるいはTVモニター等の表示装置は、主流であるCRTから、薄型軽量、低消費電力という大きな利点を持つ液晶表示装置のうち、高画質で応答速度の速いアクティブマトリクス型に変換されつつある。
【0003】このアクティブマトリクス型は、基本的にはねじれ角が90゜のネマティック液晶を用いたツイステッドネマチック型(以下、TNと呼ぶ)液晶セルを用いるものであり、非線形素子として、三端子方式の薄層トランジスターを使用するTFT-LCDと、二端子方式のMIM素子を使用するMIM-LCDとが、現在主流となっている。
【0004】TFT-LCDやMIM-LCDは、少なくとも、各画素ごとに駆動用のTFT、あるいはMIM素子を備えたTN型液晶セルと、透過軸が液晶セルの光入射側の基板のラビング方向と直交または平行するように配置された偏光子、および透過軸が液晶セルの光出射側の基板のラビング方向と平行または直交するように配置された検光子とから構成されており、応答速度が速く(数十ミリ秒)、高い表示コントラストを示すことから他の方式と比較しても、最も有力な方式である。しかし、これらの液晶表示装置は、ねじれ角が90゜のネマティック液晶を用いているため、表示方式の原理上、視角によりコントラストが低下するという大きな問題点があった。
【0005】これに対し、特開平4-229828号、特開平4-258923号公報などに見られるように、一対の偏光板とTN型液晶セルの間に、位相差板を配置することによって視野角を拡大しようとする方法が提案されている。上記特許公報で提案された位相差板は、液晶セルに対して、垂直な方向の位相差はほぼゼロのものであり、真正面からは何ら光学的な作用を及ぼさないが、傾けたときに位相差が発現し、液晶セルで発現する位相差を補償するものである。しかし、この方法では視野角、とくに、画面法線方向から上下方向または左右方向に傾けたときのコントラストの低下を改良できず、CRTの代替としては、全く対応できないのが現状である。」(【0002】〜【0005】)、
「本発明のカラー液晶表示装置において明るさ,コントラストが改良された事については以下のように推定している。透過型の液晶表示装置の場合にはバックライトが発する可視光線・・・がそれぞれブラックマトリックスや偏光板での吸収によって減光する事によって明るさが低下している。・・・本発明者らは,TFT等のツイストネマチック液晶を用いたフルカラー液晶表示装置に本発明の位相差板を用いた場合の本来有するべき広視野角,高明度,高コントラストが・・・飛躍的に液晶表示装置の明るさやコントラストを改良できる事をつきとめた。」(【0014】)、
「以下に本発明における位相差板について詳しく説明する。本発明の位相差板を構成している、光学的に負の一軸性で、その光軸がフイルムの法線方向から5゜から50゜傾斜している光学異方素子は、光透過率が80%以上であるとともに、フイルム面内の主屈折率をnx’、ny’、厚み方向の屈折率をnz’、厚さをd’とした時、三軸の主屈折率の関係がnz’<ny’=nx’を満たし、式{(nx’+ny’)/2-nz’}×d’で表されるレタデーションが50nmから400nmである事が好ましい。」(【0020】)、
「以下に本発明のツイステッドネマチック液晶セルについて説明する。液晶の素材については特に限定は無いがΔndは300nm以上900nm以下が好ましい。またツイスト角は90度が一般的だが70度以上100度以下の範囲で好適に用いられる。またプレチルトは5度以下が好ましく、セルギャップは3μm以上6μmが好ましい。
【0039】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
位相差板(RF-1)の作製
トリアセチルセルロースが17.4wt%、トリフェニルホスフェートが2.6wt%となるように・・・混合溶媒中に溶かしたドープを・・・乾燥膜厚が127μmになるように流延し、はぎ取った後、60℃-120℃の熱風で乾燥した。一方の側にゼラチン層(0.1μm)を塗設し、次に塗設したゼラチン層の上に長鎖アルキル変性ポバール(クラレ(株)製MP-203)を塗布し・・・ラビング処理を行い配向膜を形成した。面内の主屈折率をnx’、ny’、厚さ方向の屈折率をnz’、厚さをd’とした時、トリアセチルセルロースフィルムは、|nx’-ny’|×d’=5nm、{(nx’+ny’)/2-nz’}×d’=70nmであり、ほぼ負の一軸性であり、光軸がほぼフイルム法線方向にあった。
【0040】この配向膜上に、前記円盤状化合物TE-8(8)(m=4)が27.0wt%、アロニックスM-101(東亜合成(株)製)が6.8wt%、イルガキュア907(日本チバガイギー(株)製)が0.3wt%、CAB531(イーストマンケミカル(株)製)が0.1wt%となるように・・・2.5μ厚の円盤状化合物を含む層を有したフィルムを作成した。このフィルムを・・・ディスコティック液晶を形成、熟成させた後に・・・放冷する事により、位相差板(RF-1)を得た。このようにして得られた本発明の該円盤状化合物を含む層について、ラビング軸を含み位相差板に垂直な面において、あらゆる方向からレターデーション値を島津製作所製エリプソメーター(AEP-100)で測定した。この測定値より、チルト角が20°から50°まで連続的に変化していることがわかった。
【0041】以上のようにして得られた本発明の位相差板のトリアセチルセルロース支持体側に粘着剤を塗布したのち・・・偏光板・・・をその偏光軸がディスコティック液晶層の光軸をフィルム面に正射影した方向と45゜の角度をなすように貼り合わせ、楕円偏光板(DH-1)を得た。」(【0038】〜【0041】)、
「プラスチック基板の作製 市販のARTONフィルムを熱処理することにより・・・ほぼ負の一軸性を有し、光軸がほぼフイルム法線方向にある、厚みが150μmのプラスチック基板を作製し、液晶表示用電極基板とした。
【0046】実施例1
液晶の異常光と常光の屈折率の差と液晶セルのギャップサイズの積が450nmで、ねじれ角が90度のTN型液晶セルに、上述のプラスチック電極基板を装着し、液晶セルを挟むようにして、楕円偏光板(DH-1)2枚を偏光板の偏光軸が液晶セルのラビング軸と一致するように貼り付け、本発明のカラー液晶表示装置Aを作成した。」(【0045】〜【0046】)、
「比較例1 シャープ(株)製TFT型液晶カラーテレビ6E-C3の偏光板を剥がし、液晶セルを挟むようにして、(DH-5)2枚を、偏光板の偏光軸がもとと変わらないように互いに直交するように貼り付け、カラー液晶表示装置Eを作成した。」(【0053】)、
「【本発明の効果】本発明によれば、プラスチック基板を用いたTN型液晶セルを有するカラー液晶表示装置、特にTFTの様な非線形能動素子を有する液晶表示装置のコントラスト、明るさ、視角特性及び/または耐久性が改善され、視認性にすぐれる高品位の液晶表示装置を工業的に提供することができる。また、本発明をMIMなどの3端子素子、TFDなどの2端子素子を用いたアクティブマトリクス液晶表示素子に応用しても優れた効果が得られることは言うまでもない。」(【0056】)

3.対比・判断
本願発明と引用刊行物に記載された発明を対比する。
(1)引用刊行物の「位相差板」「バックライト」「カラー液晶表示装置」が、それぞれ本願発明の「第1の位相補償フィルム」「面光源」「液晶表示装置」に相当することは明らかである。
(2)引用刊行物には、「実施例1 液晶の異常光と常光の屈折率の差と液晶セルのギャップサイズの積が450nmで、ねじれ角が90度のTN型液晶セルに、上述のプラスチック電極基板を装着し、液晶セルを挟むようにして、楕円偏光板(DH-1)2枚を偏光板の偏光軸が液晶セルのラビング軸と一致するように貼り付け、本発明のカラー液晶表示装置Aを作成した。」(【0046】)と記載されていることから、引用刊行物のものが本願発明の「第1の偏光板」「第2の偏光板」「ツイスト角がほぼ90度のツイステッドネマティック(TN)液晶層」に相当する事項を有することは明らかである。
(3)引用刊行物には、「プラスチック基板の作製 市販のARTONフィルムを熱処理することにより・・・ほぼ負の一軸性を有し、光軸がほぼフイルム法線方向にある、厚みが150μmのプラスチック基板を作製し、液晶表示用電極基板とした。」(【0045】)と記載されていることから、引用刊行物の「プラスチック基板」は本願発明の「透明共通電極が形成された基板」に相当する。
(4)引用刊行物には、「TFT等のツイストネマチック液晶を用いたフルカラー液晶表示装置に本発明の位相差板を用いた場合の本来有するべき広視野角,高明度,高コントラストが・・・飛躍的に液晶表示装置の明るさやコントラストを改良できる事をつきとめた。」(【0014】)、「液晶の異常光と常光の屈折率の差と液晶セルのギャップサイズの積が450nmで、ねじれ角が90度のTN型液晶セルに、上述のプラスチック電極基板を装着し、液晶セルを挟むようにして、楕円偏光板(DH-1)2枚を偏光板の偏光軸が液晶セルのラビング軸と一致するように貼り付け、本発明のカラー液晶表示装置Aを作成した。」(【0046】)と記載されており、引用刊行物の「TFT」が本願発明の「アクティブマトリクス基板」に相当する。
そして、上記考察(3)をも勘案すると、引用刊行物は、本願発明の「前記液晶層は、前記基板とアクティブマトリクス基板間に挟まれ」に相当する事項をも有するものである。
(5)引用刊行物には、「以下に本発明のツイステッドネマチック液晶セルについて説明する。液晶の素材については特に限定は無いがΔndは300nm以上900nm以下が好ましい。」(【0038】)と記載されており、該数値範囲は、本願発明の「320〜480nm」を含むものであり、この点で一致する。

上記(1)〜(5)の考察から、両者は、「視点方向から、第1の偏光板と、第1の位相補償フィルムと、液晶パネルと、第2の偏光板と、面光源とで構成された液晶表示装置において、前記液晶パネルは、透明共通電極が形成された基板と、ツイスト角がほぼ90度のツイステッドネマティック(TN)液晶層と、マトリクス状に薄膜トランジスタ(TFT)と透明画素電極が配置されたアクティブマトリクス基板とからなり、前記液晶層は、前記基板とアクティブマトリクス基板間に挟まれ、当該液晶層の周囲を封止するシール剤で封止されており、前記液晶層の屈折率異方性△nと液晶セルの前記液晶層の厚みdとの積△ndを320〜480nmとした液晶表示装置」である点で一致し、次の点で相違する

相違点1:
本願発明のものは、上記「基板」が「透明ガラス基板」であり、上記「透明共通電極が形成された基板」が、「カラーフィルターが形成されたカラーフィルタ」基板であるのに対し、引用刊行物のものは、プラスチック基板であり、またカラー液晶表示装置との記載はあるものの、カラーフィルタがどちらの基板に形成されているかの明示はない点。
相違点2:
本願発明では、「TN液晶層のヘリカルピッチは60μm以上」であるのに対し、引用刊行物1のものは、ヘリカルピッチに関する記載がない点。

上記相違点について検討する。
相違点1について:
プラスチック基板はガラス基板とともに、液晶表示装置において常用されている。また、カラーフィルタをアクティブマトリクス基板と対向する基板側に設けることは周知のことにすぎないので、上記相違点の技術的事項とすることは当業者が任意に設計し得る程度の事項である。
相違点2について:
引用刊行物には、「しかし、この方法では視野角、とくに、画面法線方向から上下方向または左右方向に傾けたときのコントラストの低下を改良できず、CRTの代替としては、全く対応できないのが現状である。」と記載されているが、カラー表示においてコントラストの低下というのは、色により変調の程度が異なることをも意味すること、すなわち色づきをも示すことは明らかである。
そして、TN液晶において、カイラル剤の混入は、液晶のリバースチルトを解消することを主たる目的とするものであって、その目的の範囲内でヘリカルピッチは適宜選択しうるものである。(ヘリカルピッチが無限大でもTN液晶は構成可能である。)そして、ヘリカルピッチを60μm以上とすることも周知(必要であれば原審において引用された特開平10-39341号公報、特開平9-179127号公報参照)のことにすぎず、上記数値範囲を選択することはTN液晶における通常のヘリカルピッチを選択することであって格別のものではないから、上記相違点2の技術的事項とすることは周知技術を勘案して当業者が適宜設計し得る事項である。

なお、請求人は、「TN液晶層のヘリカルピッチは60μm以上」「前記液晶層の屈折率異方性△nと液晶セルの前記液晶層の厚みdとの積△ndを320〜480nm」との組合せがないと主張しているので、この点について以下に検討する。
引用刊行物には、「液晶の異常光と常光の屈折率の差と液晶セルのギャップサイズの積が450nmで、ねじれ角が90度のTN型液晶セル」と記載(この点については原審において引用された特開平8-50270号公報(【0039】)にも同様の記載あり)されており、該数値に近い480nmの△ndを上限の値として選択することは容易に想到しうることである。また、上記のとおりヘリカルピッチを60μm以上とすることも周知の事項であるから、上記組合せは、引用刊行物に通常のヘリカルピッチを適用したというにすぎないものである。
そして、請求人が、本願発明の作用効果の根拠とする表1は、第2の実施形態にかかるものであるが、該第2の実施形態においては、位相補償フィルムを片方のみに設けるとの特段の記載のないことから、第1の実施形態と同様に位相補償フィルムを両面に配置するものと考えられるが、本願発明のものは、第1の位相補償フィルムのみを有するものであるから、表1は請求項1に係る発明の作用効果を直接示すものとはいえない。また、上記実施形態には、補償フィルムの光学的特性は記載されておらず、表1の結果がどのような前提条件で測定されたか不明である。
そして、本願発明のものが格別の作用効果を奏するとしても、補償フィルムの光学的特性及び枚数、TN液晶層のヘリカルピッチ、液晶層の△ndが相互に関連すると思われるが、表1からそれらの関連を窺うことはできず、また60μmが40μmに比して格別顕著なものとも認められないばかりでなく、120μmより大きい場合についての効果は不明である。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-11-27 
結審通知日 2001-12-04 
審決日 2001-12-19 
出願番号 特願平10-168476
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男橿本 英吾  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 町田 光信
森 正幸
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 京本 直樹  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  

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