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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F04C
管理番号 1053142
異議申立番号 異議2000-72098  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-07-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-19 
確定日 2001-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2981512号「真空ポンプ」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2981512号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 1)手続の経緯
特許第2981512号の請求項1〜8に係る発明は、平成2年11月28日に特許出願され、平成11年9月24日にその特許の設定登録がなされ、その後、中村孝子、スターリング フルイド システムズ ゲーエムベーハーより特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年4月17日に訂正請求がなされたものである。

(2)訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1〜8中の「真空ポンプ」を「ドライ真空ポンプ」に訂正する。
訂正事項b
発明の詳細な説明、図面の簡単な説明の記載(本件特許公報第2頁左欄第9行、同第2頁右欄第38〜39行、同第3頁左欄第49行、同第3頁右欄第1行、同第3頁右欄第50行、同第4頁右欄第31行、同第5頁右欄第29行、及び同第5頁右欄第38行参照)の「真空ポンプ」を「ドライ真空ポンプ」に訂正する。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記の訂正事項に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という)の発明の詳細な説明には「ドライ真空ポンプ」(本件特許公報第2頁左欄第22行、同第2頁左欄第25〜26行、同第2頁右欄第7行、同第2頁右欄第16行、及び同第2頁右欄第31行)、及び「ドライポンプ」(本件特許公報第3頁左欄第15行)と記載されており、上記訂正事項a、bは、願書に添付した明細書に記載されている事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当しない。そして、上記訂正事項aは、「真空ポンプ」を下位概念である「ドライ真空ポンプ」にするものであって、特許請求の範囲の減縮に該当する。また、上記訂正事項bは、訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明、図面の簡単な説明の記載とを整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。また、上記訂正事項a、bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

(3)特許異議申立について
ア.本件発明
平成13年4月17日付けで提出された訂正明細書の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ、「本件請求項1に係る発明」〜「本件請求項8に係る発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された次のとおりのものと認める。
「(1)ハウジング内に収納された複数個のロータ及びこれらのロータのそれぞれに締結された複数個の軸と、これらの軸の回転を支持する軸受と、前記ロータと前記ハウジングにより形成される流体移送室と、前記複数個の軸にそれぞれ設けられ、前記複数個のロータ間の接触を防止する接触防止ギヤと、前記ハウジングに形成され前記流体移送室と連絡する流体の吸気口及び吐出口と、前記ロータに対して前記軸の同一側の位置に並列配置され、かつ前記複数個の軸をそれぞれ独立して回転駆動する複数個のモータと、前記複数個のモータを同期制御することにより、前記ロータ及び前記ハウジングで形成される密閉空間の移動を利用して流体の吸入・吐出を行うことを特徴としたドライ真空ポンプ。
(2)接触防止ギヤが前記複数個のロータのそれぞれに直接締結されて、前記流体移送室に配置されていることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(3)流体移送室内で前記軸の端部に前記ロータが締結されており、かつ前記軸は片持ち支持構造であることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(4)複数個のモータはロータに対して概略同一位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(5)複数個のモータの固定子であるモータステータがハウジング内に収納されて、かつ前記モータステータの外径はロータの外径よりも径小であることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(6)ロータの内面において、ハウジングと前記軸の間にこの軸を支持する軸受の一部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(7)モータの回転を検知する検出手段と、この検出手段からの信号によって複数個のモータの回転を電子制御により同期運転したことを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(8)真空ポンプは、ねじ溝式であることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。」

イ.引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消理由に引用した刊行物1(特開昭64-63689号公報)には、第2頁右下欄第12行〜第3頁左下欄第18行「第1の回転体2Aは、筒状のケーシング8 内に複数の軸受9により回転自在に支持された第1の回転軸10Aと、該第1の回転軸10Aの中間部に固定された雄、雌スクリューロータ11A,12Aと、第1の回転軸10Aの雄スクリューロータ11A側の端部に固定された第1のモータロータ15Aとからなり、モータロータ15Aと該モータロータ15Aに対向してケーシング8内に配設された第1のステータ16Aとにより第1のモ一タ13Aを構成している。
第2の回転体2Bは、ケーシング8内に複数の軸受9により第1の回転軸10Aと平行に、かつ回転自在に支持された第2の回転軸10Bと、該第2の回転軸10Bの中間部に固定され第1の回転体2Aの雄雌スクリューロータ11A、12Aと噛合する雌雄スクリューロータ12B、11Bと、第2の回転軸10Bの雄スクリューロータ11B側の端部に固定された第2のモータロータ15Bとからなり、モータロータ15Bと該モータロータ15Bに対向してケーシング8内に配設さた第2のステータ16Bとにより第2のモータ13Bを構成している。第1、第2の回転軸10A ,10Bの雄スクリューロータ11A,11Bとモータロータ15A,15Bとの間には角度センサの一例であるロータリエンコーダ18A,18Bがそれぞれ固定されている。第1、第2の回転軸10A,10B、雄のスクリューロータ11A,11B、雌のスクリューロータ12A,12B、モータロータ15A,15Bおよびロータリエンコーダ18A,18Bは、それそれ同一寸法、形状、材質であり、これにより第1、第2の回転体2A,2Bの慣性モーメント等が同一になるように設定されている。また第1、第2の回転体2A,2Bの流体の吸込口19A,19Bおよび吐出口20は、それぞれ対称する位置に形成されている。
第1図においてスクリュー流体機械1は、第1、第2の回転体2A,2Bを矢印A,Bの方向に回転させると圧縮機として作動し、また吸込口19と吐出口20の配設位置を逆にして第1、第2の回転体2A,2Bを図中の矢印と逆方向に回転させると真空ポンプとして作動する。
検出回路3は、ロータリエンコーダ18A,18Bにそれぞれ接続された第1および第2の検出回路3A,3Bからなっている。制御回路5は、第1、第2の検出回路3A,3Bと指令回路21にそれぞれ接続されている。駆動回路6は、制御回路5および第1、第2のモータ13A,13Bにそれぞれ接続された第1および第2の駆動回路6A,6Bからなっている。
つぎに、本発明の第1実施例の作用を説明する。ロータリエンコーダ18A,18Bにより第1、第2の回転体2A,2Bの回転角度および回転速度が検出され、その検出信号は第1、第2の検出回路3A,3Bに入力され、それぞれ電気的な信号に変換されて制御回路5に入力される。これらの入力信号から制御回路5は、第1、第2の回転体2A,2B間の回転位相差および回転速度差を求め、また指令回路21にあらかじめ設定された具体的な回転速度を取入れて第1、第2の回転体2A,2Bへの回転速度指令値を決定する。この指令値に従って第1、第2の駆動回路6A,6Bは、第1、第2のモータ13A,13Bに電流を供給して駆動する。これにより回転速度の速いモータが遅く、回転速度の遅いモータが速くなり、第1、第2のモータ13A,13Bが同期回転する。」、第4頁左上欄第12〜18行「第6図および第7図は本発明の第3実施例に係り、第1の回転軸10Aの雄雌スクリューロータ11A,12Aとの間および第2の回転軸10Bの雄雌スクリューロータ11B,12Bとの間に互いに噛合し得る同一歯数の無給油式、例えばプラスチック製のタイミングギヤ23A,23Bが固定されている。」、第4頁右上欄第1〜11行「雄雌スクリューロータ11,12はもちろんタイミングギヤ23A,23Bも定常状態では非接触で回転するが、停電、部品の破壊、緊急停止などを原因とする急激な加減速によって制御が不可能又は不十分となった場合、本実施例によれば、タイミングギヤ23A,23Bが雄雌スクリューロータ11,12に先立って噛合して同期回転を維持するので、雄雌スクリューロータ11,12同志の接触を免れることができ、これにより雄雌スクリューロータ11,12の焼付きなどによる破損を防ぐことができる。」、同頁右上欄第15行〜同頁左下欄第1行「上述のとおり、本発明によれば、雄雌スクリューロータをそれぞれ固定した1組の回転軸に取付けたモータの電気的な制御が容易となり、負荷変動に対しても十分対応することができるので、給油式タイミングギヤによらない同期回転が可能で潤滑油が不要となり、油を全く含まない清浄空気の圧縮が可能となる。」と記載されており、これらの記載と第1〜3、6、7図の記載によれば、刊行物1には、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。
「ケーシング8内に収納された複数個のスクリューロータ11A、11B、12A、12B及びこれらのスクリューロータのそれぞれに締結された複数個の回転軸10A、10Bと、これらの回転軸の回転を支持する軸受9と、前記スクリューロータと前記ケーシングにより形成される流体移送室と、前記複数個の回転軸にそれぞれ設けられ、前記複数個のスクリューロータ間の接触を防止するタイミングギヤ23A、23Bと、前記ケーシングに形成され前記流体移送室と連絡する流体の吸込口19A、19B及び吐出口20と、前記複数個の回転軸をそれぞれ独立して回転駆動する複数個のモータ13A、13Bと、前記複数個のモータを同期制御することにより、前記スクリューロータ及び前記ケーシングで形成される密閉空間の移動を利用して流体の吸入・吐出を行う、油を全く含まない清浄空気用の真空ポンプにおいて、該モータ13A、13Bの回転を検知するロータリーエンコーダ18A、18Bからの信号によって複数個のモータ13A、13Bの回転を電子制御により同期回転した、油を全く含まない清浄空気用の真空ポンプ。」

当審が通知した取消理由に引用した刊行物2(実願昭61-88657号(実開昭62-200188号)のマイクロフィルム)には、第5頁第11行〜第7頁第13行「第1図に示した本実施例に係るブロワは、従来と相違して各ロータ(1),(2)の軸端に個別にモータ(17),(18)を連結させて取付けるとともに、各モータ(17),(18)の軸外端にそれぞれの回転角度を検出する検出器(19),(20)を取付けている。そのため各口一夕(1),(2)は独立して回転するため従来のようなギヤを必要とせず、ひいてはギヤオイルが不要となって、ギヤオイルのケーシング(3)側への漏れを防止するオイルシールも不要となる。このようにギヤが不要となることから、本実施例ではギヤケースに替えて、閉止坂(21)によって内部保護を図っている。一方、検出器(19),(20)はモータケース(13)の端面を境界とした外側に取付けてあり、これら検出器(19),(20)は、カバー(22)をモータケース(13)端面に取付けて保護されている。
以上の構成からも明らかなように、本実施例に係るブロワはギヤ、ギヤオイル及びオイルシールがないためブロワの定期点検の回数を少なくすることができる。そしてギヤに頼っていたロータ(1),(2)の回転は独立したそれぞれのモータ(17),(18)に依存しているため、これらモータ(17),(18)の同期をとる必要がある。この同期をとる役割を果たすものが検出器(19),(20)である。つまり、各検出器(17),(18)の検出値は、第2図の構成図にも示したように、比較器(23)に送信され、各信号を受けた比較器(23)は両検出値を比較して、両者間に偏差があれば、これを一方のモータ、本実施例ではモータ(17)に送信してこのモータ(17)の回転数を他方のモータ(18)の回転数に同期させるように補正する。これを第3図に基づいて具体的に説明すると、一方のロータ(2)が矢示B方向に回転すると他方のロータ(1)は矢示C方向に回転することになる。するとある時点でロータ(2)のD1点とロータ(1)のD2点とが一致しているとこれに続くロータ(2)のE1点とロータ(1)のE2点とも一致することになるはずであるが、このとき角度Δθだけロータ(1)が遅れていると仮定すれば、この遅れΔθを検出器(19),(20)からの受信信号に基づいて比較器(23)によって算出して、この角度Δθだけロータ(1)を進ませるように比較器(23)が指令を出して両ロータ(1),(2)を同期させるよう補正をする。」と記載されており、この記載と第1、3図の記載によれば、刊行物2には、以下のとおりの技術が記載されているものと認められる。
a.モータ17、18をロータ1、2に対して軸4、5の同一側の位置に並列配置する技術。
b.モータの固定子であるモータステータをモータケース13(ハウジングに相当する)内に収納し、かつ前記モータステータの外径はロータ1、2の外径よりも径小とする技術。

刊行物3(米国特許第4,747,762号明細書)には、第3欄第12〜17行「The shafts 16 and 22 are constrained to rotate in a 1:1 relationship in opposite directions by means of intermeshing gears 28 and 30 mounted on the shafts 16 and 22 respectively. In the illustrated arrangement the gears 28 and 30 are within the casing and are bolted or screwed to the respective rotors 8 and 10.」、第5欄第19〜23行「In the embodiment shown in FIGS.8 and 9,the first rotor 8 is molded integrally with gear 28 as a unitary molding of a suitable plastics. The second rotor 10 is likewise molded integrally with gear 30 as a unitary molding of a suitable plastics.」と記載されており、これらの記載、及び第2、7、8図の記載によれば、刊行物3には、ギヤ28、30をロータ8、10に直接締結して、作動室6内に配置する技術が記載されているものと認められる。

当審が通知した取消理由に引用した刊行物4(特開平1-277698号公報)には、第2頁右下欄第1〜8行「上記ターボ分子ポンプ1は、本体ケーシング2内に配置したモータ3によってロータシャフト4を回転駆動し、これによってターボ翼5を回転駆動し、吸気口6からの吸気を排気口7から排気する構造のものである。上記ロータシャフト4は、その上下両部において磁気軸受8、9によって径方向支持がなされており、下端部近傍に設けた磁気軸受10によって軸方向支持がなされている。」と記載されており、この記載と第1図の記載によれば、刊行物4には、以下のとおりの技術が記載されているものと認められる。
a.ロータシャフト4の端部にロータを締結するとともに、ロータシャフト4を片持ち支持構造とする技術。
b.ロータの内面において、ケーシング2とロータシャフト4との間に、このロータシャフト4を支持する軸受けの一部を設ける技術。

当審が通知した取消理由に引用した刊行物5(特開平2-283890号公報)には、第2頁左下欄第3〜7行「主軸1及び従軸2の右側の自由端側には樹脂で製造された右螺旋のスクリューロータ4と左螺旋のスクリューロータ5がキー6,7を介してナット14により締付け固定されている。」と記載されており、この記載と第1図の記載によれば、刊行物5には、主軸1、従軸2の端部にスクリューロータ4、5を締結するとともに、両軸を片持ち支持構造とする技術が記載されているものと認められる。

当審が通知した取消理由に引用した刊行物6(日本真空協会 昭和62年2月研究例会 主題『ドライ真空ポンプの現状と将来』 予稿集(昭和62年2月27日)、p.25-31)の「4-2.排気原理」の項、及び図5、6の記載によれば、刊行物6には、真空ポンプを、ねじ溝式とする技術が記載されているものと認められる。

当審が通知した取消理由に引用した刊行物7(特開平2-283898号公報)には、第2頁左上欄第15行〜同頁右上欄第12行「回転筒A4の回転軸A9は、軸受10、軸受11で支持されている。また、前記回転軸A9には、モータの回転子12が設けられ、該回転子12対向面には、ベース13に組み込まれた固定子14が、設置されている。回転軸B15も回転軸A9と同様に、軸受16、軸受17(図略)で支持されているが、回転筒B7側にはモータを備えていない。回転軸A9の下端には、ギヤA18を装着し、回転軸B15下端にはギヤC22を介して、ギヤA18と同方向、同回転数となるギヤB19を装着している。静止筒1の上端開口部は、吸込口20で、この先に排気すべき装置が接続し、気体は、吸込口20より下方に押出され吐出口21より排気される。上記構成の分子ポンプにおいて、まず、吐出口21に油回転ポンプ等の補助ポンプを接続して駆動し、ねじ溝分子ポンプ本体内の圧力が、分子流領域になるまで粗引きした後、本体を駆動する。」と記載されており、この記載と第1、5図の記載によれば、刊行物5には、以下のとおりの技術が記載されているものと認められる。
a.回転軸A9の端部に回転筒A4を締結するとともに、回転軸A9を片持ち支持構造とする技術。
b.回転筒A4の内面において、ベース13と回転軸A9との間に、この回転軸A9を支持する軸受11を設ける技術。
c.真空ポンプをねじ溝式とする技術。

ウ.請求項7に関して
本件請求項7に係る発明と、上記刊行物1記載の発明とを対比すると、上記刊行物1記載の発明における「ケーシング8」、「スクリューロータ11A、11B、12A、12B」、「回転軸10A、10B」、「タイミングギヤ23A、23B」、「吸込口19A、19B」、「モータ13A、13Bの回転を検知するロータリーエンコーダ18A、18B」、「同期回転」は、それぞれ本件請求項7に係る発明における「ハウジング」、「ロータ」、「軸」、「接触防止ギヤ」、「吸気口」、「モータの回転を検知する検出手段」、「同期運転」に相当する。また、真空ポンプの技術分野において、一般に「ドライ」という用語は、油等のシールあるいは潤滑用の液を用いないことを意味することは周知である。そして、刊行物1の第4頁右上欄第20行〜同頁左下欄第1行に「油を全く含まない清浄空気の圧縮が可能となる。」の記載からみて、刊行物1記載の発明においても、油等のシールあるいは潤滑用の液を用いていないことは、当業者にとって明らかである。してみると、刊行物1記載の発明における「油を全く含まない清浄空気用の真空ポンプ」は、本件請求項7に係る発明における「ドライ真空ポンプ」に相当する。
したがって、本件請求項7に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、「ハウジング内に収納された複数個のロータ及びこれらのロータのそれぞれに締結された複数個の軸と、これらの軸の回転を支持する軸受と、前記ロータと前記ハウジングにより形成される流体移送室と、前記複数個の軸にそれぞれ設けられ、前記複数個のロータ間の接触を防止する接触防止ギヤと、前記ハウジングに形成され前記流体移送室と連絡する流体の吸気口及び吐出口と、前記複数個の軸をそれぞれ独立して回転駆動する複数個のモータと、前記複数個のモータを同期制御することにより、前記ロータ及び前記ハウジングで形成される密閉空間の移動を利用して流体の吸入・吐出を行うドライ真空ポンプにおいて、モータの回転を検知する検出手段と、この検出手段からの信号によって複数個のモータの回転を電子制御により同期運転したドライ真空ポンプ。」である点で一致し、本件請求項7に係る発明では、前記複数個のモータが「前記ロータに対して前記軸の同一側の位置に並列配置され」ているのに対し、上記刊行物1記載の発明では、複数個のモータは、そのように配置されていない点で相違する。
この相違点について検討すると、上記刊行物2には、モータ17、18をロータ1、2に対して軸4、5の同一側の位置に並列配置する技術が記載されている。そして、上記刊行物1に記載される発明と上記刊行物2に記載される技術とは、回転式気体ポンプという同一の技術分野に属するものであるから、上記刊行物1に記載される発明に上記刊行物2に記載される技術を適用して、本件請求項7に係る発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項7に係る発明は上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

エ.請求項1に関して
本件請求項1に係る発明は、本件請求項7に係る発明の上位概念に相当するので、上記「ウ.請求項7に関して」の項で検討した理由と同様の理由で、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

オ.請求項2に関して
本件請求項2に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、「ウ.請求項7に関して」において検討した相違点の他、本件請求項2に係る発明において、接触防止ギヤが複数個のロータのそれぞれに直接締結されて、流体移送室に配置されているのに対し、上記刊行物1記載の発明では、複数個のスクリューロータ間の接触を防止するタイミングギヤ23A、23Bは、流体移送室には配置されていない点で相違する。
この相違点について検討すると、上記刊行物3には、ギヤ28、30をロータ8、10に直接締結して、作動室6内に配置する技術が記載されている。そして、上記刊行物1に記載される発明と上記刊行物3に記載される技術とは、回転式流体機械という同一の技術分野に属するものであるから、上記刊行物1に記載される発明に上記刊行物3に記載される技術を適用して、本件請求項2に係る発明の上記相違点のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項2に係る発明は上記刊行物1、2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

カ.請求項3に関して
本件請求項3に係る発明における「軸は片持ち支持構造である」構成は、本件特許公報第5欄第28〜30行「また前記ロータを回転軸の端面で締結し、かつこのロータの吸気口側に軸受(前記回転軸の支持部)を有しない片持ち構造にすれば、ポンプ内で移送される気体が軸受部に晒されないため、クリーン排気ができポンプのドライ化が容易となる。」の記載によれば、ロータの吸気口側に軸受を有しない構成を意味しているものと認められる。
そして、本件請求項3に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、「ウ.請求項7に関して」において検討した相違点の他、本件請求項3に係る発明において、流体移送室内で軸の端部にロータが締結されており、かつ前記軸は片持ち支持構造であるのに対し、上記刊行物1記載の発明では、回転軸10A、10Bは、片持ち支持構造ではない点で相違する。この相違点について検討すると、上記刊行物4、5、7には、流体移送室内で軸の端部にロータを締結するとともに、前記軸を片持ち支持構造とする技術が記載されている。そして、上記刊行物1に記載される発明と上記刊行物4、5、7に記載される技術とは、真空ポンプという同一の技術分野に属するものであるから、上記刊行物1に記載される発明に上記刊行物4、5、7に記載される技術を適用して、本件請求項3に係る発明の上記相違点のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項3に係る発明は上記刊行物1、2、4、5、7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

キ.請求項4に関して
本件請求項4に係る発明における「複数個のモータはロータに対して概略同一位置に配置され」る構成は、本件公報第9欄第30〜32行「各モータを各ロータに対して同一位置に配置すれば、いずれの回転軸も軸長を同一にしてかつ短く出来るため高速化に有利となる。」の記載、及び第1図の記載によれば、複数個のモータと各モータに対応するロータとの相対的位置関係を概略同一とする構成を意味しているものと認められる。
そして、本件請求項4に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、「ウ.請求項7に関して」において検討した相違点の他、本件請求項4に係る発明において、複数個のモータはロータに対して概略同一位置に配置されているのに対し、上記刊行物1記載の発明では、複数個のモータは、そのように配置されているかどうか明らかでない点で相違する。
この相違点について検討すると、上記刊行物2には、モータ17、18をロータ1、2に対して軸4、5の同一側の位置に並列配置する技術、換言すれば、2個のモータ17、18をロータ1、2に対して概略同一位置に配置する技術が記載されている。そして、上記刊行物1に記載される発明と上記刊行物2に記載される技術とは、回転式気体ポンプという同一の技術分野に属するものであるから、上記刊行物1に記載される発明に上記刊行物2に記載される技術を適用して、本件請求項4に係る発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項4に係る発明は上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ク.請求項5に関して
本件請求項5に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、「ウ.請求項7に関して」において検討した相違点の他、本件請求項5に係る発明において、モータの固定子であるモータステータがハウジング内に収納されて、かつ前記モータステータの外径はロータの外径よりも径小であるのに対し、上記刊行物1記載の発明では、そのようには構成されていない点で相違する。
この相違点について検討すると、上記刊行物2には、モータの固定子であるモータステータをハウジング内に収納し、かつ前記モータステータの外径はロータの外径よりも径小とする技術が記載されている。そして、上記刊行物1に記載される発明と上記刊行物2に記載される技術とは、回転式気体ポンプという同一の技術分野に属するものであるから、上記刊行物1に記載される発明に上記刊行物2に記載される技術を適用して、本件請求項5に係る発明の上記相違点のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項5に係る発明は上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ケ.請求項6に関して
本件請求項6に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、「ウ.請求項7に関して」において検討した相違点の他、本件請求項6に係る発明において、ロータの内面において、ハウジングと軸との間にこの軸を支持する軸受けの一部が設けられているのに対し、上記刊行物1記載の発明では、軸受9は、そのように配置されていない点で相違する。
この相違点について検討すると、上記刊行物4、7には、ロータの内面において、ハウジングと軸との間にこの軸を支持する軸受けの一部を設ける技術が記載されている。そして、上記刊行物1に記載される発明と上記刊行物4、7に記載される技術とは、真空ポンプという同一の技術分野に属するものであるから、上記刊行物1に記載される発明に上記刊行物4、7に記載される技術を適用して、本件請求項6に係る発明の上記相違点のように構成することは、当業者が容易に想到しうることであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項6に係る発明は上記刊行物1、2、4、7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

コ.請求項8に関して
本件請求項8に係る発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、「ウ.請求項7に関して」において検討した相違点の他、本件請求項8に係る発明において、真空ポンプはねじ溝式であるのに対し、上記刊行物1記載の発明では、スクリュー式であり、ねじ溝式と認められるものの、表現上で相違する。この点についてさらに検討するに、上記刊行物6、7には、真空ポンプを、ねじ溝式とする技術が明記されているので、上記刊行物1に記載される発明における真空ポンプをねじ溝式とすることは、当業者が設計において適宜行う程度のことであり、それによる効果も格別のものとはいえない。
したがって、本件請求項8に係る発明は上記刊行物1、2、6、7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

サ.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1〜8に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
真空ポンプ
(57)【特許請求の範囲】
(1)ハウジング内に収納された複数個のロータ及びこれらのロータのそれぞれに締結された複数個の軸と、これらの軸の回転を支持する軸受と、前記ロータと前記ハウジングにより形成される流体移送室と、前記複数個の軸にそれぞれ設けられ、前記複数個のロータ間の接触を防止する接触防止ギヤと、前記ハウジングに形成され前記流体移送室と連絡する流体の吸気口及び吐出口と、前記ロータに対して前記軸の同一側の位置に並列配置され、かつ前記複数個の軸をそれぞれ独立して回転駆動する複数個のモータと、前記複数個のモータを同期制御することにより、前記ロータ及び前記ハウジングで形成される密閉空間の移動を利用して流体の吸入・吐出を行うことを特徴としたドライ真空ポンプ。
(2)接触防止ギヤが前記複数個のロータのそれぞれに直接締結されて、前記流体移送室に配置されていることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(3)流体移送室内で前記軸の端部に前記ロータが締結されており、かつ前記軸は片持ち支持構造であることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(4)複数個のモータはロータに対して概略同一位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(5)複数個のモータの固定子であるモータステータがハウジング内に収納されて、かつ前記モータステータの外径はロータの外径よりも径小であることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(6)ロータの内面において、ハウジングと前記軸の間にこの軸を支持する軸受の一部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(7)モータの回転を検知する検出手段と、この検出手段からの信号によって複数個のモータの回転を電子制御により同期運転したことを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
(8)真空ポンプは、ねじ溝式であることを特徴とする請求項1記載のドライ真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、半導体製造設備等に用いられるドライ真空ポンプに関するものである。
従来の技術
半導体の製造プロセスにおけるCVD装置、ドライエッチング装置、スパッタ装置などには、真空環境を作り出すための真空ポンプが不可欠である。この真空ポンプに対する要望は、半導体プロセスの高集積化、微細化に対応するため、近年ますます高度になってきており、その主な内容は、高い真空到達圧が得られること、クリーンであること、メンテナンスが容易なこと、小型・コンパクトであること等である。以上の半導体設備の真空排気系の要請に応えるため、従来から用いられていた油回転ポンプに代わり、より清浄な真空を得ることを目的として、粗引き用のドライ真空ポンプが広く用いられるようになっている。
第11図は、従来の容積型真空ポンプ(粗引きポンプ)の一種であるねじ溝式(スクリュー式の一種)のドライ真空ポンプを示すものである。同図において、101はハウジング、102は第1回転軸、103は第2回転軸、104と105はそれぞれ回転軸102、103に締結された筒型ロータである。この真空ポンプは、ハウジング101内に第1回転軸102と第2回転軸103が平行に配置され、その軸上に前記ロータ104と105を備えている。それぞれのロータ104と105の外周部には、ねじ溝106と107が形成されていて、自ら(106または107)の凹部(溝)を相手(107または106)の凸部(山)と噛み合わせることにより、両者の間で密閉空間を作り出している。ロータ104と105が回転すると、その回転に伴い、前記密閉空間が吸入側から吐出側へ移動して吸入作用と吐出作用を行うのである。
さて、同図のねじ溝式の真空ポンプでは、2個のロータ104、105の同期回転はタイミングギヤ110a、110bの働きによっている。すなわち、モータ108の回転は、駆動ギヤ109aから中間ギヤ109bに伝達され、両ロータ104、105の軸に設けられて互いに噛み合っているタイミングギヤの一方110bに伝達される。両ロータ104、105の回転角の位相は、これら2個のタイミングギヤ110a、110bの噛み合いにより調節されている。また113a、b及び114a、bは、第1回転軸102、第2回転軸103を支持するころがり軸受である。
駆動ギヤ109bの端部にはオイルポンプ115が組み込まれている。潤滑のためのオイル117は、ポンプ最下部のオイルパン116からオイルポンプ115により吸い込まれ、オイルフィルターを経由して、前記軸受と前記ギヤに供給されている。このオイルがねじ溝ロータ104、105を収納する流体移送室120に侵入しないように、両室間にメカニカルシールが設けられている。
発明が解決しようとする課題
しかしながら前述した粗引き用のドライ真空ポンプには、▲1▼動力伝達と同期回転のために多数のギヤを必要とし、部品点数が多く構成が複雑である。▲2▼ギヤを用いた接触型の同期回転であるため、モータの高速化ができず、装置が大型化する、等の問題があった。
近年の半導体プロセスの複合化に伴い、複数個の真空チャンバーを独立させて真空排気する、いわゆるマルチチャンバー方式が半導体加工設備の主流を占めるようになっている。このマルチチャンバー化に対応するためには、チャンバー1つ1つにドライ真空ポンプを中心に据えた真空排気システムを必要とする。しかしこのような真空排気システムをすべてのチャンバーに対して適用すると、真空排気系の装置全体が大型化・複雑化してしまうという問題点があった。
半導体工場では、通常1ライン当たりに200〜300台の真空ポンプを必要とする。
昨今のドライ化の要請に応えるために、従来の油回転ポンプと比べて、寸法・形状が大型化したドライ真空ポンプを採用した場合、新工場全体での設置スペースの増大が大きな課題となった。
また新工場にドライ真空ポンプを採用するのではなく、従来の工場現場でのメンテナンス性を改善するために、以前から用いていた油ポンプをドライポンプに置き換えようとした場合、従来の油ポンプ用に設計された設備では、ドライ真空ポンプは搭載できないという問題が生じた。
これらの要請に応えるために、本発明は、構成がシンプルで、クリーンかつ高い基本性能を持つと共に、大幅な小型化・省スペース化が図れる真空ポンプを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
上記目的を達成するため、この発明にかかるドライ真空ポンプは、ハウジング内に収納された複数個のロータ及びこれらのロータのそれぞれに締結された複数個の軸と、これらの軸の回転を支持する軸受と、前記ロータと前記ハウジングにより形成される流体移送室と、前記複数個の軸にそれぞれ設けられ、前記複数個のロータ間の接触を防止する接触防止ギヤと、前記ハウジングに形成され前記流体移送室と連絡する流体の吸気口及び吐出口と、前記ロータに対して前記軸の同一側の位置に並列配置され、かつ前記複数個の軸をそれぞれ独立して回転駆動する複数個のモータと、前記複数個のモータを同期制御することにより、前記ロータ及び前記ハウジングで形成される密閉空間の移動を利用して流体の吸入・吐出を行うものである。
作用
容積式ポンプを構成する各ロータを、それぞれ独立したモータで同期運転することにより、従来のタイミングギヤを用いたロータ間の大きなトルク伝達が不要となる。その結果、ポンプの高速化を妨げていた課題の一つが解消される。
さて真空ポンプの動力はトルクと回転数の積であり、回転数が上がるとトルクが小さくて済む。したがってポンプの高速化が図れれば、トルクの低減によりモータを小型化できる。さらに個々のロータ(気体を輸送するポンプ部分)を互いに独立したモータで駆動すれば、個々のモータに必要なトルクはさらに小さくなる。
ここで複数個のモータを用いた同期運転により、従来数千回転rpmが限界だったドライポンプの回転数を、たとえば1万〜数万rpmまで上げれば、前記モータの外径を前記ロータ(気体を輸送するポンプ部分)よりも径小にできることに着目する。この径小のモータを、前記複数個のロータの同一側(真下)に並列配置することにより、従来のモータの設置に必要だったスペースが不要となるため、真空ポンプ全体の大幅なコンパクト化とスペース化が可能となる。
また、接触防止ギヤを複数個の軸にそれぞれ設けているため、両軸の同期がずれた場合でも、ロータのネジ溝同士の接触に先立って、接触防止ギヤ同士が接触する事により、ロータのネジ溝同士の接触、衝突を防止できる。
また前記ロータを回転軸の端面で締結し、かつこのロータの吸気口側に軸受(前記回転軸の支持部)を有しない片持ち構造にすれば、ポンプ内で移送される気体が軸受部に晒されないため、クリーン排気ができポンプのドライ化が容易となる。
前記ロータの内面に位置する個所に、ラジアル軸受の一部が設けられた構造にすれば、片持ち支持におけるオーバーハングの距離が短くなるため、高速時の動的安定性はさらに向上する。
また各ロータの回転数、回転角を検知する検出手段を設け、この検出手段からの信号によって各ロータを電子制御を用いて非接触で同期回転させれば、従来のタイミングギヤを用いた機械的摺動を伴うトルク伝達が不要となる。その結果、オイル潤滑が必要だったタイミングギヤ部を省略できるため、さらなる高速化がはかれる。
上記電子制御を用いた非接触同期運転により、前記複数個のロータ間の接触を防止する接触防止ギヤを、ロータが収納されている流体移送室内でそれぞれのロータに直接締結すれば、回転軸の軸長を短くできるため、高速化を図る上で一層有利となる。
実施例
第1図は、この発明にかかる容積式ドライ真空ポンプ(粗引きポンプ)の一実施例を示す。
このドライ真空ポンプは、ハウジング1内に、第1回転軸2と第2回転軸3をそれぞれ鉛直方向に収納した第1軸受室4と第2軸受室5を備えている。また筒形のロータ6、7が、両回転軸2、3の上端部でかん合されている。ロータ6、7の外周面には、互いに噛み合うようにして、ねじ溝(スクリュー溝の一種)8、9が形成されている。ロータ6、7の上部(上流側)のハウジング1に吸気口10、下部(下流側)のハウジング1に吐出口11が設けられている。ロータ6、7に形成された両ねじ溝の互いに噛み合う部分である凸部(山部)と凹部(溝部)およびハウジング1で形成される空間(流体移送室50と呼ぶ)が、両回転軸2、3の回転に伴い吸気口10側から吐出口11側へ移動し、この空間の移動により、容積式ポンプとしての吸入・排気(吐出)作用が得られる。
第1回転軸2と第2回転軸3は、非接触の静圧軸受で支持されている。両回転軸に設けられた円盤状のスラスト軸受12、13と対向する固定側に、オリフィス14a、14b、15a、15bが設けられている。16、17は上部ラジアル軸受の回転側、18、19は下部ラジアル軸受の回転側である。前記スラスト軸受同様に、これらのラジアル軸受面と対向する固定側にも、それぞれにオリフィス20〜23が設けられている。
なお前記上部ラジアル軸受16及び17は、筒状に形成された前記ロータの内部空間を利用して配置されており、大きな慣性負荷を有する前記ロータ6、7を支持する上で有利な構成となっている。
上述したオリフィスには、外部から高圧の圧縮気体が吸気孔24を経て供給される。ここで圧縮気体として、半導体工場等で常備されているクリーンな窒素ガスを用いれば、前記モータ等が収納された前記第1、第2軸受室4、5に繋がる内部空間25、26内の圧力を大気圧よりも高くすることができる。そのため、腐食性があり堆積物を生じ易い反応性ガスの内部空間25、26内への侵入を防止することができる。
回転軸を支持する軸受は、前記静圧軸受以外では、たとえば磁気軸受でもよい。この場合でも、前記静圧軸受同様に高速回転が容易で、完全オイルフリーな構成となる。軸受に玉軸受を用いて、かつその潤滑のために潤滑油を用いる場合は、窒素ガスを用いたガスパージ機構により、前記流体作動室への潤滑油の侵入を防ぐことができる。
27a、28aはACサーボモータの回転軸であるモータロータ、27b、28bは固定側であるモータステータである。本真空ポンプでは、モータステータ27b、28bの外径:Dmをロータ6、7の外径:Drよりも十分小さくして、ロータ6、7の同一側(共に真下)に並列配置している。モータとロータを同軸上に配置したこの構成により、従来のドライ真空ポンプ(第11図)の場合と比べて、大幅な省スペース化が実現できる。
また実施例のドライ真空ポンプでは、各ロータ6、7の下端部に直結した形で、第2図に示すようなロータ同士の接触を防止するための接触防止ギヤ29、30が設けられている。この構成が可能なのは、実施例の真空ポンプでは非接触同期制御を用いるため、従来のドライポンプのようなタイミングギヤ部への油潤滑が不要であり、ギヤ部を流体移送室に配置できるからである。本構成により回転軸の軸長を短くできるため、高速化を図る上で一層有利となる。なおこの接触防止ギヤには、多少の金属間接触にも耐えられるように、固体潤滑膜が形成されている。
第1回転軸2、第2回転軸3は、ACサーボモータ27、28により、実施例では数万rpmの高速で回転する。両軸の回転信号は、前記吸気口側とは反対側の各回転軸2、3の下端部に設けられたロータリエンコーダ31、32により検出される。
さて本実施例における2つの回転軸の同期制御は、第3図のブロック図で示す方法を用いた。すなわち、ロータリエンコーダ31、32からの出力パルスは、仮想の回転ロータを想定して設定された設定司令パルス(目標値)と照合される。目標値と各エンコーダー31、32からの出力値(回転数、回転角度)との間の偏差は、位相差カウンターにより演算処理され、この偏差を消去するように各軸の前記サーボモータの回転が制御される。
ロータリエンコーダとしては、磁気式エンコーダや一般的な光学式エンコーダでもよいが、実施例ではレーザ光の回折・干渉を利用した高分解能でかつ高速の応答性を持つレーザ式エンコーダを用いた。第4図にそのレーザ式エンコーダの一例を示す。
同図において、91は多数のスリットが円周上に沿って形成された移動スリット盤であって、回転軸2、3とともに回転する。93は移動スリット盤91に対面する個所に配置された扇形の固定スリット盤である。レーザダイオード94から出たレーザ光は、コリメータレンズ95を経て、前記両スリット盤91、93の各スリットを通過して、受光素子96に受光される。
なお、実施例では、ロータ6、7は回転軸2、3の端面で締結されており、かつこのロータの吸気口側に軸受を有しない片持ち構造になっている。そのため吸気口10から流入した気体は、ポンプ外に吐出されるまで前記軸受部に晒されないため、ドライポンプとしてクリーン排気ができる。
慣性負荷の大きな前記ロータを端部に有する回転軸を、ドライ化のために片持ち支持したときの高速回転時の動的安定性(振れ回りに対する安定性)が懸念される。しかし本発明では、径小モータが回転軸にダイレクトにビルトインされた形で、回転軸を直接駆動できるため、動的安定性の点で有利である。すなわち実施例の真空ポンプは、互いに機械的に干渉しない2つの単軸スピンドルが並列に配置されたものと考えてよく、従来の単軸で片持ち支持構造のターボ分子ポンプが数万回転の高速化を図ることができるように、基本的に高速化に有利である。
なお、実施例の真空ポンプでは、ロータの外周部にねじ溝を備えたスクリュー式の一種であるねじ溝式を採用した。ねじ溝型ロータは、回転中心軸に垂直な断面が比較的円形に近く、外周部の近くまで空洞にすることができ、そのためロータの内部空間が大きくとれる。この内部空間を実施例のごとく軸受部を収納する等の利用をすれば、片持ち支持構造であっても回転軸の軸長を短くできるためポンプの高速化に有利となる。すなわち複数モータによる同期制御の特徴(高速化)を活かし、かつクリーン化を図る上で有利な構成となる。
接触防止ギヤ29、30の互いに噛み合う部分の隙間(バックラッシュ)δ2は、両ロータ6、7に形成されたねじ溝8、9同士が噛み合う部分の隙間(バックラッシュ)δ1よりも小さくなるように設計されている。そのため、接触防止ギヤ29、30は、両回転軸2、3の同期回転が円滑に行われているときは互いに接触することはない。万一、この同期がずれたときは、ねじ溝8、9同士の接触に先立って、ギヤ29、30同士が接触することにより、ねじ溝8、9の接触・衝突を防止する働きをする。このとき、バックラッシュδ1、δ2が微小であると、部材の加工精度が実用的なレベルで得られないという点が懸念される。しかし、ポンプの一行程中の流体の漏れ総量は、ポンプの一行程に要する時間に比例するため、非接触同期制御により高速回転が図れる実施例の真空ポンプでは、ねじ溝8、9間のバックラッシュδ1を少々大きくしても充分に真空ポンプの性能(到達真空圧など)を維持できる。そのため、実用レベルの通常の加工精度で、ねじ溝8、9の衝突防止に必要なバックラッシュδ1、δ2の寸法を確保できる。
第5図は、この発明にかかるドライ真空ポンプの別形態を示す。この例では、ロータ外周面に形成されたねじ溝60、61が互いに噛み合うように、2個のロータ62、63が配置されて、ねじ溝60、61とハウジング64により容積式真空ポンプ構造部分Aを構成している。
また、ロータ62の同軸上で、前記容積式真空ポンプ構造部分Aから離れた上流側のロータ外周面に、ねじ溝65が形成されており、このねじ溝65とハウジング64により、運動量移送式構造部分Bを構成している。ねじ溝65とハウジング64の微小な間隙部にある気体分子は、ロータ62の高速回転により回転運動量を与えられて、前記構造部分Aに輸送される。
前記運動量移送式構造部分Bに形成したねじ溝65の代わりに、タービン翼を形成しハウジング1の内周部にも形成したタービン翼と噛み合う構成でもよい。真空ポンプを上述したように構成すれば、真空圧の作動領域をさらに広げることができる。
本発明は流体回転装置として、たとえば、空調用のコンプレッサ等にも適用できる。また回転部のロータ200の形態としては、ルーツ型(第6図)、歯車型(第7図)、単ローベ型(第8図(a))、複ローベ型(第8図(b))、ネジ型(第9図)、外円周ピストン型(第10図)等であってもよい。
発明の効果
容積式真空ポンプを構成する各ロータを、それぞれ独立したモータで高速同期運転させる。モータの高速化(たとえば1万rpm以上)を図れば、同一動力のままでモータの外径を径小化できることに注目し、ロータに対して同一軸(各ロータの真下)に各モータを並列配置する。その結果、大幅な省スペース化(たとえば従来比1/2以下)を図った容積式真空ポンプが実現できる。
従来の真空ポンプ(第11図)の場合、回転数はせいぜい数千rpmの低速回転のために、モータの外径:Dmは各ロータの外径:Drよりもはるかに大きく、たとえモータを2個用いても、各ロータの同一方向(共に真下)にモータを配置することは困難であった。本発明では、従来必要だったモータの設置スペースが不要となり、ポンプ本体の大幅なコンパクト化が図れる。
また、接触防止ギヤを複数個の軸にそれぞれ設けているため、両軸の同期がずれた場合でも、ロータのネジ溝同士の接触に先立って、接触防止ギヤ同士が接触する事により、ロータのネジ溝同士の接触、衝突を防止できる。
また前記ロータを流体移送室内で回転軸の端面で締結し、かつこのロータの吸気口側に軸受を有しない片持ち構造にすれば、吸入口から流入した気体がポンプ外に吐出されるまで軸受に晒されないため、クリーン排気ができポンプのドライ化が容易となる。
さらに以下述べるような工夫を施せば、真空ポンプのさらなる高速化が図れる。各モータを各ロータに対して同一位置に配置すれば、いずれの回転軸も軸長を同一にしてかつ短く出来るため高速化に有利となる。
前記ロータの内面に位置する個所に、ラジアル軸受の一部が設けられた構造にすれば、片持ち支持におけるオーバーハング(支持点とロータ重心までの距離)が短くなるため、高速時の動的安定性はさらに向上する。
また各ロータの回転数、回転角を検知する検出手段を設け、この検出手段からの信号によって各ロータを電子制御を用いて非接触で同期運転させれば、従来のタイミングギヤを用いた機械的摺動を伴うトルク伝達が不要となる。その結果、オイル潤滑が必要だったタイミングギヤ部を省略できるため、さらなる高速化がはかれる。
この場合、ロータ間の接触を防止する接触防止ギヤの油潤滑が不要であることを利用して、前記ロータが収納されている流体移送室内で、上記ギヤをそれぞれのロータに直接締結する。従来真空ポンプ(第11図)のように、タイミングギヤを各ロータと分離して配置した場合、前記ギヤと回転軸の締結強度を得るために、ギヤの厚み:hを十分に大きくとらねばならないが、本真空ポンプでは必要最低限の厚み(第1図bのh)でよい。その効果として回転軸の軸長を短くできるため、高速化を図る上で一層有利となる。
本発明によって前記ロータの高速化が図れる効果は、ポンプ本体のコンパクト化だけではない。ポンプ内部の気体の内部リークの大きさは、ポンプの一行程に要する時間に比例する。回転数が高い程、一行程に要する時間が短くなるために内部リークによる損失が低減する。すなわち本発明の適用によりコンパクト化の特徴に加えて、真空ポンプの基本性能(真空到達圧等)の飛躍的な向上が図れるのである。
この発明を適用する真空ポンプとして、ロータの外周部にねじ溝を備えたものにすると、ねじ溝型ロータは、ギヤ型、ルーツ型、ローべ型のような凹凸の振幅が大きい異形ロータとは異なり、回転中心軸に垂直な断面が比較的円形に近く、外周部の近くまで空洞にすることができる。そのため内部空間が大きくとれて、ここを実施例のごとく軸受部を収納する等の利用ができ、ポンプの高速化と小型化を大いに図ることができるようになる
【図面の簡単な説明】
第1図(a)はこの発明にかかる容積式ドライ真空ポンプの第1実施例を表す断面図、第1図(b)は第1実施例のハウジングの一部を切り開いてみた側面図、第2図は第1実施例に用いた接触防止ギヤの平面図、第3図は第1実施例に用いた電子式同期制御の方法を示すブロック図、第4図は第1実施例に用いたレーザ式エンコーダを示す斜視図、第5図は本発明の第2実施例を、ハウジングの一部を切り開いてみた側面図、第6図〜第10図はこの発明が適用できるポンプの別形態をしめす概略図、第11図は従来のドライ真空ポンプを示す側面図である。
1…ハウジング、2、3…軸、6、7…ロータ、10…吸気口、11…吐出口、27、28…モータ、50…流体移送室
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1〜8の「真空ポンプ」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「ドライ真空ポンプ」に訂正する。
(2)訂正事項b
上記訂正事項aに伴って、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明の記載を、特許請求の範囲の記載に整合させるために、明瞭でない記載の釈明を目的として、願書に添付した明細書の「真空ポンプ」(同公報第2頁左欄第9行、同第2頁右欄第38〜39行、同第3頁左欄第49行、同第3頁右欄第1行、同第3頁右欄第50行、同第4頁右欄第31行、同第5頁右欄第29行、及び同第5頁右欄第38行参照)を、「ドライ真空ポンプ」に訂正する。
異議決定日 2001-05-28 
出願番号 特願平2-332358
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (F04C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田良島 潔鈴木 貴雄藤井 眞吾  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 田村 嘉章
飯塚 直樹
登録日 1999-09-24 
登録番号 特許第2981512号(P2981512)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 飯田 房雄  
代理人 山田 行一  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 岩橋 文雄  
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