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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
管理番号 1053155
異議申立番号 異議2000-72310  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-06 
確定日 2001-10-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2986054号「濾過体」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2986054号の訂正後の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2986054号は、平成6年9月20日に特許出願され、平成11年10月1日にその特許の設定登録がなされ、その後、松本俊孝から特許異議の申立てがあり、取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成12年11月24日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
本件訂正請求書における訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1の「所要形状の成形型内に主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片と熱溶融繊維の裁断短片とを混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体。」を「所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体。」と訂正する。
訂正事項b:明細書の段落【0004】の「【課題を解決するための手段】前記のような課題を解決した本発明は、所要形状の成形型内に主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片と熱溶融繊維の裁断短片とを混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体である。」を「【課題を解決するための手段】前記のような課題を解決した本発明は、所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体である。」と訂正する。
訂正事項c:明細書の段落【0008】の「例えば振動下に供給して」を「振動下に供給して」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、活性炭繊維の裁断短片の長さを1〜3mm程度、熱溶融繊維の裁断短片の長さを1〜5mm程度、成形型内に混合充填される熱溶融繊維の裁断短片が無数であること、成形型内への混合充填の仕方を振動下に供給してに、それぞれ限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、各裁断片の長さについては本件明細書の段落【0006】に、振動下に供給することは同段落【0008】にそれぞれ記載され、成形型内に混合充填される熱溶融繊維の裁断短片が無数であることは文言上は記載されていないが、長さが1〜5mm程度の裁断短片であるから、無数成形型内に充填されることは明らかであるから、いずれも願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
上記訂正事項b〜cは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、減縮された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正事項a〜cは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体。」
(2)申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1ないし3号証を提出し、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは甲第1ないし3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号あるいは第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。
(3)甲第1ないし3号証の記載内容
甲第1号証(特開平6-106056号公報)には以下の事項が記載されている。
(a)「本発明は、以下の如き成形吸着体を提供するものである:「活性炭繊維及び熱溶融性合成樹脂を含み、活性炭繊維100重量部に対する熱溶融性合成樹脂の含有量が0.2重量部以上40重量部以下であって、活性炭繊維が熱溶融性合成樹脂によりランダムに接合保持されている抄紙構造を有する立体構造の一体的に成形された成形吸着体」本発明において、抄紙構造の吸着体とは、吸着体を構成する繊維が厚手の和紙の如くランダムに配置された構造であってかつ緻密な構造を有する吸着体をいう。」(段落【0016】)
(b)「立体構造の吸着体とは、シート状またはテープ状等の可撓性のある厚さ3mm以下の薄い吸着材以外の形状の吸着材をいう。具体的には、円柱状、角柱状、楕円柱状、円錐台状、角錐台状、ペレット状、直方体状、立方体状等の形状をしたものや、これらに孔を有する形状(例.前記柱状体の上下面に開□し該柱状体の中心軸を中心軸とする貫通孔を有する円筒状のもの)の吸着体をいう。」(段落【0017】)
(c)「一体的に成形された吸着体とは、シート状、テープ状等の吸着体を接着剤等を使用して積層して作った吸着体を排除するものであり、より具体的には立体構造の吸着体の全部または一部を一度に成形して得られたものをいう。」(段落【0018】)
(d)「本発明においては、活性炭繊維としては特に限定されず、吸着体の使用分野等に応じて適宣選択すればよいが、通常繊維直径2〜30μm程度、繊維長さ0.5〜10mm程度、…(中略)…熱溶融性合成樹脂としては、糸状(繊維状)のものを使用すると、活性炭の細孔を塞ぐことが少ないので、より好ましい。熱溶融性合成樹脂糸としては、糸径5〜100μm程度、長さ0.5〜10mm程度のものが好ましい。熱溶融性合成樹脂糸としては、成形吸着体製造時の加熱温度で溶融若しくは変質しない高融点繊維糸の表面に熱溶融性合成樹脂を被覆した構造のものを使用しても良い。」(段落【0020】〜【0021】)
(e)「本発明の成形吸着体は、以下の様にして製造される。まず、所定の割合で活性炭繊維及び熱溶融性合成樹脂を含有する均一な水性スラリーを調製する。…(中略)…スラリーの調製に際しては、必要に応じて常法に従って機械的分散ないし攪拌を行う。…(中略)…吸引成形は成形型をスラリー中に埋設することなく成形型にスラリーを供給して脱水することによって行うことも可能である。」(段落【0023】〜【0025】)
(f)「成形された湿潤状態の成形体は所望の脱水をして、次いで、成形体を使用する熱溶融性合成樹脂に応じた温度で加熱し、合成樹脂の溶融による成形体の一体化及び乾燥を行って、本発明の成形吸着体を得る。加熱温度は樹脂に接着性の出てくる温度、使用する樹脂によって変わるが軟化点より40〜60℃程度高い温度が好ましい。」(段落【0026】)
(g)「本発明の吸着体は、液相及び気相における固型分の濾過、微量不純物及び有害成分の吸着除去、有用成分の吸脱着による濃縮等に有効に使用される。より具体的には、浄水器におけるフィルターとして水道水からの鉄錆、悪臭物質、遊離塩素等の除去;空気清浄器及びエアコンディショナーにおけるフィルターとして煙、悪臭物質等の除去及び調湿;化学工場、クリーニング業等における溶剤回収;鉱物油及び植物油中の固型分の除去等の広範な分野で使用される。」(段落【0041】)
甲第2号証(実公平4-6808号公報)には以下の事項が記載されている。
(h)「濾過体本体1はポリプロピレン繊維を芯としてその周面にこれより低融点のポリエチレン被膜を形成した複合繊維を1〜10mm程度に裁断した無数の巻縮性の熱溶融性繊維チップと、活性炭粒子や触媒粒子等の濾過用粒子とを重量比で1:9乃至1:15程度の割合で成形型中においてよく混合して各濾過用粒子相互間に熱溶融性繊維チップを介在させ、若干圧縮をかけながら該熱溶融性繊維チップの少なくとも表面が溶融される程度まで加熱後冷却して充填密度が0.4〜0.7g/ccの硬質多孔質体となるよう融着固化させたものである」(第2頁第3欄第2〜12行)
甲第3号証(特開昭56-24151号公報)には以下の事項が記載されている。
(i)「化学的に漂白された木材パルプのセルロース繊維または綿リンターのような繊維材料から得られ、円柱棒状に造形される前に或は造形中にセルロース繊維に添加された液状含浸結合剤により或は粉末として、または繊維としての固体熱シール用結合剤によって相互に結合された繊維材料から得られた、例えばタバコフィルターとして使用されるフィルター栓を製造する方法は既知である。結合剤が熱シール性固体で、特に繊維により造られている場合には、円柱棒状に造形されたフィルターは結合剤の軟化帯域に対応し且つその完全に溶融する温度内の温度に加熱されて、その接着性を利用し、セルロース繊維の交さ個所で多数の結合区域が造られる。熱時に造られた繊維材内の繊維対繊維結合は冷却後フィルター構造物を固化し、その結果良好なコンパクトさをもつタバコフィルターを得ることができる。」(第2頁左下欄第4行〜右下欄第2行)
(j)「吸着材繊維として、少なくとも部分的に、セルロース繊維の長さ、直径と近似した長さと直径とをもつ活性炭素繊維も使用できる。」(第4頁右上欄第14〜16行)
(4)当審の判断
甲第1号証には、上記(a)、(g)より「繊維がランダムに配置されかつ緻密な構造を有する、立体構造の一体的に成形されたフィルター」が記載されていると云え、その製造法として上記(d)〜(f)より「長さ0.5〜10mm程度の活性炭繊維100重量部と長さ0.5〜10mm程度の熱溶融性合成樹脂繊維0.2重量部以上40重量部以下の割合で均一分散させた水性スラリーを調整し、成形型に供給して脱水し、樹脂に接着性の出てくる温度で加熱して、熱溶融性合成樹脂繊維の溶融による成形体の一体化を行う」ことが記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明と甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という)とを対比すると、甲1発明の「熱溶融性合成樹脂繊維」は本件訂正発明の「熱溶融繊維」に、同じく「均一分散」は「混合」、「供給」は「充填」、「成形体の一体化」は「主体に一体成形」、「フィルター」は「濾過体」に、それぞれ相当し、甲1発明の活性炭繊維は熱溶融性合成樹脂繊維 に比べて配合割合が大きいので主材と云え、そして、これらは長さ0.5〜10mm程度であるから無数供給されることは明らかである。また、甲1発明は熱溶融性合成樹脂繊維の溶融により活性炭繊維を接着して成形体の一体化を行うものであるから、熱溶融性合成樹脂繊維の少なくとも表面が溶融することは明らかである。また、上記摘記事項(b)より、甲1発明の成形型は成形すべき種々の形状の成形型であるから所要形状の成形型 と云え、更に、薄い形状のものは除外されており、成形型の成型用凹部はある程度の深さを有することは明らかであるから甲1発明の成形型に供給してとは成形型内に供給してと云える。よって、両者は「所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の短片とを混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の短片の表面に接着した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体」である点で一致し、以下の点で相違している。
(イ)本件訂正発明は活性炭繊維と熱溶融繊維の各短片が裁断により形成されているのに対し、甲第1号証には各短片の形成手段は記載されていない点。
(ロ)本件訂正発明は成形型内への混合充填手段として振動下に供給しているのに対し、甲第1号証は均一分散状態の水性スラリーで供給し、振動下に供給することは記載されていない点。
(ハ)本件訂正発明は活性炭繊維の短片がこれに混在する熱溶融性繊維の短片の表面に複雑に部分接着連繋して各短片相互間に微細な連通空隙部を形成しているのに対し、甲1発明は繊維がランダムに配置されかつ緻密な構造を有している点。
以下、上記相違点のうち相違点(ロ)に着目して検討する。
甲第2号証には、上記(h)より 、熱溶融性繊維チップと活性炭粒子とを成形型中で混合後加熱融着した濾過体は記載されていると云えるが、成形型内へ振動下に供給することは記載ないし示唆されていない。
甲第3号証には、上記(i)〜(j)より、熱シール性繊維で結合され、セルロース繊維の交さ個所で多数の結合区域が造られたフィルター構造物及び少なくとも部分的にセルロース繊維の長さと近似した長さをもつ活性炭素繊維が使用できることが記載されていると云えるが、成形型内へ振動下に供給することは記載ないし示唆されていない。
ところで、一般的に成形材料を振動を利用して成形型内へ供給することは本件出願前周知と認められる。しかしながら、本件訂正発明は、単なる成形材料ではなく、活性炭繊維短片と熱溶融繊維短片からなる2種類の特定形状の成形材料であり、かつ、一方の活性炭繊維は脆弱で折損しやすいものである。そして、本件訂正発明は、特定成形材料を振動下に供給する点により、脆弱な活性炭繊維が折損することなく2種類の繊維短片が混合され、2種類の繊維短片が的確に混じり合った濾過体が成形されるものと解される。この組み合わせたことによる作用効果は予期し得るものではないから、活性炭繊維短片と熱溶融繊維短片からなる2種類の特定形状の成形材料を振動下に供給することは当業者が容易に想到し得るものとすることができない。
なお、申立人は、甲第5号証の1(特開昭60-214908号公報)、甲第5号証の2(特開平4-363201号公報)、甲第5号証の3(特開昭62-201943号公報)、甲第6号証の1(特開昭54-117578号公報)、甲第6号証の2(特開昭54-133550号公報)、甲第6号証の3(特開平1-286814号公報)を引用して、振動下に供給することは周知であり適用可能であると主張しているが、甲第5号証の1〜3は成形材料を成形型に供給した後に振動させるものであり、甲第6号証の1はホッパーを振動させつつ結合材を含む粒状物を芯型上に供給するものであり、甲第6号証の2は押出成形等のホッパーを振動させるものであり、甲第6号証の3は射出成形のスクリュウを振動させるものであって、いずれも成形型内へ振動下に供給するものではなく、かつ、繊維短片からなる2種類の成形材料に適用できることも記載ないし示唆されていないから、この主張は採用することができない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明が、甲第1号証に記載された発明であるとすることができず、また、甲第1ないし3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
濾過体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は活性炭繊維を主材とする濾過体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
飲料水などの液体の濾過処理や空気清浄器用フィルタなど各種の流体濾過に用いる濾過体として、軽量なうえに表面積が大きく吸着性のよい活性炭繊維を主材として用いることは従来より知られているが、折損し易い活性炭繊維を濾過体とするには、特開平5-309218号公報に見られるように活性炭繊維を不織布に添わせて円筒状に巻き込んだり、特開平2-119909号公報に見られるように活性炭繊維を熱可塑性繊維とともに不織布としたうえ円筒状に巻き込んで加熱により溶融一体化している。
ところが、前記のような活性炭繊維を不織布に添わせて円筒状に巻き込んだもの或いは活性炭繊維を熱可塑性繊維とともに不織布としたうえ円筒状に巻き込んで加熱により溶融一体化したものは、何れも全体に占める活性炭繊維率がせいぜい7割程度しかならないため、濾過効率が不充分なうえに製造工程中或いは取扱中に活性炭繊維が折れてその裁断短片が落下し周囲を汚すなどの問題点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとするところは、前記のような課題を解決し、全体に占める活性炭繊維率を高めて濾過効率をよくするとともに製造工程中或いは取扱中に活性炭繊維が折れてその裁断短片が落下し周囲を汚すなどの問題のない活性炭繊維を主材とする濾過体を安価に提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記のような課題を解決した本発明は、所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体である。
【0005】
【実施例】
次に、本発明を図示の実施例について詳細に説明する。
1は筒状、柱状或いは厚板状その他所要の形状に一体成形されている濾過体の主体であって、この主体1は所要形状の成形型内に主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片2とこれに混在させる熱溶融繊維の裁断短片3とを混合充填したうえ前記熱溶融繊維の各裁断短片3の表面が溶融する温度に加熱することによってバインダとしての機能を発揮させ、活性炭繊維の裁断短片2と熱溶融繊維の裁断短片3の表面において両者を複雑に部分接着連繋させたうえ冷却して所要形状に成形後脱型して得られるものであるが、この一体成形した主体1には主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片2と混在する熱溶融繊維の裁断短片3が複雑に部分接着連繋されていることによって各裁断短片2、3相互間には微細な連通空隙部が形成されている。
【0006】
なお、この主体1の主材である活性炭繊維の裁断短片2は長い活性炭繊維を所定寸法に裁断したものでも取扱中に折損した折損屑でもよく、その長さは1〜3mm程度が適当であり、一方、混在する熱溶融繊維の裁断短片3は比較的低融点のポリオレフィン系繊維や、EVA系繊維の表層をこれより高融点の芯部にコーティングした複合繊維などの熱溶融繊維を所定寸法に裁断したもので、その長さは1〜5mm程度が適当である。また、活性炭繊維の裁断短片2と熱溶融繊維の裁断短片3の混合比は活性炭繊維の裁断短片2の比率が大きい程濾過効率がよいが、接着部位が少なくなると活性炭繊維の裁断短片2の脱落が生じるので、活性炭繊維の裁断短片2に対して熱溶融繊維の裁断短片3が3〜10容量%の範囲で混在されていることが好ましい。なお、図中4は主体1の表面に必要に応じ被装されるシート状またはネット状の仮包装材である。
【0007】
このように構成されたものは、主体1が軽量なうえに表面積が大きくて吸着性のよい無数の活性炭繊維の裁断短片2を主材としているうえにこの活性炭繊維の裁断短片2はこれに混在させた少量の熱溶融繊維の裁断短片3の表面をバインダとして部分接着連繋されて各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成したものであるから、そのまま濾過器に充填使用した場合でも優れた濾過性能を発揮できるものである。また、前記無数の活性炭繊維の裁断短片2は混在する熱溶融繊維の裁断短片3の表面に複雑に接着保持されているため、容易に脱落することがなく、長期耐用できるものである。しかも、所要形状に一体成形された主体1中に占める連通空隙部の占める比率は成形時に加圧するか否かにより或いは加圧の程度により任意のものとすることができるので、濾過抵抗を用途に応じたものとすることも容易である。
【0008】
そして、本発明に係る濾過体を得るには、要するに成形型内に活性炭繊維の裁断短片2とこれに混在させる熱溶融繊維の裁断短片3とを振動下に供給して混合充填し、これを熱溶融繊維の各裁断短片3の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することによって活性炭繊維の裁断短片2と熱溶融繊維の裁断短片3の接触する表面部分において両者を複雑に部分接着連繋させて一体化することにより所要形態の主体1として構成できるものであって、巻き込んだり貼り合わせるなどの後加工する必要もなく安価に量産できるという大きな利点があるものである。
【0009】
なお、活性炭繊維の裁断短片2の長さを1〜3mm程度と、これに混在される熱溶融繊維の裁断短片3の長さを1〜5mm程度としたものは、長い活性炭繊維を所定寸法に裁断したものでなく長い活性炭繊維を取扱中に折損により生じる折損屑の使用も可能となるので原料コストを低くできて安価に提供できる利点がある。
【0010】
【発明の効果】
本発明は前記実施例による説明から明らかなように、表面積が大きく吸着性のよい活性炭繊維の裁断短片を主材とし、これに混在させた少量の熱溶融繊維の裁断短片の表面に前記主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片が複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成したものとして所要形状の主体に一体成形されているため、活性炭繊維の特性が充分発揮される濾過体となり、軽量なうえに濾過効率がよいものとなる。しかも、活性炭繊維は裁断短片でああるから、折損分や屑相当品まで無駄なく利用できるために原料コストを比較的低くでき、また、製造工程中或いは取扱中に活性炭繊維が折れてその裁断短片が落下し周囲を汚すなどの問題の解決もできる。さらに、このような濾過体は所要形状の成形型内に主材とする活性炭繊維の裁断短片と少量の熱溶融繊維の裁断短片とを混和状態に充填し、これを熱溶融繊維の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより適宜の濾過器に対応する形状の主体とすることも容易にできるので、安価に提供できる利点がある。
従って、本発明は従来のこの種濾過体の問題点を解決した濾過体として、工業的価値極めて大なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の濾過体の実施例を示す一部切欠正面図である。
【符号の説明】
1 主体
2 活性炭繊維の裁断短片
3 熱溶融繊維の裁断短片
 
訂正の要旨 特許第2986054号の明細書を、
特許請求の範囲の減縮を目的として、
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1の「所要形状の成形型内に主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片と熱溶融繊維の裁断短片とを混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体。」を「所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体。」と訂正する。
明りょうでない記載の釈明を目的として、
訂正事項b:明細書の段落【0004】の「【課題を解決するための手段】前記のような課題を解決した本発明は、所要形状の成形型内に主材とする無数の活性炭繊維の裁断短片と熱溶融繊維の裁断短片とを混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体である。」を「【課題を解決するための手段】前記のような課題を解決した本発明は、所要形状の成形型内に主材とする長さ1〜3mm程度の無数の活性炭繊維の裁断短片と長さ1〜5mm程度の無数の熱溶融繊維の裁断短片とを振動下に供給して混合充填したうえ、前記熱溶融繊維の各裁断短片の少なくとも表面が溶融する温度に加熱することにより、前記無数の活性炭繊維の裁断短片がこれに混在する該熱溶融性繊維の裁断短片の表面に複雑に部分接着連繋して各裁断短片相互間に微細な連通空隙部を形成した主体に一体成形されていることを特徴とする濾過体である。」と訂正する。
訂正事項c:明細書の段落【0008】の「例えば振動下に供給して」を「振動下に供給して」と訂正する。
異議決定日 2001-09-14 
出願番号 特願平6-225145
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B01D)
P 1 651・ 121- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 西村 和美
野田 直人
登録日 1999-10-01 
登録番号 特許第2986054号(P2986054)
権利者 テヅカ工業株式会社
発明の名称 濾過体  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 山本 文夫  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 山本 文夫  

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