• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12P
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12P
管理番号 1053329
異議申立番号 異議2001-71783  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-22 
確定日 2002-01-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第3121046号「ビフィズス菌増殖促進物質及びその製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3121046号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3121046号の発明についての出願は、平成3年6月6日に出願され、平成12年10月20日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、須藤政彦より特許異議の申立がなされ、平成13年9月28日付けで取消の理由の通知がなされ、その指定期間内である平成10年12月10日に特許権者より意見書が提出されたものである。

2.特許異議申立についての判断
(1)申立の理由の概要
申立人 須藤政彦は、甲第1号証〜甲第7号証を提出し、本件請求項1及び3に係る発明は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、本件請求項1〜3に係る発明は甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、また、本件請求項1及び3に係る発明は甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第1〜甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1〜3に係る発明は甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、本件請求項1〜3に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
(2)本件発明
本件請求項1〜3に係る発明(以下、本件発明1〜3という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】 プロピオン酸菌又はエンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属のいずれかのひとつ以上に属する乳酸菌の培養上清液及び/又はその処理物を有効成分としてなることを特徴とするビフィズス菌増殖促進物質。
【請求項2】 プロピオン酸菌がプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属に属する微生物であることを特徴とする請求項1に記載のビフィズス菌増殖促進物質。
【請求項3】 プロピオン酸菌又はエンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属のいずれかのひとつ以上に属する乳酸菌を培養し、得られた培養物から培養上清液を得ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のビフィズス菌増殖促進物質の製造方法。
(3)甲各号証に記載された発明
特許異議申立人が証拠として提示した、本件出願前に頒布された刊行物である甲各号証には、それぞれ以下のような発明が記載されている。
甲第1号証:特開昭63-94938号公報
ビフィズス菌とスプレプトコッカス・ダイアセチラクティスとを同時に乳を主原料とする醗酵基質に接種し、醗酵させることが記載されている(特許請求の範囲第1項)。また、ビフィズス菌の培養に際し、スプレプトコッカス・ラクティス、スプレプトコッカス・ダイアセチラクティス、スプレプトコッカス・クレモリスの培養物を添加し、培養して醗酵乳を製造することが記載されている(実施例)。さらに、「ビフィズス菌醗酵乳に別に培養したスプレプトコッカス・ダイアセチラクティスを後添加し、醗酵すること」(特許請求の範囲第2項)、「スプレプトコッカス・ダイアセチラクティスとビフィズス菌とを醗酵乳中で共存させることにより、ビフィズス菌の醗酵乳中での生残性を向上させること」(特許請求の範囲第3項)が記載されている。
甲第2号証:特開平2-154638号公報
スプレプトコッカス・ダイアセチラクティスを含有するビフィズス菌醗酵乳を容器に充填し、密封することを特徴とする、ビフィズス菌の生残性の良いビフィズス菌醗酵乳の製造法、ビフィズス菌とスプレプトコッカス・ダイアセチラクティスとを共存させることにより、ビフィズス菌の醗酵乳中での生残性を改善すること、及び、ビフィズス菌醗酵乳の醗酵基質中にスプレプトコッカス・ダイアセチラクティスのスターターを添加し、醗酵することが記載されている。
甲第3号証:特開昭63-209542号公報
乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイ)とビフィドバクテリウム・ロンガム(ビフィズス菌)を混合培養するか、もしくは、各別に培養した培養物もしくはその処理物を混合することが記載されている。そして、乳酸菌の特定の菌株とビフィズス菌とを乳培地にて同時に醗酵させることにより、ビフィズス菌の生残率が向上することが記載されている(試験例1、2)。
甲第4号証:特公昭50-3397号公報
プロピオン酸菌の菌体からビフィズス菌の発育促進物質を抽出することを特徴とするビフィズス菌の発育促進物質の製造法、具体的には、プロピオン酸菌の菌体の懸濁液をpH5.5〜6.5の間で煮沸した後、15℃以下に冷却し、アセトン濃度約25容積%になる様にアセトンを加え、1〜2時間放置後、遠心分離して沈殿物及び菌体を除去し、得られた抽出液をそのまま、あるいは活性炭処理した後、塩酸でpH1.5〜2.5にした後、アセトン濃度85〜90容積%になる様にアセトンを加え、0〜10℃に放置し、得られた沈殿物を遠心分離で回収し、乾燥することにより、ビフィズス菌の発育促進物質を得ることが記載されており(特許請求の範囲第1項及び第2項)、プロピオン酸菌としてプロピオニバクテリウムを用いることが記載されている(実施例2)。また、菌体は、培地で培養した後、遠沈し、水洗した後、抽出処理することが記載されている(実施例1、2)。
甲第5号証:System.Appl.Microbiol.6,183-195(1985)
旧分類のスプレプトコッカス・ラクティス及び近縁スプレプトコッカスを新分類のラクトコッカス属に再分類することが記載されている。
甲第6号証:特開昭60-41449号公報
ビフィズス菌増殖促進因子に関し、生体外におけるビフィズス菌の増殖促進効果と生体内における効果を確認することは、通常の確認事項であることが示されている。すなわち、「生体内又は生体外におけるビフィドバクテリウム菌の増殖を促進する作用を有する物質としては従来多数のものが報告されており、…」と記載され、「人為的に飲食物や培養基等に含有させるビフィズス増殖因子としては、生体外におけるビフィドバクテリウム菌の培養のみに利用する場合はともかく、生体内においても確実且つ十分な効果が期待できるものであることが望ましく、かかる観点からよりすぐれたビフィズス増殖因子の開発が強く望まれていた。」と記載されている(1頁左下欄下2行〜右下欄20行)。
甲第7号証:フードケミカル6月号、「ガラクトオリゴ糖の機能と食品への応用」87-94頁(1987)
ある種の転移ガラクトオリゴ糖(TOS)が、他のビフィズス菌増殖性オリゴ糖と比べ、利用能においてビフィズス菌特異性が高いことが記載されている(90頁左欄1〜9行)。
(4)対比・判断
異議申立人の引用するいずれの甲号証にも、プロピオン酸菌又はエンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属のいずれかのひとつ以上に属する乳酸菌の培養上清液及び/又はその処理物をビフィズス菌増殖促進物質として用いることは記載されていない。
また、甲第1号証及び甲第2号証には、スプレプトコッカス・ダイアセチラクティスが、他の近縁の乳酸球菌であるスプレプトコッカス・クレモリスあるいはスプレプトコッカス・ラクティスと異なり、発酵乳中でのビフィズス菌の生残性を著しく改善することが記載され、この改善効果は、スプレプトコッカス・ダイアセチラクティスが乳を主原料とする醗酵基質中のクエン酸から脱炭酸反応によりダイアセチル及びアセトインを生成する能力を有し、これによって生じる二酸化炭素が発酵乳中の嫌気度を増し、ビフィズス菌の保護に効果があることによると考えられると記載されている(甲第1号証及び甲第2号証の2頁左上欄)。従って、スプレプトコッカス・ダイアセチラクティスの上記効果は、該菌が醗酵基質中にビフィズス菌と共存することにより生じるものであるから、甲第1号証及び甲第2号証の記載から、菌自体を含まない本件発明の菌の培養上清液及び/又はその処理物がビフィズス菌の増殖を促進する効果を有することが予測できたものとはいえない。
甲第3号証には、ラクトバチルス・カゼイの特定の菌株が従来の乳酸菌に比較してビフィズス菌の生残率を著しく高めることができることが記載されているが、当該特定の菌株は本件発明の菌とは異なるものである。従って、甲第3号証は、本件発明で用いている菌の由来物がビフィズス菌の増殖を促進する効果を有することを示唆しない。
甲第4号証には、プロピオン酸菌の菌体からビフィズス菌の発育促進物質を抽出することが記載されているが、当該発育促進物質は、培養後、培地から分離され、水洗した後の菌体から抽出処理されて得られたものであるから、甲第4号証は、プロピオン酸菌の培養上清液にもビフィズス菌の増殖を促進する物質が含まれることを示唆するものではない。
また、甲第5号証〜甲第7号証には、特定の菌の培養上清液がビフィズス菌の増殖を促進することに関連する記載は認められないから、異議申立人の引用するいずれの甲号証の記載事項を組み合わせてみても、本件発明の特定の菌の培養上清液及び/又はその処理物がビフィズス菌増殖促進効果を有することが容易に予測できたものとは認められない。
そして、本件発明の上記培養上清液は、本件明細書に記載された実験結果等に具体的に示されているように、ビフィズス菌に対して特異的な増殖促進効果を有するものであり、また、特許権者が乙第1号証として平成13年12月10日に提出した実験報告書によれば、本件発明の一態様であるラクトコッカス属の菌の培養上清液は、上記菌の菌体を含む培養物を用いる場合では奏することのないビフィズス菌増殖促進効果を奏するものであることが認められる。
従って、本件発明1〜3は上記甲各号証刊行物に記載された発明とはいえないし、上記甲各号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-01-04 
出願番号 特願平3-160854
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C12P)
P 1 651・ 121- Y (C12P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 北村 弘樹  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 大高 とし子
斎藤 真由美
登録日 2000-10-20 
登録番号 特許第3121046号(P3121046)
権利者 明治乳業株式会社
発明の名称 ビフィズス菌増殖促進物質及びその製造方法  
代理人 戸田 親男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ