• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
審判 全部申し立て その他  G03F
管理番号 1053374
異議申立番号 異議2001-72639  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-26 
確定日 2002-02-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3150306号「還元及び酸化電位を有する求核アミン化合物を含む洗浄剤組成物およびこれを使用した基板の洗浄方法」の請求項1ないし25に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3150306号の請求項1ないし25に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3150306号は、平成5年7月9日(パリ条約による優先権主張1992年7月9日および1993年6月21日、アメリカ合衆国、)に出願した特願平5-193940号出願の一部を新たな特許出願として出願され、平成13年1月19日にその発明について特許の設定登録がなされた。
本件特許公報は、平成13年3月26日に発行され、その特許に対して、東京応化工業株式会社より特許異議の申立がなされた。
II.特許異議申立について
1.本件発明
本件請求項1〜25に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜25に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記(a)、(b)及び(c)を含む、レジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去することができる除去用組成物:
(a)下記化学式1及び2で示す化合物及び下記化学式3で示すヒドラジンからなる群から選ばれた酸化および還元電位を有する求核アミン化合物の1種または2種以上を約5〜約50重量%,


[式中、R5 、R6 及びR7 は、それぞれ独立に,水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり、かつ式中のR5 ,R6 及びR7 の全部が水素であることはない]




[式中、R8 、R9 及びR10は、それぞれ独立に、水素、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり、かつ式中のR8 、R9 及びR10の全部が水素であることはない]及び



[式中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり、かつ式中のR11、R12、R13及びR14の全部が水素であることはない];
(b)前記求核アミン化合物と混和可能な有機溶剤の1種または2種以上を約10〜約80重量%;及び
(c)水、
であって,前記求核アミン化合物と有機溶剤とが、基板からレジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去するのに十分な量で存在している組成物。
【請求項2】 前記求核アミン化合物がヒドロキシルアミンの誘導体である請求項1記載の組成物。
【請求項3】 前記求核アミン化合物がヒドラジンの誘導体である請求項1記載の組成物。
【請求項4】 基板からレジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去することができる、レジスト及び/又はエッチング残留物を有する基板に下記(a)、(b)及び(c)を含む組成物を接触させることを含む方法であって、
(a)下記化学式4及び5で示す化合物及び下記化学式6で示すヒドラジンからなる群から選ばれた酸化および還元電位を有する求核アミン化合物の1種または2種以上を約5〜約50重量%、


[式中、R5 、R6 及びR7 は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり,かつ、式中のR5 、R6 及びR7 の全部が水素であることはない]


[式中、R8 、R9 及びR10は,それぞれ独立に、水素、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり,かつ式中のR8 、R9 及びR10の全部が水素であることはない]及び


[式中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり、かつ式中のR11、R12、R13及びR14の全部が水素であることはない];
(b)前記求核アミン化合物と混和可能な有機溶剤の1種または2種以上を約10〜約80重量%;及び
(c)水、
であって、前記組成物を前記基板から前記エッチング残留物及びレジストのいずれをも除去するのに十分な温度及び時間で前記基板と接触させる方法。
【請求項5】 前記求核アミン化合物がヒドロキシルアミンの誘導体である請求項4記載の方法。
【請求項6】 前記求核アミン化合物がヒドラジンの誘導体である請求項4記載の方法。
【請求項7】 前記求核アミン化合物が、レジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去するために、前記組成物が、レジスト及び/又はエッチング残留物を有する基板と接触されるために使用されるまでは,前記有機溶剤から分離した状態に維持しておく請求項4記載の方法。
【請求項8】 前記有機溶剤がアルカノールアミンである請求項4記載の方法。
【請求項9】 前記アルカノールアミンがアミノアルコキシアルカノールである請求項8記載の方法。
【請求項10】 前記アルカノールアミンが炭素分子1から5を含有するアルカノール基を少なくとも1種有する請求項8記載の方法。
【請求項11】 前記アルカノールアミンがモノアミンまたはジアミンである請求項8記載の方法。
【請求項12】 前記アルカノールアミンが下記化学式;
R1R2-N-CH2CH2-O-CH2CH2OH
[式中、R1 及びR2 は、H、CH3 、CH3 CH2 、またはCH2 CH2 OHである]を有する請求項8記載の方法。
【請求項13】 前記基板が半導体ウエフアーである請求項4記載の方法。
【請求項14】 前記温度が室温から約100℃の範囲である請求項4記載の方法。
【請求項15】 前記時間が約2分から約60分の範囲である請求項4記載の方法。
【請求項16】 N,N-ジエチルヒドロキシルアミンを約5〜約50重量%、N,N-ジエチルヒドロキシルアミンに混和可能な少なくとも1種の有機溶剤を約10〜約80重量%、及び水を含み、前記N,N-ジエチルヒドロキシルアミン及び前記少なくとも1種の有機溶剤が、基板からエッチング残留物及びレジストのいずれをも除去するのに十分な量で存在する、レジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去することができる除去用の組成物。
【請求項17】 前記有機溶剤がジグリコールアミンである請求項16の組成物。
【請求項18】 前記ジグリコールアミンが約60重量%またはそれ以上存在する請求項17記載の組成物。
【請求項19】 前記N,N-ジエチルヒドロキシルアミンが約17.5重量%存在し,前記ジグリコールアミンが約60重量%又はそれ以上存在し、水が約17.5重量%存在する請求項17の組成物。
【請求項20】 基板からレジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去する方法であって、レジスト及び/又はエッチング残留物を有する基板に、N,N-ジエチルヒドロキシルアミンを約5〜約50重量%、N,N-ジエチルヒドロキシルアミンに混和可能な少なくとも1種の有機溶剤を約10〜約80重量%、及び水を含む組成物を接触させることを含み、前記組成物を前記基板からレジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去するのに十分な温度及び時間で前記基板と接触させる方法。
【請求項21】 前記有機溶剤がジグリコールアミンである請求項20記載の方法。
【請求項22】 前記ジグリコールアミンは約60重量%又はそれ以上存在する請求項21記載の方法。
【請求項23】 N,N-ジエチルヒドロキシルアミンが約17.5重量%存在し,ジグリコールアミンが約60重量%又はそれ以上存在し,水が約17.5重量%存在する請求項21記載の方法。
【請求項24】 前記有機溶剤がモノエタノールアミンである請求項20記載の方法。
【請求項25】 前記有機溶剤がモノイソプロパノールアミンである請求項20記載の方法。」
2.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人は、
甲第1号証 ヨーロッパ特許出願公開第485161号明細書
甲第2号証 「化学大辞典 2 縮刷版」共立出版(1989年8月15日縮刷第342版発行) 第875〜876頁
甲第3号証 特開昭60-210843号公報
甲第4号証 特許第3048207号公報
を提出して、
請求項1〜25に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に規定する発明に該当すること、並びに、
請求項1〜6、8〜15に係る発明は、甲第4号証に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項に規定する発明に該当すること、
により、これらの請求項に係る特許は、拒絶しなければならない特許出願に対して特許されたものであるからその特許を取り消すべき旨主張する。
3.甲号各証の検討
甲第1号証には、
a.「(請求項1) レジストを基板から除去するための組成物であって、ヒドロキシルアミンと、該ヒドロキシルアミンと混和性のある少なくとも1種のアルカノールアミンを含み、前記ヒドロキシルアミンと前記アルカノールアミンがレジストを基板から除去するに十分な量で存在する組成物。
(請求項2) 前記ヒドロキシルアミンが約5〜90重量%存在する請求項1記載の組成物。
(請求項3) 前記少なくとも1種のアルカノールアミンが約10〜95重量%存在する請求項1または2記載の組成物。
(請求項4) 少なくとも1種の極性溶媒をさらに含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
(請求項5) 前記少なくとも1種の極性溶媒が約5〜85重量%存在する請求項4記載の組成物。
(請求項6) 前記少なくとも1 種の極性溶媒が、エチレングリコール、エチレングリコールアルキルエーテル、ジエチレングリコールアルキルエーテル、トリエチレングリコールアルキルエーテル、ブロピレングリコール、プロピレングリコールアルキルエーテル、ジプロピレングリコールアルキルエーテル、トリプロピレングリコールアルキルエーテル、N-置換ピロリドン、エチレンジアミンおよびエチレントリアミンからなる群から選択される請求項4または5記載の組成物。
(請求項7) 前記少なくとも1種のアルカノールアミンのアルカノール基が炭素原子数1〜 5を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
(請求項8) 前記少なくとも1種のアルカノールアミンが、モノアミン、ジアミンおよびトリアミンからなる群から選択される請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
(請求項9) 前記少なくとも1種のアルカノールアミンが
R1R2-N-CH2CH2-O-R3 (式中のR1およびR2は、H、CH3,CH3CH2またはCH2CH2OHであり、R3はCH2CH2OHである)で示される請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
(請求項10) レジストで覆われた基板に、ヒドロキシルアミンと、該ヒドロキシルアミンと混和性のある少なくとも1種のアルカノールアミンを含む組成物を,前記レジストを基板から除去するに十分な温度と時間で接触させる工程を含む、基板からレジストを除去する方法。
(請求項11) 前記レジストがホトレジストである請求項10記載の方法。
(請求項12) 前記レジストがポリイミド被膜である請求項10記載の方法。
(請求項13) 前記基板が半導体ウエファーである請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
(請求項14) 前記温度が50〜150℃である請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
(請求項15) 前記時間が2〜30分間である請求項10〜14のいずれか1項に記載の組成物。
(請求項16) 前記組成物が請求項2〜9のいずれか1項に記載の組成物である請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、
b.従来技術の課題として、半導体微細回路の製造工程において、「基板にエッチングその他の方法で回路パターンを形成するためのパターン形成用マスキング材としてポジ型のホトレジストが広く使用されてきた。基板加工の最終段階の工程で、該マスキング用レジスト材(非露光部)を基板から除去する。しかし、基板へのパターン形成に、プラズマエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリングが盛んに行われるようになり、従来からレジスト除去の目的で一般的に使用されているレジスト剥離剤、例えば塩化メチレンまたはテトラクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン及びその誘導体;エチレングリコ一ルモノエチルエーテル、2-ブトキシエタノール、2-(ブトキシ-エトキシ)エタノール等のグリコールエーテル;ジエチルスルホン等のアルキルスルホンの1種または2種以上の溶剤を含む剥離剤によってレジストマスクを除去することは,実質的に不可能となっている。」(第2頁第9〜18行)こと、
c.「さらに、上記したようなエッチング過程において、有機金属化合物がサイドウオール(側壁)ポリマー材として形成される。上記した各溶剤は、このサイドウオール有機金属ポリマーを除去するのにも効果的でない。ホトレジストの除去に効果があるとして最近開発された技術に、プラズマアッシングとしても知られるプラズマ酸化法がある。しかしながら,このプラズマアッシング法は、ホトレジストの剥離には効果的であるが、エッチング過程で形成されるサイドウオール有機金属ポリマーを除去するのには効果的でない。」(第2頁第19〜23行)こと、
d.そのために甲第1号証の発明では、「第1に、本発明は、基板からレジストを除去するに十分な量のヒドロキシルアミンと,それと混和可能な少なくとも1つのアルカノールアミンを含む剥離組成物を提供する。上記剥離組成物は,1種または2種以上の極性溶媒を含有してもよい。極性溶媒の添加により該剥離組成物の効果が強められる。該剥離組成物によって基板からレジストがきれいに除去される。本発明の剥離組成物は、基板からホトレジスト材を除去するのに特に適しており、より詳細には、半導体集積回路の製造工程において、後続の作業に悪影響や妨害をすることなく,基板からホトレジスト材を除去するのに特に適している。さらに、本発明の剥離組成物は、硬化されたポリマーレジスト(例えば、部分的あるいは完全に硬化されたポリイミド被膜)を基板から除去するのに適しており、また、プラズマエッチング工程で形成された有機金属ポリマーを除去するのに適している。」(第2頁第31〜44行)こと、
e.「本発明で用いるのに好適なアルカノールアミンは、前記ヒドロキシルアミンとの混和性を有し、水溶性であることが好ましい。」(第2頁第54〜55行)こと、
f.アルカノールアミンは具体的には、「アルカノールアミンとしては第1、第2、または第3アミン類が適しており、好くましくはモノアミン、ジアミンまたはトリアミンであり、なかでもモノアミンが特に好ましい。アミンのアルカノール基には1〜5の炭素原子を有するものが好ましい。
本発明に用いるのに好適なアルカノールアミンは、式
R1R2-N-CH2CH2-O-R3(式中のR1およびR2は、H、CH3、CH3CH2またはCH2CH2OHであり、R3はCH2CH2OHである)で示すことができる。
本発明に適するアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、第三ブチルジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、2-アミノ-2-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、イソブタノールアミン、2-アミノ(2-エトキシエタノール)及び2-アミノ(2-エトキシ)プロパノールが例示される。」(第2頁第57行〜第3頁第6行)こと、
g.極性溶媒については、「本発明で用いるのに適する極性溶媒として、エチレングリコール,エチレングリコールアルキルエーテル、ジエチレングリコールアルキルエーテル、トリエチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールアルキルエーテル、ジプロピレングリコールアルキルエーテル、トリプロピレングリコールアルキルエーテル,N-置換ピロリドン、エチレンジアミン及びエチレントリアミンが挙げられる。本発明組成物には当業分野で知られている極性溶媒を添加することができる。」(第3頁第7〜11行)こと、
h.適用される基板については、「本発明剥離組成物が、基板自体を損傷することなく、ホトレジストを除去できる基板として、アルミニウム、チタン/タングステン、アルミニウム/ケイ素、アルミニウム/ケイ素/銅などの金属基板や、酸化ケイ素、窒化ケイ素、およびガリウム/ヒ素等の基板が挙げられる。」(第3頁第24〜27行)こと、
i.適用条件として、「本発明剥離組成物を用いてレジストや他の物質を除去する方法において,レジストを有する基板に、本発明剥離組成物を、該レジス卜を除去するに十分な時間と温度で接触させる工程を含む。この時間と温度は、基板から除去される物質により定められるが、通常、温度は約50〜150℃の範囲で、接触時間は約2〜30分間である。」(第3頁第28〜32行)こと、が記載されている。
甲第2号証には、
j.極性溶媒の代表的なものは、水、アルコールであることが記載されている。
甲第3号証には、
k.「基板に被着した未露光のポジ型フォトレジストを除去するに際し、(イ)水加ヒドラジン40%〜95%(重量)、(ロ)ケトンの少なくとも一種5%〜20%(重量)および(ハ)水またはアルコールの少なくとも一種0%〜55%(重量)を含有する溶液と接触させることを特徴とするポジ型フォトレジストの除去方法。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載され、
l.除去される未露光のポジ型フォトレジストについては、「従来、この写真食刻法において、露光、現像、ポストベーク工程を経、エッチングされた後の基板に被着した未露光のポジ型フォトレジストの除去工程の剥離剤としては、たとえば、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンメチルイソブチルケトン、メチルセロソルブなどの有機溶剤;コリン溶液;あるいは硫酸-過酸化水素液がさらにはアンモニア水が知られている。
上記したポストベーク工程の温度が180℃以上の如き比較的高温である場合には、上述の有機溶剤系、コリン系ごとき剥離剤では充分に剥離、除去できないか、または剥離、除去に長時間を要するなどの難点がある。また、硫酸-過酸化水素水液は、アルミ蒸着したものには使用し得ないなど対象が限定される難点がある。本発明者らは、上記の事情に鑑み、特に130℃以上の高温でポストベークされたポジ型フォトレジストの除去につき種々検討し、本発明を為した。すなわち本発明は基板に被着した未露光のポジ型フォトレジストを除去するに際し、・・・・・から成る溶液と接触させることを特徴とし、さらに超音波洗浄を併用する方法である。」(第2頁左上欄第8行〜右上欄第15行)と記載され、
m.具体的には、ポジ型フォトレジストを基板上に塗布、熱処理(プリベーク)後、露光、現像したパターンを、(イ)水加ヒドラジン40%〜95%(重量),(ロ)ケトンの少なくとも一種5%〜20%(重量)および(ハ)水またはアルコールの少なくとも一種0%〜55%(重量)を含有する溶液に接触させて,未露光部を除去したこと(第3頁左上欄第4行〜左下欄第14行)が記載されている。
甲第4号証の特許請求の範囲には、
「【請求項1】 下記(a)、(b)、(c)及び(d)を含む、レジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去するための組成物であって、
(a)化学式1を有する化合物、化学式2を有する化合物、化学式3を有するヒドラジンからなる群から選ばれた酸化および還元電位を有する1種又は2種以上の求核アミン化合物を約5〜約50重量%,
【化1】


[式中、R5 、R6 及びR7 は、それぞれ独立に,水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩及びそれらの誘導体である]
【化2】


[式中、R8 、R9 及びR10は、それぞれ独立に、水素、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり、かつ式中のR8 、R9 及びR10の全部が水素であることはない]及び
【化3】


[式中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩である];
(b)前記求核アミン化合物と混和可能な有機溶剤の1種または2種以上を約10〜約80重量%;及び
(c)化学式4を有する化合物、化学式5を有する化合物、化学式6を有するエチレンジアミンテトラカルボン酸及び下記化学式7で示すアルキルアンモニウム水酸化物からなる群の1種または2種以上を約2.5〜約30重量%、
【化4】


[式中、R15及びR16は、水素、t-ブチル、OH又はCOOHのいずれかである]
【化5】


[式中、R17は、OH又はCOOHである]
【化6】


[式中、R18、R19、R20及びR21は、H又はNH4 のいずれかであり、又はこれらのアンモニウム塩である]
R1R2R3R4NOH
[式中、R1、R2、R3 又はR4 は、それぞれ独立に.水素、または炭素原子1から5を有する短鎖アルキル基である]及び
(d)水、
であって,前記求核アミン化合物、有機溶剤及び化合物(c)が、基板からレジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を除去するのに十分な量で存在している組成物。
【請求項2】 前記求核アミン化合物がヒドロキシルアミンの誘導体である請求項1記載の組成物。
【請求項3】 前記求核アミン化合物がヒドラジン又はそのの誘導体である請求項1記載の組成物。
【請求項4】 前記1種または2種以上の化合物(c)がジヒドロキシベンゼン又はその誘導体である請求項1記載の組成物。
【請求項5】 前記1種または2種以上の化合物(c)が下記化学式;
R1R2R3R4NOH
[式中、R1、R2、R3 又はR4 は、それぞれ独立に.水素、または炭素原子1から5個を有する短鎖アルキル基である]
で示されるアルキルアンモニウム水酸化物である請求項1記載の組成物。
【請求項6】 前記有機溶剤がアルカノールアミンである請求項1記載の組成物。
【請求項7】 前記アルカノールアミンが炭素分子1から5個を有する少なくとも1種のアルカノール基を含有する請求項6記載の組成物。
【請求項8】 前記アルカノールアミンがモノアミンまたはジアミンである請求項6記載の組成物。
【請求項9】 前記アルカノールアミンが下記化学式;
【化7】R1R2-N-CH2CH2-O-CH2CH2OH
[式中R1及びR2は、H、CH2、CH3CH2、またはCH2CH2OHである]を有する請求項6記載の組成物。
【請求項10】 前記アルカノールアミンがアミノアルコキシアルカノールである請求項6記載の組成物。
【請求項11】 前記有機溶剤がモノエタノールアミンである請求項1記載の組成物。
【請求項12】 基板からレジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を除去する、レジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を有する基板に下記(a)、(b)、(c)及び(d)を含む組成物を接触させることを含む方法であって、
(a)化学式8を有する化合物、化学式9を有する化合物、化学式10を有するヒドラジンからなる群から選ばれた酸化及び還元電位を有する1種又は2種以上の求核アミン化合物を約5〜約50重量%、
【化8】


[式中、R5 、R6 及びR7 は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、又はシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、又はそれらの塩及びそれらの誘導体である。]
【化9】


[式中、R8 、R9 及びR10は,それぞれ独立に、水素、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、又はシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり,かつ式中のR8 、R9 及びR10の全部が水素であることはない]及び
【化10】


[式中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、又はシクロアルキル、アルケニル又はアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシ又は分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、又はそれらの塩である。];
(b)前記求核アミン化合物と混和可能な有機溶剤の1種または2種以上を約10〜約80重量%;及び
(c)化学式11を有する化合物、化学式12を有する化合物、化学式13を有するエチレンジアミンテトラカルボン酸及び下記化学式14で示すアルキルアンモニウム水酸化物からなる群の1種または2種以上を約2.5〜約30重量%、
【化11】



[式中、R15及びR16は、水素、t-ブチル、OH又はCOOHのいずれかである]
【化12】



[式中、R17は、OH又はCOOHである]
【化13】



[式中、R18、R19、R20及びR21は、H又はNH4 のいずれかであり、又はこれらのアンモニウム塩である]
【化14】R1R2R3R4NOH
[式中、R1、R2、R3 又はR4 は、それぞれ独立に.水素、または炭素原子1から5を有する短鎖アルキル基である]及び
(d)水、
であって、前記組成物をレジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を基板から除去するのに十分な温度及び時間で前記基板と接触させる方法。
【請求項13】 前記求核アミン化合物がヒドロキシルアミンまたはその誘導体である請求項12記載の方法。
【請求項14】 前記求核アミン化合物がヒドラジンまたはその誘導体である請求項12記載の方法。
【請求項15】 前記1種又は2種以上の化合物(c)がジヒドロキシベンゼンまたはその誘導体である請求項12記載の方法。
【請求項16】 前記1種又は2種以上の化合物(c)が下記化学式;
R1R2R3R4NOH
[式中、R1、R2、R3 又はR4 は、それぞれ独立に.水素、または炭素原子1から5を有する短鎖アルキル基である]で示されるアルキルアンモニウム水酸化物である請求項12記載の方法。
【請求項17】 前記有機溶剤がアルカノールアミンである請求項12記載の方法。
【請求項18】 前記アルカノールアミンがアミノアルコキシアルカノールである請求項17記載の方法。
【請求項19】 前記アルカノールアミンが炭素分子1から5を有するアルカノール基を少なくとも1種有する請求項17記載の方法。
【請求項20】 前記アルカノールアミンがモノアミン又はジアミンである請求項17記載の方法。
【請求項21】 前記アルカノールアミンが下記化学式;
R1R2-N-CH2CH2-O-CH2CH2OH
[式中、R1 及びR2 は、H、CH3 、CH3 CH2 、またはCH2 CH2 OHである]を有する請求項17記載の方法。
【請求項22】 前記溶剤がモノエタノールアミンだる請求項12記載の方法。
【請求項23】 前記基板が半導体ウエファーである請求項12記載の方法。
【請求項24】 前記温度が室温から約100℃の範囲である請求項12記載の方法。
【請求項25】 前記時間が約2分から約60分の範囲である請求項12記載の方法。
【請求項26】 ヒドロキシルアミンを約5〜約50重量%、前記ヒドロキシルアミンに混和可能な少なくとも1種の有機溶剤を約10〜約80重量%、化学式15で示す少なくとも1種の化合物を約2.5〜約30重量%、
【化15】



[式中、R15及びR16は、水素、t-ブチル、OH又はCOOHのいずれかである]及び水を含むレジスト及びエッチング残留物少なくとも一種を除去するための組成物であって、前記ヒドロキシルアミン、少なくとも1種の有機溶剤及び化学式15で示す少なくとも1種の化合物が、基板からレジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を除去するのに十分な量で存在する組成物。
【請求項27】 前記有機溶剤はジグリコールアミンであり、化学式15で示す前記化合物がカテコールである請求項26の組成物。
【請求項28】 前記ヒドロキシルアミンと水とが約50:50の割合で存在する請求項26記載の組成物。
【請求項29】 前記ジグリコールアミンが約60重量%又はそれ以上の量で存在し、前記カテコールが約2.5重量%又はそれ以上の量で存在する請求項27記載の組成物。
【請求項30】 前記ヒドロキシルアミンが約17.5重量%の量で存在し、前記ジグリコールアミンが約60重量%又はそれ以上の量で存在し、前記カテコールが約2.5重量部又はそれ以上の量で存在し、及び前記水が約17.5重量%の量で存在する請求項28記載の組成物。 【請求項31】 前記有機溶剤はモノエタノールアミンである請求項26記載の組成物。
【請求項32】 前記有機溶剤はモノイソプロパノールアミンである請求項26記載の組成物。
【請求項33】 基板からレジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を除去する方法であって、レジスト及びエッチング残留物の少なくとも一種を有する基板に、ヒドロキシルアミンを約5〜約50重量%、前記ヒドロキシルアミンに混和可能な少なくとも1種の有機溶剤を約10〜約80重量%、化学式16で示す少なくとも1種の化合物を約2.5〜約30重量%、
【化16】



[式中、R15及びR16は、水素、t-ブチル、OH又はCOOHのいずれかである]及び水を含む組成物を接触させることを含み、前記組成物を基板からレジストまたはエッチング残留物の少なくとも一つを除去するのに十分な温度及び時間で基板と接触させる方法。
【請求項34】 前記ヒドロキシルアミンと水とが約50:50の割合で存在する請求項33記載の方法。
【請求項35】 前記有機溶剤がジグリコールアミンであり、化学式16で示す前記化合物がカテコールである請求項33記載の方法。
【請求項36】 前記ジグリコールアミンが約60重量%又はそれ以上の量で存在し、前記カテコールが約2.5重量%又はそれ以上存在する請求項35記載の方法。
【請求項37】 前記ヒドロキシルアミンが約17.5重量%の量で存在し、前記ジグリコールアミンが約60重量%又はそれ以上の量で存在し、前記カテコールが約2.5重量部又はそれ以上の量で存在し、及び前記水が約17.5重量%の量で存在する請求項35記載の方法。
【請求項38】 前記有機溶剤がモノエタノールアミンである請求項33記載の方法。
【請求項39】 前記有機溶剤がモノイソプロパノールアミンである請求項33記載の方法。
【請求項40】 下記(a)、(b)及び(c)を含む組成物。
(a)化学式17を有する化合物、化学式18を有する化合物、化学式19を有するヒドラジンからなる群から選ばれた酸化および還元電位を有する1種又は2種以上の求核アミン化合物を約5〜約50重量%,
【化17】


[式中、R5 、R6 及びR7 は、それぞれ独立に,水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩及びそれらの誘導体である]
【化18】


[式中、R8 、R9 及びR10は、それぞれ独立に、水素、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩であり、かつ式中のR8 、R9 及びR10の全部が水素であることはない]及び
【化19】



[式中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシル基、置換されたC1 -C6 直鎖アルキル、分枝鎖アルキル、またはシクロアルキル、アルケニルまたはアルキニル基、置換されたアシル基、直鎖アルコキシまたは分枝鎖アルコキシ基、アミジル基、カルボキシル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、又はスルホン酸基、またはそれらの塩である];
(b)前記求核アミン化合物と混和可能な有機溶剤の1種または2種以上を約10〜約80重量%;及び
(c)化学式20を有する化合物、化学式21を有する化合物、化学式22を有するエチレンジアミンテトラカルボン酸及び下記化学式23で示すアルキルアンモニウム水酸化物からなる群の1種または2種以上を約2.5〜約30重量%、
【化20】


[式中、R15及びR16は、水素、t-ブチル、OH又はCOOHのいずれかである]
【化21】


[式中、R17は、OH又はCOOHである]
【化22】



[式中、R18、R19、R20及びR21は、H又はNH4 のいずれかであり、又はこれらのアンモニウム塩である]
R1R2R3R4NOH
[式中、R1、R2、R3 又はR4 は、それぞれ独立に.水素、または炭素原子1から5を有する短鎖アルキル基である]及び
(d)水。 」
とする発明が記載されている。
4.判断
4.1 特許法第29条2項違反について
4.1.1 請求項1に係る発明について
(1) 請求項1に係る発明(以下、「第1発明」という)と、甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、還元及び酸化電位を有する求核アミン化合物を含む除去用組成物であって、レジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去できる除去用組成物である点で一致し、その組成において、両者は、本件第1発明で規定する(b)成分および(c)成分を必須とする点において一致している。
しかし、甲第1号証では、第1発明の(a)成分に対応する物質として、ヒドロキシルアミンのみを使用しており、それに対して、第1発明においては、成分(a)の化学式1で示される化合物について、R5 〜R7 のすべてが水素原子であるもの、すなわち、ヒドロキシルアミンは、明確に除外されている点で相違する。
相違点について検討する。
一般論として、ヒドロキシルアミンと、アルキル置換ヒドロキシルアミンとは、その化学性において類似する性質を発揮することがあることは知られているものの、いかなる場合にも必ずしも同一の挙動を示すものとはいえず、まして、本件特許の出願以前に、レジストおよびエッチング残留物の除去において、それらが同等の効果を奏するとすべき根拠は、認められない。そのことは、本件特許異議の申立の証拠においてもなんら示されていない。してみれば、本件第1発明の奏する効果は、甲第1号証に記載された発明の奏する効果から、予測することができたものではない。
したがって、第1発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2) 次に、第1発明と、甲第3号証に記載された発明とを対比すると、両者は、還元及び酸化電位を有する求核アミン化合物を含む除去用組成物であって、レジストを除去できる除去用組成物である点で一致し、その組成において、両者は、本件第1発明で規定する(b)成分および(c)成分を必須とする点において一致している。
しかし、甲第3号証では、第1発明の(a)成分に対応する物質として、水和ヒドラジンのみを使用しており、それに対して、第1発明においては、成分(a)の化学式3で示される化合物について、R11〜R14のすべてが水素原子であるもの、すなわち、ヒドラジンは、明確に除外されている点で相違する。また、本件発明でいう「エッチング残留物」の除去について記載していない点でも相違する。
相違点について検討する。
上記、甲第1号証との対比で示したのと同様に、一般論として、ヒドラジンと、アルキル置換ヒドラジンとは、その化学性において類似する性質を発揮することがあることは知られているものの、いかなる場合にも必ずしも同一の挙動を示すものとはいえず、まして、本件特許の出願以前に、レジストおよびエッチング残留物の除去において、それらが同等の効果を奏するとすべき根拠は、認められない。そのことは、本件特許異議の申立の証拠においてもなんら示されていない。してみれば、本件第1発明の奏する効果は、甲第3号証に記載された発明の奏する効果から、予測することができたものではない。
特許異議申立人は、上記の摘示事項l.の前半部の記載を引用して、甲第3号証に係る発明は、基板のエッチング工程後の物質の剥離除去に関するものである旨主張するが、その後の記載とも併せて読めば、従来技術として、写真食刻法の一連の工程を述べ、ポストベーク工程を経、基板のエッチング工程後の物質の除去には、イソプロピルアルコール以下の剥離剤が使用されることが記載されているだけである。そして、甲第3号証に係る発明は、それらの工程のうちの、エッチングされる以前、ポストベーク後の基板に被着した未露光のポジ型レジストを除去するための除去方法であり、そのための除去剤に関するものであって、本件発明でいう「エッチング残留物」を認識していないことは明らかである。したがって、甲第3号証には、本件発明の有する目的・効果についても記載されていない。
したがって、第1発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.2 請求項2,3に係る発明について
第1発明の構成をすべて引用し、さらにその構成のうちの(a)成分化合物について特定する請求項2,3に係る発明は、第1発明についての判断と全く同じ理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.3 請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、第1発明の組成物を、レジスト及び/又はエッチング残留物を有する基板に接触させる方法であり、その組成物そのものに主要な特徴を有するものであるから、請求項1に係る発明と同様の理由で、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.4 請求項5〜15に係る発明について
請求項4に係る発明の構成をすべて引用し、さらにその構成のうちの(a)成分化合物について特定する請求項5,6に係る発明、使用状態を特定する請求項7に係る発明、(b)成分の化合物を特定する請求項8〜12に係る発明、基板の材質について規定する請求項13に係る発明、接触させる条件について特定する請求項14,15に係る発明についても、請求項4に係る発明に対する判断と同じ理由で、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.5 請求項16に係る発明について
請求項16に係る発明は、第1発明の構成のうちの(a)成分化合物について特定するものであり、その余の構成は変わらないものである。第1発明が、上記のとおり、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、その構成のうちの(a)成分についてさらに下位概念で表現したにすぎない、請求項16に係る発明は、第1発明についての判断と全く同じ理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.6 請求項17〜19に係る発明について
請求項16に係る発明の構成をすべて引用し、さらにその構成のうちの(a)成分化合物について特定する請求項17〜19に係る発明は、請求項16に係る発明についての判断と全く同じ理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.7 請求項20に係る発明について
請求項20に係る発明は、請求項16に係る発明の組成物を、レジスト及び/又はエッチング残留物を有する基板に接触させる方法であり、その組成物そのものに主要な特徴を有するものであるから、請求項16に係る発明と同様の理由で、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.1.8 請求項21〜25に係る発明について
請求項20に係る発明の構成をすべて引用し、さらにその構成のうちの(b)成分化合物について特定する請求項21〜25に係る発明についても、請求項20に係る発明に対する判断と同じ理由で、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.2 特許法第39条第1項違反について
第1発明と、甲第4号証の請求項1に係る発明(以下、「原第1発明」という)とを対比すると、第1発明が、(a)(b)および(c)の3成分を要件とするのに対して、原第1発明は、(a)(b)(c)および(d)の4成分を要件とするものである。ここで、第1発明は、(a)、(b)および(c)成分と規定され、原第1発明は、(a)、(b)、(c)および(d)成分と規定されていて、第1発明の、(a)(b)(c)成分が、原第1発明の、(a)(b)(d)成分に、それぞれ該当するので、両発明の相違点は、原第1発明で規定する(c)成分、すなわち、化学式4〜7で示される4種類の化合物(キレート剤)を、必須成分として規定しない(第1発明)か、規定する(原第1発明)か、の点に帰結される。
相違点について検討する。
第1発明の表現を見ると、「下記(a)、(b)及び(c)を含む、レジスト及びエッチング残留物のいずれをも除去することができる除去用組成物」となっており、「〜を含む」との記載からすれば、文言上は、(a)(b)(c)以外の他の成分を任意に含有しうるものではある。
しかしながら、第1発明においては、キレート剤を含まない(a)(b)(c)の3成分のみで発明として完結するものであり、原第1発明においては、(c)成分のキレート剤を含むことで基板上に残留物が再沈殿するのを回避するという新たな効果を奏し、(a)(b)(c)(d)の4成分がすべて組み合わされることで初めて、完結するものである。してみれば、両者は、発明としての技術思想が異なるものであり、互いに別異の発明とすべきものである。
また、本件請求項2〜6、8〜15に係る発明と、甲第4号証の各請求項に係る発明との間の関係も同様に、同一の発明とすべきものではない。
III.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜25に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜25に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1〜25に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-01-30 
出願番号 特願平10-237904
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G03F)
P 1 651・ 5- Y (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 禎治前田 佳与子  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 植野 浩志
阿久津 弘
登録日 2001-01-19 
登録番号 特許第3150306号(P3150306)
権利者 イー.ケー.シー.テクノロジー.インコーポレイテッド
発明の名称 還元及び酸化電位を有する求核アミン化合物を含む洗浄剤組成物およびこれを使用した基板の洗浄方法  
代理人 長谷川 洋子  
代理人 小林 純子  
代理人 片山 英二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ