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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1054261
審判番号 審判1997-2159  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-08-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-02-13 
確定日 2002-02-27 
事件の表示 平成3年特許願第76825号「固体電解質、それを含む電気化学素子及び固体電解質の形成方法」拒絶査定に対する審判事件〔平成5年8月13日出願公開、特開平5-205515、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成3年3月15日(国内優先権主張、平成2年3月16日、平成2年11月10日、平成2年12月28日及び平成3年2月18日)に特許出願されものであって、平成8年1月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、平成8年12月19日付けで拒絶査定されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」及び「本願発明3」という。)は、平成5年6月24日付け手続補正書、平成8年3月25日付け手続補正書、平成12年2月22日付け手続補正書、平成13年12月7日付け手続補正書、平成13年12月21日付け手続補正書、及び平成14年1月29日付け手続補正書によりされた明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】下記式(I)又は(II)で示される不飽和カルボン酸エステルと多官能不飽和カルボン酸エステルの混合物、ポリエンとポリチオールの混合物、ポリイソシアネートとポリオールの混合物、及びポリイソシアネートとポリオールと架橋剤の混合物の群から選ばれる混合物100重量部を、20ppm以下の水分量を含有し、電解質塩濃度が1.0〜7.0モル/lの非水電解液200重量部以上に溶解させ、重合させて得られる、弾性率が102〜105dyne/cm2であり、伸び率が20%以上であることを特徴とする固体電解質。
【化1】
(I) CH2=CHCOO(CH2CHO)nR2

R1
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭化水素又は複素環を含む基、nは1以上の整数を表わす)
【化2】
(II) R3

CH2=CCOOR4
(式中、R3は水素原子又はメチル基、R4は複素環を含む基を表わす)
【請求項2】請求項1の固体電解質を含むことを特徴とする電池。
【請求項3】電極、隔膜及び請求項1記載の固体電解質が一体化されていることを特徴とする電池。」

3.原査定における拒絶の理由
原審における拒絶査定の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である特開平1-309205号公報(以下、「引用例」という)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

4.引用例に記載された発明
引用例には、
(ア)「(a)重合性ビニルモノマーを重合してなるマトリックスポリマーと、 (b)電解質塩化合物と、(c)有機溶媒と、(d)核置換基として-COOR 基(Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を示す。)を少なくとも1個有す る1,3:2,4-ジベンジリデンソルビトール誘導体とを含有してなる 高分子ゲル電解質組成物。」(特許請求の範囲)に関し、
(イ)「本発明者らはかかる問題点を解決すべく鋭意検討した結果、固体電解 質電池及びECD素子などの電解質として好適に使用できる下記の高分子 ゲル電解質組成物を提供するに至った。」(第2頁右上欄第3〜6行)
(ウ)「本発明の(a)成分のマトリツクスポリマーに用いられる重合性ビニ ルモノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル ;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル;スチレン等の芳香族オ レフイン;塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;N-ビニルピロリ ドン、N-ビニルピペリドン等のN-ビニルラクタム;(メタ)アクリル 酸;(メタ)アクリル酸のヒドロキシエチルもしくはヒドロキシプロピル エステル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリ ルアミド;グリセリンのモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコ ールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アク リレート;アルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート 等を挙げることができる。これらの重合性ビニルモノマーを重合開始剤を 用いて重合させることにより(a)成分のマトリツクスポリマーを得るこ とができる。高イオン伝導性を得るためには、ポリアルキレングリコール (メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)ア クリレート及びシロキサン変性ポリアルキレングリコール(メタ)アクリ レート等のアルキレンオキサイド基を含有するモノマーを重合(及び共重 合)して得られるポリマーであることが好ましい。」(第2頁右上欄下か ら第6行〜左下欄末行)
(エ)「本発明において、高イオン伝導性と透明性を有し、機械的強度(可と う性)、耐熱性の優れた固体状電解質を得るためには、(a)成分に用い られる重合性ビニルモノマーの割合は(b)成分及び(c)成分よりなる 電解液に対し、5重量%〜50重量%、好ましくは10重量%〜30重量 %含有するように調製することが好ましい。」(第3頁右下欄下から第7 〜末行)
(オ)「上記電解液において用いられる(b)成分の電解質塩化合物の割合は 、(c)成分の有機溶媒に対し、5重量%〜30重量%、好ましくは10 重量%〜25重量%含有するように調製することが好ましい。」(第4頁 左上欄第5〜9行)
(カ)「本発明の高分子ゲル電解質組成物の製造方法としては、重合体ビニル モノマーを電解液及びソルビトール化合物の存在下に重合させ固体状電解 質組成物を得る方法がある。」(第4頁左上欄第10〜13行)
と記載され、
(キ)実施例1乃至ないし3では、モノマーとしてメトシキポリエチレングリ コールメタクリレート、溶媒としてγ-ブチロラクトンを用い、モノマー /溶媒重量比=30/70としたこと、
実施例4では、モノマーとして2-ヒドロキシエチルメタクリレート、 溶媒としてγ-ブチロラクトンを用い、モノマー/溶媒重量比=15/8 5としたこと、
実施例5では、モノマーとしてN-ビニルピロリドン、溶媒としてγ- ブチロラクトンを用い、モノマー/溶媒重量比=30/70としたこと、
実施例6では、モノマーとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートと メトシキポリエチレングリコールメタクリレート、溶媒としてγ-ブチロ ラクトンを用い、モノマー/溶媒重量比=20/80としたこと、
実施例7では、モノマーとして2-ヒドロキシエチルメタクリレートと メトシキポリエチレングリコールメタクリレート、溶媒としてプロピレン カーボネートを用い、モノマー/溶媒重量比=20/80としたこと、
が記載されている。

5.当審における対比・判断
5.1 本願発明1について
本願発明1は、特定の混合物の群から選ばれる混合物100重量部を、20ppm以下の水分量と1.0〜7.0モル/lの電解質塩濃度とを有する非水電解質200重量部以上に溶解させて重合することにより、102 〜105 dyne/cm2 の弾性率及び20%以上の伸び率を有する固定電解質としたものである。
そこで、本願発明1と引用例記載の発明とを比較すると、上記摘記事項から明らかなように、両者は、共に、重合させて得られる固体電解質に関する発明である点で一致している。
しかしながら、引用例の摘記事項(ウ)、(キ)から明らかなように、引用例記載の発明において、用いられる「重合性ビニルモノマー」として例示された中には、本願発明1の「上記式(I)又は(II)で示される不飽和カルボン酸エステル」に相当するもの、及び本願発明1の「多官能不飽和カルボン酸エステル」に相当するものが含まれているものの、引用例には、重合性ビニルモノマーとして、「上記式(I)又は(II)で示される不飽和カルボン酸エステル」と「多官能不飽和カルボン酸エステル」の混合物を用いることについての記載はない。
また、引用例には、重合性ビニルモノマーについて記載されているのみで、本願発明1における「ポリエンとポリチオールの混合物」、「ポリイソシアネートとポリオールの混合物」、及び「ポリイソシアネートとポリオールと架橋剤の混合物」については、示唆する記載もない。
さらに、本願発明1の要件である、これらの混合物を20ppm以下の水分量を含有する非水電解液に溶解させる点、についても記載がない。
よって、本件発明1が、引用例に記載された発明であるとすることはできないばかりでなく、該引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

なお、上記の相違点、すなわち、本願発明1における特定の混合物を用いる点、及びこれら混合物を20ppm以下の水分量を含有する非水電解液に溶解させる点、については、当審において平成11年12月03日付で通知した拒絶理由通知に引用した特開平2-602号公報、及び同特開平1-309205号公報にも、何等示唆する記載はない。

5.2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3に係る発明は、いずれも、上記本願発明1に係る固体電解質を用いた電池に係る発明であるから、前項に述べた同様の理由により、本願発明2及び3も、引用例に記載された発明であるとすることはできないばかりでなく、該引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1ないし3が、引用例に記載された発明であるとすることはできないばかりでなく、該引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとして、本願を拒絶した原査定は、妥当なものではない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-02-15 
出願番号 特願平3-76825
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
P 1 8・ 113- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 辻 徹二宮島 潤和田 財太  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
発明の名称 固体電解質、それを含む電気化学素子及び固体電解質の形成方法  
代理人 池浦 敏明  
代理人 池浦 敏明  

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