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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効としない E02D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認めない。無効としない E02D
管理番号 1054521
審判番号 審判1995-12480  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1995-06-15 
確定日 2000-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第1467438号発明「ホイールクレーン杭打工法」の特許無効審判事件(平成6年審判第17426号)についてされた平成9年7月17日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成9年(行ケ)第222号、平成11年2月16日判決言渡)があり、また、特許無効審判事件(平成7年審判第12480号)についてされた平成9年6月13日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成9年(行ケ)第211号、平成11年6月1日判決言渡)があったので、さらに併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、いずれも成り立たない。 審判費用は、いずれも請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯

1. 本件特許第1467438号は、昭和58年11月29日に出願され、昭和62年8月5日に特公昭62-36088号として出願公告され、昭和63年11月30日に設定登録された。
2. その後、平成6年10月14日に鹿島建設株式会社、戸田建設株式会社、株式会社大林組(以下、請求人等という。)より無効審判が請求され、平成6年審判第17426号事件(以下、6年事件という。)として審理され、平成7年2月6日に答弁書及び訂正請求書(平成6年2月6日付であるが平成7年2月6日に提出されているので平成7年の誤りと認められる)が出され、平成7年3月7日に訂正請求理由補充書が出され、平成7年5月17日に審判事件答弁理由補充書が出され、平成7年9月20日に訂正拒絶理由通知書が出され、平成8年1月9日に審判事件弁駁書が出され、平成8年1月23日、平成8年4月17日、平成8年5月20日に被請求人より意見書が出され、その後、平成9年7月17日に無効とする旨の審決があり、これを不服とする訴えが東京高等裁判所において平成9年(行ケ)222号事件として審理され、平成11年2月16日に当該審決を取り消す旨の判決が言い渡され、この判決は確定した。
3. 一方、平成7年6月15日に株式会社菱備基礎より無効審判が請求され、平成7年審判第12480号事件(以下、7年事件という。)として審理され、平成7年11月20日に審判事件答弁書が出され、平成9年6月13日付けで無効とする旨の審決があり、これを不服とする訴えが東京高等裁判所において平成9年(行ケ)211号事件として審理され、平成11年6月1日に当該審決を取り消す旨の判決が言い渡され、この判決は確定した。
4. その後、特許庁においてこれら2つの審判事件は併合してさらに審理され、平成11年9月21日に平成7年2月6日に出された訂正請求書に対して訂正拒絶理由通知が出され、平成11年12月24日付けで被請求人(特許権者)より意見書と共に手続補正書が出された。

第2 無効審判請求人の主張の概要

1. 6年事件において、請求人等は、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明(以下、本件発明という。)及び平成7年2月6日に出された訂正請求書により訂正された発明は、本件特許の出願前に頒布された次の甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効となるべきである旨主張する。
甲第1号証:特開昭55-142826号公報
甲第2号証:土木学会監修「建設機械」、昭和46年10月15日、株式会社技報堂発行、472頁ないし474頁
甲第3号証:実公昭45-18857号公報
2. また、7年事件において、請求人は、本件発明は、本件特許の出願前に頒布された次の甲第6号証に記載されたものと同一、または、本件特許の出願前に頒布された次の甲第6号証ないし甲第10号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定に該当し、無効となるべきである旨主張する。
甲第6号証:特開昭55-142826号公報
甲第7号証:実公昭57-26927号公報
甲第8号証:実公昭57-28927号公報
甲第9号証:土木学会監修「建設機械」、昭和46年10月15日、株式会社技報堂発行、472頁ないし474頁
甲第10号証:実公昭45-18857号公報

第3 被請求人の主張の概要

1. 6年事件の平成7年2月6日付の審判事件答弁書において、本件発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明と同一でなく、また、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものではないこと、さらに、平成7年5月17日付けの審判事件答弁理由補充書において、平成7年2月6日の訂正請求書により特許請求の範囲を訂正しており、訂正後の発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない旨主張する。
2. 平成7年9月20日付の訂正拒絶理由通知書に対しては、平成8年1月23日、平成8年4月17日、平成8年5月20日の意見書において、訂正後の発明は、引用例(特開昭55-142826号公報)の存在に関わらず独立して特許を受けることができるものである旨主張する。
3. 平成11年9月21日付の訂正拒絶理由通知に対しては、平成11年12月24日に手続補正書を提出するとともに、同日付けの意見書において、平成7年2月6日に提出の訂正請求書は補正され、補正された訂正請求は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである旨主張する。

第4 訂正拒絶理由通知書及びそれに対する意見書、補正書の検討

1. 当審が平成11年9月21日付でした訂正拒絶理由通知書の理由は下記のとおりである。

「1.本件訂正請求の内容
平成7年2月6日に被請求人が行った、明細書の訂正の請求(以下、本件訂正請求という。)の訂正の内容は、不明瞭な記載の釈明を目的として、昭和62年2月23日付けの手続補正書に添付した明細書(以下、訂正前明細書という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書に記載のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、
(1)訂正事項1
訂正前明細書の特許請求の範囲の
「走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法において、前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える共に、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行うホイールクレーン杭打工法。」を、
「a.走行できる車台(2)上に架設されたクレーン本体(3)が水平面上で回転自在に設けられ、
b.前記クレーン本体(3)には起伏自在にブーム本体(5)の一端を枢着し、
c.前記ブーム本体(5)の先端にはブーム挿入部(6)を出没自在に設けてブーム(4)を長さの方向に伸縮自在にし、
d.前記ブーム挿入部(6)の先端に連結したアースオーガー装置(8)を有する
e.ホイールクレーン車(1)を用いる
f.ホイールクレーン杭打工法において、
g.前記アースオーガー装置(8)に取り付けた掘進用のスパイラルスクリュー(11)に、
h.前記ブーム本体(5)と前記クレーン本体(3)との間に設けた前記牽引装置により
i.前記ブーム本体(5)を牽引しブーム(注、前記ブームの誤り)(4)に曲げモーメントを与えて、
j.前記ブーム挿入部(6)の先端を介して、前記アースオーガー装置(8)に、最大時前記ホイールクレーン車(1)のほぼ全重量を利用した曲げモーメントに基づく垂直分力を与えると共に、
k.前記ブーム(4)の長さをブーム挿入部(6)を引き込める事により逐次縮小させ、前記ブーム挿入部(6)の先端を介して垂直方向の垂直分力を前記アースオーガーに加圧しつつ
l.杭打等を行う
m.ホイールクレーン杭打工法。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前明細書5頁9行〜6頁2行の「問題点を解決するための手段」の記載を、特許請求の範囲の記載に合わせて訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前明細書7頁16〜17行の「実施例」における記載の「ブーム4等ホイールクレーン車1の全重量が」を、「ブーム4等を含むホイールクレーン車1の全重量を利用した曲げモーメントに基づく垂直分力が」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前明細書7頁19行〜8頁1行の「実施例」における記載の「最大でアースオーガ装置8の重量、ブーム本体5の重量、クレーン本体3の重量がすべてケーシング10への押圧力になって」を、「最大時、アースオーガ装置8の重量、ブーム4の重量、クレーン本体3の重量をすべて利用した曲げモーメントに基づく垂直分力がスパイラルスクリュー11、又はケーシング10への押圧力になって」と訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前明細書の「図面の簡単な説明」の欄の「6・・・挿入部」を「6・・・ブーム挿入部」と訂正する。
2.本件訂正請求の適否について
(1)訂正請求人は、いずれの訂正も(平成5年法律第26号で一部改正された特許法第134条第2項ただし書き第3号の)明りょうでない記載の釈明を目的とするものである旨主張するので、検討する。
(2)本件訂正請求の訂正事項1は、特許請求の範囲を訂正するものである。
請求人は、訂正請求書において、訂正事項1について、訂正前の特許請求の範囲の記載は「見方によっては、極々軽微ながら不明瞭の虞無しとしない。それ故、上記の特許請求の範囲の欄の記載を、別紙訂正明細書の特許請求の範囲の欄の記載の通りに、訂正することを求める。この訂正は、不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。」と主張するが、訂正前のものがどのように不明瞭であり、訂正することによってどのように明瞭になったのか具体的に主張していない。
(3)そこで、訂正前明細書における特許請求の範囲の記載を検討すると、訂正前の「前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、」という記載は、牽引装置についてこれよりも前には牽引装置は記載されていないことから「前記」の意味するところが不明であるが、該「前記」を単なる誤記としてこれがないものと理解し、「前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える共に、」という記載の「与える共に」は、「与えると共に」の単なる誤記と理解すれば、それ以外に特許請求の範囲の記載に不明瞭な記載は存在しない。
(4)訂正請求人は、特許請求の範囲の記載を、上記の誤記の訂正とともに、訂正前の「前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える共に、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行う」という記載(以下、記載事項イという)を、
「h.前記ブーム本体(5)と前記クレーン本体(3)との間に設けた前記牽引装置により
i.前記ブーム本体(5)を牽引しブーム(注、前記ブームの誤り)(4)に曲げモーメントを与えて、
j.前記ブーム挿入部(6)の先端を介して、前記アースオーガー装置(8)に、最大時前記ホイールクレーン車(1)のほぼ全重量を利用した曲げモーメントに基づく垂直分力を与えると共に、
k.前記ブーム(4)の長さをブーム挿入部(6)を引き込める事により逐次縮小させ、前記ブーム挿入部(6)の先端を介して垂直方向の垂直分力を前記アースオーガーに加圧しつつ
l.杭打等を行う」
という記載(以下、記載事項ロという)に訂正しようとするが、当該訂正の趣旨は、記載事項イには明りょうでない点があることから、記載事項ロによって明りょうにしようとするものと解される。
(5)しかしながら、記載事項イにおいては、ブームとクレーン本体との間に設けた牽引装置によりブームを牽引し、ブームに曲げモーメントを与えることによって、(ブーム)挿入部の先端からアースオーガー装置にホイールクレーン車のほぼ全重量のすべてを乗せて垂直分力を与えること、そして、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記(ブーム)挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打を行うことが一義的に明確に理解できるのであって、不明りょうな点は存在しない。
念のため、訂正前の明細書において、当該記載事項イに関する詳細な説明の欄における記載を検討すると、「問題点を解決するための手段」の欄において、上記記載事項イと同じ記載があり、「実施例」において、「牽引シリンダー装置7の流体圧の力よりブーム本体5を牽引しブーム4に曲げモーメントをかけると、ブーム4等ホイールクレーン車1の全重量が、垂直にスパイラルスクリュー11に作用し強い押圧力となって作用する。理論的には、最大でアースオーガ装置5の重量、ブーム本体5の重量、クレーン本体3の重量がすべてケーシング10の押圧力になって作用する。」(訂正前明細書7頁16行〜8頁1行)と記載されており、これらの記載は、上記のように、ブームとクレーン本体との間に設けた牽引装置によりブームを牽引し、ブームに曲げモーメントを与えることによって、(ブーム)挿入部の先端からアースオーガー装置にホイールクレーン車のほぼ全重量のすべてを乗せて垂直分力を与えるという理解と整合する。
(6)かえって、記載事項ロにおいては、「最大時前記ホイールクレーン車(1)のほぼ全重量を利用した曲げモーメント」と記載されており、曲げモーメントは、ホイールクレーン車のほぼ全重量のすべてを利用するのか、あるいはその一部を利用するのか明確でなく、特許請求の範囲の記載を不明りょうとしている。
(7)以上のように、訂正前明細書の特許請求の範囲の記載に明りょうでない点はなく、当該記載から、本件特許1467438号発明の技術的思想を一義的に把握できるのであるから、特許請求の範囲を訂正事項1のように訂正することは、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当しない。
(8)また、訂正事項1の特に記載事項ロのように特許請求の範囲を訂正することは、曲げモーメントは、ホイールクレーン車のほぼ全重量のすべてを利用するのか、あるいはその一部を利用するのか明確でないことから、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正に該当するとは考えられず、さらに、誤記の訂正を目的とする訂正にも該当しない。
3.したがって、本件訂正請求の訂正内容のうち少なくとも訂正事項1(特許請求の範囲の訂正)は、特許法第134条第2項ただし書きの要件を満たさないものである。」
2. 平成11年12月24日付け補正書について
(1)平成11年12月24日付け補正書により、特許請求の範囲については次のように補正するとともに、特許請求の範囲の記載と整合させるために発明の詳細な説明の欄及び図面の簡単な説明の欄を補正している。
「a.走行できる車台(2)上に架設されたクレーン本体(3)が水平面上で回転自在に設けられ、
b.前記クレーン本体(3)には起伏自在にブーム本体(5)の一端を枢着し、
c.前記ブーム本体(5)の先端にはブーム挿入部(6)を出没自在に設けてブーム(4)を長さの方向に伸縮自在にし、
d.前記ブーム挿入部(6)の先端に連結したアースオーガー装置(8)を有する
e.ホイールクレーン車(1)を用いる
f.ホイールクレーン杭打工法において、
g.前記アースオーガー装置(8)に取り付けた掘進用のスパイラルスクリュー(11)に、
h.前記ブーム本体(5)と前記クレーン本体(3)との間に設けた牽引装置(7)により
i.前記ブーム本体(5)を牽引し前記ブーム(4)に曲げモーメントを与えて、
j.前記ブーム挿入部(6)の先端を介して、前記アースオーガー装置(8)に、最大時前記ホイールクレーン車(1)のほぼ全重量を利用した曲げモーメントに基づく垂直分力を与えると共に、
k.前記ブーム(4)の長さを前記ブーム挿入部(6)を引き込める事により逐次縮小させ、前記ブーム挿入部(6)の先端を介して垂直方向の垂直分力を前記アースオーガーに加圧しつつ
l.杭打等を行う
m.ホイールクレーン杭打工法。」
(2)上記補正の内容は、特許請求の範囲におけるhの「前記牽引装置」を「牽引装置(7)」と補正し、kの「長さをブーム挿入部」を「長さを前記ブーム挿入部」と補正し、発明の詳細な説明の欄及び図面の簡単な説明の欄を特許請求の範囲の記載と整合させるために補正するものであって、訂正事項の軽微な瑕疵の補正に相当するものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではないので、以後、平成7年2月6日提出の訂正請求書は、平成11年12月24付補正書で補正されたものとして検討する。
3.補正後の訂正請求書について
訂正請求書による訂正の内容は平成11年12月24日付けで補正された訂正請求書に記載されたとおりである。
そして、補正後の訂正請求書の特許請求の範囲に記載された発明と、補正前の特許請求の範囲に記載された発明とは、hの「前記牽引装置」を「牽引装置(7)」と補正し、kの「長さをブーム挿入部」を「長さを前記ブーム挿入部」と補正した以外は同じであり、実質的な差異は存しない。
したがって、当審が平成11年9月21日付けでした訂正拒絶理由通知の理由と同じ理由で、補正後の訂正請求書による訂正請求は適法な訂正請求とは認められない。

第5 無効審判請求人の主張について

1. 本件発明の認定
上記したように訂正請求は適法な訂正請求とは認められないので、本件特許の特許請求の範囲の記載及び明細書の記載事項は、昭和62年2月23日付けの手続補正書に添付した明細書に記載されたとおり(特許公報に記載されたとおり)であり、特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法において、前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える共に、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行うホイールクレーン杭打工法。」(以下、本件発明という。)
2. 無効審判請求人の提示した書証の検討
(1)6年事件において提示された書証と、7年事件において提示された書証は、いずれも本件特許の出願前に頒布されたと認められ、一部重複するので整理する。
刊行物1:特開昭55-142826号公報(6年事件の甲第1号証、7年事件の甲第6号証)
刊行物2:土木学会監修「建設機械」(昭和46年10月15日、株式会社技報堂発行)の472頁ないし474頁(6年事件の甲第2号証、7年事件の甲第9号証)
刊行物3:実公昭45-18857号公報(6年事件の甲第3号証、7年事件の甲第10号証)
刊行物4:実公昭57-26927号公報(7年事件の甲第7号証)
刊行物5:実公昭57-28927号公報(7年事件の甲第8号証)
(2)各刊行物に記載された事項の認定
(2-1)刊行物1:特開昭55-142826号公報
刊行物1には、圧入工法及びその装置に関する発明が記載されており、特許請求の範囲第1項には、「1.クレーン本体に対して俯仰する主ブーム及びこれに対して伸縮若しくは俯仰回動する副ブームを備えたクレーン機の前記副ブームの先端に、回転駆動機構にて回転されるオーガースクリューを備えたアースオーガーの頭部を枢結すると共に、前記アースオーガーには被圧入物を並置して保持させ、前記アースオーガの掘削と前記クレーン機の各ブームの動作に依り該アースオーガと被圧入物とを略垂直に土中へ推進し、所定深さに達すると被圧入物のみを土中に残存させてアースオーガを引抜く様にしたことを特徴とする圧入工法。」と、3頁左下欄20行ないし右下欄12行には、「クレーン機4は種々の構造のものがあるが、定置式より移動式のものが望ましく、とりわけ、第1図乃至第3図に示したトラッククレーン機が最も好ましい。これは周知の如くトラック22の荷台部分に旋回機構23を介してクレーン本体24が設置され、該本体24には俯仰回動する主ブーム25が枢設されている。而して主ブーム25にはこれに伸縮自在に設けられた少なくとも一つの副ブーム26があり、図面では二つの副ブームがある場合を例示している。これら副ブーム26は例えば流体圧シリンダや、ロープと滑車を組合せた機構に依り作動される。」と、3頁右下欄20行ないし4頁左上欄1行には、「そして前記最先の副ブーム26の先端にはアースオーガー2の頭部を直接連結する。」と、4頁右上欄3行ないし左下欄7行には、「次に本発明の圧入装置1の作用及びこれを用いた圧入方法に就いて詳解する。先ず、圧入すべき場所にクレーン機4を配置し、各ブーム25、26を伸長状態にしてアースオーガー2を垂直に樹立させる。そしてクレーン機4が装備しているウインチ27を使って被圧入物3を吊上げ、その下端の掛片21を掛金具20に掛合させ、上端は挟持機構12にて掴持して第1図並びに第2図に示す如くアースオーガー2の側部にセットする。次に、既に埋設された被圧入物3がある場合には第1図並びに第5図に示す如くこれに所定状態にて連続すべく旋回機構8を作動させて押入位置を決定し、回転駆動機構5に依りオーガースクリュー6を推進方向へ回転させる。同時に主ブーム25に対して副ブーム26を短縮させると共に主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する。第3図はアースオーガー2と共に被圧入物3を所定深さまで没入させた状態を示す。この様な状態に達すると挟持機構12を解放すると共にオーガースクリュー6を逆転させ、各ブーム25、26を前述とは逆に作動させて被圧入物3のみを土中に残存させる。」と記載され、第1図と第2図、及び第1図と第2図に基づく説明内容の記載から、走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在に主ブームの一端を枢着し、前記主ブームには副ブームを出没自在に設けてブームを長さ方向に伸縮自在であると共に前記車台に対して俯仰回動し、前記副ブームの先端に連結したアースオーガ-を有するトラッククレーン車を用いて杭を圧入すること、前記アースオーガーに取り付けた掘進用のオーガースクリューに、主ブームをクレーン本体に対して下回動させて、前記副ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与すると共に、前記ブームの長さを副ブームを引き込めることにより逐次縮小させ、前記副ブームの先端を介して下向きの力を前記アースオーガーに加えつつ、杭打等を行うこと、が夫々記載されていると認められる。
(2-2)刊行物2:土木学会監修「建設機械」(昭和46年10月15日、株式会社技報堂発行)の472頁ないし474頁
「4.4.2」の項には、「トラッククレーン、ホイールクレーン、クレーン車」の項に「移動式クレーンのうち走行装置がタイヤ式のものが、トラッククレーン、ホイールクレーン、クレーン車である。」と記載されている。
(2-3)刊行物3:実公昭45-18857号公報
ブーム垂直移動装置に関する考案が記載されており、1欄19行ないし29行には、「本考案は軌道車或いは自動車等の運搬車に取付け特に電柱等の穴堀に使用するブーム垂直移動装置に関するもので、その目的とするところは、オーガーの先端を垂直に上下動させると共にその範囲を大幅に移動させる様にしたブーム垂直移動装置を提供しようとするものである。又本考案の他の目的とするところはブーム起伏機構に油圧シリンダー等の伸縮機を使用し強力なる上下腕力を得ると共に機構的にも無理のないブーム垂直移動装置を提供しようとするものである。」と、図面の第1〜3図には、走行できる車体8の台車8a上に回転台8bが回転自在に設けられ、この回転台8bにブーム垂直移動装置の台枠1が設けられ、水平面上で回転自在のブーム2が台枠1に設けられ、台枠にはシリンダー3により起伏自在にブーム2の一端を枢着し、台枠とブーム2との間にブーム2を上下動させるとともにブーム2に強力なる上下腕力を与えるシリンダー3を設け、ブーム2の先端に電柱等の穴掘りに使用するオーガーを有する掘削杵を取付けたブーム垂直移動装置が記載されている。
(2-4)刊行物4:実公昭57-26927号公報
自走式杭打機に関する考案が記載されており、軟弱地における杭打作業の際、リーダーが地面に埋没して傾斜状態となったとしても、リーダー自体の伸長によって簡単に垂直状態に修正設置されて正常な杭打作業を進めることができるようにすることを目的として、実用新案登録請求の範囲には、「クレーンの先端に吊下装置した上部リーダーと、この上部リーダーと伸縮自在に連結すると共に下端に安全座を具備した下部リーダーとによってリーダーを構成し、且つこのリーダー内に、シリンダー後端若しくはピストンロッド後端の何れか一方を上部リーダー側に取付け、他端を下部リーダー側に取付けたリーダー伸縮用シリンダーを装置すると共に、前記上部シリンダーの上方部に送油ホース用開口部を形成し、前記送油ホースを前記送油ホース用開口部より、リーダー内に通したことを特徴とする自走式杭打機。」と記載されている。
(2-5)刊行物5:実公昭57-28927号公報
引抜機に関する考案が記載されており、地中に打込んだ矢板、H鋼板等を地中から引抜くための機械に関するものであって、実用新案登録請求の範囲には、「クレーン車1の伸縮自在のブーム2の先端に、基部に反力台3を有する支柱4と矢板、H鋼板等地中打込材5のクランプ付ワイヤ吊上具6とを吊下するとともに、反力台3に油圧又は空圧シリンダー7を立設し、前記支柱4の基部付近には該支柱4の長手方向に摺動自在に昇降枠8を設け、同昇降枠を前記シリンダー7のシリンダーロッド9と連結し、しかも同昇降枠にワイヤ吊上具6の持上部10を形成してなる引抜機。」と記載されている。
3. 対比、判断
(1)本件発明と刊行物1に記載されたものとを比較すると、刊行物1に記載されたものにおいては、クレーン本体はトラッククレーン機に設けられており、主ブーム25はその先端部にアースオーガ2を有しており、他端はクレーン本体24に枢着されて、オーガースクリュー6が地中に入るにしたがって第2図に示す状態から第3図に示す状態に角度が変わるものであり、主ブームを俯仰(起伏と同義)させるための何らかの装置が設けられていると考えられるものの、刊行物1に記載されたものには、ブームとクレーン本体との間に牽引装置が設けられていない。また、主ブーム25を牽引し主ブーム25に曲げモーメントを与えて、副ブーム26の先端からオーガースクリュー6にトラッククレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える旨の記載や、副ブームの先端に垂直方向の垂直分力をアースオーガー装置に加圧する旨の記載はない。さらに、被請求人(特許権者)も平成8年1月24日付意見書の7頁3行ないし22行において主張するように、主ブームを下向きに牽引することにより主ブーム25に曲げモーメントを与え、オーガースクリュー6にトラッククレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与えるようにすることは、刊行物1の出願時にはむしろ危険とされていたことから、そのような作用が刊行物1に示唆されているとは考えられない。
そして、刊行物1に記載されたものの副ブーム、オーガスクリューは、本件発明のブーム挿入部、スパイラルスクリューに相当することは明らかであるから、両者は次の点で一致し、相違していると認められる。
一致点:
「走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するクレーン車を用いる杭打工法において、
前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に垂直分力を与える共に、ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行うクレーン杭打工法。」
相違点1:
本件発明が、ホイールクレーン車によって杭打ちを行うのに対し、刊行物1に記載されたものは、トラッククレーン機によって杭打ちを行う点。
相違点2:
本件発明が、ブームとクレーン本体との間に設けた牽引装置により、ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、挿入部の先端からアースオーガー装置にホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与えると共に、挿入部の先端に垂直方向の垂直分力をアースオーガー装置に加圧するのに対し、刊行物1に記載されたものには、ブームとクレーン本体との間に牽引装置が設けられていない点。
(2)上記相違点について検討する。
まず、相違点1については、走行できる車両にクレーンを設けたものにおいて、本件発明のようにホイールクレーン車を用いることも、刊行物1に記載されたもののようにトラッククレーン機(トラッククレーン車と同義)を用いることもともに、本件特許の出願前に周知の技術的事項であって(例えば上記刊行物2を参照のこと)、本件発明の相違点1に係る構成としたことに技術的意義があるとはいえない。
次に、相違点2について検討する。
刊行物2においては、トラッククレーンに関する記載は認められるものの、本件発明の上記相違点2に係る構成に関する記載は認められない。
次に刊行物3においては、ブーム垂直移動装置には「台枠とブームとの間にブームを上下動させるとともにブームに強力なる上下腕力を与える油圧シリンダー」が設けられ、ブームの先端に設けられたオーガーにより穴を掘るものであるが、当該油圧シリンダーが、車体のほぼ全重量を載せて垂直分力を与えるようにブームに下方向の力を付与する旨の記載はなく、本件発明の上記相違点2に係る構成に関する記載は認められない。
次に刊行物4記載のものは、軟弱地における杭打作業の際、リーダーが地面に埋没して傾斜状態となったとしても、リーダー自体の伸長によって簡単に垂直状態に修正設置されて正常な杭打作業を進めることができるようにすることを目的とするものであって、第1図において、クレーンのブームと旋回体との間に油圧シリンダと思われるものが図示されているものの、刊行物4には本件発明の上記相違点2に係る構成に関する記載は認められない。
次に刊行物5においては、地中に打込んだ矢板、H鋼板等を地中から引抜くための引抜機に関する記載は認められるものの、本件発明の上記相違点2に係る構成に関する記載は認められない。
以上のように、刊行物2ないし5に記載されたものには、本件発明の上記相違点2に係る構成が記載されておらず、それを示唆する記載も認められない。
(3)また、本件発明は、上記相違点2に係る構成としたことにより、明細書の発明の効果の項に記載した作用効果、つまり、「(イ)ホイールクレーンを利用するのでその自走性を利用して遠距離地域での作業が可能である。(ロ)牽引シリンダー装置とブーム等の自重とによる押圧力を垂直に打杭又は掘進方向に作用させるので在来の如き振動、騒音は全く伴わない。(ハ)本発明にはリーダー、支柱等の如き補助的装置は全く必要がないので、これ等を準備、設置する費用と手間が省けると共にこれ等を設置する平面積が要らないから、狭い場所でも作業が可能である。実績によれば既設建造物から15cmの距離に近付いて作業ができる。(ニ)牽引シリンダー装置を利用してブームを倒しつつ押圧力を杭打ち方向に加え得るから、掘進の為に強力な押圧力が加えられるので、硬質地盤でも掘進、杭打ち込み等が可能である。(ホ)水平方向に360度回転する事と、ブームの伸縮することにより地盤上の掘進、打ち込みをする位置、方向を選ばず施工できる。(ヘ)高所、低所等段差のある場所でも、リーダー、支柱等を要しないので直ちに、任意に打込み等の作業ができる。」という作用効果のうち特に(ニ)の作用効果が期待できるものである。
(4)したがって、本件発明は、上記刊行物1ないし5に記載されたものと同一の発明であるとも、刊行物1ないし5に記載されたものから当業者が容易に発明できたものともすることはできないから、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項に該当するとすることはできない。
4. 6年事件の請求人等は、本件発明の上記相違点2に関して、刊行物3にはブーム起伏機構に油圧シリンダー等の伸縮機を使用して、強力な上下腕力を得て、穴掘用のオーガーに強い下向きの力を加えることが記載されており、このシリンダーは本件発明の牽引装置に相当する旨主張するが、刊行物3に記載されたシリンダーが、車体のほぼ全重量を載せて垂直分力を与えるようにブームを下向きに牽引する旨の記載はなく、また、刊行物3の出願当時に同様のシリンダーを、車体のほぼ全重量を載せて垂直分力を与えるように下向きに牽引するように用いることが周知であったとも認められないから、請求人等の主張は採用できない。
5. また、7年事件の請求人は、刊行物1や刊行物3に記載されたものには、本件発明の牽引装置に相当する装置が記載されていることを前提に、本件発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第6号証(刊行物1)に記載されたものと同一、または、本件特許の出願前に頒布された甲第6号証ないし甲第10号証(それぞれ刊行物1、同4、同5、同2、同3に対応する)に記載された発明から当業者が容易に発明できたものである旨主張するが、上記3に記載したように、刊行物1や刊行物3に記載されたものには、本件発明の牽引装置に相当する装置が記載されていないのであるから、本件発明は、上記刊行物1に記載されたものと同一の発明であるとも、また、上記刊行物1ないし5に記載されたものから当業者が容易に発明できたものともすることはできず、請求人の主張は採用できない。

第6 まとめ

以上のとおりであるから、6年事件において無効審判請求人等が主張する理由及び証拠方法、並びに7年事件において無効審判請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
また、審判費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、いずれも請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1997-03-27 
結審通知日 1997-04-18 
審決日 1997-06-13 
出願番号 特願昭58-226461
審決分類 P 1 112・ 113- YB (E02D)
P 1 112・ 121- YB (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐田 洋一郎  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 憲子
幸長 保次郎
鈴木 公子
小野 忠悦
登録日 1988-11-30 
登録番号 特許第1467438号(P1467438)
発明の名称 ホイ-ルクレ-ン杭打工法  
代理人 鈴木 知  
代理人 鈴木 知  
代理人 富崎 元成  
代理人 原島 典孝  
代理人 鈴木 知  
代理人 一色 健輔  
代理人 一色 健輔  
代理人 葛西 四郎  
代理人 原島 典孝  
代理人 清原 義博  
代理人 一色 健輔  
代理人 原島 典孝  
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