• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない C01B
管理番号 1054722
審判番号 審判1997-5425  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-04-04 
確定日 2002-03-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第2529062号「シリカ成長粒子の製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成12年 8月22日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12年(行ケ)第381号平成13年 9月 17日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
特許出願 平成 4年 7月30日
設定登録 平成 8年 6月14日
(特許第2529062号)
無効審判請求 平成 9年 4月 4日
答弁書、訂正請求書 平成 9年 7月25日
訂正拒絶理由通知 平成 9年 9月 4日
意見書 平成 9年12月 8日
上申書(被請求人) 平成10年 5月29日
上申書(請求人) 平成10年 7月10日
見解書(請求人) 平成10年 7月29日
参考資料(被請求人) 平成10年 7月29日
口頭審理 平成10年 7月29日
上申書(被請求人) 平成10年 8月 6日
審決(維持) 平成10年 9月30日
高裁出訴(平成10年(行ケ)第370号) 平成10年11月25日
高裁判決言渡(審決取消) 平成12年 2月 3日
上申書(被請求人) 平成12年 2月24日
上申書(被請求人) 平成12年 4月27日
審 決(全部無効) 平成12年 8月22日
高裁出訴(平成12年(行ケ)第381号) 平成12年10月10日
訂正審判請求(訂正2000-39143号) 平成12年11月21日
訂正拒絶理由通知 平成13年 2月23日
訂正2000-39143号取下 平成13年 5月 2日
訂正審判請求(訂正2001-39069号) 平成13年 5月 2日
審決(訂正認容) 平成13年 6月22日
審決確定 平成13年 7月 4日
高裁判決言渡(審決取消) 平成13年 9月17日

II.訂正2001-39069号の請求項1の訂正内容と本件訂正発明
平成13年5月2日付けで訂正2001-39069号として訂正請求され平成13年6月22日付け審決で認容され同年7月4日に確定した本件特許第2529062号に係る特許明細書の請求項1についての訂正内容は、次のとおりであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という)は、この請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】シリカ種粒子をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液にシリコンアルコキシドを単独で添加してこれを加水分解させ、シリカ種粒子の粒径を成長させるシリカ成長粒子の製造方法において、シリコンアルコキシドを添加する前の分散液中の全シリカ種粒子の合計表面積(So)と同分散液中の溶液成分の合計容積(Vo)との比So/Voを395〜992(cm2/cm3)とし、かつシリコンアルコキシドを添加した後の分散液中の成長した全シリカ成長粒子の合計表面積(S)と同分散液中の溶液成分の合計容積(V)との比S/Vを531〜1147(cm2/cm3)として、お互いに分布が重なり合わない2種類の粒径分布を持つシリカ成長粒子とシリカ微小粒子を得たのち、分級してシリカ微小粒子を除去することを特徴とするシリカ成長粒子の製造方法。」
III.無効審判請求人の無効理由及び証拠方法
1.無効理由
審判請求人(触媒化成工業株式会社)は、「特許2529062号発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として甲第1〜8号証を提出して、次の(1)及び(2)の理由により、本件特許発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであると主張している。
理由(1):本件特許発明は、甲第1号証(特開昭62-260712号公報)に記載された発明である。
理由(2):本件特許発明は、甲第6号証(特開昭62-275005号公報)に記載された発明である。
2.証拠方法と記載内容
審判請求人が提出した証拠方法及びその記載内容は、それぞれ次のとおりである。
(1)甲第1号証:特開昭62-260712号公報
(1‐1)「アルコール溶媒中でアルキルシリケートを水およびアンモニアで加水分解しシリカ粒子を製造する方法において、
(1)シリカ粒子核を生成させる工程と
(2)粒子核の成長と整粒を行なわせる工程
の2工程から成ることを特徴とするシリカ粒子の製造法。」(1頁左下欄特許請求の範囲)
(1‐2)「本発明で使用されるアルキルシリケートは、オルトケイ酸(H4SiO4)のアルキルエステルで一般式Si(OR)4(R:アルキル基)で表わされ、通常アルキル基Rの炭素数は1〜5程度であるが、アルキルシリケートの反応性、工業規模での入手の容易さなどから特に炭素数2〜3のアルキルシリケート、すなわちエチルシリケート、プロピルシリケートなどが好ましい。」(2頁右上欄1〜8行)
(1‐3)「本発明の粒子核の成長と整粒を行なう工程は、例えば第1工程で得られたシリカ粒子核を含む溶液にアルコール、アンモニアを添加混合し、次いでアルキルシリケートを添加し、シリカ粒子核の成長を行なわせることによってできる。第2工程で使用するアンモニアとアルキルシリケート量は目的粒径によって変わりうるが・・(中略)・・目的粒子径が比較的大きい場合は、追加するアンモニア、アルキルシリケート量を多くする必要があるが、このような場合にはこれらの試薬をアルコール溶液で希釈して添加することが望ましい。」(2頁左下欄15行〜同貢右下欄7行)
(1‐4)「なお、本発明においては粒子の凝集を防止する目的で、アルコールに炭化水素を混合することができる。この炭化水素は、アルコールと相容性があるものであれば特に限定されるものではない、溶媒回収の容易さ、炭化水素の価格などから炭素数5〜12の脂肪族、脂環族、芳香族炭化水素が好ましく、特に炭素数6〜9が好ましい。特に好ましい炭化水素の例として、n-へキサン、・・(中略)・・などがある。」(2頁右下欄10〜20行)
(1‐5)「実施例2
エタノール120g、およびエチルシリケート10gを1lフラスコに仕込み、20℃、300rpmの条件で濃アンモニア水20gを添加しシリカ粒子核を生成させた(平均粒子径0.8μm)。次いでエタノール240g、n-へキサン40g、アンモニア水150gをフラスコに添加し、エタノール100g、エチルシリケート100gの混合溶液を60分間でゆっくり滴下し、さらに60分間撹拌を継続し、シリカ微粒子を調製した(平均粒径2.1μm)。第4図(註:「第2図」の誤記と認める。)は得られたシリカ微粒子の粒子構造の走査型電子顕微鏡写真である。さらに粒子核およびシリカ粒子の粒径分布を実施例1と同様に測定した結果を第6図および第7図に示す。」(第3頁右上欄第5〜19行)
(1‐6)「第6図および第7図から明らかなように、第1工程のシリカ粒子核生成時にはシリカ粒子核の粒度が不均一であったにもかかわらず、第2工程の粒子調製工程を経るとシリカ粒子の粒度が極めて均一になった。」(第3頁石上欄第20行〜同頁左下欄第4行)
(1‐7)第2図にはシリカ微粒子の粒子構造の走査型電子顕微鏡写真が、第6図には「シリカ粒子核の粒度分布」の図が、また、第7図には「シリカ粒子の粒度分布」の図が、それぞれ示されており、このうち第6図からシリカ種粒子の粒径分布は、最大ピークが約0.75μm附近で、約0〜2μmの範囲にわたって分布する平均粒径が0.8μmのものであり、また、第7図の記載からシリカ粒子の粒径分布は、最大ピークが約2μm附近で、約0.9〜3μmの範囲にわたって分布する平均粒径が2.1μmのものである。
(2)甲第2号証:平成9年2月10日付け「見解書」(請求人会社のファイン研究所の研究員小柳嗣雄が作成した見解書)
「見解書」には、甲第1号証の実施例2に開示されているシリカ粒子の製造方法における「So/Vo」及び「S/V」の値の計算過程と計算結果が示されている。
(3)甲第3号証:平成9年3月13日付け「実験報告書」(請求人会社のファイン研究所の研究員小柳嗣雄が作成した実験報告書)
「実験報告書」には、甲第1号証の実施例2に記載の方法に従ってシリカ粒子を製造し、得られたシリカ粒子の粒子密度と、この値を用いて「So/Vo」及び「S/V」の値を計算した結果が示されている。この計算結果によれば、甲第1号証の実施例2では、So/Vo=589、S/V=600であると報告されている。
(4)甲第4号証:KIRK-OTHMER「ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY」THIRD EDITION、Vol.20、Jhon Wiley&Sons、(1982)、p.766〜768
溶液から調製されたシリカの真密度は2.0〜2.1であることが示されている。
(5)甲第5号証:特開平1-145317号公報
「本発明は、・・(中略)・・粒子の真比重が1.20〜2.10の範囲で制御された高純度な真球状シリカ微粒子の製法に関するものである。」(第2頁左下欄第9行〜同頁右下欄第18行)
(6)甲第6号証:特開昭62-275005号公報
(2‐1)「金属酸化物あるいは金属水酸化物がシードとして分散された水-アルコール系分散液に、該分散液をアルカリ性に保ちながら金属アルコキシドを添加して加水分解し、前記シード上に金属アルコキシド分解生成物を付着させて粒子成長を行なわせることを特徴とする単分散された粒子の製造方法。」(1頁左下欄特許請求の範囲)
(2‐2)「このようにして金属酸化物粒子あるいは金属水酸化物粒子がシードとして分散された水-アルコール系分散液が得られるが、分散液中のシードが凝集して合体しないように、この分散液にアルカリを加えて安定化された分散液(以下ヒールゾルと称することがある)とする。もしアルカリを加えて分散液の安定化を図らないと、シード粒子同士が凝集して沈殿してくることがある。シード同士が凝集すると、凝集粒子の接合部分(ネック部)にも金属アルコキシド分解生成物の付着が起こるため、均一な粒径を有する粒子が得られない。分散液の安定化を図るために加えるアルカリとしては、アンモニアガス、アンモニア水、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、第4級アンモニウム塩、アミン類などが単独であるいは組合せて用いられる。」(3頁左上欄14行〜同頁右上欄9行)
(2‐3)「金属アルコキシドとしては、アルコキシドを形成しうる金属であればどのような金属のアルコキシドであっても用いることができる。アルコキシドを形成するエステル基の炭素数は、1〜7程度望ましくは1〜4程度であることが好ましい。このような金属アルコキシドはアルコールなどで希釈してもよく、又原液のままで用いてもよい。」(3頁左下欄20行〜同頁右下欄7行)
(2‐4)「分散液中に金属アルコキシドを添加するに際しては、金属アルコキシドとともに、水-アルコール混合溶液を添加することが好ましい。これらの金属アルコキシド及び水-アルコール混合溶液は、ヒールゾルに徐々に添加することが好ましい。ヒールゾル中に金属アルコキシドを添加すると、金属アルコキシドは加水分解し始め、このとき急激に溶液のpHが変化する。ヒールゾル液が上記のようなアルカリ性でなくなると、シードが凝集したりあるいは新しいシードが発生したりすることがあり、最終的に得られる粒子の粒度分布がブロードになるため好ましくない。このため金属アルコキシドの添加に際しては、ヒールゾルをアルカリ性に保つようにして行なう。ヒ-ルゾルのpHは10〜13であることが好ましい。ヒールゾルをアルカリ性に保つためには、ヒールゾルにアルカリを添加すればよく、具体的には、添加されるアルカリとして、アンモニアガス、アンモニア水、アミン類、アルカリ金属水酸化物、第4級アンモニウム塩が単独あるいは組み合わせて用いられる。」(3頁右下欄8行〜4頁左上欄7行)
(2‐5)「実施例12
エチルアルコール/水の重量比が89/11である水-アルコール混合液3238gにアンモニアガス90.8gを溶解させ、この混合液に平均粒径が3.5μのSiO2粒子が138.7gを添加して、混合液中のSiO2換算として4重量%に相当するシード分散液を得た。このシード分散液に、直ちにNaOH0.9gが溶解した水溶液90gを加え、10分間超音波処理を施して、シード粒子が水-アルコール分散液に分散したヒールゾルを得た。得られたヒールゾルを撹拌しながら35℃に保ち、アンモニアガスでpHを12.5にコントロールしながら、エチルアルコール1544.2gと水263.6gとの混合液および28%エチルシリケート557.4gを同時に5時間かけて徐々に添加した。全量添加後液中に、NaOH1.01gが溶解した水溶液101gを加え、これを65℃に加熱して1時間保持した。得られた液の物性を表-1に示す。」(7頁左上欄5行〜同頁右上欄4行)
(2‐6)「したがって表-1より、本発明で得られる粒子は、単分散されていることがわかり、しかも均一係数Cvが小さいことおよび第1図から優れた均一性を有していることもわかる。」(8頁左上欄5〜8行)
(2‐7)実施例1〜8、11〜13では、シリコンアルコキシドの添加に際し、アンモニアガスでpHを所定値に保ちながら、「エチルアルコールと水」(実施例1、2、4〜8、11、12)の混合液あるいは「エチルアルコールと水とアンモニア(水)」(実施例3、13)の混合液を同時に添加していること
(2‐8)7頁右下欄の表-1には、実施例12で得られた分散液中の球状粒子の物性として、平均粒子径Dp(μ)は、走査型電子顕微鏡(SEM)によるものは「4.5」、光透過式粒度測定器によるものは「4.6」であり、均一係数「Cv」は「0.08」、凝集状態は「○」(凝集状態が認められない)であると示されている。
(7)甲第7号証:平成10年7月6日付け「実験報告書」(請求人会社のファイン研究所の研究員小柳嗣雄が作成した実験報告書)
「実験報告書」には、甲第6号証の実施例12に記載の方法に従ってシリカ粒子を製造し、得られたシリカ粒子の粒子密度及び平均粒子径を求め、この値を用いて「S。/V。」及び「S/V」の値を計算した結果が示されている。この計算結果によれば、甲第6号証の実施例12では、So/Vo=329、S/V=323であると報告されている。
(8)甲第8号証:平成10年7月29日付け「見解書」(請求人会社のファイン研究所の研究員小柳嗣雄が作成した見解書)
「見解書」には、甲第6号証の実施例12のシリカ成長粒子と甲第7号証のシリカ成長粒子とのCv値(粒子径変動係数)の相違に関する見解が示されている。
IV.被請求人の主張及び証拠方法
1.無効理由に対する主張
被請求人は、別途上記訂正審判を請求したので、その主張の詳細は省略する。
2.証拠方法と記載内容
乙第1号証:平成9年7月18日付け「実験報告書」(被請求人会社の岐阜研究所の研究員足立龍彦が作成した実験報告書)
「実験報告書」には、本件特許発明の実施例1の内容を5回繰り返し実験を試みたところ、実験毎のばらつきがほとんどなく、粒径精度に優れ、粒径分布が単分散のシリカ微粒子が再現性良く得られたことが報告されている。
乙第2号証:特許庁編「審査基準」(社)発明協会発行、平成5年7月20日、「第II部 特許要件」第1頁、第18頁
V.当審の判断
1.無効理由(1)について
甲第1号証には、「アルコール溶媒中でアルキルシリケートを水およびアンモニアで加水分解しシリカ粒子を製造する方法において、
(1)シリカ粒子核を生成させる工程と
(2)粒子核の成長と整粒を行なわせる工程
の2工程から成ることを特徴とするシリカ粒子の製造法。」(上記「(1‐1)」参 照)が記載され、その具体例である実施例2として「エタノール120g、およびエチルシリケート10gを1lフラスコに仕込み、20℃、300rpmの条件で濃アンモニア水20gを添加しシリカ粒子核を生成させた(平均粒子径0.8μm)。次いでエタノール240g、n-へキサン40g、アンモニア水150gをフラスコに添加し、エタノール100g、エチルシリケート100gの混合溶液を60分間でゆっくり滴下し、さらに60分間撹拌を継続」(上記「(1‐5)」参照)するシリカ成長粒子の製造方法が記載されている。
また、その結果についても、粒径分布が約0.9〜3μmの範囲にわたって分布し、最大ピークが約2μm附近で、かつ平均粒径が2.1μmのシリカ成長粒子が得られたこと(上記「(1‐7)」参照)が示されている。そして、この上記実施例2で使用されているn-へキサンは、上記「(1‐1)」及び「(1‐4)」の記載に照らせば、任意に使用される凝集防止剤であって必須の要件ではないことは明らかである。
そうすると、甲第1号証の実施例2における「エタノール120g、およびエチルシリケート10gを1lフラスコに仕込み、20℃、300rpmの条件で濃アンモニア水20gを添加しシリカ粒子核を生成させた(平均粒子径0.8μm)。次いでエタノール240g、n-へキサン40g、アンモニア水150gをフラスコに添加」した溶液は、「シリカ種粒子をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液」に相当するから、上記甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
「シリカ粒子核を生成させる第1工程と、このシリカ粒子核をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液にエチルシリケ-トを添加してこれを加水分解させ、シリカ粒子核の成長と整粒を行なわせる第2工程から成るシリカ成長粒子の製造方法」
そこで、本件訂正発明と上記甲1発明とを対比すると、上記甲1発明の「シリカ粒子核」及び「エチルシリケート」はそれぞれ本件訂正発明の「シリカ種粒子」及び「シリコンアルコキシド」にそれぞれ相当するから、両者は、「シリカ種粒子をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液にシリコンアルコキシドを添加してこれを加水分解させ、シリカ種粒子の粒径を成長させるシリカ成長粒子の製造方法」である点では一致するが、次の(1)〜(4)の点で相違していると云える。
(1)本件訂正発明は、シリコンアルコキシドを「単独」で添加すると限定しているのに対し、上記甲1発明はこのような限定がなされていない点
(2)本件訂正発明は、シリコンアルコキシドを添加する前の分散液中の全シリカ種粒子の合計表面積(So)と同分散液中の溶液成分の合計容積(Vo)との比So/Voを「395〜992(cm2/cm3)」と限定しているのに対し、甲第1号証には特にSo/Voに関する記載はないから、上記甲1発明のSo/Voの値が明らかでない点
(3)本件訂正発明は、シリコンアルコキシドを添加した後の分散液中の成長した全シリカ成長粒子の合計表面積(S)と同分散液中の溶液成分の合計容積(V)との比S/Vを「531〜1147(cm2/cm3)」と限定しているのに対し、甲第1号証には特にS/Vに関する記載はないから、上記甲1発明のS/Vの値が明らかでない点
(4)本件訂正発明では、「お互いに分布が重なり合わない2種類の粒径分布を持つシリカ成長粒子とシリカ微小粒子を得たのち、分級してシリカ微小粒子を除去」するのに対し、上記甲1発明では、極めて均一なシリカ成長粒子が得られている(上記「(1‐6)」参照)から、特にこのような構成を備えていない点
次に、これら相違点についてさらに検討する。
(i)相違点(1)及び(4)について
上記甲第1号証には、シリコンアルコキシドの添加について、このシリコンアルコキシドを単独で添加しなければならないとする明示的な記載や具体例はない。むしろその具体例をみると、シリコンアルコキシドはエタノールとの混合溶液として添加されており(上記「(1‐5)」参照)、また、目的とする粒径が比較的大きい場合にはアンモニアやシリコンアルコキシドをアルコール溶液で希釈して添加することが望ましい(上記「(1‐3)」参照)と記載されているから、甲第1号証には、上記相違点(1)について何ら示唆されていないと云うべきである。
また、上記相違点(4)についても、上記甲第1号証には、「第2工程の粒子調整工程を経るとシリカ粒子の粒度が極めて均一になった。」(上記「(1‐6)」参照)と記載され、第5図や第7図の得られたシリカ粒子の粒度分布をみても、甲1発明の第2工程の成長及び整粒工程では、均一なシリカ成長粒子の生成が行われているとするのが相当であり、本件訂正発明の如き「シリカ成長粒子とシリカ微小粒子の2種類」の生成、とりわけ「お互いに分布が重なり合わない2種類の粒径分布を持つシリカ成長粒子とシリカ微小粒子」の生成は行われていないと云える。
してみると、甲第1号証には、上記相違点(1)及び(4)について何ら示唆されていないとするのが相当であるから、本件訂正発明は、甲1発明と上記相違点(1)及び(4)の点で区別することができると云える。
(ii)相違点(2)及び(3)について
上記甲第1号証には、上記甲1発明のSo/Vo及びS/Vについて何ら記載されていないが、審判請求人が提出した甲第3号証(平成9年3月13日付け「実験報告書」)によれば、甲第1号証の実施例2の「So/Vo」や「S/V」の値は、So/Vo=589及びS/V=600であると報告されている。
そこで、この「実験報告書」について検討すると、甲第3号証の第3頁「3.結論」には、「B)シリカ種粒子およびシリカ成長粒子はいずれも均一な単分散粒子であった。」と記載されているが、その余の記載にはこの「均一な単分散粒子」がどのような粒度分布状態であるかを示す具体的な記載は見当たらない。もっともこの「実験報告書」は、甲第1号証の実施例2に従って行われた実験報告書であるから、得られたシリカ粒子の粒度分布は、甲第1号証の第7図に図示された粒度分布であると認められるところ、第7図には、本件訂正発明の如き「お互いに分布が重なり合わない2種類の粒径分布を持つシリカ成長粒子とシリカ微小粒子」の粒度分布は図示されていない。
そうすると、甲第3号証の「実験報告書」において報告されている上記「So/Vo=589」や「S/V=600」の値は、本件訂正発明の製造条件に基づいて得られた結果から算出された数値とは断定できないから、この数値を採用することはできない。
してみると、本件訂正発明は、上記相違点(2)及び(3)の点でも甲1発明と区別することができると云う他ない。
したがって、本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。
2.無効理由(2)について
上記甲第6号証には、具体的な製造方法を示す実施例12として「エチルアルコール/水の重量比が89/11である水-アルコール混合液3238gにアンモニアガス90.8gを溶解させ、この混合液に平均粒径が3.5μのSiO2粒子が138.7gを添加して、混合液中のSiO2換算として4重量%に相当するシード分散液を得た。このシード分散液に、直ちにNaOH0.9gが溶解した水溶液90gを加え、10分間超音波処理を施して、シード粒子が水-アルコール分散液に分散したヒールゾルを得た。得られたヒールゾルを撹拌しながら35℃に保ち、アンモニアガスでpHを12.5にコントロールしながら、エチルアルコール1544.2gと水263.6gとの混合液および28%エチルシリケート557.4gを同時に5時間かけて徐々に添加した。全量添加後液中にNaOH1.01gが溶解した水溶液101gを加え、これを65℃に加熱して1時間保持した」(上記「(2‐5)」参照)ことが記載されており、その結果についても、「単分散」(上記「(2‐6)」参照)のシリカ成長粒子が得られたことが示されている。また、この実施例12においては、アルカリとして「NaOH」が使用されているが、「アルカリ」については、上記「(2-2)」及び「(2-4)」の記載に照らせば、「アンモニア水」ないし「アンモニアガス」であっても良いとされている。
さらに、上記「(2‐1)」の特許請求の範囲の記載に照らせば、上記甲第6号証に記載の発明では、エチルシリケートすなわちシリコンアルコキシドを「アルカリ性に保ちながら」添加することが必須の要件とされているから、甲第6号証の上記実施例12の記載を本件訂正発明の記載振りに合わせて整理すると、実施例12の「エチルアルコール/水の重量比が89/11である水-アルコール混合液3238gにアンモニアガス90.8gを溶解させ、この混合液に平均粒径が3.5μのSi02粒子が138.7gを添加して、混合液中のSi02換算として4重量%に相当するシード分散液を得た。」や「このシード分散液に、直ちにNaOH0.9gが溶解した水溶液90gを加え、10分間超音波処理を施してシード粒子が水-アルコール分散液に分散したヒールゾルを得た。」という記載内容は、本件訂正発明の「シリカ種粒子をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液」に相当する。同じく実施例12の「得られたヒールゾルを撹拌しながら35℃に保ち、アンモニアガスでpHを12.5にコントロールしながら、エチルアルコ-ル1544.2gと水263.6gとの混合液および28%エチルシリケート557.4gを同時に5時間かけて徐々に添加した。全量添加後液中にNaOH1.01gが溶解した水溶液101gを加え、これを65℃に加熱して1時間保持した。」という記載内容は、これを本件訂正発明の記載振りに合わせて表現し直すと「前記分散液をアルカリ性に保ちながらシリコンアルコキシドを添加してこれを加水分解させ、シリカ種粒子の粒径を成長させる」ことに相当すると云える。
そうすると、上記甲第6号証には、これら記載を整理すると、次の発明(以下、「甲6発明」という)が記載されていると云える。
「シリカ種粒子をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液に、該分散液をアルカリ性に保ちながらシリコンアルコキシドを添加してこれを加水分解させ、シリカ種粒子の粒径を成長させる単分散のシリカ成長粒子の製造方法」
そこで、本件訂正発明と上記甲6発明とを対比すると、両者は、「シリカ種粒子をアルコールとアンモニア水とからなる混合溶媒に分散させてなる分散液にシリコンアルコキシドを添加してこれを加水分解させ、シリカ種粒子の粒径を成長させるシリカ成長粒子の製造方法」である点では一致するが、次の(1)〜(4)の点で相違していると云える。
(1)本件訂正発明は、「分散液にシリコンアルコキシドを単独で添加」しているのに対し、上記甲6発明は、「分散液をアルカリ性に保ちながらシリコンアルコキシドを添加」している点
(2)本件訂正発明は、シリコンアルコキシドを添加する前の分散液中の全シリカ種粒子の合計表面積(So)と同分散液中の溶液成分の合計容積(Vo)との比So/Voを「395〜992(cm2/cm3)」と限定しているのに対し、甲第6号証には特にSo/Voに関する記載はないから、上記甲6発明のSo/Voの値が明らかでない点
(3)本件訂正発明は、シリコンアルコキシドを添加した後の分散液中の成長した全シリカ成長粒子の合計表面積(S)と同分散液中の溶液成分の合計容積(V)との比S/Vを「531〜1147(cm2/cm3)」と限定しているのに対し、甲第6号証には特にS/Vに関する記載はないから、上記甲6発明のS/Vの値が明らかでない点
(4)本件訂正発明では、「お互いに分布が重なり合わない2種類の粒径分布を持つシリカ成長粒子とシリカ微小粒子を得たのち、分級してシリカ微小粒子を除去」するのに対し、上記甲6発明では、単分散のいわゆる単一のピークを有する粒径分布のシリカ成長粒子が得られているから、特にこのような構成を備えていない点
次に、これら相違点についてさらに検討する。
(i)相違点(1)及び(4)について
上記甲6発明は、金属アルコキシドを添加する際に「分散液をアルカリ性に保つ」ことを必須の要件としているが、その目的と効果は、上記甲第6号証の「ヒールゾル中に金属アルコキシドを添加すると、金属アルコキシドは加水分解し始め、このとき急激に溶液のpHが変化する。ヒールゾル液が上記のようなアルカリ性でなくなると、シードが凝集したりあるいは新しいシードが発生したりすることがあり、最終的に得られる粒子の粒度分布がブロードになるため好ましくない。このため金属アルコキシドの添加に際しては、ヒールゾルをアルカリ性に保つようにして行なう。ヒールゾルのpHは10〜13であることが好ましい。」(上記「(2‐4)」参照)という記載によれば、シリコンアルコキシドの添加による急激なpHの変化により「新しいシードの発生等不都合な事態を回避」して「粒度分布がブロードにならない」ようにする点にあることは明らかである。
してみると、上記甲第6号証には、金属アルコキシド原液のまま(上記「(2‐3)」参照)すなわち「シリコンアルコキシドを単独で添加」する場合の可能性が示唆されているものの、この場合でも同時に「アルカリ」を添加することが必須の要件であり、そしてこのアルカリの添加によって少なくとも「新しいシードの発生」を回避して「粒度分布がブロードにならない」ようにしていることは明らかである。
そうすると、上記甲6発明で得られる粒子は、新しいシードを発生させずにその粒径分布がブロードでない「粒度分布がシャープ」(第4頁左下欄第5行)な「単分散されたシリカ成長粒子」の1種類というべきであるから、本件訂正発明の如き「シリカ成長粒子とシリカ微小粒子の2種類」ではなく、とりわけ「お互いに分布が重なり合わない2種類の粒径分布を持つシリカ成長粒子とシリカ微小粒子」の2種類でないことは明らかである。
してみると、本件訂正発明は、上記甲6発明と上記相違点(1)及び(4)の点で明らかに区別することができると云える
(ii)相違点(2)及び(3)について
上記甲第6号証には、上記甲6発明のSo/Vo及びS/Vについて記載されていないが、審判請求人が提出した甲第7号証(平成10年7月6日付け「実験報告書」)によれば、甲第6号証の実施例12の「So/Vo」や「S/V」の値は、So/Vo=329及びS/V=323であると報告されているから、この値を本件訂正発明のSo/Vo及びS/Vの値と比べると、両者は、その数値が明らかに相違している。
なお、審判請求人は、裁判所の手続きの中で甲第10号証として触媒化成工業株式会社ファイン研究所研究員の小柳嗣雄及び中山和洋が作成した平成11年4月16日付け「実験報告書(A)」をも提出しているから、この「実験報告書(A)」の結果を検討すると、「実験報告書(A)」では甲第6号証の実施例12をNaOHを用いることなくアンモニア水を使用した場合でも、So/Vo=328及びS/V=321と報告されているから、甲第6号証に記載された「シリカ成長粒子の製造法」は、本件訂正発明とそのSo/Vo及びS/Vの数値の点で明らかに相違している。
してみると、本件訂正発明は、上記甲6発明と上記相違点(2)及び(3)の点でも明らかに区別することができると云える。
したがって、本件訂正発明は、甲第6号証に記載された発明であるともすることができない。
VI.むすび
以上のとおり、審判請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件訂正後の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1998-09-16 
結審通知日 1998-09-25 
審決日 1998-09-30 
出願番号 特願平4-204059
審決分類 P 1 112・ 113- Y (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 雨宮 弘治  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1996-06-14 
登録番号 特許第2529062号(P2529062)
発明の名称 シリカ成長粒子の製造方法  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 中村 静男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ