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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01J
管理番号 1054794
審判番号 審判1999-15735  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-10-04 
確定日 2002-03-05 
事件の表示 平成 2年特許願第 85065号「放電管用陰極」拒絶査定に対する審判事件[平成 2年11月28日出願公開、特開平 2-288044]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成2年4月2日(パリ条約による優先権主張、平成1年4月3日、オランダ国)の出願であって、平成8年12月19日付け、平成11年1月28日付け、平成11年10月20日付け及び平成13年8月2日付けの手続補正書によって補正された明細書並びに図面の記載から見て、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。

請求項1「潜在的電子放出材料の層で被覆した金属支持ベースを有し、該金属支持ベースは厚さ20μmないし150μmの再結晶材料よりできている傍熱型放電管用陰極において、前記金属支持ベースより少なくとも20μmの間隔をおいて配置した発熱体を具えてなることを特徴とする傍熱型放電管用陰極。」

2.引用刊行物記載の発明
これに対して、当審における平成13年1月24日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の出願の日前である昭和55年6月30日に頒布された特公昭55-24648号公報(以下、引用刊行物1という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(1)「本発明は、ブラウン管等の電子管陰極に供する、始動時間の極めて短かくかつ長寿命の直熱型陰極材料の製造方法に関するものである。」(第1頁右欄第2行〜同第4行)、
(2)「従来の公知の粉末焼鈍法によって、Ni-W-Zr(あるいはHf)合金を作り、…30〜50μm厚みの薄板を作った。」(第1頁右欄第27行〜同第30行)、
(3)「実際には、1000℃程度の陰極温度になる場合がある。したがって、1000℃の陰極温度のときには、初期状態から300時間位で格子定数が約1%も収縮するので、これはときには基体金属の上に被覆していた酸化物が剥離し、急激な電子放射の劣化の原因になったりする。このため、陰極の基体金属をあらかじめ不活性雰囲気もしくは還元性雰囲気で、再結晶温度以上の高い温度で焼鈍しておく必要がある。」(第2頁左欄第12行〜同第20行)
(4)「また光学顕微鏡による組織観察の結果では、再結晶温度以上の温度における焼鈍により粒界の成長が認められ、α-Ni合金特有の双晶粒界組織を示した。平均粒径は1000℃、5時間の焼鈍で8.8μmであったものが、100および500時間ではそれぞれ12.2および12.0μmで、ほぼ一定の粒界になっていた。
一方、1300℃、1時間の焼鈍を行なったものでは、12.3μmの粒径の粒界に成長し、粒界の形状はほとんど変わらなかった。高温焼鈍の場合は短時間で一定の粒径の粒界に成長することが分かった。」(第2頁左欄第40行〜同右欄第7行)

この記載事項によると、引用例1には、
「酸化物で被覆した基体金属を有し、該基体金属は厚さ30ないし50μmの再結晶材料よりできている電子管陰極。」(以下、引用例1に記載の発明という。)
が記載されていると認められる。

また、同じく当審における平成13年1月24日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の出願の日前である昭和55年5月8日に頒布された実公昭55-19420号公報(以下、引用刊行物2という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(1)「従来、第1図及び第2図に示すような電子管陰極構体が考えられている。すなわち、底部にカソードディスク(電子放射面)1を有する有底筒状のニクロム製よりなるカソードスリーブ2は円筒状のステンレス又はコパールよりなるカソードホルダ4内に、鉄ニッケル合金等の熱伝導度の悪い材質で作られたストラップ3で120°間隔に3方向に取付けられる。(第1頁左欄第32行〜同右欄第2行)
(2)「而して、カラー陰極線管、白黒陰極線管などの速動型陰極においてはできるだけ短時間にカソードスリーブ2を電子放射しうる温度まで昇温しなければならない。そのために、陰極は熱容量が小さい必要がある。したがって、速動型陰極は一般的に構造が小さく、かつ外面黒化してある。陰極が小さいために、第3図に示すように、カソードスリーブ2底面とヒータ5の隙間Δlにより特性は大きく左右されている。例えば1.89mm、長さ2.0mm程度の外面黒化をほどこしたカソードスリーブで、カソードスリーブ2の底面とヒータ5の隙間Δlが0mmと0.3mmとのものでは第4図に示すような特性を示す。すなわち、隙間Δlが大きければ大きい程、テレビジョン受像機の出画時間が遅くなる。」(第1頁右欄第17行〜同右欄第31行)

さらに、同じく当審における平成13年1月24日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の出願の日前である昭和52年6月18日に頒布された実公昭52-26840号公報(以下、引用刊行物3という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(1)「ヒータの動作中ヒータの熱変形によりしばしばヒータコイルの捲回し部分の一部が、スペーサコイルのピッチの間6よりはみ出しカソードスリーブ内壁3に接触し、コイルヒータ5とカソードスリーブ内壁3との間の耐圧を保持するためのスペーサコイル4の効果がなくなりカソードスリーブ内面とヒータ間の耐圧を悪化せしめる欠点があった。」(第1頁右欄第4行〜同第11行)

3.対比
本願請求項1に係る発明と引用刊行物1に記載の発明とを対比すると、
引用刊行物1に記載の発明における「酸化物」、「基体金属」、「電子管陰極」は、それぞれ、請求項1に係る発明における「潜在的電子放出材料の層」、「金属支持ベース」、「放電管用陰極」に相当するから、両者は、
【一致点】
「潜在的電子放出材料で被覆した金属支持ベースを有し、該金属支持ベースは再結晶材料よりできている放電管用陰極。」
で一致し、
【相違点1】
請求項1に係る発明では、金属支持ベースが、厚さ20ないし150μmであるのに対し、引用例1に記載の発明では、基体金属が、厚さ30ないし50μmである点、
【相違点2】
請求項1に係る発明では、放電管用陰極が、金属支持ベースより少なくとも20μmの間隔をおいて配置した発熱体を具えた傍熱型放電管用陰極であるのに対し、引用例1に記載の発明では、電子管陰極が、かかる発熱体を具えていない直熱型電子管陰極である点
で相違する。

4.当審の判断
【相違点1】について検討すると、
引用刊行物1には、厚さ30ないし50μmである基体金属の再結晶粒径が、12μm程度の一定値となることが記載されており、さらに、金属結晶の寸法は基体金属の厚さによって決まることから、基体金属の厚さを20ないし150μmとすることは、許容される金属結晶の寸法に応じて当業者が適宜決定しうるものである。
【相違点2】について検討すると、
引用刊行物2には、カソードスリーブ2をヒータ5により間接的に加熱するに際して、カソードスリーブ2とヒータ5との隙間を0mmから0.3mm(300μm)とすることが記載されており、引用刊行物1に記載の基体金属に引用刊行物2に記載のヒータ5を配置して傍熱型電子管陰極とすることは、当業者が容易になしうることである。そして、その際の基体金属とヒータ5との隙間である「少なくとも20μm」は、引用刊行物3に記載のコイルヒータ5の熱変形によるカソードスリーブ2への接触による有害な影響を考慮して、隙間0mm〜0.3mm(300μm)から当業者が適宜選択しうる数値範囲にすぎない。
5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用例1乃至3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-09-21 
結審通知日 2001-10-09 
審決日 2001-10-23 
出願番号 特願平2-85065
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 高瀬 浩一
特許庁審判官 杉野 裕幸
山川 雅也
発明の名称 放電管用陰極  
代理人 杉村 純子  
代理人 杉村 興作  
代理人 杉村 暁秀  

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