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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1054894
異議申立番号 異議2000-74643  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-12-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-25 
確定日 2001-11-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3059655号「ポリエステル系混繊糸」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3059655号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3059655号(平成7年2月17日出願、国内優先権主張平成6年4月11日、平成12年4月21日設定登録)の請求項1ないし請求項7に係る特許に対して、特許異議申立人 鐘紡株式会社から特許異議の申立てがあったので、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成13年6月21日に特許異議意見書とともに訂正請求がなされ、手続方式指令がなされ、その指定期間内である平成13年9月18日に手続補正書(方式)が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求に対する手続補正の適否について
平成13年9月18日付け手続補正(方式)は、訂正請求に係る訂正の内容に記載の訂正事項(b)、(c)と、各訂正事項の訂正の目的を説明している項番(2-2)、(2-3)において記載している訂正事項とが一致しないので、項番(2-2)、(2-3)に記載の訂正事項を訂正事項(b)、(c)の記載に合わせ補正したものであり、当該訂正請求に対する補正は、単なる誤記の訂正であって、訂正請求書の要旨を変更するものでなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。
2-2.訂正の内容
訂正の内容は、平成13年9月18日に補正された平成13年6月21日付けの訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書の記載からみて、次のとおりである。
a.本件特許請求の範囲【請求項1】(本件特許公報1頁1欄4〜5行目)における
「少なくとも2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含み」を「2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、」に訂正する。
b.本件特許請求の範囲【請求項1】(本件特許公報1頁1欄6行)における
「Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」を「Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」に訂正する。
c.本件特許請求の範囲【請求項1】(本件特許公報1頁1欄8行)における
「Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」を「Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」に訂正する。
d.本件特許請求の範囲【請求項3】(本件特許公報1頁2欄11〜14行)を削除する。
e.本件特許請求の範囲【請求項4】(本件特許公報1頁2欄15行)における「【請求項4】」を「【請求項3】」に訂正する。
f.本件特許請求の範囲【請求項5】(本件特許公報2頁3欄3行)における「【請求項5】」を「【請求項4】」に訂正する。
g.本件特許請求の範囲【請求項6】(本件特許公報2頁3欄6行)における「【請求項6】」を「【請求項5】」に訂正する。
h.本件特許請求の範囲【請求項7】(本件特許公報2頁3欄9行)における「【請求項7】」を「【請求項6】」に訂正する。
i.本件明細書【0001】(本件特許公報2頁3欄13行目)における
「2種以上の」を「2種類の」に訂正する。
j.本件明細書【0006】(本件特許公報2頁4欄5〜13行)における「前記目的を達成するため、本発明のポリエステル系混繊糸は、少なくとも2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含み、Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」を
「前記目的を達成するため、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」に訂正する。
k.本件明細書【0009】(本件特許公報2頁4欄41〜42行)における「高収縮糸であることが好ましい。」を「高収縮糸である。」に訂正する。
l.本件明細書【0012】(本件特許公報3頁5欄3行目)における「少なくとも2種類」を「2種類」に訂正する。
m.本件明細書【0013】(本件特許公報3頁5欄15行目)における「少なくとも2種類」を「2種類」に訂正する。
n.本件明細書【0030】(本件特許公報5頁上欄表中の9段目)における「交絡フィード圧」を「交絡フィード率」に訂正する。
o.本件明細書【0032】(本件特許公報5頁9欄32〜40行)における「以上説明した通り、本発明のポリエステル系混繊糸は、少なくとも2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含み、Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」を
「以上説明した通り、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」に訂正する。
2-3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否の判断
訂正事項a.の訂正は、「少なくとも2種類を含む」を「2種類からなる」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件明細書【0024】〜【0030】(本件特許公報4頁7欄21行〜5頁25行)、図2〜図4(本件特許公報6頁)の下記(1)〜(4)の記載からみて、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(1)図3〜図4の工程図ではFaとFbの2種類の糸を用いた例が開示されている。
(2)図2では最終的な沸収乾収処理した後の糸の状態が示されているが、FaとFbの2種類の糸を用いた例となっている。
(3)「図3においてFaとなるフィラメント延伸糸がパッケージ1より解舒され、ローラー3、ガイド4を通過させて、ヒーター6を中間に有するローラー5〜7間で熱処理され、流体交絡(インターレース)ノズル9に供給される。フィラメント延伸糸Faは熱処理されたことにより、熱的に安定となり、低収縮糸となる。一方Fbとなるフィラメント延伸糸はパッケージ2より解舒領されローラー7から流体交絡ノズル9に供給される。ここでFaとFbが混繊された後、ローラー10を通過し、巻取ローラー11と巻取パッケージ12によって巻き取られる。」(【0024】(本件特許公報4頁7欄23〜33行))
(4)実施例においても、FaとFbとの2種類の糸を使用した例以外は開示されていない。
訂正事項b.の訂正は、「ポリエステル系フィラメント糸」を「ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、明細書には、【0030】の【表1】(本件特許公報5頁上欄)の上から2段目に「Fa用 PET延伸糸」と記載され、「PET」とは「ポリエチレンテレフタレート」の略語であり、また【0024】(本件特許公報4頁7欄27〜28行の「フィラメント延伸糸Faは熱処理されたことにより」の記載があることからみて、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項c.の訂正は、「Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」を「Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項d.の訂正は、訂正事項c.の訂正に伴い、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。
訂正事項e.ないし訂正事項h.の訂正は、訂正事項d.の請求項3を削除したことに伴う請求項の番号符号を順次繰り上げる訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。
訂正事項i.ないし訂正事項m.及び訂正事項o.の訂正は、特許請求の範囲の訂正にに伴い、明細書の記載の不整合を整正するように発明の詳細な説明の欄を訂正するものであるから、明細書の明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認める。
また、訂正事項d.ないし訂正事項o.の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
2-4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立理由についての判断
3-1.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人 鐘紡株式会社は、甲第1号証として特開昭63-126929号公報、参考資料として「繊維工学(II)繊維の製造・構造及び物性」 昭和58年4月20日、社団法人 日本繊維機械学会発行、第331頁を提示して、訂正前の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一、あるいは同甲第1号証に記載された発明や参考資料1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号あるいは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき旨の主張をしている。
(1)本件発明
本件明細書は、前記のとおり訂正が認められたので、本件の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1ないし6」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
【請求項1】 2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸
前記混繊糸の構成繊維は実質的に糸の長さ方向に複屈折率△nは均一であり、かつ前記混繊糸は沸収乾熱処理をした時の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が、17≦WDt≦45の範囲にあり、しかも前記沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現することを特徴とするポリエステル系混繊糸。
(ただし、沸収乾熱処理は、JIS L1013のA法による沸騰水収縮率を測定するための処理を行い、次いで前記沸騰水収縮処理した試料をJIS L1013のA法(180℃処理)によって乾熱収縮率を測定するための処理を行うことをいう。この時の乾熱収縮率を沸収後乾収率という。)
【請求項2】フィラメント糸Fbの沸収後乾収率:ADbが5%以上で、フィラメント糸Faの沸収後乾収率:ADaより大きい請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項3】 フィラメント糸Faの混繊糸全体に占める重量比が30〜70%である請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項4】 フィラメント糸Faの単糸繊度が0.01〜1デニールの範囲である請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項5】 フィラメントとFbの単糸繊度が2〜7デニールの範囲である請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項6】 混繊糸の交絡数が30ケ〜150ケ/mである請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
(2)刊行物1及び参考資料記載事項
特許異議申立人が提示した甲第1号証(以下、「刊行物1」という)には、次の事項が記載されている。
a.「1.同一延伸糸中に収縮率が異なる少なくとも3種の繊維束が存在し、3種の繊維束の沸水収縮率及び乾熱(180℃)収縮率がそれぞれ共に7%以上異なり、最大収縮繊維束と最小収縮繊維束の収縮率の差が、沸水、乾熱共に15%以上異なることを特徴とするポリエステル系異収縮混繊糸。
2.最大収縮繊維束の単繊維繊度が最大収縮繊維束のそれよりも大である特許請求の範囲第1項記載のポリエステル系異収縮混繊糸。
3.一方の繊維束(A)を他方の繊維束(B)の延伸熱処理温度よりも70℃以上高い温度で延伸処理を行い、延伸熱処理後に上記二つの繊維束(AおよびB)を合糸する延伸混繊法において、該繊維束(B)が二つの繊維束(B1およびB2)からなり、繊維束(B1)が繊維束(B2)よりも共重合変性率が5%以上高いポリエチレンテレフタレート系からなるものであることを特徴とするポリエステル系異収縮混繊糸の製造方法。」(特許請求の範囲)。
b.「紡糸混繊法では、共重合変性によりポリマー間の粘度差が大きく、紡糸の張力差やあるいは延伸中の張力差が大きく、紡糸の張力差やあるいは延伸中の張力差が生じ、工程通過性が困難性となるため、共重合変性率(すなわち、テレフタル酸を他のジカルボン酸に置き換えたモル割合)の差にも限界があり、12〜15モル%以上の変性鎖で混繊紡糸を行ったり、延伸することは工業上極めて困難である。・・・熱処理を行なわない繊維束とポリマー融点近くまでの限界高温度で熱処理した繊維束を組み合わせることとなり、この場合も自ずと限界が存在することとなる。」(第2頁上左欄16行〜同頁上右欄11行)
c.「延伸混繊法に於いて、少なくとも高収縮を期待する低温延伸側(または無熱処理側)の未延伸糸に、紡糸混繊未延伸糸を用いて、収縮率が大きく、且つその差も大きな2種の高収縮糸を得、一方の高温熱処理による低収縮糸との差を大きくし、その結果、大きく収縮率の異なる少なくとも3種の繊維束からなる異収縮混繊糸を得ようとするものである。そして、本発明により、大きく且つまろやかな嵩高性と多色染色性など特徴のある絹様嵩高性布帛や高密度織物が得られる」(第2頁下左欄20行〜同頁下右欄10行)。
d.「実施例1 常法により得られた固有粘度[η]0.70のノルマルポリエチレンテレフタレートブライトポリマーとイソフタル酸(IPA)を8モル%変性した固有粘度[η]0.75のポリエチレンテレフタレートブライトポリマーをT型断面を有する36ホールの紡糸口金を用い、168デニールの未延伸糸を1000m/分の速度で巻取った。これらの紡糸混繊未延伸糸を延伸ホットローラー82℃、延伸倍率3.40、延伸速度600m/分で延伸混繊を行うに際し、一方の未延伸糸は延伸中熱処理を行なわず、もう一方の未延伸糸は200℃の温度で熱処理を行ない、その後2気圧の空気にて合糸絡合処理を行ない巻取った。これらの延伸糸を別々単独で延伸を行なったものに就いても、収縮率を測定した結果を表2に示す。
表2
ポリマー 熱処理 沸水収縮率 乾熱収縮率
(180℃)
(WSR) (DSR)
合糸延伸糸 210℃&なし 24.2 28.5
丸1ノルマル 210℃ 4.0 7.3
丸2 〃 なし 16.4 19.1
丸3IPA8モル変性 210℃ 5.6 10.6
丸4 〃 なし 26.0 31.5
」(第4頁上右欄14行〜同頁下左欄表2まで)。
参考資料 日本繊維機械学会 繊維工学刊行委員会編「繊維工学[II]繊維の製造・構造及び物性」P331(S58.4.20):
「高度に延伸された繊維の場合は、微結晶の融解、再結晶化、無定形部の無配向化、結晶中への分子鎖の取込み等を伴って熱収縮に起こす.このような現象が起こらないようにあらかじめ熱処理をしておけば、熱処理温度までは熱収縮が起こりにくくなる。」
と記載されている。
4.対比・判断
4-1.本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1の発明」という)とを比較すると、上記a.〜c.により、両者は、大きく且つまろやかな嵩高性のある絹様嵩高性布帛が得られるポリエステル混繊糸である点で一致するが、
(1)本件発明1のポリエステル系混繊糸は、延伸糸を熱処理した糸と高収縮糸からなる延伸糸との2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないものであるのに対し、刊行物1発明では、同一延伸糸中に収縮率が異なる少なくとも3種の繊維束が存在するものである点、
(2)本件発明1が、「Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸(以下、「PET熱処理延伸糸」という)であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸、Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸(以下、「共重合PET高収縮延伸糸」という)であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸とからなる混繊糸」であるのに対し、刊行物1発明では、上記d.の記載により、ポリエチレンテレフタレートと変性ポリエステル系樹脂とからなる紡糸混繊未延伸糸を延伸中熱処理を行なわない延伸糸と、もう一方の同紡糸混繊未延伸糸は200℃の温度で熱処理を行なった延伸糸とからなるポリエステル系混繊糸である点、
(3)本件発明1の混繊糸は「混繊糸の構成繊維は実質的に糸の長さ方向に複屈折率Δnは均一であり、かつ沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が、17≦WDt≦45の範囲にあり、」のに対し、刊行物1発明では特に明記されていない点、
(4)さらに本件発明1では、沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現するのに対し、刊行物1発明では特に明記されていない点
でそれぞれ相違している。
上記相違点について、検討する。
相違点(1)について、熱処理した延伸糸と、高収縮延伸糸との2種類からなる混繊糸は、刊行物1の従来技術に記載されているように混繊糸としては、本出願前通常に知られたものである。しかし、刊行物1の発明は、少なくとも3種の異収縮糸から混繊糸を構成しており、本件発明1の2種類の異収縮糸からなる混繊糸と異なる技術思想に基づくものであるから、本件発明1が、刊行物1の発明に記載されているとは認められない。
また、刊行物1の発明は、少なくとも3種の異収縮糸から混繊糸を構成することで、上記c.に記載のように従来にない、マイルドで且つ大きな嵩高性と多色染色性を有するものを得ようとするものであり、その構成する繊維束を減らして2種類の異収縮混繊糸とすることを想定するものではないから、刊行物1の発明から当業者が容易に想到し得ることとも言うことはできない。
相違点(2)について、刊行物1の発明は、PET熱処理延伸糸、共重合PET高収縮延伸糸とを用いたものではあるが、少なくとも3種の異収縮糸からなるものであり、上記相違点(1)のとおり、構成する延伸糸を特定している相違点(2)の発明特定事項の前提となる2種類の延伸糸に対応する発明特定事項を有するものではなく、しかも、刊行物1の発明では、構成糸の沸騰水収縮率について記載があり、沸収後乾収率については明記されていないが、沸収後乾収率は、技術常識として経験的に沸騰水収縮率に50〜70%を乗じて求められる範囲の値となることが知られており、参考資料の熱処理温度までは熱収縮が起こりにくくなるとのとおりとすると、PET熱処理延伸糸、及び共重合PET高収縮延伸糸に相当する刊行物1の発明の表2の丸1、丸4で示される単独延伸糸は、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和WDaが8%以下、12以上45以下を満足するものと認められるが、このことは、単に同じWDa、WDbを示す延伸糸が記載されているというのみで、刊行物1の発明の混繊糸の構成糸は、合糸延伸糸であるから、合糸延伸糸の中の低収縮率、高収縮率のものが数値的に一致する可能性があるものを含むことを示すだけで、本件発明1記載の構成糸である2種の特定の物性を有するポリエステル系フィラメント糸が記載されているものとは認められないし、また、本件発明1の技術思想に基づいた相違点(2)が記載も示唆もされているものとも認められないから、刊行物1の発明に基づいて当業者が容易に想到し為し得たものとも認められない。
相違点(3)について、刊行物1の発明の構成繊維の複屈折率Δnが糸の長さ方向に均一であることも、混繊糸の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和WDtについても記載されていないが、刊行物1の発明の構成糸は延伸糸であり、当然に複屈折率については均一であるものと推認できる。しかし、WDtについては、混繊糸であり経験則どおりに算出できるものとは認められず、かつそれを裏付ける証拠も示されていないので、表2の合糸延伸糸の数値データから、本件発明のWDtが記載されているものとは認められない。また、仮に、混繊糸のWDtが満足するとしても、単にWDtが満足すると言うのみで、本件発明1の2種類のフィラメント糸からなる混繊糸の発明特定事項が記載されているものとは認められないし、また、本件発明1の技術思想に基づいた相違点(3)が記載も示唆もされているものとは認められないから、刊行物1の発明に基づいて当業者が容易に想到し為し得たものとも認められない。
相違点(4)について、本件発明1では沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現するものであるが、刊行物1の発明には、ループについて記載はないが、混繊糸の構成上ループが形成されることは推認できるが、形成するループの大きさやその大きさが1mm以上で、ループの数が30ヶ/m以上ということについて何等記載されておらず、しかも、ループは混繊糸を構成する熱処理延伸糸と高収縮延伸糸とからなる繊維相互の交絡関係から規定されるものであり、刊行物1の発明では、エアーで交絡するとともに、エアー圧が同程度で、交絡手段としては同等のであるものの、構成繊維が少なくとも3種の延伸糸からなるもので、混繊糸として基本的に異なる以上、形成されるループの大きさ、数は自ずと相違することは明らかであり、相違点(4)が刊行物1の発明に記載されているとも認められないし、また、どの程度の大きさのループがどの程度の数形成されるか何等証拠として示されておらず、刊行物1の発明に基づいて当業者が容易に為し得たものとも認められない。
また、刊行物1の発明は、本件発明1の発明特定事項の一部を開示するのみで、上記相違点(1)から(4)の発明特定事項を有しないだけでなく、基本的に本願発明1の混繊糸とは構成繊維を異にするものであり、上記相違点を組み合わせてなる混繊糸について記載も示唆もない。
しかも、本件発明1は、上記発明特定事項により、「ソフトにしてシルキーな高いふくらみ感を呈するポリエステル系混繊糸を実現できる。さらには、織編物としてからリラックス〜中間セット処理することにより高いふくらみ効果を出すことができるポリエステル系混繊糸を実現できる。」という明細書記載の効果を奏するものと認められる。
よって、本件発明1は、刊行物1の発明であるとも、また、刊行物1の発明及び参考資料から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
4-2.本件発明2ないし本件発明6について
本件発明2ないし本件発明6は、本件発明1を引用するものであり、かつ、本件発明1に記載の発明特定事項を更に特定するものであるから、検討するまでもなく、上述したと同様の理由により、刊行物1の発明であるとも、また、刊行物1の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
5.結び
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由および証拠によっては、本件請求項1ないし請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエステル系混繊糸
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、
Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸
前記混繊糸の構成繊維は実質的に糸の長さ方向に複屈折率△nは均一であり、かつ前記混繊糸は沸収乾熱処理をした時の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が、17≦WDt≦45の範囲にあり、しかも前記沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現することを特徴とするポリエステル系混繊糸。(ただし、沸収乾熱処理は、JIS L1013のA法による沸騰水収縮率を測定するための処理を行い、次いで前記沸騰水収縮処理した試料をJIS L1013のA法(180℃処理)によって乾熱収縮率を測定するための処理を行うことをいう。この時の乾熱収縮率を沸収後乾収率という。)
【請求項2】フィラメント糸Fbの沸収後乾収率:ADbが5%以上で、フィラメント糸Faの沸収後乾収率:ADaより大きい請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項3】 フィラメント糸Faの混繊糸全体に占める重量比が30〜70%である請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項4】 フィラメント糸Faの単糸繊度が0.01〜1デニールの範囲である請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項5】 フィラメントとFbの単糸繊度が2〜7デニールの範囲である請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【請求項6】 混繊糸の交絡数が30ケ〜150ケ/mである請求項1に記載のポリエステル系混繊糸。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、2種類のフィラメントから構成されるポリエステル系混繊糸に関する。さらに詳しくは、ソフトでふくらみ感があるポリエステル系混繊糸に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、合成繊維、特にポリエステル系フィラメント糸は絹の風合に近づけるべく種々の試みがなされ、例えば原糸断面の異形化、原糸の構成フィラメントの細繊度化、異収縮縮混繊等の原糸技術の高度化と更にはアルカリ減量等の染色技術の発展でその風合レベルは高い水準に達した。
【0003】
このような従来技術としては、低収縮のポリエチレンテレフタレートフィラメントと、高収縮の共重合ポリエステルフィラメントとを混繊した糸(特公昭61-13009号公報)、高収縮と低収縮のポリエチレンテレフタレートフィラメントどうしを混繊した糸(特公昭55-22586号公報、特公昭61-36099号公報及び特公昭61-19730号公報)等が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の特公昭61-13009号公報、特公昭55-22586号公報で提案されている混繊糸は、高収縮糸と低収縮率の沸騰水収縮率の差だけでふくらみを出す技術であり、その収縮により粗硬感になるか、染色加工のリラックス精練工程で発現したふくらみ構造を次の中間セット工程でへたらせ、ふくらみ感の乏しい布綿になってしまうという問題を有していた。また、特公昭61-36099号公報及び特公昭61-19730号公報で提案されている混繊糸は、高い熱応力で布帛を収縮させ、ふくらみ感を出す技術であるが、前記同様その収縮により粗硬感になるか、染色加工のリラックス精練工程で発現したふくらみ構造を次の中間セット工程でへたらせ、ふくらみ感の乏しい布綿になってしまうという問題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、ソフトにしてシルキーな高いふくらみ感を呈するポリエステル系混繊糸、更に好ましくは織編物としてからリラックス〜中間セット処理することにより高いふくらみ効果を出すことができるポリエステル系混繊糸を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、
Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸
前記混繊糸の構成繊維は実質的に糸の長さ方向に複屈折率△nは均一であり、かつ前記混繊糸は沸収乾熱処理をした時の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が、17≦WDt≦45の範囲にあり、しかも前記沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現することを特徴とする(ただし、沸収乾熱処理は、JIS L1013のA法による沸騰水収縮率を測定するための処理を行い、次いで前記沸騰水収縮処理した試料をJIS L1013のA法(180℃処理)によって乾熱収縮率を測定するための処理を行うことをいう。この時の乾熱収縮率を沸収後乾収率という。)。
【0007】
前記構成において、実質的にループ・タルミのないとは、ループ・タルミを混繊糸表面に意図的に配置し、これにより効果を得ることを目的として、例えば、空気乱流加工(タスラン)の施された糸形態は含まないが、混繊糸の製造工程において、偶発的に発生する可能性のある糸の長さ方向のバラツキ的なループ・タルミは含むことを意味する。
【0008】
また前記構成においては、フィラメント糸Fbの沸収後乾収率:ADbが5%以上で、フィラメント糸Faの沸収後乾収率:ADaより大きいことが好ましい。さらに好ましくはADb≧8%、かつADa≦3%である。
【0009】
また前記構成においては、フィラメント糸Fbがポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸である。
【0010】
また前記構成においては、フィラメント糸Faの混繊糸全体に占める重量比が30〜70%であることが好ましい。
また前記構成においては、フィラメント糸Faの単糸繊度が0.01〜1デニールの範囲であることが好ましい。
【0011】
また前記構成においては、フィラメントとFbの単糸繊度が2〜7デニールの範囲であることが好ましい。
また前記構成においては、混繊糸の交絡数が30ケ〜150ケ/mであることが好ましい。
【0012】
【作用】
前記した本発明のポリエステル系混繊糸の構成によれば、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸の構成繊維は実質的に糸の長さ方向に複屈折率△nは均一であり、かつ前記混繊糸は沸収乾熱処理をした時の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が、17≦WDt≦45の範囲にあり、しかも前記沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現することにより、ソフトにしてシルキーな高いふくらみ感を呈するポリエステル系混繊糸を実現できる。さらには織編物としてからリラックス〜中間セット処理することにより高いふくらみ効果を出すことができるポリエステル系混繊糸を実現できる。
【0013】
より具体的には、2種類の収縮性の異なるフィラメント糸からなっている。この種の糸を用いた織編物を染色仕上加工する際に行なわれるリラックス精練(湿熱100〜110℃)-中間セット工程(乾熱160〜190℃)でより高いふくらみ構造を呈することを狙いとするものであり、その狙いの効果を発現させるにはWDtを17%以上でかつWDaは8%以下とすることが必要である。これまでの様に単に前記混繊糸の沸収が12%以上又は低収縮成分の沸収が8%以下となっていてもそれを用いた織編物を染色仕上加工する際にリラックス精練の後の中間セットの乾熱で低収縮成分が更に大きく収縮しかつ前記混繊糸全体が収縮しない状態では本発明の狙いの高いふくらみ感は得られないのである。またWDtが17%未満でWDaが8%を越える場合も収縮差が少なく高いふくらみは得られない。しかし、WDtは無制限に大きくする必要はなく45%までの範囲が好ましい。45%を越えると出来上がった織編物が逆に芯のある硬いものになってしまうし、製品として着用してもドレープ性に欠けるものになり、またひじ等の屈曲部では着用しているうちに伸びが生じて好ましくない。
【0014】
次に本発明は、実質的にループ及びタルミのない混繊糸のため、通常の原糸(生糸)と同様の簡便な取扱いが可能であるが、沸収乾熱処理により1mm以上のループが30ケ/m以上発現するという特性を有する。この特性はこれを用いた織編物において染色仕上の中のリラックス精練〜中間セット工程でFaとFb間に空隙構造をもたらし、結果的に織編物の厚みを増しふくらみ感を出す上で重要な特性である。ループが1mm未満または30ケ/mm未満では、Fa、Fb間の空隙構造は不充分である。
【0015】
前記において、混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含むので、良好なふくらみ感が得られる。
(1)Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが8%以下であるポリエスチル系フィラメント糸。
(2)Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸。
【0016】
また前記において、フィラメント糸Fbの沸収後乾収率:ADbが5%以上でフィラメント糸Faの沸収後乾収率:ADaより大きいと、染色仕上加工でのリラックス精練の湿熱で発現したふくらみ構造を次の中間セットの乾熱でつぶさずに更にはその工程でふくらみ構造を高める上で好ましい。フィラメント系Faの沸収後乾収が混繊糸のそれより大きいと中間セット工程でフィラメントFaの方が混繊糸より大きく収縮し、ふくらみ構造を減ずることになり好ましくない。前記理由から、さらに好ましくはADb≧8%でADa≦3%である。
【0017】
また前記構成において、フィラメント糸Fbがポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸であると、好ましい収縮性を発現できる。共重合成分としては、イソフタル酸成分、1,2-ビス(4-カルボフェノキシ)エタン成分、2,6-ナフタリンジカルボン酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分等の酸成分、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,2-ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリエチレングリコール等公知のものを使用できるが、好ましくは3〜15モル%のイソフタル酸成分である。
【0018】
また前記構成において、フィラメント糸Faの混繊糸全体に占める重量比が30〜70%であると、さらに好ましいふくらみ構造を発現できる。
また前記構成において、フィラメント糸Faの単糸繊度が0.01〜1デニールの範囲であると、実用的に好ましい。
【0019】
また前記構成において、フィラメントとFbの単糸繊度が2〜7デニールの範囲であると、実用的に好ましい。
また前記構成において、混繊糸の交絡数が30ケ〜150ケ/mであると、製織性、製編性等の高次加工通過性が良好になる。
【0020】
【実施例】
以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
本発明は、天然シルクの持つソフトで高いふくらみ効果のあるシルキーな織編物を得るには、その染色工程であるリラックス精練〜中間セット〜アルカリ減量の工程の中でより高いふくらみ構造を中間セットまでで構成し、その後のアルカリ減量工程でその一部を溶出し、空隙構造となすことと、低ヤング率化することが必要であり、リラックス精練工程で発現したふくらみ構造を次の中間セット工程でつぶさないこと、更にはこの工程でふくらみ構造を高めることがソフトで高いふくらみ効果のシルキー織編物を得る上で最も重要なポイントであることを見い出し本発明に到達したのである。
【0021】
なお、以下に説明する実施例においては、沸収乾熱処理後の1mm以上のループ数とは沸収後乾収率測定と同方法で処理した試料を、走行中の糸のループ数を計測する光電型毛羽測定器(TORAY FRAY COUNTER)を用い、糸速度50m/min、走行張力0.1g/dの条件で測定した糸表面より1mm以上の突出したループ個数/mをいう。
【0022】
図1は、本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸の外観を模式的に示した概略図であり、少なくとも2種類のフィラメント系からなる実質的にループ及びタルミのない交絡を有するポリエステル系混繊糸である。この混繊糸を構成する繊維は実質的に糸の長さ方向の複屈折率Δnは均一である。
【0023】
次に図2は、本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸を沸収乾熱処理した後の糸の外観を模式的に示した概略図であり、沸収乾熱処理をした時の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が17≦WDt≦45の範囲にあり、しかも前記沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現している状態を示す。また図2は、沸収乾熱処理した後の混繊糸には交絡も残っている状態を示している。
【0024】
次に図3〜4は、本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸を製造するための装置を例示したものである。まず、図3においてFaとなるフィラメント延伸糸がパッケージ1より解舒され、ローラー3、ガイド4を通過させて、ヒーター6を中間に有するローラー5〜7間で熱処理され、流体交絡(インターレース)ノズル9に供給される。フィラメント延伸糸Faは熱処理されたことにより、熱的に安定となり、低収縮糸となる。一方Fbとなるフィラメント延伸糸はパッケージ2より解舒されローラー7から流体交絡ノズル9に供給される。ここでFaとFbが混繊された後、ローラー10を通過し、巻取ローラー11と巻取パッケージ12によって巻き取られる。フィラメント延伸糸Fbは共重合糸でありしかも熱処理されていないので高収縮糸になる。
【0025】
図4も本発明の混繊糸を製造する装置の概略図であるが、図3とは異なる態様のものである。図4の様に、流体交絡ノズル9に供給されるFaとFbの給糸速度をローラー7と8で異ならせることによりFaの重量比を変化させることも可能である。
【0026】
以下具体的実施例について説明する。
(実施例1)
試験No.1(本実施例)〜試験No.2(比較例)は図3に示した装置を用いて試験した。この試験に使用した原糸、特性及び加工条件については表1の上段に示す。表1において、共重合PETとはイソフタル酸成分を9モル%共重合したポリ(エチレン テレ-イソフタレート)をいう。そして得られたFa及び混繊糸の特性を表1の中段に示す。
【0027】
上記実施例(試験No.1)と比較例(試験No.2)で得られた混繊糸を用いて、経糸は無ヨリのまま、緯糸はダブルツイスターで1400T/m(Tは撚数、mはメートル)のヨリをかけてネン糸にした。
【0028】
次いで、平織に製織した。製織条件は、経糸密度128本/インチ、緯糸密度82本/インチ、織構造はパレスとした。
得られた生機を通常のリラックス精練(湿熱110℃、20分)し、中間セット(乾熱180℃、30秒)し、アルカリ減量処理(NaOH水溶液:濃度20g/リットル、98℃、30分、減量率:15%)し、液流染色(130℃、45分)の工程で染色加工を実施した。得られた織物の触感、風合、及び製織工程(準備工程を含む)での通過性の評価結果を表1の下段に示す。
【0029】
なお、表1中の混繊糸のFbの特性は、使用原糸のFbの特性と同じである。
【0030】
【表1】

【0031】
以上から本発明の実施例の混繊糸は、ふくらみ感があり、ソフトで腰張り感もあり、かつシルキー効果を呈することが確認できた。更に織編物としてからリラックス〜中間セット処理することにより高いふくらみ効果を発現することが確認できた。
【0032】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、
Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸
前記混繊糸の構成繊維は実質的に糸の長さ方向に複屈折率△nは均一であり、かつ前記混繊糸は沸収乾熱処理をした時の沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDt(%)が、17≦WDt≦45の範囲にあり、しかも前記沸収乾熱処理をした後の1mm以上のループ数が30ケ/m以上発現することにより、ソフトにしてシルキーな高いふくらみ感を呈するポリエステル系混繊糸を実現できる。さらには織編物としてからリラックス〜中間セット処理することにより高いふくらみ効果を出すことができるポリエステル系混繊糸を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸の外観を模式的に示した概略図である。
【図2】本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸を沸収乾熱処理した後の糸の外観を模式的に示した概略図である。
【図3】本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸を製造するための装置を例示したものである。
【図4】本発明の一実施例のポリエステル系混繊糸を製造するための装置を例示したものである。
【符号の説明】
1,2 フィラメント糸パッケージ
3,5,7,8,10 ローラー
4 ガイド
6 ヒーター
9 流体交絡(インターレース)ノズル
11 巻取ローラー
12 巻取パッケージ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(a)本件特許請求の範囲【請求項1】(本件特許公報1頁1欄4〜5行目)における
「少なくとも2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含み」を
「2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、」に訂正する。
(b)本件特許請求の範囲【請求項1】(本件特許公報1頁1欄6行)における
「Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」を
「Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」に訂正する。
(c)本件特許請求の範囲【請求項1】(本件特許公報1頁1欄8行)における
「Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」を
「Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和」に訂正する。
(d)本件特許請求の範囲【請求項3】(本件特許公報1頁2欄11〜14行)を削除する。
(e)本件特許請求の範囲【請求項4】(本件特許公報1頁2欄15行)における
「【請求項4】」を
「【請求項3】」に訂正する。
(f)本件特許請求の範囲【請求項5】(本件特許公報2頁3欄3行)における
「【請求項5】」を
「【請求項4】」に訂正する。
(g)本件特許請求の範囲【請求項6】(本件特許公報2頁3欄6行)における
「【請求項6】」を
「【請求項5】」に訂正する。
(h)本件特許請求の範囲【請求項7】(本件特許公報2頁3欄9行)における
「【請求項7】」を
「【請求項6】」に訂正する。
(i)本件明細書【0001】(本件特許公報2頁3欄13行目)における
「2種以上の」を
「2種類の」に訂正する。
(j)本件明細書【0006】(本件特許公報2頁4欄5〜13行)における
「前記目的を達成するため、本発明のポリエステル系混繊糸は、少なくとも2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含み、
Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸 Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」を
「前記目的を達成するため、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、
Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエスチルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」に訂正する。
(k)本件明細書【0009】(本件特許公報2頁4欄41〜42行)における
「高収縮糸であることが好ましい。」を
「高収縮糸である。」に訂正する。
(l)本件明細書【0012】(本件特許公報3頁5欄3行目)における
「少なくとも2種類」を
「2種類」に訂正する。
(m)本件明細書【0013】(本件特許公報3頁5欄15行目)における
「少なくとも2種類」を
「2種類」に訂正する。
(n)本件明細書【0030】(本件特許公報5頁上欄表中の9段目)における
「交絡フィード圧」を
「交絡フィード率」に訂正する。
(o)本件明細書【0032】(本件特許公報5頁9欄32〜40行)における
「以上説明した通り、本発明のポリエステル系混繊糸は、少なくとも2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbを含み、
Fa:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」を
「以上説明した通り、本発明のポリエステル系混繊糸は、2種類のフィラメント糸からなる実質的にループ・タルミのないポリエステル系混繊糸であって、前記混繊糸は下記成分のフィラメント糸Fa及びFbからなり、
Fa:ポリエチレンテレフタレートからなる延伸糸を熱処理した糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDaが、8%以下であるポリエステル系フィラメント糸
Fb:ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、第三成分を共重合した共重合ポリエステルの高収縮糸からなる延伸糸であって、沸騰水収縮率と沸収後乾収率の和:WDbが、12≦WDb≦45であるポリエステル系フィラメント糸」に訂正する。
異議決定日 2001-10-25 
出願番号 特願平7-29209
審決分類 P 1 651・ 121- YA (D02G)
P 1 651・ 113- YA (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 茂樹  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 喜納 稔
石井 克彦
登録日 2000-04-21 
登録番号 特許第3059655号(P3059655)
権利者 東レ・テキスタイル株式会社
発明の名称 ポリエステル系混繊糸  
代理人 池内 寛幸  
代理人 佐藤 公博  
代理人 池内 寛幸  
代理人 佐藤 公博  
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