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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A63B |
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管理番号 | 1054928 |
異議申立番号 | 異議2000-73543 |
総通号数 | 28 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-10-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-09-21 |
確定日 | 2001-12-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3022316号「アイアンクラブヘッド」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3022316号の請求項1及び請求項2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3022316号の請求項1ないし請求項4に係る発明についての出願は、平成8年4月4日に特許出願され、平成12年1月14日にその特許権の設定登録がなされ、その後、金谷 房技 より特許異議の申立てがなされ、取り消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年7月16日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の記載を、次のとおり訂正する。 もとの請求項1を削除し、請求項2、請求項3、及び請求項4の項番を、夫々、請求項1、請求項2、及び請求項3に訂正する。 イ.訂正事項b 明細書の段落番号【0049】の記載、 「請求項2記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏すると共に、容易に製造できる。」 とあるのを、 「請求項1記載のアイアンクラブヘッドによれば、アイアンクラブヘッドを容易に製造できる。」 と訂正する。 ウ.訂正事項c 明細書の段落番号【0050】の記載、 「請求項3記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏すると共に、容易に製造できる。また、ヘッドの形状及び大きさを従来のアイアンクラブヘッドと同一としたまま、ヘッド全体の重量を軽くすることができる。」 とあるのを、 「請求項2記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏する。また、ヘッドの形状及び大きさを従来のアイアンクラブヘッドと同一としたまま、ヘッド全体の重量を軽くすることができる。」 と訂正する。 エ.訂正事項d 明細書の段落番号【0051】の記載、 「請求項4記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏すると共に、容易に製造できる。また、重心を通る上下方向の軸心廻りの慣性モーメントが大きくなるので、一層方向性に優れる。」 とあるのを、 「請求項3記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏する。また、重心を通る上下方向の軸心廻りの慣性モーメントが大きくなるので、一層方向性に優れる。」 と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項b、訂正事項c、及び訂正事項dは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび 上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2、3項の規定に適合するので、この訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)申立ての理由の概要 特許異議申立人 金谷 房技 は、 甲第1号証:特開平5-237205号公報 甲第2号証の1:「チョイス 11月号」平成7年11月1日 ゴルフダイジェスト社 甲第2号証の2:甲第2号証開示のデータをまとめた表 甲第3号証:「チョイス 臨時増刊」平成2年10月20日 ゴルフダイジェスト社 甲第4号証:特開平5-329236号公報 甲第5号証:特開昭62-74383号公報 を提出して、特許第3022316号の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反して、請求項2及び請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、特許を取り消すべき旨主張している。 (2)訂正明細書における特許異議の申立てに係る請求項 上記特許異議の申立てに係る請求項は、請求項1、請求項2、及び請求項3であるが、上記「2.訂正の適否についての判断」で示したとおり、その訂正が認められるので、もとの請求項1は、削除され、請求項2及び請求項3は、夫々項番が請求項1及び請求項2に訂正された。したがって、訂正明細書における特許異議の申立てに係る請求項は、請求項1及び請求項2となる。 (3)請求項1及び請求項2に係る発明 本件特許第3022316号の請求項1及び請求項2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】 基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりも、少なくともフェース1側に、比重の大きな材質の重量体9を埋設して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したことを特徴とするアイアンクラブヘッド。 【請求項2】 基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりも、少なくともバックフェース12側に、比重の小さな材質の軽量体13を配設して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したことを特徴とするアイアンクラブヘッド。 (3)請求項1に係る発明について 請求項1に係る発明は、もとの請求項2に係る発明であるが、これについて、特許異議申立人 金谷 房技 は請求項2に係る発明の特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるという根拠として、上記甲第1号証ないし甲第4号証を挙げている。 ところで、請求項1に係る発明は、アイアンクラブヘッドを、基本材質と、比重の大きな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行い、その重心深度の範囲を-2mm以上かつ+2mm未満としたものである。 そこで、この点について、甲第1号証〜甲第4号証を検討する。 A.甲第1号証(当審が通知した取消の理由に引用した刊行物1)には、 1-ア.表1にゴルフクラブセット例のソール幅、ZG(請求項1に係る発明の重心深度に相当)、及びロフト角の値が記載されている。そして、I9のZG及びPWのZGの値として、それぞれ1.9及び1.6の値が記載されている。 1-イ.図12、図13、及び図14にゴルフクラブセットのヘッド形状の側面が記載されており、重心深さ(請求項1に係る発明の重心深度に相当)として、それぞれ1.7、1.6、及び1.1の値が記入されている。 1-ウ.図3にZGとクラブNO.の関係を表す曲線Dと従来例の分布が記載されている。 そして、1-ウ.からは、クラブN0.I8、I9、及びPWの従来例のZGは約0.9mm〜約3.5mmの範囲に分布していることがわかる。 したがって、甲第1号証には請求項1に係る発明の重心深度の範囲を充足する記載又は請求項1に係る発明の重心深度の範囲と重複する記載がある。 しかしながら、基本材質と、比重の大きな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行うことについては記載がなく、また、それを示唆する記載もない。 B.甲第2号証の1には、 2-ア.第84頁の表のコンダクターSX5番の重心深度の欄には、2.0mmと記載されている。 したがって、甲第2号証の1には請求項1に係る発明の重心深度の範囲の上限と隣り合う値が記載されている。 しかしながら、基本材質と、比重の大きな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行うことについては記載がなく、また、それを示唆する記載もない。 C.甲第3号証(当審が通知した取消の理由に引用した刊行物2)には、 3-ア.「重心位置は必ずしもヘッド内部にくるとは限らない。ロフトのあるショートアイアンなどでは、重心点は、ヘッドの外側の架空の一点にある。‥‥‥ネックも含めて考えた場合、ロフトの多い番手では、重心点は理論的にはフェースの外側に出ているのだ。」(第195頁下欄第8〜20行。)と記載されている。 したがって、甲第3号証にはアイアンクラブヘッドの重心深度がマイナス側に及ぶことの記載があり、請求項1に係る発明の重心深度の範囲と重複する。 しかしながら、基本材質と、比重の大きな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行うことについては記載がなく、また、それを示唆する記載もない。 D.甲第4号証には、 4-ア.「ヘッド本体1をステンレスや鉄で鋳造または鍛造し、フェース部分に凹部2を形成しておき、この凹部2に銅から成るフェース材3をインサートする。ヘッド本体1はカーボンファイバー等の合成樹脂材料で形成してもよい。」(第1欄第42〜46行。) 4-イ.「ショートアイアンとよばれるアイアンクラブのヘッドの打球面を銅で形成することにより、従来のものに比べてスピン量が増大する。」(第2欄第12〜14行。) 4-ウ.「ヘッドの打球面を銅で形成することにより、特にショートアイアンとよばれるクラブのスピン量が増大し、ボールがよく止まることが確認された。」(第2欄第45〜47行。) と記載されている。 したがって、基本材質と、比重の大きな材質とを組み合わせてヘッド本体を構成することが記載されている。 しかしながら、比重の大きな材質である、銅からなるフェース材をインサートしたのは、クラブのスピン量を増大させ、ボールがよく止まるようにするためであって、重心深度を調整するためのものではない。また、重心深度を調整することを示唆する記載もない。 ところが、請求項1に係る発明は、請求項1に記載された構成を採ることにより初めて、明細書記載の作用効果を奏するものである。 よって、請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明は、もとの請求項3に係る発明であるが、これについて、特許異議申立人 金谷 房技 は請求項3に係る発明の特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるという根拠として、上記甲第1号証ないし甲第3号証、及び甲第5号証を挙げている。 ところで、請求項2に係る発明は、アイアンクラブヘッドを、基本材質と、比重の小さな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行い、その重心深度の範囲を-2mm以上かつ+2mm未満としたものである。 そこで、この点について、甲第1号証〜甲第3号証、及び甲第5号証を検討する。 A.甲第1号証(当審が通知した取消の理由に引用した刊行物1)には、 1-ア.表1にゴルフクラブセット例のソール幅、ZG(請求項2に係る発明の重心深度に相当)、及びロフト角の値が記載されている。そして、I9のZG及びPWのZGの値として、それぞれ1.9及び1.6の値が記載されている。 1-イ.図12、図13、及び図14にゴルフクラブセットのヘッド形状の側面が記載されており、重心深さ(請求項2に係る発明の重心深度に相当)として、それぞれ1.7、1.6、及び1.1の値が記入されている。 1-ウ.図3にZGとクラブNO.の関係を表す曲線Dと従来例の分布が記載されている。 そして、1-ウ.からは、クラブN0.I8、I9、及びPWの従来例のZGは約0.9mm〜約3.5mmの範囲に分布していることがわかる。 したがって、甲第1号証には請求項2に係る発明の重心深度の範囲を充足する記載又は請求項2に係る発明の重心深度の範囲と重複する記載がある。 しかしながら、基本材質と、比重の小さな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行うことについては記載がなく、また、それを示唆する記載もない。 B.甲第2号証の1には、 2-ア.第84頁の表のコンダクターSX5番の重心深度の欄には、2.0mmと記載されている。 したがって、甲第2号証の1には請求項2に係る発明の重心深度の範囲の上限と隣り合う値が記載されている。 しかしながら、基本材質と、比重の小さな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行うことについては記載がなく、また、それを示唆する記載もない。 C.甲第3号証(当審が通知した取消の理由に引用した刊行物2)には、 3-ア.「重心位置は必ずしもヘッド内部にくるとは限らない。ロフトのあるショートアイアンなどでは、重心点は、ヘッドの外側の架空の一点にある。‥‥‥ネックも含めて考えた場合、ロフトの多い番手では、重心点は理論的にはフェースの外側に出ているのだ。」(第195頁下欄第8〜20行。)と記載されている。 したがって、甲第3号証にはアイアンクラブヘッドの重心深度がマイナス側に及ぶことの記載があり、請求項1に係る発明の重心深度の範囲と重複する。 しかしながら、基本材質と、比重の小さな材質とを組み合わせて重心深度の調整を行うことについては記載がなく、また、それを示唆する記載もない。 D.甲第5号証には、 5-ア.「図中1は例えばステンレススチール、鋳鉄あるいは真鍮等の金属材料からなるアイアンクラブのヘツド本体である。このヘツド本体1の打球面部、すなわち、金属薄板からなる打球面部2の打球方向の裏面側には、打球面部2の厚さがヘツド本体の上縁部1a及びソール部lbの厚さより薄くなるように凹部3が形成され、該凹部3の打球面部2に対応する面3aを平坦にして、この平坦な面3aにCFRPなどの高弾性率材料からなる板状の繊維強化部材4が密着状態で添設され、これにより、ヘツド打球面相当部が金属板とCFRPとの2重の複合積層構造になるように構成されている。」(第2頁左下欄第12〜右下欄第4行。) 5-イ.「軽量な繊維強化部材4の添設補強により不要となる重量減少分に相当する重量を、他の部分、たとえばヘツド本体1のソール部あるいはバツク部あるいはヘツドの他の周囲部に移行させることにより、ヘツドとして等重量のもとでヘツドの慣性能率を調節することができるようになつている。」(第2頁右下欄第15〜第3頁左上欄第1行。) 5-ウ.「打球面部が金属材料と高弾性率材料との積層構造になり、両材料の厚さ比を調節することによつて打球感の調節ができる。また、繊維強化部材の埋設によつて、打球面部の重量を減少させることができ、その重量減少分だけヘツド周辺の他の部分の重量を増加させることによって、等重量のもとでヘツドの慣性能率を調節することができる。」(第3頁右上欄第5〜12行。) と記載されている。 したがって、基本材質と、比重の小さな材質とを組み合わせてヘッド本体を構成することが記載されている。 しかしながら、比重の小さな材質である、高弾性率材料からなる繊維強化部材を、ヘツド本体1の打球面部の打球方向の裏面側に密着状態に添設し、打球面部を金属材料と高弾性率材料との積層構造にしたのは、打球感の調節をすることと、打球面部の重量を減少させることに応じてヘッド周辺の他の部分の重量を増加させてヘツドの慣性能率を調節することのためであって、重心深度を調整するためのものではない。また、重心深度を調整することを示唆する記載もない。 ところが、請求項2に係る発明は、請求項2に記載された構成を採ることにより初めて、明細書記載の作用効果を奏するものである。 よって、請求項2に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証、及び甲第5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)むすび 以上のとおりであって、請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 アイアンクラブヘッド (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりも、少なくともフェース1側に、比重の大きな材質の重量体9を埋設して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したことを特徴とするアイアンクラブヘッド。 【請求項2】 基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりも、少なくともバックフェース12側に、比重の小さな材質の軽量体13を配設して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したことを特徴とするアイアンクラブヘッド。 【請求項3】 ヒール部4から斜め上方に延びるシャフト連結用のネック部5を有するアイアンクラブヘッドに於て、フェース1側のトウ部3側下部に第1重量体6を配設すると共に、上記ネック部5の少なくとも上部に第2重量体7を配設し、かつ、上記第1重量体6の比重と上記第2重量体7の比重を、残部8を成す基本材質の比重よりも、大きく設定して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したことを特徴とするアイアンクラブヘッド。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、ゴルフクラブのアイアンクラブヘッドに関する。 【0002】 【従来の技術】 ゴルフ用具に於て、飛びと方向性は最も重要な機能要素である。アイアンクラブにおいては、主としてボールをグリーンにのせる際に用いられることから、特に打球の方向性が重要である。ゴルフクラブでボールを打撃する際、ヘッドのフェースのスウィートスポットの位置で打撃すれば、論理上、ボールは真っ直ぐに飛ぶ。また、スウィートスポットから外れた位置でボールを打撃した場合、衝突中にヘッドが回転し、それによってボールの飛びの方向性が悪くなる。 【0003】 アベレージゴルファーにとって常にスウィートスポットの位置で打撃することはほぼ不可能である。また、上級者にとってもスウィートスポットを外れる距離は小さいとはいえ、より真っ直ぐに近い方向ヘボールを飛ばしたいという願望は尽きることがない。しかして、従来、打球の方向性を改善するために、ヘッドの重心廻りの慣性モーメントを大きくする試みがなされてきた。 【0004】 例えば、特開昭61-50574号に開示されているように、ヘッドのフェースに平行な上下方向に延びるX軸と、重心を通りフェースに平行な水平方向に延びるY軸と、重心を通りフェースに垂直な方向に延びるZ軸との、夫々の軸廻りの慣性モーメントを増加させるようなヘッドの重量配分を設定したアイアンクラブヘッドが公知であった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、アベレージゴルファーから上級者に至るまで、上述のように慣性モーメントを大きくすることにより方向性を改善したアイアンクラブに満足しているわけでは無く、一層方向性の良いアイアンクラブを求めているのが実状である。 【0006】 上述のような実状をふまえて本発明者等がシミュレーション及び実験を行った結果、ボールの飛びの方向性に関係するアイアンクラブヘッドの力学諸量は、ヘッドの重心廻りの慣性モーメントのみならず、重心深度にも依存していることを、本発明者等は見つけた。さらに、従来のアイアンクラブヘッドの重心深度は、全て2mm以上であることを、本発明者等は見つけた。 【0007】 そこで、本発明は、上述のような従来のアイアンクラブヘッドとは全く着想点を変えて、スウィートスポットから外れた位置でボールを打撃した際の打球の方向性に優れたアイアンクラブヘッドを提供することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 上述の目的を達成するために本発明に係るアイアンクラブヘッドは、重心深度を-2mm以上かつ+2mm未満に設定したものである。 【0009】 また、本発明に係るアイアンクラブヘッドは、基本材質にて全体を作った場合の仮想重心を通りフェースに平行な平面よりも、少なくともフェース側に、比重の大きな材質の重量体を埋設して、重心深度が-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したものである。 【0010】 また、本発明に係るアイアンクラブヘッドは、基本材質にて全体を作った場合の仮想重心を通りフェースに平行な平面よりも、少なくともバックフェース側に、比重の小さな材質の軽量体を配設して、重心深度が-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したものである。 【0011】 また、本発明に係るアイアンクラブヘッドは、ヒール部から斜め上方に延びるシャフト連結用のネック部を有するアイアンクラブヘッドに於て、フェース側のトウ部側下部に第1重量体を配設すると共に、上記ネック部の少なくとも上部に第2重量体を配設し、かつ、上記第1重量体の比重と上記第2重量体の比重を、残部を成す基本材質の比重よりも、大きく設定して、重心深度が-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したものである。 【0012】 【発明の実施の形態】 以下、実施の形態に基き本発明を詳説する。 【0013】 図1は本発明に係るアイアンクラブヘッドの実施の一形態を示し、1はフェース、2はソール、3はトウ部、4はヒール部、5はヒール部4から斜め上方に延びるネック部である。 【0014】 しかして、フェース1側のトウ部3側下部に第1重量体6を配設すると共に、ネック部5の上半部に第2重量体7を配設する。かつ、第1重量体6の比重と第2重量体7の比重を、残部8を成す基本材質の比重よりも大きく設定して、重心深度が-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成する。 【0015】 残部8は、図2の分解図に示すように、このアイアンクラブヘッドの大部分を占めており、その残部8のフェース1側のトウ部3側下部に切欠部10を設け、その切欠部10に小片状の第1重量体6(重量体9)を固着する。また、残部8は、短寸のネック部形成部11を有しており、そのネック部形成部11の上端に、円筒状の第2重量体7を連続状に固着する。 【0016】 なお、残部8に第1重量体6と第2重量体7を固着するための接合方法としては、樹脂等による接着や、各種溶接、ねじ止め、鋳ぐるみ等があげられる。 【0017】 また、残部8と第1重量体6と第2重量体7の材質としては、ステンレス、鉄、チタン合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、真鍮、タングステン等の金属や繊維強化プラスチック等があげられ、それらの内の比重の大小により、残部8用の材質と、第1重量体6及び第2重量体7用の材質を、適宜選択する。なお、上記以外の金属やプラスチックを用いてもよい場合もある。 【0018】 上述の構成により、図3に示すように、このアイアンクラブヘッドの重心深度Dは、従来のアイアンクラブヘッドの重心深度D0よりも小さく(浅く)なる。ここで、重心深度Dとは、このヘッドの重心Gからフェース1に下ろした垂線Mの長さのことと定義する。そして、重心Gがヘッド内部に存在するときの重心深度Dの数値に正の符号(+)を付ける。また、重心Gがヘッドの外部に存在するとき、重心深度Dはこのヘッドの重心Gからフェース1に下ろした垂線Mの長さに負の符号(-)をつけたものとする。 【0019】 第1重量体6は、基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりもフェース1側に埋設される。つまり、このアイアンクラブヘッドは、基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりもフェース1側に、比重の大きな材質の重量体9を埋設して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成したものである。 【0020】 なお、図例では、第1重量体6の全体が、上記平面Nよりもフェース1側に配設されているが、第1重量体6の一部が平面Nよりもバックフェース側―――フェース1とは反対側―――に位置するように構成してもよい場合がある。 【0021】 しかして、図4の断面図に示すように、第1重量体6の重心G1が残部8の重心G3よりも前方(フェース1側)に位置し、かつ、第2重量体7の重心G2がフェース1よりも前方に位置しているため、このアイアンクラブヘッドの重心Gは、前述の仮想重心G0よりも前方のフェース1の面近傍に位置する。 【0022】 ところで、図5は、上述の図1〜図4のクラブヘッドと同一の外形寸法であって全体を基本材質にて形成した比較例としてのアイアンクラブヘッドであって、その重心は前述の仮想重心G0となる。その図5のヘッドの仮想重心G0の位置と図4の本発明のアイアンクラブヘッドの重心Gの位置とを比較すれば明らかなように、本発明のヘッドは、従来のヘッドの重心G0よりもかなり前方に位置している。 【0023】 しかして、この(図1〜図4の)アイアンクラブヘッドを装着したゴルフクラブによれば、重心深度Dが従来のアイアンクラブヘッドの重心深度よりも小さいので、スウィートスポット―――重心Gからフェース1に下ろした垂線Mとフェース1の面とが交わる点近傍―――から外れた位置でボールを打撃した場合に、飛球の方向性が良くなる。さらに、重心Gを通る上下方向の軸心廻りの慣性モーメントが大きくなるので、一層方向性に優れる。 【0024】 なお、重心深度が小さい方が飛球の方向安定性に優れるということのメカニズムについては、次のように推定される。即ち、図6に示すように、ヘッドHがゴルフボールBに衝突したときにヘッドHがボールBから受ける力は、フェースFに垂直な力F2と、衝突中にヘッドHが回転して傾くことでボールBとヘッドHとの間に生じる摩擦力F3である。 【0025】 そのフェースFに垂直な力F2と摩擦力F3との合力F1がヘッドHを回転させる力となり、その合力F1の作用線と重心との距離が大きい方がヘッドHが良く回転する―――即ちヘッドHの振れ角が大きくなる―――はずである。 【0026】 しかして、重心深度が浅い場合の重心G4と重心深度が深い場合の重心G5とを比較すると、重心深度が浅い方(重心G4)が、ヘッドHの受ける合力F1の作用線と重心との距離―――即ち重心G4,G5から合力F1の作用線に下ろした垂線の長さ―――は小さいということが分かる。従って、重心深度が浅い方が、ヘッドHの振れ角が小さくなり、飛球の方向性が良くなると推定できる。 【0027】 なお、重心深度の値を-2mmよりも小さくすることは、現状の一般的なアイアンクラブヘッドの形状を概ね保ったままで実現することは困難であり、+2mm以上であると、スウィートスポットから外れた位置でボールを打撃したときに衝突中のヘッドの回転が大きく、ボールの飛びの方向性が悪い。 【0028】 また、第2重量体7は、ネック部5の少なくとも上部に配設されていれば良く、例えば、ネック部5のほぼ全体を第2重量体7にて形成するも自由である。 【0029】 次に、図7と図8は、他の実施の形態を示し、残部8のフェース1側の下部全体に切欠部10を設け、その切欠部10に重量体9を固着したものである。なお、ネック部5全体が残部8を成す基本材質にて形成される。他の構成については、図1〜図4のものと同様である。 【0030】 このように構成すれば、重心深度が小さくなって飛球の方向性が良くなると共に、重心Gを低くすることができ、ボールを高く上げ易いという利点がある。 【0031】 また、図9と図10は、別の実施の形態を示し、残部8のバックフェース12側―――即ちフェースとは反対側―――の上部略全体に切欠部10を設け、その切欠部10に(基本材質よりも比重の小さい材質の)軽量体13を固着したものである。 【0032】 つまり、図11に示すように、基本材質にて全体を作った場合の仮想重心G0を通りフェース1に平行な平面Nよりもバックフェース12側に、比重の小さな材質の軽量体13を配設して、重心深度Dが-2mm以上かつ+2mm未満となるように構成する。なお、ネック部5全体が残部8を成す基本材質にて形成される。 【0033】 このように構成すれば、重心深度が小さくなって飛球の方向性が良くなる。また、重心Gが低くなって、ボールを高く上げ易い。 【0034】 次に、本発明のアイアンクラブヘッドの効果を検証すべく実施したシミュレーション及び実験について説明する。 【0035】 有限要素法に基づくシミュレーションとして、上下方向と左右方向と前後方向の夫々の軸心廻りの慣性モーメントを5番アイアン相当に設定したヘッドモデルについて、ヘッドの重心を通りフェース面に平行な上下方向の軸心廻りの慣性モーメントをパラメータとして、打球位置のスウィートスポットからの左右方向の距離とボールの左右の飛球方向(左右方向の振れ角)との関係を算出した。 【0036】 その結果を図12のグラフ図に示す。この図12から、上下方向の軸心廻りの慣性モーメントが大きくなれば、飛球の左右の振れ角が小さくなって方向性が良いということが分かった。 【0037】 また、上記と同様のヘッドモデルについて、重心深度をパラメータとして、打球位置のスウィートスポットからの左右方向の距離とボールの左右の飛球方向(左右方向の振れ角)との関係を算出した。その結果を図13のグラフ図に示す。 【0038】 この図13から、重心深度が小さいほど、スウィートスポットから外れた位置でボールを打撃した場合の飛球の左右方向の振れ角が小さいことが分かった。 【0039】 【実施例】 次に、試作クラブを作製して実験を行った。具体的には、次の表1に示すように、本発明の実施例として、▲1▼▲2▼▲3▼のヘッドを作成した。また、従来例(比較例)として、▲4▼のアイアンヘッドを使用した。 【0040】 【表1】 【0041】 なお、本発明の実施例▲1▼▲2▼▲3▼のヘッドの形状・寸法は、住友ゴム工業株式会社製アイアンヘッド(商品名MAXFLI DP-201)の5番アイアンのヘッドの形状・寸法と概ね同一とし、その構造は、図1〜図4に示したヘッドと同様とした。また、従来例▲4▼のヘッドとして、住友ゴム工業株式会社製アイアンヘッド(商品名MAXFLI DP-201)の5番アイアンのヘッドそのものを用いた。この実施例に於て重量体を配設することで増加した重量はバックフェースを研削することで調整した。 【0042】 しかして、上述の実施例のヘッドと従来例のヘッドについて、スウィートスポットを基準点Aとし、その基準点Aと、基準点Aから10mmトウ部側へ離れた点Bにて打ったときの飛球方向(左右方向の振れ角)を測定した。 【0043】 なお、インパクトの条件を合わせるために、同一のシャフト(住友ゴム工業株式会社製:商品名ツアーブラックV2:カーボンシャフトのR)を上記▲1▼▲2▼▲3▼▲4▼のヘッドに取付けた。また、打撃にはスウィングロボットを用い、ヘッド速度を約38m/sで行った。そして、1つの打点での振れ角の値は、トウ部側への振れを正の値として、5回の測定値の平均をとった。その結果を次の表2に示す。 【0044】 【表2】 【0045】 表2より、従来例▲4▼に比して重心深度が小さい本発明の実施例▲1▼▲2▼▲3▼のヘッドの方が、打点ABの振れ角の差が小さくなっており、飛球の方向性が良いことが分かる。また、実施例▲1▼▲2▼▲3▼の内では、重心深度が小さいほど打点ABの振れ角の差が小さく、飛球の方向性が良い。 【0046】 なお、本実施例にはヘッドのバックフェース側に凹部のないフラットバックタイプのアイアンを用いたが、凹部のあるいわゆるキャビティタイプのアイアンにおいても同様に構成できることは言うまでもない。 【0047】 【発明の効果】 本発明は上述の構成により、次のような著大な効果を奏する。 【0048】 請求項1記載のアイアンクラブヘッドによれば、スウィートスポットから左右に外れた位置でボールを打ったときに、飛球の左右方向のずれを(従来のアイアンクラブヘッドに比して)小さくすることができ、方向性が良くなる。 【0049】 請求項1記載のアイアンクラブヘッドによれば、アイアンクラブヘッドを容易に製造できる。 【0050】 請求項2記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏する。また、ヘッドの形状及び大きさを従来のアイアンクラブヘッドと同一としたまま、ヘッド全体の重量を軽くすることができる。 【0051】 請求項3記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏する。また、重心を通る上下方向の軸心廻りの慣性モーメントが大きくなるので、一層方向性に優れる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の実施の一形態を示す斜視図である。 【図2】 分解斜視図である。 【図3】 要部拡大断面平面図である。 【図4】 要部断面平面図である。 【図5】 比較例の要部断面平面図である。 【図6】 打撃時のメカニズムを説明するための断面背面図である。 【図7】 他の実施の形態の斜視図である。 【図8】 分解斜視図である。 【図9】 別の実施の形態の斜視図である。 【図10】 分解斜視図である。 【図11】 要部拡大断面平面図である。 【図12】 シミュレーションの結果を示すグラフ図である。 【図13】 シミュレーションの結果を示すグラフ図である。 【符号の説明】 1 フェース 3 トウ部 4 ヒール部 5 ネック部 6 第1重量体 7 第2重量体 8 残部 9 重量体 12 バックフェース 13 軽量体 D 重心深度 G0 仮想重心 N 平面 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1.特許請求の範囲の減縮を目的として、 特許明細書の特許請求の範囲のもとの請求項1を削除し、請求項2、請求項3、及び請求項4の項番を、夫々、請求項1、請求項2、及び請求項3に訂正する。 2.上記1.の特許請求の範囲の訂正と整合させるため、明りょうでない記載の釈明として、 (1)明細書の段落番号【0049】の記載を、 「請求項1記載のアイアンクラブヘッドによれば、アイアンクラブヘッドを容易に製造できる。」と訂正する。 (2)明細書の段落番号【0050】の記載を、 「請求項2記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏する。また、ヘッドの形状及び大きさを従来のアイアンクラブヘッドと同一としたまま、ヘッド全体の重量を軽くすることができる。」と訂正する。 (3)明細書の段落番号【0051】の記載を、 「請求項3記載のアイアンクラブヘッドによれば、請求項1記載のものと同様の効果を奏する。また、重心を通る上下方向の軸心廻りの慣性モーメントが大きくなるので、一層方向性に優れる。」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-11-09 |
出願番号 | 特願平8-110304 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YA
(A63B)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神 悦彦 |
特許庁審判長 |
村山 隆 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 前田 建男 |
登録日 | 2000-01-14 |
登録番号 | 特許第3022316号(P3022316) |
権利者 | 住友ゴム工業株式会社 |
発明の名称 | アイアンクラブヘッド |
代理人 | 中谷 武嗣 |
代理人 | 中谷 武嗣 |