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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1055023
異議申立番号 異議2000-72726  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-14 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2999102号「耐火構造の建物ユニット」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2999102号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第2999102号は、平成5年9月10日に出願され、平成11年11月5日に特許の設定登録がなされ、その後、平成12年7月14日に特許異議申立人岡田芳子より特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明の特許に対して特許異議の申立がなされ、平成12年12月8日付で取消理由通知がなされ、平成13年2月9日付で特許権者より訂正請求書及び特許異議意見書が提出され、平成13年8月1日付で訂正拒絶理由通知がなされた。

第2 訂正請求書による訂正事項

上記訂正請求書は、特許第2999102号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めることを請求の趣旨とするものであって、訂正の内容は下記のとおりである。

1.訂正事項1
特許請求の範囲を次のように訂正する。
「【請求項1】四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、
前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、
前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、
該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、
前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、
ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、
このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴とする耐火構造の建物ユニット。
【請求項2】床わたり材の耐火被覆材が変形追随性に優れる柔軟なものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。
【請求項3】耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。」

2.訂正事項2
発明の詳細な説明の欄の段落【0008】を、
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴としている。」
と訂正する。

3.訂正事項3
発明の詳細な説明の欄の段落【0010】と段落【0011】を削除する。

4.訂正事項4
発明の詳細な説明の欄の段落【0012】を、段落【0010】とし、
「また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の耐火構造の建物ユニットであって、耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものであることを特徴としている。」
と訂正する。

5.訂正事項5
発明の詳細な説明の欄の段落【0015】を、段落【0011】とし(なお、段落【0016】以降はそれぞれ4ずつ繰り上がる)、
「【作用】この種の建物ユニットにあっては、従来、梁や柱等の主要構造部に、鋼材温度が350℃を越えると、耐力が常温時耐力の2/3以下に低下してしまう普通鋼が用いられていたため、梁や柱に所定の耐火性能を持たせるためには、厚めの耐火被覆材(例えば、25mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、鋼材温度を350℃以下に抑える必要があった。
これに対して、この発明の構成によれば、梁や柱等の主要構造部に高温時耐力の保証された耐火鋼、より好ましくは600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体、天井構造体及び柱部分を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから材積の節減にも寄与できる。
また、耐火被覆材を薄くできる分、ユニット間わたり部において、床調整材や天井調整材を使用できるので、床面段差や天井段差を解消でき、建物ユニットの品質を高めることができる。
さらに、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。」
と訂正する。

6.訂正事項6
発明の詳細な説明の欄の段落【0046】を、段落【0042】とし、
「【発明の効果】以上説明したように、この発明の耐火構造を有する建物ユニットは、梁や柱等の主要構造部に高温時耐力の保証された耐火鋼、より好ましくは600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体、天井構造体及び柱部分を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから材積の節減にも寄与できる。
また、耐火被覆材を薄くできる分、ユニット間わたり部において、床調整材や天井調整材を使用できるので、床面段差や天井段差を解消でき、建物ユニットの品質を高めることができる。
さらに、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。」
と訂正する。

第3 訂正請求の適否について

1.訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、訂正前の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2.訂正事項2ないし4について
訂正事項2ないし4は、訂正事項1のように特許請求の範囲を訂正したことによって生じる明細書の記載の不都合を整えるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、訂正前の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.訂正事項5、6について
訂正事項5、6において新たに作用効果として記載した事項である「ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる」は、訂正前の願書に添付した明細書又は図面に接した当業者にとって、実質的に当該明細書又は図面に記載されているといえる事項ということもできることから、訂正前の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内といえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正事項1ないし6は、いずれも特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び同条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第4 本件訂正発明

上記「第3」に記載したように訂正が認められることから、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明(以下、本件訂正発明1ないし3という。)は次のとおりである。
【請求項1】四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、
前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、
前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、
該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、
前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、
梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、
ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、
このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴とする耐火構造の建物ユニット。
【請求項2】床わたり材の耐火被覆材が変形追随性に優れる柔軟なものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。
【請求項3】耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。

第5 特許異議の申立てについて

1.特許異議申立人は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証を提出して、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない旨申し立てているが、上記「第4」に記載したように特許請求の範囲は適法に訂正され、特許異議申立人の申し立てに係る発明は、結果として異なるものとなった。
そこで、訂正後の請求項1ないし3に係る発明(本件訂正発明1ないし3)について検討する。

2.刊行物の記載事項の認定
本件特許の出願前に頒布されたと認められる、異議申立人の提出した甲第1号証及び甲第2号証の刊行物には各々以下の記載が認められる。
(1)甲第1号証(特開昭63-165630号公報)(注:旧字体は新字体とした)
(ア)「共同住宅、病院、ホテル、下宿等を用途とした三階建以上の建築物は、建築基準法に基づき、主要構造部(床、大梁、壁、屋根、柱)が所定の耐火性能を有する耐火構造でなければならない。そのために一般的には、床材、天井材、壁材を耐火材料で形成すると共に、屋根を耐火材料で葺き、また、・・号公報等に記載されているように、鉄骨の柱と梁を耐火材料で被せて耐火被覆することでそれらの耐火性能を確保している。」(公報1頁左下欄18行〜右下欄7行)、
(イ)「まず、実施例のユニット建築物は、第1図に示すように、ユニットAが上下3段に積み重ねて構成されている。これらの各ユニットAは、床大梁1及び床小梁2と、天井大梁3及び天井小梁4と、柱5とから駆体が構成され、この駆体に床材6と天井材7と壁材(外壁材8,内壁材9,間仕切壁材10)とが取り付けられた箱状のもので・・」(公報2頁左下欄9〜16行)、
(ウ)「前記床材6は、例えば、厚さ18mmの硬質木片セメント板等の耐火時間1時間以上(JISA1304建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火材料で形成され、・・この床材6のユニットわたり部には、床材6と同じ材料で形成された床わたり材15が床材6と密着して設けられている。前記天井材7は、例えば、厚さ25mmの石綿ケイ酸カルシウム板等の耐火時間1時間以上(JISA1304建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火材料で形成され・・この天井材7のユニットわたり部には、天井材7と同じ材料で形成された天井わたり材17が天井材7と密着して設けられている。即ち、同階のユニットAにおいて床材6及び天井材7は、床わたり材15及び天井わたり材17を介して同一平面上に連続している。」(公報2頁右下欄12行〜3頁左上欄9行)、
(エ)「そして、前記床大梁1には床材6に当接した状態で床側仕切板23が固定され、前記天井大梁3には、天井材7に当接した状態で天井側仕切板24が固定されており・・また、前記仕切板23,24は、例えば、厚さ25mmの石綿ケイ酸カルシウム板等の耐火時間1時間以上(JISA1304建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火材料で形成されている。」(公報3頁右上欄4〜13行)、
(オ)「また、間仕切壁材10も同様に、石膏ボード等の不燃性の材料で形成されており・・耐火被覆された柱5に固定されている。」(公報3頁右上欄19行〜3頁左下欄3行)、
(カ)「これらの床材6と天井材7とは、全て耐火時間1時間以上の耐火性能を有する耐火材料で形成されているために・・上側のユニットAの床大梁1及び床小梁2と下側のユニットAの天井大梁3及び天井小梁4は、一括して同時に耐火材料によって耐火被覆されていることになり」(公報3頁左下欄8〜14行)、
(キ)「しかも、本実施例のユニット建築物では、工場において箱状に組立てられたユニットAに対し、更に床側仕切板23及び天井側仕切板24を床大梁1及び床小梁3に固定し」(公報3頁右下欄1〜4行)
と記載されている。
これら記載を含む明細書及び図面の記載からみて、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「四隅の柱5の上下端間がそれぞれ床大梁1、天井大梁3で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットAにおいて、前記床大梁1、天井大梁3又は/及び柱5は、鉄材から形成され、前記鉄材から形成された前記床大梁1、天井大梁3又は/及び柱5の所定の部位には耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、該耐火被覆材は、JISA1304の耐火試験方法による1時間以上の耐火性能を有し、ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニットA、A間に生ずる床材6のユニットわたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記鉄材からなる前記床大梁1、1の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材15が現地施工にて取着され、このとき、該床わたり材15の上面と、該床わたり材15を挟む形になる両側の建物ユニットA、Aの床部を構成する床材6の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床材6の上面が前記床大梁1の上フランジ上面よりも前記床わたり材15の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴とする耐火構造の建物ユニット。」(以下、甲第1号証記載の発明という。)
(2)甲第2号証(特開平3-6322号公報)
(ア)「ところで、各種建造物のうち、特に生活に密着したビルや事務所および住居などの建造物に前記鋼材を用いる場合、火災における安全性を確保するため、十分な耐火被覆を施すことが義務ずけられており、建築関係諸法令では、火災時に鋼材温度が350℃以上にならぬよう規定している。つまり、前記鋼材は、建造物に使用する場合350℃程度で耐力(降伏強度)が常温時の60〜70%になり、建造物の倒壊を引き起こす恐れがあるため、火災時における熱的損傷により該鋼材が載荷力を失うことのないようにして利用しなければならない。」(公報2頁右上欄末行〜左下欄11行、以下、記載事項Aという。〕
(イ)「前述のように建造物に従来の鋼材を利用する場合、価格は安いが、高温特性が低いため無被覆や軽被覆で利用することが出来ず、割高な耐火被覆を施さねばならない。」(公報3頁左上欄2〜5行、以下、「記載事項B」という。)、
(ウ)「さて、本発明者らは、火災時における鋼材強度について研究の結果、・・・さらに研究を進めた結果、600℃での高温耐力が常温時の70%(略々2/3)以上となる鋼材が最も経済的であることをつきとめ、高価な添加元素の量を少なくし、かつ耐火被覆を薄くすることが可能で、火災荷重が小さい場合は、無被覆で使用することが出来る鋼材の製造方法及び耐火性能を付与した鋼材料を開発した。」(公報3頁左下欄13行〜右下欄9行、以下、「記載事項C」という。)、
(エ)「本発明にかかる化学成分および製造法で製造した鋼材は、600℃の高温耐力(降伏強度)が常温耐力(降伏強度)の70%(略々2/3)以上で、常温の降伏比(降伏点/引張強)も低く、溶接性も良好である等の特徴を備えており、無被覆もしくは従来の耐火被覆の20〜50%の被覆厚さで耐火目的を達成できる・・」(公報19頁左上欄2〜8行、以下、「記載事項D」という)、
(オ)「つぎに、本発明鋼材に無機系繊維質耐火薄層材を展着した例について説明する。第2表は耐火被覆厚さに関する実施例で、JISA1304で規定される実験において、鋼材温度が350℃を超えないようにするため、必要な耐火材別の被覆厚さを示す。ところで、本発明鋼材の場合は、600℃を超えるまで鋼材温度が上昇しても良いので、前述のとおりその耐火被覆の厚さは第3表のように薄くて済む。第2表、第3表の比較から明らかなように本発明鋼を利用する場合、耐火被覆の材料費、施工費が大幅に軽減できる。」(公報7頁左下欄1〜13行)、
(カ)「・・第6図及び第7図から明らかなように、10mmの厚さの吹き付けロックウール(湿式)を施すことで、本発明鋼材で製造した柱は600℃を超えるまで破壊を起こさず、1時間耐火以上の性能を発揮していることが判る。」(公報8頁右上欄6〜10行)、
(キ)「・・第8図及び第9図から明らかなように、10mmの厚さの吹き付けロックウール(湿式)施すことで、本発明鋼材で製造したはりは、600℃を超えるまで破壊を起こさず、1時間耐火以上の性能を発揮していることが判る。又、600℃における変形量も変形許容値以下であることが判る。」(公報8頁左下欄5〜11行)
と記載されている。

3.対比、判断
(1)本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1と、甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「柱5」、「床大梁1、天井大梁3」、「建物ユニットA」、「床材6のユニットわたり部」、「床わたり材15」、及び「床材6」は、それぞれ本件訂正発明1の「柱」、「梁」、「建物ユニット」、「床わたり部」、「床わたり材」、及び「床下地材」に相当するから、両発明は、
「四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、
前記梁又は/及び柱は、鉄材から形成され、
前記鉄材から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、
ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記鉄材からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、
このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴とする耐火構造の建物ユニット。」
の点で一致しており、次の点で相違しているものと認められる。
相違点1:
鉄材が、本件訂正発明1では高温時耐力の保証された耐火鋼から形成されているのに対して、甲第1号証記載の発明では耐火鋼かどうか記載されていない点。
相違点2:
耐火被覆材が、本件訂正発明1では工場及び現地施工において取着されて耐火被覆がなされるのに対して、甲第1号証記載の発明では工場での施工について記載されていない点、。
相違点3:
本件訂正発明1では、耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定されているのに対して、甲第1号証記載の発明では、耐火被覆材は、JISA1304の耐火試験方法による1時間以上の耐火性能を有するものではあるが、耐火被覆材の厚さの設定については記載されていない点。
相違点4:
本件訂正発明1では、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているのに対し、甲第1号証記載の発明の梁はそのような構成となっていない点。
(イ)以下、相違点について検討する。
まず相違点4について検討すると、本件訂正発明1の相違点4に係る構成については、甲第1号証及び甲第2号証の何れにも記載されていない技術的事項であって、また、本件特許出願前に周知の技術的事項でもない。
そして、本件訂正発明1は、当該相違点に係る構成としたことによって、明細書に記載されたように、「梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。」という、作用効果を奏することが期待できる。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
(2)本件訂正発明2及び同3について
本件訂正発明2及び同3は、本件訂正発明1を引用してさらに技術的に限定したものであるから、本件訂正発明1について、甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから当業者が容易に発明できたものとすることができない以上、本件訂正発明2及び同3についても、本件訂正発明1についてした判断と同じ理由で、甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから当業者が容易に発明できたものとすることができない。
4.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし3は、いずれも甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない。
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件訂正発明1ないし3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし3について拒絶の理由を発見しない。

第6 むすび

以上のように、本件訂正発明1ないし3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認められない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐火構造の建物ユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、
前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、
前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、
該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、
前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、
梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、
ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、
このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴とする耐火構造の建物ユニット。
【請求項2】 床わたり材の耐火被覆材が変形追随性に優れる柔軟なものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。
【請求項3】 耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、耐火構造の建物ユニットに係り、特に、共同住宅、病院、寄宿舎等を用途とする三階建以上のユニット建築物に適用して好適である。
【0002】
【従来の技術】
近年、ユニット建築物は、三階建以上の建物に対しても普及している。ユニット建築物は、建物の工業生産化率を高めるために、一棟の建物を予めいくつかの運搬可能な大きさの箱形の建物ユニットや屋根ユニットに分けて工場生産し、これらを建築現場に輸送して、基礎の上で水平方向又は上下に据付して施工、組立する方式の建物である。
【0003】
一方、共同住宅、病院、寄宿舎等を用途とする三階建以上の建築物は、建築基準法に基づき、床、大梁、壁、柱等の主要構造部が所定の耐火性能を有する耐火構造でなければならない。
【0004】
従来、三階建以上のユニット建築物に用いられる耐火構造の建物ユニットにあっては、特開昭63-165627号公報や、特開昭63-165630号公報等に記載されているように、躯体を鉄骨系で構成すると共に、高温に弱い鉄骨を火炎から護るために、鉄骨の柱や梁を所定の厚さの耐火被覆材で耐火被覆し、さらに、床パネルや外壁パネル、界壁パネル等を所定の耐火区画材料で形成することで、主要構造部について所定の耐火性能を確保するようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ユニット建築物は、上記したように、各建物ユニットを予め工場で生産し、建築現場に輸送して基礎の上に据付して組み立てられるものであるから、各建物ユニットは、道路輸送上の高さ制限の対象となる。それ故、建物ユニットの高さは道路輸送上の制約から、その上限が自ずから決まってしまう。
【0006】
加えて、三階建以上のユニット建築物に用いられる耐火構造の建物ユニットにあっては、上記したように、床大梁や天井大梁等の主要構造部を所定の厚さの耐火被覆材で耐火被覆することにより、所定の耐火性能を有する耐火構造としなければならないために、床面は相対的に高くなり、天井面は相対的に低くなる傾向にあった。
このような制約の下で、耐火構造の建物ユニットの天井高を大きく確保するには、床大梁や天井大梁の梁背を低くすることが考えられる。しかしながら、三階建以上の建築物に対して、梁背の低い構造材を用いるのは、構造安定性に欠け、妥当ではない。
【0007】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、耐火性能や構造安定性を犠牲にすることなく、室内の広さに応じたゆとりある天井高を確保できる共に、材積の節減にも寄与し得る耐火構造の建物ユニットを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の耐火構造の建物ユニットであって、床わたり材の耐火被覆材が変形追随性に優れる柔軟なものであることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の耐火構造の建物ユニットであって、耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものであることを特徴としている。
【0011】
【作用】
この種の建物ユニットにあっては、従来、梁や柱等の主要構造部に、鋼材温度が350℃を越えると、耐力が常温時耐力の2/3以下に低下してしまう普通鋼が用いられていたため、梁や柱に所定の耐火性能を持たせるためには、厚めの耐火被覆材(例えば、25mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、鋼材温度を350℃以下に抑える必要があった。
これに対して、この発明の構成によれば、梁や柱等の主要構造部に高温時耐力の保証された耐火鋼、より好ましくは600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体、天井構造体及び柱部分を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから材積の節減にも寄与できる。
また、耐火被覆材を薄くできる分、ユニット間わたり部において、床調整材や天井調整材を使用できるので、床面段差や天井段差を解消でき、建物ユニットの品質を高めることができる。
さらに、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。
【0012】
なお、セラミックファイバ等の柔軟な耐火被覆材は、梁や柱の変形や膨張に容易に追従し得る上、充填性に富むため、隙間が生じ易い部位、取付が困難な部位の耐火被覆に適用して好適である。
【0013】
【実施例】
以下、図面を参照してこの発明の実施例について説明する。
図1は、この例の耐火構造の建物ユニットの体構造を示す斜視図、図2は、同躯体構造を分解して示す斜視図、図3は、同建物ユニットの柱部を拡大して示す斜視図、図4は、同建物ユニットの床部を拡大して示す断面図、また、図5は、同建物ユニットの天井部を拡大して示す断面図である。
まず、図1に示すように、同建物ユニット1は、溝形鋼からなる4本の床大梁2,2,…と、角型鋼管からなる4本の柱3,3,…と、溝形鋼からなる4本の天井大梁4,4,…と、ALC版(Autoclaved Light Weight Concrete;気泡コンクリート版)からなる複数の床パネル5,5,…と、小型溝形鋼からなる複数の天井小梁6,6,…とから箱形の躯体が構成され、この躯体に、図3乃至図5に示す壁パネル(外壁パネル7、内壁パネル8、又は図示せぬ界壁パネル)や、天井面材9が、ボルトやタッピングビス等の固定具を用いて取着されることにより構成されている。なお、建物ユニットのどの側面にどの種の壁パネル(外壁パネル7、内壁パネル8、又は界壁パネル)が取着されるかは、建物ユニット1がユニット建築物のどの部分を構成するかによって決定され、壁パネルが3つの側面に取着されてなるコの字壁状の建物ユニット、壁パネルが相対向する2つの側面に取着されてなる二の字壁状の建物ユニット、壁パネルが相交差する側面に取着されてなるL字壁状の建物ユニット等が存在する。
【0014】
ここで、上記床大梁2,2,…、天井大梁4,4,…及び柱3,3,…には、いずれも同一組成の耐火鋼からなる溝形鋼や角型鋼管を用いている点が、従来における耐火構造の建物ユニットと大きく異なるところである。この例において取り扱われる耐火鋼はSS400と称される材で、図7の(イ)に示すように、600℃の高温下でも、この鋼材が常温時に有する耐力の2/3以上の耐力、すなわち、163N/mm2以上の耐力を維持し得る品質を備えている。
【0015】
各柱3において、その上端部には、図3に示すように、2つのコ字状のジョイントピース10,10が互いに直交する側面から水平方向に突設され、各ジョイントピース10に各天井大梁4の先端部が嵌合溶接されて、四隅の柱3,3,…の上端部間が天井大梁4,4,…で結ばれている。また、各柱3の下端部にも、2つのコ字状のジョイントピース11,11が互いに直交する側面から水平方向に突設され、各ジョイントピース11に各床大梁2の先端部が嵌合溶接されて、四隅の柱3,3,…の下端部間が床大梁2,2,…で結ばれている。なお、各ジョイントピース10(11)も柱3と同一の耐火鋼から形成されている。
また、柱3の上端面、下端面には、それぞれ鋼板からなる上閉塞板12、下閉塞板13が溶接されている。上閉塞板12には、中央部位に上下階接合ボルト14が植設され、また、その両側で互いに対角をなす2つのコーナ寄りの部位には、位置決め用のガイドピン15,15がそれぞれ植設されている。
【0016】
なお、各ガイドピン15は、その位置決め機能の性質から、上下階接合ボルト14よりも長軸に形成されている。一方、下閉塞板13には、中央部位に(下階建物ユニット1の)上下階接合ボルト14を挿通させるボルト挿通孔16が穿設され、また、その両側で互いに対角をなす2つのコーナ寄りの部位には、(下階建物ユニット1の)ガイドピン15,15をそれぞれ挿通させるピン挿通孔17,17が穿孔されている。
【0017】
さらに、柱3は、床大梁2及び天井大梁4と接合している上下端部を除く部分のうち、建物ユニット1内部を臨む2つの側面が、予め工場において、厚さ12.5mmの珪酸カルシウム板からなる硬質の耐火被覆材18によって耐火被覆されている。耐火被覆材18の厚みを12.5mmに設定したのは、この出願に係る発明者達が通常規模の火災性状を想定して行った1時間耐火試験によって、耐火被覆材18をこの程度まで薄くしても、柱3の温度(鋼材温度)を600℃以下に抑えられることが確認できたからである。なお、上記したように、柱3を構成する耐火鋼は、600℃の高温下でも、構造強度として要求される常温時耐力の2/3以上の耐力を維持し得るから、柱3の温度(鋼材温度)が600℃まで上昇しても構造安定性を損なわない。
【0018】
また、建物ユニット1の床構造体において、上記各床パネル5は、厚さ125mmのALC版(Autoclaved Light Weight Concrete;気泡コンクリート版)からなり、これにより、耐火時間2時間以上(JIS A 1304建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火性能が確保されている。床パネル5,5,…は、図2に示すように、長方形の板状体で、桁側の床大梁2,2の長手方向に短辺を沿わせ、長辺同士を順次隣接させた状態で、桁側の床大梁2,2間に架け渡されており、図4に示すように、それぞれの短辺側両端部が、桁側の床大梁2,2のウェブ内側面にワンサイドリベット19,19,…で固定された受け部材20,20と押さえ部材21,21とに挟持され、これらを貫通するボルト22,22とナット23,23とで強固に締結されて、各桁側の床大梁4に固定されている。
【0019】
床大梁2,2,…の内側面側には、床パネル5,5,…の上面と上フランジとの間の溝開口面を耐火被覆するために、厚さ12.5mmの珪酸カルシウム板からなる硬質の耐火被覆材24,24…が、床パネル5,5,…の上面に取付具を介して取り付けられている。ここで、各耐火被覆材24の上面が床大梁2,2,…の上フランジ上面に略面一になるように、その高さが設定されている。また、耐火被覆材24の厚みを12.5mmに設定したのは、柱3の耐火被覆材18を12.5mmに設定した理由と同様である。
【0020】
なお、ユニット建築物を構築する際に、ユニット間の床わたり部25となるべき床大梁2の上面には、工場段階では耐火被覆はなされず、施工・組立性を考慮して現地にて耐火被覆される。一方、外壁パネル7等が取り付けられる側の床大梁2の上面には、予め工場にて珪酸カルシウム板等の耐火被覆材26が被せられて耐火被覆がなされる。床大梁2,2,…の外側面には耐火被覆はされない。この理由は、ユニット間の床わたり部25となるべき床大梁2の外側面には隣の床大梁2の外側面が必ず対向配置され、この場合、方の床大梁2の内側面上部に施された耐火被覆が、実質的に他方の床大梁2の外側面上部の耐火被覆にもなるからであり、一方、外壁パネル7等が取り付けられる側の床大梁2の外側面にはそれ自身耐火性能を備えた外壁パネル7が取り付けられるからである。また、床大梁2,2,…の下面にも耐火被覆はなされない。この理由は、床大梁2,2,…は、基礎又は耐火被覆された天井大梁4,4,…に沿って、かつ、基礎又は天井大梁4,4,…の直上に配設されるので、床大梁の下方を耐火被覆する必要がないからである。
【0021】
床パネル5,5,…の上面には、パーティクルボード等の根太受け27,…が耐火被覆材24の内側に配設され、根太受け27,…の上面には床根太28,28,…が取着され、さらに、床根太28,28,…の上面にはパーティクルボード等の床面材29が貼着されている。ここで、床面材29の広がりは、床大梁2,2,…の内側面を耐火被覆する耐火被覆材24,24,…にまでは及ばないようになされており、また、この例においては、床面材29は、その上面が、耐火被覆材24の上面や床大梁2の上フランジ上面よりも、12.5mm(後述する耐火被覆材41の厚みに相当する)だけ高位になるように設定されている。
【0022】
また、図5に示すように、建物ユニットの天井構造体において、相対向して配置される2本の桁側の天井大梁4,4間には、一対のガゼットプレート30,31を介して、各天井小梁6が架け渡されている。各天井小梁6の下端部には、木質の天井根太32,…が設置され、天井根太32,…の下端部には、天井根太32,…の長手方向に直交する方向に天井野縁33,33,…が取着され、さらに、これら天井野縁33,33,…の下面に石膏ボード等の天井面材9がタッピングビス等で貼着されている。ここで、天井面材9は、その下面が、天井大梁4の下フランジ下面よりも、12.5mm(後述する耐火被覆材43の厚みに相当する)だけ低位になるように設定されている。
各天井大梁4には、同図に示すように、溝内にロックウール34等の吸音性断熱材が充填され、内側面(溝開口面)には、厚さ12.5mmの珪酸カルシウム板からなる硬質の耐火被覆材35が被せられて耐火被覆されている。この耐火被覆材35の厚みを12.5mmに設定したのは、柱3の耐火被覆材18を12.5mmに設定した理由と同様である。
【0023】
上記耐火被覆材35は、図6に示すように、天井大梁4のウェブ内面にワンサイドリベットで固定された断面コ字形のガゼットプレート30と、天井小梁6のウェブ内面に溶接により固定された断面L字形のガゼットプレート31とに挟持される状態で、ボルト締結されることにより、天井大梁4の内側面を耐火被覆している。
ここで、各耐火被覆材35の上面が、天井大梁4の上フランジ上面よりも高くなるように設定され、耐火被覆材35の上面には、さらに、セラミックファイバ等からなる柔軟な耐火被覆材36が耐火接着剤を介して取着されている。なお、ユニット建築物を構築する際に、ユニット間の天井わたり部37となるべき天井大梁4の下面には、工場段階では耐火被覆はなされず、施工・組立性を考慮して現地にて耐火被覆される。一方、外壁パネル7等が取り付けられる側の天井大梁4の下面には、予め工場にて珪酸カルシウム板等の耐火被覆材38が被せられて耐火被覆がなされる。
【0024】
また、上記壁パネルのうち、外壁パネル7は、図3乃至図5に示すように、例えば、厚さ100mmのALC版等の耐火時間2時間以上(JIS A 1304建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火材料で形成され、ロックウール等の充填材を介して床大梁2及び天井大梁4に固定されている。内壁パネル8は珪酸カルシウム板と石膏ボードとの積層からなる厚さ68mmの耐火積層版で形成され、外壁パネル7と内壁パネル8との間には、ガラスウールやロックウール等の吸音断熱材が充填されている。また、図示せぬ界壁パネルは、各戸毎に空間を仕切るもので、珪酸カルシウム板とガラス繊維入り石膏ボードとの積層からなる厚さ116mmの積層版で形成され、これにより、耐火時間2時間以上(JIS A 1304建築構造部分の耐火試験方法による)の耐火区画が構成されている。
【0025】
次に、図2を参照して、この例の建物ユニット1の生産手順について説明し、さらに、図8を参照して、同建物ユニット1,1,…を用いて構成される三階建のユニット建築物の組立手順について説明する。
上記構成の建物ユニット1は、建物の工業生産化率を高めるために、予め工場において、運搬可能な大きさの箱形のものとして生産される。具体的には、図2に示すように、まず、桁側の床大梁2,2と床パネル5,5,…とを組み付けて床フレームを作製し、桁側の天井大梁4,4と天井小梁6,6,…とを組み付けて天井フレームを作製し、柱3,3と妻側の床大梁2,2及び天井大梁4,4とジョイントピース11,12,…とを組み付けて一対の妻フレームを作製する。この後、ジョイントピース11,12,…を介してこれらフレームを互いに溶接により結合して箱形の躯体を形成し、さらに、形成された躯体に壁パネル(外壁パネル7、内壁パネル8、図示せぬ界壁パネル)や天井面材9、床面材29等を取着して、建物ユニット1を完成させる。
【0026】
このようにして生産された建物ユニット1,1,…は、建築現場に輸送されて、施工・組立される。組立は、例えば、図8(a)〜(d)に示す作業手順で行われる。すなわち、まず、同図(a)に示すように、予め構築された基礎47の上に鉄板48を置き、同図(b)に示すように、この鉄板48の上にクレーン車49を配置させる。そして、クレーンによって、一階建物ユニット1,1,…を順次吊り上げ、基礎47上の片側半分に据え付けて行く。このとき、据え付けられた一階建物ユニット1,1,…を基礎47に対してアンカーボルトで締結固定すると共に、水平方向に隣接する一階建物ユニット1,1同士を図示せぬジョイントプレートを用いて柱間で剛接合する。
【0027】
次に、クレーンにより、各二階建物ユニット1を対応する一階建物ユニット1の上部に積み上げる。このとき、二階建物ユニット1における柱脚のピン挿通孔17,17に一階建物ユニット1における柱頭のガイドピン15,15が挿通される状態で積み重ねると、自然と精度良い位置決めが行われ、一階建物ユニット1における柱頭の上下階接合ボルト14が二階建物ユニット1における柱脚のボルト挿通孔16に挿通された状態になるので、図示せぬ接合用ナットと上下階接合ボルト14とで締結することにより、上下階を剛接合する。また、隣接する二階建物ユニット1,1同士を柱間で剛接合する。
【0028】
次に、三階建物ユニット1,1,…を、上記と同様の方法で二階建物ユニット1,1,…の上に積み重ね、二階建物ユニット1,1,…に固定すると共に、隣接する三階建物ユニット1,1同士を柱間で剛接合する。この後、三階建物ユニット1,1,…の上部に屋根を設置する。
次に、図8(c)に示すように、クレーン車49を基礎47の外側に移動させると共に鉄板48も移動させて、その場所から、基礎47上の残りの半分に、建物ユニット1,1,…を、先と同様にして順に積み上げて行き、屋根を設置して、同図(d)に示すように、三階建のユニット建築物を概略完成させる。
【0029】
次に、図9及び図10を参照して、ユニット間わたり部の構造について説明する。
ユニット建築物を概略完成させた後、建物ユニット1と隣の建物ユニット1との間の床部(床わたり部25)及び天井部(天井わたり部37)には、現地施工で、図9に示すような、床わたり材39及び天井わたり材40が取着される。上記床わたり材39は、厚さ12.5mmの珪酸カルシウム板からなる硬質の耐火被覆材41と、この耐火被覆材41の下面中央部にスタッドピン等で固定されたロックウール42とから構成されている。ここで、上記耐火被覆材41の幅は、床わたり部25における左右の床面材29,29の端面間距離と略同一寸法となるように設定されている。
【0030】
床わたり材39の取付は、ロックウール42を下方に向けて床大梁2,2のウェブ間に嵌挿させながら、耐火被覆材41を、耐火被覆材41の両端部下面が耐火被覆材24,24の上面に当接するまで、床面材29,29の端面間に嵌挿した後、嵌挿された耐火被覆材41の両端部を耐火被覆材24,24の上面にタッピングビスで緊結することによりなされる。このとき、上述したように、床面材29の上面が、耐火被覆材24の上面(床大梁2の上フランジ上面)よりも、12.5mmだけ高位になるように設定されているので、各床面材29と耐火被覆材41とは、同一の平面を形成する。
このようにして、図10に示すように、同階の床面は、同階の複数の建物ユニット1,1における床面材29,29と、これら床面材29,29を結ぶ床わたり材39とにより同一平面上に長く連続することになる。
【0031】
また、上記天井わたり材40も、床わたり材39と同様に、厚さ12.5mmの珪酸カルシウム板からなる硬質の耐火被覆材43と、この耐火被覆材43の上面中央部にスタッドピン等で固定されたロックウール44とから構成されている。ここで、上記耐火被覆材43の幅は、天井わたり部37における左右の天井面材9,9の端面間距離と略同一寸法となるように設定されている。
【0032】
天井わたり材40の取付は、ロックウール44を上方に向けて天井大梁4,4のウェブ間に嵌挿させながら、耐火被覆材43を、この耐火被覆材43の両端部上面が耐火被覆材35,35の下面に当接するまで、天井面材9,9の端面間に嵌挿した後、嵌挿された耐火被覆材43の両端部を耐火被覆材35,35の下面にタッピングビスで緊結することによりなされる。このとき、上述したように、天井面材9の下面が、天井大梁4の下フランジ下面よりも、12.5mmだけ低位になるように設定されているので、各天井面材9と耐火被覆材43とは、同一の平面を形成する。
このようにして、図10に示すように、同階の天井面は、同階の複数の建物ユニット1,1における天井材9,9と、これら天井面材9,9を結ぶ天井わたり材40とにより同一平面上に長く連続することになる。
【0033】
また、ユニット間わたり部において集結する2本の床大梁2,2と2本の天井大梁4,4とは、工場で取着される耐火被覆材24,24,35,35,36,36と、現地にて取着される耐火被覆材41,43と、さらに床パネル5,5とによって、一括して耐火被覆されている。
この場合において、天井大梁4,4の内側面を耐火被覆している硬質の耐火被覆材35,35の上面には、柔軟で変形性、充填性に富む耐火被覆材36,36が取着されていて、上階建物ユニット1を下階建物ユニット1の上部に載置するだけで、耐火被覆材36,36が密着状態で床パネル5の下面に当接されるので、垂直方向のユニット間わたり部の耐火被覆作業は省略できる。
【0034】
また、ユニット間わたり部において集結する2本乃至4本の柱3,3,…についても、現地施工で、柱わたり部に厚さ12.5mmの耐火被覆材が施され、これにより、2本乃至4本の柱3,3,…が一括して耐火被覆される。
【0035】
次に、この例の効果を従来技術と対比しつつ述べる。
図7の(ロ)に示すように、鋼材温度が350℃を越えると、耐力が常温時耐力の2/3以下に低下してしまう普通鋼から梁や柱が形成される従来においては、梁や柱に所定の耐火性能を持たせるためには、厚めの耐火被覆材(例えば、25mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、鋼材温度を350℃以下に抑えなければならない。
【0036】
これに対して、この例の梁や柱には、同図(イ)に示すように、600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体及び天井構造体を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから、材積の節減にも寄与できる。
【0037】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
例えば、上述の実施例においては、ユニット建物1を三階建のユニット建築物に用いる場合について述べたが、これに限らず、1階建や2階建あるいは4階建以上のユニット建築物に用いても良い。
さらに、耐火被覆材は、所定の耐火性能を有していれば、珪酸カルシウム板やセラミックファイバ等に限定されない。
【0038】
また、上述の実施例においては、鋼材温度600℃で常温時耐力の2/3以上の耐力を示す耐火鋼(600℃耐火鋼)を用いた場合について述べたが、これに限らず、600℃耐火鋼よりも耐火性能の優れる耐火鋼を用いても勿論良い。例えば、鋼材温度700℃でも常温時耐力の2/3以上を示す耐火鋼(700℃耐火鋼)を用いるようにすれば、さらに、耐火被覆材の厚みを薄くできるので好ましい。一方、600℃耐火鋼よりも、耐火性能が劣る場合、例えば、鋼材温度500℃で耐力性が衰える耐火鋼(500℃耐火鋼)を用いるようにしても、鋼材温度が350℃までしか耐力性の保証されない普通鋼に較べて、耐火被覆材を薄くすることができるので、所定の効果を得ることができる。
【0039】
また、上述の実施例においては、柱、床大梁及び天井大梁の全てを耐火鋼で形成する場合について述べたが、必要に応じて、例えば柱については、普通鋼を用いても良い。要は、柱、床大梁及び天井大梁のうち、すくなとも1種に耐火鋼を用いれば、この発明の範囲である。
【0040】
また、上述の実施例においては、耐火被覆材41,43を実質的に床わたり材39及び天井わたり材40として用いることにより、出来るだけ大きな天井高を確保するようにしたが、梁に撓みや捩れ等が発生している場合には、床面段差や天上面段差を生じさせる畏れがある。
このような場合には、図11に示すように、床わたり部25において、珪酸カルシウム板からなる厚さ12.5mmの耐火被覆材41の上面にパーティクルボード等の床調整材45を貼着し、この床調整材45の厚みを調整することにより、床面段差を回避することができる。同様に、天井わたり部37において、珪酸カルシウム板からなる厚さ12.5mmの耐火被覆材43の下面に石膏ボード等の天井調整材46を貼着するようにし、この天井調整材46の厚みを加減して天井段差を解消することができる。
【0041】
このように、耐火被覆材41と床調整材45とを合わせても、従来の床わたり部における耐火被覆材よりも薄くすることができ、同様に、耐火被覆材43と天井調整材46とを合わせても、従来の天井わたり部における耐火被覆材よりも薄くすることができるので、平滑な仕上面を得ながら、従来よりも、大きな天井高を得ることができる。
なお、この場合には、床調整材45や天井調整材46が、床面材29、天井面材9と同一材質なので、耐火被覆材41,43をセラミックファイバ等の柔軟な材料で構成することができ、このような柔軟な耐火被覆材は、梁の変形や膨張に容易に追従し得るので、一段と耐火性能の向上を図ることができる。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の耐火構造を有する建物ユニットは、梁や柱等の主要構造部に高温時耐力の保証された耐火鋼、より好ましくは600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体、天井構造体及び柱部分を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから材積の節減にも寄与できる。
また、耐火被覆材を薄くできる分、ユニット間わたり部において、床調整材や天井調整材を使用できるので、床面段差や天井段差を解消でき、建物ユニットの品質を高めることができる。
さらに、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この例の耐火構造の建物ユニットの構造を示す斜視図である。
【図2】
同躯体構造を分解して示す斜視図である。
【図3】
同建物ユニットの柱部を拡大して示す斜視図である。
【図4】
同建物ユニットの床部を拡大して示す断面図である。
【図5】
同建物ユニットの天井部を拡大して示す断面図である。
【図6】
同天井部の一部を分解して示す一部分解斜視図である。
【図7】
鋼材の温度-強度特性を示す図である。
【図8】
同建物ユニットを用いて構成される三階建のユニット建築物の組立手順を説明するために図である。
【図9】
ユニット間わたり部の構造を示す断面図である。
【図10】
ユニット間わたり部の構造を示す断面図である。
【図11】
変形例に係るユニット間わたり部の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 建物ユニット
2 床大梁(梁)
3 柱
4 天井大梁(梁)
5 床パネル
7 外壁パネル(壁パネル)
8 内壁パネル(壁パネル)
9 天井面材(天井下地材)
24,26,35,38,41,43 耐火被覆材
25 床わたり部
29 床面材(床下地材)
36 耐火被覆材(変形追従性に優れる耐火被覆材)
37 天井わたり部
39 床わたり材
 
訂正の要旨 訂正の要旨(平成13年2月9日付訂正請求書)
1.訂正事項1
特許請求の範囲を次のように訂正する。
「【請求項1】四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、
前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、
前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、
該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に、基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、
前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、
ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、
このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴とする耐火構造の建物ユニット。
【請求項2】床わたり材の耐火被覆材が変形追随性に優れる柔軟なものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。
【請求項3】耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものである請求項1記載の耐火構造の建物ユニット。」
2.訂正事項2
発明の詳細な説明の欄の段落【0008】を、
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、四隅の柱の上下端間がそれぞれ梁で結ばれて箱形に組み立てられた鉄骨系の建物ユニットにおいて、前記梁又は/及び柱は、高温時耐力の保証された耐火鋼から形成され、前記耐火鋼から形成された前記梁又は/及び柱の所定の部位には工場及び現地施工において耐火被覆材が取着されて耐火被覆がなされ、該耐火被覆材は、通常規模の火災性状を想定してなされる1時間耐火試験方法に基づく加熱期間中、前記梁又は/及び柱の平均温度を350℃以上で2/3耐力時点温度以下の範囲に留める厚さに設定され、前記2/3耐力時点温度とは、前記耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3にまで該耐火鋼の耐力が低下する時点における鋼材温度と定義されるものであり、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられており、ユニット建物を構築する際に、水平方向に互いに隣接して配置される2つの前記建物ユニット間に生ずる床わたり部には、長手方向を平行にして互いに対向する2本の溝形の前記耐火鋼からなる前記梁の上フランジ上面間に、前記耐火被覆材からなる床わたり材が現地施工にて取着され、このとき、該床わたり材の上面と、該床わたり材を挟む形になる両側の建物ユニットの床部を構成する床下地材の上面とが略面一になるように、予め、床部における前記床下地材の上面が前記梁の上フランジ上面よりも前記床わたり材の厚み分だけ高位に設定されていることを特徴としている。」
と訂正する。
3.訂正事項3
発明の詳細な説明の欄の段落【0010】と段落【0011】を削除する。
4.訂正事項4
発明の詳細な説明の欄の段落【0012】を、段落【0010】とし、
「また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の耐火構造の建物ユニットであって、耐火鋼が鋼材温度600℃の下でも該耐火鋼が常温時において有する耐力の2/3以上の耐力を維持し得る品質を備えたものであることを特徴としている。」
と訂正する。
5.訂正事項5
発明の詳細な説明の欄の段落【0015】を、段落【0011】とし(なお、段落【0016】以降はそれぞれ4ずつ繰り上がる)、
「【作用】この種の建物ユニットにあっては、従来、梁や柱等の主要構造部に、鋼材温度が350℃を越えると、耐力が常温時耐力の2/3以下に低下してしまう普通鋼が用いられていたため、梁や柱に所定の耐火性能を持たせるためには、厚めの耐火被覆材(例えば、25mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、鋼材温度を350℃以下に抑える必要があった。
これに対して、この発明の構成によれば、梁や柱等の主要構造部に高温時耐力の保証された耐火鋼、より好ましくは600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体、天井構造体及び柱部分を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから材積の節減にも寄与できる。
また、耐火被覆材を薄くできる分、ユニット間わたり部において、床調整材や天井調整材を使用できるので、床面段差や天井段差を解消でき、建物ユニットの品質を高めることができる。
さらに、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。」
と訂正する。
6.訂正事項6
発明の詳細な説明の欄の段落【0046】を、段落【0042】とし、
「【発明の効果】以上説明したように、この発明の耐火構造を有する建物ユニットは、梁や柱等の主要構造部に高温時耐力の保証された耐火鋼、より好ましくは600℃の高温にも構造上耐え得る耐火鋼が用いられるので、薄めの耐火被覆材(例えば、12.5mmの珪酸カルシウム板等)で梁や柱を覆い、これにより、鋼材温度が600℃まで上昇しても構造上支障はない。
それ故、床構造体、天井構造体及び柱部分を薄くできるので、従来よりも、一段とゆとりある天井高及び部屋空間を確保できる。また、耐火被覆材を薄くできることから材積の節減にも寄与できる。
また、耐火被覆材を薄くできる分、ユニット間わたり部において、床調整材や天井調整材を使用できるので、床面段差や天井段差を解消でき、建物ユニットの品質を高めることができる。
さらに、梁の厚み内に設けられたALC版からなる床パネルの上面に床根太を介して床下地材が設けられているので、ALC版自体が構造的な耐力を負担し、重量のあるALC版の存在により上下階の遮音性能が高いものとなる。」
と訂正する。
異議決定日 2001-12-04 
出願番号 特願平5-225658
審決分類 P 1 651・ 121- YA (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 蔵野 いづみ
鈴木 公子
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2999102号(P2999102)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 耐火構造の建物ユニット  

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