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審決分類 審判 一部申し立て 特174条1項  H01R
管理番号 1055096
異議申立番号 異議2001-70129  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-12 
確定日 2002-02-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3064874号「コネクタプラグ」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3064874号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1、手続の経緯
本件特許第3064874号に係る特許出願は、平成7年6月12日の出願であって、平成12年5月12日に特許権の設定登録がされた後、平成13年1月12日に特許異議申立人・馬場浩二より、その請求項1、2に係る特許に対して特許異議申立がなされたものである。
そして、平成13年4月3日付けで取消理由が通知され、それに対して平成13年6月4日付けで意見書及び訂正請求書が提出されたものである。
さらに、当該訂正請求に対して、平成13年9月17日付けで訂正拒絶理由が通知され、それに対して平成13年11月26日付けで意見書が提出されたものである。

2、訂正の適否について
イ、訂正の内容
平成13年6月4日付けの訂正請求は、その願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書に記載された以下のとおりに訂正しようとするものである。

特許明細書の【0026】欄の記載、
「【発明の効果】
本発明は、メタルシェル部88は、プラグの挿入方向に直交する断面が、底部に凹型溝100を有する略角筒状をなし、かつ底部にメタルシェル部88自体に柔軟性をもたせるための切目89をプラグの挿入方向に形成したので、メタルシェル部88自体が柔軟性を有し、従来のような突出部などの弾性部を必要とせず、全体の構造がコンパクトになる。また、メタルシェル部88に凹型溝100を形成するために底部を折曲したので、メタルシェル部88の底部の剛性が保たれて変形しにくく、切目89からメタルシェル部88がめくれ上がったりすることがない。 また、メタルシェル部88の底部の凹型溝100を、ハウジング78の中央に形成された凹型の底部溝85に嵌合するように形成したときには、凹型溝100 が底部溝85に係止され、メタルシェル部88が補強されて、さらに切目89からメタルシェル部88が開きにくくなる。」
を、
「【発明の効果】本発明は、メタルシェル部88は、筒状をなし、かつ底部にメタルシェル部88自体に柔軟性をもたせるための切目89を長さ方向に形成したので、メタルシェル部88自体が柔軟性を有し、従来のような突出部などの弾性部を必要とせず、全体の構造がコンパクトになる。」
と訂正する。(訂正前の記載の下線部は、訂正により削除された部分を示す。)

ロ、訂正の適否
訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項のいずれかを目的とするものでなければならないことは明らかである。
しかし、本件に係る訂正は上記のとおり、少なくとも、
「また、メタルシェル部88に凹型溝100を形成するために底部を折曲したので、メタルシェル部88の底部の剛性が保たれて変形しにくく、切目89からメタルシェル部88がめくれ上がったりすることがない。また、メタルシェル部88の底部の凹型溝100を、ハウジング78の中央に形成された凹型の底部溝85に嵌合するように形成したときには、凹型溝100が底部溝85に係止され、メタルシェル部88が補強されて、さらに切目89からメタルシェル部88が開きにくくなる。」
を削除する訂正事項を含むものである。
そして、この削除に係る訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとも、誤記の訂正であるとも認められない。
さらに、特許明細書の【0026】欄の記載に不明りょうな点はないから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるとも認められない。

なお、特許権者(訂正請求人)は、平成13年6月4日付けの訂正請求書と同時に提出した意見書において、本件に係る訂正は、
「願書に最初に添付した明細書の【0026】欄に記載した事項そのものへの訂正であるから、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第2項(注、正しくは平成6年改正前の特許法第126条第1項ただし書き)の規定に適合する。」
旨主張しているが、第126条の規定は、その条文に明らかなように、訂正は「願書に最初に添付した明細書」ではなく「願書に添付した明細書」に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨の規定であるから、特許権者(訂正請求人)のこの主張は何ら根拠のないものであり認めることができない。

また、特許権者(訂正請求人)は、平成13年11月26日付けの意見書において、最後の拒絶理由に対する補正についての特許庁の運用指針(平成5年改正特許法に関するもの)を提示した上で、
「本来、特許査定前にその違反が発見され、その機会が与えられれば、特許請求の範囲には何の影響も与えずに、適法な記載に補正されていたはずである。そして、取消理由も無効理由もない確固たる特許となっていたはずである。したがって、それを理由に特許の取消理由あるいは無効理由とすることは、発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的をないがしろにするものである。」
旨主張している。
この主張は、訂正と最後の拒絶理由に対する補正は全く異なったものであるのに両者を混同したものであって失当なものであることは明らかである。(但し、この主張は、訂正拒絶理由に対する意見という形をとっているが、その新規事項を含む補正がされた明細書に係る特許を取り消すべきではない旨の内容からみて、取消理由に対する意見とも考えられるので、その観点から、下記「3、取消理由について」でさらに検討する。)

ハ、訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件に係る訂正請求は、特許法第120条の4第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものではなく当該規定に適合しない。
よって、その余の訂正に係る要件について判断するまでもなく、本件に係る訂正は認めることができない。


3、取消理由について
イ、本件に係る願書に添付した明細書
上記「2、訂正の適否について」に示した理由で、平成13年6月4日付けの訂正請求は認めることができないから、本件に係る願書に添付した明細書は、特許査定時の明細書である特許明細書である。

ロ、新規事項について
a,補正事項
本件に係る出願の審査係属時である平成11年5月27日に出願人がした明細書についての手続補正は、審査官より通知された平成11年3月17日付けの拒絶理由通知の指定期間内にされたものであって、そのうちの【0026】欄についての補正の内容は、以下のとおりのものである。

本件に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書の【0026】欄の記載
「【発明の効果】
本発明は、メタルシェル部88は、筒状をなし、かつ底部にメタルシェル部8 8自体に柔軟性をもたせるための切目89を長さ方向に形成したので、メタルシェル部88自体が柔軟性を有し、従来のような突出部などの弾性部を必要とせず、全体の構造がコンパクトになる。」
を、
「【発明の効果】
本発明は、メタルシェル部88は、プラグの挿入方向に直交する断面が、底部に凹型溝100を有する略角筒状をなし、かつ底部にメタルシェル部88自体に柔軟性をもたせるための切目89をプラグの挿入方向に形成したので、メタルシェル部88自体が柔軟性を有し、従来のような突出部などの弾性部を必要とせず、全体の構造がコンパクトになる。また、メタルシェル部88に凹型溝100を形成するために底部を折曲したので、メタルシェル部88の底部の剛性が保たれて変形しにくく、切目89からメタルシェル部88がめくれ上がったりすることがない。 また、メタルシェル部88の底部の凹型溝100を、ハウジング78の中央に形成された凹型の底部溝85に嵌合するように形成したときには、凹型溝100 が底部溝85に係止され、メタルシェル部88が補強されて、さらに切目89からメタルシェル部88が開きにくくなる。」
と補正する。(下線部は補正箇所を示す)

b,新規事項についての判断
上記補正により、少なくとも、「切目89からメタルシェル部88がめくれ上がったりすることがない。」及び「凹型溝100が底部溝85に係止され、メタルシェル部88が補強されて、さらに切目89からメタルシェル部88が開きにくくなる。」との記載が追加されたものである。
しかし、これらの記載は、願書に最初に添付した明細書又は図面には記載されておらず、そこから直接的かつ一義的に導き出せる事項と認めるに足る理由も見出せない。
したがって、本件に係る特許は、特許法第17条の2第2項で準用する特許法第17条第2項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願についてされたものである。

なお、特許権者は、平成13年11月26日付けの意見書において、最後の拒絶理由に対する補正についての特許庁の運用指針(平成5年改正特許法に関するもの)を提示した上で、
「本来、特許査定前にその違反が発見され、その機会が与えられれば、特許請求の範囲には何の影響も与えずに、適法な記載に補正されていたはずである。そして、取消理由も無効理由もない確固たる特許となっていたはずである。したがって、それを理由に特許の取消理由あるいは無効理由とすることは、発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的をないがしろにするものである。」
旨主張している。

しかし、上記の特許庁の運用指針は、最後の拒絶理由が通知された際にされる補正について述べたもので、その補正は、特許請求の範囲の限定的減縮等を目的とするものでなければならないところ、必要以上に厳格に運用することがないようにする旨の運用指針である。
しかも、上記運用指針は、「・・・第17条の2第3項の規定は第2項の規定とは性格を異にするものと解される。」と明記してあり、最後の拒絶理由が通知された際にされた補正と、新規事項を含む補正の判断とは運用上相違するとさえいっているものである。
したがって、上記運用指針は、新規事項を含む補正の判断を必要以上に厳格に運用しないとはいっておらず、特許権者の上記主張の何らかの根拠になるものではない。

また、特許権者は、上記補正は、「事実上、最後の拒絶理由通知に対する補正であると考えます。」というが、最後の拒絶理由通知とは、補正によってさらに審査が必要となった場合にする少なくとも2回目以降の拒絶理由通知で、審査官より通知された一度だけの平成11年3月17日付けの拒絶理由通知が最後の拒絶理由通知ということはあり得ない。
さらに、最後の拒絶理由通知に対する補正であるから新規事項を含む補正が認容されるべきであるという理由は全くない。

そして、「特許査定前にその違反が発見され、その(補正の)機会が与えられれば瑕疵が治癒できた」旨の主張については、明細書の補正を行うことは出願人の義務ではなく権利であり、補正によって拒絶理由を免れ、特許を受けることができる可能性が高くなるとともに、新規事項を含むとそれが取消理由や無効理由になる危険も高くなるもので、それらを勘案して自己の意思で行うものであるから、この主張は自己責任を転嫁しようとするもので認めることができない。
(また、仮にこの主張を認めようとしても、特許査定後に上記瑕疵を治癒する機会は、訂正で治癒できる例外的な場合を除き、特許法上与えようもない。)

4、むすび
以上のとおりであるから、本件に係る発明は、平成6年改正前の特許法第17条の2第2項で準用する特許法第17条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許異議申立のされている請求項1、2に係る特許は取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-27 
出願番号 特願平7-167883
審決分類 P 1 652・ 55- ZB (H01R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 前田 仁右田 勝則  
特許庁審判長 佐藤 洋
特許庁審判官 岩崎 晋
岡田 和加子
登録日 2000-05-12 
登録番号 特許第3064874号(P3064874)
権利者 エスエムケイ株式会社 ソニー株式会社
発明の名称 コネクタプラグ  
代理人 古澤 俊明  
代理人 古澤 俊明  

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