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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1055115
異議申立番号 異議2001-70727  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-04-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-09 
確定日 2002-02-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第3085460号「ガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3085460号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3085460号に係る発明は、平成11年7月27日に特許出願(平成10年7月27日を出願日とする特願平10-211090号に基づく国内優先権主張に係る出願)され、平成12年7月7日に設定登録がなされ、その後、林 栄太郎より特許異議の申立てがなされたものである。
2.本件発明
本件特許第3085460号の請求項1ないし請求項4に係る発明(以下、「本件発明n」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1ないし請求項4に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基)である脂肪族ポリエステルを主成分とする基材フィルムの少なくとも一方の面に、酸化アルミニウム系蒸着層が積層されたガス遮断性フィルムであって、前記蒸着層の比重が2.70〜3.30であり、かつ前記脂肪族ポリエステルフィルムの少なくとも蒸着面における三次元平均傾斜勾配(S△a)が0.005〜0.04であることを特徴とするガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項2】前記脂肪族ポリエステルフィルムのフィルム表面に突起高さが1.89μm以上の突起が1mm2の範囲内に実質的に存在しないことを特徴とする請求項1記載のガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項3】前記基材フィルムの厚みが10〜250μmであり、蒸着層の厚みが10〜5000Åであることを特徴とする請求項1又は2記載のガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム。
【請求項4】前記脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1乃至3記載のガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム。」
3.特許異議申立ての概要
特許異議申立人 林 栄太郎は、甲第1号証(特開平10-24518号公報)、甲第2号証(特開平5-214135号公報)、甲第3号証(特開平6-262674号公報)、甲第4号証(特開平6-80793号公報)、甲第5号証(特開平9-300522号公報、及び酸化アルミニウム系の比重を周知であるとして及び比重の意味を明示するために提出した甲第6号証(日本化学会編、改訂2版化学便覧 基礎編I、丸善株式会社、56〜57頁、80〜81頁、S54.3.20)、甲第7号証(化学大辞典編集委員会編、化学大辞典 第7巻、共立出版株式会社、346〜347頁、S36.10.30)を提出し、請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
4.甲各号証の記載事項
(a)甲第1号証(特開平10-24518号公報)
(a-1)「【請求項1】 面配向度Δpが3.0×10-3〜30×10-3、フィルムを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm-ΔHc)が20J/g以上および{(ΔHm-ΔHc)/ΔHm}が0.75以上であるポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルムであって、前記ポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物の層が設けられていることを特徴とするポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルム。
【請求項2】 面配向度Δpが3.0×10-3〜30×10-3、フィルムを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm-ΔHc)が20J/g以上および{(ΔHm-ΔHc)/ΔHm}が0.75以上であるポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルムであって、 前記ポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルムの少なくとも一方の面に、ケイ素酸化物SiOx(X:1.5〜2)の層が設けられていることを特徴とするポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルム。」(特許請求の範囲請求項1、2)
(a-2)「本発明の目的はガスバリア性と透明性とを有し、さらに、機械特性を有するポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルムを提供することにある。」(【0012】)
(a-3)「本発明に用いられるポリ乳酸系重合体とは、ポリ乳酸または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、もしくはこれらの組成物であり、本発明の効果を阻害しない範囲で他の高分子材料が混入されても構わない。・・・物性を調整する目的で、可塑剤、滑剤、無機フイラー、・・・添加することも可能である。」(【0014】)
(a-4)「いずれの場合においても、ポリ乳酸系重合体が本来的に有する脆性を大幅に改良し、そのフィルム強度をより向上させるために、ポリ乳酸系フィルムの面配向度Δpを3.0×10-3〜30×10-3に調整することが重要である。また、後述する熱処理(熱固定)の効果を発現させ、フィルムに熱寸法安定性を付与する上でも、大きな意味を持つ」(【0017】)
(a-5)「フィルムの厚みは特に限定されないが、用途に応じて、5μm〜1mmの範囲で選択される。」(【0032】)
(a-6)「本発明では、得られたポリ乳酸系フィルムの少なくとも片面に、無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物の層を設けることにより、ガスバリア性を付与する。具体的には、Si、Al、Ti、Zr、Ta、NbまたはSn等の酸化物、窒化物あるいは酸化窒化物等が好適である。上記無機物のうち価格が安価なことから好んで使用されるのは、組成式SiOXで表わされるケイ素酸化物である。・・・層の形成方法としては、蒸着法・スパッター法・イオンプレーティング法・化学気相成長(CVD)法・ゾルゲル法を挙げることができる。このうち、経済上最も好ましいのは蒸着法であり、工程で熱が発生しにくいのは化学気相成長(CVD)法とゾルゲル法である。本発明のポリ乳酸系フィルムを用いれば、いずれの方法でも層を設けることが可能である。・・・化学組成の制御は、形成方法や装置により異なるが蒸着物質やターゲット物質の選択、さらには雰囲気気体の種類と量により、決定される。」(【0033】〜【0036】)
(a-7)「無機酸化物、無機窒化物あるいは無機酸化窒化物層の層厚は、化学組成により異なるが、5〜200nmの範囲が好適である。5nm未満では、ガスバリア性不十分になり、逆に200nmを超えると屈曲破壊を起こしやすくなり、耐ゲルボ性が低下する。」(【0039】)
(b)甲第2号証(特開平5-214135号公報)
(b-1)「【請求項1】 プラスチックフィルム上に酸化アルミニウム薄膜が形成されたガスバリアフィルムにおいて、該薄膜の比重が2.70〜3.30であることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。」(特許請求の範囲請求項1)
(b-2)「本発明は、ガスバリア性、耐レトルト性、ゲルボ特性に優れた食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として優れた特性を持つフィルムに関するものである。」(【0001】)
(b-3)「一方、酸化アルミニウムを主体としたものとしては、完全に無色透明であり、化学的にも安定で、かつ、材料コストも安く、包装用ガスバリアフィルムとして、優位にあるといえるが、・・・ガスバリア性が不十分で、かつ耐屈曲性に問題がある。耐屈曲性は、成膜後の後工程(ラミネート、印刷、製袋等)や取扱い等でのバリア性の劣化に影響し、酸化アルミニウムの場合には、膜自身が脆いため、その取扱いに注意を要するというものである。一般に、薄膜を用いたガスバリアフィルムでは、ボイル性、耐レトルト性を向上させるには、ある程度以上の薄膜の厚みが要求されるのに対し、耐屈曲性等の機械特性の向上には、できるだけ薄い方がよいという問題があり、酸化アルミニウム薄膜の場合、特に良好な範囲が狭いという問題をかかえている。このように、充分な酸素バリア性と耐レトルトを兼ね備え、更に耐屈曲性の高い酸化アルミニウム系透明ガスバリアフィルムはないのが現状である。」(【0004】)
(b-4)「本発明でいうプラスチックフィルムとは、有機高分子を溶融押出しをして、必要に応じ、長手方向、および、または、幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムであり、有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタート、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、・・・ポリフェニレンオキサイドなどがあげられる。さらにこの有機高分子には、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤などが添加されていてもよく、・・・本発明のプラスチックフィルムは、その厚さとして5〜500μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは8〜300μmの範囲である。・・・本発明における酸化アルミニウム薄膜とはAl、AlO、Al2 O3 等から成り立っていると考えられ、これらの比率も作成条件で異なる。・・・該薄膜の厚さとしては、特にこれを限定するものではないが、ガスバリア性及び可尭性の点からは、50〜8000Åの範囲が好ましい。」(【0006】〜【0008】)
(b-5)「このようにして得られた該薄膜の比重の値が2.70よりも小さい場合、酸化アルミニウム薄膜の構造が粗雑となり、充分なガスバリア性が得られない。また、該薄膜の比重が3.30よりも大きい以上の場合、成膜後の初期ガスバリア特性は優れているものの、膜が硬くなりすぎ、機械特性、特にゲルボ特性が劣り、処理後のガスバリア性の低下が大きく、ガスバリアフィルムとしての使用に適していない。以上の理由からガスバリアフィルムとして好ましい酸化硅素系薄膜の比重は、2.70〜3.30であり、さらに好ましくは2.80〜3.20である。・・・実施例1 蒸着源として、3〜5mm程度の大きさの粒子状のAl2O3(純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、12μm厚のPETフィルム(東洋紡績(株):E5007)上に酸化アルミニウム系ガスバリア薄膜の形成を行った。加熱源として、電子銃(以下EB銃)を用い、エミッション電流を0.8〜1.8Aとした。フィルム送り速度は、40〜100m/minと変化させ、300〜5000Å厚の膜を作った。又、蒸気圧は、酸素ガスの供給量を変え、1×10-5〜8×10-3Torrまで条件を変えた。このようにして得られた膜の比重をPETフィルムを溶解したのち、浮沈法で測定・・・このPET上の複合膜に対し、また、厚さ40μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)を二液硬化型ポリウレタン系接着剤(厚さ2μm)を用いて、ドライラミネートして、本発明応用の包装用プラスチックフィルムを得た。・・・」(【0010】〜【0012】)
(c)甲第3号証(特開平6-262674号公報)
(c-1)「【請求項1 】 少なくともその片面が粗面化された配向ポリエステルフイルムであって、該粗面の三次元表面粗さ指数が下記(I)式および(II)式を同時に満足する範囲にあり、かつ本文中で定義した粗大突起数が4級以上であることを特徴とする配向ポリエステルフイルム。
0.0096≦S△a<0.014 ……(I)
5.2≦Sλa≦13.0 ……(II)
(式中、S△aは三次元平均傾斜勾配μm、Sλaは三次元表面粗さの空間平均波長を示す。)」(特許請求の範囲請求項1)
(c-2)「一般にポリエチレンテレフタレートに代表されるごときポリエステルは、その優れた物理的および化学的諸特性の故に、繊維用、成型品用の他、磁気テープ用、フロッピーディスク用、写真用、コンデンサー用、包装用、レントゲンフイルム、マイクロフイルムなどのフイルム用としても多種の用途で広く用いられている。これらフイルム用として用いられる場合、その滑り性および耐摩耗特性はフイルムの製造工程および各用途における加工工程の作業性の良否、さらにはその製品品質に良否を左右する大きな要因となっている。」(【0002】)
(c-3)「従来、フイルムの滑り性および耐久走行性の改良にはフイルム表面に凹凸を付与することによりガイドロール等との間の接触面積を減少せしめる方法が採用されており、この表面凹凸を形成させる方法としてフイルム原料に用いる高分子の触媒残渣から不溶性の粒子を析出せしめる方法や、不活性の無機粒子や有機粒子を添加せしめる方法等が用いられている。これら原料高分子中の粒子は、その大きさが大きい程、滑り性の改良効果が大であるのが一般的であるが、磁気テープ用のごとき精密用途にはその粒子が大きいこと自体がドロップアウト等の欠点発生の原因となり、さらに電磁変換特性も著しく悪化するため、フイルム表面の凹凸はその形状、密度、高さ等を精密に調整する必要がある。」(【0004】)
(c-4)「本発明は特に磁気テープ用基材として配向ポリエステルフイルムを用いた場合における前記従来技術の欠点を解消し、外部添加粒子のポリエステルへの分散性を改善し、かつ優れた易滑性および耐久走行性を有し、かつ粗大突起数の少ない配向ポリエステルを提供せんとするものである。」(【0006】)
(c-5)「本発明で用いられるポリエステルとはポリエチレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレート等との結晶性ポリエステルであり特に限定はされないがとりわけポリエチレンテレフタレートが適しており、なかんずくその繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートからなるもの」(【0008】)
(c-6)「このように本発明で得られたフイルムは磁気テープ製造時におけるコーティング加工時や磁気テープ使用時等において金属ロール面を走行するに際し発生する擦り傷や白粉発生量が著しく少なく、繰り返し使用しても摩擦係数の増加が極めて少ないという特徴があり、さらに磁気テープ用として用いた場合に問題となるドロップアウトの欠点発生の原因となるフイルム表面の粗大突起の生成が極めて少ないという効果がある。」(【0053】)
(d)甲第4号証(特開平6-80793号公報)
(d-1)「実質的にシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体から成り、内部ヘーズ(10μm当たり)が10%以下で、200℃における熱収縮率が5%以下、少なくとも片面の三次元表面粗さSΔaが0.004以上0.04以下であり且つ空気抜け速さが900秒以下であることを特徴とするコンデンサー用シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルム。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(d-2)「上記従来のすべり性良好なフィルムでは、低速作業時には良好なハンドリング特性が得られるが、作業が高速になるとハンドリング特性が急激に悪化するという問題があった。また、シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムにおいては、特にフィルムの厚みが薄くなるとハンドリング特性が悪化する傾向が大きく、上記の無機粒子を添加し、表面粗さRaと静摩擦係数の範囲を規定したフィルムにおいても同様の傾向を備えており、そのために良好なハンドリング特性が得られたとしても、厚みが変わると所望のハンドリング特性が得られなくなっていた。また、シンジオタクチックポリスチレン系重合体は脆く、延伸時にすべり性を良好にするために添加した滑剤の周りにボイドが発生し、これが電気特性のうちの耐電圧特性や寿命特性の悪化の原因となる。また、このボイドはまた、フィルム走行中の突起の削れにつながり、フィルム表面の擦り傷やロール上の白紛発生の原因となっていた。更に、フィルムの耐熱性を向上させるために熱固定温度を高くすると、シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムでは特に脆さが増し、フィルム走行中に削れが発生しやすくなる。本発明は、電気特性及び耐熱性に優れ、且つ走行性、耐摩耗性に優れ、フィルムの厚みに関係なくハンドリング特性に優れたコンデンサー用シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムを提供することを目的とする。」(【0003】)
(d-3)「本発明のシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムの少なくとも片面の三次元表面粗さSΔaは0.004以上0.04以下の範囲内にある事が必要である。SΔaが0.004未満ではハンドリング特性及走行性が不良になり0.04を越えると、耐電圧特性や寿命特性が不良となる。」(【0006】)
(e)甲第5号証(特開平9-300522号公報)
(e-1)「【請求項1】脂肪族(コ)ポリエステル及び/又は(コ)ポリヒドロキシカルボン酸を含有する樹脂組成物からなる、透明性を有するフィルム成形体(A)の、一方または両方の面上に、主として酸化珪素からなる薄膜層(B)を形成せしめた、ABあるいはBABの構成からなるガスバリヤー性フィルム。」(特許請求の範囲)
(e-2)「 脂肪族ポリエステルの中で透明性を有するものとしては、例えば(コ)ポリ乳酸のような、(コ)ポリヒドロキシカルボン酸や脂肪族多価カルボン酸から誘導される(コ)ポリエステルがある。(コ)ポリ乳酸は、分解性と透明性を併せもつため、中身を見せたい場合の包装用フィルム材料として有望である。・・・(コ)ポリ乳酸を材料としたフィルムは、ガスバリヤー性能が、従来包装用フィルムとして用いられてきたポリプロピレンやポリエステルフィルムに比べて著しく劣ることを発見した。ガスバリヤー性能を向上させる手段としては、先に述べたように、ガスバリヤー性に優れた塩化ビニリデンやビニルアルコール系重合体からなるフィルムをラミネートする方法がある。しかしながら、塩化ビニリデンやビニルアルコール系共重合体を使用してしまうと、(コ)ポリ乳酸を用いることにより得られた分解性が、結局損なわれることになり、この手段は使用できない。また、アルミニウム等の金属箔をラミネートする場合も同様であり、この場合にはさらに透明性も損なわれる。」(【0007】〜【0008】)
(e-3)「本発明で用いられる、脂肪族(コ)ポリエステルは、少なくとも、以下に示す▼丸1▲〜▼丸8▲の態様を包含する。▼丸1▲ホモポリマーたる脂肪族ポリエステル及び/又はコポリマーたる脂肪族コポリエステル ▼丸2▲ホモポリマーたるポリヒドロキシカルボン酸及び/又はコポリマーたるコポリヒドロキシカルボン酸 ▼丸3▲(コ)ポリ乳酸・・・相溶化剤を含有してもよい。」(【0016】)(なお、丸囲み数字は、表記上の都合により、▼丸数字▲で表現した。)
(e-4)「本発明に用いる樹脂組成物は、更に、結晶化速度の向上、耐熱性の向上、機械物性の向上、あるいはアンチブロッキング性等の物性を改善させるために、無機添加剤を添加することもできる。無機添加物の具体例としては、例えば、タルク、カリオナイト、TiO2、SiO2等が挙げられるが、好ましくは、それを添加することにより、(コ)ポリ乳酸をはじめとする脂肪族ポリエステルの透明性を低下させないものが好ましい。(コ)ポリ乳酸をはじめとする脂肪族ポリエステルの透明性を保持するためには、一般的には、粒子サイズが、可視光の波長よりも実質的に小さいものが好ましい。より具体的にいえば、例えば、粒径が1〜50nmのSiO2等が挙げられる。更に、目的に応じて樹脂組成物の諸特性(例えば、弾性率、引張強度、曲げ強度、機械強度、耐熱性、耐光性等)を向上させる目的で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色顔料等や少量の他の樹脂を添加することができる。」(【0032】〜【0033】)
(e-5)「本発明では、これまでに詳しく説明した樹脂組成物を、フィルムに成形して、フィルム成形体として使用する。ここでいうフィルムの厚さは、機械的強度が保持でき、可撓性が得られる範囲であれば特に限定されないが、通常、10μm〜300μm程度である。厚さが薄すぎると、機械的強度が得られず、破れやピンホール等の欠陥が生じ易くなり、逆に厚すぎると、可撓性が得られない。」(【0037】)
(e-6)「酸化珪素からなる薄膜層の厚みについては特に限定するものではないが、透明性を損ねない範囲で、かつガスバリヤー性を保ち、高分子基材との密着性を確保できる厚さであれば良い。具体的には、20nm〜500nmがよく、・・・好ましい。」「酸化珪素の組成はガスバリヤー性能が得られ、・・・酸化珪素は一般的にSiOxと記述できるが、xの範囲は通常1.0〜2.5程度である。」(【0050】、【0052】)
(f)甲第6号証(日本化学会編、改訂2版化学便覧 基礎編I、丸善株式会社)
第56頁にアルミニウムの比重が2.70である旨が記載され、第81頁に酸化アルミニウムの比重が3.5〜3.97である旨が記載されている。
(g)甲第7号証(化学大辞典編集委員会編、化学大辞典 第7巻、共立出版株式会社)
第347頁左欄に、「比重」とは、ある物質の質量と、それと同体積の標準物質の質量との比をいうと開示されています。また、上記標準物質とは、対象物質が固体及び液体の場合には、普通4℃における水をいうと記載されている。
5.異議申立の理由についての判断
(5-1)本件発明1について
甲第1号証に記載の発明において、上記(a-6)に、「無機酸化物の層を設けることにより、ガスバリア性を付与する。具体的には、Si、Al・・・と記載され、また、化学組成の制御は、蒸着物質やターゲット物質の選択、さらには雰囲気気体の種類と量により、決定される」と記載されていることから、甲第1号証に記載された発明には、酸化アルミニウム系蒸着層についても記載されているものと認められる。
したがって、上記(a-1)、(a-3)、(a-5)〜(a-7)の記載から、甲第1号証に記載の「ポリ乳酸系生分解性ガスバリアフィルム」は、本件発明1の「ガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム」に、「ポリ乳酸系重合体からなる延伸フィルム」は、本件発明1の「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基)である脂肪族ポリエステルを主成分とする基材フィルム」に相当し、「少なくとも一方の面に設けられた無機酸化物の層」は、本件発明1の「酸化アルミニウム系蒸着層」に相当するものと認められる。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基)である脂肪族ポリエステルを主成分とする厚みが10〜250μmの、ポリ乳酸からなる脂肪族ポリエステルの基材フィルムの少なくとも一方の面に、厚み10〜5000Åの酸化アルミニウム蒸着層が積層されたガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム」の点で一致し、
本件発明1では、(1)酸化アルミニウム系蒸着層の比重が2.70〜3.30であり、かつ(2)前記脂肪族ポリエステルフィルムの少なくとも蒸着面における三次元平均傾斜勾配(S△a)が0.005〜0.04であるのに対し、甲第1号証に記載された発明ではそのような点について明記されていない点で相違している。
上記相違点について検討する。
上記相違点(1)について、甲第6号証並びに甲第7号証から、一般にAlの比重が2.70、Al2O3の比重が3.5〜3.97であると認められる。甲第1号証には酸化アルミニウム系蒸着層の形成方法について具体的な記載がなく、蒸着層の成分組成割合が不明であることから、甲第1号証に記載された発明の酸化アルミニウム系蒸着層の比重は換算できないが、全てがAlである場合の比重が2.70から、全てがAl2O3である場合の比重で、その上限が3.5〜3.97まで変化し得る幅広い値を採り得るものであるものと認められ、上記相違点(1)のような特定範囲の比重の蒸着層をも包含し得るものと認められる。
一方、甲第2号証には、上記(b-3)、(b-4)の記載から、透明ガスバリア性フィルムを形成するために形成する酸化アルミニウム薄膜層が、Al、Al2O3等から成り立っていること、及び酸化アルミニウム系蒸着層の比重がガスバリア性にとって重要な因子であり、その比重が2.70〜3.30であることが記載されていることを勘案すると、蒸着膜のガスバリア性、ゲルボ特性をガスバリアフィルムとして使用に適するため甲第1号証に記載された酸化アルミニウム系蒸着層を形成する際に、その酸化アルミニウム系層の比重に着目し、甲第2号証に記載された酸化アルミニウム系蒸着層の比重に規定することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
上記相違点(2)について、
本件発明1は、フィルム加工時の走行性とフィルム加工装置の部品に接触しながらフィルムが走行した後のフィルムのガス遮断性に優れるという相反する性質の両方を向上させるために、上記相違点(2)の発明特定事項のごとくしたものである。しかし、甲第1ないし2号証記載の発明には、上記課題及び脂肪族ポリエステルフィルムの少なくとも蒸着面における三次元平均傾斜勾配(S△a)について全く記載も示唆もするところがなく、又上記相違点(2)の発明特定事項が課題を解決するために規定されるべき事項であることを示唆する記載もない。
そして、上記相違点(2)の発明特定事項が、当該技術分野において周知または公知であるとする証拠も提示されていない。
以上のことから、上記相違点(2)が、甲第1号証または甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し、為し得たものと認めることはできない。
ここで、甲第3ないし5号証に記載された発明について検討するに、
甲第3号証に記載された発明は、上記(c-1)〜(c-6)の記載、特に、(c-3)から、磁気テープ用のフィルムであって、磁気テープのような精密用途ではフィルムの滑り性及び耐久走行性の改良のため、粒子の大きさを大きくし表面に凹凸を付与し、ガイドロール等との接触面積を減少させていたが、ドロップアウトの発生、電磁変換特性も著しく悪化してしまうため、そのような従来技術の欠点を解消しつつ、易滑性および耐久走行性を改善するため、「三次元表面粗さ指数の一つである三次元平均傾斜勾配(S△a)」に着目し、特定の範囲に設定することで目的を達成しようとしたものである。
また、甲第4号証に記載された発明は、上記(d-1)〜(d-3)のとおり、コンデンサー用シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムにおいて、作業が高速あるいはフィルムの厚みが薄くなると、ハンドリング特性及び走行性が不良になり、滑り性をよくしようと滑剤を添加すると、耐電圧特性や寿命特性が不良となることを解消するため、三次元平均傾斜勾配(S△a)に着目し、三次元表面粗さS△aが0.004〜0.04の範囲としたもので、あくまでもシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムの走行性の改善等について記載するのみである。
以上のとおり、甲第3、4号証に記載された発明には、甲第3、4号証に記載された発明の三次元平均傾斜勾配(S△a)が、本件発明1のようなガス遮断性を要求されるフィルムにおける、フィルム加工装置の部品に接触しながらフィルムが走行した後のフィルムのガス遮断性が優れているようにするためにも適用できるとする記載も示唆もなく、同じ三次元平均傾斜勾配(SΔa)を用いているからといって、磁気テープ用基材又はコンデンサー用シンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムにおける上記三次元平均傾斜勾配(SΔa)とガス遮断性フィルムにおける三次元平均傾斜勾配と同じであるといえないことから、甲第3、4号証に記載された発明の知見を、ガス遮断性のフィルムに適用できるとすることはできない。
したがって、上記相違点(2)が、甲第3、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し、なし得たものとすることはできない。
甲第5号証に記載された発明は、上記(e-1)〜(e-6)の記載から、脂肪族(コ)ポリエステル及び/又は(コ)ポリヒドロキシカルボン酸を含有する樹脂組成物からなる透明性を有するフィルム成形体の一方または両方の面上に、主として酸化珪素、組成は一般的にSiOx(x=1.0〜2.5)と記述できるものからなる薄膜層を形成したガスバリヤー性フィルム成形体が開示されているものと認められるものの、本件発明1の酸化アルミニウム系蒸着層を形成したものとは相違するものであり、かつ、三次元平均傾斜勾配(SΔa)について何等記載するところがないだけでなく、フィルム加工装置の部品に接触しながらフィルムが走行した後のフィルムのガス遮断性が優れていることについて記載も示唆もないから、これをもって、上記相違点(2)が、当業者が容易に想到し、なし得たものとすることはできない。
そして、本件発明1は、蒸着面の表面形態(三次元平均傾斜勾配、SΔa)を規定することにより、フィルム加工時の走行性(蒸着面/金属製ガイドロール)に優れ、かつ加工後のガス遮断性に優れるという効果を奏するものである。
したがって、甲第1、2号証に記載された発明には、三次元平均傾斜勾配について全く記載も示唆のないことに加えて、甲第3ないし第5号証に記載された発明も上述のとおりであり、甲第1ないし第5号証に記載された発明は、いずれも本件発明1の発明特定事項の一部分を記載するのみであるから、本件発明1は、甲第1ないし第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(5-2)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、請求項1に記載のガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルムの発明特定事項に、新たな発明特定事項、すなわちフイルム表面に突起高さが1.89μm以上の突起が1mm2の範囲内に実質的に存在しないこと、基材フィルムの厚みが10〜250μmであり、蒸着層の厚みが10〜5000Åであること、及び脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であること、をそれぞれ付加するものである。一方、本件発明1は上記した理由により甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件発明2ないし4は、上記と同様な理由により甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
6.むすび
以上のとおり、本件の請求項1ないし4に係る発明の特許は異議申立ての理由及び証拠の理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-05 
出願番号 特願平11-212322
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 加藤 志麻子
鴨野 研一
登録日 2000-07-07 
登録番号 特許第3085460号(P3085460)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 ガス遮断性脂肪族ポリエステルフィルム  
代理人 鳥居 洋  

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