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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23C
管理番号 1055121
異議申立番号 異議2001-72218  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-08 
確定日 2002-02-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3135885号「スライスチーズ及びその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3135885号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
特許第3135885号に係る発明についての出願は、平成10年6月12日に特許出願され、平成12年12月1日にその特許の設定登録がなされ、その後、六甲バター株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、これに対し特許異議意見書が提出された。
(2)本件発明
本件請求項1乃至請求項2に係る発明(以下、「本件発明1乃至2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】全タンパク質中のαsカゼイン含量が15〜45重量%である原料チーズ又は全タンパク質中のαsカゼイン含量を15〜45重量%に調整した原料チーズに、溶融塩を0.1〜1.0重量%添加し、加熱乳化した後、シート状に冷却成形することにより得られ、積層用であることを特徴とするスライスチーズ。
【請求項2】全タンパク質中のαsカゼイン含量が15〜45重量%である原料チーズ又は全タンパク質中のαsカゼイン含量を15〜45重量%に調整した原料チーズに、溶融塩を0.1〜1.0重量%添加し、加熱乳化した後、シート状に冷却成形する工程を有し、シート状に冷却成形されたチーズが積層用であることを特徴とするスライスチーズの製造方法。」
(3)特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人 六甲バター株式会社は、証拠として甲第1号証乃至甲第6号証を提出し、本件発明1乃至2の特許は、特許法29条2項の規定に違反するものであるから、取り消すべきものである旨主張している。
(4)甲各号証の記載内容
甲第1号証(特開平5-146250号公報)は、「剥離性が良好なプロセスチーズおよびその製造方法」に係り、その特許請求の範囲の項には、
「【請求項1】原料中に未熟成ナチュラルチーズを30%以上および増粘性多糖類を0.05〜1%を含んでなる剥離性が良好なプロセスチーズ。
【請求項2】未熟成ナチュラルチーズがナチュラルチーズを製造後10℃以下で1カ月未満保存したものである請求項1に記載のプロセスチーズ。」が、そして、実施例として、
「【実施例1】製造後5℃で0.5カ月熟成したゴーダチーズ5kg、5℃で6カ月熟成したチェダーチーズ5kgを粉砕し、トリポリリン酸ナトリウム0.1kg、クエン酸ナトリウム0.15kg、キサンタンガム0.006kg、水1kgとともにチーズニーダーに投入し、常法により90℃まで加温して溶融したプロセスチーズを80×80×200mmの大きさになるよう、・・・(略)・・・短冊形に切断し、さらにこの短冊をピアノ線で50mmの長さとした。これを重ねたまま脱酸素剤(・・・)とともに酸素透過性のない包材(・・・)にいれ、包材から取り出して、チーズの短冊を1本ずつ剥がしたところ、折れたりせずに容易に剥離し、良好な短冊状のチーズが得られた。」、「実施例2」には、「製造後1週間5℃で保存した後、-20℃に凍結して1年経過したチェダーチーズ5kg、5℃で6カ月熟成したゴーダチーズ5kg」と「トリポリリン酸ナトリウム0.25kg、ローカストビーンガム0.1kg、水1kg」とからなるチーズ、並びに、「実施例3」には、「製造後5℃で0.5カ月熟成したチェダーチーズ50kg、5℃で6カ月熟成したサムソーチーズ50kg」と「クエン酸ナトリウム2.5kg、キサンタンガム0.2kg、水1kg」とからなるチーズがそれぞれ記載されている。
甲第2号証(「日本食品科学工業会誌」第44巻12号31〜36頁)は、「キャピラリー電気泳動法によるゴーダチーズ熟成過程における蛋白質分解物の分析」に係り、
「両者の熟成28日目の残存率を比較するとαs1-CNは28%、αs2-CNは54%で熟成初期におけるαs2-CNの分解速度は明らかにαs1-CNよりも小さかった。」(33頁左欄末行〜右欄下から9行)が、
甲第3号証(J.Dairy Sci Vol.75,No.12,p3273-3281)には、
「70日の熟成期間で実験の始めに存在していたαs1-カゼインの90%及びβ-カゼインの70%が加水分解された。」(3276頁左欄下から4行〜末行)が、
甲第4号証(J.Dairy Sci Vol.73,No.1,p26-32)には、
「原乳及び殺菌乳チーズの24時間後に残存するαS1-カゼインは45.1及び43.2%(乳蛋白として)であって、・・・(略)・・・αS1-カゼインの画分は24時間から4月までβ-カゼインよりもさらに厳しく分解され、熟成期間の終りには原乳チーズ中に残存するαS1-カゼインはほんの23.6%であり、殺菌乳のチーズでは17.6%であった。」(28頁左欄下から13〜1行)が、
甲第5号証(「乳業技術講座第1巻 牛乳」(昭和45年6月30日朝倉書店発行))には、「カゼイン複化合物は、αs-、β-およびκ-カゼインを55%、30%および15%の割合でふくんでいる。」(39頁3〜4行)が、
甲第6号証(特開平5-123104号公報)には、特許請求の範囲の項に、
「【請求項1】原料チーズに安定剤及び溶融剤を添加し、これを低速で撹拌しながら混合、加熱、殺菌、乳化することを特徴とする曳糸性を有するプロセスチーズの製造方法。
【請求項2】溶融剤を原料チーズに対して0.1〜0.4%、好ましくは0.15〜0.35%添加することを特徴とする請求項1の方法。」が、それぞれ記載されている。
(5)判断
甲第1号証に記載の発明は、「原料中に未熟成ナチュラルチーズを30%以上および増粘性多糖類を0.05〜1%を含んでなる剥離性が良好なプロセスチーズ。」に係り、プロセスチーズの剥離性を改良する点で本件発明1と目的において軌を一にするものの、該未熟成ナチュラルチーズ中のαs-カゼイン含量について具体的数値でもって記載されたところはない。
しかるに、甲第1号証の実施例1乃至実施例3によると、剥離性が良好なプロセスチーズを製造するための原料として、「製造後5℃で0.5カ月熟成したゴーダチーズ」、「5℃で6カ月熟成したチェダーチーズ」、「製造後1週間5℃で保存した後、-20℃に凍結して1年経過したチェダーチーズ」、「5℃で6カ月熟成したゴーダチーズ」、「製造後5℃で0.5カ月熟成したチェダーチーズ」、或いは「5℃で6カ月熟成したサムソーチーズ」を使用しているところ、特許異議申立人は、甲第2号証乃至甲第5号証に記載の事項を根拠として、上記の程度の未熟成チーズには、その原料チーズ中の蛋白質として、αs-カゼインが15%以上存在することになると主張している。
しかし、特許権者が提出した参考資料1には、ナチュラルチーズの製造過程における水中塩分濃度によりαs1-カゼインの残存率は5〜60%までばらつくこと、同参考資料3には、αs2-カゼインの分解はチーズ乳の殺菌温度によって大きな影響を受けること、更に同参考資料4には、チーズ乳を高温殺菌するとαs1-カゼインの分解が促進されること
がそれぞれ記載され、これらの知見に照らし、チーズに含まれる全タンパク質中のαs-カゼインの含量は、熟成期間によって決まるのではなく、チーズ製造時における水中塩分濃度や殺菌温度等で影響を受けるといえるから、甲第1号証の実施例1乃至実施例3において使用する原料未成熟チーズの全タンパク質中のαs-カゼインの含量が15〜45重量%であるとは直ちにいうことができない。
そして、甲第1号証の実施例1乃至実施例3においては、本件発明1に係る「溶融塩」に相当するトリポリリン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムを使用しているが、いずれの実施例でも、その使用量は、2.5重量%であって、本件発明1の「0.1〜1.0重量%」と相違し、しかも、甲第1号証では、増粘性多糖類を必須成分とするものである。
また、甲第6号証には、溶融剤を原料チーズに対して0.1〜0.4%を添加する記載はあるものの、剥離性について言及するところはない。
そうすると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本件発明2は、本件発明1に係る「スライスチーズ」の「製造方法」に関するものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証乃至甲第6号証に記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-05 
出願番号 特願平10-165057
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨永 みどり  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田中 久直
大高 とし子
登録日 2000-12-01 
登録番号 特許第3135885号(P3135885)
権利者 雪印乳業株式会社
発明の名称 スライスチーズ及びその製造方法  
代理人 石橋 政幸  
代理人 金田 暢之  
代理人 伊藤 克博  

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