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審決分類 |
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) E05C |
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管理番号 | 1055846 |
審判番号 | 無効2000-35337 |
総通号数 | 29 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-01-07 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-06-23 |
確定日 | 2002-03-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3031911号発明「地震時ロック装置に使用するケーシングとそのケーシングを用いた収納ボックス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3031911号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3031911号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成7年5月31日に出願した特願平7-134376号の一部を平成11年6月1日に新たに出願したものであって、平成12年2月10日にその特許についての設定登録がなされ、その後、株式会社システックキョーワから請求項1及び2に係る発明の特許について無効審判がされ、無効審判請求書を送達したところその指定期間内に何らの応答もされていないものである。 2.請求人の主張 請求人の主張の趣旨とするところは、次のとおりのものである。 (1)本件特許出願は、出願当初の明細書又は図面に記載されていない、「保持部材の収納を必要としない収容部」、「スプリングに取り付けられた重り部材を収納する収納部」、「吊された重り部材を収納する収納部」、「自重により下方に常時突出する、付勢されていないデッドボルト」、「底がない筒状のガイド筒部」、「ガイド筒部と収納部が全く関連しない別個独立した構成」、「保持部材を備えていない地震時ロック装置」という新規事項を含むことになり、このような構成要件からなる本件特許出願は、適法な分割出願ではないため、出願日の遡及は認められるべきではなく、そうすると本件特許の請求項1に係る発明は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項2に係る発明は甲第8号証、甲第9号証に記載されているように周知慣用技術であるから、請求項2に係る発明も当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの特許は同法123条1項2号の規定により、無効とすべきものである(以下、無効理由(1)という。)。 (2)本件特許の請求項1は、地震時ロック装置に必要な保持部材、この保持部材と重り部材を収納する収納部、デッドボルトを付勢状態で収容するガイド筒部について記載がなく、さらに収納部とガイド筒部の関係が不明確であり、むしろ両者が関連なく構成されているものも含む形になっているので、明細書の記載に不備があり、特許法36条4項又は6項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法123条1項4号の規定により、無効とすべきものである(以下、無効理由(2)という)。 (3)本件特許の請求項1、2に係る特許発明は、本件特許出願前の出願であって、本件特許出願後に公開された甲第8号証に記載された発明と同一であるので、特許法29条の2の規定に該当し、これらの特許は、同法123条1項2号の規定により、無効とすべきものである(以下、無効理由(3)という。)。 3.当審の判断 まず、無効理由(2)について検討する。 本件特許の請求項1及び2に係る発明は特許明細書(甲第1号証、特許公報)の特許請求の範囲の請求項1(以下、本件発明1という。)及び請求項2(以下、本件発明2という。)に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】ボックス本体(3)の天板下面(8A)にねじ止めされる固定部(20)と、この固定部(20)の内部に形成されかつ地震のゆれで前後に動く重り部材(52)が収納される収納部(45)と、前記ボックス本体(3)の開口部(4)に枢着されたウイング(5)に設けたブラケット(40)をロックするためのデッドボルト(16)が収容されるガイド筒部(21)と、を備えており、前記ガイド筒部(21)は、前記デッドボルト(16)が前後方向には移動せず上下方向にのみ出退自在となるようにガイドする筒状に形成されていることを特徴とする地震時ロック装置に使用するケーシング。 【請求項2】請求項1に記載のケーシング(15)の固定部(20)がボックス本体(3)の天板下面(8A)にねじ止めされ、このケーシング(15)のガイド筒部(21)に収納されたデッドボルト(16)の突出端部に引っ掛けられるブラケット(40)がウイングの内面(5A)に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のケーシングを用いた収納ボックス。」 本件発明1に関し、特許明細書の発明の詳細な説明の項に、「ボックス本体3の天板8には、同じく地震等の揺れによって扉5が開くのを自動的に阻止する前記オートロック装置1が取り付けられている。図1及び図2に示すように、このオートロック装置1は、天板8の前縁部下面(ボックス本体3の開口縁部の内面)8Aに取り付けられる合成樹脂製のケーシング15と、このケーシング15内に上下出退自在に挿通されたデッドボルト16と、このデッドボルト16を常時上方へ付勢する第一コイルバネ17と、デッドボルト16を予めケーシング15内に保持しておく保持部材18と、地震等に伴う過大な揺れを検知して保持部材18をデッドボルト16から解除するオートロック手段19と、を備えている。」(甲第1号証4欄44行乃至5欄6行)と記載されており、この記載及び請求項1の記載によれば本件発明1の「地震時ロック装置」の技術的意味は、上下方向にのみ出退自在なデッドボルトが地震のゆれでブラケットをロックするためにブラケットの方向に移動するものと解するのが相当で、換言すれば、地震のゆれがない通常の状態ではデッドロックは移動することなくガイド筒部に位置しているものというべきである。 しかるに、本件発明1が、「地震時ロックに使用するケーシング」を構成する要件として請求項1に規定しているのは、「ボックス本体の天板下面にねじ止めされる固定部」と、「この固定部の内部に形成されかつ地震のゆれで前後に動く重り部材が収納される収納部」と、「前記ボックス本体の開口部に枢着されたウイングに設けたブラケット」と、これを「ロックするためのデッドボルト」と、これが「収容されるガイド筒部(デッドボルトが前後方向には移動せず上下方向にのみ出退自在となるようにガイドする筒状に形成されている)」だけであることは請求項1の記載に照らして明らかである。 そうすると、本件発明1に係る「地震時ロック装置」が、地震のゆれがない通常の状態で、そのデッドボルトが移動することなくガイド筒部に位置するためには、本件発明1の前記各構成要件のうちいずれかが地震のゆれがない通常の状態で、デッドボルトが移動することなくガイド筒部に位置させる機能を有するものでなければならないが、しかしながら、特許明細書の発明の詳細な説明に、前示記載の他「この板状の保持部材18は、デッドボルト16の側面に形成した掛止凹部47に嵌合する掛止片(掛止部)48を前端部に備え、当該保持部材18をデッドボルト16側に付勢する第二コイルバネ49を連結するための連結片50を後端部に備えている。また、保持部材18の後部上端縁には、当該保持部材18を第二コイルバネ49に抗して後方へスライドさせるための解除片51が形成されている。なお、保持部材18の掛止片48の上縁は、デッドボルト16の下方移動に伴って当該保持部材18を後方へ押し戻すべく、前下がり傾斜状のテーパー部48Aが形成されている。」(同6欄49行乃至7欄9行)、「なお、上記重り部材52を構成する金属体としては、前後方向の滑りよさを長時間確保すべく、錆の発生しにくい真鍮を採用することが好ましい。上記重り部材52はボックス本体45内で前後に往復動するが、その揺れが地震等により生じた過大なものであるときは、重り部材52がそのスリット54に挿通されている保持部材18の解除片51に強く衝突する。この衝突により、第二コイルバネ49によって前方に付勢されている保持部材18が後方(図1の左側)へ変位して保持部材18の掛止片48がデッドボルト16の掛止凹部47から離脱し、その後、デッドボルト16が第一コイルバネ17によって上方に突出されてロック位置Bとなる。」(7欄46行乃至8欄8行)と記載されているように、地震のゆれがない通常の状態で、デッドボルトが移動することなくガイド筒部に位置させる機能を有するものの実施例として保持部材が唯一示されており、本件発明1の前記各構成要件のいずれかが地震のゆれがない通常の状態で、デッドボルトが移動することなくガイド筒部に位置させる機能を有するものとは何ら示されていないのである。 そうであれば、「地震時ロック装置」に使用するケーシングとして前記各要件により構成される本件発明1については、発明の詳細な説明に当業者が容易にその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないのである。 また、本件発明2は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様に当業者が容易にその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。 なお、本件発明1及び本件発明2が原出願の願書に添付した明細書又は図面(甲第2号証)に記載されたものでないことはその記載に照らして明らかであり、したがって、本件分割出願は適法なものといえないから出願日の遡及は認められず、本件特許に係る発明(本件発明1及び本件発明2)についての出願日は平成11年6月1日である。 4.むすび 以上のとおりであるから、無効理由(1)、(3)について検討するまでもなく、本件特許は、特許法(平成6年法律第116号による改正法)36条4項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-01-11 |
結審通知日 | 2002-01-17 |
審決日 | 2002-02-01 |
出願番号 | 特願平11-153986 |
審決分類 |
P
1
112・
534-
Z
(E05C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 南澤 弘明 |
特許庁審判長 |
大森 蔵人 |
特許庁審判官 |
鈴木 憲子 鈴木 公子 |
登録日 | 2000-02-10 |
登録番号 | 特許第3031911号(P3031911) |
発明の名称 | 地震時ロック装置に使用するケーシングとそのケーシングを用いた収納ボックス |
代理人 | 高田 修治 |