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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1055847
審判番号 不服2000-284  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-02-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-01-11 
確定日 2002-03-18 
事件の表示 平成 3年特許願第311952号「物体形状作成方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 2月12日出願公開、特開平 5- 35826]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成3年10月29日(優先権主張平成3年3月20日)の出願であって、平成13年7月31日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に係る発明は、
「コンピユータを利用して、3次元空間上の2つの節点間に制御点を生成し、上記節点及び制御点に基づいて、所定のパラメータを用いたベクトル関数で表される自由曲線を物体の形状を表す曲線として生成する物体形状作成方法において、
(a)生成目標として入力された点列の始点及び終点を上記節点に設定すると共に、上記始点及び終点に隣接する上記点列の点に曲線セグメントを表す式を用いて上記制御点を仮設定した後、
(b)上記入力された点列の各点から、上記節点及び上記制御点で決まる自由曲線に垂線を下ろして上記自由曲線との交点の上記パラメータを順次検出し、
(c)上記入力された点列の各点から該パラメータで決まる上記自由曲線までの距離の二乗和を求め、該二乗和が最小となるように上記制御点を再設定し、
(d)上記再設定された制御点を用いて新たな自由曲線を生成し、上記(b)から(c)までの処理を、上記制御点の値と設定値との差が所定範囲以内になるまで、繰り返し、
(e)上記設定した節点及び再設定した制御点を用いて上記点列に近似した上記自由曲線を形成する
ことを特徴とする物体形状作成方法。」
にあるものと認める。

なお、請求項1には、「上記(a)から(c)までの処理」と記載されているが、制御点の値と設定値との差が所定範囲以上の場合に繰り返される処理が「(a)から(c)までの処理」であるとは認められず、本願の図3では、「SP8」で「NO」の場合には「SP6」の処理から「SP7」の処理までが繰り返されており、ここでいう「SP6」の処理から「SP7」の処理は、(b)から(c)までの処理に相当すると認められるので、「(a)から(c)までの処理」は「(b)から(c)までの処理」の誤記であると認め、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)を上記のように認定した。


2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前の1990年11月25日に頒布された日本機械学会論文集C編第56巻第531号の第3123〜3129頁(以下「引用例」という。)には、「Bezier曲面による規定曲面近似の誤差解析」に関し、以下のことが記載されている。
(1)「計算機援用形状設計あるいは計算機援用画像処理などの分野において自由曲線や自由曲面の表現記述のためにBezier形式、B-spline形式などのパラメトリック表現の曲線式、曲面式がしばしば使用される。この場合、データ形式の統一という意味から円やだ円、正弦曲線などの規定曲線、円筒面や球面、トーラス面などの規定曲面の近似表現にも同形式のパラメトリック表現の曲線式、曲面式が使用できることが望ましい。」(3123頁左欄2〜9行)

(2)「Bezier形式(中略)の曲線式、曲面式の使用に際して「どこに制御点(曲線あるいは曲面の定義ベクトル)を設定すれば規定曲線、規定曲面に対する近似誤差が最少になるか」という誤差関連の問題は現在まで解決されていない。このような事情から、本研究においては(中略)規定曲線ならびに規定曲面を最適近似、すなわち誤差の二乗和を最小にするという意味において最適近似するための制御点の位置の決定法に関して検討」(3123頁左欄16行〜同頁右欄6行)

(3)「2.1解析的手法による曲線近似
(中略)
3次Bezier曲線
R(t)=Σ3Citi(1-t)3-iPi、(0≦t≦1)…(1)
を用いて図1に示すように半径1の円弧に近似する場合を考える。P0〜P3は制御点であり、その座標は
P0=(cosθ、sinθ)、P3=(cosθ、-sinθ)
P1=(hx(θ)、hy(θ))、P2=(hx(θ)、-hy(θ))
である。これらの制御点を式(1)に代入して
Rx(t)=(1-t)3cosθ+3(1-t)2thx(θ)
+3(1-t)t2hx(θ)+t3cosθ …(2)
Ry(t)=(1-t)3sinθ+3(1-t)2thy(θ)
-3(1-t)t2hy(θ)-t3sinθ …(3)
を得る。
(中略)
真円に対するBezier曲線の誤差をここではe(t)(中略)と定義する。
(中略)
今ここで、誤差e(t)の二乗和E(ξ)
(中略)
を最小にするξを決定し、それに基づいて制御点位置を決定することを考える。
(中略)
真円に対する誤差の二乗和が最小になる制御点座標は式(9)のhx(θ)、hy(θ)をP1、P2の式に代入することにより求まる。」(注:式(
1)のΣはi=0〜3の総和)(3123頁右欄16行〜3124頁右欄27行)

(4)「2.2数値解析的手法による曲線近似
規定曲線上に与えられた点列に最もよくあてはまる、すなわち最適近似する3次Bezier曲線の制御点位置を最小二乗法により求め、そのときの誤差の大きさも求める。
(中略)
図3のように、規定曲線上に与えられた点列Qi(i=1〜n)と3次Bezier曲線の誤差ベクトルとして
Di=Qi-R(ti)…(10)
を定義すれば最適な近似は
D=ΣDi2=Σ(Qi-R(ti))2 → min …(11)
となる。
(中略)
整理すると次式が得られ、これを解いて制御点P1、P2が得られる。


…………(13)
ここで、パラメータtiは、誤差ベクトルDiがBezier曲線に対し直角になるように選ばなければならない。
(中略)
2.2.1 円弧の近似
図1に示す半径1、中心角2θの円弧の近似を考える。点列Qiは円弧上に等間隔に与える。
(中略)
解析的手法に比較して近似誤差は半分以下である。」(注:式(11)のΣはi=1〜nの総和)(3125頁左欄3行〜同頁右欄9行)

(1)〜(4)の記載事項によると、引用例には、
計算機援用形状設計あるいは計算機援用画像処理などの分野において自由曲線の表現記述のためにベジエ形式を用い、ベジエ形式による自由曲線を目標とする曲線(規定曲線)に近似しようとするものであり、制御点P0、P3は目標とする曲線の始点と終点で、制御点P1、P2はP0-P3間の制御点であるものであって、
P0、P3を節点に設定し、上記P1、P2を制御点として仮設定してベジエ曲線を形成し、当該ベジエ曲線と生成目標とする規定曲線との誤差を最小とする制御点を最小二乗法により求めることにより最適近似するための制御点の位置を決定し、当該決定された制御点により最適近似された自由曲線(ベジエ曲線)が形成され、
ベジエ形式の自由曲線を点列で示される規定曲線に近似する際の制御点の再設定に関し、生成目標とする規定曲線上に与えられた点列Qiとベジエ曲線R(t)との誤差ベクトルDi=Qi-R(ti)を定義するものであり、当該誤差ベクトルDiがベジエ曲線に対し直角になるようにパラメータtiを選び、
ベジエ形式の自由曲線を点列で示される規定曲線に近似する際の制御点の再設定に関し、点列Qiからパラメータtiで決まるベジエ曲線R(t)までの距離の二乗の総和である D=ΣDi2=Σ(Qi-R(ti))2 を最小とする制御点を再設定すべき制御点として求める曲線近似方法の発明(以下、「引用例に記載された発明」という)
が記載されていると認める。


3.対比
(1)引用例に記載された発明は、計算機援用形状設計あるいは計算機援用画像処理などの分野において自由曲線の表現記述のためにベジエ形式を用い、ベジエ形式による自由曲線を目標とする曲線(規定曲線)に近似しようとするものであり(上記2.(1)参照)、引用例に記載された発明の制御点P0、P3は目標とする曲線の始点と終点であり、制御点P1、P2はP0-P3間の制御点であり、上記P0、P3、及びP1、P2はそれぞれ本願発明の節点及び制御点に該当するから(引用例の第1図及び上記2.(3)中の式(1)〜(3)参照)、
「コンピユータを利用して、3次元空間上の2つの節点間に制御点を生成し、上記節点及び制御点に基づいて、所定のパラメータを用いたベクトル関数で表される自由曲線を物体の形状を表す曲線として生成する物体形状作成方法」における発明であることは明らかである。

(2)引用例に記載された発明は、上記P0、P3を節点に設定し、上記P1、P2を制御点として仮設定してベジエ曲線を形成し、当該ベジエ曲線と生成目標とする規定曲線との誤差を最小とする制御点を最小二乗法により求めることにより最適近似するための制御点の位置を決定し、当該決定された制御点により最適近似された自由曲線(ベジエ曲線)が形成されると認められるから(上記2.(2)、(3)参照)、「(a)′点列の始点及び終点を上記節点に設定すると共に、上記点列の点に曲線セグメントを表す式を用いて上記制御点を仮設定した後」、制御点を再設定し、上記設定した節点及び再設定した制御点を用いて自由曲線を形成する点で本願発明と一致している。

(3)引用例に記載された発明は、ベジエ形式の自由曲線を点列で示される規定曲線に近似する際の制御点の再設定に関し、生成目標とする規定曲線上に与えられた点列Qiとベジエ曲線R(t)との誤差ベクトルDi=Qi-R(ti)を定義するものであり、当該誤差ベクトルDiがベジエ曲線に対し、直角になるようにパラメータtiを選ぶものであるから(上記2.(4)参照)、その場合、上記誤差ベクトルDiの大きさは点列Qiからパラメータtiで決まるベジエ曲線R(t)までの距離に他ならず、そのようなパラメータtiは点Qiからベジエ曲線R(t)に下ろされた垂線と当該自由曲線R(t)との交点となることは当業者に容易に予測されることであるので、上記誤差ベクトルDiがベジエ曲線に対し直角になるようにパラメータtiを選ぶことは
「(b)′上記点列の各点から、上記節点及び上記制御点で決まる自由曲線に垂線を下ろして上記自由曲線との交点の上記パラメータを順次検出」することに相当すると認められる。

(4)引用例に記載された発明は、ベジエ形式の自由曲線を点列で示される規定曲線に近似する際の制御点の再設定に関し、点列Qiからパラメータtiで決まるベジエ曲線R(t)までの距離の二乗の総和である D=ΣDi2=Σ(Qi-R(ti))2 を最小とする制御点を再設定すべき制御点として求めるものであり(上記2.(4)参照)、距離の二乗和を最小とすることは距離を最小にすることに他ならず、本願の実施例(第37、41段落参照)においても距離の二乗和を最小にすることのみが記載されているから、本願発明において距離の総和が小さくなるようにすることは距離の二乗和が小さくなるようにすることを含むものと認められる。
したがって、引用例に記載された発明は、「 (c)′上記点列の各点から該パラメータで決まる上記自由曲線までの距離の二乗和を求め、該二乗和が最小となるように上記制御点を再設定し、
(e)′上記設定した節点及び再設定した制御点を用いて上記点列に近似した上記自由曲線を形成する」
点で本願発明と一致している。

以上のことから、本願発明と引用例に記載された発明とは、
「コンピユータを利用して、3次元空間上の2つの節点間に制御点を生成し、上記節点及び制御点に基づいて、所定のパラメータを用いたベクトル関数で表される自由曲線を物体の形状を表す曲線として生成する物体形状作成方法において、
(a)′点列の始点及び終点を上記節点に設定すると共に、上記点列の点に曲線セグメントを表す式を用いて上記制御点を仮設定した後、
(b)′上記点列の各点から、上記節点及び上記制御点で決まる自由曲線に垂線を下ろして上記自由曲線との交点の上記パラメータを順次検出し、
(c)′上記点列の各点から該パラメータで決まる上記自由曲線までの距離の二乗和を求め、該二乗和が最小となるように上記制御点を再設定し、
(e)′上記設定した節点及び再設定した制御点を用いて上記点列に近似した上記自由曲線を形成する
ことを特徴とする物体形状作成方法。
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、生成目標として入力された点列の始点及び終点を上記節点に設定すると共に、上記始点及び終点に隣接する上記点列の点に基づいて上記制御点を仮設定するのに対し、引用例に記載された発明は、生成目標として点列を入力することは記載されていなく、生成目標の規定曲線上の任意の点列を節点及び制御点とする点。

(相違点2)
上記相違点1により、その総和が小さくなるようにする距離が、本願発明は、生成目標の点列の各点からパラメータで決まる自由曲線までの距離であるのに対し、引用例に記載された発明は、規定曲線上の任意の点列の各点から自由曲線までの距離である点。

(相違点3)
本願発明が、「(d)上記再設定された制御点を用いて新たな自由曲線を生成し、上記(b)から(c)までの処理を、上記制御点の値と設定値との差が所定範囲以内になるまで、繰り返し、」のステップを有するのに対し、引用例に記載された発明は、当該繰り返しのステップが明記されていない点。


4.当審の判断
相違点1について検討する。
引用例に記載された発明は、生成目標とする規定曲線上に与えられた点列の各点とベジエ曲線との距離の総和を最小にするものであるから(上記3.(2)参照)、生成目標とする規定曲線は点列でよいことは自明である。そして、CADの手法を用いて、自由曲面をもつ物体の形状をデザインする場合、一般に、デザイナは曲面が通るべき3次元空間における複数の点を指定し、当該指定された複数の点を結ぶ境界曲線網を、所定の関数を用いてコンピュータによって演算させることにより、いわゆるワイヤーフレームで表現された曲面作成するものであり、当該境界曲線網を表現する数式としてベジエ式が使われていることは当業者に周知であり(必要とあれば、特開昭62-135965号公報参照)、ワイヤーフレームはそれ自体がデザイナがデザイン使用とする大まかな形状を表すものであるから、ベジエ曲線は、入力された点列からの誤差(距離)が最小となるように近似されることが望ましいことは自明である。
したがって、計算機援用形状設計に係る引用例に記載された発明において、生成目標として点列を入力すること、及びベジエ形式により形成される自由曲線を近似する対象として、円や楕円、正弦曲線などの規定曲線に代えて、生成目標として入力された点列とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、仮設定を行い、仮設定した点が所望の点であるか否かを判断する場合に、所望の点である可能性のある点からなる点列の最も端に位置する点から、順次、判断することは常套手段にすぎず、始点及び終点に隣接する点が制御点である可能性のある点からなる点列の最も端に位置することは自明であるから、始点及び終点に隣接する点列の点に曲線セグメントを表す式を用いて制御点を仮設定することは、当業者が適宜採用し得ることであり、それによる作用も当業者に容易に予測される程度のものにすぎない。

次に、相違点2について検討する。
相違点2は相違点1により生じるものであって、上述のとおり相違点1は当業者が容易になし得ることであるから、総和が小さくなるようにする距離を本生成目標の点列の各点からパラメータで決まる自由曲線までの距離であるとすることは、当業者が適宜採用し得ることであり、それによる作用も当業者に容易に予測される程度のものにすぎない。

最後に、相違点3について検討する。
一般に、仮設定により生成したものを評価し、再設定するものにおいては、繰り返しにより適正なものが得られるものであり、どこで繰り返しを止めるかは、繰り返しによって差異が許容できる程度になっ場合とすることは普通に行われていることである。したがって、相違点3は特別なものではない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-17 
結審通知日 2002-01-18 
審決日 2002-01-31 
出願番号 特願平3-311952
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 幸雄  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 関川 正志
佐藤 聡史
発明の名称 物体形状作成方法  
代理人 田辺 恵基  

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