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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K |
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管理番号 | 1056066 |
審判番号 | 審判1999-215 |
総通号数 | 29 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1998-12-29 |
確定日 | 2002-03-12 |
事件の表示 | 平成7年特許願第120393号「基板の表面に金属化を施す方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年 2月27日出願公開、特開平8-56066]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
〔一〕本願は平成7年4月24日(パリ条約による優先権主張 1994年4月23日、ドイツ国)の出願であって、平成10年7月6日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の記載は下記の通りである。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 エキシマレーザの電磁放射(5)を使用して基板の基板(1)の表面に金属化を施す方法において、前記基板(1)の全面に電気的に導通性をもたない非導電性のプライマ層(2)を付着させ、そのプライマ層(2)の上に、非導電性の被覆層(4)を、後で付着させるべき金属層(3)の厚さとほぼ等しい厚さに全面に付着させ、その被覆層(4)の複数の部分領域に、エキシマレーザの電磁放射(5)によって、プライマ層(2)を露出させながら所定の構造(6)を形成させるように被覆層を除去し、プライマ層(2)が露出している構造(6)の領域内に、構造の側面(7)で案内されて導体軌道が形成されるように還元浴中で金属層(3)を付着させるステップを備え、非導電性の前記プライマ層(2)は、金属層(3)を後で付着させる際に化学的還元作用を及ぼす成分を有し、前記被覆層(4)は1μmから20μmまでの厚さで付着されることを特徴とする方法。 【請求項2】 被覆層(4)の複数の部分領域が248nmの波長を有するフッ化クリプトンエキシマレーザの電磁放射(5)によって、鋭い縁を成しつつ除去されることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 金属層(3)がそれを包囲している被覆層(4)の表面の高さまで付着されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 被覆層(4)がポリマー、好ましくはポリイミドまたはポリエチレンから形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】 被覆層(4)がはんだ付け工程中の温度に耐えるポリマーから形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 形成される導体軌道(金属層3)および/または絶縁通路が約0.3μmから1μmの最小幅を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。 【請求項7】 被覆層(4)の除去は電磁放射(5)中に配置されるマスクを使用して、あるいは結像プロセスまたは投影プロセスによって実行されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 被覆層(4)の除去が隼東された電磁放射(5)によって実行されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】 被覆層(4)の除去が集束されたレーザ光線によって実行されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。 【請求項10】 プライマ層(2)が、塗布、吹き付け、印刷、浸漬または遊離により基板(導体の基板1)上に付着されることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。」 以下では、上記請求項1の構成の発明を「本願発明1」という。 なお、上記請求項8の記載中、「隼東された」とあるのは「集束された」の誤記であると認められる。 〔二〕上記手続補正書で補正された本願明細書の記載 (ア)【0005】【発明が解決しようとする課題】 「本発明の基礎を成す課題は、先に挙げた欠点を回避し且つ基板、特に導体の基板の表面に非常に高い分解能で金属化を迅速に行い、しかもそれをエッチング工程を含まずに可能にする方法を提供することである。」 (イ)【0006】【課題を解決するための手段】の一部 「本発明によればこの課題は特許請求の範囲第1項の特徴によって解決される。本発明のその他の構成は特許請求の範囲第2項以下の請求項から推察される。」 (ウ)【0007】【課題を解決するための手段】の一部 「すなわち本発明を具体的に述べれば以下の通りである。基板の全面に電気的に導通性をもたないプライマ層を付着させ、プライマ層の全面に、UV範囲の電磁放射によって十分に除去可能である、電気的に導通性をもたない被覆層を付着させる。その被覆層は、付着させるべき金属層の厚さと少なくとも等しい厚さとする。その被覆層の特定の部分をUV範囲の電磁放射により、鋭く急傾斜の側面をもつ溝からなる構造に除去する。その際プライマ層を露出させながらその構造を形成させる。そのプライマ層の上で露出している構造の領域に、その側面から誘導しつつ、導体軌道を形成するための還元浴の中で金属層を付着させる。以上のようにして形成されるので、導体軌道と絶縁通路をきわめて高い輪郭鮮鋭度をもって基板上に形成させることが可能である。プライマ層の露出の中で特にきわ立った縁部の鋭い急傾斜の側面をもつ構造が形成される。その後に側面から導入して付着された導体軌道も、その結果として、同様に縁部の鋭い急傾斜の側面を有することになる。」 (エ)【0008】【課題を解決するための手段】の一部 「被覆層の除去はエキシマレーザー、たとえば、248nmの波長をもつフッ化クリプトンエキシマレーザーによって行われるのが好ましい。その場合、特にポリイミド材料を使用するときでも、被覆層の除去はその都度熱を発生させることなく起こるので、その結果、きわめてきれいで、急傾斜で延出する側面を有する構造が得られる。形成される構造の側面に溶解現象又は溶融現象が発生することは全くない。このため、導体軌道と導体軌道との間の絶縁通路について必要である空間をきわめて狭く保持することができる。除去、すなわち、アブレーションはプライマ層が完全に露出する程度まで実行されることが重要である。・・・。」 (オ)【0009】【課題を解決するための手段】の一部 「本発明によれば、形成された構造の中で最終的な金属化を行っているので、最高の精度をもって被覆層の側面から厳密に誘導される導体軌道の構造は常にほぼ被覆層の表面に至るまで形成され、この被覆層は与えられる金属化の厚さに相応する厚さで付着されている。従来の金属化プロセスに際して発生するいわゆる化学的きのこの成長も、側面から始められる金属被覆の形成によって基本的には起こりえない。その結果として、特に、たとえば、248nmの波長をもつフッ化クリプトンエキシマレーザーを使用した場合に、導体軌道及び/又は絶縁通路を最高の分解能、すなわち、約0.3μmから1μmまでの最小幅をもって問題なく形成させることができる。・・・。」 (カ)【0010】【課題を解決するための手段】の一部 「プライマ層は塗布、吹き付け、印刷、浸漬又は遊離などのそれ自体知られている方法によって基板上に直接にしっかりと接着するように付着できる。プライマ層は非導電性ペーストとして基板に付着されるのが好ましい。プライマ層は、その他に、その後に金属層を付着させるときに化学還元作用を及ぼす成分を含有している。プライマ層をそのように形成すれば、導体軌道を形成するために露出したプライマ層の上に還元浴、たとえば、Cu浴を利用して無電流で金属層を付着させることができる。」 (キ)【0011】【課題を解決するための手段】の一部 「被覆層はプライマ層の上に、付着させるべき金属層の厚さとほぼ等しい厚さで付着されるのが好ましく、金属層は構造の溝の中にそれを包囲している被覆層の表面の平面に至るまで付着される。その場合、被覆層はポリマー、特にポリイミド又はポリエチレンから形成されているのが好ましい。・・・。」 (ク)【0012】【課題を解決するための手段】の一部 「本発明の好ましい一実施形態によれば、基板の被覆層の除去は光路の中に配置されたマスクを使用して、又はそれ自体知られている結像プロセス又は投影プロセスによって実行される。・・・。ここで挙げた方法は、レーザー光線又は光を非常に微細に構造化し且つ配量して被覆層に作用させることを可能にする。」 (ケ)【0013】〜【0014】【実施例】の一部 「本発明の一実施例は図面に示されており、以下にその実施例をさらに詳細に説明する。図面中、1は・・・非導電性ポリマーから形成された導体用の基板を示す。基板1の上面の全面に、約2μmから10μmの厚さのプライマ層2が付着されている。プライマ層2の付着は、たとえば、塗布、吹き付け、印刷、浸漬又は遊離によって行われる。プライマ層2は、たとえば、・・・、次に示す成分から形成されている。 0.03〜4.00重量%の活性剤としての触媒作用物質 3〜40重量%の結合剤としてポリイミド 1〜30重量%の充填剤 45〜90重量%の溶媒 基板1を付着されているプライマ層2と共に約250℃の温度で・・・乾燥させる。・・・(中略)・・・。プライマ層2は、その他にも、その後の金属層3の塗布に際して化学的還元作用を及ぼす成分を含有している。このようなプライマ層2の組成によって、後に還元浴を利用する金属層3の電流なし付着が可能になる。」 (コ)【0015】〜【0016】【実施例】の一部 「プライマ層2の上には、好ましくはポリイミド又はポリエチレンから形成されている被覆層4が付着されている。被覆層4の厚さは後に露出されたプライマ層2に付着させるべき金属層3の厚さと一致し、約5から20μmになるのが好ましい。・・・(中略)・・・。図2は、導体の基板1は図面に示されているエキシマレーザー、好ましくは248nmの波長をもつフッ化クリプトンエキシマレーザーの放射5に部分的にさらされていることを示している。しかしながら、基本的には、好ましくは193から308nmの波長をもつエキシマレーザーの使用も可能である。放射5は被覆層4の消融を発生させ、鋭く急傾斜の側面7を有する溝からなる構造6を形成して行く。その際、被覆層4は構造6の領域でプライマ層2に至るまで完全に除去されることが不可欠である。・・・(中略)・・・、被覆層4は構造6の領域で残留物なく、縁部が鋭くなるように完全に取り除かれており、クリーンな急傾斜の側面7が形成される。・・・。」 (サ)【0017】【実施例】の一部 「さらに、使用するエキシマレーザーが被覆層4のみを消融し且つその後に続く金属化に重要であるプライマ層2が常にほぼ維持されたままであるように確保するのは容易に達成される。これは、プライマ層2と、その上に配置され、容易に除去可能であるポリマー、好ましくはポリイミド又はポリエチレンから形成されている被覆層4とのコンシステンシーの相違によってすぐに得られる。・・・。あらゆる場合について、エキシマレーザーが被覆層4を完全に除去できることは確証されている。レーザーパラメータを正しく選択したとき、除去のより困難な、反射率のより高いプライマ層2は常にほぼ完全に保持されたままである。・・・。」 (シ)【0018】【実施例】の一部 「被覆層4のアブレーションに際して、基本的には、材料の結合エネルギーは高い光子エネルギー、特にエキシマレーザーの放射のエネルギーによって容易に相殺されるので、材料の除去はごく急速に熱をその都度発生することもなく行われる。この結果、被覆層4は材料除去の領域で異例なほど鋭く切り取られることになる。それにより、被覆層4に急傾斜の側面7をもつ約0.3μmまでの幅のごく微細な構造6を形成することが可能である。このため、これまでは実現不可能であったような縁部の鋭さや、急傾斜を伴う金属層3を形成できる。・・・(中略)・・・。本発明による方法は、電流の値が高いときに金属層3の厚さを増す必要があるような場合にも特に有利である。その場合、側面7が精密に垂直な方向に延びていると特に有利に働く。・・・。」 (ス)【0019】【実施例】の一部 「図3から明白である通り、基板1の上に構造6を形成させた後に、構造6の中に金属層3が埋め込まれている。それらの領域で露出したプライマ層2は化学還元作用を及ぼす成分を含有しているので、金属層3を電流なしで、還元浴を利用して付着させることが可能である。そのような無電流の金属化によって、一様な層厚が確保され、その最大偏差は約0.2μmである。従って、付着される金属層3をきわめて薄く保つことができ、1μm未満の厚さの金属層3でも良好な導電率が得られる。・・・。」 (セ)【0020】【実施例】の一部 「以上説明した本発明による方法の場合、特に、たとえば、248nmの波長をもつフッ化クリプトンエキシマレーザーを使用したときにも、電磁放射の作用がきわめて高い精密度をもって得られ且つ最終的な金属化は常に導体軌道1の上に形成された構造6の中で誘導実行されることが重要である。これは、本発明に従って被覆層4の下にプライマ層2を配置することによって可能になる。そこで、被覆層4の縁部が鋭く、急傾斜をもって延びる側面7からきわめて高い精密度をもって厳密に誘導されてできる金属層3を有する構造が得られる。原則として、導体軌道は被覆層4の表面の高さに至るまで付着される。被覆層4は設けられる金属化の厚さに相当する厚さで付着される。従来の金属化プロセスでは発生していたいわゆる化学的きのこ成長は、この場合には、側面から誘導して行われる金属被覆の形成の結果として起こり得なくなっている。さらに、従来の方法では多少なりとも避けられなかった導体軌道のアンダーエッチングは確実に回避されるので、その成果として、導体軌道及び/または絶縁通路をきわめて高い分解能をもって、すなわち、約0.3μmから1μmまでの最小幅をもって問題なく付着させることができる。・・・。」 (ソ)実施例を示す図面であって、プライマ層及び被覆層を積層した後の基板横断面図である図1、同じく、エキシマレーザーの作用により形成された構造6をもつ図1による基板の横断面図である図2、同じく、構造6の中に金属層3を付着させた図2による基板の横断面図である図3 〔三〕引例(特開平5-48244号公報:原審の拒絶理由通知で引用された引用文献1)の記載 (タ)【特許請求の範囲】 「【請求項1】絶縁基板に任意のパターンのめっきレジスト層を形成した後、無電解めっき処理をするプリント配線板の製造方法において、絶縁基板の全面にめっきレジスト層を設けた後、エキシマレーザーを用いてこのめっきレジスト層を任意のパターンに成形することを特徴とするプリント配線板の製造方法。」 (チ)【0005】【発明が解決しようとする課題】の一部 「本発明の目的は、以上の欠点を改良し、めっきレジスト層にめっきが析出するのを防止するのを防止できるプリント配線板の製造方法を提供するものである。」 (ツ)【0008】【実施例】の一部 「以下、本発明を実施例に基づいて説明する。絶縁基板はガラスエポキシ樹脂積層板を用いる。この絶縁基板1の両面には、図1(イ)に示す通り、めっき触媒入りの接着剤を塗布して接着剤層2を形成している。そして図1 (ロ)に示す通り、この接着剤層2を形成した絶縁基板1に孔3を設ける。次に、図1(ハ)に示す通り、接着剤層2の表面全面にめっきレジスト層4を設けるめっきレジストは、・・・、めっきが析出するのを防止できる材質を用いる。この材質には、例えば、フェノールノボラックタイプの多官能エポキシ樹脂と硬化剤とからなるものがある。全面にめっきレジスト層4を設けた後に、エオシマレーザー(当審注:「エキシマレーザー」の誤記と認められる。)を用い、図1(ニ)に示す通り、めっきレジスト層4から回路パターンの箇所5を除去する。エキシマレーザーによる処理後、無電解めっき処理をして、図1(ホ)に示す通り、回路6を形成する。」 (テ)【0009】【実施例】の一部 「次に、上記実施例・・・について、形成可能な最小のライン幅と、めっきレジスト層上にめっきが析出したか否かを測定した。各条件は次の通りとする。」 (ト)【0010】【実施例】の一部 「実施例:絶縁基板 10cm×10cm角 めっきレジスト層 フェノールノボラックタイプの多官能エポキシ樹脂と硬化剤とからなり、厚さ35μmに形成する。 エキシマレーザーによる処理 レーザ媒質 KrF 発振波長 248mm レーザ出力 250mJパルス 照射回数 70パルス 回路 めっき析出速度1μm/Hrで、厚さ25μm、幅50μmの銅めっき層を絶縁基板の端から端まで10cmの長さに1本形成する。」 (ナ)【0013】【実施例】の一部 「測定結果を表1に示す。なお、試料数は3ケとし、めっき析出の有無は目視で調べる。」 (ニ)【0014】【実施例】の一部 製造したプリント配線板の測定結果を示す表1であって、実施例では最小ライン幅(μm)が「50」、めっきの析出が「無し」であることが示されている【表1】 (ヌ)【0015】【実施例】の一部 「表1から明らかな通り、実施例によれば、形成可能な回路の最小ライン幅は50μmで、・・・。また実施例によればめっきレジスト層へのめっきの析出も無くすことができる。」 (ネ)【0016】【発明の効果】 「以上の通り、本発明の製造方法によれば、エキシマレーザを用いてめっきレジスト層を任意のパターンに成形しているために、適当なめっきレジスト材料を選択でき、ライン幅の狭い回路を形成できるとともに、めっきレジスト層表面にめっきが析出するのを防止できるプリント配線板が得られる。」 (ノ)実施例の工程図を示す図面の図1(イ)〜(ホ) 〔四〕対比・判断 (1)引例に記載された発明の認定 a.〔三〕における前記摘記事項(タ)〜(ノ)の記載内容によれば、引例の実施例においては、絶縁基板の両面全面にめっき触媒入りの接着剤(摘記事項(ツ)参照)の塗布による接着剤層を付着形成した後、この接着剤層の表面の全面にフェノールノボラックタイプの多官能エポキシ樹脂と硬化剤とからなり、厚さ35μmのめっきレジスト層(摘記事項(ツ)、(テ)、(ト)参照)を設け、その後、めっきレジスト層の部分領域にてエキシマレーザーの照射(摘記事項(ツ)、(テ)、(ト)参照)によって、銅めっき層の回路が設けられる回路パターンの箇所を除去し、それから、無電解めっき処理して、空所となった前記回路パターンの箇所に銅めっき層の回路を形成する(摘記事項(ツ)、(テ)、(ト)参照)ことが示されている。 b.そして、引例の実施例において、絶縁基板に付着形成した接着剤層は、それ自体接着剤から構成されているものであり、その接着剤について、導電性の有無等の記載が引例中に特段ないものの、引例の実施例の前記接着剤層は、絶縁基板とめっきレジスト層とを相互に接合させるという本来の機能からみて、非導電性であると解するのが相当である。また、引例の実施例において、接着剤層の表面全面に設けるめっきレジスト層として「フェノールノボラックタイプの多官能エポキシ樹脂と硬化剤とからなるもの」を使用している(摘記事項(ト)参照)から、引例の実施例のめっきレジスト層は非導電性であることは明らかである。 c.また、引例の実施例において、エキシマレーザーの照射によるめっきレジスト層の部分領域での除去は、1.接着剤層を構成する接着剤がめっき触媒入りの接着剤であり、接着剤層に入っているめっき触媒が回路形成のための無電解銅めっきの際機能するためには接着剤層の表面の部分領域が無電解銅めっき液と接触する状態になければならないことは当然のことであること、及び2.引例の実施例の工程図を示す図1(ハ)、図1(ニ)、図1(ホ)の図面の特に、エキシマレーザーを用いてめっきレジスト層から回路パターンの箇所を除去する様子を示す図1(ニ)、図1(ホ)の図面において、めっきレジスト層は、接着剤層の表面が露呈している状態になるまで部分的に除去されているように図示されていることからみて、接着剤層が露呈するまで、銅めっき層の回路が納まる空間構造を形成させるよう行われるものと認められる。 d.そして、表面に金属被膜を析出させる無電解めっきのめっき浴は通常還元浴であるから、引例の実施例において、「無電解めっき処理して回路パターンが設けられるべき空所となった箇所に銅めっき層の回路を形成する工程」は、実質上、「還元浴中で金属層を付着させる工程」にほかならないし、 引例の実施例において、接着剤層に含まれるめっき触媒は、銅めっき層である金属層(回路)を無電解処理で付着させる際に化学的還元作用をする成分であることは明らかなことである。 e.以上a.〜d.での検討結果を総合すると、引例(特開平5-48244号公報)には、絶縁基板の全面に非導電性の接着剤層を付着させ、その接着剤層上に全面にわたって非導電性のめっきレジスト層を付着させ、そのめっきレジスト層の部分領域にエキシマレーザの電磁放射によって、銅めっき層の回路が設けられる回路パターンの箇所を除去し、めっきレジスト層の除去された箇所に還元浴中で銅めっき層を付着させる工程を備え、非導電性の接着剤層は金属層を後で付着させる際に化学的還元作用を及ぼす成分を含有し、絶縁基板の表面に銅めっき層の回路を施す方法(これを、「引例発明」という。)が実質上記載されていると言える。 (2)対比と相違点の認定 本願発明1(前者)と引例発明(後者)とを対比すると、後者の「絶縁基板」、「接着剤層」、「めっきレジスト層」、「銅めっき層」、「銅めっき層の回路を施す方法」は、それぞれ、前者の「基板」、「プライマ層」、「被覆層」、「金属層」、「金属化を施す方法」に相当するから、両者は「エキシマレーザの電磁放射を使用して基板の表面に金属化を施す方法において、基板の全面に非導電性のプライマ層を付着させ、プライマ層の上に非導電性の被覆層を全面に付着させ、被覆層の複数の部分領域に、エキシマレーザの電磁放射によって、プライマ層を露出させながら所定の構造を形成させるように被覆層を除去し、プライマ層が露出している構造の領域内に導体軌道が形成されるように還元浴中で金属層を付着させるステップを備え、非導電性のプライマ層は金属層を後で付着させる際に化学的還元作用を及ぼす成分を有することを特徴とする方法」である点で一致し、以下の点で相違するだけで、それ以外の点で格別の相違はない。 相違点1 本願発明1では被覆層の厚さを金属層の厚さとほぼ等しい厚さに規定しているのに対して、引例発明では、具体的にはめっきレジスト層(被覆層)の厚さは銅めっき層(金属層)の厚さ25μm(前記摘記事項(ト)参照)よりも厚い35μm(前記摘記事項(ト)参照)であって、銅めっき層(金属層)の厚さとほぼ等しい厚さにはしていない点。 相違点2 本願発明1では、付着される被覆層の厚さを1μmから20μmに規定しているのに対して、引例発明ではめっきレジスト層(被覆層)の厚さは具体的には本願発明1で規定している数値範囲を越えた35μm(前記摘記事項(ト)参照)である点。 相違点3 本願発明1では、プライマ層が露出している構造の領域内に還元浴中で金属層を付着させる際、前記構造(プライマ層が露出している構造)の側面で案内されて導体軌道が形成されるように規定しているのに対して、引例発明ではそのような規定を構成要件とはしていない点。 (3)相違点の検討 a.相違点1について 引例発明では、具体的にはめっきレジスト層(被覆層)の厚さは銅めっき層(金属層)の厚さ25μm(前記摘記事項(ト)参照)よりも厚い35μm(前記摘記事項(ト)参照)であるが、めっきレジスト層(被覆層)の厚さを銅めっき層(金属層)の厚さに対してどの程度の割合に設定するかは当業者が適宜選択できる範囲内のことである。そして、引例発明においてめっきレジスト層(被覆層)の厚さと銅めっき層(金属層)の厚さとの関係によれば、めっきレジスト層(被覆層)の厚さを、銅めっき層(金属層)の厚さより厚いか銅めっき層(金属層)の厚さとほぼ等しい厚さ(めっきレジスト層(被覆層)の厚さに達しない場合を含んでいると解される。)にすれば、還元浴中での金属層の付着の際、金属層の上部がきのこ状に形成されるようなことが避けられることは当業者には明らかなことである。したがって、本願発明1で被覆層の厚さを金属層の厚さとほぼ等しい厚さに規定することは、当業者が適宜設定できた範囲内のことであって、そのように規定する点に格別の困難性を認めることはできない。 b.相違点2について 本願発明1では、被覆層の厚さ(1μmから20μm)は、上限値でも引例発明でのめっきレジスト層(被覆層)の具体的な厚さ(35μm)の0.57倍程度というように、引例発明でのめっきレジスト層(被覆層)の具体的な厚さよりも薄い数値ではある。 しかしながら、引例発明の場合エキシマレーザで厚さ35μmのレジスト層(被覆層)から回路パターンの箇所を除去できたのであるから、エキシマレーザの照射によるポリマー(膜)の部分的切除において側面がほぼ垂直に裁ち落とされるというエキシマレーザの性質(この点については、下記の(4)a.の項での参照文献、高分子学会編「入門 レーザー応用技術―有機・高分子材料―」第173頁〜第187頁に係る記載参照)を考えれば、35μmより薄いめっきレジスト層(被覆層)でもエキシマレーザの照射により側面がほぼ垂直に切除できることは当業者が容易に予測できることである。 そして、本願明細書の記載および当審での平成13年2月2日付け審尋に対する平成13年5月16日付け回答書の記載をみても本願発明1でプライマ層の上に1μmから20μmの厚さの被覆層を付着させる点に格別の技術的困難性があったとは認められない。そうすると、本願発明1で被覆層の厚さを1μmから20μmまでの厚さにすることは、当業者が適宜選択できた範囲内のことであって、格別のことであるとは認められない。 c.相違点3について 引例発明でも、接着剤層(プライマ層)が露出している構造の領域内に還元浴中で銅めっき層(金属層)を付着させているので、実質的に該構造(接着剤層(プライマ層)が露出している構造)の側面で案内されて銅めっき層の回路(導体軌道)が形成されていると解するのが相当である。したがって、相違点3は本願発明1と引例発明との実質的な相違点であるとは認められない。 (4)本願発明1の効果について a.本願明細書中では、【実施例】という見出しの下の記載として段落【0019】に「基板1の上に構造6を形成させた後に、構造6の中に金属層3が埋め込まれている。それらの領域で露出したプライマ層2は化学還元作用を及ぼす成分を含有しているので、金属層3を電流なしで、還元浴を利用して付着させることが可能である。そのような無電流の金属化によって、一様な層厚が確保され、その最大偏差は約0.2μmである。」(前記〔二〕(ス)の項参照)とあり、本願発明1では付着される金属層の一様な膜厚が確保されることが謳われている。 ところで、本願発明1の還元浴中での金属層の付着は本質的に無電解めっきと認められる。そして、無電解めっきでは析出した被膜の厚さが均一であることは従来から知られていたことである(この点に関して、必要あれば、山名式雄著「めっき作業入門」第6章化学めっきの実務、6・1化学めっきの特徴の項の頁(第153頁)、1991年11月30日第1版第1刷、理工学社発行参照。該頁には、「化学めっきは無電解めっきと置換めっきとに大別される.多くの工業製品に施される化学めっきは無電解めっきであり、一般にはこれを化学めっきと呼んでいる.」(第2行〜第3行)、「化学めっきを電気めっきと比較すると、つぎに記す特徴がある.1.析出した皮膜の厚さが均一である.したがって、図6・1に示すように形状が複雑なワークやねじのように山や谷があるワークのめっきに適している.」(第6行〜第12行)との記載がある。)から、本願発明で無電流の金属化によって一様な層厚が確保されることは、この点で本願発明が予想外の格別の効果を奏し得たものとは認められない。 b.本願明細書においては、本願発明1に関連して、【0018】に、「被覆層4のアブレーションに際して、・・・材料の除去はごく急速に熱をその都度発生することもなく行われる。この結果、被覆層4は材料除去の領域で異例なほど鋭く切り取られることになる。それにより、被覆層4に急傾斜の側面7をもつ約0.3μmまでの幅のごく微細な構造6を形成することが可能である。」(前記(二)(シ)の項参照)、【0020】に「 従来の方法では多少なりとも避けられなかった導体軌道のアンダーエッチングは確実に回避されるので、その成果として、導体軌道及び/または絶縁通路をきわめて高い分解能をもって、すなわち、約0.3μmから1μmまでの最小幅をもって問題なく付着させることができる。」(前記(二)(セ)の項参照)と記載があり、本願発明1では被覆層に急傾斜の側面をもつ約0.3μmまでの幅のごく微細な構造を形成することが可能であることや導体軌道及び/または絶縁通路をきわめて高い分解能をもって、すなわち、約0.3μmから1μmまでの最小幅をもって問題なく付着させることができ、ごく微細な構造の導体軌道、絶縁通路を設けることができることを謳っている。 しかしながら、従来から、集積回路パターンの基板上への描画においてエキシマレーザを用いて1μmを切るパターン幅を有する集積回路パターン得ることができることは知られていた(この点に関し必要があれば、例えば特開昭64-28240号公報(特に、第3頁左上欄第19行〜同頁右下欄第2行、第4頁の第1図および第2図)参照)し、エキシマレーザの照射によるポリマー(膜)の部分的切除において、側面がほぼ垂直に裁ち落とされ、空間的な解像力が高く局所場でのアブレーション(切除)も可能であることなどが知られていたのである(この点に関し、必要あれば例えば、高分子学会編「入門 レーザー応用技術―有機・高分子材料―」第173頁〜第187頁(特に第183頁、第184頁、第186頁、第187頁)、1993年6月5日初版1刷発行、共立出版株式会社)参照)から、「被覆層に急傾斜の側面をもつ約0.3μmまでの幅のごく微細な構造を形成することが可能であり、導体軌道及び/または絶縁通路をきわめて高い分解能をもって、すなわち、約0.3μmから1μmまでの最小幅をもって問題なく付着させることができ、ごく微細な構造の導体軌道、絶縁通路を設けることができる。」などという本願発明1での効果は、予想外の格別の効果であるとすることはできない。 (5)したがって、本願発明1は、引例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であると認められるから、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができない。 (6)本願の特許請求の範囲第2項から同第10項までの各請求項の構成の発明について、さらに本件審判請求人の請求を審理するまでもなく、本件審判の請求が成り立たない。 よって、結論のとおり、審決する。 |
審理終結日 | 2001-10-01 |
結審通知日 | 2001-10-12 |
審決日 | 2001-10-23 |
出願番号 | 特願平7-120393 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中澤 登、有田 恭子 |
特許庁審判長 |
吉田 敏明 |
特許庁審判官 |
野田 直人 唐戸 光雄 |
発明の名称 | 基板の表面に金属化を施す方法 |
代理人 | 山川 政樹 |